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行動神経研究部門

思考言語分野

松沢哲郎・友永雅己・田中正之1)

〈研究概要〉

A) チンパンジーの認知・言語機能の比較認知科学的研究

松沢哲郎・友永雅己・田中正之・佐藤 明2)・南雲純治3)

チンパンジーとヒトを対象に、認知・言語機能の比較研究を継続しておこなった。主として1個体のテスト場面で、色の認識、数の認識とくにゼロの概念(オックスフォード大学・ドラ・ビロとの共同研究)、記憶の減衰、図形パターンや表情の認知、刺激等価性、コンピュータ補助のなぞり描き・迷路課題(ノースフロリダ大学・イバー・イバーセンとの共同研究)、匂いと味を手がかりとした弁別学習(北海道大・上野吉一との共同研究)、運動する刺激の輪郭の知覚(京都大・藤田和生との共同研究)、などについて実験的分析をおこなった。

B) 対面ないし複数個体場面におけるチンパンジーの知性

松沢哲郎

プレイルームでチンパンジーと実験者が対面する場面において、石器や釣り棒などの道具使用、物を操作する動作の模倣(京都大・明和政子との共同研究)、粘土遊び(日本女子大・中川織江との共同研究)について研究した。また、チンパンジー2個体の同時レバー押し場面における行動を研究した(京都大・金沢創との共同研究)。

C) 社会的場面におけるチンパンジーの知性

平田 聡2)・鈴木修司4)・前田典彦5)・松沢哲郎

屋外放飼場ならびに屋内居室を利用して2個体のチンパンジーがペアとなる場面を設定し、ビデオによって記録された2個体の駆け引きをもとに、チンパンジーにおける他個体のもつ知識の理解について実験的研究をおこなった。

D) 野生チンパンジーの道具使用と文化的変異

松沢哲郎・平田 聡2)

西アフリカのボッソウのチンパンジーの行動と生態を冬の時期に調査し、ビデオ記録の分析をおこなった(京都大・明和政子との共同研究)。

E) 飼育霊長類の環境エンリッチメント

松沢哲郎・熊崎清則5)・前田典彦5)・勝田ちひろ5)・落合知美6)

飼育霊長類の環境エンリッチメントにかんする研究をおこなった。一環としての植樹プログラムを日本モンキーセンターで昨年に続き実施した。運動場における3次元構築物の利用頻度の調査をおこなった。環境エンリッチメントの取り組みについて、イギリス・オランダ・米国などで資料収集するとともに、国際エンリッチメント会議で報告した。上記の一部は共同研究(東京農工大・森村成樹)である。

F) チンパンジーの人工授精とホルモンの動態

松沢哲郎・松林清明7)・熊崎清則5)・前田典彦5)・藤田志歩2)

チンパンジー1個体(女性、21歳)を対象に、尿中のホルモンの動態を測定した。人工授精をおこなって妊娠に到り、妊娠期のホルモンの動態についても測定を継続している。また、ホルモン動態と認知的パフォーマンスの変動との相関を調べた。

G) チンパンジーにおける視覚探索

友永雅己

視覚探索課題を用いて、チンパンジーの視知覚認知について検討を行った。今年度は顔の方向の知覚における正立方向の特異性の効果と生物の運動の知覚についての実験を行った。また、チェッカーパターンを用いて空間周波数に関する探索非対称性についても検討を行った(行動発現分野・三上章允、長谷川良平、加藤まどかとの共同研究)

H) チンパンジー、ヒトにおける大域処理優先効果

友永雅己・Joe¨l Fagot8)

小さな図形(局所手がかり)を配列して作成した図形(大域手がかり)を用いて、ヒトとチンパンジーにおける大域処理の局所処理に対する優先効果について、視覚探索課題によって検討を行った。

I) マカクザルにおける社会的認知とその発達

友永雅己・佐藤 明2)・鈴木樹理9)・大蔵 聡10)・橋彌和秀11)

マカクザルの新生児から成体を対象に、各種の社会的認知能力とその発達について検討を行った。今年度は、新生児におけるホワイトノイズのストレス緩和効果(サル施設・鈴木樹理、器官調節分野・大蔵聡、聖心女子大・川上清文との共同研究)、新生児模倣の比較発達的研究(橋彌和秀との共同研究)、注視時間法を用いた各種認知能力の初期発達の検討(橋彌和秀、京都大・藤田和生、石川悟との共同研究)と他者の知識についての理解(佐藤明との共同研究)、新奇物呈示時における子ザルの母ザルへの反応、他個体の注視反応への追随などについて検討を行った。

J)飼育チンパンジー集団における道具使用の伝播

外岡利佳子12)・友永雅己・松沢哲郎

チンパンジー放飼集団を対象にジュース飲みにおける道具使用行動の伝播過程について実験を行いデータの分析を行った。

K) チンパンジー乳幼児とヒト乳幼児における認知機能の比較発達

井上(中村)徳子12)

西アフリカ、ボッソウのチンパンジーによるコウラの実割り行動に関する群内伝播の過程の分析をおこなった。また、ボッソウに住むマノン族の乳幼児を対象として、自己鏡映像認知に関する実験をおこなった。

L)チンパンジーのトークンの使用

鈴木修司4)・松沢哲郎

トークンは疑似貨幣とも呼ばれ、ヒトの日常社会における貨幣と類似の機能を有するものである。チンパンジーに対してトークンの機能の1つである貯蔵可能性を学習させ、その過程で出現する行動の実験的分析を行った。

〈研究業績〉

論文

−英文−

1) Hirata, S., Myowa, M., & Matsuzawa, T. (1998) Use of leaves as cushions to sit on wet ground by wild chimpanzees. American Journal of Primatology 44: 215-220.

2) Inoue-Nakamura, N. (1997) Mirror self-recognition in nonhuman primates: A phylogenetic approach. Japanese Psychological Research 39: 266-275.

3) Inoue-Nakamura, N. & Matsuzawa, T. (1997) Development of stone tool use by wild chimpanzees (Pan troglodytes). Journal of Comparative Psychology 111: 159-173.

4) Iversen, I. & Matsuzawa, T. (1997) Model-guided line drawing in the chimpanzee (Pan troglodytes). Japanese Psychological Research 39: 154-181.

5) Sato, A., Kanazawa, S., & Fujita, K. (1997) Perception of object unity in a chimpanzee. Japanese Psychological Research 39: 191-199.

6) Suzuki, S., & Matsuzawa, T. (1997) Choice between two discrimination tasks in chimpanzees (Pan troglodytes). Japanese Psychological Research. 39: 226-235.

7) Tanaka, M. (1997) Formation of categories based on functions in a chimpanzee (Pan troglodytes). Japanese Psychological Research 39: 212-225.

8) Tomonaga, M. (1997) Precuing the target location in visual searching by a chimpanzee (Pan troglodytes): Effects of precue validity. Japanese Psychological Research 39: 200-211.

9) Tonooka, R., Tomonaga, M., & Matsuzawa, T. (1997) Acquisition and transmission of tool making and use for drinking juice in a group of captive chimpanzees. Japanese Psychological Research 39: 253-265.

総説

−英文−

1) Matsuzawa, T. (1997) Phylogeny of intelligence: A view from cognitive behavior of chimpanzees. IIAS Reports, No. 1997-004: 17-26.

2) Matsuzawa, T., Kojima, S. & Shinohara, S.(1997) Editorial: A brief note on the background of the study of cognition and behavior of chimpanzees by Japanese researchers. Japanese Psychological Research 39 (3): 133-139.

−和文−

1) 井上(中村)徳子・松沢哲郎 (1997) 「自己意識の系統発生」(第8章)苧阪直行(編), 『脳と意識』.朝倉書店.

2) 松沢哲郎 (1997) チンパンジーの知性. AERA Mook, 頭脳学のみかた pp. 144-147.

3) 松沢哲郎(1997)霊長類の比較通じヒトの心の進化を究明. AERA Mook「学問がわかる」シリーズ18: 24-25.

4) 松沢哲郎 (1997) 行動科学からの脳機能へのアプローチ. 学術月報 50 (8): 23-24.

5) 松沢哲郎 (1997) チンパンジーの心. 第11回「大学と科学」公開シンポジウム組織委員会編「認知・言語の成立」, pp. 134-144.

6) 松沢哲郎 (1997) 「文化」を考える. 発達 70: 105-112.

7) 松沢哲郎 (1997) チンパンジー・ゴリラ・オランウータン. 発達 71: 103-111.

8) 松沢哲郎 (1997) 「心」の進化を考える. 発達 72: 104-111.

9) 松沢哲郎 (1997) チンパンジーとヒトの出会い. 発達 73: 104-111.

10) 外岡利佳子 (1997) チンパンジーによる葉を用いた水飲み.現代のエスプリ「行動の伝播と進化」 No. 359: 85-94.

報告・その他

−英文−

1) Matsuzawa, T. (1997) The death of an infant chimpanzee at Bossou, Guinea. Pan Africa News 4 (1): 4-6.

−和文−

1) 松沢哲郎 (1997) 板倉・小川論文へのコメント. 心理学評論, 40: 39-40.

2) 辰巳格・千田道雄・三品雅洋・大山雅史・外山比南子・織田圭一・田中正之(1998)意味カテゴリー(固有名詞、生物、無生物)、音韻にもとづく語想起と、脳の賦活部位.文部省科学研究費補助金重点領域研究 (1)「心の発達:認知的成長の機構」平成9年度研究成果発表会(1997年1月、東京).研究成果報告書, pp.257-261. 

3) 友永雅己 (1998). チンパンジーにおける顔の知覚 ─ 視覚探索課題を用いた方向の弁別 ─.文部省科学研究費補助金重点領域研究(1)「心の発達:認知的成長の機構」平成9年度研究成果報告書,pp. 32-39.

4) 友永雅己 (1998) チンパンジーにおける視知覚認知.小嶋I三(編),文部省科学研究費補助金重点領域研究(1)「認知・言語の成立」I: 46-66.

学会発表等

−英文−

1) Fagot, J. &Tomonaga, M. (1998). Comparative assessment of global/local processing in humans, chimpanzees and baboons. The International Conference on Comparative Cognition (March 12-14, 1998, Orlando, FL, USA).

2) Ochiai, T. & Matsuzawa, T. (1997) Planting trees in an outdoor compound of chimpanzees for an enriched environment. The Third International Conference on Environmental Enrichment (Oct. 1997, FL. U. S. A.).

3) Tomonaga, M. (1998). Perception of biological motions in chimpanzees. Colloquium for the animal-infant cognition subgroup of Monbusho Grant-in-Aid "The development of mind". (January 21, 1998, Tokyo, Japan).

−和文−

1) 遠藤教子・田中正之・辰巳格・榎本武郎(1997)失語にdeep dyslexiaを伴った症例の読みの障害.第42回日本音声言語医学会大会(1997年11月,神戸).音声言語医学39: 150.

2) 平田聡・ドラ=ビロ・松沢哲郎 (1997) 食物をめぐる葛藤状態におけるチンパンジー達の行動. 日本動物心理学会第57回大会(1997年4月, 滋賀). 動物心理学研究47: 199.

3) 平田聡・明和政子・松沢哲郎 (1997) 葉のざぶとん: 野生チンパンジーの新しい道具使用. 第13回日本霊長類学会大会 (1997年7月, 札幌). 霊長類研究13 (3): 270.

4) 平田聡・松沢哲郎 (1997) チンパンジーの宝探しゲーム. 日本動物行動学会第16回大会(1997年11月, 京都). 発表要旨集 p.54.

5) 井上(中村)徳子・松沢哲郎 (1997) ボッソウのチンパンジーによるコウラの実割り行動の郡内伝播. 第13回日本霊長類学会大会(1997年7月、札幌). 霊長類研究13 (3): 270.

6) 井上(中村)徳子 (1997) 霊長類における自己鏡映像認知:系統発生的アプローチ. 日本心理学会第61回大会(1997年9月、西宮).

7) 明和政子・松沢哲郎 (1997) チンパンジーによる物の操作に関する模倣−他個体の何が伝わるのか?−. 第13回日本霊長類学会大会 (1997年7月, 札幌).  霊長類研究13 (3): 282.

8) 明和政子・松沢哲郎 (1998) チンパンジーによる物の操作に関する模倣(2)−他個体のアクションに含まれる「意図」と「ゴール」の理解−. 日本発達心理学会第9回大会(1998年3月, 東京).

9) 中川織江・松沢哲郎 (1998) チンパンジーにおける粘土操作の発達:粘土と他素材の組み合わせ.日本発達心理学会第9回大会 (1998年3月, 東京).

10) 落合知美 (1997) チンパンジー放飼場の環境エンリッチメントとその評価. 第13回日本霊長類学会大会(1997年7月, 札幌). 霊長類研究 13 (3): 268.

11) 鈴木修司 (1997) 見本あわせ課題間のチンパンジーの選択行動−遅延挿入の影響−.日本動物心理学会第57回大会 (1997年4月,滋賀).動物心理学研究 47: 200.

12) 鈴木修司 (1997) チンパンジーのトークン使用:自発的な貯蔵.第13回日本霊長類学会(1997年7月,札幌). 霊長類研究 13 (3): 283.

13) 田中正之・伏見貴夫・辰巳格 (1997)日本語の音韻構造−系列再生実験の知見から(2)−. 日本心理学会第61回大会(1997年9月,西宮).発表論文集 p.835.

14) 辰巳格・田中正之(1997)カテゴリー(固有名詞、生物、無生物)、音韻にもとづく単語の生成と、脳の活動部位. 第42回日本音声言語医学会大会(1997年11月,神戸).音声言語医学39: 63.

15) 友永雅己 (1997). チンパンジーにおける探索非対称性(III). 日本動物心理学会第57回大会 (1997年4月,滋賀). 動物心理学研究 47: 200.

16) 友永雅己 (1997). 正立した顔はポップアウトするか ― チンパンジーによる顔の方向の視覚探索 ―.第13回日本霊長類学会大会(1997年7月、札幌). 霊長類研究 13 (3): 283.

17) 友永雅己 (1997). チンパンジーにおけるバイオロジカル・モーションの知覚 ― 視覚探索課題を用いて ―. 日本心理学会第61回大会 (1997年9月,関西学院大学). 発表論文集 p. 512.

18) 友永雅己 (1997). 視覚探索課題を用いたチンパンジーの視知覚認知の探求.第24回京都心理学セミナー「知性の発生」(1997年11月,京都大学).

19) 友永雅己 (1997). 霊長類の社会的認知. 日本行動分析学会第15回年次大会シンポジウム「『心の理論』の行動分析」 (1997年11月,府中市,安田生命アカデミア).

20) 友永雅己 (1997). チンパンジーにおける顔の知覚 ─ 特に倒立効果について ─. 文部省科学研究費補助金重点領域研究「心の発達」1997年度研究成果発表会 (1997年12月,京都大学霊長類研究所).

21) 外岡利佳子・友永雅己・松沢哲郎 (1997) チンパンジーにおける葉を用いた水飲み行動の獲得と伝播―野生群と飼育群の比較―. 第13回日本霊長類学会大会 (1997年7月,札幌). 霊長類研究 13 (3): 288.

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