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京都大学霊長類研究所  > 屋久島フィールドワーク講座  > 第6回・2004年の活動−サル班−報告書 最終更新日:2004年12月17日

第6回・2004年の活動

サル班の活動 − 報告書

野生のサルへの餌やり


参加者:一方井裕子・小泉 潮・仲泊良浩・西森明菜・松尾 萌
講 師:杉浦秀樹・田中俊明

はじめに

近年、屋久島では人に慣れたサルや、人から餌をもらうサルが目に付くようになってきた。
 1970年はじめには、上屋久町では野生のサルを餌付けし、観光に役立てようという試みがあった(町報かみやく 1970)。屋久町でも1972年から10年あまりの間、安房林道で観光のためにサルに餌付けをしていた。ただし、このような組織的・計画的な餌付けは、ここ20年以上行われていない。むしろ1990年頃からは、サルに餌をやることは、サルによる農業被害の一因になっているという認識から、「サルに餌をやらないように」という積極的な啓蒙活動が行われている。
 こういった状況にも関わらず、人から餌をもらうサルは、計画的な餌付けをしていた安房林道だけでなく、そういった餌付けを全くしていない西部林道でも、1990年以降になって目立つようになってきた(杉浦 揚妻 田中 1993)。この原因の一つには、観光客の増加とそれに伴う交通量の増加が挙げられる(杉浦他1997)。サルは森の中だけでなく、そこに隣接する道路も生活の場として利用している。人に慣れていないサルでは、車や人が来ると隠れてやり過ごしているが、通過する車が多くなると、いちいち隠れなくなり、やがて車や人が来ても気にしなくなる。さらに慣れが進むと、餌をもらうサルも出てくるようになり、餌付けが進行していく(杉浦他 1995)。
 今回の講座では、餌付けを具体的に示すデータを集め、サルの餌付けの現状を知ることを目的とした。具体的には「サルの人への反応」と「人のサルへの反応」という二つの方面からアプローチを試みた。

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方法

調査期間・観察地

 調査は、2004年8月17日〜8月20日の4日間行った。観察地は、屋久島の東側から屋久島の上部域に通じる安房林道である。安房林道は、ヤクスギランドや屋久島上部域への登山口に通じており、観光客や登山客が主に利用する自動車の通れる道路である。ここのサルは他の地域のサルに比べて餌付いているといわれている。我々がサルの観察を行ったのは、安房林道入り口からヤクスギランド入り口を通り紀元杉までの間の範囲である(図1)。この間を4日間毎日車で移動しつつ、サルを発見すると降りて観察を行った。

サルの群れの識別

 群れを発見した場合、顔・身体のキズやホクロ、身体の欠損などに注目してその群れの個体識別を行った。観察期間中にまとまった群れとして識別できたのは以下の4群である。それぞれの群れにいる特徴のある個体の名前にちなんで、それらを「ヒモ群」、「ミギメ群」、「イボンヌ群」、「ハゲ群」と名づけた。また、単独で行動していたオトナオス2頭も識別でき、それぞれ、「ボン」、「イルソン」と名づけた。これらを観察した場所を囲むと図1の様になった。それぞれの群れ・個体の道路付近における、おおよその行動範囲とみなせる。
 それぞれの群れの構成は以下の表1の通りだった。それぞれの群れの代表的な個体を図2に示す。

調査地と識別したサルの群・個体の観察された範囲
図1 調査地と、識別したサルの群・個体の観察された範囲。安房林道は太線で示している。

表1 安房林道上に出現した群れの構成

群れ オトナメス オトナオス コドモ
(1〜4歳)
0歳
イボンヌ群 6 2 7 4
ハゲ群 7 4 3 0
ミギメ群 8 1 2 2
ヒモ群 11 2 7 3

図2 それぞれの群れの特徴的な個体

サルの人に対する反応調査(ミカンテスト)

この実験では、サルの人に対する反応を調査した。
まず、実験対象とする個体を群れの中から選択し、性別・年齢・特徴等を記録した。
次にその個体に対してミカンを見せていく。この時、実験者は
(A)ミカンを手に持ったまま見せる
(B)ミカンを地面に置く
(C)ミカンを地面に置いたまま離れる
という手順を踏んで、どの段階で対象個体が興味を示したか、随時記録した。この時に「餌付け」の程度として使用した基準は以下の5つである。
(1)ミカンを見せるだけで寄ってくる
(2)置くと寄ってくる
(3)見せると注目する
(4)置くと注目する
(5)反応なし
 この時、番号が小さい程、餌付けの程度は強いと定義し反応が出た時点で一連の手順を終了した。例えば、「(A)ミカンを手に持ったまま見せる」で反応が出た場合は、「(1)ミカンを見せるだけで寄ってくる」という強い反応が観察されたことになるので、それよりも弱い反応の有無を確かめるための(B)、(C)の手順は省略した。


人のサルに対する反応調査

 次に人のサルに対する反応調査を行った。まず、道路上で群れを発見したら、その群れの構成を確認した。
 次に人に見えにくい場所に隠れて、そこを通りかかった人がサルの群れに対してどのような反応を示すか記録した。
 記録事項は、サルの前を通過した車種(県外普通車・県内普通車・レンタカー等)、時刻(通過時間・停車時間)、方向(上り・下り)、そして人のサルに対する反応である。
 人のサルへの反応の程度として使用した基準は以下の通りである。
(1)サルを見て停車する
 1-a 車内観察
 1-b 車外観察
 1-c 車内撮影
 1-d 車外撮影
 1-e 餌やり
(2)サルを見ても停車しない
(3)サルを見て徐行する

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サルの人に対する反応調査(ミカンテスト)

結果

 ミカンテストは、イボンヌ群とハゲ群を対象におこなった。図3にサルのミカンテストへの反応を示す(両群の個体をまとめて集計した)。オトナメスでは、ほとんどの個体がミカンに反応し、一番多かった反応は、「見せると寄る」であった。オトナオスでは、ミカンに対する反応にばらつきがあった。コドモでは、ほとんどの個体が反応を示し、一番多かった反応は、「置くと寄る」だった。
 次に群れごとに分けて反応が異なるかを見てみた(群れごとに全ての個体をまとめて集計した)(図4)。両群とも「見せると寄る」、「置くと寄る」の反応が多かった。群れによる差は特に見られなかった。

ミカンテストに対するサルの反応
図3 ミカンテストに対するサルの反応。全ての群れのデータをまとめ、性・年齢別に示した。
ミカンテストに対するサルの反応
図4 ミカンテストに対するサルの反応。群れごとにデータを示している。

考察

少なくとも今回調査した群れでは、オトナメスは、人から餌をもらうことに慣れていたと考えられる。
 一方、オトナオスは、ミカンを見せるだけでよってくる個体もいれば、反応しない個体もいて、ばらつきが大きかった。オスは群れ間を移動しているので、餌への慣れ方にも個体間でばらつきが多い可能性がある(オトナオスは自分の生まれた群れから出て、よその群れに入る。その後も数年で別の群れに移っていくことが多い)。
 コドモはオトナメスに比べると、全体に1ランク餌付けの程度が低かった。これは人と接触する経験がオトナメスより少ないため、餌付き方の程度はやや低いのかもしれない。
 今回調査した2群れについては、群れによる顕著な差は見られなかった。この2群は、調査期間中、林道によく出ていた群れであるが、両群れともかなり人に慣れており、餌もよくもらっていると言えるだろう。
 ただし「オスの試行数が少なかった事」、「ある特定の個体に対して行った実験の際に、他の個体の影響を排除しにくかった事」などを考慮に入れる必要がある。オスの餌付き方の程度がやや弱いと結論するには、もう少し、試行数を増やす必要があるだろう。また劣位の個体では、餌に近づきたいのに、自分より、強い個体がいるために近づけなかった可能性がある。コドモも一般にはオトナよりも劣位なので、反応が弱かった可能性も残る。従って、全体的にもう少し餌付けの程度は高いのかもしれない。


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人のサルに対する反応

結果

イボンヌ群とハゲ群を観察している7時間1分の間にのべ174台の車が通過した(1時間あたり24.8台)。通行車数で、もっとも多かったのはレンタカーで、50%を占めていた。以降、県内普通車(17%)、バス(11%)の順だった(図5)。停車したのは、通過した車のうちの30%で、70%は停車せず通過した。
 停車した車のうち70%はレンタカーであり、県内普通車(16%)、バス(10%)が続いた(図6)。
 停車した車の反応は車内観察、車内撮影が92%を占めていた。それに対して、車外観察(4%)、車外撮影(2%)など車から降りる行動はあまり見られなかった。尚、今回1例だけ見られたエサやり(2%)も車内からの行動だった。

サルの群の横を通り過ぎた車種
図5 サルの群れの横を通り過ぎた車種


サルの群の横で停止した車種ごとの台数
図6 サルの群れの横で停止した車種ごとの台数


サルの群の横で車を停止した人の反応
図7 サルの群れの横で車を停止した人の反応


考察

 交通車種のうちレンタカー、バス、タクシーで全体の66%を占めた。これらに乗っているのは、ほとんど観光客と見なせるだろう。安房林道は島内の人でも観光という目的以外ではあまり利用しない事から、17%を占めた県内普通車は島内の人でも観光に来たと考えられる。従って、全体として安房林道の通行者は観光客が非常に多く占をめていたと考えられる。
 観察していた間、サルはほぼいつも道路上の目立つ位置にいたので、ほとんどの車はサルに気づいていたと思われる。しかし、サルを見ても停車しなかった車が7割あった。停車しなかった理由のひとつとしては、林道の道幅が狭く止車すると通行の邪魔になるということが考えられる。もう一つとして以前サルを見ていたりして見慣れていたため、サルに対して関心が薄かった事が考えられる。
 一方、サルを見て停車した車では、観光客が乗っていると考えられる車の割合がさらに多くなった。停車した車においても、車の外に出る事は非常に少なかった。現場で「サルに対して対応の仕方がわからない」、「怖い」という声が聞かれたことから、人はサルが怖かったために、車から降りなかったのかもしれない。
 人の反応の観察は1日しか行えなかった。そのため、それぞれの群れに対しても一度しか観察できなかったことや、観察を行った時間帯もひとつしかなかったことは、考慮しなければならないだろう。この結果が、安房林道での人の反応の代表値と言うためには、もう少し観察時間を増やす必要があるだろう。また、観察の最初の段階や、サルが移動したときには、どうしても観察者が道路上に出なければならず、私たち観察者がいることで餌やりなどの行動が抑制された可能性も考慮に入れる必要がある。ただし、そういった時間は数分だったので、大きな影響はなかったと思われる。


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車に乗るサルの行動と人の反応

 

 安房林道での観察中、車の上に乗ってくるサルをしばしば見かけた。これらのサルについては、計画的な記録は取っていないが、できるだけ観察し、気づいたことを記録した。
 観察した4群のうち、1群(イボンヌ群)では、5頭のサルが通りかかった車に乗った(表2)。イボンヌ群の中で車に乗ったサルが5頭いたが、これらは、観光客が餌やりをした後に見られた行動である。まず、数匹のサル(主にオトナメス・子供)が車に近づき、周りを取り囲んだ。その後ボンネットに乗る個体が現れ、更に屋根に乗る個体が現れた。車に乗る個体は常に1〜2頭位であり、集団でそれ以上の個体がまとまって車に乗るということはなかった。また、車がその場から動くと、すぐに車から降りた。その他の3群では、車に乗ったサルは観察されなかった。
 ボンの場合は単独で、主にヤクスギランド駐車場付近で頻繁に見られた。路上で適当な車を発見すると正面から突進してきて、車に飛び乗った。車が徐行しようとしまいに関わらず、ボンネットに腰掛けたままでいて、乗せたまま走ると適当なところで降車した。また、ヤクスギランドの駐車場で、停車している車の近くに忍び寄り、車のドアを開けたとたんに中にあるものを取って逃げていくのを1回目撃した。また、我々の車に乗ってきたことも数回あった。1回は、車を止めて観察した。車の中から菓子を見せると、注目し取ろうとした。菓子を見せ続けたせいもあるかもしれないが、1時間50分のあいだ、我々の車から降りなかった。この後、このサルを載せたまま、600mほど走ったところ、ようやく自分から車を降りた。
 イルソンは、荒川分かれの付近において単独で観察された。このサルも、車が通りかかるとその上に乗るという行動を観察中頻繁に示した。しばらく乗っていても餌をもらえない状態が続き、なおかつ別の車が通りかかると、そちらに乗り換えるということを繰り返していた。
 観察していて、サルによく乗られる車は、サルに気づいて止まったり、徐行したりしている車だった。また、サルに乗り続けられる車は、サルに乗られて徐行もしくは停車する車だった。乗せたまま速度を緩めずに走っている車からは、比較的早く降りているようだった。


表2 車に乗ったサルの属性

群れ/個体 個体数 車に乗るサルの数 特徴
イボンヌ群 19+α 5(※1) オトナメス確認できず
ハゲ群 14+α 0
ミギメ群 13+α 0
ヒモ群 23+α 0
ボン 1 1 オトナオス(単独)
イルソン 1 1 オトナオス(単独)

サルに対する人の反応

 サルが車に乗ってくると、大抵の人は嬉しいらしく徐行もしくは停止して、写真を撮るなどの行動をすることが多かった。しかし、サルが車から降りようとしないことに不満が出てくると、サルを厄介払いしようとガラスを叩く、ワイパーを動かすなどの行動に出る人がよくいた。それでも降りないと、窓から餌を投げて、車から降ろそうとしたのも数例、見られた。最終的には、サルを車にのせたまま車を動かすが、それでもサルが降りないことが多く、また停車してしまうこともあった。

考察

 少なくともボンとイルソンのオトナオス2匹は、餌をとる目的で、積極的に車に乗っていたようである。非常に車に慣れていて、ワイパーを動かしたり、窓を手でたたいたりされても、全く動じなかった。こういったことが怖くないことをすでに知っているのだろう。
 少なくともボンとイルソンのオトナオス2匹は、餌をとる目的で、積極的に車に乗っていたようである。非常に車に慣れていて、ワイパーを動かしたり、窓を手でたたいたりされても、全く動じなかった。こういったことが怖くないことをすでに知っているのだろう。
 また、一度上り方面の車に乗ると、たとえ降車しても次も上がり方面の車に乗り、しばらく同じ方面の車に乗り続けた後、今度は逆方向の車を乗り継ぐ様な行動が見られた。たとえ餌をくれそうになくても山道を楽に移動するためのエスカレーター代わりに通行する車を利用して、ある一定距離間を行ったりきたりするのを繰り返すことで餌をくれそうな車を探している可能性もある。ただ偶然同じ方面の車が連続してよく通っただけ、もしくはサルが乗りやすそうな車が偶然同一方向だっただけかもしれないので安易に判断する事はできないが、サルの乗った車を追跡することができれば、はっきりするだろう。
 人は、サルが乗ってきて、喜んで餌をやっているというよりも、むしろ、車から降りないサルに困惑した末に、餌を与えてサルを車から降ろそうとしているようだった。しかし、こういった餌やりが、結果的にはサルにとっての「報酬」になり、車に乗るという行為が強化されることになっているのではないだろうか。
 さらに、人の行動を上回るようなサルの行動も見られた。ボンが車に乗ったのを観察していた時に、ワイパーやドアミラーを動かすなど様々なことをした後、運転者が車の窓から、菓子を1つだけ投げたことがあった。しかし、ボンはすぐには菓子を取ろうとはせず、菓子に一番近いところまで、車の上を移動した。そして、車から素早く降りて、餌を拾うと、車が動き出すよりも先に、再び同じ車に飛び乗った。1例だけの観察なので、断定的なことは言えないが、餌を取るために降りると、車が走り去ってしまうということを学習し、その対抗手段まで覚えたのかもしれない。

サルの観察
写真1 サルの観察 写真2 車に乗ってくるサル”ボン”

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総合考察

 安房林道では、少なくとも2つの群れと、2頭のオトナオスが、道路で人から餌をもらっていることが分かった。少なくともこれらの群れでは、サルの餌付きかたの程度はかなりひどいと言えるだろう。ただし、実際に餌をやった例は、あまり見られなかった。5年前の1999年に行った観察(田中他、未発表)に比べると観光客の餌付け行為はやや減少していた。今回は、観察時間が十分ではないので、餌やりが減ったとまでは言えないものの、特にひどくなっている訳ではないようだ。
 安房林道では、少なくとも2つの群れと、2頭のオトナオスが、道路で人から餌をもらっていることが分かった。少なくともこれらの群れでは、サルの餌付きかたの程度はかなりひどいと言えるだろう。ただし、実際に餌をやった例は、あまり見られなかった。5年前の1999年に行った観察(田中他、未発表)に比べると観光客の餌付け行為はやや減少していた。今回は、観察時間が十分ではないので、餌やりが減ったとまでは言えないものの、特にひどくなっている訳ではないようだ。
 現在島内のあちこちで(港、道路脇など)サルに餌を与えないようにと教示がされている。実際の餌やりがそれほど頻繁でないことからも、一定の効果はあるのだろう。しかし、未だ安房林道に出没するサルには強い餌付き反応が見られた。そのため、単なる教示だけでは、まだ不十分なのだろう。
 また、車に積極的にのってくるサルが少なくとも2頭確認できた。観光客はどう対応して良いかわからず困惑してしまい、結局サルを遠ざけるために餌を放って、餌付け行為を行ってしまうことも多いようである。そかし、そうすると、サルに車に乗ると餌がもらえることを教えているようなものであり、悪循環に陥っている。そもそも、サルを見かけた時には餌を与えないというのは、もちろんのことである。車に近づいて餌をもらうという行動がエスカレートして、やがて車に積極的に乗るという行動に至ったと考えるのが自然だろう。今回も、餌をやる車にだけ乗ってくるサルが見られた。こういった餌やりが、車に乗ることを覚えるきっかけになっているかもしれない。
 車に積極的に乗ってくるサルについては、以下のような対策が考えられる。
・餌を与えない
 サルを追い払うために餌をやっても効果はない。実際、観光客がサルを追い払うために餌を遠くに放り投げた例が見られたが、サルは一旦降りて素早く戻ってきたので、効果はなさそうだ。サル自身は、与えられる物に対しては遠慮なく手を出すが、開いてない窓をこじ開けようだとか運転を妨害しようとする様な行動は取らず、あくまでも人の方が隙を見せる、もしくは餌をくれるのを待ち続ける姿勢を取っている。そのために、このような行動は、むしろサルの注意を余計ひきつける可能性もある。
・興味をひきつけない
 窓を開けてサルの興味をひきつけない。車の中から餌を見せない。ボンの場合は、車の中で菓子袋からものを出す行為に特に興味を示したようだった。またワイパーを動かしてサルを追い払おうとしても効果はなさそうだった。
・サルが車から降りない場合はしばらく走り続ける
 自分が普段使っている地域を過ぎたら自分から降りているようだ。サルがどこまでも車に乗り続けるというのは、まず考えられない。ただし、サルを乗せたまま走るというのは、運転の妨げになる危険性がある。サルを乗せたまま走る場合は、十分に注意してゆっくりと走るべきだろう。
 次にサルへの餌やり全般に対して我々の考えた対処方法を挙げる。
 安房林道では、餌をあげていたのは主に個人で島に来た観光客だった。一方、バスやタクシーなどから餌をやった例は一度もなかった。さらに、餌をやっていた人に、路線バスの運転手が注意していたこともあった。このように知識を持った人と一緒にいれば、餌をやってしまうことはほとんどないと考えられる。林道へ個人の乗り入れをある程度規制し、バスやタクシーなどで乗り入れるようにできれば、餌やりはかなりふせげると考えられる。
 しかし、こういった入場制限はすぐには難しいかもしれない。次に考えられるのは、個人観光客に対する啓蒙活動をさらに積極的に行うことだろう。現在「サルに餌をやらないように」という教示は多く見られるが、それ以上の情報はなかなか得にくいようだ。威嚇された時対処方法や、車にサルが乗ってきた場合の対処方法などを知る機会を増やすべきだろう。看板や冊子にそういった情報を盛り込むことは比較的容易だろう。それだけでなくインフォメーションセンターのような施設で、サルに関する十分な知識を得てから林道に入るようにできることが望ましい。
 安房林道のサルの餌付きかたは、以前より悪化しているわけではない。またサルへの餌付けが問題になっている他の地域と比べても、それほどひどい状態ではない。従って現在行われている餌やりを防ぐためのさまざまな努力は今後も継続すべきだろう。ただし餌やりを減らしていくためには、さらなるに努力も必要である。餌をもらうことを覚えたサルは、おそらく一生忘れることはないだろう。コドモの頃に餌をもらうことを覚えたサルはその後10年以上生き続ける。20年近いサルの寿命を考えれば、地道な努力を長く続けていくことが必要だろう。


参考文献

町報かみやく(1970) 「立花橋」"野猿エづけに成功"貴重な観光資源として有望. 町報かみやく 194 2.
杉浦秀樹, 揚妻直樹, 田中俊明 (1993) 屋久島における野生ニホンザルへの餌付け. 霊長類研究 9(3) 225-233.
杉浦秀樹, 揚妻直樹, 田中俊明, 大谷達也, 松原幹, 小林直子 (1997) 屋久島、西部林道における野生ニホンザルの餌付き方の調査−1993年と1995年の比較 霊長類研究13(1) 41-51.
田中俊明, 揚妻直樹, 杉浦秀樹, 鈴木滋 (1995) 野生ニホンザルをとりまく社会問題と餌付けに関する意識調査 霊長類研究 11(2) 123-132.


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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 杉浦秀樹