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京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > Vol.47 目次

 

. 研究教育活動

1. 研究部門及び附属施設

(研究業績に記した#は共同利用研究の成果に基づくもの)

 


ゲノム細胞研究部門

ゲノム進化分野

<研究概要>

マカク類の季節性精子形成開始に関わる核小体形成部位の動態

平井啓久、平井百合子

アカゲザルの精子形成減数分裂にける精母細胞の核小体形成部位(NORs)の動態が季節的に異なることを発見。精子形成との因果関係を追究した。


新世界ザル特にヨザルのY染色体進化の解析

平井啓久、平井百合子、早川卓志(ワイルドライフサイエンス研究部門)、綿貫宏史朗(日本モンキーセンター)

ヨザルのY染色体は常染色体に潜り込んでいることが知られているが、その詳細を調べるため、独立型Y染色体から彩色プローブを作製し解析した。


旧世界ザル苦味受容体の多型解析

鈴木-橋戸南美、早川卓志(ワイルドライフサイエンス研究部門)、辻大和(社会進化分野)、Laurentia Henrieta Permita Sari Purba、Sarah Nila, Kanthi Arum Widayati、Bambang Suryobroto(以上ボゴール農科大学)、梅村美穂子、今井啓雄

パガンダラン地域において個体識別されているジャワルトンと研究所内のアカゲザル・ニホンザルについて苦味受容体TAS2Rの遺伝子多型解析を行った。中立領域との比較を行った結果、ヒトやチンパンジーとは異なり、旧世界ザルでは苦味受容体の機能を維持する選択圧が高いことが示唆された。


甘味受容の行動と受容体の関連

西栄美子、筒井圭、今井啓雄

受容体の機能解析と行動実験によりニホンザルとヒトの甘味感受性を比較した。特にマルトース(麦芽糖)に対して、ヒトよりもニホンザルの方が感受性が高いことが示された。結果を論文としてまとめ、発表した。


コロブス類の味覚受容体と採食の関係

今井啓雄、鈴木-橋戸南美、早川卓志、辻大和(社会進化分野)、Laurentia Henrieta、Permita Sari Purba、Sarah Nira、Kanthi Arum Widayati、Bambang Suryobroto(以上ボゴール農科大学)

ラグナン動物園のコロブス類について苦味受容体TAS2R38の機能解析とPTCに対する行動実験を行った。コロブス類は全般に、TAS2R38の機能が減弱していることが示されたため、結果を論文としてまとめ、発表した。


成長・加齢に伴う味覚受容体の発現解析

西山瑠衣、西栄美子、伯川美穂、今井啓雄

味覚受容体やGタンパク質について、様々な年齢のマカク類の舌味乳頭における遺伝子発現をRT-PCR法により解析し、マウスのものと比較した。


キツネザルの嗅覚行動に関わる分子の探索

糸井川壮大、伊藤聡美、白須美香(東京大学)、宗近功(進化生物学研究所)、東原和成(東京大学)、早川卓志(ワイルドライフサイエンス研究部門)、今井啓雄

ワオキツネザルのオス前腕臭腺の分泌物に対する行動実験を行った。季節変化が顕著な物質の混合物に対して、メスの行動変化が示された。


グエノン類の苦味受容体解析

河本悠吾、赤尾大樹、松村秀一(以上岐阜大学)、西栄美子、鈴木-橋戸南美、早川卓志(ワイルドライフサイエンス研究部門)、田代靖子、橋本千絵(生態保全分野)、五百部裕(椙山女学園大学)、今井啓雄

グエノン類三種のTAS2R16の機能解析を行った。アカオザルとブルーモンキー、ロエストモンキーで種間に機能の差が観察されたため、その差を生み出すアミノ酸残基を同定した。


スラウェシマカク類のゲノム解析

Yan Xhaochan、寺井洋平(総合研究大学院大学)、Kanthi Arum Widayati、Bambang Suryobroto(以上ボゴール農科大学)、鈴木-橋戸南美、今井啓雄

短期間に種分化したスラウェシマカクについて、ゲノム解析を進めている。いくつかの遺伝子で、種特異的な変異を同定したため、その機能解析を計画中である。


霊長類におけるグリア機能の解析

伯川美穂、北島龍之介、Felix Beyer(Heinrich Heine University)、今村公紀、平井啓久、今井啓雄

霊長類におけるグリア機能について、ゲノム解析や細胞分離、培養実験によりモデル霊長類の同定を進めている。MACSによりアストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトを分離し、RNAseqを実施した結果、それぞれに特異的な発現を示す遺伝子群を同定できた。


霊長類iPS細胞の樹立と分化誘導

北島龍之介、大貫茉里(Ludwig Maximilians University Munich)、今井啓雄、平井啓久、今村公紀

チンパンジーに加えてニホンザルのiPS細胞をフィーダー細胞非存在下で樹立し、その性状解析と三胚葉および神経幹細胞への分化誘導を行った。


マーモセット生殖細胞の発生生物学

伊藤達矢、今村公紀

子供期にのみ精細管内腔に存在する生殖細胞に対して、他の生殖細胞とは異なる特異的なエピジェネティック状態を特定し、細胞死に至る新たな発生動態を明らかにした。


マカクザル精巣の生後発育の動態解析

黒木康太、Cody Ruiz(Kent State University)、今村公紀

マカクザル精巣の生後発育を制御する分子基盤について、遺伝子発現および組織解析を実施した。


<研究業績>

原著論文

Hirai H, Hirai Y, Morimoto M, Kaneko A, Kamanaka Y, Koga A. (2017) Night monkey hybrids exhibit de novo genomic and karyotypic alterations: the first such case in primates. Genome Biology and Evolution 9: 945-955.

Baicharoen S, Hirai Y, Srikulnath K, Kongprom U, Hirai H. (2016) Hypervariability of nucleolus organizer regions in Bengal slow lorises, Nycticebus bengalensis (Primates, Lorisidae). Cytogenetic and Genome Research, 149: 267-273.

Hirata S, Hirai H, Nogami E, Morimura N, Udono T. (2017) Chimpanzee down syndrome: a case study of trisomy 22 in a captive chimpanzee. Primates, 58: 267-273.

#Purba LHP, Widayati KA, Tsutsui K, Suzuki-Hashido N, Hayakawa T, Nila S, Suryobroto B, Imai H. (2017) Functional characterization of the TAS2R38 bitter taste receptor for phenylthiocarbamide in colobine monkeys. Biology Letters 13, 20160834.

#Bunlungsup S, Imai H, Hamada Y, Matsudaira K, Malaivijitnond S. (2017) Mitochondrial DNA and two Y-chromosome genes of common long-tailed macaques (Macaca fascicularis fascicularis) throughout Thailand and vicinity. Am J Primatol 79, e22596.

Nishi E, Tsutsui K, Imai H. (2016) High maltose sensitivity of sweet taste receptors in the Japanese macaque (Macaca fuscata). Sci. Rep 6, 39352.

Tsutsui K, Otoh M, Sakurai K, Suzuki-Hashido N, Hayakawa T, Misaka T, Ishimaru Y, Aureli F, Melin AD, Kawamura S, Imai H. (2016) Variation in ligand responses of the bitter taste receptors TAS2R1 and TAS2R4 among New World monkeys. BMC Evolutionary Biology 16, 208.

Kawamura S, Kasagi S, Kasai D, Tezuka A, Shoji A, Takahashi A, Imai H, Kawata M. (2016) Spectral sensitivity of guppy visual pigments reconstituted in vitro to resolve association of opsins with cone cell types. Vision Research 127, 67–73.

#Yoshida K, Go Y, Kushima I, Toyoda A, Fujiyama A, Imai H, Saito N, Iriki A, Ozaki N, Isoda M. (2016) Single-neuron and genetic correlates of autistic behavior in macaque. Science Advances 2, e1600558.

Imai H, Suzuki-Hashido N, Ishimaru Y, Sakurai T, Yin L, Pan W, Ishiguro M, Masuda K, Abe K, Misaka T, Hirai H. (2016) Amino acid residues of bitter taste receptor TAS2R16 that determine sensitivity in primates to β-glycosides. Biophysics and Physicobiology 13: 165-171.

Lin ZY, Hikabe O, Suzuki S, Hirano T, Siomi H, Sasaki E, Imamura M, Okano H. (2016) Sphere-formation culture of testicular germ cells in the common marmoset, a small New World monkey. Primates 57: 129-35.


学会発表

平井啓久、平井百合子、古賀章彦. ヨザルの種間雑種個体に見られた新生染色体変異. 第88回日本遺伝学会大会、静岡、2016/9/7.

Suzuki-Hashido N, Hayakawa T, Matsui A, Go Y, Ishimaru Y, Misaka T, Abe K, Hirai H, Satta Y, Imai H. Rapid expansion of phenylthiocarbamide (PTC) non-tasters among Japanese macaques. 17th International Symposium on Olfaction and Taste (ISOT2016). Yokohama. 2016/6/5-9.

Purba LHPS, Widayati KA, Nila S, Tsutsui K, Suzuki-Hashido N, Hayakawa T, Suryobroto B, Imai H. Functional characterization of TAS2R38 bitter taste receptors to Phenylthiocarbamide (PTC) in Colobine Monkeys. 17th International Symposium on Olfaction and Taste (ISOT2016). Yokohama. 2016/6/5-9.

Nishi E, Tsutsui K, Imai H. Comparison of sweet taste sensitivity between Japanese monkey and human. 17th International Symposium on Olfaction and Taste (ISOT2016). Yokohama. 2016/6/5-9.

鈴木-橋戸南美、早川卓志、辻大和、Purba LHPS、Nila S、Widayati KA、Suryobroto B、今井啓雄. 葉食適応を果たしたコロブス類の苦味受容体はどのように進化しているか. 第32回日本霊長類学会大会. 鹿児島. 2016/7/16.

西栄美子、筒井圭、今井啓雄. ヒトとニホンザルにおける甘味感受性の比較. 第32回日本霊長類学会大会. 鹿児島. 2016/7/16.

糸井川壮大、早川卓志、今井啓雄. 交尾期のワオキツネザルの臭腺分泌物質利用 ~群れ構成が交尾期のメスの匂い嗅ぎ行動に与える影響~. 第32回日本霊長類学会. 鹿児島. 2016/7/16.

河本悠吾、西栄美子、鈴木(橋戸)南美、早川卓志、赤尾大樹、松村秀一、田代靖子、橋本千絵、五百部裕、今井啓雄. 同所的に生息するグエノン類3種における苦味受容体TAS2R16の機能解析. 第32回日本霊長類学会大会. 鹿児島. 2016/7/16.

Nishi E, Tsutsui K, Imai H. Comparison of sweet taste sensitivity between Japanese monkey and human. The 15th International Symposium on Molecular and Neural Mechanisms of Taste and Olfactory Perception. ISP18. Fukuoka. 2016/12/3-4.

鈴木-橋戸南美、早川卓志、辻大和、Purba LHPS、Widayati KA、Nila S、Suryobroto B、今井啓雄. 旧世界ザルにおける苦味受容体の遺伝的多様性. 第61回プリマーテス研究会. 愛知. 2017/1/28.

糸井川壮大、早川卓志、今井啓雄. ワオキツネザルのオス由来の匂い物質に対するメスの応答行動. 第61回プリマーテス研究会. 愛知. 2017/1/28.

Itoigawa A, Hayakawa T, Suzuki-Hashido N, Imai H, Hirai H. Molecular evolution of TAS2R16 & TAS2R41 in primates. The 50th Anniversary Symposium of Primate Research Institute of Kyoto University - Past, present and future of primatology. Aichi. 2017/1/31.

鈴木-橋戸南美. 旧世界ザルの苦味受容体の遺伝的多様性と食性との関係. 霊長類研究所共同利用研究会 霊長類の食性の進化. 愛知. 2017/2/4-5.

Kitajima R, Beyer F, Imamura M, Imai H, Küry P, Hirai H. Neural cells generation from human and chimpanzee iPSCs toward comparative analysis. The 50th Anniversary Symposium of KUPRI. Aichi. 2017/1/30-31.

Kitajima R, Beyer F, Imamura M, Imai H, Küry P, Hirai H. Oligodendrocyte generation from human and chimpanzee neural stem cells with the suppression of p57kip2. CDB Symposium. 2017/3/27-29.

伊藤達矢、佐々木えりか、今村公紀. コモンマーモセット精細管内腔細胞におけるアポトーシスとエピジェネティック修飾動態. 第109回日本繁殖生物学会大会. 神奈川. 2016/9/12.

Ito T, Sasaki E, Imamura M. Apoptosis-related Epigenetic Modifications in Germ Cells Unique to Juvenile Common Marmoset Testis. 2016 International Conference of the Korean Society for Molecular and Cellular Biology (ICKSMCB). Seoul, Korea. 2016/10/12-14

伊藤達矢、佐々木えりか、今村公紀. 若年期コモンマーモセット精巣に特異的な生殖細胞におけるアポトーシスとエピジェネティック修飾. Cryopreservation Conference 2016. 愛知. 2016/11/10.

伊藤達矢、佐々木えりか、今村公紀. 若年期コモンマーモセット精巣に特異的な生殖細胞におけるアポトーシスとエピジェネティック修飾. 第39回日本分子生物学会年会. 神奈川. 2016/12/2.

黒木康太、北島龍之介、今村公紀、塩見春彦、柴田典人、阿形清和. チンパンジーiPS細胞、及び各種分化細胞におけるPIWI-piRNA解析. Cryopreservation Conference 2016. 愛知. 2016/11/10.


講演

鈴木-橋戸南美. 味の感じ方ってみんなおなじ?〜遺伝子からわかったニホンザルの味覚〜. 第25回京大モンキー日曜サロン. 犬山. 2016/5/15.

Imai H, Suzuki-Hashido N, Nishi E, Hayakawa T, Hirai H, Purba LHP, Widayati K, Suryobroto B. Functional evolution of primate taste receptors. In symposium “Learning from Sensory Molecules: Impact on Physiology and Evolution” The joint meeting of the 22nd International Congress of Zoology and the 87th Meeting of the Zoological Society of Japan. 沖縄. 2016/11/18.

今井啓雄. 霊長類味覚受容体の分子生理学. 日本生理学会第94回大会シンポジウム. 浜松. 2017/3/28.

Imamura M. Evolutional Developmental Biology and Medicine with Primate Stem Cells. The 4th Sapporo Summer Seminar for One Health (4th SaSSOH). Hokkaido. 2016/9/21.

今村公紀. 霊長類生殖細胞の発育生物学とiPS細胞を用いたヒトの進化生物学/進化医学. 第1回オモロイ生き物研究会. 北海道. 2016/10/23.

今村公紀. リバネス研究費から始まった駆出し大学教員の0ベース研究 ~「iPS細胞×進化」研究者のケースレポート. 第6回超異分野学会. 東京. 2017/3/2.


著書

鈴木-橋戸南美、今井啓雄. 霊長類の味覚. おいしさの科学的評価・測定法と応用展開. 阿部啓子、石丸喜朗 監修. シーエムシー出版. P22-33(2016). 分担執筆

鈴木-橋戸南美. 中立遺伝子・機能遺伝子の多様性. 日本のサル. 中川尚史、辻大和 編. 東京大学出版会(2017). 分担執筆


 

 

京都大学霊長類研究所 > 年報のページ > Vol.47 目次

 

. 研究教育活動

1. 研究部門及び附属施設

(研究業績に記した#は共同利用研究の成果に基づくもの)

 

細胞生理分野

<研究概要>

セントロメア反復配列の分子進化

古賀章彦

セントロメアは染色体上の構造物であり、細胞分裂の際に、染色分体の両極への移動の起点となる。一般にDNA成分として大量の縦列反復配列を含む。この反復配列に、CENP-B box とよばれるシグナルが存在することが、ヒトおよび類人猿で従来から知られていた。このシグナルは、セントロメアの形成に関与する。その役割から、ヒトと類人猿に限定されるとは考え難いため、より広範に存在するとの仮説を立てた。昨年度、マーモセットのセントロメア反復配列の構造を詳しく調べ、CENP-B box が存在することを見出した。今年度は、調べる対象を追加し、タマリンとリスザルに存在することを確認した。広い範囲の霊長類に存在するとの仮説は、これで検証が完了した。同時に明らかになった CENP-B box の分布から、CENP-B box は高い頻度で独立に生じる、またホストの生物種に有益な効果をもたらすとの仮説を、新たに提唱することとなった。


夜行性への適応の分子レベルでの証明

古賀章彦

真猿類(新世界ザル、旧世界ザル、ヒト科からなる分類群)は、例外が1つあるのみで、すべて昼行性である。ヨザル(漢字では夜猿)がその例外である。初期の哺乳類は夜行性であったとされている。このため、真猿類の共通祖先でいったん昼行性に移行し、ヨザルのみ夜行性に戻ったと、広く考えられている。しかし、真猿類の中でもヨザルだけは昼行性に移行しなかった、すなわち古くからの夜行性をそのまま保っていたという説明も、対立仮説として可能ではある。これに決着をつけることを目的に、ヨザルの視細胞にあるレンズ様構造物の成分を調べた。主成分は OwlRep とよばれる反復配列であるという結果が得られた。この OwlRep の有無を広く霊長類で調べたところ、ヨザル以外にはみつからず、ヨザルが他の系統と分岐した後に生じたものである可能性が濃厚となった。したがって、ヨザルのレンズ様構造物はヨザルが新たに獲得したものであるといえる。このように、ヨザルは昼行性から夜行性に戻ったとの仮説を、分子レベルで支持することとなった。


ニホンザル血小板減少症の発症・非発症機序の解明とマカク類のリスク評価法の開発

岡本宗裕

近年、京大霊長研および生理学研究所のニホンザル繁殖施設(以下生理研繁殖施設)において、原因不明の血小板減少症が流行し、多数のニホンザルが死亡した。我々は、疫学調査とニホンザルへの感染実験を行い、霊長研で発生したニホンザル血小板減少症の病因はサルレトロウイルス4型、生理研繁殖施設で発生した同症の病因はサルレトロウイスル5型(以下SRV-5)であることを明らかにした。平成28年度は、感染実験を行ったサンプルについて、免疫染色によるウイルスの局在を含めた病理学的検査を実施した。また、SRVの抗体検査に関しては、市販のキットによるELISAとウェスタンブロットを行ってきたが、ELISAキットのロット間でのバラツキが大きく、非特異的反応により判定が困難な場合もしばしば認められた。そこで、合成ペプチドを用いて抗原エピトープを特定し、より高感度で特異性の高い抗体検査法の開発を進めた。


無鉤条虫・アジア条虫感染家畜の迅速検査法の開発と宿主特異性規定因子の探索

岡本宗裕

本研究の第一の目的は、ウシとブタにおける無鉤条虫・アジア条虫感染を高感度で検出可能な迅速検査法の開発である。開発途上国を中心に地球規模で蔓延する人獣共通感染症であるテニア症・嚢虫症を根絶するためには、患畜を簡便に検出できる信頼性の高い検査法が必須である。本研究の第二の目的は、近年その存在が明らかになった無鉤条虫とアジア条虫の交雑体について、感染様式を解明することである。2 種の交雑体がアジア各地に分布することが判明した現在、「無鉤条虫はウシ、アジア条虫はブタが中間宿主」という既成観念を取り払い、改めて家畜における両種ならびに交雑体の寄生状況を調査する必要がある。また、交雑体も含めた比較ゲノム解析により、両種の宿主特異性を規定する遺伝因子を探索する。平成28年度は、ラオスの流行地において疫学調査を実施し、ブタおよびウシからテニア属条虫を採取した。ウシからの嚢虫採取は初めてのことであり、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析を実施した。


有鉤条虫の撲滅を目指した流行調査と土壌伝播蠕虫の網羅的検出法の開発

岡本宗裕

本研究の目的は、発展途上国を中心に蔓延する風土病であり、致死率の高い有鉤嚢虫症の撲滅を目指した対策方法を確立することである。我々の十数年にわたる流行調査により、世界に先駆けて『中間宿主である有鉤嚢虫症患者・患畜と終宿主である有鉤条虫症患者が共住している希有な地域』が発見され、撲滅に向けた対策研究を実施できる段階となっている。本研究では、〕鉤嚢虫症の感染源である有鉤条虫症患者の迅速高感度な新規検出法の開発、⊇惨超の衛生度の指標である土壌伝播蠕虫の網羅的検出法の開発、それらを用いた流行調査を実施し、有鉤嚢虫と有鉤条虫の伝播経路の解明を行い、『有鉤嚢虫症が風土病として定着している』要因を明確にすることにより、有鉤嚢虫症の撲滅を目指した対策方法を確立する。平成28年度も、インドネシア・バリ島において疫学調査を実施し、ブタ血清を分離し、フィールドでnaked-eye ELISAを実施することにより、有鉤条虫感染ブタを見つけることができた。しかし、これまでの調査に較べ胞状条虫との交差反応が数多く認められ、抗原の特異性に問題があることが明らかとなった。


雌オランウータンの繁殖生理モニタリングに関する研究

木下こづえ、岡本宗裕

国内の複数の動物園(旭川市旭山動物園、多摩動物公園、よこはま動物園ズーラシア、大阪市天王寺動物園および神戸市立王子動物園)と共同で、正常出産または死産をした5例の雌オランウータンの尿中性ステロイドホルモンおよびロイシンアミノペプチダーゼ濃度測定を行い、本種の妊娠に関するバイオマーカーについて詳細に調べた。その結果、発情ホルモンの代謝産物であるエストロン-3-グルクロニドは、死産例において他の正常出産例と比較して有意に低濃度を推移していたことが判明した。また、有意性はないものの、胎盤の大きさに比例して分泌されるロイシンアミノペプチダーゼにおいても、死産した雌の場合は値が低く、同時に胎盤の大きさも他の正常出産例と比較して小さかったことが明らかとなった。これまでの研究成果を論文にまとめ、Jounarl of Medical Primatologyに掲載された。


ボルネオオランウータンの精子液状保存法および体内人工授精法の確立に関する研究

木下こづえ

雌の人工授精適期を確実に評価するため、発情ホルモン濃度測定と併せてヒトと同様の手法を用いて目視(腟壁、子宮腟部、卵巣触診、および腟分泌物の観察)および超音波診断法による婦人科内診所見(子宮の位置・サイズ・内膜厚および卵胞サイズの計測)を収集し、発情ホルモン濃度ピーク日の腟、子宮および卵巣に関する情報の蓄積を行った。3個体の雌において、合計5回の経直腸法による超音波診断を実施した。特に、1個体の雌に関しては、尿中性ステロイドホルモン濃度動態から発情ホルモン濃度ピーク日を予測し、超音波診断後、排卵誘発剤(hCG)の投与も行った。その結果、発情ホルモン濃度に応じて、子宮内膜および卵胞のサイズが変化していることが明らかとなった。また、黄体ホルモン濃度動態から、卵胞が20 mmを超えていた場合のみhCGの効果が得られた。以上より、上記2種のホルモン濃度測定により、雌の生殖器の状態を推測できることが示唆された。また、オランウータンの排卵前の卵胞サイズはヒト(18から22 mm)と類似していると考えられた。


<研究業績>

原著論文

Chaisir K, Aueawiboonsri S, Kusolsuk T, Dekumyoy P, Sanguankiat S, Homsuwan N, Peunpipoom G, Okamoto M, Yanagida T, Sako Y, Ito A. 2017. Gastrointestinal helminths and Taenia spp. in parenteral tissues of free-roaming pigs (Sus scrofa indicus) from hilltribe village at the western border of Thailand. Trop Biomed. 34: 464–470

#Irie M, Koga A, *Kaneko-Ishino T, *Ishino F. 2016. An LTR retrotransposon-derived gene displays lineage-specific structural and putative species-specific functional variations in eutherians. Front Chem 4: 26. (doi: 10.3389/fchem.2016.00026)

Kinoshita K, Kuze N, Kobayashi T, Miyakawa E, Narita H, Inoue-Murayama M, Idani G, Tsenkova R. 2016. Detection of urinary estrogen conjugates and creatinine using near infrared spectroscopy in Bornean Orangutans (Pongo Pygmaeus), Primates 57: 51-59. (doi: 10.1007/s10329-015-0501-3)

木下こづえ, 菊地デイル万次. 2016. モンゴルおよびインドにおける人とユキヒョウの軋轢について. ヒマラヤ学誌. 18: 65-71.

#Kugou K, Hirai H, *Masumoto H, *Koga A. 2016. Formation of functional CENP-B boxes at diverse locations in repeat units of centromeric DNA in New World monkeys. Sci Rep 13: 27833. (doi: 10.1038/srep27833)

Mendonça RS, Takeshita RSC, Kanamori T, Kuze N, Hayashi M, Kinoshita K, Bernard H, Matsuzawa T. 2016. Behavioral and physiological changes in a juvenile Bornean orangutan after a wildlife rescue. Global Ecol. Conserv. 8: 116-122. (doi: 10.1016/j.gecco.2016.08.004)

宮沢孝幸、岡本宗裕. 2016. 京都大学霊長類研究所におけるニホンザル血小板減少症流行のその後 LABIO21 65: 15-19.

Nkouawa A, Sako Y, Okamoto M. Ito A. (2016) Simple identification of human taenia species by multiplex loop-mediated isothermal amplification in combination with dot enzyme-linked immunosorbent assay. Am J Trop. Med Hyg. 94: 1318-1323. (doi: 10.4269/ajtmh.15-0829)

#Suntronpong A, Kugou K, Masumoto H, Srikulnath K, Ohshima K, Hirai H, *Koga A. 2016. CENP-B box, a nucleotide motif involved in centromere formation, occurs in a New World monkey. Biol Lett 12: 20150817. (doi: 10.1098/rsbl.2015.0817)

Swastika K, Dharmawan NS, Suardita IK, Kepeng IN, Wandra T, Sako Y, Okamoto M, Yanagida T, Sasaki M, Giraudoux P, Nakao M, Yoshida T, Eka Diarthini LP, Sudarmaja IM, Purba IE, Budke CM, Ito A. 2016. Swine cysticercosis in the Karangasem district of Bali, Indonesia: Anevaluation of serological screening methods. Acta Trop. 163: 46-53. (doi: 10.1016/j.actatropica.2016.07.022)

Vance CK, Tolleson DR, Kinoshita K, Rodriguez J, Foley WJ. 2016. Near infrared spectroscopy in wildlife and biodiversity, J Near Infrared Spectroscopy 24: 1−25. (doi: https://doi.org/10.1255/jnirs.1199)

Yamanashi Y, Teramoto M, Morimura N, Hirata S, Suzuki J, Hayashi M, Kinoshita K, Murayama M, Idani G. 2016. Analysis of hair cortisol levels in captive chimpanzees: Effect of various methods on cortisol stability and variability, MethodsX. 3: 110-117. (doi: 10.1016/j.mex.2016.01.004)

Yamashita M, Imagawa T, Sako Y, Okamoto M, Yanagida T, Okamoto Y, Tsuka T, Osaki T. Ito A. 2017. Serological validation of an alveolar echinococcosis rat model with a single hepatic lesion. J Vet Med Sci. 79: 308–313. (doi: 10.1292/jvms.16-0513)


その他の執筆

木下こづえ.孤高の王者・野生のユキヒョウに会う.モンキー1(2),42−43,2016年9月発行


学会発表

#1) 印藤頼子、南晶子、兼子明久、佐藤容、木下こづえ、柳川洋二郎、永野昌志、岡本宗裕 (2016) 定期的な超音波検査がニホンザル(Macaca fuscata)の性周期に与える影響. 第32回日本霊長類学会大会、鹿児島

兼子明久,林 美里,櫻庭陽子,宮部貴子,前田典彦,山中淳史,ゴドジャリ静,木下こづえ,友永雅己. (2016)レオとともに歩んだ10年,Support for African/Asian great Apes (SAGA) 19,宇部

Kinoshita K. (2017) Report on the work of UNESCO's Man and the Biosphere Programme, The 7th International Symposium on Primatology and Wildlife Science, Kyoto

Kinoshita K, Kuze K, Miyakawa E, Kobayashi T, Nakamura T, Ogata M, Ozaki Y. (2016) Liquid storage of captive Bornean orangutan (Pongo Pygmaeus) sperm collected without anesthesia, Joint meeting of the International Primatological Society and the American Society of Primatologists, Chicago, USA

木下こづえ,中村智行,久世濃子,尾崎康彦. (2016)雌オランウータンにおける生殖器の状態と尿中性ステロイドホルモン濃度の関係性について,「ず〜ぞなもし。」動物園大学7 inとべ,伊予

Koga A (2016) Rapid replacement of centromeres by a variant-type repetitive DNA in a primate taxon(変異型反復配列でのセントロメアの急速な置換). Society for Molecular Biology and Evolution 2016 Conference. Goldcoast, Australia

古賀章彦、平井啓久. セントロメア反復配列の急速な入れ替わり:テナガザルとヨザルの例 . 日本遺伝学会第88回大会. 三島

Koga A, Tanabe H, Hirai H (2016) Amplification of tandem repeat DNA may be responsible for a rapid shift from diurnality to nocturnality in a primate taxon(縦列反復配列の急速な増幅が夜行性への変化に関与した可能性がある). 第39回日本分子生物学会年会. 横浜

#Miyazawa T, Yoshikawa R, Hashimoto-Gotoh A, Nakagawa S, Okamoto M. (2016) Pylogenetic analyses of simian foamy viruses from Yakushima macaques Macaca fuscata yakui. The 64th Annual Meeting of the Japanese Society for Virology, Sapporo

岡本宗裕、吉川禄助、阪脇廣美、鈴木樹理、坂口翔一、兼子明久、中村紳一郎、三浦智行、宮沢孝幸 (2016) サルレトロウイルス5型(SRV-5)のニホンザルへの感染実験. 第32回日本霊長類学会大会、鹿児島

奥村文彦,廣澤麻里,藤森唯,星野智紀,坂口真悟,綿貫宏史朗,木下こづえ,岡部直樹,木村直人,伊谷原一. (2016) 飼育下チンパンジーの授乳期の性皮腫脹について,第64回動物園技術者研究会,犬山

大西敏文,木下こづえ,菊地デイル万次郎. (2016) 当歳ユキヒョウの継続的な写真撮影と体重測定による成長データ解析,北海道飼育技術者研究会,旭川

#佐藤容、印藤頼子、木下こづえ、柳川洋二郎、外丸祐介、岡本宗裕 (2016) 室内個別ケージ飼育下における雌ニホンザル(Macaca fuscata)の尿中性ステロイドホルモン濃度について. 第32回日本霊長類学会大会、鹿児島

#外丸祐介、信清麻子、吉岡みゆき、畠山照彦、印藤頼子、兼子明久、岡本宗裕、今井啓雄、平井啓久 (2016) 霊長類における受精卵と精子の凍結保存. Cryopreservation Conference 2016、岡崎

Takeshita RS, Huffman MA, Kinoshita K. (2016) Bercovitch FB, The effect of castration and the environment on the relationship between dominance rank and fecal steroid concentrations in male Japanese macaques (Macaca fuscata), Joint meeting of the International Primatological Society and the American Society of Primatologists, Chicago

峠明杜、早川卓志、岡本宗裕、橋本千絵、湯本貴和 (2016) カリンズ森林に同所的に棲息するグエノン3種の食性比較 〜昆虫食に注目して〜. プリマーテス研究会、日本モンキーセンター、犬山

吉川禄助、坂口翔一、中川 草、中村 紳一朗、阪脇廣美、兼子明久、三浦智行、鈴木樹理、岡本宗裕、宮沢 孝幸 (2016) サルレトロウイルス5型感染によるニホンザル血小板減少症 第159回日本獣医学会学術集会、藤沢


講演

木下こづえ. 2016. ユキヒョウのおはなし,大牟田市動物園スピカのお誕生日会,大牟田

Kinoshita K. 2016. Reproductive monitoring of captive Bornean orangutans (Pongo pugmaeus) in Japanese zoos, 2016 Wildlife Medicine Clinical Technique Training Course, Kota Kinabalu, Malaysia

木下こづえ. 2016. 雪山の王者、ユキヒョウの謎に迫る―動物園から野生まで―.東山動植物園動物講演会,名古屋