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禁断の果実を分け合うチンパンジー
原題:Chimpanzee share forbidden fruit

記載雑誌:PLoS ONE 「プロスワン」、9月12日号、
http://www.plosone.org/

著者:7人、日英米葡の4か国の国際チーム
キムバリー・ホッキングス、英国、スターリング大学、研究員
タチアナ・ハムル、米国、ウィスコンシン大学、研究員
ジェームズ・アンダーソン、英国、スターリング大学、教授
ドラ・ビロ、英国、オックスフォード大学、研究員
クローディア・ソウザ、ポルトガル、リスボン大学、講師
大橋岳(おおはし・がく)、日本、京都大学霊長類研究所、教務補佐員
松沢哲郎(まつざわ・てつろう)、日本、京都大学霊長類研究所、教授

動画1 村の民家の軒先に実ったパパイヤを取る野生チンパンジー mpeg 6.8MB

動画2 取ってきたパパイヤを分け与える野生チンパンジー mpeg 5.1MB

論文の要約

概要
大きなパパイヤの実を取ってきた野生チンパンジーが、それを「贈り物」に使うことがわかった。とくに多いのは、おとなの男性が、発情期を迎えているおとなの女性に渡す。逆にいうと、ほかの男性には渡さないし、発情していない子連れの女性にも渡さない。人間との共生がすすんだ結果、民家の軒先のパパイヤを手に入れて贈答に使う新しい文化が生まれたのだろう。

調査地は西アフリカのギニアのボッソウ。京都大学霊長類研究所のチームが1976年から継続観察している。調査期間は、2003年12月から2005年12月までの2年間、そのうちの454日間調査した。群れの個体数は、当時12−22個体だった(2003年11月に呼吸器系疾患の流行で5個体が死亡した)。この調査期間中、おとなの男性はいつも3名だった。おとなの女性は4から8名だった。ここのチンパンジーは、石器を使ってアブラヤシの硬い種を叩き割って中の核を取り出して食べる文化をもっていることで知られる。また、彼らのすむ森は、ボッソウ村(人口約3000人)のすぐ裏に位置しており、人間が農作物を作る畑や稲のたんぼや、荒地としてのサバンナに囲まれている。現地のマノン人は自分たちの祖先がチンパンジーだという信仰をもっていて、彼らをトーテムとして守っている。つまり人間とチンパンジーが共存し同じ場所を使う。そこで、おとなの男性チンパンジーが役割分担(先陣、つきそい、しんがり)して、道を渡ることでも知られている。今回は、野生チンパンジーが、人間の農作物とくに村の民家の軒先に実った大きなパパイヤの実を(村の人々が見守る中で公然と)盗んで、それを贈り物に使うことがわかった。

調査期間中に、786回の農作物荒らしがあった。そのうちの58回で、手に入れた食物を仲間で分け合った。分け合いが確認された58回について、さらに詳しく分析した。全部で17種類の食物があった。パパイヤ、パイナップル、オレンジ、とうもろこし、カカオ、キャッサバなどである。しかしそのうちの大部分の43回がパパイヤの実か葉か茎かで、とくに36回がパパイヤの大きな実だった。

58回のうち、最も多い25回が、おとなの男性がとってきたものをおとなの女性と分けるものだった。とくにそのうちの21回が、パパイヤの大きな実である。これが主要な結果だ。

次に多いのは20回で、母親がとってきて子どもに分かち与えたり、子ども(といってもおとなの男性も含む)がとってきて(年老いた)母親に分かち与えたりした、つまり母子間の分かち合いである(この母子間の分配は、血縁選択で説明できるもので、そうふしぎではない。チンパンジーはこの母子間の食物分配をよくする)。

つまり、食物を分け合った58回の全体の大半を占める典型的な事例として、「おとなの男性が村の民家の軒先のパパヤの木に登って、パパイヤの実を1個ないし2個とってきて、それを森に持ち帰り、待っていたおとなの女性に分け与えることが多い」ということがわかった。3人の男性がそれぞれこのパパイヤの贈り物をした。その前後の行動をみると、男性は、この発情中の女性とセックスできることが多かった。また、女性に毛づくろいをしたり、女性から毛づくろいをされたりすることも多かった。食物とセックスの交換といえるだろう。

パパイヤの実を取りにいこうとする直前、おとなの男性チンパンジーは毛を逆立てて、自分の体をぼりぼり掻く。これは不安の兆候である。だいたいいつもの4倍程度の頻度で掻いていた。つまり、人間のいる村の民家の軒先のパパイヤをとるので、かなり緊張していると考えられる。こうして、高いコストを払って手にいれた貴重な食物だから、ふつうに考えればそれを分かち与えるのは得策ではない。それをあえて分かち与えるという点から見ても、これは「贈り物」といえるだろう。

これまで、野生チンパンジーが狩猟をして、獲物のサルやイノシシやシカを、なかまとわかちあうことは知られていた。しかし、こうした肉の分配は知られていたが、植物のばあいはそうした分配はほとんどおこらない、と信じられてきた。また、肉の分配のばあいは、男性が狩猟して男性のあいだでわかちあう。そこに発情期の女性も加わる、というパターンだ。今回のパパイヤの贈り物のばあい、とても重要な違いは、肉のような男性から男性へのわかちあいはほとんどない、ということだ(58例中1回、つまり2年間で1回だった)。パパイヤの実は、男性から、日ごろ親しくしている発情期の女性への「贈り物」になっている。これは新しい文化の創造といえるだろう。人間とチンパンジーが共存するようになったことが一因だと考えられる。つまり、チンパンジーが「大きなパパイヤの実」という狩猟の獲物に匹敵する新たな食物資源を発見し、おとなの男女が、こうした「禁断の果実を分かち合う」というような新たな行動が生まれたのだろう。

論文へのリンク
http://www.plosone.org/article/fetchArticle.action?articleURI=info:doi/10.1371/journal.pone.0000886

先行関連論文:
大橋岳(2007)
「ギニアのボッソウの野生チンパンジーにおけるパパイヤの実の分配」
Pan Africa News 14巻1号、2007年6月号
http://mahale.web.infoseek.co.jp/PAN/14_1/14(1)_07.html