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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2004年度 > VIII HOPEプロジェクト (3) 概要

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.35 2004年度の活動

VIII HOPEプロジェクト

3 プロジェクトの概要

人間の心も体も社会も,進化の産物である.「われわれはどこから来たのか」「人間の本性とは何か」,そうした根源的な問いに答えるためには,人間がどのように進化してきたのかを知る必要がある.生物としての人間は,脊椎動物の一種であり,哺乳類の一種であり,その中でも「霊長類」と呼ばれる「サルの仲間」の一種である.では人間は,他のサル類と何が同じでどこが違うのか.本プロジェクトHOPEは,人間と最も近縁な人間以外の霊長類に焦点をあてて,人間の進化の霊長類的起源(Primate Origins of Human Evolution)を探ることを目的としている.HOPEは,その英文題目のアナグラム(頭文字を並べ替えたもの)であると同時に,野生保全への願いも込められている.人間を除くすべての霊長類は,いわゆるワシントン条約で「絶滅危惧種」に指定されている.先端的な科学研究を展開すると同時に,「進化の隣人」ともいえるサル類をシンボルとして,地球環境全体ないし生物多様性の保全に向けた努力が今こそ必要だろう.

日本は,先進諸国の中で唯一サルがすむ国である.そうした自然・文化の背景を活かし,霊長類の研究では,世界に先駆けてユニークな成果をあげ発信してきた.今西錦司(1902-1992)ら京都大学の研究者が野生ニホンザルの社会の研究を始めたのは1948年である.霊長類研究所(略称KUPRI)が幸島で継続しているサルの研究は,すでに57年が経過し,8世代にわたる「サルの国の歴史」が紡ぎだされている.さらに1958年に開始したアフリカでの野生大型類人猿調査を継承し,国内外でチンパンジーの研究を発展させてきた.また,日本が創始した英文学術雑誌「プリマーテス」は,2003年からはドイツのシュプリンガー社から出版されるようになったが,現存する世界で最も古い霊長類学の学術誌である.一方,ドイツは,霊長類研究において,ウォルフガング・ケーラー(1887-1967)によるチンパンジーの知性に関する研究をはじめ長い伝統を有している.とくに,1997年にマックスプランク進化人類学研究所(略称MPIEVA)が創設され,類人猿を主たる対象にして人間の進化的理解をめざす「進化人類学」的研究が急速に興隆し,この分野における西洋の研究拠点になっている.アメリカについては,ハーバード大学を始め,霊長類学の多方面で多数の研究者が活躍していることは指摘するまでもない.

HOPEプロジェクトは,それぞれの国の中核的研究拠点とそれに協力する共同研究者が,ヒトを含めた霊長類を対象に,その心と体と社会と,さらにその基盤にあるゲノムについて研究するものである.研究拠点間の国際的な協力のもと,霊長類に関する多様な研究分野が相互交流によってさらに活性化し,「人間の進化の霊長類的起源」に関する新たな知見の蓄積と研究領域の創造をめざしている.「人間はどこから来たのか」「人間とは何か」という究極的な問いに対する答えを探す学際的な共同作業だともいえる.そうした基礎的な研究こそが,「人間はどこへ行くのか」という,現代社会が抱える諸問題に対する生物学的な指針を与えることになるだろう.

そのために,生息地での野生霊長類の野外研究を含めた共同研究の実施,若手研究者の交流と育成,国際ワークショップ・シンポジウム等の開催をおこなう.また,インターネット・サイトならびにデータベースの充実や,出版活動(とくに英文書籍による研究成果の出版シリーズの発足)を通じて,その研究成果の普及・啓発に努める.以上がHOPEプロジェクトのめざす事業である.

平成16年度の費用総額は1800万円だった.事業の主旨により,外国旅費がほとんどすべてを占める.合計38件の事業をおこなった.内訳は,共同研究15件,若手交流13件,国際集会10件だった.平成16年度を総括してみると,京都大学霊長類研究所(KUPRI)とマックスプランク進化人類学研究所(MPI EVA)とハーバード大学人類学部(HUDA)とのあいだの共同事業の基礎固めをおこなうことができたと言えるだろう.ドイツのマックスプランク進化人類学研究所のマイケル・トマセロ所長をはじめとする認知発達科学の研究グループと共同して,人間の認知機能の発達とその進化的基盤に関する研究をおこなった.ドイツ側がおもに社会的知性の側面を担当し,日本側はおもに道具的知性の側面を担当した.また,マックスプランク進化人類学研究所の比較ゲノム研究部門と共同研究をおこなった.さらに,言語や認知ともからむ形態・化石資料についての情報交換をおこなった.アメリカの拠点であるハーバード大学人類学部を加えた3者で,大型類人猿その他の霊長類を対象とした野外調査をおこなった.チンパンジーについては,アフリカの東部・中央部・西部で住み分けた担当とした.日本のユニークな貢献として,ザイールでの野生ボノボの野外研究と,ボルネオの野生オランウータンの野外研究をおこない,その生態と社会についての新たな知見を加えた.目標は順調に達成していると評価できる.

(文責:松沢哲郎)

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