「京都大学霊長類研究所 創立40周年」記念式典

日時:平成19年6月1日(金)

場所:京都大学百周年時計台記念館
(京都市左京区吉田本町)

1.記念講演(会場:百周年記念ホール) 13:30〜16:00

司会 京都大学霊長類研究所長 松沢哲郎

招待講演
独・マックスプランク進化人類学研究所 スバンテ・ペーボ
米・エモリー大学 フランス・ドゥバール

2.記念式典(会場:百周年記念ホール) 16:15〜17:15

司会 京都大学霊長類研究所教授 平井啓久
(創立40周年記念事業委員会委員長)

開式の辞 京都大学霊長類研究所長 松沢哲郎

挨拶 京都大学総長 尾池和夫

来賓祝辞

日本学術会議会長 金澤一郎
文部科学省研究振興局学術機関課長 森 晃憲
日本霊長類学会会長 山極壽一
京都大学理事 松本 紘

研究所紹介 京都大学霊長類研究所長 松沢哲郎
閉式の辞

3.祝賀会(会場:国際交流ホール) 17:30〜19:30

所長挨拶 京都大学霊長類研究所長 松沢哲郎
来賓祝辞 京都大学理事 丸山正樹

米・エモリー大学 フランス・ドゥバール
乾杯 京都大学名誉教授 河合雅雄

 


2007年6月1日

京都大学霊長類研究所創立40周年記念式典 式辞


京都大学霊長類研究所所長 松沢哲郎

霊長類研究所の創立40周年を迎えるにあたって、霊長類研究所を代表して、一言ご挨拶申し上げます。

まず、本日、ご縁があってここに集う皆様方に厚く御礼申し上げます。
遠路はるばるご参集くださいまして、まことにありがとうございます。

尾池和夫総長をはじめ歴代の総長をお迎えし、かつて共同利用研究員だった日本学術会議の金澤一郎会長、また文部科学省研究振興局学術機関課の森晃憲課長、日本霊長類学会会長の山極寿一教授、ならびに本学研究担当理事の松本紘副学長にご列席いただきました。

そしてアメリカ・エモリー大学ヤーキース霊長類研究所のフランス・ドゥバール博士、ドイツ・マックスプランク進化人類学研究所所長のスバンテ・ペーボ博士を、ご来賓としてお迎えしています。お2人とも、本年のザ・タイム・トップ・ハンドレッドに選ばれています。英国のタイム誌が今年選んだ「世界に最も影響力をもつ100人」です。100人のうち研究者は約10名ほどだそうですので、お2人は世界の科学者コミュニティーを代表する研究者と言えるでしょう。

これは、2003年2月に始まったHOPE事業のご縁です。日本学術振興会とマックスプランク協会のあいだに覚書が交換されて始まった事業です。HOPEとは、人間の進化の霊長類的起源(Primate Origins of Human Evolution)という英文の頭文字のアナグラムで、日本学術振興会先端研究拠点事業の第1号に選ばれました。霊長類研究について、現在、日独米英伊の先進5か国の連携体制が構築されています。

1948年に、今西錦司さんらが野生ニホンザルの調査を宮崎県幸島で始めました。日本の霊長類学は来年で60年還暦を迎えます。野生ニホンザル研究の10年間の蓄積をもって、1958年には、最初のアフリカ調査がおこなわれました。さらにほぼ10年が経過した1967年に、全国共同利用の附置研究所として、京都大学霊長類研究所が誕生しました。日本学術会議(当時の朝永振一郎会長)の総会勧告によるものです。

その設立にあたって、京大のフィールドワーカーとともに、東大の実験研究者たちの大きな寄与がありました。時実利彦さんら東大の脳研究者たちです。京大と東大、フィールド科学と実験室の科学、その双方の力を結集して、霊長類研究所が発足しました。

創立40周年を迎える節目の今春に、霊長類研究所のリサーチリソースステーション(略称RRS)の第1期工事が竣工しました。里山の自然を生かした豊かな環境でサル類を飼育し研究し、繁殖供給する事業です。犬山市ならびに地元の皆様のご支援とご理解があって、着々と歩を前に進めています。これで、従来の官林地区の第1キャンパスに加えて、善師野に第2キャンパスができました。そこにRRSのために確保した土地は約70ヘクタールの広さがあります。東京ドームの両翼100mの野球場が70個ある広さです。本学の北は理学部から南は病院まで吉田地区のすっぽり入る広さです。

一方で、40年の風雪に耐えた本館建物は、耐震改修と機能向上のために、7月から改修されることになりました。犬山地区には他の建物がないので全面的な退去が必要です。地上5階地下1階、6000平米、216室の退去です。本日ここに集う所員には多大な忍苦を強いることになり、申し訳なく思います。そのなかで、所員の力を合わせて、安全安心の確立と研究の維持に努める所存です。

中国古来の思想では、季節に色を与えてきました。春は青、夏は朱、秋は白、冬は玄です。したがって人生を春夏秋冬の四季になぞらえ、青春、朱夏、白秋、玄冬と呼ぶそうです。人生80年時代の今日では、生まれてから20歳のころまでが青春。20歳―30歳代が朱夏、そして40歳からが白秋でしょう。しっかりと落ち着いた実りの季節です。霊長類研究所は、実りの季節を迎えようとしています。研究における実りとは、次世代の育成に他なりません。新しい研究領域を開拓し、若い研究者を育てていく。

人間とは何か、人間はどこからきたのか、どこへ行こうとしているのか。そうした本質的な問に対して、生物としての人間観という立場から、指針となるような答えを導き出すよう努めていきたいと思います。

創立40周年を期して、京都大学学術出版会より、「霊長類進化の科学」という一書を上梓しました。研究所の全教員38名がひとり残らず参加して書き上げた本です。ゲノムから生態環境まで、霊長類研究の多様性と深さを味わっていただけるものと信じています。ぜひ手にとってお読みいただき、人間の本性の進化的基盤に思いをはせていただければ幸甚です。

以上をもって式辞とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。


京都大学霊長類研究所創立40周年記念式典 挨拶 − 2007年6月1日 −

尾池和夫

1967(昭和42)年6月1日に、京都大学霊長類研究所は、全国共同利用の附置研究所として発足し、本日、40周年を迎えられることとなりました。京都大学を代表して心からお祝いを申し上げます。

 設立から40年、歴代の所長をはじめ、研究所の教員、職員、学生たちの活躍と共同研究者の方たちの理解と協力によって、霊長類研究所は、設立趣旨である「霊長類研究の重要性を鑑みた、霊長類研究をおこなう総合的な研究所」であるばかりでなく、今や、世界の霊長類研究の拠点となっています。

 日本の霊長類研究の歴史は、戦後まもない1948(昭和23)年に、当時、京都大学の無給講師であった今西 錦司さん、学生であった伊谷純一郎さん、河合雅雄さん、川村俊蔵さんらによって、宮崎県幸島の野生ザルの調査を始めたところから始まりました。それから数えれば、来年で、日本の霊長類研究は60周年を迎えることになります。

 所長の松沢 哲郎先生からよく聞きますが、いわゆる先進国のなかで野生のサルがいるのは日本だけだそうで、地球上で最も北に住むのが下北半島のニホンザルだそうです。そのような条件から、霊長類学は日本から始まる学問として世界をリードしてきたのです。

 1964 (昭和39)年4月、日本学術会議は、第4部人類学民族学研究連絡委員会の発議により、第41回総会で霊長類研究所設立の勧告を決定し、5月13日に、日本学術会議の朝永 振一郎会長から池田勇人内閣総理大臣に、「霊長類研究所(仮称)の設立について」という勧告がなされました。その勧告の主文は「霊長類研究の重要性に鑑み、その基礎的な研究をおこなう総合的な研究所(霊長類研究所、仮称)を速やかに設立されたい」というものでした。

  この日本学術会議の勧告から3年後の1967年6月1日に、京都大学霊長類研究所が、全国共同利用の附置研究所として発足したのであります。

 霊長類研究所は、広範な人類学の各分野にわたって、その基礎をなす霊長類の生態学的、社会学的、心理学的、生理学的、生化学的、遺伝学的研究を有機的・総合的に推進するためという使命をもって、愛知県犬山市に創設されました。研究所用地の約1万7千平方メートルは名古屋鉄道株式会社からご寄附をいただいたものであります。

 霊長類研究所の研究者たちの目覚ましい活躍によって多くの論文が出版され、観察記録や標本などを含む知財の蓄積が続けられてきました。今でも研究所は成長を続けています。例えば、平成18年度に、ニホンザルを本来の生息環境に近い環境のもとで飼育する「リサーチ リソースステーション(RRS)」を完成させました。犬山市の明治村においてこの完成記念式典が挙行され、私も出席させていただきました。

 また、霊長類研究所では、「ヒト科4属の共生を中心とした野生動物保全研究」という事業を推進する計画があります。それは、動物園を含めた産官学が連携して、京都大学の研究成果を提供することにより、例えば、絶滅の危機にある野生動物を保全しようということを目指す計画です。日本で少子高齢化のもっとも進行しているヒト科の生物はゴリラ属です。チンパンジー属もオランウータン属も含めて、ヒト科3属が絶滅危惧種になっています。この状況に対して、この野生動物の研究計画は、京都大学が地球社会の調和ある共存という基本理念に基づく教育、研究、社会貢献の具体化をはかる道の一つであると、私は思っています。

  この40周年を記念して、霊長類研究所ではさまざまのことを企画しておられます。その中でも、とりわけ「京都大学霊長類研究所・東京シンポジウム2007」が注目されます。「京都大学霊長類研究所創立40周年記念・日本の霊長類学60周年記念」として、「人間と人間性の進化的起源」という表題で、6月3日(日曜日)、午後2時より5時半まで、東京大学弥生講堂一条ホールで開催されます。今日、ここでご講演いただいた、スバンテ・ペーボ博士(ドイツ、マックスプランク進化人類学研究所)とフランス・ドゥバール博士(アメリカ合衆国、エモリー大学)のご講演も行われます。タイム誌が選んだ今年の「世界に最も影響力のある100人」の中のお2人です。

  6月2日(土曜日)には、「京都大学霊長類研究所公開講座」が開催され、午前10時からは「ジュニア公開講座:この手でさわってみよう」など、夕方まで興味深い企画が用意されています。

 京都大学は、教育、研究、社会貢献をその使命として、伝統を守り、智の蓄積をはかっていく中で、さまざまの形で智の蓄積を市民と共有する努力を続けていく所存です。霊長類研究所の活動についても、このような機会に、広くその活動を知っていただき、ますますの多くの方々のご理解とご協力をいただくようお願いします。

  この40周年記念の式典を契機として、霊長類研究所の研究が一段と飛躍し、世界の霊長類研究をリードしながら、ますます活躍されることを祈って、私の40周年記念式典のお祝いの言葉といたします。

  設立40周年、まことにおめでとうございます。


40周年記念展示「霊長類研究所の現在、過去、そして未来」

歴史展示室内の企画展示室において、40周年記念展示「霊長類研究所の現在、過去、そして未来」を開催した。趣旨は、「霊長類研究所40周年を記念して、その研究と教育の現状と歴史を紹介し、霊長類学の文化としての力を伝える」というものである。

文献や標本の展示は「霊長類研究始まる」、「道具への挑戦」、「骨を集め続けて」、「心の誕生」、「私たちの起源」の5つのコーナーより構成した。とりわけ会場正面の「骨を集め続けて」は、ニホンザルの頭蓋およそ300点を展示し、大きな話題となった。