京都大学霊長類研究所リサーチリソースステーション完成記念式典

   2007年4月27日

 リサーチリソースステーション(RRS)事業は、京都大学霊長類研究所の本キャンパスから東に約2kmの善師野地区の約10ヘクタールの土地に、豊かな自然を活かしたサルの放餌場をつくり、多様な研究を行うとともに、研究用のサルの創出・育成を行うものです。平成18年度に行われた第一期の工事が終了し、4月27日完成記念式典が、関係者約120名の参加のもとで盛大に行われました。




記念式典(会場:明治村・聖ザビエル天主堂)
13:30〜14:50

開式の辞 霊長類研究所長 松沢 哲郎
総長挨拶 京都大学総長  尾池 和夫
来賓祝辞 文部科学省 研究振興局審議官
                 藤木 完治
犬山市市長          田中 志典
祝電披露 
感謝状贈呈 鹿島建設株式会社、
       川崎設備工業株式会社、
         白川電気土木株式会社、

       三菱電機株式会社
RRS紹介 霊長類研究所教授 松林 清明
閉式の辞



施設視察 霊長類研究所、善師野第二キャンパス
15:00〜16:30


祝 賀 会(会場:明治村・帝国ホテル)
17:30〜19:30

所長挨拶 霊長類研究所長  松沢 哲郎
来賓祝辞 京都大学理事   北   徹
生理学研究所教授       伊佐  正
乾杯  前霊長類研究所長  茂原 信生



所長挨拶:リサーチリソースステーションの開所にあたって


霊長類研究所が推進しているリサーチリソースステーション(環境共存型飼育施設による新たな研究用霊長類創出プロジェクト)の第1期工事の竣工のお披露目にあたって、研究所を代表して、一言ご挨拶申し上げます。

本日は、遠路はるばるご参集くださり、まことにありがとうございます。4月末、好天に恵まれ、緑美しい「明治村」という珍しい場所でのお披露目の式となりました。この事業を推進してくださった文部科学省、京都大学の関係者の皆様、終始一貫変わらぬご支援を賜った犬山市の皆様、そして計画を迎え入れてくださった近隣地区の住民の皆様、そして立派な施設を作ってくださった工事関係者の方々、そうしたご縁があってここに集う皆様方に、まず厚く御礼申し上げます。

リサーチリソースステーション、略称RRSは、「里山の自然を活かしたすばらしい環境でサル類を飼育し、多様な霊長類研究を支援する事業」です。現キャンパスから北東2kmの地、東海自然歩道の通る愛知県と岐阜県にまたがる丘陵地帯の山すその里山に位置します。名鉄の保有する約70ヘクタールの山林のうち、南の山すその10ヘクタールを利用して緑豊かな環境での飼育をめざしました。里山の林をフェンスで囲っただけの簡素なつくりです。自然に近い環境でニホンザルが暮らしています。放し飼いにしている場内があまりに広いので、どこにサルがいるか見えません。旧来の飼育の常識を破る、日本から発信するユニークな飼育形態です。2場で1式となる運動場を用意し、「移牧」のように一方でサルを飼育し他方は休ませて緑を回復させます。その一方で、受胎日や父親を選別するために計画出産させるための育成舎も完備しています。またユニークな試みとして、1500tの排水貯留槽を設け、いっさいの排水を場外に出しません。浄化した水をポンプアップして場内に散水し蒸散させるシステムです。雨水さえも2000tまで調整池にいったん貯め置きます。RRSは、新しい理念である「環境共存型飼育施設」をめざした事業です。

霊長類研究所は、本年6月、創立40周年を迎えます。その節目の年に、リサーチリソースステーションの第1期の工事が竣工し、ニホンザルの繁殖研究と供給の事業を開始することができました。ふりかえってみて、じつに多くの皆様方の夢と、努力と、ご支援があって、実現した事業だと思います。

RRS事業は、その着想から14年の歳月が経過したことになります。振り返りますと、1993年3月に、「犬山サルの森構想」について犬山市と最初の交渉が始まりました。話し合いの結果、まずは、それまでほぼ無縁であった霊長類研究所と犬山市との連携を深めようということになり、1993年7月21日、犬山市の図書館に「サル文庫」が発足しました。全国でもきわめて珍しい、霊長類の書籍のみを収集した蔵書コーナーです。その後、研究所では1994年7月に「所外の土地利用の将来構想を考えるワーキンググループ」を将来計画委員会のもとに発足して10回の審議を重ね、1995年3月の協議員会で最終案を取りまとめました。「京都大学霊長類研究所フィールドステーション(FS)構想」です。犬山市郊外に大規模な放飼場を建設する計画です。すでに霊長類研究所は、創設以来、サル類の自家繁殖の体制を確立してきました。つまり野生のサル類を保護しつつ、飼育下で繁殖した個体のみを実験研究に供する体制です。しかし、急速な宅地化がすすみ、約3.3ヘクタールの現在地で、当時25種類800頭近いサルのなかまを狭隘な施設で飼育せざるをえない状況でした。動物福祉の理念にそって快適な環境でサル類を飼育する限界に近づいている、という認識でした。ワシントン条約で、人間以外の霊長類はすべて、絶滅の危機に瀕しているか、そのおそれのある野生動物と規定されています。また、霊長類は、哺乳類のなかではめずらしく、木の上でくらすようになったものたちです。人間の福祉向上のために彼らの命をいただくことはやむをえないとしても、自然の野山に近い、広々とした環境で健康なサルを飼いたい。本来の暮らしをさせてはじめて、多様な霊長類研究が展開する。そういった認識をもとに、犬山市郊外の「今井パイロットファーム」約100ヘクタールを候補地とした当初構想を立てました。研究所と犬山市の連携のシンボルとしての「サル文庫」は、今も続いています。

1999年に、RRS推進の核となる研究組織が整備されました。それまで「サル類保健飼育管理施設」という名だった実験動物の付属施設が、拡充改組されて、教授2名・助教授1名・外国人客員教員1名が純増され、現在の「人類進化モデル研究センター」が新たに設立されました。新センターは、従来の飼育霊長類すなわち「旧世代ザル」とは一線を画した「新世代ザル」の育成を目標に掲げました。フィールドステーション構想のもと、自然に近い環境で親やなかまと暮らしつつ、一方で、その遺伝的特性や生理的特性が明確に把握され、多様な科学研究の基盤となるサル類、それが「新世代ザル」という理念です。

今井で計画したフィールドステーション構想を新センターによって推進する。そうした努力を継続していた平成14年(2002年)3月に、新たな追い風が吹きました。「ナショナルバイオリソース」計画です。生命科学の研究の基盤整備に国が動き始めました。日本神経科学会、日本生理学会、日本霊長類学会などから日本学術会議や総合科学技術会議へ出された要望を受けて、ニホンザルの繁殖供給がその候補になりました。@国の推進する実験動物としてのニホンザルの繁殖供給事業と、A霊長類研究所が多年にわたって実践してきた自家繁殖の技術と、B人類進化モデル研究センターを推進の核として「新世代ザル」を育成したいという研究所の理念という、3つの流れが時機をえて融合したのが「リサーチリソースステーションRRS」事業だと思います。

幸い、文部科学省ならびに総長をはじめとする京大本部の各位のご理解と努力があって、2003年に現在のRRSの原型となるパイロット事業が始まりました。候補地は、今井パイロットファームから東大演習林へ、そしてさらに現在の善師野小野洞に変更して、決着しました。そして2005年にはRRSの施設整備費が与えられて着工の運びとなり、本日の竣工式を迎えたしだいです。また昨年2006年からはじまった特別教育研究経費(平成18−22年度計画)によって、RRS事業はその研究・教育・社会貢献の真価が問われる段階になりました。

物事の起承転結を考えてみます。「起」は「犬山サルの森・今井フィールドステーション構想」でした。「承」は、その推進の核となる研究組織である「人類進化モデル研究センター」の新たな設置と「新世代ザルの創出」という理念です。そして、「転」が、国のバイオリソース計画にのった「善師野第2キャンパス・RRS事業」です。第1期とはいえ、10ヘクタールの新施設がここに完成しました。まさにこれからが起承転結の「結」にあたる最終章であり、新しい時代の幕開けです。当初構想で掲げた理念に血肉を与えていく、重い課題を与えられた感があり、喜び以上に、身の引き締まる思いがいたします。

近年、サル、クマ、シカといった森の動物たちが人里に降りてきて、悪さをするという話をよく耳にします。有害鳥獣駆除ということで、昨年度は5千頭を越すクマが捕獲されました。一部は山に返されましたが、4千を超える数のクマが撃ち殺されています。じつはサルも、毎年1万頭もの野生のニホンザルが捕殺されています。いわゆる猿害で頭を悩ませる行政にとって、捕獲したサルの実験利用は、ある意味で、ありがたい解決です。サルの命をむだにしなくてすみます。研究者は無料でサルを手に入れられます。でも、そうした構造を許すと、野生のサルの暮らしを守る保証がなくなります。人間の側の勝手な論理で、際限なく駆除されるおそれがある。実際、貴重な地域の群れが全滅する可能性もある。また研究者の側も、いつ生まれたのかもわからない、親が誰かも定かでない、しかもどのようなウイルスや細菌に感染しているかわからない、そうしたサルを扱う危険から逃れられません。

RRSは、ニホンザルの実験利用を下支えしつつ、野生の群れに決定的なダメージを与えないように配慮する、ひとつの人間の知恵だと思います。これが最終の根本的な解決ではないでしょうが、人間の福祉向上に必須な生命科学や神経科学その他の研究を推進しつつ、野生のニホンザルの保全を考えていくうえで、ひとつのモデルとなるユニークな事業だと思います。

京都大学の理念は、「地球社会の調和ある共存」です。リサーチリソースステーションの第1期工事の竣工は、日本人とニホンザルの共存に向けたささやかな一歩だと思います。これからも、人間にとっても、サルたちにとっても、よりよい未来が開けるように努力していく所存です。ニホンザルを端緒として、チンパンジー、テナガザル、オマキザルなど、人間以外の霊長類の保全と福祉の向上につとめてまいる所存です。今後とも、霊長類研究所をよろしくお願いいたします。

あらためて、いま一度、皆様方からいただいたご支援に対する御礼をもって、ご挨拶にかえさせていただきます。どうもありがとうございました。

2007年4月27日、明治村・聖ザビエル天主堂にて

霊長類研究所・所長、松沢哲郎



記念式典、第二キャンパス視察、祝賀会の写真

記念式典での総長挨拶:
明治村、聖ザビエル天主堂(旧、京都河原町三条教会)にて
善師野第二キャンパスにおける除幕式
左から、尾池総長、藤木審議官、松沢所長
善師野第二キャンパス視察
善師野第二キャンパス管理棟視察
善師野第二キャンパス野外放場視察
リサーチリソースステーション完成祝賀会:明治村、帝国ホテルにて

 


善師野第二キャンパス(リサーチリソースステーション)とニホンザル達

空から見た善師野第二キャンパス
善師野第二キャンパス内の管理棟
善師野第二キャンパス野外飼育施設内のニホンザル
善師野第二キャンパス野外飼育施設内のニホンザル
善師野第二キャンパス野外飼育施設内のニホンザル



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