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京都大学霊長類研究所 > 2009年度 シンポジウム・研究会 > 第10回ニホンザル研究セミナー・要旨 最終更新日:2009年4月21日

第10回ニホンザル研究セミナー

発表予稿

小川 恵子(岐阜大学大学院連合獣医学研究科微生物学研究室)

下北半島のニホンザル(Macaca fuscata)の薬剤耐性大腸菌保有状況

 

野生動物や環境中に存在する薬剤耐性菌(以下,耐性菌)は,人が産業やレジャーなどの活動(以下,人間活動)を介して野生動物に与える影響を示す指標になり得ると考えられている.そのような観点から,近年国内外で野生動物の耐性菌保有状況調査がいくつか行われており,その結果,人間活動による野生動物への耐性菌の拡散が示唆されている(Osterblad et al. 2001,福士ら 2007).青森県下北半島では,ニホンザル(Macaca fuscata,以下サル)の個体数の増加や生息域の拡大により,人里への出没や猿害など,サルと人との直接的・間接的接触の機会が増加している.それに伴い,下北半島の野生サル個体群でも,人間活動による耐性菌の拡散が発生している可能性があるが,耐性菌保有状況調査はこれまで行われていない.そこで,本研究では,人間活動による耐性菌の拡散が下北半島のニホンザル個体群でも発生しているかどうかを明らかにすることを目的とし,野生個体の薬剤耐性大腸菌検出率と耐性パターンの調査を行い,薬剤耐性と猿害との関連性について検討した.

2005年と2006年にサルの糞便285検体(野生265検体,飼育20検体)を採取し,大腸菌の分離同定をした.一部の菌株に対して,CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)に従い,24種類の抗菌剤について1濃度ディスク法による薬剤感受性試験を実施した.

糞便285検体中176検体から290株の大腸菌株を分離した.そのうち,糞便71検体(野生62検体,飼育9検体)から分離された大腸菌83株に対して,薬剤感受性試験を実施した.その結果,薬剤耐性大腸菌検出率は,それぞれ野生個体で79.0% (49/62),飼育個体で44.4% (4/9)で,野生個体の検出率の方が高かった(P=0.04, n=71).猿害群と非猿害群との比較では,耐性菌検出率に有意差はなかった(P=0.55, n=57).分離された耐性菌の耐性パターンとしては,セファロチン(CET)の単剤耐性(17株),アンピシリン(ABPC)の単剤耐性(13株),CETとAPBCの両剤耐性(27株),ストレプトマイシン(SM)の単剤耐性(1株)が認められた.

野生のサルの耐性菌検出率は,これまで報告されている他地域の野鳥や野生動物の保有率(0~40.0%)に比べて高かった.これは,過去の報告では人口密度の低い地域の希少種を中心に調査しているのに対し,本研究では人里を頻繁に利用するサルの群れを中心に調査したためだと考えられた.また,野生サルの耐性菌の耐性パターンは,過去に報告されている家畜由来の耐性菌とは異なり,人由来の耐性菌との共通点が認められた.このことから,サルの耐性菌は人由来である可能性が示唆された.

以上より,下北半島の野生サルには,人里の利用を介して,人由来の薬剤耐性大腸菌が拡散している可能性が示唆された.しかし,今回の結果からは,猿害と耐性菌検出率の関連性は明確でなかったこと,人由来の耐性菌との比較を行っていないこと,本研究と過去の研究では実験方法が異なることから,人間活動による耐性菌の拡散について十分な情報が得られたとは言い難い.したがって,今後も耐性菌保有状況に関するモニタリングの継続とより詳細な解析が必要である.

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Alisa CHALMERS (Department of Zoology, Graduate School of Science, Kyoto University)
Keiko SHIMIZU(Primate Research Institute, Kyoto University)

Life histories and hormones: variations by habitat in three populations of Macaca fuscata

Environment and nutrition have been shown to alter the timing and occurrence of life history traits in short-lived organisms. This study aims to investigate whether environment and nutrition may also have an effect on the life history traits of long-lived organisms by examining changes in both life history traits and steroid hormones in Japanese macaques. The possibility of developing an extended period of adolescence, menopause, and increased longevity in artificial conditions was also explored. Life history traits, including age at first birth, age at last birth, total number of offspring, interbirth interval, and age at death were collected for females living in wild (N<=34), provisioned (N<=201), and captive (N<=69) conditions in Japan for the past 30-50 years. Fecal samples were also gathered from each of the populations and analyzed for cortisol. The results show that all life history traits (except for age at first birth) differed significantly (P<0.01) between the wild vs. provisioned/captive conditions, indicating a strong nutritional influence. Cortisol was two times higher on average (P<0.01) in provisioned (Avg.=0.43ng/ul, N=68) and wild (Avg.=0.40ng/ul, N=41) populations compared to captive (Avg.=0.23ng/ul, N=32). These results provide no evidence for the development of extended adolescence or menopause with improved nutrition, although lifespan in captive (Avg.=17.52years) and provisioned groups (Avg.= 18.45years) are nearly double that of the wild population (Avg.=10.83years). Furthermore, these results suggest that cortisol levels are significantly affected by environmental factors, but not nutrition since only the wild and provisioned populations show significant differences in cortisol relative to the captive population.

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Rizaldi(Primate Research Institute, Kyoto University)

Dominance relations among young Japanese macaques in a captive group

I studied development of dominance relations among young Japanese macaques (Macaca fuscata) born in 2002, 2003, 2005 and 2008 in a captive group. This study aimed to analyze the process of: 1) early establishment of dyadic dominance relationships, 2) accomplishment of linear hierarchies, 3) inheritance of mothers rank, and 4) rank changes following a mother’s rank reversal. I examined the ability of young monkeys to make behavioral adjustments when changes in the group’s social hierarchy have occurred.

Dominance rank order among infant peers has been recognized from the onset of aggressive behaviors. More than 60 percent of dyadic relationships between peers are unidirectional and about 90% was correlated with their mothers’ ranks. The rank order was linear and circular triads were rarely found. The dyadic relationships were stable in most cases even from the earliest period of their development. Variation on the degree of stability, linearity and inheritability could be influence of some factors, such as ongoing learning process that prerequisite for young individual, sexual difference, group size and rearing conditions. When dominance reversal occurred among mothers, young offspring could outrank particular target individuals soon after their mothers have previously outranked the target. Young monkeys obviously change their behavior performance, such head flagging, aggressive intervention and successive aggression after their mothers’ rank elevated.

These results indicate that infants may realize the dominance rank of their mothers relative to peer’s mother before the onset of aggressive behavior and adjust their behavior by perceiving social status of their peers. It is most likely that infants might not need to experience “trials and errors” in the process of determining their own statuses among peers. They could play active roles to integrate with a complex social network in their groups The results strongly suggest the importance of spontaneous behavioral adjustments of juvenile monkeys when they came into the situation that they could get higher status in the group, and actively pursue the rank reversal. These findings could give important insights into the mechanism of matrilineal rank inheritance and how young monkeys integrate with complex social networks in their group.

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風張 喜子(北海道大学大学院環境科学院)

Influence of group members on foraging success of wild Japanese macaques (Macaca fuscata) in food patch.
(ニホンザルの食物パッチにおける採食成功に及ぼす群れ個体の影響)

パッチ状に分布する食物資源を利用する霊長類の採食行動は、食物条件だけでなく社会的な要因にも強く影響されると推測されてきた。そこで本研究では、野生ニホンザルを対象に、食物パッチ利用に与える食物条件(パッチの質)と社会的要因(採食グループサイズ・社会的順位など)の影響の大きさを明らかにすることにした。多くの食物タイプ(種・部位)では、食物パッチ内の他個体の数(採食グループサイズ)が多いほど採食速度・滞在時間が増加する傾向がみられた。採食グループサイズが採食効率を向上させたメカニズムには採食場面における他個体の位置把握行動(ソーシャルモニタリング)が関与していた。採食者のソーシャルモニタリング頻度は採食グループサイズが小さいほど高く、そして、その頻度が高いほど採食速度が低下することが示された。つまり、食物パッチに他個体が少ない場合には、群れを見失わないようにソーシャルモニタリングが増え、採食効率が低下したと考えられた。一方、採食グループが一定頭数より大きくなると、採食競合の影響が強く現れるため、採食速度が低下することがあることも解った。このように、採食グループサイズの増加は採食速度に対し、ソーシャルモニタリング頻度の減少による正の影響と、採食競合の増加による負の影響をもたらすことが示唆された。そして、実現される採食速度は、それら正負の影響のバランスによって決まると考えられた。このバランスは食物条件により変化し、食物パッチ内の食物の密度が低い場合には、食物の枯渇が起きやすいため、採食グループサイズ増加に伴う採食競合の負の影響が特に強まることが示唆された。本研究では他個体の存在が採食効率を促進させることを、そのメカニズムを含め定量的に明らかにした。ここで示されたメカニズムは霊長類だけでなく、集団を形成する動物がパッチ状に分布する食物資源を利用する場合にも適用が可能であると言える。

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寺川 眞理(広島大学大学院国際協力研究科/京都大学大学院理学研究科人類進化論研究室)

ニホンザル個体群の絶滅はヤマモモの散布機能を低下させるか?―サルの生息する屋久島と絶滅した種子島での事例から

種子散布は固着性の植物に遺伝構造に関わる重要な過程である(Hamrick et al. 1993)。熱帯や温帯の常緑樹林構成樹種の多くが動物散布型の果実を有しており(Howe & Smallwood 1982; 大谷2005)、動物散布は森林更新に関わる重要な生態系機能と位置づけられる。近年の狩猟や森林伐採などの人為的撹乱により、Empty forest(動物の地域個体群が絶滅した森林)が増加し、動物散布型植物の散布量の激減やそれらの実生の密度や種多様性の減少が報告されつつある(Terborgh et al. 2008など)。日本の主要散布者のニホンザル(Macaca fuscata; 以下サルとする)の場合、戦前の狩猟や戦後の森林伐採で各地の地域個体群の縮小や絶滅が生じており(岩野1974)、現在も有害駆除で多くのサルが捕獲される状態にある。日本の常緑樹林の構成樹種の半数が動物散布型植物であることを考えると(大谷 2005)、主要散布者のサルが絶滅した場所では植物の繁殖成功が低下する可能性が危惧される。本研究では、野生ザルの調査地である鹿児島県屋久島の隣に位置する種子島でサルが絶滅していることに注目した。両島に分布するサルの主要餌資源のヤマモモ(Myrica rubra)を対象に、温帯の日本においても熱帯と同様に散布量が激減するかを検証した。さらに、サル不在の種子島で失われた散布機能を解明するため、屋久島におけるサルによるヤマモモの散布過程を遺伝解析と野外観察の両方から評価した。

サル不在の影響を評価するため、2004年の5月25日から6月7日に種子島と屋久島でヤマモモの結実木での果実食動物の採食行動を観察した。両島とも10種の果実食動物が調査地で確認されたが、主要訪問者はサルとヒヨドリに限られた。訪問毎の採食量はサルがヒヨドリの20倍以上も多く、サルが不在の種子島ではヒヨドリの訪問数も採食量も増加しておらず、散布量が激減することが示された。本結果は、ヤマモモの主要な散布者がサルであること、サルによる散布量をヒヨドリなどの鳥類が代替散布することは難しく、熱帯と同様に主要散布者の絶滅によって散布量が激減することを示唆している(寺川ら 2008)。

次に、種子島で失われた散布機能を評価するために、屋久島でサルによるヤマモモ果実の採食と散布パターンを野外観察と遺伝解析から明らかにした。結実フェノロジーとサルによる採食行動の観察を行い、サルによる訪問確率を応答変数、果実量と熟度、時期(結実期前期、中期、後期)を説明変数、結実木の識別番号を変量効果として一般化線形混合モデルにより解析し、最小AICをもつモデル選択した。その結果、全変数を含むモデルが選択され、どの時期も結実量が多くて熟度が高いほど訪問確率が高いが、中期は熟度が高くても果実量が少ない結実木の訪問確率は低く、このような木は後期に訪問確率が高くなることが示された。さらに行動観察からも、サルが熟果を選択的に採食し、採食行動を熟果の利用可能資源量の変化に伴って大きく変化することが示された。本結果は、サルが成熟種子を散布する効果的な散布者であるだけでなく、散布パターンにも季節変化がある可能性を示唆するものであった。

散布パターン特定のため、2005年にサル糞から採集した散布種子の内果皮遺伝子型をヤマモモのマイクロサテライトーカー(Terakawa et al. 2006)を用いて解析したところ、散布距離は平均270.1m、最大634mであった。また、いずれの糞にも複数の結実木由来の種子が混在しており、それらの結実木間の距離は平均161.5m、最大573mであることが示された(Terakawa et al. 2008)。本結果は、サルは遊動域内の様々な場所にある結実木の種子を混在させて長距離運ぶことを示し、サルによる散布はヤマモモの集団内間の遺伝子流動の促進に寄与する生態系機能であることと、サル不在の種子島における長距離散布や遺伝子流動の機会の低下を示唆するものであった。

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澤田 晶子(京都大学霊長類研究所)

ニホンザルの消化率と消化管通過時間: 食物の質、量、体重の影響

動物が生きていくためには、摂取した食物から栄養分やカロリーを吸収しなくてはならず、どれだけの食物を必要とするのかは、その動物がどれだけ効率的に食物を消化・吸収できるか(消化率)によって決まる。一般的に、食物が消化管内に留まる時間は平均滞留時間(mean retention time: MRT)という指標で表され、有蹄類においては体重とMRTは比例し、MRTが長くなると消化率が高くなることが知られている(Illius and Gordon 1992; Clauss et al. 2007)。しかし、霊長類において消化率との関連性を同時に検証した研究はほとんどなく、体重による影響についてもほとんどわかっていない。そこで本研究では、飼育下のニホンザルを対象に、消化管マーカーを用いた実験ならびに消化試験を行ない、食物の質や量およびサルの体重がMRTと消化率に及ぼす影響を検証した。

実験対象は、京都大学霊長類研究所で飼育されるニホンザル14個体(体重2.2kg-16.6kg)である。食物の質による影響を比較するため、高繊維飼料(NDF37.5%)と低繊維飼料(NDF13.6%)の2種を用いた。また、野生ニホンザルは食物の質の低下に加え、量の減少といった食物環境の悪化にもしばしば直面するため、高繊維食物×多量、高繊維食物×少量、低繊維食物×多量、低繊維食物×少量の4通りの給餌条件を設定した。実験開始時にサルに消化管マーカーを与え、その後の糞を5日間全量採取し、糞中マーカー濃度の経時変化より、MRTを算出した。消化率の検証には、2日目以降の4日間に与えた餌ならびに排出された糞を用いて栄養分析を行ない、乾物飼料、タンパク質、NDF、脂質、灰分の含有量を測定した。

結果は、MRTは食物の質の影響を強く受け、高繊維飼料を採食したときに短くなったが、食物の摂取量による影響はみられないというものであった。消化率も、乾物、タンパク質、脂質、NDF、灰分すべて食物の質の影響を強く受け、低繊維飼料に比べると高繊維飼料の消化率は約20%低くなった。食物の摂取量による消化率への影響はみられなかった。MRTと消化率の関係について、MRTが長くなってもより消化が進むということはなく、消化率は食物の種類ごとで一定であった。また、体重が重い個体のMRTは長くなったが、MRTの長さと消化率に関連性はみられず、消化率に個体差はなかった。

消化しにくい食物への対処として、消化効率を高める他に、摂取効率を高めるという方法がある。コロブス亜科のような繊維消化に特化した種は前者の戦略を取ることが知られているが、本研究では雑食性のニホンザルは後者の戦略を取っていることが示された。

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辻 大和(京都大学霊長類研究所)

ニホンザルの採食生態の時間的変異と群内変異

「食べること」は霊長類の生活の基本事項の一つである。食性・レンジング・アクティビティといった採食生態は、食物資源を効率よく獲得するための動物の意思決定を反映したものといえる。ニホンザルは、ヒトを除く現生の霊長類でもっとも高緯度地域に生息する種として知られている。彼らが生息する温帯地域 の植物生産と物理条件の季節変化の程度は熱帯のそれと比べて大きく、また、熱帯地域と同様に植物生産量が年次的に大きく変化することが知られている。このような、環境の時間的変動の大きな温帯地域へのニホンザルの適応は、形態的・生理的な形質と同様に、行動的な形質の獲得によってもたらされたと推測されるが、中でも採食にかかわる一連の行動の可塑性は重要な形質のひとつだと考えられる。

採食生態は、ニホンザルの野外研究においてもっとも初期に報告された事項のひとつであった。1960年代から1970年代にかけては、当時の研究者の関心が餌付けされた群れの社会構造の維持機構にあったこともあり、この分野の進展はやや滞ったが、1980年代以降は研究者の数が増加し、現在までに多くの知見が得られてきた。その過程で、ニホンザルの採食生態が変異に富むことが次第に明らかになってきた。 ニホンザルの採食生態に変異をもたらす要因は、外的なものと内的なものに大別される。

*[外的要因]* 食物環境は、季節的にも年次的にも、そして同じ季節内ですら(突発的なイベントの発生などによって)変化する。このような、予測の容易な、あるいは困難な食物資源量や分布パターンの時間的変化に対し、ニホンザルが行動パターンを柔軟に変化させることがわかってきた。いっぽう、気温や降雪 などの物理環境はニホンザルの体温維持にかかわる負の要因であるが、観察されるサルの採食行動がこのコストと食物資源から得られるベネフィットの双方から影響を受けているらしいこともわかってきた。 * [内的要因]* 同じ群れの中には、異なる性・年齢の個体がいる。個体のステータスによって要求するエネルギーは異なり、その違いが採食生態に反映される。いっぽう、群れ内の優劣関係も食物を巡る競争を通じて採食生態に影響するが、この場合、影響の強さは食物の特性(アバンダンス、分布など)に応じて決まるという点で、他の内的要因とは趣を異にする。

今回の発表では、まずこれらの要因を考慮に入れつつ、ニホンザルの採食生態についての研究の現状についてレビューを行う。次に、今後取り組むべき課題についての私見を述べ、みなさんからのご意見を賜りたい。現時点で発表者が指摘したいのは、以下の3点である。 *[外的要因の定量的な評価]* 採食にかかわるニホンザルの一連の行動を、食物を効率よく獲得しようとする彼らの意思決定の反映だととらえるなら、食物資源の利用可能性や分布パターンなどの定量的な把握は、霊長類の採食生態を調べる上での必須事項である。しかしニホンザル研究においては、ホームレンジと食物の分布の関係を調べた研究や、食性と食物のフェノロジーや物理環境の関係を調べた研究は90年代になるまで報告されなかった。観察されたサルの行動を、採食生態の観点から考察することは、現状でも十分にできているわけではない。行動を詳細に記録し続けることはもちろん必要だが、それと並行して、環境をモニタリングすることも必要ではないだろうか。

*[地域間比較]* 他の霊長類、たとえばヒヒやチンパンジーなどでは、多くの調査地で集められたデータを積極的に活用し、彼らの採食生態の一般性や可塑性について議論されている。いっぽう、ニホンザル研究ではその長い調査の歴史に比して比較研究は少なく、その採食生態の可塑性、ひいては温帯環境への適応についての十分な議論がなされているとは言い難い。日本列島はその地理的特徴から植生や気候が多様であり、各調査地から得られたニホンザルの採食行動についてのデータを比較検討することにより、外的要因が彼らの採食生態に与える影響を検出することが比較的容易にできると思われる。本発表では、この点についての予備的な解析結果を報告したい。

*[内的な要因と外的な要因の融合]* 先述のように、社会的順位は、その影響が食物環境の特性(アバンダンス、分布、代替食物の存在)に応じて決まるという点で、他の内的要因とは趣を異にする。常に変動する外的環境の中で暮らしてきたのがニホンザルの本来の姿なのだから、その要因が社会的な要因を通じて採食行動ならびに繁殖成功に与える影響を考えることは、彼らの適応性を考える上で不可欠な項目であると考えられるが、この点に着目した研究は現時点では限られている。

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ポスター発表

大谷 洋介(京都大学霊長類研究所)

ニホンザル雄個体の生活史: 屋久島におけるヒトリザル密度の推定

本研究では屋久島西部に生息するニホンザルを対象にブロック分割定点調査法を行い、単独で遊動する雄個体の密度を初めて明らかにした。

ニホンザルの雄は一般に、性成熟を迎える頃に出自群を離脱し雄グループへ加入するか単独で遊動するようになると言われている。そののち群れに加入した雄も平均3年程度で再び群れを離脱することが知られている。分裂等の例外を除いて出自群を離脱しない雌とは対照的に、雄は一生の内数割は単独で生活することになる。ニホンザル研究のほとんどは群れの観察によるものであるため、群れに在籍もしくは訪問する雄に関する知見はいくらかあるものの、単独で遊動する個体に関する知見は非常に不足している。

今回、ブロック分割定点調査法によって単独で移動する雄個体の密度を算出し、その密度に影響を与える要因を考察した。調査地は屋久島西部の海岸部から標高1300m付近までの森林で、分析には1989年以降毎夏行われているヤクシマザル調査隊が集積したデータの内1993,1994年(海岸部), 2000~2008年(上部)のものと、2008年秋季(上部)に行った調査によるものを用いた。いずれの場合も調査地を500m四方のブロックに分割し、各ブロックの中心に配置された調査員が目視による観察を行った。調査時間は1993,1994:1261h, 2000~2008:10061h, 2008秋:331hであった。

データが十分量蓄積されている上部についてフリーソフト”Distance”を用いて単独で遊動する個体の密度を求めたところ、1.4頭/km^2となった。植生別では天然更新林で最も密度が高く、人工林で最も低いという結果が得られた。これは植生による食物量の多寡と符合する。一方、同様の方法で求められた集団密度とは相関が見られなかったことから非交尾期の単独個体は群れの分布とは関係なく遊動していると言える。また交尾期における発見頻度が非交尾期に比べて低い傾向にあったことは、交尾期に群れから離れて単独で遊動する個体が少ないことを示唆している。以上から、単独で遊動するオスは非交尾期には群れの分布よりも食物を重視して移動し、交尾期には群れに追従していることが示された。また上部では海岸部の4倍以上の頻度で単独個体が観察されており、上部における単独個体の密度は非常に高いと言える。なぜ上部と海岸部でこれほど単独で移動する雄の密度が異なるのかは現在考察中である。

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望月 翔太(新潟大学大学院自然科学研究科)
芝原 知(新潟大学大学院自然科学研究科)
村上 拓彦(新潟大学農学部)

季節ごとのALOSデータを用いたニホンザルの行動圏と生息地の把握

野生動物による農作物被害において、農地と生息地の関係を空間的に捉えることが重要 とされている。そうした場面で、リモートセンシング技術は農地と動物生息地の関係を把 握するのに役立つことが報告されている。本研究では、新潟県新発田市に生息するニホン ザル(Macaca fuscata 以下サル)を対象に、時期の異なる衛星画像を用いて生息地を把握 することを目的とした。特に、サルの生息地が季節ごとにどのように変化するかに着目し、 群れの行動圏の変化との関係を明らかにした。

使用した衛星画像はALOS/AVNIR-2(2006 年5 月27 日、2006 年11 月9 日、2007 年8 月 12 日)である。これらの衛星画像から正規化差植生指数(NDVI)を算出し、5 月から8 月、 8 月から11 月の差画像を作成した。この差画像に主成分分析を実行し、変化箇所の抽出を 行った。サルの位置データは、ラジオテレメトリー法により得られた2006 年、2007 年、 2008 年のデータを用いた。なお、行動圏推定にはLSCV を用いた固定カーネル法を用い た。

サルの行動圏は、6 月から8 月にかけて小さくなり、8 月から11 月にかけて大きくなった。 一方、各時期のNDVI 値は6 月から8 月にかけて増加し、8 月から11 月にかけて減少した。 このNDVI 値の増減が、サルの行動圏の変化と関係があると考え、NDVI 値の変化箇所を抽 出した。一般化線形モデルより、サルの行動圏面積はNDVI 増加面積が多いほど縮小する ことがわかった。一般的に、夏期にサルの餌資源が減少することが知られている。その結 果、サルは餌を求めて広く移動すると考えられる。しかし、この地域のサルは夏期に行動 圏が縮小する。その理由として、この地域で作付されているトウモロコシが関係すると考 えられる。サルは、夏期にNDVI 値が高くなるトウモロコシ畑に依存するため、その行動 圏面積が縮小すると推察された。このように、衛星画像から農地の作付状況などを把握す ることにより、加害群の生態や被害対策の考案に繋がると考えられる。

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辻 大和(京都大学霊長類研究所)

種子の物理的特性が排泄時間に及ぼす影響:飼育下ニホンザルを対象として

野生ニホンザルの種子散布に関する研究において、種子の物理的な特性が排泄時間に及ぼす影響は、 それが結果として散布距離に影響するのにかかわらず、これまであまり考慮されてこなかった。そこで霊長類研究所の飼育個体を対象に実験を行い、サイズや形状の異なる7タイプの種子を採食させて排泄時間を調べた。その結果、種子の最終排泄時間には種子ごとに違いが見られ、比重の大きな種子ほど排泄に時間がかかることがわかった。植物の特性が排泄時間に与える影響を示した点で、本研究の知見は重要である。

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大西 賢治(大阪大学大学院人間科学研究科)
中道 正之(大阪大学大学院人間科学研究科)

ニホンザルの子ザルが発するWhistles/Screamsに対する母ザルの反応

多くの霊長類種において、子は養育個体に対して授乳や保護などの投資を求める音声を発する。この音声に対する母ザルの反応を研究することは、母子関係を決定する至近要因や母子関係の進化を理解する上で重要である。現在、先行研究から、子ザルが保護や授乳をそれほど必要としない場面で過度に鳴くこ とで、より多くの養育投資を引き出している可能性が示唆されているが、データが十分ではなく結論は出ていない。先行研究において、母ザルの反応として記録されたのは回収行動である。もし、子ザルの音声が単に母ザルの注意を喚起するために発信されており、その後、子ザルへの授乳や回収を行なうかどうかを母ザルが判断しているならば、先行研究の結果のみから子ザルが母ザルを欺くような「manipulative」な信号を発しているという結論を出すことはできない。そこで、本研究では、ニホンザルを対象に、子ザルの鳴きに対する母ザルの反応を母ザルが子ザルを見る行動を含めて分析し、子ザルが「manipulative」な信号を発しているのかを検討する。

勝山ニホンザル集団において、2005,2006年に生まれた0歳齢の子ザルとその母ザル16組を対象として研究を行った。子ザルの7-8週齢から17-18週齢までを観察し、1セッション20分間の連続観察を、4週ごとに4時間、各母子ペアにつき12時間行った。記録項目は子ザルが母ザルを見失なったり危険を感じたとき に発する鳴き声であるWhistles/Screams、子ザルが鳴いたときの母子それぞれの行動、母ザルの反応(子ザルを見る行動、回収行動)であった。子ザルが30秒以内に同じ種類の鳴きを発した場合は最初の鳴きのみを記録した。また、子ザルの鳴きから30秒以内に母ザルが反応した場合には母ザルの反応ありとした。

本研究の結果からは、子ザルが母ザルを操るような「manipulative」な信号を発していることを支持するデータは得られず、子ザルの音声信号が単に母ザルの注意を喚起するために発信されている可能性が示唆された。また、母ザルは、子ザルを保護するために回収に行く必要があるかどうかを、子ザルがどのような状態であるかというよりも自分が行なっている行動に照らして判断していることを示唆する結果が得られた。つまり、子ザルは正直に鳴き声を発しており、子ザルに投資を行なうかどうかを決定する主導権は母ザルが持っているようであった。

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本郷 峻(京都大学大学院理学研究科 動物学教室人類進化論研究室)

餌付け群ニホンザルにおける移動中の停止・見回し行動

群れで生活する霊長類の群れ内他個体に対する視覚的行動について、これまでは休息時や移動開始時を対象とした研究がなされており、それについて、他個体による攻撃的交渉に対する警戒(ビジランス)や後方の追従個体の監視(モニタリング)といった視覚的行動の目的が報告されてきた。しかし、遊動中の個体を観察した研究は少なく、移動中の視覚的行動を定量的に分析し、その目的について明らかにした研究はほとんどない。この研究では、嵐山E群と呼ばれるニホンザル集団のオトナ・ワカモノメスを対象に、移動中に短時間停止して頭部を回転させる行動(停止・見回し行動)を個体追跡によって観察した。採食条件の異なる(人工的に与えられる餌を食べるか、山中の自然食物を食べるか、など)複数の移動状況ごとに、ビデオ解析によって停止や見回しの頻度などを算出し、比較した。その結果、移動状況によって停止・見回し行動に違いが見られた。山中の自然食物を目的とする移動の際には、人工的な餌を目的とする場合と比べて、1回の停止時間が長く広範囲をゆったりと見回していた。また山中への移動の際には順位が低い個体の方が、より高頻度で、かつ広範囲を見回すことがわかった。これらの結果から、人工的に餌を目的とする移動では近接他個体に対する警戒のために停止・見回しを行うのに対し、山中の自然食物を目的とする移動では、(1)他個体の位置や進行方向の把握、あるいは(2)採食地の探索という目的があると考えられる。これら2つの停止・見回し行動に関する仮説は、この行動に順位差がみられる事に妥当な説明を与えられる。

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菅谷 和沙(神戸学院大学大学院人間文化学研究科)

野生ニホンザルが毛づくろい相手に向けて出す声の母子間比較

1.はじめに

ニホンザルは毛づくろいの際に、攻撃を受けるリスクの抑制や毛づくろいの働きかけのために相手に向けて声を出すことがあり、これには数型があることが知られている。声の音響的特徴には個体差や性差があり、「方言」ともいえるような地域ごとの違いもある。たとえば、大分県高崎山のニホンザルは/n/から始まる声、宮崎県幸島のニホンザルは/k/や/ /から始まる声、京都府嵐山のニホンザルは/ /から始まる声を出す傾向があるといわれている。

ニホンザルの声の個体差、性差、地域差に関する研究は、これまでオトナを対象におこなわれることが多かった。しかし、生後半年以降になるとコドモもオトナと同様の声を出すことができることから、コドモを含めた声の個体差、性差、そして「方言」を検証する必要がある。本研究では、毛づくろい相手に向けて出す 声の特徴を母子間で比較し、ニホンザルの「方言」について考察する。

2.方法

宮城県金華山島に生息するニホンザルのオトナメス3個体を対象に2006年8月から9月に調査をおこない、2007年9月から11月にはそれぞれのコドモ(いずれも1才)を対象に調査をおこなった。個体追跡法を用いて、1個体につき10時間、デジタルビデオカメラで記録した。

3.結果

金華山島のサルは、オトナもコドモも/h/から始まる声を出す傾向があった。また、コドモが毛づくろい相手に向けて出す声には母親同士にみられるのと同様に個体差が認められた。しかし、オトナのオス・メス間にみられるような性差はコドモには認められなかった。声の音響的特徴は母子間で必ずしも一致せず、コドモは母親よりも多様な声を出すことが確か められた。

4.考察

他の地域との比較から、金華山島のサルにも「方言」があることが示唆された。このような「方言」の使用は、1才のコドモにもすでにみられた。また、母子間で声の特徴を比較したところ、母子の声の音響的特徴はかならずしも一致せず、コドモは母親よりも多様な声を出していた。これは、コドモが集団内の母親以外の個体が出す声からも影響を受けているためであると考えられる。「方言」や母子間の声の音響的特徴の違いにみ られるように、毛づくろい相手に向けて出す声は可塑性が高く、変化に富んだものであるといえる。

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山田 彩(京都大学霊長類研究所)

農作物被害を起こすニホンザルの隣接林利用

農作物被害を起こす野生動物にとって、農耕地と接する隣接林は重要な役割を担っていることが知られている。隣接林の利用様式と隣接林の果たす機能を明らかにすることによって、その動物種が人為的環境にどのように順応しているのかについて新たな知見を得るだけでなく、被害管理をおこなっていく上で重要な情報を得ることが期待できる。そこで、被害を起こす野生ニホンザル1群を対象に、農耕地の隣接林の利用様式とその機能について検討した。およそ2年半の調査の結果、対象群は農耕地の周囲500m以内をおもに利用していた。そのなかでもとくに林縁から105m以内の森林が本来の植生とはかかわらず農地利用に準じて利用されていることがわかった。さらに、対象群のアクティビティを調べたところ、林縁とその付近の農耕地では採食している個体が多く、林縁付近の森林部では休息しているか、動いている個体が多かった。このことから、サルにとって林縁部付近の農耕地は採食地、森林側では休息と移動する場所であると考えられる。これらの結果から、農作物被害を起こすニホンザルにとって隣接林は多様な機能を併せ持つ生息地であることが示唆された。

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上野 将敬(大阪大学大学院人間科学研究科)
山田 一憲(京都大学野生動物研究センター)
中道 正之(大阪大学大学院人間科学研究科)

飼育ニホンザル集団における攻撃交渉前の攻撃個体と被攻撃個体及び第3者個体との 毛づくろい交渉と身体接触

本研究は、攻撃交渉前の攻撃個体と被攻撃個体及び第3者個体との親和的行動の有 無について明らかにする。

霊長類の葛藤解決行動の研究は、多くがpost-conflict場面を対象としたものであった。そのため、post-conflict場面に比べpre-conflict場面での研究や理論の構築はずっと少なく、個体が攻撃交渉の前にどのように個体間の関係を調整しているのかということについては、将来研究されるべき課題として残されている。そこで、本研究においては、飼育ニホンザル集団を対象として攻撃交渉の前に、攻撃個体が他個体と行う親和的行動を調べ、通常場面と比較した。そして、攻撃を受ける個体と攻撃を受 けない個体とで、攻撃個体への親和的行動の生起頻度や種類が異なっているかどうか検討した。このように、攻撃交渉前のメカニズムを探ることを本研究の目的とした。

大阪大学大学院人間科学研究科附属比較行動実験施設にて飼育されている5頭のニホンザルを対象とした。全ての個体の行動を全生起法で記録した。1時間の観察を1セッションとし、104時間の観察を行った。通常場面と比較するため、攻撃が生起した時点からさかのぼり、10分間のデータを攻撃前場面のデータとして用いた。

被攻撃個体から攻撃個体への親和的行動も、攻撃に関与しない第3者個体から攻撃個体への親和的行動も、攻撃前場面において、接触、グルーミングのどちらの行動についても少なくなる傾向があった。ただし、攻撃前場面において、被攻撃個体から攻撃個体へ行うグルーミング及び、攻撃個体から第3者個体へ行うグルーミングには統計的な差はなかった。本研究結果から、争い後の仲直り行動の生起率が他のマカクよりも少ないニホンザルにおいては、事前の親和的行動によって争いが回避されるわけではなく、相手との距離を調整することによって争いを回避しているのかもしれないという可能性が示唆された。しかし、親和的行動を行わないことと攻撃の危険性が高まることの因果関係は、本研究から明らかにされたわけではない。したがって、今後個体間の要因を統制した上で他のニホンザル集団においても詳細に検討する必要がある。

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京都大学霊長類研究所  > 2009年度 シンポジウム・研究会  > 第10回ニホンザル研究セミナー・要旨

このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 半谷吾郎
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