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III 退官にあたって

                                                                加納隆至(社会構造分野

 

  私が17年間つとめた琉球大学から霊長類研究所に転任となったのは1987年のことでした。まず非常に驚いたのは、院生のレベルの高さでした。大学院のなかった琉球大学と比べるほうが間違っているのでしょうが、若人たちのセミナーでの高度で白熱した討論は新鮮な驚きでした。院生たちは研究所の宝だという気持ちは以来ずっと持ち続けています。

世界の第一線で活躍している多くの研究者に囲まれて過ごしたここでの13年間は、私にとって貴重な体験でした。私自身は懸命につとめたつもりでしたが、はた目からは好き勝手なマイペースでやっているな、と思われていたでしょう。いたらぬところが多すぎたと反省しています。ことに研究室の大澤助教授には、研究室運営の面でずいぶん頼らせていただきました。この場を借りて感謝の意を表したいと思います。

私は1973年から、コンゴ(ザイール)森林で、もっぱらピグミーチンパンジー(ビーリャ、ボノボ)の野外研究に携わってきました。ことに世界に先駆けて個体識別もとにした観察が可能なワンバというフィールドを持っていたことが、霊長類研究所に採用していただいた大きな理由の一つだっただろうと推察しています。こちらへきてから院生たちや他大学の研究者が参加してくれるようになり、ワンバでの研究はチームプロジェクトとして体をなすようになってきました。組織作りなど全く不得手な私にこのようなことができたのも、霊長類研究所という日本でただひとつのしっかりした受け皿に身を置いていたからこそのことでした。

1990年にはワンバ森林と、川をへだてて隣接するイロンゴ森林が、研究保護区としてザイール(現コンゴ民主共和国)政府の正式な認可を受けました。ワンバ森林では従来の社会学的研究を進め、手つかずのイロンゴ森林では生態観察に焦点を当てるという、両輪のそろった研究体勢も整いました。また生化学研究部門との共同研究で、DNAからの血縁解析にも手がかりが得られ、ワンバでの研究に夢多い新しい局面が開けたかのように見えました。しかし以前から悪化の一途をたどっていたザイール経済がついに崩れ、食べていけない人々が各地で暴動をはじめ、ワンバでの調査も細々と持ちこたえるのが精一杯というありさまになってしまいました。私たちのワンバ訪問は1996年が最後でした。その後、暴動が内戦に発展し、ほぼ30年間にわたって独裁をしいてきたモブツ政権が倒された後も、内戦はやむことがなく、現地にはいること自体が不可能になったのでした。

私たちはアフリカの各地に散って研究の場を求めましたが、若い研究者たちのがんばりで、ウガンダのカリンズ森林と、タンザニアのウガラ、ルクワなどで新しいチンパンジー研究が芽吹きはじめています。カリンズ森林では、チンパンジーや珍種ロエストモンキーの接近観察が可能になり、ウガンダ政府もこの地をエコツーリズムの場として育てていく計画を立ち上げました。 調査地としては若木くらいには成長しているのかもしれません。

ただやはり気になるのはワンバのことです。モブツを引き継いだカビラの死とともに、コンゴの内乱も収拾の方向に向かいつつあり、近い将来再開は可能でしょう。ただ私が退官し、霊長類研究所での受け皿を失った今、どこで誰がどのようにワンバでの研究を進めていくのか心配です。

私は21世紀の始まりとともに身を退くことに満足と喜びを感じています。ただ生来の不精者のため、長年の観察データの大半が残されています。これを何とかしなければ、お国の大金を使わせてもらった身として申し訳が立ちません。斬新な分析などは無理ですが、後の研究に役立つような形でデータを残すことを老後の仕事にするつもりです。ザイールで新しいデータが取れない現在の情勢では、それも意味があるだろうと思っています。

 


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