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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2011年度・目次

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.41 2010年度の活動

年報 Vol.41

. ナショナルバイオリソースプロジェクト (NBR)


1.ナショナルバイオリソースプロジェクト(ニホンザル)の活動

平成19年度より, 5年計画で第2期ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)が開始された. NBRPは実験研究のモデルとなるマウスやラットやショウジョウバエならびにイネやシロイナズナ等の動植物,ならびにES細胞などの細胞株を含めたバイオリソースのうち, 国が戦略的に整備をすすめる22件が中核的拠点整備プログラムとして推進されている. そのなかのひとつに「ライフサイエンス研究用ニホンザルの飼育・繁殖・供給」がある. 自然科学研究機構生理学研究所が中核機関,霊長類研究所が分担機関として, いわゆるニホンザル・バイオリソース(NBR)を推進している.NBRは病原微生物学的に安全で, 健康な研究用ニホンザルを年間200頭程度供給する体制の確立を目標としている.

霊長類研究所では官林キャンパス(第1キャンパス)から直線距離で約1キロ東に位置する善師野地区に第2キャンパス(約76ha)として, 大型プロジェクト「リサーチリソースステーション(RRS)」を平成19年度に開設した. 本事業は環境共存型大型放飼場を設置し, ニホンザルの社会行動等の観察研究に資するとともに, 新たな研究用ニホンザルを創出・繁殖・育成し,全国の研究機関に供給することを目的とする. 環境との共存を重視する本キャンパスでは, 敷地内の植生の保全と, 排水の処理に万全を期している. とくに汚水はBODで5ppm以下に処理後,放飼場へ還元散布し, 敷地外には出さないシステムを構築している. 大型放飼場はニホンザルの野生での生息環境を再現するもので, 今後の多様な霊長類研究の推進の核となるものと期待される.

RRSの整備にともなってNBRの分担機関として「大型飼育施設でのニホンザルの繁殖・育成事業」の課題を推進し, 全国へのニホンザル供給を実現するための, 繁殖育成を遂行している. 平成21年度に最後の大型グループケージを設置し, 予定した施設整備は完了した. これで1式2条の放飼場が3式, 育成舍1棟, さらに3棟のグループケージが完成し, 母群総数350頭のニホンザルの飼育が可能となった. 平成21年度からNBRの経費が補助金化され安定供給に向けた業務が本格的に実施されている. これまでNBR事業は特別経費プロジェクト(RRS)と相互扶助事業としておこなわれてきたが, RRSプログラムは22年度で終了した. 21年度と22年度の経費で研究基盤の推進とNBRの規模拡大の位置づけとして, 官林地区にそれぞれ1棟のグループケージを設置した. 23年度以降の小野洞キャンパスの運用は,NBR補助金とその他研究所経費で推進する.

平成22年度も繁殖は順調に進み,母群総数241頭で出産数は57頭であった. 前年度までの出産個体の67頭を含めると,所内での繁殖個体は114個体となる. 現在, 合計355頭のNBRプロジェクト用ニホンザルを飼養している. 霊長類研究所がニホンザル血小板減少症の影響で昨年度の供給を停止したため, 昨年度の供給個体は自然機構分の26頭にとどまった. 母群調達は平成21年度で完了したので, 現在は繁殖に専念している. 今後は健康状態に配慮し, 適性に繁殖と育成をさらに進め, 100頭供給の目標達成に努める. ニホンザル血小板減少症の第1回目の全頭検査を終了した. 第2小野洞キャンパスではニホンザル血小板減少症の発症は起らなかったので, 今後も防御態勢を強化し, 全所的に関連個体を0にするとともに, 本疾病の発生を阻止する対策を継続する.

(文責:平井啓久)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

. ナショナルバイオリソースプロジェクト (NBR)

2.ナショナルバイオリソースプロジェクト(GAIN)の活動

本事業は, 国立遺伝学研究所の主管する業務「情報発信体制の整備とプロジェクトの総合的推進」(代表:山崎由紀子)の分担課題で,「大型類人猿情報ネットワークの活動」である. 事業名の略称は,英文のGreat Ape Information Networkの頭文字をとってGAINという. 平成21年度からは, 文部科学省の補助金事業になった. 霊長類研究所と野生動物研究センターの二部局で協力して推進している.

委託業務の目的設定としては, 以下の2つである.

1, 持続可能なバイオリソース情報システムの構築

人間の本性を理解するうえで大型類人猿の研究は極めて重要である. なぜなら, 生物学上も法令上も, ヒト科は現在4属(ヒト科ヒト属,ヒト科チンパンジー属, ヒト科ゴリラ属, ヒト科オランウータン属)に分類されており, ヒトを知るには, 他のヒト科3属の理解が必須だからである. 一方, 周知の事実として, 彼らは絶滅危惧種でもある. CITESによって国際的な商取引は禁止されている. 血液等のサンプルの移動も困難だ. したがって, 研究材料の確保・入手という点では他のモデル生物とまったく異なる状況がある. 本事業の前身のNBR受託研究事業では, 情報データベースを整備した結果として, 死体由来・生体由来(非侵襲)資料の有効利用を可能にする基盤をつくり, 飼育施設−研究者ネットワークの形成と運営に成功した. このネットワークを一層強化し, 情報データベースの構築a資料配布a研究成果還元aシステム改善という循環・持続型の体制確立をめざす.

2, 個体情報にゲノム・行動情報を付加する

国内保有の大型類人猿チンパンジー・ゴリラ・オランウータンの3種約400個体について, すでに全個体の登録と公開ができている.国立遺伝学研究所のバイオリソースに関する情報のホームページ(http://www.shigen.nig.ac.jp/gain/)で一般に開放されている. こうしたデータベース事業を継続し補強し発展させるために, 個体ごとのDNA情報・行動情報についても整備をすすめる. まず, ヒトに遺伝的に最も近く, 研究需要の多いチンパンジーのものより整備をおこない, 次いで, 他の類人猿についても準備をする. すでに構築された個体情報データベースをゲノムや行動という新たな指標でもって充実させることで,パーソナリティー研究, 個人差研究などのきわめて斬新な研究の基盤を整備する.

平成22年度の事業実施内容と成果は下記のとおりである.

1, 大型類人猿情報の提供

個体群モニタリングにより, 大型類人猿の死亡や出生に応じて適宜データベースを更新した. 平成23年4月15日現在でチンパンジー331個体(53施設),ゴリラ22個体(10施設), オランウータン52個体(21施設)が国内で飼養されている. 平成22年度はチンパンジーの死亡7件, ゴリラの死亡2件, チンパンジーの出産2件,オランウータンの出産3件, チンパンジーの移動10件, ゴリラの移動1件があった. 類人猿7個体からの, 非侵襲的な方法での試料および資料の収集と研究利用をサポートした.

2, 大型類人猿情報の英語化

国立遺伝学研究所生物資源情報センターと京都大学霊長類研究所の共同作業により, GAINのウェブサイトのコンテンツを英語にした. これにより, 世界に向けて日本の大型類人猿の情報を発信できるようになった. 大型類人猿を対象とした今後の研究体制構築, および個体群管理において, 国際的な取り組みをするための土台を作ることができた. 第23回国際霊長類学会と生物多様性条約COP10に招聘したスティーヴ・ロス氏(米国シカゴ・リンカンパーク動物園)にも紹介した. ロス氏は, 米国の個体管理の責任者であり, 類似のプロジェクトをたちあげた(ChimpCARE). 今後は両者の連携を図る.

3, 大型類人猿各個体のゲノム・行動情報の収集

個体ごとの生年月日や家系情報に加えて, DNA情報・行動情報についても整備をすすめた.グローバルCOEプログラム(生物の多様性と進化研究のための拠点形成―ゲノムから生態系まで:京都大学・阿形清和リーダー)と協力して,「霊長類ゲノムデータベース」を作成・公開している(http://gcoe.biol.sci.kyoto-u.ac.jp/pgdb/). また, 文部科学省科学研究費特別推進研究(課題番号20002001,責任者:松沢哲郎)でおこなっている行動の個体差研究の成果についても同サイトで公開している. 今年度はチンパンジーの味覚遺伝子の個体差にかんする論文の公表, 長期記憶に関する遺伝子の解析, 3個体のチンパンジーの全ゲノムとトランスクリプトーム解析, などをおこなった. 平成23年度にグローバルCOEが終了するので, その後, 同サイトの内容はGAINに移管・融合される予定である.

4,飼育施設訪問による情報収集

前年度までの事業に引き続き,国内の約400個体の大型類人猿にかんする情報の収集をおこなった. 京都市動物園, よこはま動物園ズーラシア, 高岡古城公園動物園,東山動植物園, 小諸市動物園を訪問して情報収集をした. チンパンジー・サンクチュアリ・宇土(CSU)を基軸に, 国内の動物園との連携を強化した.

5,死体由来・生体由来(非侵襲)資料の配布

情報収集の過程で, 飼育施設から死体由来・生体由来(非侵襲)資料の提供を受けた. それらは, 霊長類研究所でまず受け入れることとした. 資料委員会の協力を得て, 共同利用・共同研究制度のなかで運用する体制を構築しつつある.

6,大型類人猿由来情報の収集と広報

日本の飼育チンパンジー集団の個体群動態解析をするために情報収集作業を進めた. また全国の動物園から飼育者が集った第13回SAGAシンポジウムの分科会で, アメリカ動物園水族館協会(AZA)が使用するソフトウェア(Poplink)を用いたデータベース構築について議論した. 日本でのデータベース構築と運用について検討を進めている.
なお, 第23回国際霊長類学会大会と第33回日本分子生物学会年会で研究者むけに, 第13回SAGAシンポジウムで動物園関係者に, それぞれ広報をした. ほかに, 小型類人猿とフサオマキザルの飼育の現状についても情報収集をして, それぞれ学会で成果報告をした. 第70回日本動物心理学会では環境エンリッチメント研究の最新情報を収集した.

7,運営委員会の開催

運営委員会などの活動は, 平成22年4月23日:大型類人猿情報ネットワーク活動の打合せ(名鉄グランドホテル, 名古屋市), 5月31日:大型類人猿情報ネットワーク活動の打合せ(名鉄グランドホテル, 名古屋市), 7月10日:大型類人猿情報ネットワークCSU検討委員会(チンパンジー・サンクチュアリ・宇土,宇城市)である.

(文責:松沢哲郎)

 

このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会

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