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京都大学霊長類研究所 > 2013年度 シンポジウム・研究会 > 第13回ニホンザル研究セミナー ・プログラム  最終更新日:2013年5月31日


 

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発表要旨 


勝 野吏子(大阪大学大学院 人間科学研究科)

餌付け集団におけるニホンザルのコンタクトコール使用と反応の発達


 霊長類におけるコドモ期は、様々な知識や技術を身につける学習期間である。社会交渉に関する能力もコドモ期に習得されると考えられるが、実証した研究は少ない。サル類は音量の小さく穏やかなコンタクトコールを、社会交渉の際に用いることがある。このコンタクトコールは緊張状態が生じやすい場面で多く用いられ、コンタクトコールの後には親和的な交渉が生じやすいことが知られている。コンタクトコールは親和的な意図を相手に伝達し、円滑な交渉を可能にしていると考えられる。本研究は、円滑に社会交渉を行うためのコンタクトコールの用い方、コンタクトコールを受けた際の反応の仕方を、ニホンザルはコドモ期に習得するのかを明らかにすることを目的とした。さらに、コンタクトコールの習得はどのような過程が関わるのかを検討した。0-5歳齢メスとその母である成体メスを対象として、コンタクトコールを用いる場面と、他個体からコンタクトコールを受けた際の行動を年齢段階により比較した。成体メスは非血縁メスに対して接近する際には、血縁メスに対して接近するよりも頻繁に発声していたが、5歳齢以下のメスではその傾向は見られなかった。また、3歳齢以下のメスは年齢の高いメスとは異なり、コンタクトコールを受けた場合でも親和的な反応を示す割合は増えなかった。コンタクトコールの使用と反応は、発達にともない習得されることが示された。次に、社会的学習によりコンタクトコールは習得されると予測し、母子間での音声行動の類似性を検討した。その結果、頻繁に用いるコンタクトコールの種類は母子間で類似していたが、使用や反応に関しては類似しているとは言えなかった。母を通じた社会的学習ではなく、他個体との関わりを通じてコンタクトコールを用いた社会交渉の仕方を身につけている可能性が示唆された。



徳山奈帆子(京都大学 霊長類研究所)
餌付けニホンザル個体群における、転嫁攻撃の適応的意義

 多くの群居性動物において、攻撃交渉後に特徴的にみられる行動が観察される。それらの行動は、攻撃交渉により生じたコストを軽減させると考えられており、その理解は群れ生活を考える上で重要である。攻撃交渉後、被攻撃個体が、前の攻撃交渉に関わりのない個体に攻撃する行動は、「転嫁攻撃」と呼ばれている。転嫁攻撃は広い分類群の群居性動物で観察される行動であり、敗者にとってなんらかの適応的意義を持つ行動だと予想されるが、その意義にについては定説が得られていない。発表者は、餌付けニホンザルを対象として、転嫁攻撃の適応的意義と推定される、間接的報復仮説、ストレス軽減仮説、攻撃回避仮説の3つの仮説を検証した。嵐山モンキーパークにおいて、攻撃交渉の観察と、その後10分間の被攻撃個体の個体追跡を行った。被攻撃後1分以内に、被攻撃個体が第三者に攻撃した場合、転嫁攻撃を行ったと定義した。1967回の攻撃交渉を観察し、そのうち296回の攻撃交渉で転嫁攻撃が観察された。順位が高い個体、年齢が高い個体で転嫁攻撃を行う割合が高かった。結果は攻撃回避仮説に最もあてはまった。被攻撃者は被攻撃後1分間において、その後9分間よりも多く周りの個体から攻撃を受けた。しかし、転嫁攻撃を行った場合は、行わなかった場合に比べて周りの個体から攻撃を受ける割合が有意に低かった。被攻撃個体は、転嫁攻撃を行うことにより、自分の立場を「被攻撃個体」から「攻撃個体」に変え、被攻撃後の攻撃を受けやすい状態から脱していると考えられる。転嫁攻撃を行うと、転嫁攻撃の対象個体から反撃を受けることがあった。特に、低順位個体では、反撃を受けることが多かった。このことより、転嫁攻撃にはメリットとともに一定のリスクが生じる行動である。被攻撃個体は、自らの順位や経験から、転嫁攻撃を行うことが有利に働くかどうか瞬時に判断を下していると考えられる。

 In many social species, soon after a conflict a victim often attacks an uninvolved third individual. This behavior is called redirected aggression or redirection, and its role (or roles) remains controversial. I observed semi-provisioned free-ranging Japanese macaques at Iwatayama Monkey Park, Arashiyama, Kyoto, Japan to test three hypothesis on the function of redirected aggression derive from previous study of primates: Japanese macaque perform redirection to (1) retaliate aggressor indirectly, (2) reduce PC stress, or (3) reduce PC uncertainty. I observed aggressive interactions by ad lib sampling and recorded the behavior of victims alongside the subsequent 10min. 296 redirection occurred in 1967 conflicts. Redirection occurred more frequently when the rank of the victim in the initial conflict was high and when conflicts occurred among kin. In older monkeys, redirection occurred more frequently. The results most supported hypothesis (3). Victims received renewed aggression not only from the opponent aggressor but also from bystanders more frequently within 1 min after the initial conflict than in the subsequent 9 min. Victims who performed redirection received less aggression from bystanders. Victims might have been able to avoid renewed aggression because they could change their state from victim to aggressor by performing redirection. This effect of redirection did not differ with the victims rank. However, the lower the victims rank, the higher the risk that they would receive retaliation from the target of the redirected aggression or from the targets kin. Thus, redirection caused the same magnitude of benefit and a different magnitude of risk according to the victims rank. The victim may judge his/her own situation and make a choice as to whether to perform redirection.



海老原 寛(麻布大学獣医学部 現:野生動物保護管理事務所)
農地の存在がニホンザル群の群落利用に与える影響

 ニホンザル(以下、サル)は、多様な環境に生息している霊長類であり、生息環境に応じた独自の生活を確立させてきた。しかし、1950年代の拡大造林と、それと同時期に起きた農村社会の変化により、サルは農地を利用した生活をするようになった。このことによって農地の存在がサルの生活に与えた影響を知るために、農地を利用しない自然群と利用する加害群の群落利用を比較した。この際、林縁利用や森林の内部構造の相違についても検討した。調査対象は、神奈川県丹沢地域個体群に属するA群(自然群)とB群(加害群)である。ラジオテレメトリ法により得られた群れの位置を、GISを用いて解析した。群落の選択性は、Manlyの選択指数を用いて表した。森林の内部構造については、広葉樹林および針葉樹林のうち、サルの利用したメッシュと利用しなかったメッシュを選び、各階層構造の被度と優占種を調査した。得られた結果から、サルの利用回数を応答変数、各階層構造の被度と優占種、林縁の有無を説明変数とした一般化線形モデルを構築した。A群は初夏の針葉樹林と秋の広葉樹林をそれぞれ選択的に利用し、初夏は広葉樹林、秋は針葉樹林をそれぞれ忌避した。一方、B群はどの季節も広葉樹林を選択的に利用した。また、各季節ともに農地を利用したが、その選択性はどの季節も有意ではなく、むしろ初夏には忌避した。林縁の利用頻度は、A群では初夏、晩夏、初冬、春の広葉樹林と針葉樹林において40%前後だったが、秋や晩冬には10%前後と低かった。B群では、どの季節でも広葉樹林と針葉樹林の利用のうち50%前後は林縁を利用していた。また、そのうち多くの割合が農地から50mの林縁で占められており、特に広葉樹林では少なくとも50%を占めていた。森林の内部構造のモデルでは、A群が多様な森林構造を持たせるような変数を選択したのに対し、B群は森林の下層が開けているような変数を選択した。以上のことから、A群は季節に応じて利用する群落や林縁の利用率が変化していたのに対し、B群は季節を通じてあまり変化のない一様な生活をしていることが示され、農地の存在がサルの群落選択に大きな影響を与えていることが示された。サルが環境変化に多様に対応するという中で、人為的改変に対するサルの反応についても、今後、調査をおこなう必要があると思われる。



Rafaela Sayuri Cicalise Takeshita, Michael A. Huffman, Fred B. Bercovitch, Keiko Mouri (Primate Research Institute, Kyoto University), Keiko Shimizu (Okayama University of Science)

The influence of age and season on fecal dehydroepiandrosterone-sulfate (DHEAS) concentrations in Japanese macaques (Macaca fuscata) (ニホンザルにおけるDHEAS量の年齢・季節による変化)

 Dehydroepiandrosterone (DHEA) and its sulfate, DHEAS, are the most abundant steroid hormones in primates, providing a large reservoir of precursors for the production of androgens. DHEAS levels decline with age in adult humans and nonhuman primates, prompting its consideration as a biomarker of senescence. However, the mechanisms responsible for this age-related decrease and its relationship to reproduction remain elusive. This research investigated DHEAS concentrations in fecal samples in order to determine age-related changes in captive Japanese macaques, as well as to assess the possible influence of seasonality. The subjects were 25 female Japanese macaques (2 weeks to 14 years-old) housed outdoors in social groups at the Primate Research Institute. We collected three fecal samples from each animal during the breeding season (October to December) and three additional samples from adult females during the non-breeding season (May to June). The hormonal concentrations were determined using enzyme immunoassay. DHEAS concentration was negatively correlated with age, but we did not find a significant difference between breeding and non-breeding seasons. Neonatal macaques had the highest DHEAS concentrations of all age groups. We suggest that elevated neonatal DHEAS is possibly a residue from fetal adrenal secretion and that, as in humans, it might assist in neurobiological development.



鈴木 真理子(京都大学 野生動物研究センター)
野生ニホンザルにおける群れの空間的まとまりを維持するモニタリング行動

 多くの動物は、群れを形成している。群れという空間的なまとまりを維持するためには、「個体が持つ目的や欲求」を「群れの仲間の持つ目的や欲求」とすり合わせながら活動していかなければならないという葛藤が生じる。つまり、集団を維持して活動するためには、集団の他個体の位置・移動方向や意思をモニタリングし、自己の行動を修正する行動が必要とされる。そこで、群れの仲間の存在を探索する行動として他個体モニタリング行動を定義し、この行動が集団のひろがりと関連しているか調べることにした。他個体モニタリング行動は、視覚的探索として、頭部を大きく動かす見回し行動、聴覚的探索としてクーコールの使用を調べた。また、群れる動機や移動能力には性差・年齢差があると予想される。オトナメス、コドモ、オトナオスの3つの性年齢クラスで比較をおこなった。ニホンザルは集団からはぐれる危険が高い場面になると他個体モニタリング行動をおこなうことがわかった。視覚的探索と聴覚的探索には使用場面や頻度に違いが見られた。これは二つのモニタリング行動が機能する範囲の違い(見回しよりも鳴き交わしの方がより広い相手の位置を知ることができる)と得られる情報の違い(鳴き交わしは位置情報だけだが、見回しはより詳細にわかる)が関係していると考えられる。性年齢クラスの比較から、情報量の差や動機の違いが影響する可能性が示唆された。コドモは鳴き交わしに積極的に参加しようとするが、群れの中心にいるので見回しは少なく、応答される割合も少なかった。一方、オトナオスは、「相互的に情報を伝える」音声よりも「一方的に情報を得る」見回しによって周囲を把握していた。これは、オスが数年で群れを移籍すること、群れ内での闘争が激しいことと関係していると考えられる。集団は一様な属性の個体のみで構成されているわけではないので、群れの動きを知るためには個々の属性を考慮して分析する必要がある。



澤田 晶子(京都大学 霊長類研究所)
ニホンザルにおけるキノコ食行動:サルにとってのキノコとは

ニホンザルの主要食物である植物と異なり、キノコは森林内にまばらに存在することが多い。また、絶対量が少なく、どこに生えているのか予測が困難でもあることから、キノコはニホンザルにとって学習の機会が極めて少ない食物であると言える。菌類相の多様性が高い屋久島において、ニホンザルがキノコを食べることは報告されているものの、どのようなキノコを食べているのかという情報すらほとんど明らかになっていない。本研究では、ニホンザルが食べたキノコ・食べなかったキノコの分子種同定をおこない、採食時の行動データと併せることで、ニホンザルのキノコに対する選択・忌避の傾向とその基準について検討した。
調査の結果、キノコ食は採食時間のわずか2.2%を占めるにすぎなかったものの、年間を通じてニホンザルは67種 (31属) ものキノコを食べることが判明した。いったんは手に取ったものの食べずに捨てたキノコも含めると、その数は92種にのぼり、屋久島のニホンザルが極めて多様なキノコと関わる動物であることが示された。また、キノコ食をおこなう際に、ニホンザルが手に取ったキノコに対してにおいを確認する、あるいはかじって吐き出すという「検査行動」を取ることがあった。そこで、採食時の行動パターンを、ニホンザルがキノコに遭遇したとき・手に取ったとき・検査行動を見せたとき・食べたときの4段階に分けて解析した。その結果、検査行動なしですぐに食べるキノコは毒キノコである割合が低く、ニホンザルが途中で採食を止めた場合は毒キノコである割合が高いことが判明した。一方で、検査行動によって毒キノコを必ずしも回避できているわけではなかった。以上のことから、ニホンザルはキノコについてある程度の知識を持っているものの、味覚も重要な役割を果たしており、実際に食べてみることで、食べられるキノコなのかどうかその場で判断していると考えられる。さらに、昆虫やキノコを採食中のニホンザルは、他個体から攻撃を受けやすいことがわかった。タンパク質含有量の高い昆虫がニホンザルにとって貴重な食物であることは従来から言及されてきたが、ニホンザルはキノコにも高い価値を見出している可能性が示された。



望月 翔太(新潟大学大学院 自然科学研究科)
時空間スケールを考慮した農作物加害ニホンザル群における景観異質性の影響予測
 近年、野生鳥獣による農作物被害が増加している。適切な野生動物管理を行うためには、個体数管理、被害管理、及び生息地管理という3つの概念が必要となる。これまで、我が国の野生動物管理は個体数管理に偏っていた。しかし、世界的に見ても個体数管理のみで野生動物管理を達成できた事例はなく、現在では被害管理と生息地管理を併せた管理が求められている。この時、動物がどのような環境を選択し、どのように分布するのかを評価する必要ある。動物の生息場選択や分布形態は、生息地を構成する景観構造に対し、動物がどのように反応するかという意思決定プロセスの結果である。一方で、動物の生息地を形成する景観構造は季節や年などの時間スケールによって変化する(例えば、農作物の生育や長期にわたる土地利用の変化)。また、一連のプロセスをどの程度の広がり(個体から個体群、そして地域個体群など)で捉えるかという空間スケールの評価も重要となる。そのため、動物の意思決定プロセスを適切に評価する場合、景観構造の時空間動態を考慮する必要がある。本研究では、新潟県新発田市に生息する、農作物に依存したニホンザル群れを対象とした。時空間動態による景観構造の変化に着目し、農地に依存したニホンザルの生息場選択や分布におけるプロセスを解明することを目的とした。まず、農地に依存した群れの行動圏動態を予測した。6-11月までのラジオテレメトリーによって得られた位置情報から、カーネル密度を用いて行動圏を推定した。その結果、農作物を加害する群れは、冬期に行動域を拡大させるが、夏期は行動域を縮小させる事が明らかとなった。これは、加害群が夏期に生育する集落内の農作物を利用するためだと考えられる。次に、ニホンザル由来の農作物被害を、複数の空間スケールをもとに予測した。農作物被害は、ニホンザルがどのような環境を選択したかという意思決定プロセスの結果である。ここでは、このプロセスが空間的な広がりに対し、どのように反応するのかという空間スケールの依存性を明らかにした。その結果、農作物被害と関係する環境要因は、空間スケールの設定によって変化する事がわかった。一方、農作物被害と各環境要因との線形関係は、空間スケールに依存せず、一定である事がわかった。つまり、被害管理を行う際、どの程度の空間内で対策を実施するかによって、同じ対策でも効果が異なる可能性があることを示した。以上のことから、ニホンザルの生息場選択や分布形態に対し、時空間動態がもたらす景観構造の変化が大きく関係する事が明らかとなった。ニホンザルの被害管理や生息地管理を実施する際、どの時期にどんな対策を行うべきか、またどの程度の広がりを想定するべきかという問題に対し、一定の回答が得られたと考える。




P-1 小林 峻(琉球大学大学院 理工学研究科)
イルカンダ(マメ科)の送粉プロセスの地域変異− 分布の北限におけるニホンザルの役割−

 イルカンダはマメ科の常緑木性蔓植物である。本種には送粉の前段階として裂開という特殊なプロセスがある。裂開とは花弁の1つである竜骨弁の内側にしまい込まれた雄蕊と雌蕊を露出させ、他花受粉を可能にするシステムである。このプロセスは植物自身で行うことができず、完全に動物に依存している。イルカンダを含むMucuna属植物では、一般に植食性コウモリ類が裂開を行っている。沖縄島での調査では、他のトビカズラ属同様、イルカンダもオリイオオコウモリのみによって裂開が行われていることが明らかとなった。裂開は鼻先を押し込み、花弁の一部である旗弁を持ち上げることによって行っており、花粉も顔の一定の位置に付着する。イルカンダの分布の北限はオオコウモリの分布していない大分県蒲江である。自動撮影調査によって、この地域ではニホンザルとニホンテンがイルカンダを裂開していることが明らかとなった。ニホンテンはオオコウモリと類似の行動で裂開を行っていたが、ニホンザルは両手を使って裂開していた。裂開数はニホンザルが圧倒的に多く、大分のイルカンダ個体群の繁殖に大きく貢献していると考えられた。しかし、一方で、花へ与えるダメージも大きかった。このシステムでは裂開と花粉媒介は別の動物も関わっている可能性があり、ニホンテンや他の訪花昆虫を含めたニホンザルの送粉者としての貢献度については今後の課題である。



P-2 豊田 有(京都大学 霊長類研究所)・浅葉 慎介(嵐山モンキーパークいわたやま)・清水 慶子(岡山理科大学 理学部動物学科)
嵐山のニホンザルにおけるメス間同性愛行動と生殖関連ホルモンとの関連

 京都市嵐山で餌付けされている嵐山E群のニホンザルMacaca fuscataでは、メス同士で自分の性器を相手の腰や臀部に擦りつけて刺激する同性愛行動がみられることが知られている。本研究は、この同性愛行動と生殖関連ホルモン動態との関連を考察することを目的としておこなわれた。観察地は京都市の嵐山モンキーパークいわたやまで、観察期間は2011年10月17日から2012年2月18日までの125日間である。メス6個体(Co80:32才、Co86:26才、Yun96:16才、Co01:11才、Shi03:9才、Mo04:8才)を対象として、性行動の観察および糞サンプルの採取をおこなった。観察時間は原則として9時から16時半までとし、エサ寄せ場及びその周辺で観察された対象個体の性行動を記録した。本研究では、メス同士の同性愛行動およびオスとの交尾行動の両方を性行動とし、これらの行動が観察された日、およびそのパートナーとなった個体を記録した。さらに、モンキーパークの職員による行動観察記録も分析に用いた。また、採取した糞サンプルから、EIA法により糞中性ステロイドホルモン代謝産物であるE1C(Estrone conjugates)と PdG(Pregnanediol glucuronide)量を測定し、排卵日及び受胎日の推定をおこなった。対象6個体のうち、メス同士の同性愛行動が観察されたのは、Co80, Co01, Shi03, Mo04の4個体であった。このうち、Co01, Shi03, Co80の3個体についてはオスとの交尾行動も観察され、Co01とShi03においては当繁殖期において妊娠、出産した。Mo04は交尾行動は観察されていなかったが、当繁殖期において妊娠、出産した。上記4個体について、メス同士の同性愛行動と糞中性ホルモン動態を分析した結果、いずれの個体においても同性愛行動が観察された日前後の糞中E1C値は高い値を示していた。また、同性愛行動が観察された日の多くが推定排卵日周辺に集中していた。さらに、当繁殖期において妊娠したCo01, Shi03, Mo04の3個体において、出産日及び内分泌動態から受胎日を推定し、行動記録を妊娠前後で分析した結果、同性愛行動は受胎前に集中して観察され、受胎後には観察されなかった。一方で、オスとの交尾行動は糞中E1C値の高い日に多く見られたものの、同性愛行動とは異なり、受胎の前後を通して観察されていた。本研究の結果から、E1CのPdGに対する分泌量の相対的な比率に着目すると、ニホンザルにおいては排卵時期では高くなる一方、妊娠初期では低く、中期以降では中程度になることが知られている。本研究の結果でも、同性愛行動が集中して見られた時期は、糞中E1C/PdG値が高い値を示す日が多かった一方、排卵後の黄体期や妊娠成立後などの糞中E1C/PdG値の低くなる時期には同性愛行動があまり見られていないことから、糞中E1C/PdG値の影響が同性愛行動の発現に影響を与えている可能性が考えられる。今後ニホンザルにおいて、この同性愛行動を誘起する内分泌的要因を解明するためには、受胎前後で変化する内分泌動態に注目し、他の生殖関連ホルモンについても調べていく必要がある。
 なお、本研究の一部はNoelle GUNST氏、Jean-Baptiste LECA氏、Paul L. VASEY氏との共同研究として行われたものである。



P-3 栗原洋介(京都大学霊長類研究所)
屋久島海岸域に生息するニホンザルにおける採食行動の群間比較

 屋久島海岸域に生息するニホンザルでは、多くの霊長類種とは異なり、大きい群れに属するオトナメスの出産率が高くなる。これは群内競合に比べて、群間競合が非常に強く働いているためと考えられている。群間交渉に勝利した大きい群れのメスは、食物資源の豊富な行動圏を獲得することで栄養条件がよくなり、高い出産率を達成していると想定されている。しかし、群れサイズが出産率の違いをもたらすメカニズムはいまだに検証されていない。本研究では、そのメカニズムの解明を目的とし、群れサイズの異なる 2 群間で採食行動を比較した。屋久島海岸域に生息するニホンザルの群れ(KwA 群: 30-38個体, KwCE 群: 12-15 個体)を対象とし、2 群に属するすべてのオトナメスを個体追跡した。現在もデータ収集中であるが、今回は2012 年 10 月から2013 年 3 月までのデータを分析した。小さい群れは、大きい群れに比べて移動距離が長く、移動時間割合が大きかった。また、小さい群れは採食時間割合が小さく、果実種子採食時間割合が大きかった。一方、利用食物パッチ数、食物パッチ間距離および食物パッチ滞在時間に差はなかった。群間で食物パッチ利用に違いはなかったが、小さい群れでは移動に関するコストが大きく、メスの栄養状態に影響している可能性が示唆された。



P-4 谷口 晴香(京都大学大学院 理学研究科)
ニホンザルに離乳食はあるか?食物のかたさの母子間比較

 ヒトでは、養育者が離乳期の子どもに消化によくまた飲みこみやすい食物、いわゆる離乳食を与える。一方で、ヒトとマーモセット亜科を除く霊長類では、母親でさえ子どもに積極的に食物を渡すことはほとんどない。ニホンザルのアカンボウは、冬に入る前には成長にともなうエネルギー要求量の増加のため母乳のみでは栄養を賄えなくなり、固形物の採食を行う必要がでてくる。ニホンザルにおいて、環境条件が厳しい冬季に、離乳期のアカンボウがどのような物理的性質の食物を選択し自立した採食を始めるのかは、その生存を考える上で重要である。本研究では、冬季の食物条件が異なる2地域、青森県下北半島と鹿児島県屋久島において、ニホンザルの食物のかたさについて量的に測定を行い、「アカンボウは母親と比較してやわらかい食物を採食している」と予測し、検討を行った。2009-2010年冬季に下北、2011-2012年冬季に屋久島において、アカンボウとその母親4組を対象に、母子それぞれ各個体を30時間ずつ個体追跡した。3分ごとに活動(採食・休息・移動・毛づくろい・その他)を記録し、その際に追跡個体が採食を行った場合はその食物品目(種+部位)を記録した。また、2012年冬季に両地域おいて、上記観察期間中に追跡個体が採食した食物品目の採集を行い、採集後6時間以内に硬度計(サン科学、COMPAC-100?U)にて裁断し、かたさ(J/m2)の計測を行った。両地域とも、採食時間割合の6割を占める食物品目に関して、かたさ計測を行えた。屋久島と比較し、下北は2000J/m2以上のかたい品目が多かった。予測通り、両地域ともに母親と比較しアカンボウはやわらかい品目を採食する傾向にあり、そして下北の方がその傾向が強かった。離乳期のアカンボウは咀嚼筋の発達が未熟であることや、歯が乳歯であることなど形態面での制約により、母親と比較しかたい品目の利用を避け、利用しやすいやわらかい品目に採食時間を費やしたと考えられる。ヒトと入手方法は異なるものの、ニホンザルにも、“離乳食”の存在が示唆された。



P-5 片山
 洸彰(大阪大学大学院 人間科学研究科)
嵐山ニホンザルE集団のパーソナリティ評定

 動物のパーソナリティ研究において、人が対象動物のパーソナリティを質問紙を用いて評定するという方法が用いられている。本研究では、(1) ニホンザルに対してパーソナリティの評定を行うとどのような性格特性因子が抽出されるか、(2) 見出された性格特性因子は、どのような行動の個体差を表現したものなのか、どのような個体の属性と関連しているのか、を明らかにすることを目的とした。嵐山ニホンザルE集団の成体メス30頭に対し、3名の評定者(筆者を含まない)が「おくびょう」、「子ども好き」などの17の形容詞を用いてパーソナリティの評定を行った。筆者は評定対象であった30頭のうち16頭に対して行動観察を行った。評定に用いた17項目について評定者間信頼性の低かった3項目を分析から除き、残された14項目について主成分分析を行った。主成分分析の結果、おくびょうさ、攻撃性、依存性、活動性という4成分を性格特性因子として抽出した。さらに、これら4成分と観察で得られた行動や個体の属性との関連を分析すると、攻撃性が高い個体ほど威嚇行動を頻繁に行っており、依存性の高い個体ほどオスと頻繁に近接をするなどの行動が見られた。一方、おくびょうさは順位の影響を強く受けており、活動性は年齢の影響を強く受けていた。パーソナリティの評定という方法によって、ニホンザルの性格特性因子を表現することができた。さらに、それらの性格特性因子が個体の属性や行動の個体差によって裏付けられることも示された。今後は、性格特性因子によって表されるニホンザルのパーソナリティが生存や繁殖にどのように関わっているのか、パーソナリティの適応的機能を探っていく。


P-6
大井 裕典(大阪大学大学院 人間科学研究科)
王子動物園のアビシニアコロブスにおけるInfant handlingについて

 アビシニアコロブスではニホンザルと異なり、集団内の優劣順位が厳格ではなく(Grunau & Kuester,2001)、母親は他のメスによる自分の子へのハンドリングに寛容である。パタスモンキーのメス個体はinfant handlingをより行いやすくするために、母親に事前に頻繁に毛づくろいをする必要があるとされている(Muroyama,1994)。今回の研究では、アビシニアコロブスの成体メスを対象に、毛づくろいとinfant handlingの関連について検討した。王子動物園のアビシニアコロブス集団(成体オス1頭、成体メス3頭、子2−4頭)のうち母親2頭を対象とし、groom、infant handlingなどの行動を全生起法で記録し、行動の連鎖解析を行った。2011年7月−2012年8月の38日間行い、総観察時間は64時間であった。成体メスは他個体の子をhandlingする直前に有意に高い頻度で母親に毛づくろいを行っていた。成体メスは直前に母親に毛づくろいを行うことでその個体の子をより長い時間handlingしていたが、有意ではなかった。直前に毛づくろいをしなくとも子をhandlingできることもあった。成体メスは直前に毛づくろいをすることで、母親が抱いている子を離しやすくなるので、より容易にhandlingを行えるようになる可能性が考えられた。


P-7 吉田 洋(山梨県環境科学研究所)・林 進(犬山里山学センター)・中村 大輔(岐阜大学 応用生物科学部)・北原 正彦(山梨県環境科学研究所)   
GPSテレメトリーを用いたモンキードッグの移動追跡

 近年、ニホンザル(Macaca fuscata )による被害を軽減するために、全国各地でモンキードッグ(サル追払い犬)の導入が進められている。しかしサルが出没した際の、リードを放した後のモンキードッグの行動を目視により観察し続けるのは難しく、追払い時のモンキードッグの行動は不明である。そこで本研究では、GPSテレメトリーでモンキードッグの行動学的知見を得ることにより、被害防除の有効性を把握するとともに、モンキードッグをより安全に運用する方法を開発することを目的とした。調査は70〜80個体で構成される、野生サル「吉田A群」の行動圏である富士吉田市および富士河口湖町で実施した。集落や農地での野生ニホンザル群の目撃が通報されるとすぐに、5秒ごとに測位するように設定したGPSロガー(i-gotU GT100, Mobile Action Technology, Taiwan)を2008年12月〜2009年9月にはモンキードッグ「ラッキー(犬種:紀州犬系雑種、性別:オス、体重:17kg)」に、2010年3月以降には「コテツ(犬種:プロット・ハウンド、性別:オス、体重:22kg)」に、2010年6月以降には「カイ(犬種:甲斐犬、性別:オス、体重:12kg)」に装着し、サルを目視できる地点で放した。なお調査は、モンキードッグがハンドラーに戻り、移動用のケージに入った時点まで行った。調査の結果、モンキードッグの係留を解いてから回収までの、GPSの測位率が100%であったのは、「ラッキー」が16回、「コテツ」が80回、「カイ」が50回で、そのうち「コテツ」と「カイ」が一緒に出動したのは48回だった。また、サル追払い1回あたりのモンキードッグ出動時間は45. 8 ± 38.4分(平均値±標準偏差、以下同様)、移動距離は3.6 ± 3.0km、係留を解いた地点から最標高地点までの標高差は127.9 ± 57.3m、モンキードッグの行動圏(95%MCP)は4.84 ± 4.73haであった。サル追払い時のモンキードッグのルートを見ると、斜面を水平方向に横切りながら、徐々に標高を変えるジグザグ形をしていた。さらに、モンキードッグ2頭が一緒に出動した際には、2個体は同じルートをとることが多かった。モンキードッグの個体間で、出動時間と移動距離には差があったが、出動ルートの標高差と、イヌの行動圏面積に大きな差はなかった。このことから、?@モンキードッグの出動時間と移動距離は、イヌの体力差が反映する、?A追払い時のイヌの行動圏は、イヌの体力や気分ではなく、サルの都合で決まる、の2点が推測される。さらに、追払いの回数を重ねると、モンキードッグの移動距離が短くなった。これは、?@イヌが「追払い」の経験を積むと、より省力的に追払うことができる、サルが「追払われ」の経験を積むと、より早く、その場から離れる、の2点が反映された可能性がある。以上のことから、追払いの対象が同一群であっても、犬の熟練度により、犬とサルの行動が変化することが示唆された。



P-8 川添 達朗(京都大学大学院 理学研究科)
野生ニホンザルにおける社会的ネットワーク構造の季節変化


 社会構造は集団内の個体間で生じる交渉のパターンによって構築される。群集性の霊長類では複雑な社会構造が見られその全体像を解き明かすことは困難であったが、すべての集団メンバーの関係を量的に評価する社会ネットワーク分析が様々な動物群で行われるようになり、霊長類社会の研究にも応用されている。社会ネットワーク分析は種間の構造比較や、同種の集団間比較に用いられてきたが、時間経過や集団のメンバー構成の変化が社会構造に与える影響については明らかにされていない。ニホンザルはオスが群れ間の移籍を繰り返し、群れにとどまり続けるメスに比べてメンバー構成の変化が頻繁にみられる。オスのメンバー構成の変化に伴う社会構造の変動を明らかにすることは、霊長類の社会構造を理解するうえで重要である。本研究では群れ外オスが多く存在し、オスのメンバー構成が頻繁に変わると予想される宮城県金華山島において、1群の個体間交渉を3年間にわたって記録し、社会構造の変動を明らかにすることを目的とした。2007年度から2009年度にかけて野生ニホンザルの1群とその周辺で観察されるオスを対象に観察される個体のメンバーシップとグルーミング交渉を記録し、ネットワーク分析によって年度ごと、季節ごとに社会構造の比較を行った。非交尾季と交尾季の比較から、交尾季にはグルーミング交渉が特定の個体に集中しやすく、またネットワーク構造の分節化が見られることが明らかとなった。3年間の調査期間中観察され続けた個体は18%で、頻繁にメンバー構成の変化が見られ、滞在期間が長い個体ほどネットワーク構造の中でより中心的な位置を占めることが示された。以上の結果から、野生ニホンザルは季節やメンバー構成によって社会構造を柔軟に変動させていることが示唆された。

 

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