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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > 2011年度・目次

京都大学霊長類研究所 年報

Vol.41 2010年度の活動

年報 Vol.41

. 共同利用研究

1. 概要

平成22年度の共同利用研究の研究課題は以下の三つのカテゴリーで実施されている.

1.計画研究
2.自由研究
3.随時募集研究


共同利用研究は,昭和57年度に「計画研究」と「自由研究」の2つの研究課題で実施された. 昭和62年度からは「資料提供」(平成14年度から「施設利用」と名称を変更, さらに平成20年度から「随時募集研究」と名称を変更)を, また平成6年度からは「所外供給」(平成14年度から「所外貸与」と名称を変更し, 平成15年度で終了)を新設し, 現在に至っている. それぞれの研究課題の概略は以下のとおりである.
「計画研究」は, 本研究所推進者の企画に基づいて共同利用研究者を公募するもので, 個々の「計画研究」は3年の期間内に終了し, 成果をまとめ, 公表を行う.
「自由研究」は,「計画研究」に該当しないプロジェクトで, 応募者の自由な着想と計画に基づき, 所内対応者の協力を得て, 継続期間3年を目処に共同研究を実施する.
「随時募集研究」は, 研究費は配分されないが随時応募可能で, 施設を利用したり資料(体液, 臓器, 筋肉, 毛皮, 歯牙・骨格, 排泄物等)を提供して行われる共同研究である.

なお, 平成22年度から, 霊長類研究所は従来の全国共同利用の附置研究所から「共同利用・共同研究拠点」となり, これに伴い, 共同利用・共同研究も拠点事業として進められることとなった. 特に, 平成23年度からの研究課題については, 外部委員が半数以上含まれる専門委員会により審査される, より透明性の高い審査方式に改められた.

平成22年度の計画課題, 応募並びに採択状況は以下のとおりである.

(1) 計画課題
(課題推進者のうち下線は代表者)

1.旧世界ザルの変異性と進化に関する多面的アプローチ

実施予定年度 平成21年度〜23年度

課題推進者:高井正成, 西村剛, 江木直子, マイク・ハフマン

 旧世界ザル類(オナガザル科)はオナガザル亜科とコロブス亜科の二つのグループからなるが,その形態・食性・行動パターンには大きな変異が存在する, こういった旧世界ザル類の多様性とその進化に関して形態学や同位体分析などの多面的な分野・手法を用いてアプローチする.



(2) 応募並びに採択状況

 平成22年度はこれらの研究課題について,105件(182名)の応募があり, 共同利用実行委員会(友永雅己, 宮部貴子, 古賀章彦, 田中洋之, 辻大和)において採択原案を作成し, 協議員会(平成22年2月10日)の審議・決定を経て, 運営委員会(平成22年3月8日)で了承された.

その結果, 98件(167名)が採択された.

各課題についての応募・採択状況は以下のとおりである.

課題 応募 採択
計画研究  17件  ( 7名)  7件  ( 7名)
自由研究  71件  (139名)  65件  (126名)
随時募集研究  27件  ( 36名)  26件  ( 34名)
合計 105件  (182名)  98件  (167名)

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2. 研究成果

(1) 計画研究

A-1霊長類大腿骨頚部における三次元画像の電脳解析

東 華岳(岐阜大・医)

対応者:高井正成

昨年度は霊長類椎骨における三次元画像の電脳解析を行い, その研究成果の一部を第23回国際日本霊長類学会において発表した. 今年度は霊長類大腿骨頚部の微細構造の加齢変化を調査し, 椎骨の結果と比較検討する. 3歳から26歳までのニホンザル81個体(おす38頭, めす43頭)の大腿骨乾燥骨標本を用いて, 大腿骨の頚部をマイクロCTで観察し, 三次元画像解析ソフトウェアを用いて, 大腿骨頚部における皮質骨と海綿骨の骨形態計測を行った. また, 基準ファントムを利用して, 大腿骨頚部の骨密度を測定した. その結果, ニホンザル大腿骨頚部における海綿骨の骨量(BV/TV)と骨密度の変化は椎骨の結果と類似し, 3歳から9歳にかけて上昇した. その後10歳から20歳にかけて有意な変化は認められなかった. 20歳以上の骨量と骨密度はピークより有意に低下した. ニホンザルでは加齢による大腿骨頚部海綿骨の骨量低下はヒトに比べて少ない. また, 大腿骨頚部海綿骨の骨量と骨密度の有意な性差はみられなかった. 現在, 大腿骨頚部における皮質骨の加齢変化の解析を行い, 他の哺乳動物と比較検討し, ヒトにおける加齢に伴う骨粗鬆症発症マケニズムの解明を目指す.



A-2現生および考古遺跡出土ニホンザルの骨形態変異に関する研究

姉崎智子(群馬県立自然史博物館)

対応者:高井正成

ニホンザル(Macaca fuscata)形態的特徴について神奈川県資料を中心に他地域と比較を行い, 地理的・時空間変異を検討した. 比較に用いた項目は下顎小臼歯・大臼歯の頬舌径である. また, 骨格と臼歯サイズの地理的変異には異なる傾向が認められることが指摘されていることから, 身体計測データと骨格, 臼歯サイズの相関を検討する必要がある. 2010年度は,外部計測値をともなう資料192体(長野,島根,静岡,千葉)について整理した他, 群馬県で捕殺されたサル30個体を剖検し, データ整備・骨標本化・計測を行うとともに, 神奈川県生命の星・地球博物館で新規に収蔵された骨格30体を計測した.

一部の成果については,International Primatological Society Congresses (於 京都大学2010.9.12-9.18)において, 発表した(題目:(1) A Morphometric analysis of the Japanese macaque (Macaca fuscata) teeth from archaeological sites, Japan.(T. Anezaki, H. Hongo, N. Shigehara, M. Takai),(2) Size variations of the Japanese macaque molars discovered from the Late Pleistocene to Holocene. (Y. Nishioka, M. Takai, T. Anezaki)).



A-3現生および化石コロブス類における進化形態学的研究

小薮大輔(東京大・院・理)

対応者:?井正成

コロブス亜科霊長類の顔面頭蓋には顕著な種間形態変異が存在することが知られてきたが, その形態学的多様性の適応的意義は十分に解明されてこなかった. 一方, 近年の生態学的研究の進展によってコロブス亜科の食性は種間で顕著に変異することが明らかになってきた. そこで,我々はコロブス亜科の顔面頭蓋における形態変異と食性変異のパターンを検討し, 形態変異は食性に対する適応進化を反映するかを検証した. 接触型三次元形状デジタイザーを用いて取得されたデータから各種の頭骨の三次元モデルを構築し, 幾何学的形態測定法を用いて, 霊長類において頭骨が系統発生学的, 進化生態学的文脈のなかでどのように多様化してきたのかを定量的に記述しつつある. さらに, 機能形態学的な観点からコロブス亜科およびテナガザル科の三次元的咀嚼運動および咀嚼力の種間変異を定量的に解析し, 系統発生学的な拘束によるパターンと食性変異(果実食性, 若葉食性, 成熟葉食性, 種子食性, 雑食性)によるパターンを議論した論文の執筆が進行中である. また, 現生コロブス類における食性と形態の対応パターンを元に, 神奈川県から発見されたKawagawapithecusの頭骨化石の食性推定解析を開始した. さらに, アフリカでの野外調査に基づくオナガザル類の食物硬度の定量化を進めた.



(学会発表)

小薮大輔(東京大・院・理),遠藤秀紀(東京大・総合研究博),古市剛史(京都大・霊長研),橋本千絵(京都大・霊長研),田代靖子(林原・類人猿センター), 郷もえ(京都大・霊長研),五百部裕(椙山女子大・人間関係)

「カリンズ森林の同所的グエノン類3種の採食物の堅さと頭部形態分化」

進化人類分化会およびヒト科共通祖先ワークショップ, キャンパスプラザ京都, 2010年6月, 口頭.



A-4霊長類の踵骨及び距骨における個体発生

城ヶ原ゆう(岡山理大・院・総合情報)

対応者:高井正成

霊長類の化石の系統解析には主に歯が使用されてきたが, 現在では歯に加えて踵骨及び距骨も分類に使用され始めている. しかし, 歯では相同形質の検証等のため個体発生の研究が多数行われている一方, 踵骨及び距骨については分類形質の相同性など未だ未検証である. 本研究では現在使用されている踵骨及び距骨の分類形質を, 現生の旧世界ザルの踵骨及び距骨の個体発生を観察し再評価することを目的とした.

旧世界ザルを観察した結果, 幼体の段階では分類形質がほとんど観察できず, 成体になるまでに分類形質は段階的に出現することが明らかとなった. また, その出現の順序から派生形質を決定した結果, 外群比較によって現在設定されている分類形質5つのうち3つ, 前・中距骨関節面, 後距骨関節面及び距骨内果面の形質については, 外群比較による形質極性の設定を支持する結果を得た. しかし, 長母指屈筋溝及び外果面については, 外群比較による形質極性の設定とは異なる結果を得た. 現在, より詳細な分析を行っている.

踵骨及び距骨の外群比較によって設定された分類形質は数が少なく, また踵骨と距骨だけで系統解析を行なった報告例はない. そのため, 踵骨と距骨だけで分類が可能かを, 新たな形質を設定し, 検証を行っている.さらに今後は, それらの分類形質についても個体発生の観察を行い, 形質の極性を明らかにしていく.



A-7中国広西から産出した前期更新世マカクの全身骨格化石の比較解剖学と機能解剖学的研究

張 穎奇(中国科学院古脊椎動物・古人類研究所)

対応者:高井正成(霊長研)

本研究では広西壮族自治区で見つかった前期更新世のマカク全身骨格化石標本を日本の京都大学霊長類研究所に保管されている現生霊長類の骨格標本と比較観察することにより同定・記載する.

2010年8月から9月にかけて3週間犬山に滞在し, 霊長類研究所に保管されているマカク類の骨格標本を観察・計測した. 具体的には, M. fuscata (15頭), M. assamensis (10頭), M. arctoides (6頭), M. thibetana (3頭), M. cyclopis (11頭), M. mulatta (16頭), M. radiata (4頭), M. fascicularis (3頭) などの骨格を計測した. 分岐分析による系統解析に用いるために,特に四肢骨の長さや幅, 抽出可能な特徴の有無を調べた. また重要な部位に関しては,写真撮影を行った.

こういった現生標本の観察・計測データを用いて, 中国広西省崇左で見つかったマカク全身骨格の同定・記載した. この研究はまだ進行中なので, もうすぐ論文化する.

(学会発表)

2010年第23回国際霊長類学会プレコングレスNew material of macaque monkeys from the Early Pleistocene Queque Cave site, Chongzuo, Guangxi, China. ZHANG Ying-Qi, JIN Chang-Zhu, TAKAI Masanaru



A-8オナガザル族の聴覚器官の機能形態学的進化に関する研究

矢野航(京都大・理・自然人類)

対応者:西村剛

本研究で, 樹上性・地上性オナガザル族間で異なる外耳の形態学的変異を同定した. この結果は適応放散を遂げたオナガザル族霊長類が, 生態に適応した耳介形態を獲得した可能性を示唆している. 研究では, 京都大学霊長類研究所(以下PRI)所蔵の頭部液浸標本を, 同研究所のCTスキャナを用いて撮像した. 体サイズが同格の地上性, 樹上性のオナガザル族霊長類を用いた. 地上性ではサバンナモンキー, パタスモンキー計6体, 樹上性ではダイアナモンキー, アカオザル, ショウハナジログエノン, タラポワン計8体を用いた. PRI所蔵のCTscannerにより撮影された液浸標本頭部の連続断層画像から, 耳介の3次元形状サーフィスモデルを再構成した.得られたモデル上で点の相同特徴点を獲得し, これに基づいた標本間の形態変異を幾何学的形態測定学的手法を用いて ,統計分析が可能となる多次元数理空間に写像した. 空間内での, 2群のバラつきの違いを検定にかけた所, 地上性, 樹上性オナガザル族が第5主成分軸において有意に異なることが分かった. 地上と樹上では, 音の吸収や反響など音響学的環境や, 捕食者や同種個体の空間的相対位置が大きく異なることから, 異なる音声シグナルの利用とそのための聴覚器官の適応がおこったと考えられる.



A-9オナガザル亜科の下顎骨外側面にみられる隆起の加齢変化

近藤信太郎(愛知学院大・歯・解剖)

対応者:高井正成

旧世界ザルの下顎骨外側面に見られる隆起の加齢変化を検討するため, ニホンザルの下顎骨を調査した. この隆起は触診によってのみ存在が確認できるものから明らかな隆起が肉眼で確認できるものまで様々な発達程度を示す. 乳歯列期あるいは第一大臼歯萌出期において, 触診で隆起を認めた個体が存在したが, CT画像によって確認したところ, 隆起に相当する部位には第二大臼歯の歯胚が存在した. 第三大臼歯萌出開始後の個体で外斜線に連続する下顎体に肉眼的に隆起を認めた. この個体をCT画像によって確認したところ, 隆起部の緻密骨は厚くなっていた. 以上の結果から, 少なくとも第三大臼歯が萌出する前には隆起は出現しなかったといえる. 肉眼的に明瞭な隆起の見られた個体は第三大臼歯の咬耗がかなり激しくなっているものが多く, この隆起は下顎骨の機能, すなわち咬合と関連していることが示唆された. 下顎体の中央には隆起ではなく, くぼみが見られることがある (mandibular fossa). このくぼみも幼若齢の個体には見られず, 加齢変化と考えられる. しかし, ニホンザルではくぼみの明瞭な個体は少数であった. そこで, くぼみが明瞭に認められるマントヒヒの下顎骨を観察した. くぼみは少なくとも永久歯列にならないと出現せず, くぼみは咬耗の進んだ個体ほどくぼみが深くなる傾向が認められた. 以上から, 霊長類の下顎骨に見られる隆起とくぼみは加齢的な変化と考えることができる.

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(2) 自由研究

B-1マカクにおける尾長と仙骨、尾椎形態の相関

東島沙弥佳 (京大・院・自然人類)

対応者:濱田穣

和歌山県で捕獲されたニホンザル (Macaca fuscata) とタイワンザル (M. cyclopis) の交雑個体を用いて, 尾長を強く反映する仙尾部骨格形態の探索, および, それらを用いた定量的尾長推定法の確立を行った. 結果, 仙尾部に設けた20の項目のうち, 最終仙椎における3つの計測値 (最終仙椎横突起長, 仙骨尾側関節面矢状径, 下関節突起間幅) が最もよく尾長を反映することが判明した. また, これらの計測値を用いて重回帰分析を行い, 定量的尾長推定モデルを複数得た. これに, 他のマカク種およびマカク以外の狭鼻猿種, 合計15種を当てはめ, 有用性を検討したところ, 交雑個体の尾長変異内であればマカク種以外であっても, これらの式を用いて定量的尾長推定が可能であった. 交雑個体における尾長の変異 (約101 - 470 mm) とは, 狭鼻猿種における尾長短縮・喪失を検討するうえで最重要であるにも関わらず, 従来の尾長推定研究では細分できなかった変異幅であり, 本研究は将来狭鼻猿種における尾長短縮過程を推察する上で, 大変重要な結果を生んだ.

また, 本研究の結果について, 第80回アメリカ形質人類学会にて, 発表を行った.

Tojima S, Yano W, Nakatsukasa M. 2011. Tail length estimation in macaques from sacro-caudal skeletal morphology. Am J Phys Anthropol 144. Suppl. 52: 295.



B-2ニホンザルのアメーバ感染に関する疫学研究

橘 裕司(東海大・医),小林正規(慶応大・医)

対応者:平井啓久, 辻大和

最近, 赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)とは異なる病原アメーバE. nuttalliが,サル類から見つかっている. 本研究では, ニホンザルにおける腸管寄生アメーバの感染実態を明らかにすることを目的とした.

宮城県石巻市の金華山において, 野生ニホンザルの糞便29検体を採取した. 直接鏡検では, 16検体(55%)からサル固有の非病原アメーバE. chattoniと思われる1核のアメーバシストが検出されたが, 4核や8核のアメーバシストは検出されなかった. そこで, 糞便検体について集シストを試みた後, DNAを抽出した. そして,赤痢アメーバ, E. dispar  E. nuttalli, E. chattoni, 大腸アメーバ(E. coli)にそれぞれ特異的なプライマーを用い, PCR法による腸管寄生アメーバの検出同定を行った. その結果, E. chattoniは26検体(90%)から検出された. しかし, その他の4種類のアメーバは全く検出されなかった. また, 糞便培養により増殖した栄養型虫体について, 検査キットを用いて赤痢アメーバ抗原の検出を試みたが, すべて陰性であった.

以上の結果から, 金華山のニホンザルに感染している腸管寄生アメーバはE. chattoniのみであると考えられた. これまでに実施した国内の他地域に分布するニホンザルの調査でもE. chattoni感染は高率に認められたが, 他種のアメーバも同時に検出されることが多く, 金華山のニホンザルは腸管アメーバに関して異なる寄生虫相を有していると考えられた. 今後, 更に国内における調査地域を広げたい.



B-3 HIV感染抵抗性を規定するアカゲザル因子の解析

中山英美,塩田達雄,河野健(大阪大・微生物病研究所)

対応者:明里宏文

本研究は, 旧世界サルの抗レトロウイルス因子TRIM5?の多型の種類と頻度を明らかにし, エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染サル動物モデルを作成することを目的とした.

 本研究期間中, インド産アカゲザル12頭のTRIM5?遺伝子を解析し, 2アミノ酸欠失型染色体が9本(37.5%), TRIM-Cyp融合遺伝子を持つ染色体が2本(8.3%)存在することを明らかにした. この多型の頻度は,我々が以前解析したミャンマー産アカゲザルにおける頻度(2アミノ酸欠失型45%, TRIM5-Cyp型10%)と同程度であった. また, カニクイザルについて野生型のTRIM5?遺伝子のホモ接合の3個体と, TRIM-Cypのホモ接合の3個体から末梢血単核細胞を分離して, これらの細胞におけるHIV-1とサル指向性HIV-1の増殖能を検討した. その結果, HIV-1はどのサル細胞でも全く増殖しなかったが, サル指向性HIV-1は増殖し, 特にTRIM-Cypのホモ個体より得られた細胞で非常に良く増殖し, TRIM5の遺伝子型によりサルのサル指向性HIV-1感受性が大きく異なることが示唆された. 本研究はHIV-1の宿主指向性解明に向けて貴重な知見であると考えられた.



B-4ニホンザル新生児における視覚刺激におけるストレス緩和効果

川上清文(聖心女子大・心理)

川上文人(東工大・社会理工学研究科)

対応者:友永雅己

筆者らはニホンザル新生児が採血を受ける場面に、ホワイトノイズやラベンダー臭を呈示するとストレスが緩和されることを明らかにした(Kawakami,Tomonaga,&Suzuki,Primates,2004,43,73-85;川上・友永・鈴木、人間環境学研究、2009、7、89-93). 本研究では、その知見を広げるために、視覚刺激を呈示してみる.まず、オトナ・ニホンザルの顔写真を使うことにした.

本年度はメス2頭・オス2頭のデータが得られた。第1回目の実験日が平均生後7日(平均体重463.5g)、第2回目は生後16日(平均体重564.0g)であった. 視覚刺激を呈示した条件と顔写真をランダム・ドットにした統制条件を比べた. 行動評定の結果では、顔呈示効果はみられなかった.


B-5サル採餌下におけるシカの採食行動および採食競合

揚妻直樹(北海道大・和歌山研究林)・揚妻-柳原芳美(日本哺乳類学会会員)

対応者:半谷吾郎

屋久島西部の低地林では, 樹上採食中のサルの下でシカが集団で採食することがある. シカにとってサルの下で採食するメリットは,樹上の資源を獲得できること, そして, 時としてその資源が大量にもたらされるため,採食効率が向上することが考えられる. その反面, シカが狭い範囲に集まるため, シカ同士の攻撃的交渉も増加すると予測される. そこで, 本研究ではサル採餌下において, シカの採食効率を左右すると考えられる, シカ個体間の攻撃的交渉を調査した. 2009年7月から2010年6月に, 樹上採食中のサルの下に集まった複数のシカの行動を観察した. その際, サルが餌資源を落とし得る範囲を一つの食物パッチとした.

 パッチ内で採食中のシカを合計約24時間観察したところ, 社会的交渉は175回見られ, このうち攻撃的交渉は158回で9割以上を占めた. パッチ滞在1時間あたりの攻撃回数をオスの齢クラスで比較すると, 角が3尖以上のオス(約5歳以上)が5.6回と最多で,次いで2尖オス(約4歳)3.4回, 1尖オス(約3歳)0回だった. 逆に攻撃を受けた回数は1尖オス7.4回, 2尖オス4.5回, 3尖以上で2.6回であった. 齢クラスが上がるほど優位に振舞う傾向があった. なお,1 -2歳オスの攻撃回数は1.2回, 被攻撃回数は1.5回と攻撃的交渉への関与自体が少なかった. 一方, オトナメスの攻撃回数は3.4回, 被攻撃回数は4.1回と2尖オスと似た傾向となったが,攻撃する対象はメスと1尖オスに限定されていた. また, 1-2歳メスの被攻撃回数は8.6回と全属性の中で最も多く, 逆に他個体を攻撃することはなかった.



B-6大型類人猿の上顎犬歯舌側面形態

山田博之(愛院大・歯・解剖)

対応者:濱田穣

Pongo pygmaeus, Gorilla gorilla, Pan troglodytes, Pan paniscus の4種について上顎犬歯舌側面形態を調査した. オスでは近遠心のshoulderは歯頚近くに位置し, 概形は2等辺三角形を呈す. 近心切縁縦溝はPongoとGorillaで発達がよいがPanの2種では中程度から軽度で, 歯頚隆線によって遮断される.Pongoは不規則な皺(細かな隆線と溝)が多いが, Gorilla は隆線と溝が比較的はっきり現われる.Panの2種では2〜3本の隆線が規則的に縦走する. メスの近遠心shoulderも歯頚近くにあるが, 尖頭が低いため概形は正三角形に近い. 歯頚隆線の発達は良く, とくにPongo pygmaeusで顕著である. 近心切縁縦溝は弱く, 歯頚隆線で遮断されている. PongoとGorillaは発達の良い太い隆線が走行し, その程度はPongo pygmaeusで強い. Panの2種では2〜3本の隆線が走行するが, P. troglodytesは境界が不明なことが多い. P. paniscusでは比較的はっきりしている. 単雄群のPongoとGorilla, 複雄群のPanの2種はともに果実食性であるが, 舌側面形態には4種とも違いがみられた.



B-7霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波宏之(新潟大・脳研・分子神経生物),水野誠(新潟大・超域研究機構),難波寿明(新潟大・脳研)

対応者:中村克樹

ヒトの精神疾患の原因のひとつとして, 胎児や新生児期における上皮成長因子などの末梢の神経栄養活性を有する炎症性サイトカイン誘導が仮説されている. 従来のげっ歯類を用いた研究では,新生仔の皮下に上皮成長因子(EGF)などのドーパミン神経に対する栄養因子末梢に投与することで, 認知行動異常が成熟後に誘発されることが知られている. しかし, この実験結果がヒトを含む霊長類にも適用できうるか, 疑問も多い.加えて精神疾患,特に統合失調症は, ヒトにおけるいまだ未解決の精神病で社会行動, 認知行動の障害を主症状として呈するため, げっ歯類での行動変化から推定するにはおおきなギャップが有る. このようなヒトにおける脳の高次機能が障害される精神病は, 動物の認知行動変化をもとに定義されるものであり, とくにヒトに近い動物(霊長類)でしか再現できない可能性が有る. その意味でマーモセットは成長が早く, 社会行動性の高い霊長類であり, 理想的な実験動物である. そこで貴研究所にて新生児マーモセットへの当該神経栄養因子(EGF)の投与を行いその認知行動発達への影響を評価する研究を実施した.

妊娠中のマーモセット母親はオス2匹, メス1匹を出産した. 新生オス2匹に対して生後6日から投与実験を開始した. 1匹と実験群, もう一匹を対照群に割り当てた. EGFもしくは生理食塩水を0.3mg/kg体重(0.1ml)容量で1日1回, 10日間の皮下投与(計10回投与)を計画した. 投与期間中は, 毎日体重を計測し健康状態をモニターしたところ, 生後13日目に体重低下を示したので, 一週間の休薬を行い, 残り3回の投与を再開し, 完了させた. 現在では実験群マーモセットの体重は, 追いついていて, 対照群と大きな差異はない. 一般行動観察においても, 特段の異常行動は見られていないものの, げっ歯類・カニクイザルでの投与実験では性成熟後に行動異常が見られることから, 注意深く観察を続けている. 今後, 行動指標の定量化を行い, EGFと認知行動発達の関連を検証したい.



B-8ニホンザルのアカンボウにおける採食行動の地域間比較―屋久島と下北半島

谷口晴香(京都大・院・理)

対応者:半谷吾郎

本年度は, 屋久島において野生ニホンザルのアカンボウの吸乳を含む採食行動について, 10月〜3月に母子4組を対象に母子同時個体追跡を行いデータを収集した. そして, 2008年度に下北で同様の手法により収集したデータと比較し, 生息環境によってアカンボウの採食行動に違いがあるかを検討した. データは現在解析中であるが, 同月齢のアカンボウを比較することにより概ね以下の傾向がみてとれた. 母親の乳首への接触時間は下北に比べ短かった. 一方で, 採食時間に両地域間で差はなかった. また両地域で母子間の食物選択性に違いが認められ, 例えば, 屋久島では母親が昆虫を, 子が果実を, 下北では母親が樹皮を, 子が冬芽を採食する場面がよく観察された. 屋久島のアカンボウは母親が採食を始めると, 母親の食物品目に関わらず母親から離れ, アカンボウ同士で集まり採食を行う傾向にあった. 一方, 下北のアカンボウは母親の食物品目によっては母親の傍で採食を続けていた.屋久島は下北と比較して冬季に利用できる食物品目が豊富で, 温暖で積雪がないため, 離乳が早く, 母親への依存が弱い可能性がある.



B-9チンパンジーの顔知覚における文脈効果の検討

後藤和宏(京都大・生命科学系キャリアパス形成ユニット)

対応者:友永雅己

本研究では, チンパンジーが顔を構成する目や口などの部分として知覚しているか, それらを顔という文脈との組み合わせから生じる創発的な全体性として知覚しているかを検討した. チンパンジーは,0秒遅延見本合わせ手続きを用いて, 文脈なし・ありの2条件で目と口の弁別を訓練された. 文脈なし条件では, 個体AもしくはBの目および口だけを見本刺激として呈示し,比較刺激のうちから見本刺激と同じものを選択することが強化された. 文脈あり条件では, 個体AもしくはBの目および口を個体Cの顔に配置したものを見本刺激とし, 比較刺激のうち, 見本刺激と同じものを選択することが強化された. もしチンパンジーが顔を構成要素の組み合わせから生じる創発的な全体性を知覚するのであれば, 文脈あり条件で, 正答率が高くなることが予測される. チンパンジーは, この課題手続きでは目や口といった要素の弁別が困難であることが明らかとなった. ただし, 顔文脈なし条件よりも文脈あり条件で,正答率が高かったことから, チンパンジーが顔を特定の要素と文脈の組み合わせから生じる創発的な全体性としては知覚していないことが示唆された.



B-10チャイロキツネザルの葉食増加と周日行性活動パターンの関係:葉の栄養分析からの考察

佐藤宏樹(京都大・アフリカ研)

対応者:半谷吾郎

マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園の熱帯乾燥林に生息するチャイロキツネザルは, 雨季は主に昼行性で, 乾季になると昼も夜も活動することが知られている(周日行性). 野外観察によって採食パターンを調べたところ, 雨季と乾季前半は日中に主に果実を採食したが, 乾季後半になると, 日中は, Lissochilus rutenbergii(ラン科)の草本をしがんで組織液を舐め取る行動が採食時間の大部分を占め, 果実の採食時間が他の季節より少なくなった. しかし, 夜間はこの葉を全く利用されず, 果実を中心に採食した. フェノロジー調査によると, この時期の果実資源量は雨季より多い. そこで本研究では, 季節的な葉食増加の意義を探るため, L. rutenbergiiを含む餌資源となる葉10種の栄養分析を行った. L. rutenbergiiは他の葉よりもタンパク質が少なく繊維が多いため低品質である. しかし, 湿重量で83.4%の水分を含んでいたため, 優れた水分資源といえる(他の葉は40-55%). これらの結果から, チャイロキツネザルは乾季後半の暑い日中に水分摂取のためにL. rutenbergiiを長時間利用し, 夜間はエネルギー摂取のために果実を採食することが示唆された. この考察は,乾季にみられるチャイロキツネザルの周日行性の適応意義を説明する仮説となる. 今後は, 果実資源のサンプルも採取し, 栄養分析を行うことで, この仮説の検証を進めていきたい.

(学会発表)

Hiroki Sato (2010) Behavioral Thermoregulation against the Diurnal Heat Stress under Water Scarcity in Common Brown Lemurs. International Primatological Society XXIII Congress Kyoto. (IPS Student Award for Outstanding Poster Presentations)

佐藤宏樹 (2011) マダガスカル熱帯乾燥林におけるチャイロキツネザルの周日行性:なぜ昼も夜も活動するのか? 第58回日本生態学会.ポスター発表.

(論文)

Hiroki SATO (2011) The Foraging Strategy of Common Brown Lemurs and the Importance as Seed Dispersers in a Dry Deciduous Forest in Northwestern Madagascar. Ph. D. Dissertation: Kyoto University, Kyoto.



B-11チンパンジーの描画行動に関する研究

齋藤亜矢(東京芸大・映像)

対応者:林美里

描画行動の認知的な基盤とその進化的な起源を明らかにするため, 霊長類研究所のチンパンジーとヒト幼児約30名を対象に比較認知科学的研究を継続している. チンパンジーが具体的な物の形(表象)を描かないことから, 表象描画の起源に焦点をあてており, 刺激図形を用いた課題場面の設定により, なぐりがきから表象描画への移行期のヒト幼児と比較することで, 描画行動の解析をおこなってきた. 当年度は, この移行期のヒト幼児が顔などの表象を倒立や横向きで描く回転描画についての研究を中心にデータを収集し, 回転描画が出現しやすい時期や条件を検証した. また, 客観的な解析がしにくい描線をより詳細に解析するため, 液晶タブレットPC用の描画記録ソフトと描画刺激を準備するとともに, それらの描線記録と連動して視線データを収集するためのアイトラッカー用の記録ソフトの開発もすすめた. また, これまでに共同利用研究でおこなってきたチンパンジーとヒト幼児の描画比較研究について心理学評論に論文が掲載されるとともに, 認知心理学会, 映像心理学会, International Primatological Society等で講演をおこなった.



B-12アカゲザルの中枢神経系におけるタキキニン受容体発現の検討

鈴木秀典,永野昌俊(日本医科大・薬理学)

対応者:大石高生

タキキニン作動性神経系は両生類から霊長類まで種を超えて広く存在し, 情動, 記憶, 運動制御など多様な中枢神経機能を修飾すると考えられているが,霊長類における本神経系については十分明らかにされていない. 昨年度までの共同研究において,タキキニン受容体の1つであるNK-2のmRNA発現を検討し, アカゲサル視床を主として中枢神経系において広く発現がみられることを確認した. 今年度はタンパクレベルのNK-2発現を検討した. 4歳オスアカゲサルから脳組織を部位別に採取し, 凍結薄切標本を作製し, オートラジオグラフィーにて標識NK-2リガンドの結合を観察した. コントロールとして高いNK-2タンパク発現が報告されている腸管を用いた. 腸管においては標識NK-2リガンドの高い集積を認めた. 一方, 脳組織のいずれの領域においても高いバックグランドが観察され, 発現が予想された部位での明らかな特異的リガンド集積は認められなかった. 標識リガンドの選択, 測定方法の変更および脳特異的受容体サブタイプの存在等について今後検討する必要があると考える.



B-13マーモセットにおける養育個体のオキシトシン濃度

齋藤慈子(東京大・院・総合文化)

対応者:中村克樹

近年, 神経ペプチドの一つであるオキシトシンと社会性に関する研究がげっ歯類で盛んにおこなわれている. オキシトシンは, 親行動・個体の再認・配偶者への選好など, 社会性の第一歩と考えられる認知・行動に関わっていることがわかっており, ヒトを対象とした研究も盛んとなっている. しかし, いまだヒト以外の霊長類における社会行動とオキシトシンの関係についての研究は数が少ない. そこで,本研究では,家族で群を形成し,協同繁殖をおこなうという特徴があるコモンマーモセットを対象に, 母親だけでなく父親のオキシトシン濃度が, 妊娠・出産・養育行動によりどのように変化するかを調べることを目的とした.

 本年度は, 市販のオキシトシン測定用EIAキットを用い, マーモセット尿中のオキシトシン濃度測定系を立ち上げ,その妥当性を検討した. 次に乳幼児がいる母親個体と単独飼育メス個体から採尿し, 尿中のオキシトシン量を比較したが, 群間に差はみられなかった. 現在, 出産前後でオキシトシン量に変化がみられるかを検討するために, 妊娠中〜出産後の繁殖ペアより採尿をおこないオキシトシン量の測定をおこなっている.



B-14哺乳類心臓を制御する神経系の比較解剖学的解析

川島友和(東京女子医大・医・解剖)

対応者:國松豊

私はこれまで, 心臓を制御する自律神経系に関して,新世界ザル, 旧世界ザル, テナガザル, ならびにヒトを対象として解析を行ってきた. これらは, ヒト臨床において, 例えば心臓外科における機能温存術式の再評価と改良に向けての意義を有するばかりでなく, これまでの主にラット, マウス, イヌなどを利用した動物機能実験をヒトへ応用する際の翻訳過程において重要な意義も有している. さらには, 機能的要請を受けて変化した一般の体性構造とは異なり, 自律神経系が進化形態学的な特徴を有しているか, もしくは否かということに関心をもっている.

 そこで, 今年度の共同利用においては, これまで解析をおこなっていないエリマキキツネザル1体とさらに正確な傾向を把握する事を目的として, チンパンジー1体の詳細な解析を実施した. これら2種の霊長類は, 過去の心臓自律神経系の研究史においては記載済みではあるが, いずれも1例ずつの報告であり, variationの多い自律神経系において一般形態を示しているのかどうかは不明であるため, われわれのこれまでの報告のように多種多数の個体数を用いて今後さらなる解析を行う予定である.

 なお, 今年度はわれわれの曲鼻猿の解析の中で,ロリス科とガラゴ科の心臓自律神経系において結論に至った為, 論文として出版を行った (Kawashima and Thorington. 2011. Comparative morphological configuration of the cardiac nervous system in lorises and galagos (Infraorder Lorisiformes, Strepsirrhini, Primates) with evolutionary perspective. Anat Rec 294: 412-426).



B-16群間比較による群れの個体数の増加と遊動域の関係の解析

松岡史朗,中山裕理(下北半島のサル調査会)

対応者:渡邊邦夫

下北半島脇野沢A-87群(山の群れ)とA2-85群(民家周辺の群れ)の個体数は依然増加傾向にあり, 出産率はそれぞれ30%と50%であった.1997〜2006年,2006〜2010年で比較したところA -87群では個体数はどちらも1.8倍,遊動面積は1.1倍, 1.6倍であった. A-85群は,個体数は2倍, 1倍('09年に21頭捕獲のため), 遊動域は, 2.4倍, 1.2倍に増加した.

 どちらの群れも個体数の増加に伴い遊動域を拡大したが, A-87群は,遊動面積の増加率がA2-85群に比べて低かった. これは西, 南側に海, 東, 北側に他群と接しているのに対し, A2-85群の東側は, 空白地であることの影響と考えられる. A-87群では個体数密度が高くなったが,そのことによって, 採食品目に変化は見られなかった. この地域の群れは,環境収容量にゆとりを持った遊動域を持っており, 隣接群の存在により遊動域を拡大できなくなっても, 個体数の増加は, すぐには止まらないであろうと考えられる.



B-17ニホンザルにおけるT細胞リンパ腫の病因学的検討

柳井徳磨, 平田暁大(岐阜大), 江口克之(長崎大学)

対応者 鈴木樹理

霊研で維持されているニホンザルの実験および繁殖群に認められたT細胞性リンパ腫(白血病)の1例の腫瘍病理学的特徴について既に症例報告した(2009-C-6).今回, 本例について種々の免疫マーカーおよびEBウイルス遺伝子の検索を行い, 病因学的な検討を行った.

症例は雌の成獣で, 肉眼的に脾腫およびリンパ節の高度な腫大を示し, 組織学的に, 脾臓では白脾髄を中心にリンパ球様腫瘍細胞が高度な浸潤増殖を示した. 今回, 本例について腫瘍細胞を種々の免疫マーカーで染色したところ, CD3, CD56 および CD30 に陽性を示し, CD5, CD8,CD20, CD25, CD68 および CD79a に陰性を示したことから, 本腫瘍は NK/T 細胞に起源することが推測された. さらに腫瘍についてEBウイルス遺伝子を in Situハイブリダイゼーション法で検索したところ, 大型の腫瘍細胞にEBウイルス遺伝子の豊富な発現が認められたことから, EBウイルス関連のT細胞リンパ腫が疑われた. ニホンザルにおけるEBウイルス関連T細胞リンパ腫は今までにほとんど報告がない. 



B-18ニホンザル・アカゲザルを用いた新規歯髄再生療法の確立

筒井健夫,肖 黎(日本歯大)

対応者:鈴木樹理

平成22年度に予定していたサンプリングが, ニホンザル血小板減少症のため計画通り行えなかったので改めて平成23年度から研究を推進する. 平成22年度における研究成果は, ニホンザルとアカゲザルの下顎骨を採取し, 外観の写真撮影とX線撮影より, 歯髄の採取および再生を行うため適正部位の検討を行った. 得られたサンプルはニホンザル1例とアカゲザル1例で, 年齢はニホンザルは10歳, アカゲザルは11歳であり, 双方雄であった. 外観写真より, 歯髄の採取および再生療法をアプローチするには, 小臼歯部位が適切であることがわかった. また, X線写真より, 歯髄腔の大きさ, 歯根の形態が詳細に観察された. 得られた2体の左右下顎骨には, それぞれ前歯2本, 犬歯1本, 小臼歯2本および大臼歯が3本あり, 歯根は前歯と犬歯は1本, 小臼歯と大臼歯は2本確認された. ヒトに比べ, ニホンザルとアカゲザルでは, 歯冠歯根比で, 歯根の割合が長いことがわかった. 歯髄を採取するにあたり第ニ小臼歯が適切であることが外観写真とX線写真からわかり, 検討を行っている.また, 歯髄の再生を行う部位は上顎との咬合も考慮し, さらに検討を進めている.



B-19マカク毛色遺伝子の構造解析

山本博章(長浜バイオ大), 片平絵美子, 岩渕由希, 穂積大貴 (東北大・院・生命科学), 西原大輔 (東北大・院・生命科学&長浜バイオ大),

対応者:川本芳

本計画は, マカク野生集団が示す毛色の遺伝子基盤を明らかにすることを第一義的な目的とし, 種内, 種間の変異解析から, 当該サル類の多様性と進化について理解を深めることを長期的な目標とした. 年々増加傾向にあるマウス毛色関連遺伝子座の記載は400座近くになり, その内すでに塩基配列レベルで同定されているのは150余りに上る. これらの情報を利用して, 当該情報の少ないニホンザルオルソログの解析を進めることにした. 前年度末に調製した皮膚cDNAライブラリーを用いて, そのベクター配列と目的とするcDNA内部の配列に設計したプライマーの組み合わせで増幅を試みた. 各cDNA配列内に作成したプライマーは, 他種のマカクやヒトまた場合によってはマウスの配列を基に設計した. これまで約10遺伝子座に対応する配列を取得すべく解析を重ねてきたが, いまだに全長配列を得られないでいる. 各プライマーの位置, また小分けしたライブラリーの問題点, 等々その原因を探っている. いずれにしてもニホンザルcDNA配列は得られつつあるので, 今後も継続して解析を続ける予定である.



B-20ヒト幼児における社会的役割知識の獲得過程の検証

菅さやか (東洋大・社),唐沢穣 (名古屋大・環境)

対応者:松井智子

幼児の社会的役割に関する知識の理解と獲得過程に関する検証を行うため, 3歳と5歳のヒト幼児とその母親各20組を対象に調査を実施した. 調査では,既存の役割知識 (スキーマ、ステレオタイプ) に一致するイラストと, 一致しないイラストを親子で観察し, 各イラストに対して会話を行ってもらった. 親子の会話の様子から, 役割知識に一致しないイラストが出てきた場合には,母親は, 思わず笑ったり, 登場人物を指して「がんばって○○しているね」と言ったりすることが明らかになった. このような言語・非言語コミュニケーションを通して, 幼児は, 社会的役割知識を獲得している可能性があると考えられる.

 上記の調査に加えて, 幼児の言語理解能力と, 社会的役割知識獲得の関係を検証するために, 実験を実施した. 言語理解能力を測定する検査を実施し, その後, 役割知識の量を測定した. 言語理解能力を, 言語年齢に換算し, 役割知識の量との相関を検証した. その結果, 言語年齢と役割知識の量の間には, 正の相関が見られることが明らかになった. 役割知識の理解には,認知発達の中でも, とりわけ言語理解能力が重要であると考えられる. 今後, さらに詳細な検証が必要である.



B-21ニホンザル乳児における運動判断 ―絶対判断か相対判断か―

渡辺創太(京都大・院・文学)

対応者:友永雅己

単純図形を用いて, ニホンザル乳児が目標刺激の動きを判断する際,枠刺激の影響を受ける(相対判断)か受けない(絶対判断)かを分析した. 実験は慣化法を用いておこなった. 実験補助者に抱かれた子ザルに対し,前面に設置されたモニターを用いて2つの刺激セットを左右対呈示した. 刺激セットは目標刺激(青色の十字型刺激)と周囲刺激(白色の正方形枠刺激)から成り, それぞれが特定の動きを試行内連続して行なった. 目標刺激は左・右ないし左上・右下の水平ないし斜め方向, 周囲刺激は上・下方向の動きだった. 各個体2セッション行い, 各セッション, 連続5試行の慣化試行(左右同じ動き)の後, 連続2試行のテスト試行(左右それぞれが訓練時の動きと絶対的ないし相対的にのみ一致する運き)が行われた. 試行時間は各5秒間,試行間間隔は1秒間以上であった. 慣化試行中は周囲刺激は動かなかった. テスト試行での子ザルによる左右刺激に対しての注視時間を計測・比較した. 夏・秋2回の実施の予定であったが秋は中止となったため,夏に得られた9個体のデータを昨年度のデータに加え分析を行なった. 結果は, 統計的な有意差には至らないまでも絶対判断傾向が示唆されるものである. 今後, 実験を重ね個体数を増やす予定である.



B-22野生ニホンザルのワカモノオスの出自群離脱前後の生活史に関する長期追跡調査

島田将喜(帝京科学大・アニマルサイエンス学科)

対応者:半谷吾郎

金華山に生息する純野生ニホンザルのワカモノオスの行動や社会関係が, 出自群の群れオス, オスグループ, ヒトリオス, あるいは移籍先の群れオスなどと, 存在様式が変化してゆくに伴って, どのように変化するのかを明らかにするために, 2009年度から継続してきた,宮城県金華山に生息する純野生ニホンザルの群れ, 金華山A群出身のワカモノオスの追跡調査を実施した.

調査は, 10年度の春季,夏季,冬季に行われた.

イカロス(7歳)は09年夏以前にはA群内とその周辺のオスグループで確認されていたが, 09年秋以降10年秋までC2群の周辺のオスグループで断続的に確認されている. アシモ(7歳)は09年以降ずっとB1群の周辺のオスグループで確認され続けている. フミヤ(6歳)は09年夏以前にはA群内で確認されていたのが, 09年秋以降一時的にB1群の周辺のオスグループにいるのが観察されていたが, 10年夏以降,定着したようだ. すべてのワカモノ・コドモメスはA群内で確認された.

これまでの結果をみる限り, 金華山のオスの群れの移出は,早木(Hayaki, 1983)が模式的に表現したように, コドモのころから徐々に群れを出てゆく頻度を上げてゆき, 6−7歳にはオスグループに定着することで,出自群からの移出を完成するようだ. しかし, アシモ・フミヤがB1群, イカロスがC2群の周辺に定着したメカニズムが移籍の結果だけからは明らかではなく, これまでに得られた移籍途中における社会関係のデータを分析し, 検討を加える必要がある.



B-23哺乳類及び鳥類における脳の容量と最大幅の関係

河部壮一郎(東京大・院)

対応者:西村剛

これまでの研究により, 哺乳類及び鳥類における脳の容量は脳の最大幅と強い相関があることがわかってきた. しかし哺乳類においてはまだ限られた分類群に基づいての議論のみであり, 鳥類においては哺乳類と比べると広い分類群での議論がされているが, まだ網羅的に調べられてはいない. よって本研究では, 上述の相関が哺乳類及び鳥類において全般的に認められるものであるのか検証を行った. 特に哺乳類においては, 霊長類とその他の哺乳類とでその傾向が異なるのかどうかという点に主眼を置いた.

 霊長類(7科15属18種)を含む哺乳類(4目12属12種)及び鳥類の頭骨をCTでスキャンした. さらに, 得られた断層画像から三次元脳エンドキャストを作製した.次にそれらのモデルの容量及び脳の最大幅を計測し, さらに文献からのデータを含めたうえで回帰分析を行った. また霊長類とそれ以外の哺乳類, さらに哺乳類と鳥類との回帰直線が一致するかどうか調べた.

 霊長類を含む哺乳類及び鳥類共に, 脳容量と脳の最大幅の間に強い相関があるというこれまでの研究を支持する結果が得られた. また霊長類とその他の哺乳類の回帰直線における傾きと切片には有意な差は認められなかった. 一方,霊長類を含む哺乳類と鳥類の回帰直線の間には, 切片値が有意に異なるという結果が得られた.

 霊長類と他の哺乳類における, 脳容量と幅の回帰直線には有意差がないと認められたが, 本研究ではヒトのデータは含まれていない. 今後は本関係がヒトにおいても成り立つのか検証していく必要がある.



B-24カメラトラップ・足跡カウントによるニホンザル個体数・群れ数の推定手法の開発

江成広斗(宇都宮大・農・里山), 坂牧はるか(岩手大・院・連農)

対応者:渡邊邦夫

ニホンザルによる農業被害や生活被害の拡大に伴い,本種の個体群管理の必要性は高まっている一方で, 本種の個体数や群れ数を簡便にモニタリングするための手法開発は遅れている.本研究では, 足跡カウント法とホームレンジ法により生息数・群れ数が既知である青森県西目屋村の白神山地北道部に位置するブナ林内を対象に, カメラトラップ(無人撮影装置)計50台をランダムに設置し, 2010年5月から8月まで稼働させた. その結果, ニホンザルを含む野生動物は933枚撮影された. 撮影されたニホンザルの多くは, 頭数や性別等の判読が可能であり, 比較的容易に群れとハナレザルを区別することが可能であることが明らかとなった. また, 撮影頻度から, 地域間のニホンザルの群れ及びハナレザルの相対密度比較は可能であった. 一方で,撮影成功率や性別・頭数の識別率は, カバーとなる下層植生の状態に影響を受けることも考えられ, これらの要因を加味した推定手法の開発が今後の課題となる. 同様の調査は栃木県那須塩原市の百村山において2010年5月から実施しており, 今後も継続してデータを蓄積することで, 更なる手法の改善を検討したい.



B-25ボノボとチンパンジーの食物パッチ利用の比較研究

Mbangi Norbert Mulavwa(コンゴ民主共和国科学研究省・生態森林研究センター)

対応者:古市剛史

コンゴ民主共和国ルオー保護区のボノボと, ウガンダ共和国カリンズ森林保護区のチンパンジーを対象に, 食物パッチ(採食樹)内の果実量と遊動パーティのサイズ(個体数)が遊動パーティの食物パッチ内の滞在時間におよぼす影響を調べ, 両種のパーティが, 食物資源をどのように利用しながら遊動しているかを比較した. どちらの種においても, 果実量が多いほどその食物パッチに長時間滞在するという予想通りの結果が得られた. 一方, 個体数と滞在時間の関係では, 個体数が多いほど滞在時間が長くなるという, 予想とは反対の結果が得られた. これは,ボノボやチンパンジーが, 食物パッチ内の果実をある程度食べ尽くしながら遊動するという一般的なモデルを否定する結果である. このことから, パッチ内の果実量は遊動を規定する主要因とはなっておらず, 多くの個体が集まったときには, 毛づくろいや休息をはさんで長時間そこに滞在するなど, 社会的要因が滞在時間に影響していることが示唆された. 以上のように, ボノボでもチンパンジーでも, 各パラメーター間には類似の関係があったが, 多くの個体が集まったときにより長時間滞在するという傾向は, ボノボよりもチンパンジーの方で顕著に見られた. これは, 通常はより小さなパーティに分かれて遊動するチンパンジーにとって, 多くの個体が集まるという場面が特殊な意味をもち, より長く社会的交渉をもつためだと考えられた.



B-26霊長類の網膜黄斑に特異的に発現する遺伝子群の同定

古川貴久, 佐貫理佳子, 荒木章之((財)大阪バイオサイエンス研究所)

対応者:大石高生

ヒトを含めた霊長類の網膜は中心部に黄斑という錐体細胞の密度が高く, 視力に重要な構造を持つ. 我々は, 黄斑発生に関わる遺伝子群の同定を目的として, 周産期アカゲザルの網膜を黄斑部と周辺部に分けて採取し, それぞれの総RNAについてマイクロアレイを用いて遺伝子発現を比較した. そこで得られた候補遺伝子の中でも特にSREBP2に着目している. SREBP2は脂質代謝に関わる遺伝子群の発現を制御する転写因子であり, in situハイブリダイゼーションによってマウス網膜においても発生期視細胞に発現を認める. 昨年に引き続き, SREBP2の視細胞におけるドミナントネガティブ変異体につき解析中である.



B-27ヒト・チンパンジー間におけるエピゲノム・バリエーションの網羅的解析 

一柳健司, 佐々木裕之, 福田渓(九州大・生医研)

対応者:平井啓久

ヒトとチンパンジーのゲノム配列の違いは僅か1%程度だが,表現型には大きな違いがある. そこで, 両種間でのエピジェネティックな差を明らかにするため, 末梢白血球のDNAメチル化プロファイルを解析した. チンパンジーのサンプルは霊長類研究所の飼育個体から得た. ヒト21, 22番染色体のゲノムタイリングアレイを用いて比較解析したところ, 36カ所のメチル化差異領域 を同定した. これらの領域を詳しく解析したところ, 遺伝子発現と強い相関を示すものがあることが分かった. 例えば, MN1遺伝子のプロモーターの上流部はヒトでは高メチル化されているがチンパンジーでは低メチル化であったが, 遺伝子発現はヒトでは低く, チンパンジーで高かった. 一方,APP(アルツハイマー病関連遺伝子)の7番エクソンはヒトでは高メチル化し, チンパンジーでは低メチル化していたが, チンパンジーでは7番エキソンがスキップされ, ヒトでは7番エキソンは保持されており, DNAのメチル化が選択的スプライシングに影響を与えていることが分かった.

興味深いことに, NM1プロモーターのメチル化状態はアレル特異的に制御されており, アイ, アキラ, アユムの親子解析から, このアレル特異的なエピジェネティック・パターンが遺伝することを明らかにした. これはDNAの微小な差が大きな転写量の差として現れ, その過程にエピジェネティクスが関与していることを明らかにしたもので,霊長類で初めての事例である.



B-28ニホンザルの腸内滞留時間が糞内のヤマモモの種子親多様性に及ぼす影響

寺川眞理(京都大・理・動物学)

対応者:半谷吾郎

ニホンザルは結実木あたりの果実の採食量は多いが,糞には複数の結実木の種子が少しずつ混ざって入っていることが先行研究で示されている. 以上の結果から, サルは一度に多くの種子を運べるだけでなく, 多くの場所に少しずつ散布してくれる効果的な散布者であると予想される. サルの腸内滞留時間が長いことや同じ木で繰り返し採食するため, 野外観察だけで採食から排泄まで直接調べることは難しい. 本研究では,野生および飼育のサルを対象に, 採食から排泄までの過程を種子散布という観点から解明することを目的とした.

予備実験でPRI飼育下のサルにヤマモモの種子入のバナナを与えたら, 全ての種子を噛み割られ, 糞には出現しなかった. そこで2010年4月8日‐13日のRRSの実験ではプラスチックビーズ入のバナナを給餌した. 1日に3回, 4時間毎にバナナを給餌して, 2時間毎に糞の確認をし,糞からビーズを回収した. 2‐4日目は異なる色のビーズを1色づつ用い, それ以降は同色のビーズを繰り返して用いた. また, 夜間に糞をしないことを確認後, 20時以降5時半は糞採集をしなかった. 個体によるばらつきはあるが, ビーズは採食した翌日から少量ずつ, 3日以上いずれの糞からも出現し, 糞には複数の色のビーズが常に少量ずつ混在していた. 以上の結果より糞内のヤマモモの種子親多様性は種子の腸内滞留時間のばらつきで生じることが確認された.

2010年5月24日‐6月6日まで, 鹿児島県屋久島にて野生ニホンザルのE群の雌個体を連続追跡し, 糞の採集を長時間連続的に行なった. 現在, 糞内の種子をヤマモモのマイクロサテライトにより解析中である.

2010年6月にフランスモンペリエで開催された国際種子散布学会で口頭発表を行なった. 主な内容は, 先行研究の内容であるが, 本申請で4月にRRSで実施した給餌実験の結果についても内容に盛り込んだ. 本発表は学生と若手研究者対象の発表賞において, 口頭発表部門で3位の賞を頂くことができた.

(国際学会発表)

M. Terakawa, Y. Isagi, T. Yumoto (2010) Microsatellite analysis of seed dispersal of Myrica rubra by the Yakushima macaque (Macaca fuscata yakui) on Yakushima Island, Japan. The 5th International Symposium/Workshop on Frugivores and Seed Dispersal, Montpellier, France, 13-18 June 2010, oral

(賞罰)

David W. Snow Award 2010, Third Prize (oral), The 5th International Symposium/Workshop on Frugivores and Seed Dispersal, Montpellier, France, 13-18 June 2010



B-29コモンマーモセットを用いた緑内障性網膜・視覚中枢障害発症機序の解明

原英彰, 嶋澤雅光, 中村信介(岐阜薬科大・薬効解析学)

対応者:中村克樹

我が国において, 緑内障は中途失明原因の第一位を占める疾患である. しかしながら, 緑内障の発症および網膜障害進行の機序についてはほとんど解明されていない. これまでヒトの病態に類似した緑内障モデルとしてカニクイザル, アカゲザルなどの霊長類が使用されてきたが, それらは扱いが難しく飼育スペースをとるなどの課題があげられる. 一方, コモンマーモセットは繁殖効率が高く扱いやすい小型の霊長類である. そこで, 我々は緑内障性網膜・視覚中枢発症障害の機序解明を目的として, コモンマーモセットを用いて慢性高眼圧緑内障モデルの作製を試みた. ペントバルビタール麻酔下にコモンマーモセット2頭の左眼の前眼部線維柱帯にアルゴンレーザーを照射し, 眼房水の排出を抑制した. レーザー照射は2週間隔で2回に分けて照射した.眼圧はケタミン/メテドミジン併用麻酔下で眼圧計(トノペン)を用いて測定し, 眼底写真は手持ち式眼底カメラ(GENESIS-D)を用いて撮影した. レーザー照射4週後より持続的な眼圧上昇が観察された. さらに眼底所見より, レーザー照射9週後において高眼圧眼の視神経乳頭部の血管の明らかな収縮および浅い乳頭陥凹の拡大が観察された.

以上の結果から, 世界で初めてコモンマーモセットにおいて慢性高眼圧モデルを作製することに成功した.現在, その眼圧および眼底の経過を観察している.



B-30サル類の血液及び骨髄細胞の形態に関する研究

松本清司, 西尾綾子(信州大・ヒト環境)

対応者:宮部貴子

血球形態に関する研究の目的で, アカゲザルの血液(6頭)及び骨髄(胸骨,肋骨を1頭)サンプルを共同利用した. 血液はスピナー法,骨髄はサイトスピン法でそれぞれ塗抹標本を作製しメイグリューンワールドギムザ染色を施した. 特徴的な血球(末梢白血球は40細胞,骨髄細胞は150細胞)についてデジタル画像化し, 血球種ごとのサイズ, 染色性, 形状などの形態的特徴を解析した. 対象としたのは, 末梢血球では赤血球, 白血球, 血小板, 骨髄細胞では骨髄芽球, 前骨髄球 ,骨髄球, 後骨髄球, 成熟顆粒球, マクロファージ,形質細胞, 分裂期細胞, 巨核球および異常細胞についてである. アカゲザルの血球の特徴として, 大きさ及び顆粒球(好酸球,好中球,好塩基球)の特殊顆粒の形態が他の実験動物に比べてヒトに類似していること, 更に好中球の核は過分節の傾向を示すが, このことを含めて血球形態が全般的にカニクイザルと近似する等の成績が得られた.

以上,3年間にわたる共同研究を通してサル類の血液形態学的特徴をまとめ, マウス, ラット, ウサギ, イヌなど実験動物と比較し血液アトラスCD-サル編-を作製し公表した.(平成22年10月).



B-31広鼻猿類腰神経叢の観察

時田幸之輔(埼玉医科大・保健医療学部・理学療法)

対応者:毛利俊雄

2007〜2009年のカニクイザル, ニホンザル, チンパンジー腰神経叢の観察に引き続き, 今年度は広鼻猿類腰神経叢の観察として, リスザルとアカテタマリンの観察を行った. この内, リスザル腰神経叢について報告する. Th13:腹壁に進入し外側皮枝(RcL)を分枝し, 側腹壁の内腹斜筋(Oi)と腹横筋(Ta)の間(第2−3層間)を走行し, 腹直筋鞘に入る. 腹直筋(R)の後面から筋枝を与え, 筋を貫いて前皮枝(Rca)を分枝する. これは胴体に特徴的な標準的な肋間神経の経路といえる. L1: 腹壁に進入しRcLを分枝, 側腹壁の第2−3層間を走行し, 腹直筋鞘に入り, Rを貫いてRcaを分枝する. この経路も標準的な肋間神経の経路といえる. L2:L3への交通枝を分枝した後, 腹壁に進入しRcLを分枝. その後, 側腹壁の第2−3層間を走行し, 腹直筋鞘に入り, Rcaを分枝するという標準的な肋間神経の経路をとる. L3: 2枝に分枝する. 1枝はL2からの交通枝と吻合した後RcLを分枝し, 側腹壁の第2-3層間を走行し, 腹直筋鞘に入りRcaを分枝する. もう1枝は外側大腿皮神経(CFL)への交通枝を分枝した後, 陰部大腿神経となる. L4: CFLへの枝, 大腿神経(F)への枝, 閉鎖神経(O)への枝の3枝に分岐する. L5: Fへの枝, Oへの枝, 坐骨神経への枝3枝に分岐する(分岐神経). 以上より, リスザル腰神経叢では, L2+L3まで標準的な肋間神経と同様な経路を走ることがわかった. このことは, リスザルの体幹の領域はヒトよりも下位分節まで広がっていると言える. 腰椎の数の違いとの関連があるではないかと考えている. 本研究の一部は第27回日本霊長類学会大会にて発表予定である.



B-32 RNAを基点とした霊長類のエピジェネティクス

今村拓也(京都大・院・理)

対応者:大石高生

本課題は, エピゲノム形成に関わるnon-coding RNA (ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている. 本年度は, 昨年度までにpromomter-associated noncoding RNA (pancRNA)をサルで約400,マウスで約180同定した成果を元に, 発現量が最も高い8つのサル特異的pancRNAの解析を進めた. 例えば, サルCCDC65とHSPA2の転写開始点近傍からはpancRNAが発現しているが, そのマウスホモログであるCcdc65とHspa2からはpancRNAの発現は見られなかった. 各転写開始点近傍の領域のDNAメチル化パターンを調べたところ, 確かにサルとマウスの間で異なるDNAメチル化パターンが認められた. 興味深いことに, サルCCDC65の場合, pancRNAの鋳型近傍に,ribosomal protein L32の偽遺伝子と高い相同性を示す配列が存在し, マウスでは相当する配列は存在していない. 一方, HSPA2では, pancRNAのシグナルは下流のコード遺伝子の転写開始点付近のCpG islandと重なっていた.以上から, 種特異的なpancRNAを生み出す2つのメカニズムが示唆される. 一つは,レトロトランスポジションによりDNA断片がプロモーター領域に種特異的に挿入され,pancRNAの鋳型を獲得したというもの, もう一つは, 元々両方向性の活性を持つGC含量の高いプロモーター配列に種特異的な変異が入ることで, その領域から転写されるpancRNAの発現パターンが変化したというものである.

(学会発表)

1, 今村拓也・束村博子・前多敬一郎・森裕司

ノンコーディングRNAによる性ステロイド受容体遺伝子発現とげっ歯類脳機能制御

第103回日本繁殖生物学会 十和田市 2010年9月2日

2, 上坂将弘・大石高生・宇野健一郎・上田泰己・阿形清和・今村拓也

マウス・サル脳における種特異的promoter-associated noncoding RNAの同定

RNAフロンティアミーティング2010 裾野市 2010年9月27日

3, Yamamoto N, Hamazaki N, Uesaka M, Shimokawa, H, Tsukamura H, Maeda K, Mori Y, Imamura T. Potential of promoter-associated noncoding RNAs for epigenetic setting during differentiation. 16th International Conference of the International Society of Differentiation 奈良市 2010年11月16日



B-33霊長類の各種の組織・器官のミネラル蓄積の特徴と加齢変化

東超(奈良県医大・医・解剖学)

対応者:大石高生

加齢に伴う軟骨のミネラル蓄積の特徴を明らかにするために, サルの喉頭蓋軟骨の元素含量の加齢変化を調べて, 人の喉頭蓋軟骨と比較研究を行った. 用いたのはアカゲザル10頭,ニホンザル1頭, カニクイザル3頭, 年齢は1月から27歳である. サルより喉頭蓋軟骨を採取し, 硝酸と過塩素酸を加えて,加熱して灰化し, 元素含量を高周波プラズマ発光分析装置(ICPS-7510, 島津製)で分析し, 次のような結果が得られた.

1. サルと人の喉頭蓋軟骨のカルシウム含量は6mg/g以下で, 石灰化しにくい軟骨であるが分かった.

2. 人の喉頭蓋軟骨のカルシウム, 燐含量は年齢とともに有意に増加したが, サルの喉頭蓋軟骨のカルシウム含量は有意に変化しない, 燐含量は逆に有意に減少した. 人とサルの喉頭蓋軟骨の間には, カルシウム, 燐含量の加齢変化に明らかな相違が認められた.



B-35他者の存在は自己鏡像認知の成立に必要か?

草山太一(帝京大・文・心理)

対応者:正高信男

動物に鏡を提示し, その自己の反射像を自己と認知するかどうかを調べる研究は自己鏡像認知と呼ばれ, 現在までに多くの動物種を対象に検討されている. この研究では通常, 厳密な個体の行動を観察するために対象を1個体に絞った方法が主流であるが, 本研究では他の個体が一緒に映り込むことが自己鏡像認知の成立を促進する要因になることを考えた.

 今年度も昨年に引き続き, 個体数を増やした観察を行った. ニホンザルを透明なアクリル箱に入れて, 普段から給餌などで信頼関係の厚い人物と一緒に鏡の前で過ごしたときの反応をビデオ記録した. そのような観察を繰り返した結果, 人物が一緒にいるときのほうが鏡に対して積極的な興味を示すような反応が認められた. 元々, 本研究で対象とした個体は,鏡像に対して, 攻撃・威嚇行動ないし回避行動といった他個体と認知していると判断できるような反応は観察当初からあまり認められなかった. 人物と一緒に鏡の前にいることで, 鏡越しに人物と見つめ合ったり, 鏡を凝視したり, 鏡像とのマッチングを確認するために手の平を裏返すといったような自己指向性反応の予兆するような反応が観察された.



B-36霊長類におけるMC1R遺伝子の多様性解析

本川智紀(ポーラ化成工業)

対応者:川本芳

MC1R(melanocortin-1 receptor)は色素細胞表面に存在する色素産生に関与するレセプターである. ヒトにおいてMC1R遺伝子は,多様性が高く人種特異的変異が存在する. そのためMC1R変異データは, ホモサピエンスの分岐過程を考察する際に有益な情報のひとつとなっている. 我々は, ヒト以外の霊長類においても, 当遺伝子のデータは分岐過程を考察する上で有益な情報となると考えている.本研究では, この遺伝子の進化過程を比較解析することを目的に, 類人猿におけるMC1R遺伝子の多型解析を行ってきた.

現在までに, チンパンジー, ボノボ, ニホンザル, アカゲザル, タイワンザル, カニクイザルの解析(コーディング領域とプロモーター領域合計約1.5kb)が完了した.

これらのデータおよび, 我々が保有している日本人のデータを用いて, 日本人のMC1R遺伝子の進化過程を考察した. まず,日本人, チンパンジー, ボノボの3種のハプロタイプ解析を行ない遺伝子の比較解析を行なった. その結果, 日本人内で見られたハプロタイプの多様性は, チンパンジー,ボノボで見られた種内の多様性よりも大きく, チンパンジーとボノボの異種間でみられた多様性と同程度であることが判明した. 今後はさらにn数を増やすとともに, 他種のハプロタイプデータを追加して詳細な解析を行ない, 霊長類の系統樹を作成していきたいと考える.



B-37伊豆大島の外来マカク種に関する遺伝学的調査

佐伯真美,白井啓(野生動物保護管理事務所)

対応者:川本芳

本研究は東京都伊豆大島に生息するタイワンザルの基礎データを得ることを目的に, 島内のタイワンザル個体群の遺伝学的集団構造について調査を行った.

伊豆大島には1939年から1945年にかけて島内の動物園から逸走し野生化したサルが生息しており, 現在,島の中央を除くほぼ全域に群れが分布している. これまでの共同利用研究で, 島内のタイワンザルのミトコンドリアDNA(mtDNA)Dループ第1可変域(520塩基対)および第2可変域(202塩基対)を解読し, それぞれ2つのハプロタイプ(A・B)を検出した. ハプロタイプの地理的分布状況には偏りが見られ, 逸走元である動物園を境にAタイプは時計回りに,Bタイプは半時計周りに分布拡大したように観測された.

今年度までの研究で, 有害駆除や学術捕獲で得られた約120個体のDNAサンプルを用いて常染色体マイクロサテライト11遺伝子座, Y染色体マイクロサテライト3遺伝子座の解析を行った. 常染色体マイクロサテライト11遺伝子座は全て多型性を示し, 計44個の対立遺伝子が検出された(平均4個). 全遺伝子座において有意水準5%でハーディ・ワインベルグ平衡が成立した. mtDNAハプロタイプでは地理的分化が見られたが, 常染色体遺伝子の結果では島内に分集団化は見られず, 大島個体群はひとつの繁殖単位である可能性が示唆された. またY染色体マイクロサテライト3遺伝子座の解析の結果, 2つのハプロタイプを検出した. 2タイプの地理的な出現頻度に有意な差は見られなかった. 今後はサンプル数を増やし, 島個体群の連鎖不平衡やボトルネックの兆候について研究する.



B-38野生ニホンザル個体群の遺伝的交流に関する基礎研究

清野紘典(衞鄒呼以保護管理事務所 関西分室)

対応者:川本芳

本研究は, ニホンザル個体群の孤立や交流を評価するため, 群間移動するオス個体を複数の標識遺伝子で分析し群れ間における遺伝的交流を定量的に明らかにすることを目的としている. 野生群1群(260頭)に焦点をあて, オス59頭のY染色体マイクロサテライト3遺伝子座とミトコンドリアDNA非コード領域の配列を分析し, 個体群内ですでにあきらかとされているミトコンドリア遺伝子の分布から群れ外から移入した個体特性を把握する一方, 個体群内のオス個体から得られた既知のマイクロサテライト遺伝子のY染色体タイプから移入個体が繁殖に関与した実態を評価した. 結果, Y染色体では9ハプロタイプが検出でき,出現頻度が一様でないことを確認した. また, ミトコンドリア遺伝子では多くのオスが対象群の最頻ハプロタイプを示したものの, 成獣オスの一部からは異なるハプロタイプを検出した. 父性遺伝するY染色体タイプは, オスの移住と繁殖の双方を反映するのに対し, 母性遺伝するミトコンドリア遺伝子タイプは, 1世代内のオス個体の移住のみを反映する. 従って, 分析した2つの標識遺伝子の空間的分布における性質の違いは, これら標識の遺伝子伝達の性質の違いを反映した結果である. 今後は追試を経て解析を進める予定である.



B-39飼育下霊長類における尿中8-OHdGの身体的及び精神的健康指標としての有用性

有賀小百合(日大・院・生物資源科学)

対応者:平井啓久

尿中8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン ( 8-OH dG:DNA酸化損傷生成物 ) は, ヒトにて,慢性疾患の発病リスクの有用な生理学的指標とされており, 近年では, 精神的ストレス指標物質としても注目される. しかし, ヒト以外の霊長類における報告は少なく, 本物質が飼育下霊長類においても身体的および精神的健康指標となるか明らかでない. 本研究では, 飼育下ニホンザルにおいて齢別および性別による尿中8-OHdG濃度の動態を調査し, 飼育下霊長類において本物質を健康指標とする際の基盤となるデータを収集した.

臨床症状を示していない健康なニホンザル ( Macaca fuscata ) 計52頭を対象とした. 雌雄ともに1〜4歳,5〜10歳, 11〜15歳, 16〜20歳, 21〜25歳の5グループに分類し, 齢別および性別による尿中8-OHdG濃度の差の有無を調べた. 尿中8-OHdG分析には, 酵素免疫測定法 ( EIA法 ) を用いた.

齢別調査の結果, 雌雄ともに各年齢群間で有意差は認められなかった. このことから, ニホンザルでは1歳の幼獣から20歳の成獣まで尿中8-OHdG濃度に有意差はなく, 平均値 ( ± SD ) は716.84 ( ± 320.69 ) ng / mg cre.であると判明した. 対して, 性別調査では21〜25歳の雌雄間で有意差が認められた. ニホンザルでは20歳以降にメスの閉経が生じるとされる. 21歳以上の個体では, メスの閉経の有無により尿中8-OHdG濃度が増加し, 雌雄に差が生じると示唆された. 今後, 飼育下霊長類において, 本物質に関するより多くの調査が行われることで, 飼育下霊長類における精神的健康管理の更なる発展に寄与することが期待される.



B-40野草の苦味・渋味成分含量と嗜好性との関連性について

小嶋道之, 有富幸治(帯畜大・食科)

対応者:鈴木樹理

野生のニホンザル調査では, 渋味や苦味のあるニガキ, エゾニュウ, チシマザサ, クマイザサ, アケビ, エビガライチゴ ,マタタビ, ヤマグワなどを好んで食べることが明らかにされている. 食べ物に対するサルの嗜好性や植物の各部位を食べ分けている原因が含有する苦味・渋味成分の種類と含量に関係あるのかどうかを予備的に調査した. サカキ, ヒサカキ, ニガキ, エゾニュウ, キハダ葉もしくは果実から抽出したポリフェノール(苦味・渋味成分)を自然界で含まれる含量を上限として1/8までの希釈液を調製し, 固形飼料およびサツマイモに塗布して予備的に調査した. 与える方法としては, 濃度の薄い液を塗布した餌から与え, 通常の食事時間に与え評価した. その結果, 3才サルでは多少の個体差はあるがほとんど食べないこと, 5才サルでは濃度に無関係に経日的に食べるようになること, 10才以上のサルでは, 雄ザルは濃度に関係なくすべて食べること, 雌ザルは好きではない様子でポリフェノール濃度にあまり関係なく, 平均して3割程度しか食べないことが予備的に判明した. これらの結果は, 飼育ザルの中で特に若いサルや年老いても雌ザルほど敏感に餌の苦味・渋味の評価をしている可能性が示唆された.



B-41静岡県愛鷹地域に生息するニホンザルの遺伝的多様性・地域分化及び保全

大橋正孝(静岡県森林・林業研究センター)

対応者:川本芳

 本研究では, 現在, 地理的に孤立状況にあると考えられる静岡県愛鷹地域のニホンザルについて, 周辺地域からの分化, 孤立状況を定量化することを目的に, 有害捕獲等から得られた血液及び糞試料16試料(うち愛鷹地域13試料)から遺伝子を抽出し, ミトコンドリアDNAのDループ第1可変領域512塩基対の配列を調べた. 次に, これまで分析した79個体(うち愛鷹地域13個体)分の結果を加え, Clustalx2.0.10で配列の比較を行い, 遺伝距離に基づきNJ法によりnjplotを用いて分子系統図を作成した.

その結果, 大きくは, 南アルプス・愛鷹地域と伊豆地域,中区分としては, 南アルプス西地域・南アルプス東地域・愛鷹地域・西伊豆地域・東伊豆地域に区分され,24(うち県内は20)のハプロタイプが存在した.地域個体群の遺伝的多様性や地域分化への影響が大きいオスの移入出の状況を確認することが可能となったため, 今後は, 愛鷹地域やその周辺地域のオス個体について試料採取, 分析を進め, これまで確認された県内各地域のハプロタイプと照会することで地域間交流の状況を明らかにする予定である.



B-42色盲ザルの色覚特性の行動的研究

小松英彦, 郷田直一, 横井功, 高木正浩(生理研),岡澤剛起, 波間智行(総研大・生命科学・生理科学), 鯉田孝和(生理研、豊橋技科大)

対応者:宮地重弘

インドネシア由来の2色型色盲ザルの色覚特性を明らかにするため行動実験を行うことを予定していたが, 霊長類研究所でニホンザル血小板減少症が発生したことが報告された状況を受け, 実験の継続に問題ないと判断されるまでは慎重を期して実験を行わなかった. 年度末に霊長類研究所を訪れ, 実験装置の確認と実験に使用しているサルの確認を行った. また, 実験に使用しているサルについては血小板減少症の原因ウイルスの検査結果が陰性だったとの報告を受けた. 今後, これまでに得られている行動データの問題点を検討し, 2色性色盲ザルの色覚特性の詳細を明らかにしたい.



B-44霊長類の赤及び緑感受性色覚視物質に対する赤外分光解析

神取秀樹(名工大・院・工), 古谷祐詞(分子研・生命錯体), 片山耕大(名工大・院・工)

対応者:今井啓雄

我々が様々な色を識別できるのは, 吸収極大波長の異なる3種類の錐体視物質が網膜に存在するからである. これらは全て11-cis型レチナールのプロトン化シッフ塩基という同一の発色団をもつが, オプシンと呼ばれるタンパク質部分がレチナールの電子状態を制御する結果, 色の識別が可能になる. このような波長制御を可能にする構造, 特にシッフ塩基のイオン対や緑・赤感受性視物質に含まれるクロライドイオンに対しては,タンパク質に結合した水分子の存在も重要であると考えられてきた. しかしながら, 明暗視のロドプシンと異なり試料調製が困難なことから, このような錐体視物質の構造解析は皆無であった.

昨年我々は,培養細胞によりサルの緑・赤感受性視物質を大量に調製し, 低温赤外分光法を用いることで霊長類色覚視物質の構造解析を初めて実現した. 我々はこの研究を発展させ, 最近, 内部結合水のO-D伸縮振動を帰属することに成功した.

ロドプシンの内部結合水と比較すると, 霊長類緑・赤感受性視物質に特異的な水分子の振動バンドが確認された. 特に, 強い水素結合を形成した水分子の信号が, レチナールの光異性化後にのみ生じることを明らかにすることができた. この結果は, 緑・赤感受性視物質のタンパク質内部に結合したクロライドイオンとの水和に関与している可能性があり, ロドプシンには存在しない水分子を介した水素結合ネットワークの存在が示唆された. さらに, 緑・赤感受性視物質間においても水分子の振動バンドに違いが見られ, これらの違いが両色覚視物質の30 nmの波長シフトに関係している可能性がある.

本研究成果は現在, 論文作成中であるが, すべての振動数領域で実現した系統的な水分子の構造解析は, 視物質研究の歴史に残るものとなるであろう. 今後はいよいよ, 変異タンパク質を駆使した振動バンドの帰属を行い, 波長制御メカニズムを構造学的に明らかにしたいと考えている.



B-45霊長類における脳形態の発達的変化に関する比較研究 

酒井朋子, 中務真人(京都大・院), 藤澤道子(京都大・野生動物), 鵜殿俊史(チンパンジー・サンクチュアリ・宇土)

対応者:友永雅己

研究項目1: 磁気共鳴画像法 (MRI) による子どもチンパンジーにおける脳容積の発達的変化

 生後11歳を迎えた3個体のチンパンジーを対象に, 3次元脳解剖画像を撮像することで, 思春期における脳容積の発達的変化を計測した. 種内比較および種間比較におけるコントロールデータとして, 成体チンパンジー2個体, 成体ヒヒ1個体の脳画像も収集した. さらに, これまでに計測してきたチンパンジーの乳児期からコドモ期までの大脳容積の発達的変化を, 富山大学の研究によるヒトのデータ, Georgetown大学の研究によるマカクのデータと比較した. その結果, チンパンジーとヒトは共通して大脳容積の発達期間が延長していることを明らかにした. 一方で, ヒトの早期乳児期における大脳の灰白質/白質の比率は, チンパンジーよりも高く, その比率は乳児期に劇的に減少した. つまり, 早期乳児期の脳の内部構造の動的な発達様式がヒトの大脳化をもたらした一つの要因である可能性を示唆した. この成果は現在国際誌に投稿中である.



研究項目2:胎児期からたどるヒト, チンパンジー, マカクの脳白質神経構造の形成過程の系統比較

 京都大学医学研究科附属先天解析異常標本センターが管理するマイクロMRI装置を用いた脳内部構造を観測するための基盤的技術を確立した. これにより,マカク胎児標本を対象とした撮像を可能とした.

当初の予定通り, 3種の霊長類を対象に胎児期から思春期までの脳形態の発達様式を系統比較するための基盤的技術がほぼ整備された段階に到達した.

(学術雑誌)

○Tomoko Sakai・Daichi Hirai・Akichika Mikami・Juri Suzuki・Yuzuru Hamada・Masaki Tomonaga・ Masayuki Tanaka・Takako Miyabe-Nishiwaki・Haruyuki Makishima・Masato Nakatsukasa・Tetsuro Matsuzawa, Prolonged maturation of prefrontal white matter in chimpanzees. Nature Precedings, 4411.1, 2010.

Ahmed Ayman・Takuya Funatomi・Michihiko Minoh・Zanaty Elnomery・Tomohisa Okada・Kaori Togashi・○Tomoko Sakai・Shigehito Yamada, New Region Growing Segmentation Technique for MR Images with Weak Boundaries. IEICE Technical Report, 110, 71-76, Nov 15, 2010.

(学会発表)

○酒井朋子・三上章允・平井大地・鈴木樹理・濱田穣・友永雅己・田中正之・宮部-西脇貴子・巻島美幸・中務真人・松沢哲郎 チンパンジー乳児の脳成長様式はヒトの脳進化を理解する上での重要な手掛かりになる: 縦断的MRI研究からの考察.第64回日本人類学会大会. 北海道伊達市 (口頭, 2010年10月2日) .

Ahmed Ayman・Takuya Funatomi・Michihiko Minoh・Zanaty Elnomery・Tomohisa Okada・Kaori Togashi・○Tomoko Sakai・Shigehito Yamada: New Region Growing Segmentation Technique for MR Images with Weak Boundaries, 電子情報通信学会. 京都 (口頭, 2010年11月15日) .

○Sakai Tomoko. Brain development in chimpanzees: A combined 3D Ultrasound and MRI study. Symposium "The chimpanzee brain", International Primatological Society 2010 Congress. Kyoto (シンポジウム, September13, 2010).

Makishima Haruyuki, ○Sakai Tomoko, Mikami Akichika, Hirai Daichi, Nishimura Takeshi, Suzuki Juri, Hamada Yuzuru, Tomonaga Msaki, Tanaka Masamichi, Miyabe Takako, Nakatsukasa Masato, & Matsuzawa Tetsuro. Longitudinal development of volumetric cerebral asymmetries of chimpanzees. International Primatological Society 2010 Congress. Kyoto (ポスター, September16, 2010) .



B-47発達障害児の学習支援に伴うコミュニケーションの変化

田村綾菜(京都大・院・教育)

対応者:正高信男

本研究は, 学習支援の療育プログラムに参加する発達障害児を対象に, 療育での経験を通して, 他者とのコミュニケーションにどのような変化が現れるのかを検討することを目的としている. 昨年度は, プログラムに参加した児童6名を対象とし, 週1回1時間, 学習支援場面で課題に取り組むところをビデオカメラで撮影し, 対象児と療育者および療育補助のボランティアの学生の言動について縦断的なデータを収集した. 今年度は,これまでに蓄積したデータをもとに, 学習場面における行動の変化と, 日常場面での行動との関連について検討するため, PFスタディを実施した. PFスタディでの反応について, 林(2007)で報告されている定型発達児の平均値と比較した結果, アグレッションの型として, 障害優位(O-D)の反応が多く, 要求固執(N-P)の反応が少ない傾向がみられた. このことは, 自分の要求を直接的に表出することを避けることで, 対人葛藤場面におけるコミュニケーションが非効率的になってしまっている可能性を示唆している. 今後, このような日常場面での行動についても縦断的にデータを収集し, 学習場面における行動の変化が日常場面に汎化される可能性について検討していく予定である.



B-48霊長類生体防御系の種内個体間差異の進化的意味の解明

安波道郎(長崎大・熱帯医学研究所)

対応者:平井啓久

アジアの各地に棲息するマカク属, アカゲザル,カニクイザル, ニホンザルは, ヒトに近縁な生理・病態を示すものとして有用な資源である. 比較的最近に共通の祖先から分かれたこれら3種のマカク属霊長類について, 種分化に加えそれぞれの種内においても, 熱帯感染症感染因子など生息地域によって異なる環境の影響下に, 生体防御系の遺伝子に多様性を生じているものと想定され, ゲノムの進化を理解する上でよい標的であると考える.

ヒトやマウスではToll様受容体TLR2およびTLR4の変異や多型が細菌や真菌由来の物質の認識を変化させることから, マカク属霊長類についてTLR2およびTLR4遺伝子の塩基配列を解析し, 種内および種間での非同義置換を評価した. そのうちTLR2に関してニホンザルではコード領域の全般に亘って非同義置換は頻度が低い傾向にあるのに対してアカゲザルでは, 膜蛋白の細胞外部分に相当する領域の一部に局所的に非同義置換の集積する部分が認められた.ニホンザルとアカゲザルの間で326番目のアミノ酸がそれぞれチロシン, アスパラギンに固定しており, この部位はヒトの分子構造解析からリガンド結合に関与するとされていることからこの変化がアカゲザルでの多様性の積極的な蓄積をもたらしていると推測し, 分子モデリングによる分析を行なった(Takaki A, et al. submitted).

[文献] 発表準備中



B-49ニホンザル屋久島個体群の保全と近隣個体群との系統関係の解明

早石周平(鎌倉女子大)

対応者:川本芳

鹿児島県の屋久島に生息する野生ニホンザルのミトコンドリアDNAの塩基配列を調べた. 平成22年度には, 猟友会会員より供与された48試料から遺伝子分析試料を調製し, 24試料について,ミトコンドリアDNAの第1可変域と第2可変域の配列を決定した. これまでに得られた43試料の塩基配列と比較して多型解析を進めている. また島内の特定の地域で得られた試料が多く含まれており, 遺伝的多様性の小さいことがわかっている屋久島個体群内のさらに特定地域の少数の群れ内の遺伝的多様性を評価する方法の検討も進めている. なお, 近隣個体群の遺伝子分析試料は得られなかった.

また地元役場から提供された有害捕獲実績のデータは6カ年分となり, このデータをもちいた個体群存続可能性分析を行った. 島内を9つの流域に分割して分析した結果によれば, 流域によって絶滅リスクが異なり, 個体数管理の方針を流域ごとに異なるものにする必要があることがわかった. 第23回国際霊長類学会大会において, この成果を発表した.



B-50 西日本のニホンザル古分布変遷に与えた厩猿風習についての研究

三戸幸久(愛知教育大)

対応者:川本芳

これまで東北地方6県(青森県, 岩手県, 秋田県, 宮城県, 福島県)のニホンザル古分布復元はほぼ終了している. その結果, ニホンザルの分布減少の主原因が明治維新以降の元込め銃の普及による狩猟活動と断定した. そしてその背景には, 厩猿をはじめ薬種としての利用など多岐にわたる高い需要があったことを明らかにし, その資料が東北地方においてはニホンザルの古分布復元に有効なデータとなることも明らかとなった.

 本年度は西日本とくに中国地方で起こったことが, 東北地方での地域的減少と同様の原因, 背景によって起こったのか否か, 厩猿風習を追いながら, その分布変動との関係について明らかにすることがテーマであった.

 岡山県, 鳥取県, 島根県, 広島県, 山口県における厩猿風習は, とくに岡山県, 広島県を中心に多く残っていることが明らかになっている. この地方における古分布を復元すると東北地方で見られるような一貫して減少を示すという傾向とは異なっていることが分かった. 中国地方では, 生息区画数で各年代を比較してみると, 総数は東北地方と同じく大正12年, 昭和28年, 昭和60年と減少傾向にあるものの, 分布地の時間的連続性はなく, 分布地が消えたり, また新たな地区に出現したりするという生息記録地が変化するという傾向が見られる. こうした傾向が何を意味するかが問題である. まず考えられるのは, 生息地の複雑な起伏地形, あるいは常緑樹林帯におけるニホンザル自体がもつ暮らし方の違いといった自然要因である. もうひとつは,常緑樹林帯での冬季における狩猟方法の制約や東北地方におけるマタギ集団など専門狩猟集団などの狩猟者事情のような社会的要因である. さまざまな理由が想定されるが,はっきりしない. 今後, あらためて, 東北地方と中国地方の古分布の減少パターンの違いを比較研究する必要が出てきた.

 今回, 東北地方とくに岩手県からの厩猿発見情報があいつぎ, その確認のための調査に研究費の多くをあてた. 中国地方の分布パターンとの比較, その原因としての生態学的調査をもとに, 社会的需要の性質なども調査する必要があった.

今後も東北地方と中国地方の古分布比較を厩猿など需要の共通する要素を軸に, ニホンザルの古分布と風俗習慣で残された資料との関係をテーマに研究をつづけていく予定である.



B-51霊長類の社会的認知に関する基礎的研究:生物・非生物の動きに関する理解から

村井千寿子(玉川大・脳科学研究所)

対応者:友永雅己

物理的対象(モノ)が「外的作用なしには運動しない」一方で, 生物的対象は「外的作用があってもなくても自発的に運動する」. ヒトは発達の早い時期から, モノと生物に対しこのような異なる運動原理を期待する. 生物・モノの区別が持つ生態学的な重要性を考えれば, ヒト以外の種でも同様の認識が想定される. この点について, 本研究ではニホンザルを対象に, 注視時間を指標とした期待違反事象課題を用いて実験を行った. この課題は, 被験体が, 起こりえる自然な事象よりも起こりえない不自然な事象に対して長い注視を示す傾向を利用している. 実験刺激には幾何学図形(長方形)がモノらしく水平に前進する動画, または,生物らしくイモムシのように伸び縮みしながら前進する動画を用いた. モノ的対象では, 静止している対象が別の対象との接触によって前進する場合には自然な事象となるが, 接触なしに自発的に動き出す場合には不自然な事象となる. この時, 被験体が後者の事象をより長く注視すると予想される. 対して, 生物的対象では, 対象同士の接触がある場合, ない場合のどちらも起こり得る自然な事象となる.よって, 両事象への被験体の注視は変わらないと予想される. 実験の結果, 生物的対象の場合には両事象に対する注視時間に違いは見られなかった. 一方で, モノ的対象の場合には接触事象への長い注視が見られた. つまり, 不自然な事象に比べ自然な事象をより選好した. この事から, ニホンザルが生物的対象とモノ的対象の運動に異なる原理を期待する可能性,また,選好の方向は逆ではあるものの, モノ的対象については, 接触による運動・非接触による運動を区別している可能性が示唆された.

(論文)

1, Murai, C., Tanaka, M., & Sakagami, M.

Physical Intuitions about Support Relations in Monkeys (Macaca fuscata) and Apes (Pan troglodytess). Journal of Comparative Psychology, in press.

2, Murai, C., Tanaka, M., Tomonaga, M., & Sakagami, M.

Long-term Visual Recognition of Familiar Persons, Peers, and Places by Young Monkeys (Macaca fuscata). Developmental Psychobiology, in press.

(学会発表)

1, Murai, C., & Tomonaga, M.

Do monkeys read others' gaze statement in non-competitive situation? International Primatological Society XXIII Congress.

2, 村井千寿子・友永雅己

ニホンザルにおける他者の視線の認識:非競合場面での検討. 日本心理学会第74回大会

3, 村井千寿子・友永雅己

ニホンザル幼児の長期記憶:3年前に経験した既知対象の視覚的再認. 日本動物行動学会第29回大会



B-52屋久島におけるシカのサル糞食行動に関する基礎的研究

西川真理(京都大・院・理), 持田浩治(京都大・理)

対応者:半谷吾郎

近年, 屋久島の西部低地域では, ヤクシカがヤクシマザルの糞を食べる行動 (以下, 糞食行動) が観察されるようになった. 糞食行動が起こる要因の1つとして, 西部地域に生息するシカの餌資源(草本)の減少が考えられる. この仮説の妥当性を検証するため, 本研究では, 屋久島の西部地域と餌資源(草本)が豊富にある東部地域で, シカによる糞食行動の生起頻度を比較した. 糞食行動は, 地面に設置したサル糞から約3m離れた場所に自動撮影カメラを設置して記録した. 糞およびカメラの設置時間は5時間とした. 実験は2010年11月から12月に, 西部地域で31試行,東部地域で25試行おこなった. シカがサル糞の半径1m以内に接近したのは, 西部地域で20/31回, 東部地域で8/25回であった(Pearson's Chi-squared test; p = 0.03). そのうち, シカが設置した糞を食べたのは, それぞれ15/20回,0/8回であった(Fisher's exact probability test; p = 0.0004). 糞食実験をおこなった西部地域の植生は二次林であるが, 東部地域はシカの餌となる牧草が豊富な町営牧場に隣接する場所である. このようなシカの潜在的な餌量の違いによって東部と西部で糞食頻度に違いが現れている可能性が示唆された. また, シカの高い消化能力はサル糞に含まれる種子の破壊につながる. そのため, 屋久島におけるサルの種子散布効果は, シカという第三者を通して島内で地域的に異なる可能性が示唆される.



B-53四国における野生ニホンザル個体群の特徴と有害駆除状況

谷地森秀二(四国自然史科学研究センター)

対応者:渡邊邦夫

四国では多くの地域でニホンザルによる農作物被害が発生し, それに伴う駆除活動が行われている. しかしながら, 駆除された個体からの情報収集は駆除数, 成長段階, 性別程度に限られ, 生物学的な情報に関してはほとんど記録されずに埋設処分されてきた. また, 四国産ニホンザルの標本数が非常に少なく, 四国産地域個体群の特徴に関する研究はほとんどなされていない. 本研究はニホンザル四国地域個体群について, 生物学的特徴を明らかにし, ならびに有害駆除の現状を把握することを目的にしている.

平成22年度は, 高知県内に三つの調査地域を設け情報を収集した. 対象地域は, 室戸市(県東部), 中土佐町(中央部)および四万十市(県西部)である.

 各調査対象地域へ平成22年4月, 7月, 10月, 平成23年1月および3月に赴き, 有害駆除個体を40個体受け入れた.

受け入れた個体について, 高井正成教授と協力して生体および骨格標本の計測と資料の保管を, 今井啓雄準教授と協力して分子生物学的な分析を行った.

その結果, 四国のニホンザルは遺伝的な変異性が少ないなど, 特徴が少しずつ明らかになってきている.



B-54チンパンジーの口腔内状態の調査:う蝕・歯の摩耗・歯周炎・噛み合わせの評価を中心に

桃井保子, 斎藤渉(鶴見大・歯学・保存修復学講座),小川匠, 井川知子(鶴見大・歯学・クラウンブリッジ補綴学講座), 野村義明, 今井奨, 花田信弘(鶴見大・歯学・探索歯学講座)

山口貴央(鶴見大・歯学・第二歯科保存学教室),

笠間慎太郎(鶴見大・歯学・歯学研究)

対応者:宮部貴子

霊長研の9個体のチンパンジーにおけるう蝕と歯周疾患の罹患状態を報告する.

調査方法:事前に手法を統一した2名の検査者が9個体のチンパンジーの口腔検査を実施した. 内訳は, 9歳/女, 9歳/女, 10歳/男, 25歳/女, 28歳/女, 32歳/女, 33歳/女, 42歳/女, 43歳/男 である. 結果:対象歯は総計で279本である. そのうち2本が喪失歯, 8本がう蝕歯, 処置歯無し, したがって, DMF歯は10歯, DMF指数は 1.11 であった. 歯周ポケットの深さは, 277歯中, 5mmが8歯に, 6mmが2歯に, 7mmが1歯に, 8mmが1歯に, 10mmが1歯に認められた. この他のすべての歯のポケット深さは4mm以下であった. 歯周ポケット測定時に出血が認められなかったのは6個体, 動揺歯が認められなかったのは7個体であった. 著しいプラークの蓄積と歯石の沈着が7個体に認められた.

結論:9個体のチンパンジーのう蝕と歯周疾患に関する罹患状態は, 口腔衛生に関する介入は皆無であるにも係わらず, 極めて良好といえる. これには, 本研究所が100品目を超えるバランスの良い食餌を適切に与えていることが関与していると思われる.現在同時進行で, 5個体の歯面から採取したプラーク内の細菌叢について, 16S rRNA gene pyrosequencing により解析しているが, 未知の細菌種の存在が示唆されている.



B-55ヒヒ属の気質測定尺度の開発

松本晶子(琉大・観光)

対応者:友永雅己

本研究の目的は, ヒヒ属の気質(刺激への行動特性)を測定する気質測定尺度を開発することである. ヒヒ属はアヌビスヒヒ(オリーブヒヒ), キイロヒヒ, マントヒヒ(ハマドリアスヒヒ), ギニアヒヒ, チャクマヒヒの5種からなる. 近年, 遺伝学者を中心に, マントヒヒをのぞいた4種を一括してサバンナヒヒ1種と分類することが提起されているものの, 行動にみられる多くの違いを共通の基準で評価した研究はない. 平成22年度は,行動のどの部分が類似していて, どの部分が異なるかを明らかにするうえで用いる気質測定尺度を開発するための予備調査をおこなった.

気質の測定には,類人猿の性格評定で用いられているHominoid Personality Questionnaire (HPQ),subjective well-being questionnaire, ヒトの気質と性格を測定するパーソナリティ質問紙 (TCI), イヌの気質を測定するCanine Good Citizen test (GCT)を参考にした気質評価尺度と, より詳細な因子を測定する対象個体に対する音や物による刺激の呈示を計画している. そこで, 予定として考えている気質測定尺度項目の実施可能性調査を京都市動物園のマンドリル, 京都大学霊長類研究所飼育のマントヒヒ, 日本モンキーセンターおよび広島市安佐動物公園のアヌビスヒヒでおこなった.



B-56霊長類における排卵の制御機構に関する研究

束村博子, 前多敬一郎, 大蔵聡, 上野山賀久, 吉田佳絵(名大・院・生命農)

対応者:鈴木樹理

霊長類における排卵を誘起するGnRH分泌制御の脳内メカニズムの解明を目的として, GnRH分泌促進因子である神経ペプチド, メタスチンの発現解析を試みた. 過去に採材したニホンザル脳におけるメタスチン免疫陽性細胞の分布を精査するとともに, その in situ hybridizationにより遺伝子発現の検出を試み, データを詳細に解析した.

 今後, さらに例数を増やし, メタスチンニューロンの分布する脳領域を同定し, かつ発現調節機構の解明を目指すこととした.



B-57マカクの性皮腫脹に関する分子基盤研究

小野英理, 石田貴文(東大・院・生物科学)

対応者:鈴木樹理

霊長類にはその発情期に明確な性的シグナルを発する種がある. 例えばマカク属のいくつかの種ではメスの性皮腫脹(ここでは体積増加と紅潮を含む)が起こることが知られている. この性皮腫脹はいわゆる性ホルモンによって調節されており, その関連研究が行われている. しかし先行研究では近年急速に発達した分子生物学からの知見は乏しい.我々はこの性皮腫脹に着目し,その機能的意義について内分泌系を中心とした分子基盤研究からアプローチする. 研究初年度にあたる本年度は, 採材と実験系確立を主目的とした. アカゲザルとニホンザルの発情期と非発情期に性皮の色測定,性皮組織の採材を行った. 色測定からは, 先行研究で類似した性皮腫脹を示すとされる両種が, 異なる紅潮を示すことがわかった. 採材組織からは固定標本を作製し, HE染色後, 色変化に関連した画像解析を進めている. さらに固定標本を用いた免疫組織化学染色プロトコルの最適化を行っている. また凍結組織からの核酸抽出を完了し, 遺伝子発現解析の実験系確立を行っている.



B-58ニホンザルにおける同年代の子ども同士の社会関係の発達

福永恭啓(滋賀県立大・人間文化学)

対応者:古市剛史

西部林道半山地区周辺の, ヤクシマザル野生個体群(AT群)を対象に, 個体追跡法を用いて,母子関係やコドモの他個体との社会交渉に関する調査を行った. 追跡対象個体は, 2歳の双子を持つ母親とその双子の子どもとし, 闘争事例などから双子間の優劣関係を調べるとともに, 双子の間での争いが起こった際に, 母親による介入が子ども同士の優劣関係を反映するのか調べた. 双子の間には,緩やかな優劣関係が認められ, 母親は子どもの争いに介入する場合,弱い方を支援することが多かった. 双子間の争いは多くの場合, 一方の子どもが母親からグルーミングを受けるために他方の子どもを排除するかたちで起こっていた. 子どもがグルーミングを受けていた時間と母親の介入には逆相関があり, 一方の子どもを排除しながら長くグルーミングを受けていた子どもはたとえ弱い方でも母親から攻撃を受ける傾向があった. これらのことから, 母親は子どもに対して平等にかかわっていることが示唆された. 今後, それぞれの双子の母親への近接率やグルーミングの頻度, そして他の個体との交渉の記録を整理し, より詳細な分析をおこなう.



B-60 分子生物学的解析によるニホンザル消化管寄生虫相の地域変異

藤田志歩,佐藤宏(山口大・農)

対応者:川本芳

国内各地の野生ニホンザルの寄生虫相あるいは特定寄生虫の検出率の違いについてはこれまでにも報告されてきたが, 従来の形態学に基づく手法では, 異なる宿主分布域における寄生虫の系統関係, 異種宿主間の寄生虫の伝播動態等については実証が困難である. 本研究では, 国内各地のニホンザルおよび他の野生動物種から分離された寄生虫の分子生物学的解析を行った. ニホンザル, ウシ, シカおよびイノシシから分離した美麗食道虫について, 本種にはウシ型とシカ型が区別できること, シカとイノシシでは同一系統の共有があること, およびシカから確認されたマイナーな遺伝子型がニホンザルにも寄生することを確認した. 鞭虫については, 従来, 旧世界ザル寄生種として形態学的に2種が区別できる可能性が示唆されてきたが, 決定的な事実としては認知されておらず, rDNAに基づく分類において3遺伝子型(Trichuris trichiura,T suisに近縁の種, ニホンザル固有系統)が確認された. ニホンザル固有系統の系統的位置づけを明らかにするため, ニホンザル寄生鞭虫の分子生物学的および形態学的特徴の有無の確認とニホンザルの地理的分布との関係について, 現在精査を進めている. また, 今回, ニホンザルから初めて蟯虫を確認できた. 本種は中国のアカゲザルおよびアッサムザルから種記載され (Yen, 1973), 台湾に生息するタイワンザルでの寄生も確認されているが (Lin, 1997), ニホンザルでは記録がない. 国内各地でのタイワンザルの野生化が進む中で, この蟯虫種が在来種であるか, あるいは外来宿主が新たに導入した移入種であるのかに興味がもたれる.



B-62ニホンザル地域個体群間の遺伝的交流のモニタリング法の検討

森光由樹(兵庫県大・自然・環境研/森林動物研究センター)

対応者:川本芳

報告者は, これまで兵庫県に生息している6つの群れ(美方, 城崎, 大河内, 篠山A, 篠山D, 船越)に所属しているメスのミトコンドリアDNA D-Loop第1可変域, 第2可変域を分析し, 県内の群れの遺伝情報を整理した. また保護管理に役立つ群れ間のオスの移住状況についてミトコンドリアDNAの特性を利用して試験的に調査した. しかし, これまで兵庫県のオスが群れ間で移住した情報を得ることは出来なかった. 今年度は, さらに群れに所属している成獣オスのサンプルを増やして移住状況を詳細に分析した. 15頭のオスのミトコンドリアDNAを分析したところ, 第1可変域,第2可変域ともに所属していた群れの成獣メスと同じハプロタイプを示し, 調査群間のオス移住の証拠を得ることはできなかった. 今後は, 群れ間での遺伝子の交流についてマイクロサテライトDNA及びY遺伝子を用いて, 遺伝的交流の評価を進める予定である.



B-64霊長類のエネルギー倹約遺伝子

竹中晃子(名古屋文理大・健康生活・健康栄養)

対応者:鈴木樹理

消費エネルギーを低下させる遺伝子多型はヒトでは生活習慣と相まって肥満を発症する. UCP (脱共役タンパク質) は電子伝達系に共役したATP合成を切り, エネルギーを熱として放散させるタンパク質であり, 体温上昇に寄与する. UCP1は褐色脂肪細胞にありヒトにおいてA-3826Gは転写量を減少させ, 肥満に関係するという報告と関係しないという報告に分かれているが, UCPは1-5まであることが知られており, UCP1の多型を代償することも考えられる.UCP1-3826の領域のヒト, チンパンジー, アカゲザルのデーターベースから共通のプライマーを合成し, PCRで増幅し, Sau3AIで切断し多型の有無を調べた. チンパンジー26, ゴリラ8, アジルテナガザル2, ニホンザル88, カニクイザル24, アカゲザル18, ブタオザル4, ボンネットモンキー3頭全てが倹約型のGを有していた. なお, オランウータンは塩基配列からは制限酵素部位に変異が見られ, このRFLP法では検出できなかったが, この個体ではGを有していた. 以上, アドレナリン受容体?????,??????,???,?PPAR?????,?UCP1/-3826遺伝子全てにおいて霊長類では倹約型を有し, それだけ消費エネルギーを浪費せずに生きる方策をとっているのであろうと考えられた. ヒトのみで消費型の頻度が高いのは体毛を失ったため, 夜に体温維持を図り内臓を保護するためであろうと推測した.



B-66老齢ザルの記憶と抑制に関する研究

久保(川合)南海子(愛知淑徳大・心理学)

対応者:正高信男

加齢にともない早期から低下する機能として, 空間記憶と行動抑制がある. Beranら(2005)のチンパンジーを対象にした位置再認の研究では, 記憶すべき情報が多くなると 選択反応の初期よりも後期でエラーが増加した. またエラーの内容は, 単に隣接した位置を選択したというのではなく, 反応するべき正答に隣接した位置を選択するというものであった. つまり, エラーは抑制の問題よりも記憶の正確さによることが示唆された. そこで本研究ではこの課題を老齢ザルで行うことによって, 加齢にともなう空間記憶と抑制機能の変化について検討することを目的とした. 従来の研究から,若齢ザルは記憶すべき情報が多くなると, 後半になってエラーが増加し, その内容は正答に隣接した位置を選択するというものであると予想される. しかし,老齢ザルにおいて記憶だけでなく抑制機能も低下しているのであれば, 老齢ザルのエラー数が若齢ザルよりも多いというだけでなく, その内容は正答の位置とは無関係に, 最初の選択に隣接した位置を選択してしまうというものであると予想される.

 老齢ニホンザルと若齢ニホンザルについて, サル類の学習実験に用いられるWGTAを使用して基本的な動作の訓練を始めたが, 被験体に感染症罹患の可能性があったため, その後の実験を中止した.



B-67分布拡大が続く中部山岳地域のニホンザルの遺伝子 モニタリング

赤座久明(富山県自然保護課)

対応者:川本芳

近畿地方から中部地方の日本海側に広域的に分布しているJN21タイプ(kawamoto et al 2006による分類)に注目して, 新たにDループ第1可変域575塩基対のの変異を解析し, 地域間の遺伝子変異を比較した.DNA試料は, 香川県小豆島,京都府伊根・宮津・丹後, 滋賀県マキノ, 福井県美浜, 石川県一里野, 岐阜県美並, 富山県滑川・魚津・黒部・朝日の各地点で採取した19個体の雌の血液と糞から調整した. 分析の結果, 19個の試料から8種類のハプロタイプを検出した.塩基置換サイトの数は合計14箇所で, 8タイプ間の置換数は最大値が9, 最小値が1であった. 各タイプの置換数を比較すると, 8タイプは大きく2つのグループに分かれた. 1つは香川, 京都, 滋賀, 福井に分布する近畿グループ, 他の1つは石川, 岐阜, 富山に分布する中部グループである. 置換数は生息地間の距離を反映しており, 生息地が近いタイプ間では置換数が小さく, 遠くなると置換数は大きくなる. 近畿グループ内では, 香川県小豆島に生息するタイプの置換数が大きく, 中部グループ内では富山県黒部川上流域に生息するタイプの置換数が大きかった. いずれも離島や急峻な山岳地帯という生息環境が, そこに生息する群れを長期間隔離した結果と考えられる.



B-68体毛の安定同位体比を用いたニホンザルの食性推定のための基礎的研究

大井徹 中下留美子(森林総研)

対応者:濱田穣

動物の体毛の毛先から根元にかけての安定同位体比は, その成長過程で動物が摂取し同化した食物の安定同位体比を刻々と反映することが知られている. そのため, 体毛の安定同位体比から食性の季節変化を推定できる. そこで, ニホンザルでこの手法による食性推定法を確立するため, 飼育個体を用い体毛の成長率, 安定同位体の代謝の実態を明らかにした.

2010年6月17日から2011年3月28日に, ニホンザル2個体において, 肩甲骨部, 前頭部, 大腿部の体毛を, 約1カ月毎に剃り取り, 体毛の成長速度を測った. また, トウモロコシ(他の食物と比べて顕著に高い炭素安定同位体比を示す)の給餌期間と, サル用固形ペレットの給餌期間とを約1カ月ずつ交互に設け, 成長下にある体毛の安定同位体比にどのように反映するか測定した.

体毛は毛剃りを続けている間, 発毛・成長した. 2個体のそれぞれの成長速度は, 頭部で0.46±0.03/day, 0.37±0.15, 肩甲骨部で0.66±0.20,0.57±0.06, 大腿部で0.53±0.05,0.30±0.08であった. 給餌実験直前に採取した血液, 体毛, それまでに給餌していた固形ペレットの安定同位体比の差から同位体分別率は, 体毛, 赤血球, 血漿の順に窒素安定同位体では, 3.3‰, 3.1‰, 3.6‰, 炭素安定同位体では2.7‰, 1.2‰, 2.1‰ と推定された.炭素安定同位体比のトウモロコシ給餌期間(17.5±0.5‰)と固形ペレット給餌期間(20.4±0.2‰)を比較すると有意に差が認められた.

サンプルの測定はまだ中途であり, さらにデータを追加して, より精緻な検討をする予定である.



B-69ニホンザルの人工繁殖を目指した技術開発

高江洲昇, 伊藤真輝, 石橋佑規, 朝倉卓也(札幌市円山動物園)

対応者:今井啓雄

円山動物園で飼育しているニホンザルは, 個体数のコントロールのため, オス個体全頭に精管結紮切除術を施し,繁殖制限を行っている. そのため, 将来的な個体数の維持が課題であるが, 本園では人工的な精液採取, 精子の凍結融解および人工授精等の人工繁殖技術の応用により解決を試みることとしている. 本研究はそのための技術向上を目的とする. 本園飼育のオスのニホンザル4頭の精管に針を挿入, 吸引し, うち1頭から活性のある精子が得られた. 採取した生の精液を排卵誘起したメスの膣内へ挿入したが, 妊娠の兆候は見られなかった. 霊長類研究所飼育のオスについては,肛門に電極棒を挿入し電気刺激を行う方法により, 2頭中1頭から精液を採取した.本園飼育および霊長類研究所飼育個体から得られた精子については, 液体窒素による凍結保存を実施し, 後日融解し評価を行ったが,人工授精に利用できるような精子性状は得られなかった. 今後は, オスの精液採取率向上のための精液採取時期および採取個体の見極め, メスの授精適期の見極めおよび排卵誘起法についてさらなる検討を重ねる. また, 精液の凍結融解について, 本園飼育の他の希少霊長類への応用も視野に入れ, 良好な精子性状を得るための条件を検討していくこととする.



B-70テナガザル類における歌の発達研究

親川千紗子(東北大・院・農学研究科)

対応者:香田啓貴

コドモテナガザルの音声発達の縦断的な研究から, コドモは両親の歌に参加することで両親の歌に影響を受けることが明らかとなり, 遺伝的な要因だけでなくある程度の学習経験によって獲得していることが示唆された. 本研究では福知山市動物園で飼育されているコドモテナガザル(3歳)を対象に, 母親(飼育者)と同時の発声場面を通して, 母親(飼育者)の何を手がかりに一緒にグレートコール(GC)を発声するのか, 2006年に行った実験をビデオ分析した.また, 同個体が性成熟(6歳)した2010年9月に母親(飼育者)の刺激でGCがまだ誘発されるのか検討した.

2006年の実験により, 飼育者の音声, 飼育者の顔, 飼育者との距離などが発声を誘発する刺激と分類された. これらの刺激を用いてどの要因が未成熟個体 (3歳) の発声を誘発するのか検討した結果,飼育者の音声が最もGCを誘発することが分かった. また, 発声し始めの際に飼育者の顔が見えていることもある程度重要であることが分かった. さらに,性成熟後(2010年)に同個体で,飼育者の音声や顔などの刺激を用いてGCの誘発実験を行ったが, 興奮したような音声は発声するものの, GCは1度も発声しなかった.

現在単独飼育されており, 自発的なGCなど歌の発声はあまり観察されていない. 今後ペアをつくりデュエットする中で, 性成熟前後でGCがどのように変化するのか検討する予定である.



B-73 The genetic basis of blue eyes in primates

Molly Przeworski(Univ. of Chicago・Human Genetics)Wynn Meyer(Univ. of Chicago・Human Genetics)Joseph Pickrell(Univ. of Chicago・Human Genetics)

対応者:Sachiko Hayakawa (PRI) Hiroo Imai (PRI) 

Only three primate species have blue eyes: a subset of humans and Japanese macaques (Macaca fuscata) and one subspecies of black lemurs (Eulemur macaco flavifrons). The genetic basis for blue/non-blue eyes is now well understood in humans. Our goal is to examine if this phenotypic variation is due to the same alleles in non-human primates, and if not, to identify genetic variants associated with this difference in eye color. 

This was the second year of the project. We have moved all the target macaques' DNA samples from PRI to the University of Chicago, where we are going to sequence the region homologous to that containing the suggested causal site in humans in a subset of these samples. We are also processing the images of the macaques' eyes to quantify the phenotypic variation. We plan to test for associations between any sequence variants that we find within the homologous region and quantitative phenotypic variation in the macaques. In the absence of such an association, we will continue to sequence other regions associated with eye color variation in humans in the macaque samples.



B-74サル胎仔肺低形成の子宮内回復−羊水過少による肺低形成モデルと成長因子

千葉敏雄, 角倉弘行, 梅澤明弘(国立成育医療研究センター)

対応者:鈴木樹理

我々の実験の目的は胎児期の肺低形成に対する治療である胎児気管閉塞術の(肺再生)効果増強ないしその代替低侵襲治療手技を確立することである.

実験は胎児期の肺低形成モデルを作成し, 手術手技を確立するとともに, 回復過程での成長因子の特定を行う.

このモデル作成のためには, 羊水の一部除去による持続的な羊水過少状態を作り出す必要がある.

当初計画していた手術手技の確立および成長因子を特定する実験を行う前に, 慎重を期して予備実験を行った. 具体的には昨年度行った基礎的実験(超音波エコーを使って母体外から胎児胸腔内に生理的食塩水を注入)では, 実験後にも妊娠が正常に継続され, 正常に新生児が生まれた. その後そのこどもは正常に発育している. 

本実験によって当初の計画通りの手技で実験を進めることが可能であると確認できた. また, 実験後, 胎児も無事に出生し何の障害もなく成長し母親にも全く問題が認められなかったことから, 本実験計画を来年(平成23年)度に実施する予定である



B-75視覚的風景認知における注意の働きとその霊長類的起源

牛谷智一(千葉大・文)

対応者:友永雅己

空間的注意課題を用いたヒトの視覚認知研究では, 標的刺激への反応が, 先行刺激と同じ「視覚的まとまり」(=オブジェクト)内に出現したときに速くなる(オブジェクト内利得)オブジェクトベースの注意過程が知られている. これまでの実験では,ヒトと同じ課題をチンパンジーに訓練したところ, ヒトと同様にオブジェクト内利得が見られた.さらに, オブジェクト同士を重ね, 光学的に分断しても,それら図形の断片が知覚的補完によって1つのオブジェクトを形成している場合には, このオブジェクト内利得が見られた. 次の実験では, 図形の輝度配置を操作し, 図形の断片が透明視によって1つのオブジェクトを形成している場合にも, オブジェクト内利得が示された. これらの結果は, チンパンジーが補完や透明視を経験しており, チンパンジーの注意が, 単純な空間手がかりだけでなく, それら高次な知覚処理の結果得られた表象によっても捕捉されるうることを示唆している. チンパンジーの視覚的風景認知における注意の働きについて理解を深めるために, 今後, 注意の賦活領域やオブジェクト内利得が, オブジェクトの形状によってどのように変化するか検討すべきことを確認した.

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(3) 随時募集研究

C-1脳幹聴覚神経回路の比較解剖学

伊藤哲史(福井大・医・人体解剖・神経科学)、

対応者:高田昌彦

聴覚神経系において最初に音情報処理の統合を行う核である下丘には, 密にVGLUT2陽性興奮性終末に覆われた大型の抑制性細胞が存在し, これは視床を抑制する(Ito et al., 2009). この密な興奮性終末は多くの聴覚神経核に由来するようであり(未発表データ), 大型抑制性細胞は聴覚情報の統合を行い, 視床にそれを伝えると推測される. 上述した知見はげっ歯類で得られたものであり, このような細胞が霊長類にも存在するか知ることによって, 下丘における聴覚情報処理が霊長類とげっ歯類との間でどれほど共通するか理解を深めることができる. 当研究ではニホンザルの脳幹から切片を作成し, 興奮性終末マーカとしてVGLUT1とVGLUT2を, 抑制性ニューロンのマーカとしてGAD67を用いて聴覚神経核におけるこれらマーカの空間分布を調べた. 聴覚神経核の大きさや形はげっ歯類とニホンザルで大きな違いが見られたものの, 免疫反応のパターンは大いに共通していた.さらに下丘において, VGLUT2陽性終末はGAD67陽性細胞体の周囲を密に取り囲んでいた. これらのことから, げっ歯類と霊長類では神経核の大きさの違いに基づく機能の違いが想定される一方, 個々の神経核における局所回路には大差がないものと推測される.



C-2注意欠陥/多動性障害(ADHD)の動物モデル

船橋新太郎(京都大・こころの未来研究センター)

対応者:正高信男

注意欠陥/多動性障害(ADHD)児は, 集中力の不足,衝動性, 気分の易変性,落ち着きのなさ, 協調運動の障害などの行動上の特徴を示し, 学校教育場面で大きな問題になっている. ADHD児に見られる行動上の特徴が前頭連合野損傷者で報告されている実行機能障害と酷似していること, methylphenidate (MPD)がADHDの薬物治療に有効であることから, 発達過程で前頭連合野内に生じたドパミン(DA)伝達系の異常がADHD児に見られる行動変化の要因であることが示唆される. 前年度までの研究で, 幼年マカクザルの前頭連合野に投射するDA系線維を6-OHDAにより破壊し, その後の行動観察によりADHD児に見られる行動特徴と同様の特徴が生じることを行動学的に検討すると同時に,破壊による障害の臨界期の有無を検討してきた. 今年度は,放射線医学総合研究所で実施したPET計測による脳内DA受容体の分布の検討を試みようした. また, 6-OHDA処置をしていない動物の脳内DA分布の組織化学的検討を組み合わせて, 動物モデルとしての有効性を検証しようと試みた. 現在まだ両方の解析が終了しておらず, 解析を続行している.



C-3ニホンザルの保全学史に関する研究 (1)

和田一雄

対応者名:渡邊邦夫

ニホンザル野外観察施設は, 霊長研設立当初の全体計画には含まれていなかった. フィールド系の教官は1970年にニホンザル研究林実行委員会を設置し,同施設実現に向けて活動を開始した. 下北, 志賀高原, 木曾, 屋久島で国有林内に研究林地域の設定を依頼した. 4地域の国有林は設定地域の施業にそれなりの配慮をすることで了解された. 下北研究林は1973年に,志賀高原研究林は1978年に,屋久島・木曾研究林は1983年に許可されて,同施設は完成した. 完成に至る過程には,日本の社会的諸状況が大きく関与したと思われる.

 第一に, 1960-70年代日本における当時の活発な野外調査活動があった. 下北, 白神, 金華山, 日光, 房総, 箱根, 南アルプス, 志賀高原, 黒部, 白山, 比叡山, 嵐山, 箕面, 勝山, 福井県音海, 九州香春岳, 屋久島など多数ある. これら諸地域におけるニホンザルの保全に関する諸問題は多岐にわたり, これらの多くが霊長研の共同利用によって行われていた. 第二に, 当時森林施業に大規模に除草剤が使われ, 地域の生物群集に大きな打撃を与えることが懸念されていた. 1970年6月に下北半島の国有林造林地90haに除草剤(ブラッシュ・キラー)が空中散布され,研究 者間で大きな問題として取り上げられた. これが, サルの保全に注目を集める役割を果たしたと思われる.



C-4霊長類の顔面浅層表情筋について 〜ヒトとの比較, ヒトへの進化様式

柏谷元, 藤村朗(岩手医大・医)

対応者:濱田穣

2010年7月, カニクイザル成体保存死体2体より頭部2個を研究用に供与頂き, 本学(岩手医大)にて研究を開始した.

(1)MRIによる観察

組織の乾燥および委縮によりプロトン信号は弱く, 筋肉,軟組織の描出は不良であった. 筋肉, 脂肪, 線維成分の同定は困難であった. 本法では求めようとする所見が得られなかった.

(2)肉眼解剖

 頭部1個をこれに用いた. 試料を一定期間(約1週間)ホルマリン液に再固定したのち, 手術用顕微鏡下に微細摂子, 尖刀を用いて解剖した. 皮膚を薄く丁寧に剥がすと皮下に浅筋膜と呼ばれる白色の線維性構造体が観察された. この中に頭蓋表筋, 眼輪筋(それらは淡黄色〜淡褐色に見えた)が含まれた. 顔面下半では広頚筋も同様の所見であった. すなわちこれら筋群は顔面筋の中でも最表層を形成し, 浅筋膜の概念にはこれらを含めるべきと考えられた. 深部の筋構築は現在剖出, 検討中である.

(3)顕微解剖

 現在, プランク・リクロ液にて脱灰処理中であり, 観察に至っていない.



C-5 MRI画像, CT画像からみた類人猿の脳形態とその発達

三上章允(中部学院大・リハビリテーション)

対応者:宮地重弘

 ヒトの脳の進化を考えるとき, 化石人類の頭蓋の骨は脳のサイズや形の進化についてのデータを提供してくれる. しかし, 脳そのものの情報は, 化石人類の骨からは得られない. そこで現生の動物の脳を系統比較する研究が行われてきた. 特にチンパンジーの脳は遺伝的距離がヒトに最も近いことにより注目されてきた. そこで, チンパンジー頭部をCTとMRIにより同日計測し, MRI画像が不得意とする骨の画像を含むCT画像とCTが不得意とする脳実質を含むMRI画像を比較検討することにより ,化石人類の脳の推定に寄与できる基礎データを得ることを目指した. MRI計測は, 3D gradient echo法を用い, 3次元画像データからCT画像と同じ断面のMRI画像を作成することで比較を試みた. 2頭のデータを現在解析中であり, 平成23年度中の取りまとめを目指す.



C-6霊長類における糞尿を用いた新たな生理指標の評価検討

清水慶子(岡山理科大・理・動物)

対応者:橋本千絵

糞尿中ホルモン測定法を類人猿およびマカク属サルの雄・雌の繁殖状態の推定および性成熟度や老化の程度の推定に応用するため, 性腺および副腎皮質由来のステロイドホルモンについて, 二抗体酵素免疫測定法による測定系の開発およびその検討を行った. 加えて, 実際に類人猿およびマカクの糞尿を用い, これらの測定において至適の保存条件や抽出条件を決定するため様々な方法を試みた. これらの結果, これまでに申請者らが確立した性腺由来のプロゲスチン, エストロゲン, アンドロゲン, ゴナドトロピンの二抗体法酵素免疫測定法に加え, 副腎由来のアンドロステンジオン, デヒドロエピアンドロステンジオンについての測定法を確立することができた. すなわち, 糞尿中プロゲスチン, エストロゲン, アンドロゲン, アンドロステンジオンおよびゴナドトロピン濃度測定による性別および性成熟度推定, 卵胞発育や黄体形成, 排卵や妊娠の確認が可能であった. また, これらの方法を用いて, 飼育下マカク属サルの糞および尿, 対応者が採取した野生チンパンジーの糞および尿中のホルモン量を測定することができた. また, 野外における糞尿の採取法, 保存方法の改良,抽出条件の検討をおこない, 冷蔵, 冷凍設備の確保できない野外において得られたサンプルからもホルモン代謝産物測定可能な方法を考案した. 現在さらに精度向上のために検討を行っている.



C-8野生チンパンジーの肉食における狭食性の研究

保坂和彦(鎌倉女子大・児童)

対応者:HUFFMAN, Michael A.

今年度は, 2008−2009年度のマハレ山塊(タンザニア)における野外調査で収集した狩猟肉食行動の資料を整理するとともに, 調査地を同じくする研究者との共同研究の打ち合わせを進めた. マハレのチンパンジーの狩猟肉食行動の長期継続資料については, Hosaka et al. (2001)以降, まとまった出版物がなく, 1996年度調査以降のデータの共有と成果公表を急ぐ必要がある.本研究テーマと関連して, 明らかになりつつある事実は以下の通りである.

1)アカコロブスが8割以上を占める主要な獲物となった1990年代の傾向は,2000年代も不変である.

2)アカコロブスのオトナ雄による攻撃的な対捕食者行動の頻度が局所的に増えているという見解をもつ複数の共同研究者がいる. これをいかに分析的な結論に持ち込むか, 共有資料抽出の方針を立てていきたい. 合わせて, アカコロブスの対捕食者行動における局所的な差異がチンパンジーの狩猟決定や成功率にどのように影響しているか,分析を進めていきたい. 

3)1997年に初めて記録されたキイロヒヒに対する狩猟は散発的に続いているものの, 頻度はきわめて稀である.狩猟方法はアカコロブスに対する集団追跡型ではなく奇襲型のようである. 前者はオトナ雄が中心で興奮した状況で開始されるが, 後者は未成熟個体が中心で静かに進行するようである.



C-9ニホンザルにおける多対多関係の理解に関する研究

川合伸幸(名大・院・情報科学)

対応者:正高信男

これまでに, サルや類人猿およびハトなどに概念を教える試みが数多くなされ,それらの動物は人工的な概念(コップ)や自然概念(水や同種)を獲得することが示されてきた. 見本合わせ課題を一対一の関係の学習と捉えれば, 概念学習は, 数多くの刺激(たとえば,数十枚の異なる「カップ」が映った写真)を1つの刺激と対応させる多対一の学習と見なすことができる. しかしヒトの場合は, さらに複雑な対応(関係)を学習する. たとえば, あらゆるイヌ(チワワやドーベルマン)に,「イヌ」や「ワンワン」「ドッグ」など複数のラベルで同じ概念を表現することができる. すなわち, 多対多の関係の学習が可能で, これがヒトの単語学習の根底にあると仮定した. これまで, サルがこの多対多の関係を学習するかは, ほとんど検討されたことは無い. そこで本研究では, サルが多対多の関係を理解できるか,実験的に検討した. 実験が予定通りに遂行できなかったが, 1個体のサルが, 2つの概念(イヌとヒト)を構成する写真に任意のシンボルを連合させられること, またその概念に含まれる新奇な写真に対しても般化した. 白黒写真に対しても般化が見られたので,ある概念を代表する特定の色とシンボルを連合させているわけではない. すなわち, 1個体ではあるが, サルでも多対多の関係を学習できる可能性が示唆された.



C-10ニホンザルの上下顎乳臼歯と大臼歯の歯冠形態の変異性の検討

二神千春(愛知学院大・院・歯)

対応者:高井正成

乳臼歯と大臼歯は第一生歯に属し, 形態的に類似しており, 第一生歯における臼歯列では近心から遠心に向う形態的な勾配が見られる. とくに第四乳臼歯,第一大臼歯, 第二大臼歯(dp4,M1,M2)は, 上・下顎とも, それぞれ相同な咬頭をもち, 歯冠外形, 溝型などが同じパターンを呈する. 本研究ではこれらの臼歯の歯冠の形態的な類似点と相違点を数量的に比較検討することを目的とした. 歯冠径は咬合面観の規格写真上で計測し, 計測項目はMD-max, MD, BL-max, BL-M, BL-D, 頬側と舌側の各咬頭の最大膨隆点間距離(MD-B,MD-L)とした. 各計測項目でM2>M1>dp4であった. 幅厚指数はM2>M1>dp4であった. 上顎臼歯の頬側指数(MD-B/MD-max×100)はM2>dp4>M1であった. 舌側指数(MD-L/MD-max×100)はM2>M1>dp4であった. 下顎臼歯の頬側指数はM2>M1>dp4であった.舌側指数はM1>M2>dp4であった. 上顎では,dp4がM1,M2に比べ, 舌側半分が窄まった形態を示した. 頬側咬頭の相対距離でdp4とM1が近似した傾向を示した. dp4ではM1,M2に比べ舌側の咬頭が頬側の咬頭より発達が悪いことを示唆していると言える. 下顎では, 舌側咬頭の相対距離,面積比でM1とM2が近似した傾向を示した. 大臼歯ではdp4よりもタロニッドの面積比が大きくなった.dp4よりも遠心位の咬頭の面積比が大きくなった. 以上のことから, 顎の成長にともなって遠心位の臼歯ほど全体的に大きくなり, M1,M2では特に機能的要求により, 頬舌方向にサイズを増したと考えられる.



C-11大型類人猿のヒト由来疾病への反応に関する基礎研究-チンパンジーとヒトの交差感染症の長期研究-

郡山尚紀(北大・院・獣医)

対応者:宮部貴子

我々は, これまで継続的に(平成18年から)60種類のヒト由来病原体について霊長研のチンパンジーの血清学的解析を行ってきたが, 22年度にはさらに検査項目数を増やす事できた. 結果を分析すると36項目のヒト由来病原体に対して抗体を有していることが分かった. さらにその結果を年齢で分けると, AdeV2, 6, HHV6, PIV3, hMPV, RSV, AdeV4, 5, CMV, VZV, EBVは全ての年齢層で見られ, AdeV7は10才齢において, AdeV3, ReoVは10才および27~30才齢において, 百日咳菌と麻疹ウイルスは27~30才齢において, CoxV5は31~32, 42才齢において, HAVは42才齢において感染個体数が多い事が分かった. 今回検出された病原体は野生下において特定されたものよりもはるかに多く, 今後野生下において新たに検出される可能性が高い. 我々のデータは野生チンパンジーのヒト由来感染症の蔓延防止の重要な情報になると考えられる. また, 特にRSV, hMPV, PIV3は人において繰り返し感染する事が知られており, 野生下においても再び流行が起こる可能性がある(2010国際霊長類学会発表).



C-12相対運動パタン弁別の種間比較 -ヒト, チンパンジー, ニホンザルを対象に-

白井述(新潟大・人文)

対応者:友永雅己

放射状の拡大・縮小運動や回転運動といった相対運動パタンの視知覚について, 本年度は主にチンパンジーを対象とした行動実験を実施した. 具体的な手続きとして, タッチパネル式のコンピュータモニタ上に,複数の相対運動パタンから構成される視覚探索課題刺激を提示した. 全部で4つの刺激条件を設定し, それぞれ拡大探索刺激(1つの拡大パタンと,複数の縮小パタンで構成), 縮小探索刺激(1つの縮小パタンと, 複数の拡大パタンで構成), 右回転探索刺激(1つの右回転パタンと, 複数の左回転パタンで構成), 左回転探索刺激(1つの左回転パタンと, 複数の右回転パタンで構成)とした.各試行において, 提示された刺激に1つしか含まれないパタンをターゲットと定義し, ターゲットに触れることができれば正答とみなした.実験の結果, チンパンジーでは拡大探索刺激が提示された場合のみ, チャンスレベルを上回るターゲット検出成績が観察された. 今後は, 同様の実験を継続しながら, こうした傾向が, ヒトやニホンザルなどにも観察されるかどうかについても検討を行う予定である.



C-13類人猿における胸腔内の心臓と大血管の空間配置に関する比較解剖学的研究

澤野啓一(神奈川歯科大)

対応者:濱田穣

筆者によるこれまでの一連の研究で, 類人猿を除く他の哺乳動物では, しばしば直立姿勢を取るように見えるMacaca fuscata, M.mulatta, M.fascicularis, Papio hamadryasなどのCercopithecinaeのサル類, あるいはUrsus, Selenarctosなどのクマ類でも, その胸腔内に於ける心臓と大血管の配置・結合関係は, 意外にも他の四足歩行の哺乳類と大差は無かった(Sawano 1992, 澤野啓一1996など).それらの心臓の周囲は, 肺ですっぽりと覆われていて, 心臓の尾側には大きなLobus mediastinalisが存在し, 上下のVenae cavaeはほぼ同様の長さをもっており, その中央部に心臓が存在するという空間配置で, 縦隔のDiaphragmaへの結合面は比較的狭い領域に限定されていた.今年度のPan (Chimpanzee)に関する解剖学的検索によれば, その心臓の配置は, Apex cordis をcaudo-sinistra に向けた状態でDiaphragma の上に直接横たわっており, それに対応して, Pericardiumは広範囲にDiaphragmaに結合し, 肺のinfracardiac (azygos)lobeは存在しなかった. 胸腔内におけるVena cava inferior は非常に短い状態であった. このような空間配置は,基本的にHomo sapiens と同様である. 今後他の類人猿についても精査する必要が有るが, このような検索結果から,少なくともPan (Chimpanzee)の姿勢や運動様式が, 一般的四足歩行から直立二足歩行への移行段階の途上にあると考察することには, かなり無理が有ると感ずるのである.

本研究は, 京都大学霊長類研究所の共同利用研究として実施された.



C-14 霊長類における LCR の構造解析とCore Dupliconの同定

清水厚志(慶應大・医)

対応者:平井啓久

染色体の微小欠失・重複を伴うヒト疾患が多数知られており, それらの疾患における欠失・重複領域の両端には相同性の高い塩基配列LCR (Low Copy Repeat)が存在し, LCRを介して欠失・重複が起こると考えられている. LCRは1 kb以上で相同性が90%以上のゲノム配列と定義されているが, 500 kb以上の長大なものもある. 複数種の特徴的な塩基配列がユニットとして組み合わさり複雑な構造をとることも多い. それらのユニットは, AluやLINE-1等の高・中頻度反復配列の他に転写されない遺伝子や偽遺伝子, あるいはそれらの断片様の塩基配列を含む. 恐らく,ユニット(SD)は進化の過程で, ゲノム断片が重複や逆位, 欠失等の大規模変化を繰り返して形成されたと考えられる.

SDは特にヒトゲノムで多く, アカゲザルの1?2%に対してヒトでは5?6%を占める.我々は特にWilliams 症候群関連SDに着目し, ヒトを含む霊長類に関して相同領域の詳細なゲノム構造解析とSDの分類を行ってきた. 本年度はテナガザル, マーモセット, マカクのSDの配列決定を目標としていたが, 血液サンプルが得られなかったので, マカク培養細胞(LLC-MK2)より, ゲノムDNAを抽出しマカクSDの配列決定を行い, ゲノム進化解析を行った.



C-15 Comparative transcriptome in primates

Philipp Khaitovich(Institute for Computational Biology, Chinese Academy of Sciences, China)

対応者:Go Yasuhiro

In this collaboration study, we set up to evaluate transcriptome changes with age in humans, chimpanzees, rhesus macaques and marmosets in specific brain regions, prefrontal cortex and cerebellar cortex. By doing so, we will identify human-specific changes in gene expression and gene splicing, as well as determine an overall rate of transcriptome evolution among primate species. Furthermore, we will assess changes in gene expression and gene splicing with age across the four primate species. In each species the age of studied individuals covers most of lifespan. There are, however, few middle aged individuals in chimpanzees and there could be some chance to obtain these samples from PRI. In this year (2010), we did not find any available chimpanzee sample from PRI due to difficulties of getting CITES permission to export the samples from Japan. Then, we had no chance to obtain and analyze the samples from chimpanzees stocked in PRI this year.



C-16コモンマーモセットにおける認知機能測定系の開発

Enrique Garea Rodriguez (German Primate Center)

対応者:中村克樹

精神・神経疾患研究における実験動物としてのマーモセットの価値・有用性を高めるために, マーモセットの認知機能を適切に評価できる認知機能検査バッテリーの開発が必要である.本研究では, 対応者の研究室で開発された, マーモセットの飼育ケージに設置可能な認知実験装置を用いた認知機能測定を行った.

 具体的には, タッチセンサー付きモニターを利用した認知実験装置を個別ケージの前面扉に設置して実験を行った. 被験体は, アダルト(2歳)マーモセットオス2頭. 最初に, 2頭にモニターを触ると報酬が得られることを学習させた. その後, 視覚弁別課題を学習させた. この課題では, 左右に対提示された一方(S+)を触ると報酬が得られるが, 他方(S−)を触っても報酬が得られないという課題で, 視覚刺激と報酬の連合を学習する. マーモセットは2頭ともこの課題を1週間以内に学習した. さらに, その後, 逆転学習課題を学習させた. これは, 手続きは視覚弁別課題と同じであるが, 一旦学習した視覚刺激―報酬の連合を逆転させ, それまでS−であった刺激が今度はS+に,逆にS+であった刺激がS−になる. マーモセットはどちらもこの課題を学習することができた. また, 固形報酬の作製方法も学んだ.現在, German Primate Centerにこの手法を導入し, 研究を行っている.

また, 本研究は京都大学ですでに承認されている研究(09−62)として実施された. このプロジェクトの他の実験にも参加した.

 滞在期間は1カ月弱であったが, 実り多い共同利用研究となった.



C-17 Activity-Sleep Quantitation in New World Monkeys by actigraphy

Sri Kantha Sachithanantham (岐阜薬科大)

対応者:鈴木樹里

Vigilance, a critical evolutionary adaptive feature of predator avoidance, is exhibited by Callitrichid monkeys [Comp.Biochem. Physiol. Pt. A 2006; 144: 203-210]. Quantitating the occurrence of vigilance during sleep phase under captive conditions was the objective of this project. For vigilance to be recorded, we chose common marmosets (Callithrix jacchus) belonging to one family which are kept in a single cage. Three parameters, namely, activity counts, total sleep time (TST)/24 h. and sleep episode length (SEL)/12 h. dark phase were measured daily for 11 days using tagged actiwatches in a family consisting of 4 siblings (aged 7 months to 1 yr) and father (4 yr). While there was no noticeable difference in the TST/24h among the tagged marmosets (range 681 - 781 min), we could quantitate that on specific days of the recording period, one of the five marmosets had an unusually long SEL/12 h dark phase exceeding 4-6 hours. The usual SEL/12 h dark phase for marmosets average between 20-50 min. It could be explained that the individual that records the longest SEL/12 h dark phase on specific days were cared for by other vigilant members of the family. But, why this should occur requires further detailed investigation. 



C-18霊長類ヘルペスウイルスに関する研究

光永総子,中村 伸(NPOプライメイト・アゴラ・バイオメディカル研究所)

対応者:明里宏文

サル類ヘルペスウイルスには, ヒトに致死的なマカクザルBウイルス(BV)などがあります. サル類飼養・試験・研究施設では, これらウイルス感染の検出と統御のため, 高感度で特異的な抗体検査やウイルスDNA/RNA検出が必要となります. 私たちは, これまで, BVと, ヒヒアルファヘルペスウイルス(HVP2)との高い抗原交差性を利用し, HVP2を用いたBV抗体検査を確立し, 実用化してきました(HVP2-ELISA). このHVP2-ELISA法は高感度・高信頼度であり, スクリーニングに適しています.ただし, 抗原としてウイルス全体(ウイルス感染細胞可溶化物)を使っているため, 陽性サンプルが, BV, HVP2, ヒト単純ヘルペスウイルス, 或いは他のアルファヘルペスウイルスのどれに感染しているかは断定できません. これは, BVを抗原として用いたとしても, 同様なことが言えます. そこで, 私たちは, BVのglycoprotein DのC末端部分に, 抗原性の強いBV特異的なアミノ酸配列あることに着目し, その配列の合成ペプチドを用いたBV特異的ELISA法について検討しております.

本研究では, BVに感染したマカクザルのサンプルおよび関連アルファヘルペスウイルスに感染したサル類のサンプルを用いて, 現在開発中のBV特異的ペプチドELISA法の最適条件を見出し, BV特異的抗体検出法の適用性, 信頼度を高めることを目的としました.

今年度は血小板減少症に対する対策のため, マカクザル血液サンプルの採取が困難で, 今回サンプルは得られませんでしたが, ELISA法条件の予備検討を行いました. 検出の感度と信頼度を上げるため, signal/noise比を上げる目的でブロッキングの絞り込みを行うなどの条件化を図り, 次の機会に供与して頂く血液サンプルの適用に備えました.



C-19ニホンザルの双子における母親の育児投資行動の研究

原澤牧子(京都大・院・生物科学)

対応者:香田啓貴

霊長類研究所内の放飼場において, 双子と思しき2子を連れたニホンザルの母親の育児行動について, 半年に渡り観察を行った .双子の出産はニホンザルでは稀であり成長過程の研究も不足している. 本研究では母親にとって負荷の増大が著しい運搬行動を中心に, 2子に対して育児投資がどのように分配されるのか検討を行った. ただし, 群れ内の出産状況などを考慮すると2子の一方は別のメスが産んだ子(養子)である可能性も高く, 血縁の有無に関しては今後DNAを用いて母子判定を行う予定である.

出産当初の5月の時点では, 母親は2子に対し等しく接しており, 育児投資量に大きな差異はないように思われた. 一方で, 授乳時に左右どちらの乳首をくわえるか, 運搬時に体のどの辺りにしがみつくかといった子の行動については, すでにそれぞれの嗜好が強く示されていた. その後 ,出産から半年を過ぎると, 母親の育児投資には2子間で明らかな差異が生じ, 2子の一方ばかりが優遇されるようになった. 投資の差は授乳や単純な接触時間において強く示され, 運搬に関しては「量」そのものより「運び方」に違いが表れていた. 2子間の違いが何に起因するのか, それによって母親がどのように投資量を調整しているのか, 母子の血縁をはじめ, 子の成育状態や周辺個体との関係性などについて分析を進めていくことで明らかになっていくと思われる.



C-20 Self Medicative Behavior in Chacma Baboons

Paula Pebsworth (Wildcliff Nature Reserve)

対応者:HUFFMAN, Michael A.

土食行動はヒトを含めて多くの霊長類にみられる. 摂取する粘土には, タンパク質, 炭水化物, 脂質,ビタミンといった栄養素は含まれておらず, 過剰な摂取は栄養不良や病気を引き起こすことから, 医療界では異常行動とされている. 一方, 民俗誌の文献によれば, 土食行動は下痢止め, 解毒, つわりの緩和の効果があるとされている. ヒト以外の霊長類においても, 寄生虫感染症の緩和, 二次代謝産物の豊富な植物性食物から摂取するタンニンやその他の毒物を吸収するため粘土を食べると報告されている. 本研究は, 南アフリカに生息するチャクマヒヒの土食行動を多方面的なアプローチに基づいて調べた. その結果, ヒヒが摂取する粘土の主要成分はカオリンとイライトで, 顕著な含水作用があることがわかった. 一方, 妊娠中のメスの土食に費やす時間は他の個体より優位に長かった. これは人間以外の霊長類種で始めて示されたものであり,また今までの動物おける機能仮説を指示すると同時に, 人間の妊娠中の土食行動を理解する上にも, チャクマヒヒが有効なモデルであることを呈示することができた.



C-21 ニホンザルについて緑内障モデル作成

平岡満里, 今西美知子, 植田弘子(東京都神経研究所)

対応者:高田昌彦

開放隅角緑内障の病因は, 高眼圧緑内障とは異なると予想されるが, 未だ解明されていない.

その責任部位について, 網膜神経節細胞,軸索, 外側膝状体, 大脳視覚野などが考えられるがその根底にある病態は, どこに根源を持つかを解明する必要がある.

そこで高齢ザルについて, その生理的加齢変化に加わる病因を検討する目的で,実験を行っている. 現在までに, 時間経過とともに緩徐に進行する軸索病変の作成に成功している. さらに霊長類にも自然発症の緑内障は予想されるが, それらと実験モデルとの比較からヒトにおける病因を追求することができると考えられる.

昨年までの実験は, 加齢黄斑変性の病因についてのものであったが, 結果がまとまったので現在,投稿中である.

また水晶体の調節機構についての成果は, The Anatomical Record,293:1797-1804 (2010)に掲載された.



C-22霊長類におけるブドウ球菌の進化生態学的研究

佐々木崇(順天堂大・医・感染制御)

対応者:鈴木樹理

哺乳類におけるブドウ球菌属の生態学的な先行研究の結果から, Staphylococcus delphiniの属するクラスター内の菌種群がローラシア獣類に宿主特異的に常在されていることがわかり, 本属菌が哺乳類宿主と共進化関係にあることが示唆されていた. 本研究では, ヒト科のヒト以外でほとんどブドウ球菌の生態が知られていなかった霊長目の動物種において,Staphylococcus属の種分布を調べた. 本属と哺乳類の共進化関係を明らかにし, ブドウ球菌属の出現年代推定を生態学的証拠および分子時計を用いて推定することを目的とした.

 ケタミン, メデトミジン筋注投与により全身麻酔を実施した個体の鼻前庭,外陰部を滅菌綿棒で拭い, それを検体としてStaphylococcus属を選択的に分離培養した. 現在までのところ,霊長研における飼育個体でチンパンジー3頭, ニホンザル15頭, アカゲザル10頭, タイワンザル1頭, マントヒヒ1頭, リスザル2頭からの検体採取を実施している.

 プレリミナリーデータではあるが, 真猿類の宿主動物はS. aureusやS. epidermidisの属するクラスター内の菌種を極めて高率に保菌している傾向がみられ,当該クラスター内のS. simiaeは新世界ザルに宿主特異的な種であることが示唆された.

 当初予定していた放飼群でのサンプリングが, 昨年のニホンザル血小板減少症発生のため実施できなかったため, 本年度も継続してサンプリングを続けていく.



C-23霊長類の光感覚システムに関わるタンパク質の解析

小島大輔(東京大・院理・生物化学)

対応者:今井啓雄

脊椎動物の網膜において近年, 視覚の一次感覚細胞である視細胞のみならず, 水平細胞や神経節細胞などの高次ニューロンにも光受容分子(非視覚型オプシン)が内在することがわかってきた. しかし, ヒトを含めた霊長類において, どのような種類の非視覚型オプシンが, どの網膜ニューロンに存在するのかについては,未だ謎が多い. また, 硬骨魚類等では末梢組織に光感覚をもつ例も知られているが, このような末梢光覚が霊長類において保存されている可能性はこれまで検証されていない. 本研究では,霊長類の網膜や末梢組織における光感覚システムの多様性を解析することを目的として,免疫組織学的な解析を進めている. これまでに,放血もしくは灌流固定したサル個体より, 眼球等の組織試料を採取した. 眼球試料より調製した組織切片に非視覚型オプシン抗体を反応させたところ, 一部の細胞に陽性シグナルを検出した. これらの陽性シグナルがオプシンに対する特異的な抗体反応に由来するものかどうかを確認するため, 眼球タンパク質抽出液に対するイムノブロット解析を行う予定である.



C-24霊長類味覚受容体遺伝子群の発現解析

石丸喜朗(東京大・院・農学生命科学)

対応者:今井啓雄

ヒトは25種類の苦味受容体TAS2Rによって, 様々な苦味物質を受容する. ヒトTAS2Rは味細胞ごとに多様な発現様式を示すのに対して, げっ歯類では多数のTAS2Rが同じ味細胞に発現すると報告されている.魚類では, 異なる染色体上に位置するTAS2Rは,互いに異なる味細胞に発現することが示されている. 本研究では,進化的にヒトと近縁なアカゲザルを用いて, 苦味受容体TAS2R遺伝子の発現様式を解明することを目的とした.

in situハブリダイゼーション法を用いて, アカゲザルTAS2R遺伝子26種類の有郭乳頭における網羅的な発現解析を行った. その結果, TAS2Rの種類ごとに発現細胞の頻度やシグナル強度は様々であった. 次に, 蛍光二重in situハブリダイゼーション法を用いて,2種類のTAS2R間の発現相関関係を解析したところ, 2種類のTAS2Rを共発現する細胞と, 1種類のみを発現する細胞が存在した. 以上より,アカゲザルの苦味受容体TAS2Rは, ヒトの場合と同様に, 味細胞ごとに多様な発現様式を示すことが明らかとなった.



C-25哺乳類の四肢骨形状・構造・材料力学的性質と姿勢および運動の関係を明らかにする 

和田直己, 板本和仁, 後藤慈, 中田瑞季(山口大・農)

対応者:西村剛

本研究課題は哺乳類の四肢骨(肩甲骨, 鎖骨, 上腕骨,トウ骨, 尺骨, 大腿骨, ケイ骨, ヒ骨)の形状, 材料力学的性質に哺乳類の体重, 重心の位置などの身体的特徴, さらに生活環境, 様式がどのように反映され, 骨が決定されるのかを明らかにしようとするallometricな研究である. 哺乳類を大きく, 陸上, 地下, 樹上を主な生活域とするグループに分類して, 体重10gから5000kgの範囲のさまざまな動物の四肢骨の情報を集めている. 霊長類研への共同利用の申請は昨年後半に行った. 本年度3月までに, ゴリラ, チンパンジー, オランウータンなどの類人猿を含めて41種類 60例の哺乳類の四肢骨のデータが蓄積された. 筋, 皮膚のある状態でのCT撮影, 生骨の重量計測(死体の提供を受けた場合), 骨標本の外形計測, 重量, CT撮影による断面形状,断面2次モメントなどの算出を行っている.



C-26ニホンザルにおける歯の組織構造と成長

Tanya Smith (Harvard Univ.・Human Evolutionary Biology・Dental Tissue Lab), 加藤彰子(愛知学院大・歯・口腔解剖)

対応者:國松豊

霊長類の歯の発生は, 出生よりも前に開始し思春期を通して続く. 多くの生体システムと同様に, 硬組織形成はサーカディアンリズム(概日周期)により特徴づけられている. 成長率と時間は永久的にエナメル質や象牙質の成長線として記録され, これらの組織に何百年もの間, 変化することなく存在し続けている.これら長期的, 短期的な線の計測により, 硬組織の分泌速度や分泌期間に関する詳細な情報を知ることが可能であり,歯冠形成時間, 歯根伸長期間, 成長過程におけるストレス 付加の記録や, 成長している歯列における死亡年齢を決定するのに有効であることがこれまでの研究により明らかになっている.

平成22年度は,若年の高浜ニホンザル個体群から,上下顎のどちらかに,咬耗のほとんどみられない第1・第2・第3大臼歯をもつオス4個体, メス6個体を選択した. ワシントン条約に係る輸出承認を経た後に, 下顎骨を含む頭骨を注意深く梱包し研究室へ輸送した. 今後引き続き解析を進める予定である.



C-27唾液アミラーゼの遺伝子多型と活性変動に関する研究

長嶋泰生(名寄市立大・栄養)

対応者:今井啓雄

ヒトの唾液アミラーゼはストレスマーカーの一種で,生体への外部刺激により分泌亢進される. 唾液アミラーゼをコードするAMY1A遺伝子にはコピー数多型が存在し, アミラーゼ活性値とAMY1Aコピー数との相関関係が先行研究より報告されていることから, アミラーゼ活性は遺伝的要因による個人差が生じるものと考えられる. 本研究は唾液アミラーゼ活性の変動に与える遺伝的要因の影響について検討することを目的とした. 研究対象者は健常な大学生27名で,空腹時・昼食摂取後・暗算によるストレス負荷後の計3回アミラーゼ活性を測定した. AMY1Aコピー数はリアルタイムPCRのSYBER green法から算定し, 遺伝子コピー数の標準試料としてチンパンジーゲノムを用いた. AMY1Aコピー数の3分位数で対象者を分類し, 群間比較を行った結果, 食事前後のアミラーゼ活性の変化に有意差が見られ, 最上位(AMY1Aコピー数8-12)群のみ食後のアミラーゼ活性が有意に低下した. しかし, AMY1Aコピー数とアミラーゼ活性との相関性は示されず, 測定精度を高めた追加研究が必要と考えられる. また, アミラーゼ酵素活性レベルの個人差が食事由来のデンプン摂取量に影響する可能性も先行研究より示されており, 今後は習慣的な食物・栄養素摂取量とAMY1Aコピー数との関連性についても併せて検討することを考えている.

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3. 共同利用研究会

第11回ニホンザル研究セミナー

日程: 2010年6月5日, 6日

場所: 京都大学霊長類研究所大会議室

研究会世話人: 半谷吾郎, 辻大和(京都大学霊長類研究所)

ニホンザル研究セミナーは, これまで過去7年に渡って, 共同利用研究会や自主的な集会として実施してきた. この研究会では, ニホンザルを対象としたフィールドの研究者が, 交流し討論できる場を作ることを目的としている. 第11回目となる今回も若手研究者の方に修士課程や博士課程での研究成果を中心に発表をお願いし, 中堅・ベテラン研究者が, それに対してコメントするというスタイルで行われた. また, ポスター発表を公募し, 修士・博士論文の途中経過などについて発表してもらう機会を設けた. 58名もの多数の方に参加いただき,活発な議論をすることができた. 参加者には学部学生も含めて若手研究者が多く, ニホンザルの野外研究が若い世代に着実に継承されていることを実感することができた.



6月5日(土)

12:58〜13:00 挨拶 半谷吾郎(京都大学霊長類研究所) 

座長:半谷吾郎(京都大学霊長類研究所) 

13:00〜14:00 山田彩(農業・食品産業技術総合研究機構近畿中国四国農業研究センター) ザル猿害群の土地利用と遊動様式

14:00〜15:00 望月翔太(新潟大学大学院) ニホンザルの生息適地推定 -1978年から2007年における29年間の変化-

コメンテータ:David Sprague(農業環境技術研究所) 

15:00〜15:15 休憩 

座長:辻大和(京都大学霊長類研究所) 

15:15〜16:15 郷もえ(京都大学霊長類研究所) グエノンの行動域利用と混群形成

16:15〜17:15 谷口晴香(京都大学大学院理学研究科) 下北半島のニホンザルにおける母親の採食品目がアカンボウの採食行動に与える影響

コメンテータ:半谷吾郎(京都大学霊長類研究所) 

17:15〜18:00 ポスター発表 

18:00〜20:15 懇親会 


6月6日(日)

座長:井上英治(京都大学大学院理学研究科人類進化論研究室) 

09:00〜10:00 大西賢治(大阪大) 母子が離れた場面におけるニホンザル母子の相互交渉

10:00〜11:00 矢野航(京都大) ニホンザル2亜種の胎児期における頭蓋顔面形態の成長

11:00〜11:45 中川尚史(京都大) ニホンザルにおける社会構造の種内変異:理論編 

11:45〜12:30 山田一憲・井上-村山美穂(京都大) ニホンザルにおける社会構造の種内変異:実践編 

ポスター発表

P-1 菅谷和沙(神戸学院大)
ヤクシマザルのアカンボウ期における音声使用 

P-2 奥村忠誠・清水庸・大政謙次(東京大)
ニホンザルの分布拡大に影響を与える要因の推定 

P-3 鋤納有実子・大西 賢治・中道 正之(大阪大)
餌付け集団の1歳齢子ザルにおける母の子育てスタイルと子の社会的相互交渉 

P-4 上野将敬・中道正之(大阪大) 
勝山ニホンザル集団における毛づくろいの催促に対する反応 

P-5 吉田洋(山梨県環境科学研究所)
サル追払い時におけるモンキードッグの移動追跡 

P-6 辻大和・和田一雄・渡邊邦夫(京都大) 
ニホンザルの食性の把握:既存資料を用いたアプローチ 

P-7 鈴木南美・菅原亨・松井淳・郷康広・平井啓久・今井啓雄(京都大) 
苦味受容体遺伝子の多型解析による味覚変異ニホンザルの発見

(文責:半谷五郎)

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Quest for Coexistence with Non-human Primates

「霊長類との共存を探る」


日時:2010年9月6日?7日

場所:犬山国際観光センター「フロイデ」

研究会世話人:川本芳,濱田穣,橋本千絵,國松豊,平崎鋭矢,大石高生(京大霊長研),清水大輔(日本モンキーセンター),伊藤詞子(京大野生動物研究センター),井上英治(京大理学研究科)

2010年9月6日

10:00-10:30 Opening remarks 

Tetsuro Matsuzawa (Primate Research Institute, Kyoto University)

10:30-11-30 Lecture 1 

Janet Nackoney (University of Maryland)
Participative land-use planning for bonobo conservation in the Maringa-Lopori-Wamba landscape, Democratic Republic of Congo (DRC)

13:00-13:50 Poster 1

Nantiya Aggimarangsee
Recent status of co-existence between humans and macaques in Thailand 

Komkrich Kaewpanus, Nantiya Aggimarangsee
Interactions between humans and Assamese macaques (Macaca assamensis) at Tham Pla temple, Chiang Rai Province, Northern Thailand 

Ramesh Boonratana
Primate Conservation in SE Asia - Issues and Constraints

Visit Arsaithamkul, Suchinda Malaivijitnond, Janya Jadejaroen, Umaporn Maikaew
Population control of free-ranging Long-tailed macaque (Macaca fascicularis) by contraception and the monitoring of social behaviors

Sindhu Radhakrishna, H.N. Kumara, Anindya Sinha
Living in human-dominated landscapes: Boon or bane for the slender loris?

14:00-15:00 Lecture 2

Michael A. Huffman (Primate Research Institute)
Field techniques for health monitoring and the study of disease transmission in primates: some recent examples of their use in the wild 

15:10-17:50 Poster 2

Dong Thanh Hai
Feeding Ecology of the Tonkin Snub-nosed Monkey (Rhinopithecus avunculus) in Khau Ca

S. Sankaran, Narayan Sharma, G.S. Rawat, R. Suresh Kumar, A. Sinha
Ranging and foraging behaviour of the western hoolock gibbon (Hoolock hoolock) in a lowland rainforest fragment of the upper Brahmaputra valley, northeastern India.

Joseph Tangah, Henry Bernard
Food plants of proboscis monkeys (Nasalis larvatus) in isolated mangrove habitat of Sabah, Malaysia

Henry Bernard, Ikki Matsuda, Goro Hanya, Abdul Hamid Ahmad
Characteristics of proboscis monkey (Nasalis larvatus) Night sleeping-trees in Sabah, Malaysia

Michael D. Gumert, Devis Rachmawan, Entang Iskandar
Preliminary population census of long-tailed macaques at Tanjung Puting National Park, Kalimantan Tengah, Indonesia

Sudarath Baicharoen, Takako Miyabe-Nishiwaki, Yuriko Hirai, Kwanruen Duangsa-ard, Boripat Siriaroonrat, Hirohisa Hirai
Intergeneric and interspecific hybrids in gibbons: chromosomal aspects of the small ape evolution

D. Chakraborty, U. Ramakrishnan, A. Sinha
"She Is leaving home": Lack of female philopatry in the bonnet macaque Macaca radiata

K.Y. Ong, A.H. Ahmad, H. Bernard
Mitochondrial DNA comparison of long tailed macaque (Macaca fascicularis) between Sabah Islands and mainland

Mami Saeki, Yoshi Kawamoto, Sakie Kawamoto, Kohsi Norikoshi, Kei Shirai, Aki Kawamura
Genetic structure of Taiwanese Macaques (Macaca cyclopis) in Izu-Ohshima Island: an assessment of mitochondrial DNA and nuclear DNA

Yoshi Kawamoto, Toru Oi, Hironori Seino, Sakie Kawamoto, Shoko Higuchi
Genetic architecture of social group of Japanese macaques (Macaca fuscata): Inference from analysis on all members of single group with microsatellite markers

Islamul Hadi, Toshiaki Tanaka, Reiko Koba, Hiroki Koda, Kunio Watanabe
Hot spring bathing of long-tailed macaques observed in the Pengkereman area of Mt. Rinjani national park, Lombok, Indonesia

Sujoy Chaudhuri
TERRAGENTS: A Modelling Framework for Prediction of Primate Behaviour in Changing Environments

Subhankar Chakraborty, Anindya Sinha
Innate drives? A genetic perspective on human-macaque Interactions

Lijie Yin, Dagong Qin, Dezhi Wang, Tong Jin, Kunio Watanabe, Wenshi Pan
Infanticide and Female Counterstrategies found in White-Headed Langurs (Trachypithecus leucocephalus)

Shinichiro Ichino, Takayo Soma, Naomi Miyamoto, Hiroki Sato, Naoki Koyama, Yukio Takahata
A 21-year study of ring-tailed lemurs (Lemur catta) at Berenty Reserve, Madagascar

2010年9月7日

9:10-10:10 Lecture 3 

Tilo Nadler (Endangered Primate Rescue Center, Vietnam)
Conservation of primates in Vietnam

10:20-12:00 Poster 3

Sokunthia Thao, Seanghun Meas, Toru Oi
Recorded species of non-human primates in Cambodia and their present status

Narayan Sharma, M.D. Madhusudan, Anindya Sinha
Shutter islands Future of primate communities in the fragmented forest remnants of upper Brahmaputra valley, northeastern India

Van Minh Nguyen, Huu Van Nguyen, Yuzuru Hamada
Distribution and habitat environment of non-human primates in central Vietnam

Aye Mi San, Aung Thu, Toru Oi, Yuzuru Hamada
Diversity, distribution and status of non-human primates in Myanmar

Sithideth Pathomthong, Kongkham Akhavongsa, Pengpet, Bounthob Praxaysombath, Suchinda Malaivijitnond, Yuzuru Hamada
Distribution and present status of non-human primates in central Lao PDR

K.A. Widayati, B. Suryobroto, A. Saito, A. Mikami
Color vision in Female monkeys carrying protanopic gene

Ikuma Adachi, Vera U Ludwig, Tetsuro Matsuzawa
Direct comparison between humans and chimpanzees for their pitch-luminance mapping

Janya Jadejaroen, Yuzuru Hamada, Suchinda Malaivijitnond
Population size and age-sex structure of a mixed semi-wild group of rhesus (Macaca mulatta) and long-tailed macaques (M. fascicularis) in Thailand

Suchinda Malaivijitnond, Florian Trebouet, Warayut Nilpaung, Yuzuru Hamada, Tamaki Maruhashi
Reproductive Physiology of Wild Stump-tailed Macaques in Thailand

Noorkhairiah Binti Salleh, Zary Shariman Yahaya, Sabapathy D
Prevalence of gastrointestinal parasites of captive and semi-captive orang utans (Pongo pygmaeus pygmaeus) in Orang Utan Island, Bukit Merah, Perak, Malaysia

13:00-14:00 Lecture 4 

Christian Roos (German Primate Center)
Hybridization in primates

14:10-15:40 Poster 4

Rajeev Patnaik
Fossil primates of India and their palaeoecological setup

Ying-Qi Zhang, Chang-Zhu Jin, Masanaru Takai
New material of macaque monkeys from the Early Pleistocene Queque Cave site, Chongzuo, Guangxi, South China

Hiroyuki Tanaka
Genetic constitution of Hylobates agilis albibarbis and its relationships to H. agilis of Sumatra and H. muelleri of Borneo inferred by amplified fragment length polymorphism (AFLP)

Phouthone Kingsada, Sara Bumrungsri, Chutamas Satasook, Paul J. J. Bates
A Taxonomic evaluation of four cryptic species of horseshoe bats Rhinolophus (Chiroptera: Rhinolophidae) in Indian Subcontinent and mainland, Southeast Asia

Bambang Suryobroto
An index of asymmetry to uncover preferential manifestation of bilateral non-metric character

Saroyo Sumarto, Kunio Watanabe
The group size increase of Rambo II group of Sulawesi crested black macaques (Macaca nigra) at the Tangkoko-Batuangus Nature Reserve, North Sulawesi, Indonesia

E. Iskandar, R.C. Kyes, D. Sajuthi, J. Pamungkas
Tinjil Island as a semi-natural habitat breeding facility for longtailed macaques (Macaca fascicularis), research and training field station

Ha Thang Long
Social organisation of grey-shanked douc monkeys (Pygathrix cinerea) in the Kon Ka Kinh National Park, Vietnam

M. K. Hasan, M. M. Feeroz, Yoshi Kawamoto
Distribution of rhesus macaque (Macaca mulatta) in Bangladesh: inter-population variation in group size and composition

Yuzuru Hamada, Sithideth Pathomthong, Phouthone Kingsada, Van Minh Nguyen, Huu Van Nguyen
Wildlife Diversity and its Conservation in the Central Truongson Mountain Range Area: Socio-economic Status and its Future

15:50-16:50 Lecture 5 

Kunio Watanabe (Primate Research Institute, Kyoto University)
Wide variety in the way of population management of primates

17:00-18:00 General Discussion 

Chairman Fred B. Bercovitch (Primate Research Institute, Kyoto University)


 「霊長類との共存を探る」をテーマに, 講演5題とポスター40題の発表があり, 連日活発な議論が続いた. 本研究会はASIAN-HOPEプログラム(日本学術振興会若手研究者交流支援事業?東アジア首脳会議参加国からの招へい?)の一環として催され, 70名が参加した. このうち45名はインド, バングラデシュ, ミャンマー, タイ, ラオス, カンボジア, ヴェトナム, マレーシア, シンガポール, インドネシア, 中国, ドイツ, アメリカなど海外からの参加者だった. 研究会は, ?日本モンキーセンターの共催を得て第23回国際霊長類学会大会運営委員会と京都大学霊長類研究所が主催し, 日本霊長類学会, 犬山市, 野外民族博物館リトルワールドが後援した.

 情報交換と交流を計るため, 本研究会では講演とポスターのセッションを繰り返すサンドウィッチ式の発表プログラムを企画した. 講演ではコンゴ共和国における土地利用とボノボ保護計画, 霊長類の健康モニタリングと感染症, ヴェトナムの霊長類保護の現状, 分子からみた霊長類の交雑, アジアにおける霊長類個体群管理, を題材にした研究および保護管理の活動が紹介された. ポスターでは, 質疑応答の機会を増やすため, 5題ごとにサブセッションを設け, グループに分けた聴衆をローテーションさせる形式をとった. 生態, 行動, 保護管理, 生理, 感覚・知覚, 繁殖, 分子, 遺伝, 染色体, 形態, 古生物の分野から話題提供があり, 活発な議論が続くとともに, 各国から参加した研究者たちの交流が深まった.

http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/meetings/2010/Quest_for_Coexistence/index-j.html http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/sections/cicasp/ に関連情報が掲載されている.

(文責:川本芳)

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「社会・報酬・経済と脳」

日時:2010年11月1日(月)13:00〜2日(火)14:00

場所:京都大学霊長類研究所大会議室

研究会世話人:中村克樹, 高田昌彦, 宮地重弘, 大石高生, 松本正幸

 現在, 社会行動を脳科学・生物学的に説明するときに,経済や報酬という概念が重要視されている. 今回は, 日本でこうした分野の最先端の研究を行っている研究者が集まり, お互いに最新の知見を聞きながら交流し討論することを目的として研究会を企画した. 特に, 複雑な社会を構成している霊長類の行動理解において, 今後ますます重要性を増す研究領域であると考える. スピーカーも, 分子レベルやニューロンレベルの研究からヒトを対象とした脳機能イメージングの研究まで広くカバーできるように集まっていただいた. およそ50名の方に参加いただき, 活発な意見交換や議論ができた.

<プログラム>

11月1日(月)

13:00〜13:05 挨拶 中村克樹(京都大霊長研)

1部 分子基盤 座長:高田昌彦(京都大霊長研)

13:05〜13:50 真鍋俊也(東京大学大学院医学系研究科) 情動を制御する分子機構

13:50〜14:35 那波宏之(新潟大脳研) モデル動物におけるモノアミン系の発達異常と認知社会行動障害

2部 イメージング1 座長:狩野方伸(東京大)

14:45〜15:30 杉浦元亮(東北大加齢研) 自己顔認知の神経基盤:身体性と非他者性

15:30〜16:15 田中沙織(大阪大社会経済研) 社会的行動と異時点間の意志決定の脳内機構 ―「神経経済学」というアプローチ

11月2日(火)

3部 ニューロン活動 座長:大石高生(京都大霊長研)

9:30〜10:00 松本正幸(京都大霊長研) 報酬機能におけるドーパミンニューロンと外側手綱核の役割

10:00〜10:45 堀悦郎(富山大学医学薬学研) 社会的学習に関連したサル内側前頭葉ニューロンの応答

10:45〜11:30 西条寿夫(富山大医薬学研) 社会行動における膝状体外視覚系の役割

(昼休み)

4部 イメージング2 座長:中村克樹

12:30〜13:15 筒井健一郎(東北大生命科学研) 購買行動の心理とその神経対応 ―脳機能イメージングによる検討

13:15〜14:00 泰羅雅登(東京医科歯科大) 脳活動から社会に関わるヒトの心を読み取れるか

(文責:中村克樹)

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「第6回比較社会認知シンポジウム」

日時:2010年12 月18 日(土)〜12 月19 日(日)

場所: 京都大学霊長類研究所大会議室

参加人数:約60人

世話人(学内):友永雅己, 林美里, 足立幾磨, 板倉昭二(文学研究科),明和政子(教育学研究科), 松井智子(東京学芸大に転出)

学外協力者:杉浦元亮(東北大),佐藤徳(富山大),村田哲(近畿大学)



<プログラム>

12 月18 日(土)

13:00-18:30

開会のあいさつ友永雅己 (京都大・霊長研)

セッション 1

中野珠実(順天堂大・医) 「ヒトが共有する暗黙のものの見方 ――自閉症者と健常者の視覚認知パターンの比較」

永井聖剛(産総研・人間福祉医工学) 「自閉症・自閉傾向者の顔情報処理ストラテジーおよび動作インタラクション特性」

梅田聡(慶應大・文) 「情動を生み出す身体と脳のメカニズム」

ポスターセッション(ポスター22件)

セッション 2

木原健(鹿児島大・院理工) 「視覚刺激の出現意図が注意に及ぼす影響」

田中文英(筑波大・システム情報工学) 「早期教育フィールドにおける子ども‐ロボット間インタラクション」

青沼仁志(北海道大・電子科学) 「コオロギの闘争経験に基づいた行動選択と社会適応行動の発現メカニズム」

懇親会

12 月19 日(日)

9:00-15:30

セッション 3

溝川藍(京都大・院教育) 「幼児期における泣くふりの理解の発達」

及川拓(東北大・院歯学) 「自己顔評価と自尊感情:contrast effect を用いたfMRI 研究」

小川絢子(京都大・院教育) 「幼児期における教えないで見ている行為の理解と抑制制御の関連」

服部裕子(京都大・霊長研) 「チンパンジーにおける他者の行動に対する模倣・同調傾向」

吉田正俊(生理研・認知行動発達機構) 「マカクザル盲視モデルにおける意識と注意」

佐藤暢哉(関西学院大・文) 「ナビゲーションの脳内メカニズムとエピソード記憶」

昼食・ポスターセッション

セッション 4

内藤美加(上越教育大・院学校教育) 「エピソード的未来思考と記憶の発達的関連」

安藤寿康(慶應大・文) 「『教育』は進化か文化か」

佐藤?(富山大・人間発達科学) 「エージェンシー感の二段階モデル」

これまで5 回にわたって, 社会的認知の比較研究とその関連領域に関する共同利用研究会を開催してきた. はじめの3 回は個別の大きなテーマを設定しての研究会だったが, 第4回より, 多くの方々による幅広い研究成果を発表していただき, 議論を行うという形式をとった. 関連する領域とはいえ手法も対象も異なる研究者が一堂に会して議論と交流を深める本研究会は着実に成長しつつある. また, これまでに2回国際シンポとして実施したが, 今回は国内の研究者を中心としたシンポジウムとし, これまで同様,特に限定的なトピックを設定することなく, 比較社会認知研究および関連する多様な研究領域から幅広く講演者を募り研究会を開催した. 15名の口頭発表者と22名のポスター発表者が,ロボットから昆虫にいたる幅広い対象, 盲視から教育にいたる様々なトピックについて, それぞれに興味深い発表を展開した.全体の参加者は約60名であった. このように, 多様な研究者が集い, それぞれの成果を発表し議論する場として, 今後とも様々なプロジェクトと連携をはかりつつ本シンポジウムを継続していきたい.

(文責:友永雅己)

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第40回ホミニゼーション研究会「近親交配再考:人類学から自然保護まで」

日時:2011年3月4日(金)〜5日(土)

場所:愛知県犬山市官林 京都大学霊長類研究所大会議室

参加人数:約50人

世話人:古市剛史・友永雅己・川本芳

<プログラム>

3月4日

遺伝学から

石田 清 (弘前大学・農学生命科学部) 「樹木における近親交配と近交弱勢:近交弱勢に影響する諸要因について」

森光 由樹 (兵庫県立大学自然・環境研究所森林動物研究センター) 「野生動物保全から見た孤立個体群の集団サイズと遺伝的多様性の関係」

コメントと討論 村山 美穂(京都大学・野生動物研究センター)

人類学から

今村 薫(名古屋学院大学・経済学部) 「親族カテゴリーと近親婚−サンの事例から−」

竹ノ下 祐二(中部学院大・子ども学部) 「同性愛と近親交配」

コメントと討論 菅原 和孝(京都大学・大学院人間・環境学研究科)

懇親会(霊長類研究所多目的ホール)

3月5日

霊長類学から

橋本 千絵(京都大・霊長研) 「チンパンジー属に見られる母子間の性行動」

松本 晶子(琉球大学・観光環境科学部) 「サバンナヒヒにおける近親交配の回避メカニズム」

山極 寿一(京都大) 「ゴリラの複雄群化と繁殖戦略」

コメントと討論 コメンテーター:竹ノ下 祐二(中部学院大)

心理学から

白波瀬 丈一郎 (慶応大学) 「近親姦タブー,誰が禁じ誰がそれを犯したのか−精神分析実践に基づく考察−」

平石 界(京都大・こころの未来研究センター) 「インセストタブーの進化心理学:Westermark効果とその先」

コメントと討論 小田 亮(名工大)

総合討論

近親交配の問題は, 昨年なくなったレヴィ=ストロースをはじめとする人類学の世界でも,社会構造に対する問いかけから始まった日本の霊長類学においても, 常に中心的な問題として扱われてきた. 霊長類学では,様々な種を対象とする研究が進むにつれて, 近親交配の回避と社会構造との関係についてあらたな知見が得られつつあり, 心理学・ゲノム科学の世界では, 近親者の認識メカニズムや近親者への対応についての研究が進んでいる. また, 自然保護の分野では,地域集団のサイズと遺伝的多様性の減少との関係がしばしば話題となっている. これら多方面にわたる近親交配に関する近年の研究成果を持ち寄り, 学際的な議論を行った.

(文責:古市剛史)

このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会

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「CTを用いた霊長類研究の新展開」

開催日:2011年3月7日(月)、8日(火)

場所:京都大学霊長類研究所大会議室

研究会世話人:平井啓久, 濱田穣, 高井正成, 鈴木樹理, 西村剛

霊長類研究所では, 2010年4月より大型CT撮像装置 (東芝 Asteion 4 Premium Edition) とCT画像データベース (Digital Morphology Museum) の供用を開始した.これらは,共同研究・共同利用拠点の中核的設備と位置づけられている. 本研究所は, 筋骨格資料のみならず飼育サル類の豊富な研究リソースを有していることから, 他の機関ではできないようなCT研究の展開が期待される. 今後は, 従来の骨格や化石の形態研究や獣医学的診療にとどまらず, 医科学や生体工学的研究にも利用の場を広げていきたい. 本研究会は,霊長類研究における生体工学的アプローチのさらなる可能性を探る講演とCTを用いた研究例の紹介により, 異分野の交流による新たな研究企画の掘り起こしを目指した.所内外から約40名の参加者があった. 初日は, これまで霊長類学ではあまりなじみのなかった工学的アプローチの紹介があり, その後の懇親会ではそれの応用方法に関する議論が活発になされた. 2日目は, 現在行われている研究の紹介があり, すでにCTが霊長類研究の標準的ツールとなっている感があった. 所内外から約40名の参加者があり, 活発な議論が行われた. 

<プログラム・抄録>

開催日:2011年3月7日(月), 8日(火)

会場:京都大学霊長類研究所 大会議室

3月7日

13:00  はじめに  平井啓久

霊長類学におけるCT利用について 座長: 西村剛

13:05-13:15 研究所CTと画像データベースの概要  西村剛 (京都大学霊長類研究所)

13:15-13:40 霊長類学におけるCT利用と研究展望 中務真人 (京都大学大学院理学研究科)

CTを利用した獣医学・病理学的研究 座長: 鈴木樹理

13:40-14:00 東京大学動物医療センターにおける小動物診療のCT使用状況 藤原玲奈(東京大学附属動物医療センター)

14:00-14:20 非ヒト霊長類におけるCTを用いた画像診断に関する研究 渡邉朗野, 兼子明久, 宮部貴子, 鈴木樹理 (京都大学霊長類研究所) , 藤原玲奈 (東京大学附属動物医療センター) ,磯和弘一 (株式会社日本生物科学センター)

[講演] 霊長類筋骨格モデルの構築と応用 座長: 平崎鋭矢

14:35-15:35 荻原直道(慶応義塾大学理工学部) 

[講演] CTを用いた骨格系の力学解析に関する研究  座長: 西村剛

15:45-16:45 坂本二郎(金沢大学理工学研究域)  

生体内流れをシミュレーションで視る 座長: 西村剛

16:55-17:55 松澤照男(北陸先端科学技術大) 

懇親会 18:00-20:00 

3月8日 

CTを利用した形態学・古生物学的研究 座長: 高井正成

10:00-10:05 はじめに

10:05-10:25 ニホンザルにおける鼻腔形態の環境地理的変異  伊藤毅 (京都大学霊長類研究所)

10:25-10:45 霊長類における脳エンドキャストの体積と最大幅の関係 河部壮一郎(東京大)

10:45-11:05 旧世界ザル下顎骨の外側面にみられる骨隆起 近藤信太郎(愛知学院大)

11:05-11:25 歯の3次元解析 −特にCTで得られたデータ扱いについて− 清水大輔(日本モンキーセンター)

11:25-11:45 CT画像を用いたチンパンジーの歯および顎顔面頭蓋の3次元再構築 小川匠, 井川知子, 齋藤渉, 今井奬, 野村義明, 岡本公彰, 桃井保子, 花田信弘 (鶴見大学歯学部) , 兼子明久, 渡辺朗野, 渡辺祥平, 宮部貴子, 友永雅己 (京都大霊長研)

昼食 11:45-13:00 

CTを利用した機能形態学的研究 座長: 濱田穣

13:00-13:05 はじめに

13:05-13:25 microCTを使った四肢骨関節部内部構造の観察:種間差の同定と技術的な課題 江木直子 (京都大学霊長類研究所)

13:25-13:45 ニホンザル椎骨のマイクロCT観察:ヒトとの比較検討 東華岳 (岐阜大)

13:45-14:05 CTを用いた骨の筋付着部の評価 菊池泰弘 (佐賀大)

14:05-14:25 オナガザル族の聴覚器官の機能形態学的進化に関する研究 矢野航 (京都大学霊長類研究所)

14:25-14:30  おわりに 平井啓久

(文責:西村 剛)

このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 自己点検評価委員会

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