霊長類についての質問

質問:サルも病気やケガで薬草を使いますか?
答え: はい、霊長類は植物を食べてそれを栄養にしているだけではなく、寄生虫感染症の制御やその二次的病徴の治癒を引き起こすためにも利用することがあります。
 この発見は、他の動物でも自己治療行動をしているのではないかという研究に発展しています。自己治療行動に使う植物の選択基準は、類人猿の間で類似しているだけ ではなく、ヒトの民間治療薬として利用される植物とも類似した選択が見られます。ヒ トとチンパンジーが類似した疾病に、共通の植物で治療をすることは、人類の医療行為のルーツの古さを示唆します。さらに、通常の栄養補給を目的として採食されるものにも、薬効を含むものがあることがわかりました。サルの採食行動に見られる薬膳料理的な発想が人類の進化過程に大きな役割を果たしたと指摘できます。(文責:Michael A. Huffman)

 

質問:サルもアルツハイマー病になりますか?
答え:サルといってもマカクサルに限るとアルツハイマー病にはなりません。アルツハイマー病の脳内には老人斑と神経原線維変化という病理所見が観察されますが、老齢マカクサルでは老人斑は認められるが、神経原線維変化は見られません。またアルツハイマー病では多数の神経細胞が死滅しますが、老齢マカクサルではほとんど死滅しません。
従ってマカクサルはアルツハイマー病にはならないと考えられます。(文責:林 基治)

 

質問:霊長類は他の哺乳類とどこがちがいますか?
答え:手足に5本の指があるなど、体のつくりは哺乳類の原型を比較的よくたもっています。器用に動く指をつかい、手足でものをつかむことができます。足の親指には、かぎ爪ではなく、平爪をそなえています。脳が大きく、視覚が発達していますが、嗅覚はおとろえがちです。左右の目は正面を向き、立体的にものを見る範囲が広くなっています。胸に1対の乳房があり、1回の出産で1頭のこどもを産みます。今では地上で生活するものもいますが、もともとは樹上で生活していました。(文責:相見 満)

 

質問:シロテテナガザルの手、足、顔周りを除く 体毛について、その色が生息地域によってある程度特定される」という記述を見たのですが、本当でしょうか?
答え:シロテテナガザル(Hylobates lar) は下記の3亜種に分けられ、分布域によって毛色の偏りが見られます。
(1)H. lar entelloides タイ西部域からマレー半島のタイ・マレーシア国境付近 まで分布。タイ西部中以北にチョコレートから黒色の毛色個体が比較的多く(48 %)、タイ西部域の中南部から半島にわたる地域にクリームから淡黄褐色の毛色個体 が比較的多い(46%)。ただし、両者間に明確な線は引けない。地域に多型的に混 ざっています。
(2)H. lar lar マレー半島マレーシア領内に分布。茶からチョコレート色の毛色 個体が84%くらい生息しています。
(3)H. lar vestitus スマトラ・アチェ州に分布。茶からチョコレート色の毛色 個 体が88%生息しています。(文責:平井啓久)

 

質問:サルの染色体とヒトの染色体は同じですか?
答え:違います。種によって数や形が異なります。霊長類での染色体数は16〜8 0本の幅をもって変化しています。一番染色体数の少ない16本の染色体を持つのは 新世界ザルの仲間で、最も多い染色体数80本を持つのはメガネザルの仲間です。我 々ヒトは46本の染色体をもち、最も進化的に近い大型類人猿、チンパンジー、ゴリ ラ、オランウ−タンはそれぞれ48本の染色体を持っています。また、少し離れたテ ナガザル類は4属がそれぞれ38本、44本、50本、52本と明確に分化していま す。ニホンザルを含む旧世界ザルの中でマカク属、マンガベイ属、ヒヒ属、ゲラダ属 は全て42本の染色体を持ち、アフリカに住むオナガザル属は48本から72本まで 多様に変化しています。新世界ザルは16本から62本、原猿類は20本から62本 とそれぞれ色々な染色体数を持っています。染色体数の変化に一定の法則がある訳で はなく、グループによって染色体数が安定だったり不安定だったりします。その原因 は分かっていません。(文責:平井啓久)

 

質問:ヒトでは右脳と左脳の働きが違うことが知られていますが、サルでも右脳と左脳の働きに違いがあるのでしょうか?
答え:アカゲザルやニホンザルなど実験によく使われるマカカ属のサルの大脳はほぼ左右対称です。形態学的に明瞭な左右差はありません。左脳と右脳の働きを比較した研究でも左右の違いについての信頼できるデータは今のところありません。
 マカカ属のサルよりも大型で地上性のヒヒの脳はマカカ属のサルに比べてやや大型で、個体によって左右の形態差を示すことがあります。しかし、ヒヒの場合も左右脳半球の機能差についてのデータはありません。
 チンパンジーについては、ヒトの聴覚性言語野に相当する左の側頭平面が右よりも大きいというデータも発表されています。しかし、こうした形態的な左右差が機能的な左右差に結びつくかどうかは今のところ明らかではありません。
 このように、ヒト以外の霊長類について右脳と左脳の機能差についてのはっきりした証拠は今のところありません。しかしながら、マカカ属のサルでも、連合野と呼ばれる大脳皮質の部分が発達しており、右脳と左脳が違った役割を持っている可能性は十分残されています。(文責:三上 章允)

 

質問:「下等なサルには舌が上下二枚あり、ヒトにはその痕跡が”采状ひだ”として残っている」という話を読みました。2枚の舌はどんな働きをしているのでしょうか?
答え:「采状ひだ(Plica fimbriata)」というのは、鏡で舌の裏側を見たときに、右側と左側それぞれに縦に(舌の先から根元方向に)走っているひだの事で、ヒトと大型類人猿に見られます。原猿(ロリス類、キツネザル類、メガネザル類)やツパイでは、舌の裏に小さな舌状の構造が発達し、これを「下舌(Sublingua)」といいます。
 新世界ザルと旧世界ザル、テナガザルには、采状ひだも下舌も見られません。新世界ザルのなかには、舌の裏に下舌に似た構造が見られる場合もありますが、細部の構造が違うため、原猿の真の「下舌」とは別のものと考えられています。「采状ひだ」は「下舌」の名残りという説が昔からありますが、原猿と大型類人猿のあいだが抜けているので、独立に進化したと考えた方がよさそうです。また、下舌の機能として、キツネザル類とロリス類では「櫛歯の掃除用」という説もありますが、必ずしも確かではありません。(文責:國松 豊)

 

質問:サルも音声言語を使いますか?
答え:アフリカのサバンナにすむベルベットモンキーや、マダガスカルにいるワオキツネザルは地上をやって来る捕食獣や空から襲ってくる猛禽に対し、異なったタイプの音声を発して、仲間に迫っている危険がどういう種類のものであるのかを、特定できることが知られています。
ある程度、外界の対象を声によって表わすことができるのだとすれば、それが人間の聞いている言語にいちばん近いものなのかもしれません。ちなみにニホンザルやチンパンジーでは、これとよく似た行動は見られないようです。(文責:正高 信男)

 

質問:サルとヒトはいつごろ分かれたのですか?
答え:ヒトに一番近いサルは、アフリカの森林にいるチンパンジーやゴリラの仲間です。彼らはアジアにいるオランウータンやテナガザルなどと一緒に「類人猿」や 「ホミノイド」と呼ばれています。最近の分子生物学的な研究では、現在の我々ヒ トの系統がこいういったホミノイド類から分かれ始めたのは約700万年前とされています。最古の初期人類の化石記録もこの値とほぼ同じなのですが、今後もっと古い化石が見つかる可能性もあります。
 これからは新聞に掲載された人類化石の年代に注目して読んでみるとおもしろいでしょう。(文責:高井 正成)

 

質問:霊長類は全部で何種類いるのですか?
答え:研究者によって分類が多少異なるのですが、200〜240種位にわけられること が多いようです。こういった「種」はさらに「属」というグループにまとめられるのですが、現生のサルは約70属に分類されています。
 最近、アフリカのタンザニアでマンガベイというグループの新属のサルが発見されました。霊長類でこういった新しい属が見つかるのは83年ぶりということです。アフリカやアマゾンの密林には、まだまだ未知のサルがいるかもしれ ませんね。(文責:高井 正成)

 

質問:サルの妊娠期間はどのくらいですか?
答え:「サル」の仲間は現生種で約200種もおり、妊娠期間は種によって異なります。一般的に体の大きい種で妊娠期間が長いといわれています。例えば最も体の大きいゴリラでは約260日、サルの中で一番小さいネズミキツネザルの仲間では60日程度です。私達になじみの深いニホンザルは、繁殖期に明瞭な季節性があり、繁殖期は秋から冬、出産期は春から夏で、妊娠期間は167-173日程度です。このニホンザルの妊娠期間は野生下で長く、飼育下で短いことが知られています。(文責:清水慶子)

 

質問:人類の一番古いもので確かめられているものは何でしょうか?
答え: エチオピアとタンザニアで見つかったアウストラロピテクス・アファ レンシス (300〜400万年前)が長らく最古の人類の座を占 めていましたが、その後、ケニヤ で420万年前のアウストラロピ テクス・アナメンシス、エチオピアで440万年前のア ルディピテ クス・ラミドゥスが発見されました。さらに、2000年以降、エチ オピ ア、ケニヤ、チャドで500万年前以前に遡る人類化石が次々 に発見されました。現在 までに知られているのは、エチオピアのアル ディピテクス・カダッバ(550万年 前)、ケニヤのオロリン・ トゥゲネンシス(600万年前)、チャドのサヘラントロプ ス・ チャデンシス(600〜700万年前)です。ただし、これらの 化石の系統的な位置 づけに関しては、まだ議論が続いています(文責:國松 豊)

 

質問:アフリカで見つかったイブとは何ですか?
答え: イブという名前の化石が見つかったわけではありません。母系を通じ て伝わるミ トコンドリアDNAを、現在の世界各地の人々のあいだ で比較分析した結果、現代人の もっているミトコンドリアDNAの 系譜を遡っていくと、十数万年ほど前に、おそらく アフリカに存在して いたミトコンドリアDNAに辿り着くという事が推定されました。 そのようなミトコンドリアDNAをもっていた祖先集団の女性の事 を象徴的に「イブ」 と呼んだわけです。(文責:國松 豊)

 

質問:ネアンデルタール人がホモ・サピエンスではないというのはどういう根拠からなのでしょうか?
答え: 解剖学的な特徴の違いが大きいからです。たとえば、ネアンデルター ル人の頭骨 を見ると、眼窩の上に非常によく発達した骨の隆起がひさし のように飛び出していますし、その上の額の部分も現代人のように垂直 ではなく後方へかなり倒れ込んでおり、脳頭蓋も低いのです。他にも、 鼻が大きく顔の中央部が前方に強く突出して いる、下あごのオトガイが ほとんどないなど、現代人と違う点が幾つも見られます。体の骨にも、 全体的に頑丈である事に加え、骨盤や肩甲骨などに、現代人とは異なる特徴が現れます。最近では、ネアンデルタール人の化石から取り出されたDNAの研究も、ネアンデルタール人が現代人とは数十万年前に分かれた系統である事を支持しています。(文責:國松 豊)

 

質問:ヒトはチンパンジーから別れたと考えて良いのでしょうか。
ゴリラは全く別の分化(早くに分かれた)なのでしょうか?
答え: 現生のヒトや類人猿を使った遺伝的な研究からは、テナガザル、オランウータ ン、ゴリラの順に分岐し、最後にチンパンジーとヒトが分かれ たと考えられています。ただ、現在のゴリラやチンパンジーの直接の祖先の化石は皆無と言ってもよい状況で、実際に彼らがどのようにして分岐したのかは、よくわかっていません。(文責:國松 豊)

 

質問:「人類」「人間」にしかない真の特徴とは何でしょうか。
答え: 現代の人を見ると、脳が非常に大きく(大型類人猿の3倍ほど)、複雑な道具を 作って使用するなど、最も近い親戚であるチンパンジーとく らべても随分と違います。しかし、初期の人類は脳の大きさも現生の大型類人猿とあまり変わらず、道具製作にしても、最古の石器製作の証拠はせいぜい二百数十万年前にしか遡りませ ん。どんどん昔に遡っていく と、結局、「人類」を他と分ける特徴は「直立二足歩 行」であると考えられています。(文責:國松 豊)

 

質問:マカカ属のサルが研究によく用いられていますが何故でしょうか。
答え: サルは進化的な距離がヒトに比較的近いため、ヒトへの進化の過程を解明する研究やヒトのモデル動物としての行動や生理の研究に用いられてきました。なかでも、マカカ属のサルは比較的入手が容易だったこと、繁殖が容易だったこと、サイズがそれほど大きくなくハンドリングが容易だったことなどの理由で多くの研究に用いられてきました。また、研究への利用が進むにつれて、マカカ属のサルを研究目的の実験動物として繁殖する体制も整備されてきました。マカカ属のサルを用いた研究が進むにつれて、研究データの互換性の意味でも、マカカ属のサルを対象とした研究が増えてきています。(文責:三上章允)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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