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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2009年度 > 日本人研究員・研修員

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.40 2009年度の活動

日本人研究員・研修員

日本学術振興会特別研究員(PD)

氏名:伊村知子
受入教員:友永雅己
研究題目:比較認知発達の観点からみた絵画的奥行知覚:運動情報と視点の影響
受入期間:2007年4月1日〜2009年4月30日

氏名:江成広斗
受入教員:渡邊邦夫
研究題目:白神山地における社会−環境問題としての猿害解決を目的とした領域横断的研究
受入期間:2007年4月1日〜2009年11月30日

氏名:纐纈大輔
受入教員:三上章允
     (2009年4月1日より宮地重弘に変更)
研究題目:皮質−視床下核投射(ハイパー直接路)が運動の制御において果たす機能の解明
受入期間:2007年4月1日〜2010月3月31日

氏名:服部裕子
受入教員:友永雅己
研究題目:利他性の進化−「思いやり」を支える情動メカニズムに着目して−
受入期間:2008年4月1日〜2011年3月31日

氏名:倉岡康治
受入教員:中村克樹
研究題目:霊長類のコミュニケーションにおける視聴覚統合とその脳内機序の解明
受入期間:2009年4月1日〜2010年3月31日

受託研究員

氏名:永友寛一郎
受入教員:中村伸
研究題目:サルモデルでのバイオメディカル研究
受入期間:2009年4月1日〜2009年9月30日

非常勤研究員

氏名:市野進一郎
研究課題:野生ワオキツネザルの繁殖構造に関する研究
所属分野:ゲノム多様性分野
研究期間:2009年4月1日〜2009年9月30日
 マダガスカルに生息する昼行性原猿であるワオキツネザル(Lemur catta)は,10頭から15頭ほどの母系の複雄複雌群を形成する.その社会構造は真猿類のオナガザル類に似ているが,いくつかの点で異なっている.主なものは,1)メスがオスよりも社会的に優位であること,2)体や犬歯のサイズに性的二型がないこと,3)交尾期が著しく短い(通常,メスの発情は1日以内)こと,である.こうした特徴から,ワオキツネザルの繁殖構造はオナガザル類とは異なっている可能性がある.本研究は,マイクロサテライトを用いた多型解析によってワオキツネザルの繁殖構造を明らかにすることを目的とした.
マダガスカル共和国南部のベレンティ保護区に設定された14.2haの主調査地域では,1989年から京都大学アフリカ地域研究資料センターの小山直樹教授(現在,名誉教授)によって個体識別に基づく長期継続調査がおこなわれている.実験には,このワオキツネザル個体群の134個体分のゲノムDNAを用いた.このDNAは,1997年から1999年にかけておこなわれた捕獲調査で採集された血液から調製したものである.この当時,主調査地域には6群(C1群,C2A群,C2B群,CX群,T1群,T2群)が生息していた.
遺伝子マーカーとして8座位のマイクロサテライト(Efr09,47HDZ236, 47HDZ682,Lc5,Lc7,Lc8,Lc9,Lc10)を用いた.蛍光標識プライマーを用いたPCR法で各DNA領域を増幅し,キャピラリーシステムによるフラグメント自動解析装置でPCR産物を解析し,各個体の遺伝子プロフィールを決定した.
現在までの解析結果のうち,父子判定の結果からオスの繁殖成功は特定のオス(優位オス)に偏っていないということが示された.また,観察から母子とみなされている個体間で結果の矛盾がみられた.この原因については,母子交換の可能性,誤判定の可能性などがあり,再実験も含めた検討が必要である.

 

氏名:菅原亨
研究課題:ゲノムを基盤とした霊長類の感覚受容体と環境の相互作用機構の解析
所属分野:附属人類進化モデル研究センター
研究期間:2009年4月1日〜2010年3月31日
単細胞生物から脊椎動物までほぼすべての生物は,外界からの情報を受容する感覚システムを持ち,そこから得られた情報に基づいて行動する.感覚は生物の生存・繁殖に非常に重要な役割を果たしているため,それぞれの生物が生息環境に合わせた種特異的な感覚システムを保持していると考えられる.本年度は,霊長類の感覚受容体を対象にその多様化と環境適応との相互関係を明らかにするため以下3つの課題をおこなった.
1) チンパンジー100個体を対象とした苦味受容体(T2R)の多様性解析
2) ニホンザル・アカゲザル300個体を対象としたT2Rの多様性解析
3) 所内飼育チンパンジーを対象とした嗅覚受容体(OR)の多様性解析
苦味の感知は,有毒な物質や消化吸収の困難な食物の摂食に対して警告を発する生物にとって非常に重要な感覚入力の1つである.苦味は,七回膜貫通型構造を持つ典型的なGPCRの1種であるT2Rを介した経路で伝わる.ヒトゲノム中にはT2Rが36コピー存在し,その中で機能遺伝子が25個あり,多型解析からヒトT2Rの塩基多様度,それに伴うアミノ酸置換の割合が非常に高いことがわかっている.チンパンジーのT2Rの多型解析をおこなった結果,ヒトとチンパンジー間では遺伝子のレパートリーはほぼ同じであるが,チンパンジーの方が機能的なT2Rを2〜3遺伝子多くもつことが確認された.また,チンパンジーにおいてもT2Rの塩基多様度,それに伴うアミノ酸置換の割合は非常に高いことがわかった.種内におけるT2Rの多様性の高さは,マカク類の多型解析からも示唆されている.これらの結果から,T2Rの多様性を種内で保つことが,多種多様な苦味物質を限られた数の受容体で認識する機構のひとつであると考えた.
ゲノム解析によって,ヒト・チンパンジーにはおおよそ400個の機能的なOR遺伝子があるが,そのレパートリーは異なっていることが明かにされている.そこで本年度はヒトにおいて偽遺伝子化しており,チンパンジー特異的に機能を維持したORについて所内に飼育されているチンパンジー16個体を対象に解析をおこなった.結果,苦味受容体と同様に偽遺伝子の多型が見られ,チンパンジー個体間でも保持しているORのレパートリーに違いがあることが明らかとなった.

学会発表
1) 菅原亨,郷康広,鵜殿俊史,森村成樹,友永雅己,今井啓雄,平井啓久(2009)チンパンジー苦味受容体の種内変異解析.第73回日本生化学会中部支部例会 (2009/05,愛知)

2) 菅原亨,郷康広,鵜殿俊史,森村成樹,友永雅己,今井啓雄,平井啓久(2009) チンパンジー苦味受容体の種内変異解析.第25回日本霊長類学会大会(2009/07,岐阜)
3) Sugawara T, Go Y, Udono T, Morimura N, Tomonaga M, Imai H , Hirai H (2009) Polymorphisms in Bitter Taste Receptors among Chimpanzees. The 3rd International Symposium of the Biodiversity and Evolution Global COE project (July 2009, Kyoto, Japan)
4) 菅原亨,郷康広,鵜殿俊史,森村成樹,友永雅己,今井啓雄,平井啓久 (2009) チンパンジー苦味受容体の種内変異解析.第11回日本進化学会(2009/09,北海道) 
5) Sugawara T, Go Y, Udono T, Morimura N, Tomonaga M, Imai H, Hirai H (2010) Polymorphisms in chimpanzee bitter taste receptors. 2009年度ホミニゼーション研究会「霊長類ゲノム−ヒト進化の軌跡」 (2010/03,犬山)
6) 菅原亨,郷康広,鵜殿俊史,森村成樹,友永雅己,今井啓雄,平井啓久(2010) 苦味受容体の多様性探索. 分子研研究会「拡がるロドプシンの仲間から"何がわかるか""何をもたらすか"」(2010/03,岡崎)

 

氏名:松田一希
研究課題:霊長類の重層社会:テングザルとキンシコウの社会進化
所属分野:生態保全分野
研究期間:2009年4月1日〜2010年3月31日
複雑に重層化するヒト社会の進化を探ることは,人類学の最大の課題であり,多くの霊長類種で社会構造の研究は行われてきた.しかし,重層社会が報告されている霊長類は少なく,その重層社会が成立する過程を明らかにすることはヒトの社会進化を探る上でも重要な情報を提示する.そこで,重層構造を持つことが示唆されているテングザルの群間の関係に着目して,野外で収集した3000時間以上もの行動データの解析を行った.テングザルにおける重層化社会のメカニズムを探る試みとして,ベイズ統計を用いて生態学的要因(餌資源量,捕食圧,水位,交尾頻度など)が,ハレム群間の凝集性にどのような影響力を持つかを評価した.この解析により,ハレム群間の凝集性は捕食圧と餌資源量といった生態学的要因に影響を受けやすいことを明らかにした(Matsuda et al. 2010).また,テングザルの生息する環境が,重層社会の進化に及ぼす影響を明らかにするために,今まで継続して行ってきた川辺林とは全く異なる植性タイプである,マングローブ林に生息するテングザルの行動観察を行った.野外調査の結果,川辺林に比べるとマングローブ林においてはテングザルのハレム群の生息密度は低く,ハレム群間の凝集性も低いことが明らかになった.これは,マングローブ林では,川辺林ほどテングザルのハレム群間で見られる重層化が明瞭ではないことを示唆しており,本種の重層化社会の進化を考える上で,生息環境(特に植生パタン)が重要な要素であることがわかった.加えて,研究所においてキンシコウの社会構造について野外研究を継続している研究者と,外部研究機関より研究所を訪問したキンシコウの研究者らと打ち合わせを行い,両種(テングザルとキンシコウ)の社会構造比較に向けて,データ収集方法の標準化,また既存のデータを用いての共同研究について話し合った.

 

氏名:松阪崇久
研究課題:ヒトとチンパンジーの攻撃交渉の比較研究
所属分野:思考言語分野
研究期間:2009年10月1日〜2010年3月31日
野生チンパンジーの群れは「離合集散」をすることが知られている.集団を構成するメンバーは常に共に行動するのではなく,顔ぶれの固定しないいくつものパーティにしばしばわかれて遊動する.互いに見えない距離にはなれあう個体同士は,パント・フートなどの音声によってコミュニケーションをおこなっていると考えられている.
  霊長類研究所のチンパンジーたちも,野生チンパンジーとある程度まで類似した離合集散をおこなう.彼らは,屋外放飼場とそれに隣接する複数の部屋の間を自由に行き来することができる.また,認知課題に参加するチンパンジーは,複数の実験室をわたり歩くことになる.ひとつの放飼場または部屋を占有するチンパンジーの顔触れは,刻々と変化する.互いに姿の見えない位置にいるチンパンジー同士が声を交わすことも少なくない.
  離れあうチンパンジー同士が音声を用いてどのようにコミュニケーションをおこなっているかを調べるために調査をおこなった.屋外放飼場にてチンパンジーの発声行動を記録し,実験室内で認知課題中のチンパンジーがそれぞれの音声に対してどのような反応を見せるかを調べた.認知課題中のチンパンジーの行動分析には,固定ビデオカメラで撮影された映像を用いた.
  屋外放飼場での発声に対する認知課題中のチンパンジーの反応として,1)無反応,2)頭部の向きを変える,3)胴体の向きを変える,4)課題を中断する,5)発声するといった行動が観察された.小さい音声に対する反応率は低く,悲鳴やパント・フートといった大音量の音声への反応率が高かった.中でも,悲鳴をともなう闘争場面の音声に対する反応率が高かった.また,少なくとも一組の母子では,普段よく接触する個体の音声への反応率が高く,攻撃交渉をはじめとするその動向により注意を払っていることが示唆された.以上の結果を,国際シンポジウム"HOPE-GM LECTURES ON PRIMATE MIND and SOCIETY"(2010年3月,京都大学)にて報告した.
学会発表
1) 西田利貞, 座馬耕一郎, 松阪崇久, 稲葉あぐみ(2009) 野生チンパンジーの映像エソグラムの作成とその応用について. 第63回日本人類学会大会 (2009/10,東京)
2) Matsusaka T (2010) Vocal communication of captive chimpanzees. HOPE-GM国際シンポジウム「HOPE-GM LECTURES ON PRIMATE MIND and SOCIETY」(2010/03,京都)
3) 松阪崇久 (2010) 笑いの起源と進化−チンパンジーの遊びと笑い. ユーモアサイエンス学会第1回研究会 (2010/01,大阪)

 

氏名:坂巻哲也
研究課題:野生ボノボの行動と生態,社会性についての研究
所属分野:社会進化分野
研究期間:2009年11月1日〜2010年3月31日
2009年度は7月から,コンゴ民主共和国,赤道州,ルオー学術保護区にあるワンバ村で,野生ボノボ(Pan paniscus)の調査を開始した.ここでは,個体識別された集団(E1グループ)の調査が継続している.現地調査は12月初旬まで行なった.ボノボの行動観察は,早朝のベッドサイトから夕方のベッドサイトまで,グループ追跡する中で行ない,かれらの活動,社会行動,グルーピング・パターンなどを記録した.E1グループの観察は,計65日,約447時間であった.
調査の目的は,ヒトに最も近縁な二種,ボノボとチンパンジー(Pan troglodytes)の,おもに社会交渉とグルーピング・パターンの比較から,両者の社会性の特質を明らかにし,人類の社会進化における社会生成の基盤について解明することである.12月に帰国した後は,調査で得たボノボの社会的毛づくろいのデータを分析し,チンパンジーの報告と比較した.チンパンジーでは毛づくろいで連なる3個体以上の集まりがしばしば形成されるのに対し,ボノボではほとんどの場合,1対1の2個体で毛づくろいが行なわれた.3個体以上の毛づくろいの連なりが,ボノボ自身によって避けられている様子が観察された.また,チンパンジーでは2個体で同時に相互に毛づくろいすることがしばしばあるが,ボノボではそれがまれで,相手へ毛づくろいするときにはその相手から毛づくろいを受けたがらない様子が観察された.チンパンジーとボノボはともに,複雄複雌の単位集団を形成し,そのメンバーが離合集散する遊動生活を営む.本結果の毛づくろい交渉の性質の違いは,かれらの離散とグルーピングの性質の違いと関係していると考えている.この点を明らかにするため,両者のグルーピング・パターンと出会いにおける社会交渉の特質をさらに解明することが必要である.以上の結果は,学術雑誌へ投稿準備中で,2010年の国際霊長類学会で発表予定である.

 

氏名:松原幹
研究課題:野生ニホンザルにおける採食社会学的研究
所属分野:生態保全分野
研究期間:2009年10月1日〜2010年3月31日
採食努力と交尾努力はトレードオフ関係にあり,長寿の動物における採食戦略と繁殖戦略を考察する上で重要である.採食選択と採食行動に社会関係がおよぼす影響は,社会を営む生き物の採食戦略を明らかにする上で必要不可欠である.そこで野生のヤクシマザルオスにおいて,交尾戦術ごとに採食時間と品目,採食樹への移動・立ち去り行動の比較を行った.活発にメスにアプローチし,独占的交尾戦術をとる第1位オスは採食時間がその他の劣位オスより減少し,マウンティング・シリーズの時間を長くとることが判明した.第1位オスは発情メスに1日の93.8%の時間を追従し,発情メスが選択した採食樹で採食し,発情メスの立ち去りによって採食を中断する傾向が確認された.そのため,発情メスと同じ採食品目を選び,採食場所を選ぶ傾向がみられた.また,採食樹から立ち去る発情メスを追うために第1位オスがそれまで採食していた食物を運搬する行動がみられた.第1位以外の劣位オスの採食時間は,交尾に成功した日と不成功日で違いはみられなかった.劣位オスは単独か,第1位オスと発情メスから離れた場所で採食する傾向がみられた.劣位オスの採食時の敵対交渉頻度は第1オスより低いため,食物を得るための攻撃によるエネルギーコストが低いことが推測された.本研究の結果,第1位オスによる独占的交尾戦術は発情メスの行動によって,食物選択や時間の制限がかかり,エネルギー的・時間的コストが存在する可能性があり,一方,日和見戦術をとるその他の劣位オスでは,発情メスによる採食への影響は少なく,オスの栄養要求に従った採食が可能であることが示唆された.

 

氏名:柴崎全弘
研究課題:ADHDモデルザルにおける時間知覚の検討
所属分野:認知学習分野
研究期間:2009年10月1日〜2010年3月31日
注意欠陥多動性障害(ADHD)とは,不注意,多動性,衝動性を中心とした障害のことであり,学齢期の児童の3〜5%がこの障害に該当するとされている.最近の研究から,ADHD児童は時間知覚にも障害がみられることが示されているが,ADHDのモデル動物として利用されている高血圧発症ラットでは,このような障害はみられない.そこで,ADHDの新たな動物モデルとして作成された3頭のアカゲザルと統制群のアカゲザル3頭を使って時間知覚の実験を行なった.ADHDの発現には脳内ドーパミン作動系の変化が関係しているとされており,ドーパミン放出量の減少またはドーパミン受容体の感受性の低下が主要因であるともいわれているため,ドーパミン神経を破壊されたモデルザルでは,ADHD児童に似た症状が示されることが期待される.
実験では,最初にモニターの中央に白の四角形が呈示され,それを押すと1秒後または4秒後に黄色の四角形が左右に1つずつ呈示された.それらが1秒後に呈示された場合には一方の四角形,4秒後に呈示された場合には他方の四角形を押すと報酬が与えられた.この訓練の後に,1秒と4秒の間のいくつかの長さを用いたプローブテストを通常の訓練の中に挿入して行ない,主観的等価点を求めた.この弁別課題をクリアしたサルは統制群の2頭と実験群の1頭だけであった.
プローブテストを挿入する前に,強化率を100%から75%に下げた訓練を行なったが,統制群の2頭では成績が一時的に低下したのに対し,実験群の1頭では成績の低下はまったく見られなかった.ヒトのADHD患者では,報酬に対する感受性が低下すると報告されているが,モデルザルにおいても同じ傾向が示された.1秒と4秒の主観的等価点に関しては,群間に顕著な差はみられなかった.時間知覚には複数の脳領域が関係しており,秒単位の時間を弁別する場合と1秒以下の時間を弁別する場合,あるいは時間情報を符号化するときと比較するときでは,働く脳部位が異なるとされているため,今後は異なる時間長や時間弁別課題を使った検討も行なう必要がある.

 

氏名:村井勅裕
研究課題:人為的に導入されたテングザル群を対象とした社会行動と性行動に関する研究
所属分野:生態保全分野
研究期間:2009年10月1日〜2010年3月31日
本研究では,インドネシア・スラバヤ動物園に導入された比較的大規模なテングザル群を対象とし,今まで詳細な直接観察が困難で明らかにされてこなかった彼らの社会交渉や性行動の諸特徴を明らかにすることを目的とした.
2009年7月から9月まで,インドネシア・スラバヤ動物園にて観察を行った.調査地であるインドネシア・ジャワ島のスラバヤ動物園には,1998年ボルネオ島での大規模な生息地の環境の悪化が原因で南ボルネオのKaget島からテングザルが移入された.動物園内には2つの人工島(互いに行き来は可能)において4群(単雄複雌群3・全雄群1)の計41頭が飼育されていた.群間の関係を見るために餌場での雄同士の関係を観察を行った.その結果,単雄複雌群間での明確な順位は見られなかった.また,観察期間中に赤ん坊が死亡し,その死体を運ぶ行動が見られた.さらに,死体を抱えたままの交尾など興味深い観察もすることが出来た.テングザルの特徴でもある雄の大きな鼻と音声の関係を研究するため,テングザルの音声の録音を行った.しかし,動物園で音声を録音することは非常に困難であるために,今後,有効な録音方法を見つけていかなければならない課題が残った.また,雄の鼻を計測するために餌場に比較のための標識を置き,それぞれの雄の鼻の大きさを計測した.今後,解析を進めていく予定である.また,性行動に関しても多くの観察をすることができ,その中でも,多くのホモセクシャル行動(単雄複雌群の雌―雌マウント・全雄群の雄―雄マウント)を観察することができた.今後も,観察を続け,データをまとめていく予定である.

 

氏名:竹元博幸
研究課題:野生チンパンジー属の地域間比較
所属分野:社会進化分野
研究期間:2009年10月1日〜2010年3月31日
西アフリカ・ボッソウ地域のチンパンジー,中央アフリカ・ワンバ地域のボノボについて,森林気象と行動の資料のデータ入力を進めた.今年度は,森林内の利用空間についての資料を解析した.
西アフリカ・ボッソウのチンパンジーの地上利用時間は乾季に増大し,雨期に減少する.また,雨期には林冠に近い高さを良く利用するが,乾季の利用高度は低くなる.対して中央アフリカ・ワンバ地域のボノボの地上利用時間の季節差は無く,森林内の利用高度も変化しなかった.多変量解析によると,この差は種や調査地あるいは果実量の差ではなく,観察日の気温の影響が強かった.ボッソウ地域の日中最高気温の平均は,雨季・地上付近の23.5℃から,乾季・林冠付近の35℃まで季節的,空間的に多様である.対して,ワンバ地域では地上付近の26℃,林冠付近の31℃という温度環境が年間を通してほぼ一定であった.森林内気温の季節変化が大きいボッソウ地域に対して季節差の少なかったワンバ地域の気象が森林内利用空間の違いをもたらしていると考えられる.
今後2種の採食内容や行動の時間配分を詳細に比較し,大型類人猿の行動と環境要因の関係について議論を進めたい.
著書(分担執筆)
1) 竹元博幸(2010)ヒトとサルの食と住,人とサルの体力と運動能力.「ヒトとサルの違いがわかる本」p.46-62, p86-100.(杉山幸丸編著)オーム社.

学会発表
1) 竹元博幸(2009)チンパンジーとボノボ:地上性の比較. 第25回日本霊長類学会大会.(2009/07,各務原). 霊長類研究,25 supplement: S-36.

 

 

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