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H30
論文 19 報 学会発表 72 件
H30-A1
代:宇賀 貴紀
協:三枝 岳志
協:熊野 弘紀
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

宇賀 貴紀 , 三枝 岳志, 熊野 弘紀, 須田 悠紀

判断形成の神経メカニズムの理解には知覚判断、特にランダムドットの動きの方向を答える運動方向弁別課題を用いた研究が大きな役割を果たしてきた。運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。眼球運動を最終出力とする判断を司る脳領域として、大脳皮質外側頭頂間(LIP)野、前頭眼野(FEF)、上丘(SC)などが想定されており、これらの領野で判断関連活動が計測されている。しかし、LIP野を不活性化しても判断に影響はでず、判断関連活動と判断との因果関係が未解決な重要問題として捉えられている。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度はサル2頭に運動方向弁別課題を訓練し、うち1頭ではMT野を同定し、hM4Di遺伝子を搭載したウイルスベクターを打つ準備を行った。


H30-A2
代:石垣 診祐
協:遠藤 邦幸
FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析
FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析

石垣 診祐 , 遠藤 邦幸

ヒトのFTLD患者で確率逆転学習において特異的な所見が存在したことから、これに類する高次脳機能行動バッテリーの開発を霊長類研究所で行い、実際のモデルを用いた研究を名古屋大学医学研究科で実施するために、マーモセットの飼育を開始し、マーモセットの飼育室内で実施した。具体的にはマーモセットの飼育ケージの前面扉に認知実験装置を装着し、マーモセットに画面をタッチさせることで実験を行った。 マーモセットに1対の視覚刺激を提示して、その1つをタッチすると報酬が与えられる。他方にタッチすると誤反応となる。 この図形弁別課題を学習させた後、逆転学習課題を実施し、実際に学習が成立することを確認した。また名古屋大学において尾状核特異的にFUSを抑制するためにmarmoset FUSに対するshRNAを発現するAAVをstereotaxicにinjectionした(4頭)、同様にcontrol shRNAをinjectionする実験を4頭に対して行った。今後はFUS抑制による確率逆転学習への影響を経時的に評価していく。


H30-A3
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:若林 正浩
協:Woranan Wongmassang
協:Zlata Polyakova
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究

南部 篤 , 畑中 伸彦, 知見 聡美, 佐野 裕美, 長谷川 拓, 纐纈 大輔, 若林 正浩, Woranan Wongmassang, Zlata Polyakova

パーキンソン病の病態を明らかにするため、ドーパミン作動性神経細胞に選択的に働く神経毒であるMPTP (1-methy-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine) をニホンザルに投与し、パーキンソン病モデルサルを作製した。覚醒下のサルにおいて、淡蒼球外節および内節の上肢支配領域を同定し、複数のニューロンから神経活動の同時記録を行って相互相関を調べたところ、正常サルにおいては、ほとんどの淡蒼球ニューロンが相互相関を示さずに独立に発火していたが、パーキンソン病モデルでは、多くの淡蒼球ニューロン間で活動の相互相関がみられ、b帯域の共振が生じていることがわかった。記録を行いながらL-dopaを投与し、症状が改善された時に記録を行ってみると、淡蒼球ニューロン間で観察された活動の相互相関とb帯域の共振がほとんど消失していた。これらのことから、淡蒼球ニューロンの同期活動やb帯域の共振が、パーキンソン病の症状発現に寄与していることが示唆された。


H30-A4
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:山崎 美和子
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明
ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明

小林 和人 , 菅原 正晃, 加藤 成樹, 渡辺 雅彦, 山崎 美和子, 内ヶ島 基政, 今野 幸太郎

 束傍核に由来する視床線条体路の運動機能における役割を明らかにするために、マーモセットの束傍核線条体路の選択的除去の誘導を試みた。イムノトキシン細胞標的法のための遺伝子として、インターロイキン-2 受容体αサブユニット(IL-2Ra)をコードし、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの線条体内に注入した。その後、束傍核にイムノトキシンあるいはコントロールとしてPBSを注入した。視床線条体路を欠損する動物の行動学的評価として、採餌タスクを用いて運動機能の解析を行った結果、イムノトキシン投与群で学習の獲得の低下が認められた。今後、例数を追加し、運動機能における本経路の役割を確認する必要がある。
 逆行性導入に関わる新規の融合糖タンパク質機能を評価するために、FuG-E型糖タンパク質の変異体を用いて作成したウイルスベクターをマカクザル脳内に注入し、従来のFuG-E型ベクターの効率と比較検討した。FuG-E変異体については、N末端より440番目のアミノ酸が遺伝子導入効率に重要なため、この位置のアミノ酸置換を導入した変異体を作成し、その活性をマウス脳内への遺伝子導入によって解析した結果、440番目のアミノ酸をグルタミン酸に変異させた場合、マウス脳内では最も高い遺伝子導入効率が得られることを明らかにした。コノウィルスベクターによる脳内への導入を組織学的に解析した。今後、遺伝子の導入された細胞数をカウントし、その効率について詳細に分析する計画である。



H30-A5
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
協:戸松 彩花
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定

関 和彦 , 大屋 知徹, 梅田 達也, 工藤 もゑこ, 窪田 慎治, 戸松 彩花

脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。

本年度は新たなウィルスベクターの開発を継続して行なった。また、国立精神・神経医療研究センターにおいて、霊長類研究所から供給を受けたAAVベクターの機能評価をマーモセットを対象に行う研究を終了し、学会発表を行った。



H30-A6
代:石田 裕昭
協:西村 幸男
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田 裕昭 , 西村 幸男

前頭極 (Brodmann Area 10; BA10)は前頭前野の最前部に位置する霊長類に固有の脳領野であり、行動制御のための高次認知機能に関わる可能性が示唆されてきた。
本年度は、マカクザルBA10を標的として逆行性神経トレーシング法を用い、BA10に対して投射する皮質領野を明らかにする目的で実施した。まずBA10に対しコンベンショナル逆行性神経トレーサー(Fast blue; FB)を注入し、BA10へ直接投射する皮質領野を調べた。さらに逆行性越シナプス性神経トレーサー(狂犬病ウイルス)をBA10へ注入し、2次シナプス以内にBA10へ投射する皮質領野を調べた。
FBラベルを解析した結果、〜案葉では背外側前頭前野(areas 9d/8d, 46d, 8b-FEF, 12/45)、腹内側前頭前野(areas 11, 13, 14, 25, 32, 24, 前部島皮質)、側頭葉では側頭極、上側頭回、STS上壁領野(area STP)、8綟・頭頂葉では後部帯状回 (areas 23, 31)、脳梁膨大部 (areas 29, 30)にラベルが認められた。BA10はこれらの領野から直接投射を受けている。
狂犬病ウイルスを用いてFBでは分からなかった2次ニューロンラベルを解析したところ、2つシナプスを経てBA10に投射する領域は聴覚野(AL野; anterolateral belt area)、TE野、嗅内皮質、海馬傍皮質であった。
本研究は、BA10が背側経路(背側前頭前野―後部帯状皮質)と腹側経路(内側・腹側前頭前野―側頭葉)に加え、2次シナプスを経て海馬傍回領野群から投射を受けていることを明らかにした。今後は、BA10の皮質間ネットワークとB10―大脳基底核ループ回路の解析を進め、BA10の高次認知機能について明らかにしていきたい。



H30-A7
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:平井 康治
協:緒方 久実子
協:東山 哲也
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

藤山 文乃 , 苅部 冬紀, 平井 康治, 緒方 久実子, 東山 哲也

大脳皮質 - 大脳基底核 - 視床ループは行為選択や随意運動実行に関与している。げっ歯類の線条体背外側部はこのうち運動機能と関わりが深い部位とされ、大脳皮質の一次運動野・二次運動野や、運動視床であるVA/VL核から興奮性シナプス入力を受ける。本年はまずげっ歯類で、大脳皮質二次運動野からの興奮性入と、VA/VL核からの興奮性入力とが線条体内のどの領域に投射し、また、パルブアルブミンニューロンの樹状突起のどの位置に入力されるかを形態学的に解明した (添付画像ファイル:Nakano, Karube et al.2018; Fujiyama et al., 2019)。また、尾側線条体の一部の領域において、D1Rおよびtyrosine hydroxylaseの染色性が弱く、D2Rの染色性が強い領域 (D1R-poor zone) を発見し、2018年の米国神経科学学会で報告した。この領域は、マウスおよびラットの両方で確認しており、現在は所内対応者の高田昌彦教授にご提供いただいたマーモセットを用いた実験を進めている。


H30-A8
代:橋本 均
協:中澤 敬信
協:笠井 淳司
協:勢力 薫
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本 均 , 中澤 敬信, 笠井 淳司, 勢力 薫

学会発表
Hitoshi Hashimoto, Kaoru Seiriki, Atsushi Kasai, Takanobu Nakazawa, Ken-ichi Inoue, Masahiko Takada. High-resolution imaging of primate brains using FAST.(2018年7月31日)国際ワークショップ「遺伝子導入技術の利用による霊長類脳機能操作とイメージング」(量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所)

勢力薫、笠井淳司、丹生光咲、田沼将人、五十嵐久人、中澤敬信、山口瞬、井上謙一、高田昌彦、橋本均 高精細全脳イメージング技術FASTの開発と精神疾患モデルマウスの病態解析―脳全体を対象とした仮説フリーな病態・薬物治療機序の組織学的解析―(2018年10月13日)第68回日本薬学会近畿支部会 (姫路獨協大学)

霊長類脳の詳細な全脳神経回路の情報を得るため、本年度は、高田研で作成された細胞種特異的に神経細胞を高効率に標識するアデノ随伴ウイルスを感染させた脳を、高速高精細な全脳イメージングシステムFASTを用いて、単一細胞レベルで観察した。それらの画像データから、全脳レベルの投射パターンを得ることに成功している。今後は霊長脳の詳細な神経回路解析を達成するための画像データ処理法の開発等を実施する予定である。



H30-A9
代:Wirdateti
Analysis of mitochondrial sequences for species identification and evolutionary study of slow loris (genus Nycticebus)
Analysis of mitochondrial sequences for species identification and evolutionary study of slow loris (genus Nycticebus)

Wirdateti

In Indonesia three species of the five existed species of genus Nycticebus are found in three major islands of Indonesian archipelagos, N. coucang (Sunda loris) in Sumatra; N. menagensis (Borneo loris) in Borneo; and N. javanicus (Javan slow loris), the endemic species to the island of Java. They are listed in the IUCN Red List as critically endangered, and the Javan slow loris has now been included on a list of the “World’s Top 25 Most Endangered Primates” a fourth time [Mittermeier et al., 2008?2010, 2010?2012, 2012?2014]. Illegal harvesting and trade are the major forces behind the population declines of wild slow lories in Indonesia. The problem arises during confiscations. We often found these animals were found dead, very young or unhealthy, making it difficult to distinguish the species based on morphology. For this reason, it is necessary to develop a reliable DNA marker to identify the species of slow loris.
In the Cooperative Research Program 2018, I examined the 16S ribosomal RNA (rRNA) of mitochondrial DNA (mtDNA). This study aims to understand the degree of genetic variation between the species and among local populations within the species, to aid future conservation efforts. These results will be valuable as a supportive data in the release and reintroduction of Nycticebus species to the wild without disturbing the gene pool of local populations. This study can also be used for further studies of slow loris evolution in Asia.
From 42 samples examined in this study, we obtained 36 sequence data of 16S rRNA with the length of 1640 bp nucleotides for three species: N. menagensis, N. javanicus, and N. coucang. We found 12 haplotypes from 24 N. coucang individuals, whereas in N. javanicus there are four haplotypes from 10 individuals. Only one individual was examined for N. menagensis. For phylogenetic analysis, 35 samples were used because one of the samples from Sumatra (N. coucang, No. 42) showing a strange sequence was excluded. The data analysis was conducted using the MEGA 6.0 program. The results of the phylogenetic analysis showed that 2 samples from the specimens identified as N. menagensis species (N. men 21, N. men 27) were included in the cluster of N. coucang, and the N. men 23 samples were in the N. javanicus cluster, while one sample was N. javanicus (N. jav1) was considered as N. coucang. The nucleotide differences between species were around 55 -81 nucleotides between N. coucang and N. javanicus, around 70-94 nucleotides between N. javanicus and N. menagensis, and round 38 nucleotides between N. coucang and N. menagensis. From this study, I conclude that 16S rRNA gene could be used as genetic marker for identification of species in genus Nycticebus, especially for three species of Indonesia. However, we need more information for other mtDNA region as to genetic variations between and within species of slow loris.



H30-A10
代:松本 正幸
協:山田 洋
マカクザル外側手綱核の神経連絡
マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本 正幸 , 山田 洋

嫌悪的な事象(報酬の消失や罰刺激の出現)を避けることは、動物の生存にとって必須である。研究代表者と所内対応者、協力研究者らの研究グループは、マカクザルを用いた電気生理実験により、外側手綱核と呼ばれる神経核がこのような回避行動の制御に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにしてきた(Kawai et al., Neuron, 2015; Kawai et al., Cerebral Cortex, 2018)。このような外側手綱核の回避行動に対する役割をさらに神経回路レベルで理解するためには、外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持ち、そのシグナルがどの領域に伝達されているのか、またどの領域を起源とするのか知る必要がある。しかし、外側手綱核の神経連絡を調べた解剖学的な研究の多くはげっ歯類を対象にしたものであり、霊長類を対象とした研究はほとんどおこなわれていない。
2018年度は、1頭のフサオマキザルの外側手綱核に神経トレーサーを注入し、霊長類の外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持つのかを明らかにしようと試みた。神経トレーサーの注入をおこない、現在は解析を進めているところである。2019年度以降、動物の頭数を増やし、データの信頼性を高める予定である。



H30-A12
代:Aye Mi San
協:Phyu Pyar Tin
Conservation genetics of Myanmar’s macaques? a phylogeographical approach
Conservation genetics of Myanmar’s macaques? a phylogeographical approach

Aye Mi San , Phyu Pyar Tin

The country of Myanmar is part of the important role in rhesus macaque`s distribution range from Afghanistans to the East China Sea, and their phylogeographic study. In 2017 and 2018, we conducted field surveys in Central Myanmar (6 locations), Northern Myanmar (3 locations) and North-western Myanmar (4 locations) where we collected non-invasive samples such as feces and hair samples from macaques. These genetics resources were brought to the Primate Research Institute (PRI), Kyoto University by the permission of “Ministry of Natural Resources and Environmental Conservation, Forest Department of Myanmar”. We extracted mtDNA and amplified the target D-loop region (1.2kb) from 13 known locations of rhesus macaques from Myanmar. The results showed that at least two clusters of rhesus macaque (Macaca mulatta) were observed in Myanmar. The northern clade has highly genetic distance (0.072 to 0.085) from Central and North-western clade. Between these two clusters may have different histories, ancient geographic or ecological barriers such as Chindwin River, Ayeyarwady River, mountain ranges, valleys and different climate to prevent gene flows between two clusters. To characterize the phylogeographic position in their distribution range, D-loop sequenced of eight rhesus macaques from Primate Research Institute (5 samples from India and 3 samples from China) and aligned with Myanmar rhesus. These results suggested that Myanmar Northern clade rhesus macaque is clustered in the Indian 1 haplogroup and Central and North-western clade is clustered in Indian 2 haplogroup. Based on our findings, we suggested that Myanmar origin rhesus macaques might be genetically suited for biomedical research similar as Indian origin rhesus macaque. For these reasons, we would like to extend our project to conduct the other parts of Myanmar (Kayah and Mon States) in 2019. The results outcomes from the 2017-18 findings were presented at “Myanmar Biodiversity and Wildlife Conservation” workshop funded by Norwagian Environment Agency dated on 27th- 28th November 2018. The title “Phylogenetic Study of Rhesus Macaque: Advance in Myanmar’s Primatology and Effort to Conservation” was presented by Dr Aye Mi San and Dr Hiroyuki Tanaka.


H30-A13
代:田中 真樹
協:竹谷 隆司
協:鈴木 智貴
協:亀田 将史
行動制御における皮質下領域の機能解析
行動制御における皮質下領域の機能解析

田中 真樹 , 竹谷 隆司, 鈴木 智貴, 亀田 将史

分子ツールをニホンザルに適用した複数の実験を進め、大脳視床経路や小脳外側部の機能を探ることを目的に研究を進めてきた。H30年度は視床−大脳間の情報処理を明らかにするため、大脳視床路を光遺伝学的に抑制することを試みた。前年度までに行った実験では、途中で光刺激に対する反応性が低下し、実験後の細胞脱落を認めたが、ベクター接種後数か月であれば遺伝子発現がみられることを予備実験で確認していただいた。京大から新たにウイルスベクターを提供していただき、H30年4月に北大で補足眼野に遺伝子導入を行い、5月から約3か月にわたって視床の光刺激実験を行った。弱い反応を示すニューロンを記録することができていたが、8月頃より体調が悪くなることが時折あり、9月上旬の地震による2日間の停電後にサルの体調が悪化したので灌流した。京大で免疫組織学的検討を行っていただいたところ、大脳・視床とも良好に遺伝子発現がみられた。ただし、その間に遺伝子導入をしていない個体で予備実験を行ったところ、光刺激の影響がみられるニューロンが記録されたため、現在、対照実験でえられたデータと合わせ、解析を進めている。


H30-A14
代:南本 敬史
協:永井 裕司
協:小山 佳
協:堀 由紀子
協:藤本 淳
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

論文
Fujimoto A, Hori Y, Nagai Y, Kikuchi E, Oyama K, Suhara T, Minamimoto T(2019) Signaling incentive and drive in the primate ventral pallidum for motivational control of goal-directed action J Neurosci. 39(10):1793-1804.

学会発表
Nagai Y, Miyakawa N, Ji B, Hori Y, Huang XP, Slocum S, Yan X, Ono M, Shimojo M, English J, Liu J, Inoue KI, Kumata K, Hirabayashi T, Seki C, Fujimoto A, Mimura K, Oyama K, Zhang MR, Suhara T, Takada M, Higuchi M, Jin J, Roth B, Minamimoto T. PET imaging of selective control of neural activity with a novel DREADD agonist(2018/07/26) 日本神経科学学会(神戸).

Minamimoto T A novel ligand C22b enables selective and rapid chemogenetic neuronal modification in monkeys(2018/12/13) Genetic Technologies for Systems Neuroscience in NHP(Bethesda, MD, USA).

Minamimoto T A chemogenetic toolbox for primates(2019/01/29) International Symposium of Brain/MINDs (ISBM2019)(東京).

三村 喬生, 永井 裕司, 井上 謙一, 須原 哲也, 高田 昌彦, 南本 敬史 Using PET imaging to monitor chemogenetic manipulation of nigrostriatal dopamine system in common marmoset(2018/7/27) 日本神経科学学会(神戸).
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

南本 敬史 , 永井 裕司, 小山 佳, 堀 由紀子, 藤本 淳

本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.H30年度は脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い化合物として独自に見出したDCZ(特許出願)の有効性について検証を進めた.DCZはclozapineと異なり低濃度ではDREADD以外の受容体に結合・作用せず,また体内で代謝をほとんど受けないことがわかった.DCZは極少量で脳内局所に発現させた興奮性DREADD(hM3Dq)をCNOの1/100の低い濃度で活性化させるとともに,DCZを放射性ラベルした[11C]DCZはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で,高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに,陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功した.さらにhM4Diを局所脳部位に発現するサルの行動をDCZの微量投与で操作可能であることを示した。(Nagaiらunder review).この成果は複数の論文に発表するとともに、化合物DCZの情報を共有するにより,DREADDによるサル脳回路操作を広く展開する.


H30-A15
代:Van Minh Nguyen
Effect of the fragmentation on genetic diversity of macaque populations in Central Vietnam
Effect of the fragmentation on genetic diversity of macaque populations in Central Vietnam

Van Minh Nguyen

Due to the diverse habitat environments, Vietnam harbors a high diversity of nonhuman primates with as many as 25 species. Five species of macaques (Macaca fascicularis, M. mulatta, M. leonina, M. arctoides, and M. assamensis) are recognized in our country. However, most of the nonhuman primates in Vietnam are threatened by illegal hunting for foods and medicine, and habitat degradation by human activities. In Central Vietnam, I have been investigating local distribution of macaques and slow loris, and reported about the distribution pattern of them in habitats that were fragmented by plantations of beneficial agricultural products (rubber, coffee, peppers, Acacia, pines, etc.) (Minh et al, 2012; 2013; 2014). We found that population size of those species was small, and that conflict between monkeys and humans and over-hunting were serious problems. However, effect of habitat degradation and human activities on genetic diversity of nonhuman primate populations has not been evaluated so far in Central Vietnam.
In this research project, I used fecal samples that I collected during the field survey of macaque distribution conducted in 2012-2017.
From September 18th to September 27th, 2019, DNA extraction, PCR products, and mtDNA sequencing of 17 individuals of M. arctoides were done at Dr. Tanaka’s laboratory in PRI, Kyoto University. The results of analyses showed that D-loop sequences of 17 individuals of this species were obtained.
In the next time, we will carry out phylogenetic and population genetic analyses using some software to clarify the genetic relationship among local populations of this species living in fragmented habitats.
To have these D-loop sequence data, I would like to thank Dr. Hiroyuki Tanaka and PRI, Kyoto University for their kind support.



H30-A16
代:Hadi Islamul
Fish-eating behavior of the macaques : A comparative study of long-tailed macaque and Japanese macaque
Fish-eating behavior of the macaques : A comparative study of long-tailed macaque and Japanese macaque

Hadi Islamul

I conducted field data collection of free-ranging Japanese macaques in Koshima Island of Miyazaki during 22-27 May 2018. The observation including field observation of the macaques and interview persons who may knew the information of Koshima macaques. During field observation, I could only spent two days obervation in Odomari beach, beach-site where fish-eating behavior reported previously, because of the unsup-ported weather condition . I found no individuals of the Japanese maca-ques who visited the beach site of Koshima Island exhibitted fish-eating behavior. Base on the interview , the macaques eat fishes occas-ionaly when the the death fishes harbouring to the beach site. The fishes were discarded fishes from anglers who fishing nearby the island. Compared to those found in long-tailed macaques in Pangandaran of Indonesia, fish-eating behavior may became the same mode as the way to fulfill the nutritional requeriments. Both species, long-tailed and Japanese maca-ques, were obtain the fishes by passive fishing mode, the fishes were death-discarded fishes or stolen from human fish-storages. Pangandaran long-tailed macaques may exhibitted fish-eating behavior than those of Japanese macaques in Koshima more frequently and more individuals those exhibitted the behavior. It may because of the sources of fishes in Pangandaran more available than those in Koshima. The long-tailed maca-que also more frequent to expossed to fishes because of the eastcoast site of Pangandaranwere actively to occupied by human to harb-our the fishing vessel, shorted and transfered the fishes to the fish seller.


H30-A17
代:西村 幸男
協:鈴木 迪諒
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

論文

学会発表
鈴木迪諒、井上謙一、中川浩、伊佐正、高田昌彦、西村幸男 サル腹側中脳は一次運動野を介して筋出力を促通する(2018年12月13日) 次世代脳プロジェクト(東京).

Suzuki M, Inoue K, Nakagawa H, Isa T, Takada M, Nishimura Y Deep brain stimulation of the ventral midbrain facilitates the output to forelimb muscles via the primary motor cortex in monkeys(2018年2月26-28) The 3rd International Brain Stimulation Conference(Vancouver).

関連サイト
研究室ホームページ http://www.igakuken.or.jp/project/detail/neuroprosth.html
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

西村 幸男 , 鈴木 迪諒

越シナプス神経トレーサー(狂犬病ウイルス)により、意欲の中枢である腹側中脳から二シナプス性に脊髄へ投射していることを見出した。さらに狂犬病ウイルスによって標識された腹側中脳ニューロンの一部はドーパミンニューロンであることを免疫組織化学実験によって明らかにした。これらの成果の一部を、下記に示す2本の研究発表を行った。

1) 鈴木迪諒、井上謙一、中川浩、伊佐正、高田昌彦、西村幸男. サル腹側中脳は一次運動野を介して筋出力を促通する. 2018年度次世代脳プロジェクト
2)Suzuki M, Inoue K, Nakagawa H, Takada M, Isa T, Nishimura Y.Deep brain stimulation of the ventral midbrain facilitates the output to forelimb muscles via the primary motor cortex in monkeys. The 3 rd International Brain Stimulation conference.



H30-A18
代:福田 真嗣
協:村上 慎之介
協:谷川 直紀
協:楊 佳約
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響

福田 真嗣 , 村上 慎之介, 谷川 直紀, 楊 佳約

ヒトを含む動物の腸内には、およそ千種類で40兆個にもおよぶとされる腸内細菌が生息しており、その集団を腸内細菌叢と呼ぶ。腸内細菌叢は宿主腸管と密接に相互作用することで、複雑な腸内生態系を構築しており、宿主の生体応答に様々な影響を及ぼしていることが報告されている。近年、無菌マウスを用いた研究や抗生物質を投与したマウスを用いた研究において、腸内細菌叢が脳の海馬や扁桃体における脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生量に影響を与え、その結果マウスの行動に変化が現れることが報告されている(Heijtz, et al., PNAS, 108:3047, 2011)。これは迷走神経を介した脳腸相関に起因するものであることが示唆されているため、腸内細菌叢が宿主の脳機能、特に情動反応や記憶力に迷走神経を介して影響を及ぼす可能性が考えられる。しかし、情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係を調べるには、マウスなどのげっ歯類では限界があると考えられることから、本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行った。本年度は高次脳機能評価を行うための課題訓練と、図形弁別課題およびその逆転学習課題を訓練した。さらに、記憶機能を検討するため空間位置記憶課題も訓練した。これらのマーモセットの便を採取し、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢解析を行った。得られた腸内細菌叢情報と認知機能情報について、相関解析や多変量解析手法を用いてアプローチし、認知機能に関連する腸内細菌叢の探索を行った。その結果、認知機能の高いマーモセット個体と腸内細菌叢との間に相関関係を一部見出すことができたため、今後はより詳細な解析を実施する。


H30-A19
代:植木 孝俊
協:尾内 康臣
高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出
高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出

植木 孝俊 , 尾内 康臣

 近年、ヒトを含む哺乳動物の脳で、成長後にもニューロンの新生が継続していることが確認されている。また、大うつ病、統合失調症、認知症併発型パーキンソン病などの精神神経疾患患者の死後脳解析の結果、成体脳神経新生(adult neurogenesis)の著明な障害が観察され、成熟脳の神経新生が担う生理学的機能への関心が寄せられているところである。一方で、これまで成体脳神経新生の解析は、専らマウス、ラットなどのげっ歯類で行われ、ヒト、マカクザルなどの高等霊長類成体脳における神経幹細胞の動態解析、並びに、その生理学的機能の探究はほとんどなされていない。
 本研究では、マカクザルにて成体脳神経新生動態をin vivoで描出、評価することができるポジトロン断層法(PET)による分子イメージング技術を創出する他、マカクザルで神経幹細胞を特異的に障害するためのレンチウィルスによる遺伝子発現系を確立し、サルの成体脳神経新生障害モデルが呈する精神神経症状を解析することを目的とした。
 まず、ラットでレンチウィルスにより神経幹細胞特異的に中性アミノ酸トランスポーター/共役因子遺伝子を発現させ、O-18F-fluorometyltyrosine([18F]FMT)の集積をPETで画像化した。ここでは、併せて強制水泳試験による大うつ病病態モデルラットにて、成体脳神経新生動態をPETで描出し、神経新生障害が大うつ病の病態生理に与ることを確認した。次に、レンチウィルスをラットの脳室下帯もしくは海馬歯状回に感染させ、HSV1-sr39tk遺伝子の発現を誘導した後、ガンシクロビルを腹腔投与することにより、各neurogenic nicheの神経幹細胞を障害し、その認知、記憶などへの影響を行動学的解析により評価した。さらに、HSV1-sr39tk発現神経幹細胞を8-[18F]fluoropenciclovir(FPCV)によりPETで描出し、その神経新生動態解析への応用の可否を検討した。
 一方、30年度では、マカクザルの神経幹細胞特異的な遺伝子発現系を構築し、その評価をマーモセットで行った。即ち、レンチウィルスを、脳定位固定装置でマーモセット成体の海馬歯状回と脳室下帯に感染させ、神経幹細胞特異的なHSV1-tk及びEGFPの発現を観察した。さらに、ganciclovirを腹腔投与することにより、HSV1-tk発現神経幹細胞を障害し、成体脳神経新生を著明に減衰させた。



H30-A20
代:筒井 健一郎
協:中村 晋也
協:吉野 倫太郎
協:森谷 叡生
協:小野寺 麻理子
協:大原 慎也
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井 健一郎 , 中村 晋也, 吉野 倫太郎, 森谷 叡生, 小野寺 麻理子, 大原 慎也

京都大学霊長類研究所の高田昌彦教授および井上謙一助教とともに企画した研究計画に基づき、霊長研統合脳システム分野にてウイルスベクター等を用いた神経トレーシング実験を実施した。具体的には、マカクザルの扁桃体および側坐核に逆行性のウイルスベクターや化学トレーサーを注入し、内側前頭葉、とくに前帯状皮質において標識された神経細胞の数や分布を調べた。その結果、扁桃体や側坐核に投射する多くの神経細胞が前帯状皮質の膝周囲部に確認された。今後は、上述の結果について解析を進めるとともに、さらなる神経トレーシング実験を行う。また、これらの結果を受けて、内側前頭葉と扁桃体・側坐核を結ぶ神経経路選択的な機能阻害実験に着手したい。


H30-A21
代:Muhammad Azhari Akbar
A comparative study in daily activity of colobines under captive condition
A comparative study in daily activity of colobines under captive condition

Muhammad Azhari Akbar

Animal captivity is usually applied to wild animals that are held in confinement, but may also be used generally to describe the keeping of domesticated animals such as livestock or pets. This may include, for example, animals in farms, private homes, zoos and laboratories. So that in the beginning of this study, we observe wild animals to see how they lived in their natural habitat. Then we can see the changes that occur when they are in the cage. By comparing the activity of captive animals with those of wild animals, it can give an explanation how captive environment affect the fundamental ecology of animal. This would useful for improve housing technique and enrich environment.

We study about daily activity of colobine, especially silvery lutung (Trachypithecus cristatus) at Gunung Padang, West Sumatra, Indonesia. We start observing lutung there from August 2018. We have collected 267 hours 10 m observation time using scan sampling method for each individual with the 10-min interval from 07.00 - 18.00. We address observing lutung's activities, moving; feeding; resting; grooming (allo-grooming and auto-grooming). We also found and recorded other activities, such as defecating, urinating, breast-feeding by nursing female, inter and intra-spesicific conflict, playing by juveniles, allo-mothering beetween nursing females and single females. We will conduct the behavioral data until about 800 hours observation time. After we conduct the observation, we will analyse their activity rythm and age-sex differences in activity budget. We also analyse the lutung's food species and food item while feeding. We also analyse age-sex differences in diet.



H30-A22
代:桃井 保子
協:花田 信弘
協:今井 奨
協:岡本 公彰
協:齋藤 渉
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

桃井 保子 , 花田 信弘, 今井 奨, 岡本 公彰, 齋藤 渉, 宮之原 真由

2018年度では、42歳♂と52歳(推定)♂の2個体の所内チンパンジーに対して口腔内診査と歯科治療を実施した。
口腔内診査の結果、42歳♂の個体では、根尖性歯周炎と診断された下顎右側中切歯、下顎右側第一小臼歯および上顎左側中切歯の抜歯術を行った。
52歳♂の個体では、左口蓋粘膜に腫瘍を認めたため切除術を行った。病理検査の結果、尋常性疣贅と診断された。



H30-A23
代:伊村 知子
ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究
ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究

伊村 知子

 本年度は、複数の物体や風景のような複雑な視覚環境から統計的な情報を取り出すメカニズムについて明らかにするため、チンパンジー6個体を対象に絵画を用いた配色の視覚探索課題を実施した。視覚探索課題では、6つの絵画の中から1つだけ、色相の異なるものを検出させた。視覚刺激として、人物画、静物画、抽象画を8枚ずつ、合計24枚の絵画を使用した。各絵画につき、原画に近い配色とその色相を90度、180度、270度回転させた配色の画像を作成した。先行研究より、ヒトは初見の絵画でも、色相を回転させた配色に比べ、原画に近い配色を好むことが報告されている。そこで、視覚探索課題では、180度回転させた配色の中から原画に近い配色を検出する条件と、270度回転させた配色から90度回転させた配色を検出する条件で、正答率を比較した。その結果、チンパンジーは絵画の配色のような複雑な属性の違いを容易に識別することができた。さらに、人物画、静物画、抽象画のすべてのカテゴリにおいて、原画に近い配色の方が、色相を回転させた配色よりも容易に検出することが示された。今後、原画の配色が持つ色彩の統計情報の特徴について解析を進める必要がある。


H30-A24
代:原田 悦子
協:須藤 智
チンパンジーにおける健康な加齢にともなう認知的機能やモノとの相互作用の変化
チンパンジーにおける健康な加齢にともなう認知的機能やモノとの相互作用の変化

原田 悦子 , 須藤 智

 今年度は,チンパンジーの超高齢個体および高齢期個体における実験時の状況を観察しながら,ヒトにおける健康な加齢に伴う新奇なICT基盤人工物利用時に見られる特異的行動と類似した特性,行動が見られるか,もしそれらを共通して抽出することとが可能だとしたら,どのような課題をどういった状況下で実施することが可能,必要か,その際の主たる要因は何かについて議論を行なった.知覚および運動(反応形成)についての遅延化は人とチンパンジーに共通しており,その結果としての課題達成の低下も共通しているが,同時に何らかの形でメタ認知が関与していると考えられる「少し難しい課題に対して,取り組む意欲を示さない」といった特徴も類似行動が存在することなどから,人の高齢個体によく観察される「怖がり」(なかなか最後の実行ボタンを押さずに,なんども確認をしたりする等)や方略の変更(間違いを回避するために独自の方略を取る)などを観察しうる課題での種×年齢群比較の可能性,ならびにそこで推測されるメタ認知的判断との関係性について検討を行なった.


H30-A25
代:平松 千尋
協:山下 友子
協:中島 祥好
協:上田 和夫
霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究
霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究

平松 千尋 , 山下 友子, 中島 祥好, 上田 和夫

昨年度までの共同利用研究において録音を行った、公益財団法人日本モンキーセンターおよび霊長類研究所で飼育されている、チンパンジー、ヤクニホンザル、リスザル、タマリン、ワオキツネザルの音声データの解析を進めた。まず、録音全体からノイズの少ない霊長類音声部分のみを切り出した。続いて、様々な霊長類音声の広範囲の周波数帯域をカバーするため、従来ヒト音声解析で用いてきたケプストラム分析を用いない方法を検討した。また、各霊長類音声が持つ時間的な音響特性に着目し、ヒトの音声言語が持つリズムとどのように関わっているかを分析する手法の開発に着手した。このようにして、体の大きさ、声道形状、発声のための神経メカニズムが異なると考えられる複数種の霊長類音声を比較解析するのにふさわしい手法の確立を進めた。


H30-A26
代:工藤 和俊
協:三浦 哲都
ヒトおよびチンパンジーにおける協調行動の比較発達研究
ヒトおよびチンパンジーにおける協調行動の比較発達研究

工藤 和俊 , 三浦 哲都

スポーツ、ダンス、音楽は、ヒト社会における普遍的文化であり、その萌芽的行動がチンパンジーでも確認されていることから、近年ヒトにおける社会性の進化プロセスを明らかにする上での鍵となる可能性が指摘されている。これらの活動に共通する特徴として、体肢間・感覚運動・対個体間の協調が必要とされ、個人-集団にわたる階層性をもつことが挙げられる。そこで本研究では、ヒトと共通したチンパンジーの実験課題を開発し、協調行動の発達および進化のプロセスを統合的に理解することを目指す。また、人工知能技術を用いた行動解析により、自然場面における協調行動の発達プロセスを定量化する。さらに、異なる階層および異なる時間スケールにわたる協調行動を数理モデル(力学系モデル)によって記述し、協調行動の学習・発達・進化プロセスを力学系の時間発展として記述することを目指す。また、協調行動の発達について、これらの協調が無意図的に生じることを確認するには、実験場面に加えて自然場面における自発的協調行動の観察を行うことが必要になる。そこで本研究では、ヒトおよびチンパンジーの自然場面映像を記録し、深層学習技術を用いて2次元映像からの体部位認識を行い、動きの定量化を試みた。
 今年度は、ヒトおよびチンパンジーを対象とした体肢間協調、感覚運動協調、および個体間協調運動の時系列を解析するためのツール(窓付き脱トレンド相互相関解析)を整備するとともに、2者間の協調関係を記述する力学系モデルを構築した。加えて、四肢および体幹を含む全身映像からチンパンジーの体部位認識を行い、2次元での姿勢の定量化を行い得ることが確認された(添付写真)。



H30-A27
代:山崎 美和子
協:今野 幸太郎
協:内ヶ島 基政
経路選択的な機能操作技術を応用したマーモセット大脳皮質―基底核ネットワークの構造マッピング
経路選択的な機能操作技術を応用したマーモセット大脳皮質―基底核ネットワークの構造マッピング

山崎 美和子 , 今野 幸太郎, 内ヶ島 基政

コモンマーモセット脳の神経化学マップ作成のための技術開発、入出力特性を特定するための技術開発、神経回路の形態学的可視化の技術開発を行うことを目的とする。今年度も引き続き4頭の脳サンプルを用いて以下の2つのテーマを推進した。
1)神経化学マップ作成のための技術開発
cDNAライブラリを用いてリボプローブを作製する。さらに抗体作製のための抗原遺伝子をPCR法により作製する。
2)入出力を特定するための技術開発
脳組織切片を作製し、入出力特性を解析するためのin situは胆振大ゼーションおよび免疫組織化学法の最適化をはかり、組織化学による解析データを取得する。



H30-A28
代:田中 由浩
協:川崎 雄嵩
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析

田中 由浩 , 川崎 雄嵩

表情や音声,運動などには各個体の特性が含まれている.視聴覚情報に基づくものでは,顔画像や音声,歩容などによって個体識別や感情推定が行われているが,ものに触れた際の触覚情報にも個体の特性が含まれている可能性がある.例えば,タップ時の圧力や振動は画像からは読み取りづらい.このような触覚情報による個体識別や感情推定などが示せれば,工学的応用だけでなく基礎科学にも活用でき,人を含む動物研究にも新しい分析を提供できる.そこで本研究では,深層学習を用いて,タップ振動によるチンパンジーの個体識別を試みた.高感度な触覚センサをタッチパネルディスプレイ背面に貼り付け,7個体のチンパンジーがディスプレイをタップする単純課題を行い,振動とタイミングを記録した.約2ヶ月間のデータに対し,学習に用いるデータ数などを変化させて深層学習による個体識別を行なった.その結果,約1ヶ月分のデータで識別率は飽和し,80-90%程度を得られた.また,識別率は個体間で差があり,過去や直前のデータを学習に用いるかでも変化した.これらは同個体での触動作の変化を示唆する.今後,個体識別に加え,各個体の特徴や状態変化との関連性も調査したい.


H30-A29
代:齋藤 亜矢
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究

齋藤 亜矢

チンパンジーとアーティストが共同で絵画を制作する試みから、それぞれの描画表現の特徴を明らかにする研究の2年目として実施した。チンパンジーが描いた絵にアーティストが加筆する、アーティストが描いた絵にチンパンジーが加筆する、という2つの条件で、それぞれの絵の特徴や制作のプロセスを比較するものである。今年度は、チンパンジーのアイを対象に、アーティストの描いた絵に加筆するセッションを進めた。またこれまでに共同利用研究制度を利用して研究した成果を含めて「芸術の進化的起源」について考察した論文が刊行された(齋藤亜矢 (2018) 芸術の進化的な起源,人工知能,33 (6), 754-761.)。2018年12月には、過去に霊長類研究所のチンパンジーが描いた絵を含む大型類人猿の絵画を集めた展覧会「ヒト以外のヒト科の絵画展:ARTS and APES」を京都造形芸術大学で企画・開催し、その様子を雑誌『モンキー』(2019年3月号)に執筆したほか、新聞等のメディアでもとりあげられた。


H30-A30
代:鯉江 洋
協:揚山 直英
協:中山 駿矢
霊長類の加齢誘引疾患に関する研究
霊長類の加齢誘引疾患に関する研究

鯉江 洋 , 揚山 直英, 中山 駿矢

 我々は京都大学霊長類研究所に飼育されている4歳から19歳までの11頭のニホンザル(正常個体:9頭、疾患個体:2頭)において心臓超音波検査、胸部レントゲン読影、動脈血液ガス検査ならびに血液学的検査による正常個体と疾患個体についての病態診断を実施し、加齢によって誘引される循環器関連疾患における病態学的検討を行った(図)。
 血液学的検査においては、肥大型心筋症の既往をもつ個体や胸部レントゲン画像で心拡大を呈した個体などで急性の心筋傷害時に上昇するトロポニン(I, T)値の上昇を認めた。また、腎機能マーカーであるクレアチニン値の上昇なども認められ、心機能の低下と関連すると考えられる所見を得ることができた。一方、疾患個体における心臓超音波検査においては正常個体と比べて明らかな心室壁の肥厚や心室内腔の狭窄、これらに伴う流出路狭窄と急速乱流が認められた。さらに、超音波画像検査においてヒトで報告されている左室緻密障害に非常に類似した画像所見を示す個体が正常個体の中で確認された。既報ではニホンザルにおいて加齢とともに心臓間質、心外膜下、血管周囲などにおいて繊維性結合織が増加することが示唆されており、本個体はニホンザルにおいてみられる加齢性繊維化との関連性が示唆された。
これらのことから、ニホンザルにおいてもヒトや他種のマカクと同様に循環器疾患が発生し、加齢性にも増加することが示唆された。また、他種マカクなどではみられていない緻密化障害などがみられることが確認され、ヒト医学研究におけるモデル動物としての有用性が示唆された。



H30-A31
代:生江 信孝
協:桃井 保子
協:齋藤 渉
協:秋葉 悠希
協:大栗 靖代
協:正藤 陽久
協:飯田 伸弥
協:斎藤 高
協:斎藤 香里
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査

生江 信孝 , 桃井 保子, 齋藤 渉, 秋葉 悠希, 大栗 靖代, 正藤 陽久, 飯田 伸弥, 斎藤 高, 斎藤 香里

H30年度には、日立市かみね動物園において、無麻酔下での口腔内検査をおこなった。飼育担当者がチンパンジーに大きく口を開けるよう指示し、歯科医師である桃井および齋藤が、観察・写真撮影をおこなった。
1個体(マツコ)について、上下門歯重度齲歯、歯冠欠落、歯石などが認められたため、優先的に麻酔・検査をおこなうこととなった。検査ではX線にて歯根部の状況を確認し、状況によっては抜歯も含めて適切な治療をおこなうこととした。麻酔下での検査の詳細な打ち合わせをおこなった。令和元年度に麻酔下での検査・治療をおこなう予定である。



H30-A32
代:狩野 文浩
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究

狩野 文浩

赤外線式のリモート式テーブル設置型のアイ・トラッカーで、チンパンジーを対象に、ビデオを見せたときの眼球運動を測定した。
チンパンジーの教示シグナルに対する理解を調べた前年度の成果が発表された(Kano, F., Moore, R., Krupenye, C., Hirata, S., Tomonaga, M., & Call, J. 2018, Animal Cognition)。
今年度は、トリック目隠し課題を行った。この課題では、報告者の先行研究に倣って、動画の中に主役とその敵役が登場する。主役が取ろうとしている物を敵役が奪おうとする。主役が目隠しの後ろに隠れたときに敵役が物を持ち去ってしまう。その後、主役がもどってきて何か探しているそぶりを見せる。このとき、先行研究では、類人猿は主役の行動を予測して、主役が最後に物を見た場所を注視した。本研究では、性質の異なる2種類の目隠しを用意することで、類人猿がその性質に応じて予測を調節できるか調べた。目隠しには本物と、実は透けて見えるものがあり、動画の中では(遠目からは)同じに見える。類人猿の個体ごとに、動画を見せる前に異なる種類の目隠しを体験させておく。二条件で役者の行動はまったく同じであるから、類人猿が本物の目隠しを経験した後に主役の誤信念に基づく予測、トリック目隠しを経験した後にそうでない予測をすれば「行動ルール」仮説は成り立たない。
実際にそのような結果が得られ、現在成果をまとめている。



H30-A33
代:竹下 秀子
協:山田 信宏
協:高塩 純一
協:櫻庭 陽子
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

竹下 秀子 , 山田 信宏, 高塩 純一, 櫻庭 陽子

 対象個体の17週齢より、姿勢運動発達評価と認知発達検査課題等への行動反応の観察による認知発達評価を実施してきた。姿勢運動の顕著な左右機能差が持続するなか、58週齢からは理学療法士・作業療法士による療育を組織し、環境との相互作用から知覚・行動・認知の発達を支援するという考えを基に定期的なセラピーの実施、日常養育中のかかわりを強化してきた。チンパンジー舎内外の環境エンリッチメントの継続的取り組みにより、2018年度には行動の多様性、安定性がさらに改善した。「四足」移動では背筋が水平になるほどに腰が上がり前進できるようになった。座位では姿勢の転換や移動運動へのさまざまなタイミングにおいて右足首の「返し(背屈)」がそれまで以上に頻繁に見られるようになった(図参照)。蹲踞の座位では臀部が接地していない場面も増え、ペットボトルフィーダーを「振る」運動が巧遅になり、効率よい摂食が可能となっている。さらに二足立位(つかまり立ち)も改善し,全体として右後肢が身体支持役割を果たす機会が多くなってきた。左側機能が増強されるとともに右側機能の改善を得た。関連専門職種の連携による養育者支援や養育環境の整備が障がいの固定化の防止や軽減につながる可能性が明らかになりつつある。


H30-B1
代:佐々木 哲也
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

論文

学会発表
佐々木 哲也、小松 勇介、渡我部 昭哉、山森 哲雄 霊長類前頭前皮質に特異的に発現する分子の解析-霊長類特有の前頭前皮質機能の分子基盤とは?-( 2018年12月13日) 2018年度 次世代脳 冬のワークショップ(東京).

佐々木哲也 自閉症様モデル霊長類の発達期神経回路再編成の異常(2018年10月23日) つくばブレインサイエンスセミナー(つくば).

佐々木 哲也、小松 勇介、渡我部 昭哉、山森 哲雄 霊長類前頭前皮質特異的に発現するSLITの解析(2018年10月20日) 第106回関東支部学術集会(東京).

佐々木哲也、真鍋朋子、中垣慶子、武井陽介、一戸紀孝 Abnormality of postnatal synapse formation/pruning in cerebral cortex of a primate model of ASD(2018年7月26日) 第41回 日本神経科学大会(神戸).

佐々木 哲也 自閉症様モデル霊長類の発達期神経回路再編成の異常(2018年7月14日) 第7回自閉症学研究会(東京).

Tetsuya Sasaki, Yusuke Komatsu, Akiya Watakabe, Tetsuo Yamamori Prefrontal-enriched SLIT1 expression in Old World monkey cortex established during the postnatal development.(2019.03.29) the 9th Federation of the Asian and Oceanian Physiological Societies Congress (FAOPS2019) (Kobe).

関連サイト
一般財団法人 予防衛生協会 研究奨励賞受賞 http://www.tsukuba.ac.jp/update/awards/20181026134333.html
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

佐々木 哲也

 霊長類の大脳皮質は機能分化が進んでおり、複数の「領野」に区分される。その神経回路は、生後発達期に大規模な再編成がなされて機能的領野が形成される。霊長類の神経回路発達過程にニューロン、グリア細胞が果たす役割を詳細に検討するために、細胞種特異的な遺伝子発現解析、エピジェネティクス解析を計画し、本年度は個体の共同利用によりアカゲザル2頭の脳組織を採材した。現在、凍結組織からの効率の良い細胞分離法を模索するため、凍結方法・細胞分散法をげっ歯類の脳を用いて検討している。


H30-B2
代:中村 浩幸
外側膝状体から頭頂視覚連合皮質への直接視覚入力回路の形態学的研究
外側膝状体から頭頂視覚連合皮質への直接視覚入力回路の形態学的研究

中村 浩幸

 視覚情報(構造・色・動き・奥行き)は、外側膝状体から後頭葉視覚皮質を経由して側頭葉・頭頂葉連合野皮質に至る神経回路網において処理される。これらの異なるモダリティ視覚情報は、異なる視覚連合野において並列処理された後、統合され単一の視覚対象として認識される。この視覚情報の統合には、異なる連合野皮質における同期した活動が必要と考えられる。外側膝状体層間細胞(konio cells 小顆粒細胞)は側頭葉・頭頂葉皮質(V4野・MT野)へ投射し、視覚連合野における同期した皮質活動を生成する神経回路に関与していると考えられる。本研究では外側膝状体層間細胞から頭頂葉と側頭葉の視覚野(V3A野とV4野)への投射様式を比較検討する目的で、同一個体のV3A野とV4野にそれぞれ異なる神経トレーサーを微量注入した。MRI画像から三次元再構築画像を作製して(左図)脳表面の脳溝の走行からトレーサー注入微小ガラスピペットの刺入部位を決定し、V3A野にBiotinylated Dextran Amine (BDA 10.000)とFastblueを、V4野にDiamidino Yellowを微量注入した。環流固定後、脳を取り出し(右図)、凍結連続切片を作製した。V3A野投射神経細胞は外側膝状体層間層のS層およびK1−4層に分布していた。V4野投射神経細胞の分布ならびに二重標識細胞の有無を検討中である。


H30-B3
代:鈴木 俊介
協:鈴木 絵美子
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

鈴木 俊介 , 鈴木 絵美子

CDK5RAP2遺伝子の発現が脳の発達時に実際にヒトと近縁霊長類で異なるかを確認するため,ヒト,チンパンジー,ニホンザルのiPS細胞を用いてニューロスフェア誘導法による神経誘導実験を行い,CDK5RAP2の発現量の変化をリアルタイムPCRを用いて解析した。興味深いことに,ヒトiPS細胞においては神経誘導に伴ってCDK5RAP2の発現上昇がみられたが,チンパンジーおよびニホンザルiPS細胞においてはCDK5RAP2の発現上昇は起こらなかった。この結果は,ヒト特異的にCDK5RAP2のエンハンサーとして働くゲノム機能が獲得された可能性を示唆している。


H30-B4
代:浅川 満彦
協:萩原 克郎
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

論文
秋葉悠希ら(2018) 飼育類人猿の糞便による寄生虫保有状況の検査とコルチゾル値測定事例 野動医誌 23:27-31.

近本翔太ら(2018) 釧路市動物園飼育および同園内生息の哺乳類から得られた寄生虫標本の概要(続報) 北獣会誌 62:530-533.

浅川満彦(2018) 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった東北地方における研究活動概要 青森自誌研(23):29-34. 謝辞あり

学会発表
長濱理生子ら ホルマリン液で固定・保存されたハヌマンラングール(Semnopithecus schistaceous)の糞便を用いた消化管内寄生虫検査(2018年8月31日〜9月3日) 第24回日本野生動物医学会大会(大阪府立大学).

関連サイト
酪農学園大学リポジトリ掲載上の浅川(2018) https://rakuno.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=5515&item_no=1&page_id=13&block_id=37
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

浅川 満彦 , 萩原 克郎

例年のように東北および四国地方の行政機関との調整により、有害捕獲の死亡個体由来の消化管および臓器サンプルが送付され、申請代表者が施設担当となる酪農学園大学 野生動物医学センター(WAMC)に保存され、寄生蠕虫類の検査とウイルスの採集が行われた。これに加え、2018年には国立科学博物館(つくば市)にて、回顧的な調査が可能なサンプル調査を実施した。大変残念ながら、検査に使用出来うるサル類の標本の保存は確認できなかったが、他の施設には保管されているものと期待されるので、このような標本調査を実施したい。 2018年刊行論文としては、 ―葉悠希ら:飼育類人猿の糞便による寄生虫保有状況の検査とコルチゾル値測定事例. 野動医誌, 23: 27-31. 近本翔太ら:釧路市動物園飼育および同園内生息の哺乳類から得られた寄生虫標本の概要(続報).北獣会誌, 62: 530-533. 両論文とも飼育類人猿における寄生虫保有状況とその疾病または公衆衛生に論じたもので、本共同研究の実績としては重要な位置付けになった。なお、本報告書に添付したのは∀席犬之悩椶気譴燭發里任△襦 2018年における学会報告としては:長濱理生子ら:ホルマリン液で固定・保存されたハヌマンラングール(Semnopithecus schistaceous)の糞便を用いた消化管内寄生虫検査. 第24回日本野生動物医学会大会, 大阪府立大学, 8月31日〜9月3日. この研究は貴研究所・Huffman先生とその指導院生との共同で行ったものであった。糞便検査では新鮮な材料を使うことが多いが、検査時にウイルスや細菌などの作業者への感染リスクが付き纏う。本手法はホルマリンで殺菌した材料でもクリアな寄生虫保有結果が得たことを立証、今後の本共同研究にも応用可能な有益なものであった。


H30-B5
代:白石 俊明
協:澤田 研太
野生ニホンザルおよび同所に生息する野生動物の果実利用時期と採食頻度

論文

関連サイト
富山県 立山カルデラ砂防博物館 http://www.tatecal.or.jp/tatecal/index.html
野生ニホンザルおよび同所に生息する野生動物の果実利用時期と採食頻度

白石 俊明 , 澤田 研太

 富山県立山地域の山地帯で、野生ニホンザルおよび同所に生息する野生動物の果実利用状況を調査した。調査は、自生する果実生産樹種5樹種(オオヤマザクラ、アケビ、マタタビ、サルナシ、ヤマブドウ)、10個体にのべ17台の自動撮影カメラを設置して果実食性動物の採食行動を記録し、訪問する動物種、利用時期、訪問頻度、一回の訪問あたりの採食量を評価した。
 オオヤマザクラは5月31日〜6月7日にツキノワグマ、ハクビシン、ヒヨドリ、カケス、ヤマガラ、シジュウカラ、種不明の鳥類が訪れ、果実を採食した。採食量はいずれも不明だった。アケビは、10月10日〜10月16日にニホンザル、ネズミ科の一種、種不明の小型哺乳類、ヒヨドリが訪れ、ニホンザルとヒヨドリは果実を採食し、採食量はニホンザルが1分間で最大5個/頭、ヒヨドリは不明(1個未満/羽)だった。
マタタビは、10月14日〜10月22日にニホンザル、ホオジロ、種不明の鳥類が訪れ、ニホンザルは果実を採食し、採食量は1分間で最大5個/頭だった。サルナシは、種不明の鳥類が訪れ、哺乳類の確認はなかった。ヤマブドウは、10月14日〜10月28日にニホンザル、ツキノワグマ、イノシシ、カモシカ、種不明の小型哺乳類が訪れ、いずれも果実採食の確認はなかった。
 この他、果実消失後ではあるがアケビを訪れるヤマネを確認した。ヤマネは、富山県レッドリスト準絶滅危惧で富山県内での生息情報は少なく、貴重な記録となった。



H30-B6
代:風張 喜子
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討

風張 喜子

ニホンザルは、メンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。これまでの研究によって、各個体が周囲の個体の動向を把握し自分の行動を調節することで、互いの近接が保たれていることが示唆されている。その一方で、群れの個体が一時的に2つ以上の集団に分かれて行動する分派も、季節や群れによっては頻繁に見られる。通常は互いに近接しあうようにふるまうニホンザルがなぜ分派するのか、明らかになっていることは少ない。本研究では分派の直接観察を通じてその要因を検討することを目的とし、宮城県石巻市金華山島の野生ニホンザルを観察した。分派が起こった場合はいずれかの集団を追跡し、他方の集団の動向を見ていながらそれに同調せずに分派が始まったか否かによって、追跡集団にとって意図的および非意図的な分派を判別した。意図的分派のうち、他方の移動に追随しなかった事例では分派開始後しばらくそれまでの活動を継続する傾向が見られた。他方を待たずに移動を続けた事例では、食物パッチに到着した時に初めて移動の停止が見られた。移動の目的と考えらえるこれらの食物は、限られた場所でしか得られない食物であることが多く、その利用に関する個体の選択の結果、分派が行われた可能性がある。今後は観察例を蓄積し、分派の始まり方以外でも意図的・非意図的分派を判別可能か、また非意図的分派の要因についても検討したい。


H30-B7
代:疋田 研一郎
金華山のニホンザルにおけるグルーミングの熱心さの検証と互恵性との関わり
金華山のニホンザルにおけるグルーミングの熱心さの検証と互恵性との関わり

疋田 研一郎

 本研究は、宮城県金華山島の野生ニホンザルを対象に、従来観察されてきた毛づくろい時間のみならず、その単位時間当たりの作業量や集中力を含めて総合的に分析することによって、高順位個体への毛づくろいで、低順位個体がアピールする戦術をとっているのかを検討することを目的に行われた。まず、ヒトにおいて集中力の指標になるといわれている瞬きの頻度がニホンザルにおいても同様の指標になりうるのか調べた。その結果、休息中に比べて細密な視覚情報を用いる毛づくろい中は瞬きが抑制されていた。また、ヒトと同様に集中するべき出来事の切れ目に付随して瞬きが生じやすいことが明らかになった。よって、こうした出来事の切れ目に同期するものを除いた瞬きの頻度が集中力の指標になることが示唆された。この新たな指標とその他の毛づくろい指標が順位関係によって変化するのか調べたところ、高順位個体に対する毛づくろいでは、低順位個体に対する毛づくろいと比べて集中力は変わらないにもかかわらず、シラミ卵の除去に先立って起こる単位時間当たりの体毛のかき分け頻度が高くなることが明らかになった。よって、ニホンザルは高順位個体に対して自分の毛づくろいにかける熱心さをアピールする戦術を用いることが示唆された。


H30-B8
代:江成 広斗
豪雪地に生息するニホンザルの樹皮・冬芽食が植物群集に及ぼす影響
豪雪地に生息するニホンザルの樹皮・冬芽食が植物群集に及ぼす影響

江成 広斗

ニホンザルは霊長類の中でも顕著な広食性である。しかし、雪という物理的要因により、冬季に利用可能な餌資源が限られる豪雪帯に生息するニホンザルは、その樹皮・冬芽食を通して直接的・間接的に植物個体に及ぼす影響は無視できない可能性がある(たとえば、Enari & Sakamaki 2010. Int. J. Primatol. 31:904-919)。そこで、本研究は、豪雪地において、ニホンザルの樹皮・冬芽食の累積効果が、その地域の植物群集組成に及ぼす影響を評価することを目的とした。この評価は、2008年から白神山地に設置しているニホンザルの採食頻度評価のモニタリングサイトにおいて実施し、累積的な採食圧が異なる森林パッチ(5段階に分類)ごとに、毎木調査を行い、植物群集組成を調査した。10m方形区の毎木調査は44か所で実施した。結果は現在解析中であり、累積的な採食圧がもたらす影響を、樹木種の多様度や樹木形態などの観点から明らかにする予定である。なお、上記とは別に実施している個々の採食木のモニタリングによる枯死率や補償成長評価の結果とあわせて、論文として当該研究結果をまとめる予定である。


H30-B9
代:東 超
霊長類の各種の組織の加齢変化
霊長類の各種の組織の加齢変化

東 超

 喉頭の軟骨の組成変化は呼吸に影響を与える可能性がある。加齢に伴う喉頭の輪状軟骨のミネラル蓄積の特徴を明らかにするために、サルの輪状軟骨の元素含量の加齢変化を調べた。用いたサルはアカゲザル8頭、ニホンザル1頭、カニクイザル3頭、年齢は1月から27歳、雄雌は雄7頭と雌5頭である。サルより輪状軟骨を採取し、硝酸と過塩素酸を加えて、加熱して灰化し、元素含量を高周波プラズマ発光分析装置(ICPS-7510、島津製)で分析し、次のような結果が得られた。.汽襪領愍軟骨のカルシウムと燐の平均含量はそれぞれ18.94mg/gと10.03mg/gであった。カルシウムと燐の蓄積が生じやすい軟骨であることが分かった。▲汽襪領愍軟骨のカルシウムと燐の含量は年齢とともに有意に増加した。サルの輪状軟骨のカルシウム含量は7歳以上になると顕著に増加した。さらに、カルシウム含量が10 mg/gを超えたサルはすべて7歳以上でした。この結果からサルの輪状軟骨において一定年齢を超えると石灰化が始まることが分かった。ぅルシウム、燐、マグネシウム元素間に非常に高い有意相関が認められ、カルシウム、燐、マグネシウムが輪状軟骨に同時に蓄積されることを示している。


H30-B10
代:荒川 高光
協:江村 健児
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

論文
Haba D, Emura K, Watanabe Y, Kageyama I, Kikkawa S, Uemura M, Arakawa T(2018) Constant existence of the sensory branch of the nerve to the pyramidalis distributing to the upper margin of the pubic ramus. Anat Sci Int 93(4):405-413.

学会発表
江村健児、荒川高光 リスザルとクモザルにおける浅指屈筋の形態について.( 2019年3月27日-29日) 第124回日本解剖学会総会・全国学術集会(新潟県新潟市).
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

荒川 高光 , 江村 健児

学会発表
江村健児、荒川高光.リスザルとクモザルにおける浅指屈筋の形態について.
第124回日本解剖学会総会・全国学術集会.

共同利用研究で貸与を受けたリスザルとクモザルの液浸標本を用いて、前腕屈筋群、特に浅指屈筋の起始・停止、支配神経パターンを解析した。リスザルの浅指屈筋は上腕骨の内側上顆から起始し、クモザルの浅指屈筋では第2指と第5指への停止腱を出す筋腹の大部分が尺骨骨幹部から起始し、第3指、第4指への停止腱を出す筋腹は内側上顆から起始した。クモザル浅指屈筋は、最も橈側の腱である第2指への停止腱が尺骨起始の筋腹から出るという形態を示した。リスザル・クモザルとも浅指屈筋の4本の停止腱はそれぞれ第2指〜第5指の中節骨に停止した。このように浅指屈筋の起始・停止には種による違いが見られたが、神経支配のパターンには一定の共通性が見られた。これらの成果は上記学会で発表し、現在論文の執筆・投稿に向けて準備中である。次年度はチンパンジーなど他の種に対象を広げていき、さらに下腿筋の解析も進めていく予定である。



H30-B11
代:今村 拓也
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

今村 拓也

本課題は、ほ乳類脳のエピゲノム形成に関わるnon-coding RNA (ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている。本年度は、チンパンジーiPS細胞からのin vitro神経幹細胞・分化細胞誘導実験系の利用(ニューロスフィア法および脳オルガノイド培養法)による神経幹細胞動態解析を進めた。ニューロスフィア法については、霊長研・今村公紀助教と共同で解析を進め、iPS細胞から神経幹細胞が樹立する1週間におけRNA発現動態を詳細化することで、分化に重要な分子カスケードを絞り込むこと成功した。また、脳オルガノイド培養法については、培養後の次世代シーケンサー解析用サンプル調整プロトコール確立し、シングルセルRNA-seqからのncRNA情報を深化して得るパイプラインを固めた。これにより、複雑な細胞構成に由来するノイズを減らし、精度をより向上させた実験を進行するための準備が整った。


H30-B12
代:一柳 健司
協:平田 真由
協:一柳 朋子
霊長類におけるエピゲノム進化の解明
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

一柳 健司 , 平田 真由, 一柳 朋子

今村助教が樹立されたキク、マリ、ケニー由来のiPS細胞と理化学研究所から入手したヒトiPS細胞を本研究室にて同条件で培養し、mRNA-seqを行ったところ、両種のトランスクリプトームはほぼ変わらないことを明らかにした。前年度、公表されたヒトiPS細胞mRNA-seqデータを用いた時はLTR7レトロトランスポゾンの発現に差が見られたが、同条件培養下では違いがなかった。その後、ChIP-seqを行って、H3K4me3とH3K27me3のゲノム分布を調べているが、残念ながら未だ信頼に足るデータを得るには至っていない。

先行研究(Marchette et al. Nature 2013)で、Piwil2遺伝子の発現量が種間で異なり、それが原因でpiRNA産生量が異なり、L1レトロトランスポゾンの転移活性に違いがあることが報告されていたので、それぞれのiPS細胞を用いてsmall RNA-seqを行い、piRNA産生量を比較した。その結果、チンパンジー特異的なレトロトランスポゾンであるPERVを除けば、種間でのpiRNA発現量差は確認できず、piRNAも種間差が小さいことを明らかにした。

ChIP-seqの解析を待たねばならないが、現時点での研究結果はヒトとチンパンジーのiPS細胞が質的に非常に近いことを示しており、リプログラミングの度合いが似ていて、比較可能であると考えられる。今後は、これらのiPS細胞を神経細胞や筋細胞に分化させることで、分化過程におけるトランスクリプトームやエピゲノムの変化に種間でどのような違いがあるのかを明らかにしたい。



H30-B13
代:松岡 史朗
協:中山 裕理
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

松岡 史朗 , 中山 裕理

1987年5頭の群れとして確認された下北半島南西部の87群は、指数的に増加し、2013年4月に43頭(87A群)と22頭(87B群)の2群に分裂した。分裂6年目の2018年度の出産率は、87A群47%、87B群は27%、赤ん坊の死亡率は87A群では11%(1/9)、87B群では0%であった。87B群の出産率が低いのは昨年、86%であったためと考えられる。分裂前(1984〜2011年)分裂後(2013年以降)の群の増加率、出産率、0〜3歳の死亡率、遊動距離を比較してみたが、今年度も、れも変化は見られなかった。87A群は昨年度66頭が今年度は70頭と増加した。87B群はフルカウントができなかった。87A群では、2歳、3歳、5歳、6歳、7歳、10歳のオス、8歳メスが群れから消失した。オスの6頭は、群れから出て行ったか、死亡したかは不明である。8歳メスは死亡としたと考えられる。現在と同様の高い出産率、低い死亡率が続いた場合、87A群は、2,3年で2013年の分裂した頭数に達する。今年度も、3日程度のサブグルーピングが観察された。遊動面積は、ほぼ昨年度と同じであった。


H30-B14
代:笹岡 俊邦
協:藤澤 信義
協:小田 佳奈子
協:宮本 純
協:崎村 建司
協:中務 胞
協:夏目 里恵
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

論文
Shiori Miura, Yoshitaka Maeda, Jun Miyamoto, Ena Nakatsukasa, Nobuyoshi Fujisawa, Miki Miwa, Katsuki Nakamura, Kenji Sakimura and Toshikuni Sasaoka(2018) Generation of functional oocytes of common marmoset by xeno-transplantation of ovarian tissue Proceedings of International Symposium on Animal Production and Conservation for Sustainable Development :31-33.

学会発表
中務 胞、宮本 純、藤澤 信義 、夏目 里恵 、三浦 詩織 、阿部 学 、三輪 美樹 、中村 克樹、崎村 建司、笹岡 俊邦 異種間移植マーモセット卵巣由来卵子による受精卵作出法の検討(2019年3月7日) 第8回 生理研-霊長研-脳研合同シンポジウム( 新潟大学脳研究所統合機能センター6F 中田記念 ホール).

宮本 純 異種間移植マーモセット卵巣を用いた受精卵の効率的作成法の検討( 2018年7月20日) 第48回(2018)新潟神経学夏期セミナー(新潟大学脳研究所 統合脳機能研究センター(6F)セミナーホール).

宮本 純 マーモセット卵巣の異種間移植に関する条件検討( 2018年10月11日) 第25回 みかんの会( 新潟医療人育成センター セミナー室1,2).

宮本 純 異種間移植マーモセット卵巣由来卵子による受精卵作出法の検討( 2019年2月15日) 平成30年度 大学院医歯学総合研究科医科学専攻(修士課程) 3月修了予定者学位論文公開審査会( 新潟大学医学部第4講義室).
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

笹岡 俊邦 , 藤澤 信義, 小田 佳奈子, 宮本 純, 崎村 建司, 中務 胞, 夏目 里恵

<目的>近年ゲノム編集技術の発展により比較的容易に遺伝子改変が様々な動物で行えるようになってきた。しかし、実際に遺伝子改変モデルマーモセットを作出するためには多くの受精卵の獲得が必須である。また、体外受精のため、精子の保存法の確立も望まれている。そこで私たちは、霊長研の中村克樹教授から分与して頂いた、安楽死されたマーモセットの卵巣および精巣上体をもちいてマーモセット卵子および受精卵を効率的に作出することと精子の凍結保存法の確立を行った。
<方法>マーモセット卵巣の異種間移植(1)マーモセット卵巣を細切した。移植しない場合は液体窒素にて凍結保存した。(2)免疫不全マウスの卵巣を切除後、左右の腎被膜下に卵巣片を移植した。凍結保存した卵巣は融解後に使用した。(3)移植から10日以降、卵胞刺激ホルモン(FSH)を9日間毎日または2日毎に投与した。(4)FSHの投与開始から9日後に左右腎臓を採材した。(5)卵巣から採卵できた卵子を26時間培養した。(6)培養後M挟となった卵子を顕微授精した。
卵黄糖液による精子の凍結保存(1)輸送後の精巣上体尾部を卵黄糖液内にて細切した。(2)精子懸濁液を作製し、室温から4℃まで2時間かけて冷却した。(3)精子懸濁液と同量の耐凍剤入り保存液を添加した。(4)プラスチックストローに封入後、液体窒素液面上に静置し凍結した。
<結果>冷蔵輸送後および凍結融解後のマーモセット卵巣は腎被膜下に生着し、GV期の卵子を得ることが出来た。GV期の卵子は成熟培養後、M挟に進み、顕微授精後、前核期受精卵まで発生させることが出来た。
冷蔵輸送後の精巣上体尾部より運動性を有する精子を回収することができ、それら精子の凍結保存を行った。



H30-B15
代:郷 康広
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

論文
Iritani S, Torii Y, Habuchi C, Sekiguchi H, Fujishiro H, Yoshida M, Go Y, Iriki A, Isoda M, Ozaki N.( 2018) The neuropathological investigation of the brain in a monkey model of autism spectrum disorder with ABCA13 deletion. International Journal of Developmental Neuroscience 71( ): 130-139.

Matsumura K, Imai H, Go Y, Kusuhara M, Yamaguchi K, Shirai T, Ohshima K.( 2018) Transcriptional activation of a chimeric retrogene PIPSL in a hominoid ancestor. Gene 678( ): 318-323. 謝辞あり

Xu C, Li Q, Efimova O, He L, Tatsumoto S, Stepanova V, Oishi T, Udono T, Yamaguchi K, Shigenobu S, Kakita A, Nawa H, Khaitovich P, Go Y.( 2018) Human-specific features of spatial gene expression and regulation in eight brain regions. Genome Research 28( 8): 1097-1110. 謝辞あり

学会発表
郷康広,辰本将司,石川裕恵 合成ロングリードを用いた霊長類の新規ゲノム配列決定(2018年7月14日) 第34回日本霊長類学会大会(東京(武蔵大学)).

郷康広 ゲノムを通して我が身を知る―ヒトとサルの間にあるもの―(2018年7月15日) 第34回日本霊長類学会大会公開シンポジウム(東京(武蔵大学)).

郷康広,辰本将司,石川裕恵 合成ロングリードを用いた霊長類の新規ゲノム配列決定(2018年8月23日) 日本進化学会第20回大会(東京(東京大学)).

郷康広 霊長類ゲノム研究を通して社会性コミュニケーション創発あるいは欠如とは何か考えてみる(2018年8月24日) 日本進化学会第20回大会シンポジウム(東京(東京大学)).

郷康広 10xGenomics社Chromiumを用いたゲノム・トランスクリプトーム解析(2018年9月25日) 農林交流センターワークショップ・次世代シーケンサーのデータ解析技術公開講座(つくば(筑波産学連携支援センター)).

Yasuhiro GO The evolutionary trajectory of spatial transcriptome and epigenome in primate brains(2018年10月3日) The 46th Naito Conference on "Mechanisms of Evolution and Biodiversity"(札幌(シャトレーゼ ガトーキングダム サッポロ)).

郷康広 脳・こころの個性・多様性理解にむけた比較認知ゲノム研究(2018年10月16日) 第1回ExCELLSシンポジウム(岡崎(自然科学研究機構)).

Yasuhiro GO Dissectiong the genetic diversity of Japanese marmoset colonies(Oct. 22, 2018.) An ILAR Roundtable Workshop: Care, Use and Welfare of Marmosets as Animal models for Gene Editing-based Biomedical Research.(The National Academies of Sciences (Washington D.C., USA)).

関連サイト
自然科学研究機構生命創成探究センター認知ゲノム研究グループ(郷ラボ)のホームページ http://www.nips.ac.jp/coggen/

共同利用研究成果プレスリリース(自然科学研究機構生命創成探究センター) http://www.excells.orion.ac.jp/pr/20180802pr01.html

共同利用研究成果プレスリリース(京都大学) http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/180802_1.html

共同利用研究成果プレスリリース(新潟大学脳研究所) http://www.bri.niigata-u.ac.jp/result/path/001053.html

共同利用研究成果プレスリリース(生理学研究所) https://www.nips.ac.jp/release/2018/08/post_368.html

共同利用研究成果プレスリリース(基礎生物学研究所) http://www.nibb.ac.jp/press/2018/08/02.html
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

郷 康広

1. ヒト精神疾患・高次認知機能解明のための霊長類モデル動物の開発
ヒトの高次認知機能やその破綻として現われる精神・神経疾患の本質的な理解のために,マカクザルおよびマーモセットを対象としたマルチオミックス解析を実施することで霊長類モデル動物の開発を行った.具体的には,マカクザル831個体,マーモセット1328個体を対象に,精神・神経疾患関連候補遺伝子を標的とした配列解析を行い,遺伝子機能喪失変異を自然発症的に持つ個体の同定を行った.また,神経変性疾患である多系統萎縮症や先天的代謝異常症であるライソゾーム症様の表現型を呈するマカクザルを対象とした集団ゲノム解析を行い,原因遺伝子を明らかにした.さらに、精神・神経疾患の脳内分子動態を明らかにするための脳内遺伝子発現マップ作製のために,マカクザル発達脳発現解析,およびマーモセットを用いたマクロレベルとミクロレベルの全脳遺伝子発現動態解析を行った.また,国立精神神経センターとの共同研究として薬理学的自閉症モデルマーモセットの脳における遺伝子発現動態変化解析を行い,自閉症の分子動態解明に向けたトランスレータブル研究を推進した。
2. 比較オミックス解析による「ヒト化」分子基盤の解明
ヒト化の最大の特徴のひとつである脳の形態進化・機能進化の分子基盤の解明のために、ヒトと非ヒト霊長類であるチンパンジー・ゴリラ・テナガザルの死後脳を用いた網羅的発現解析を行った.その結果、ヒト特異的な発現変化を示す遺伝子はチンパンジーのそれに比べて顕著に増加しており、その半数以上は、ヒト海馬のニューロンやアストロサイトにおいて生じていることを明らかにし,結果を論文として公表した(霊長研共同利用への謝辞あり).



H30-B16
代:小林 俊寛
協:平林 真澄
協:正木 英樹
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価

小林 俊寛 , 平林 真澄, 正木 英樹

精子・卵子といったすべての生殖細胞は、発生のごく初期に生じる始原生殖細胞を起源とする。始原生殖細胞の発生過程、さらにはその配偶子形成過程を理解することは、不妊の原因や、生殖細胞を起源とする癌の発症機序を明らかにするうえで重要である。そこで本研究では倫理的に扱いが困難なヒト生殖細胞のモデルとして、最近縁の霊長類であるチンパンジーにおいて、 iPS 細胞を用いて、始原生殖細胞の分化誘導し、その成熟化を施す系、あるいは配偶子形成能を評価することのできる系の確立を目指してきた。まず、所内対応者の今村公紀先生よからチンパンジー iPS 細胞 (Kiku, および Kenny 由来) を分与いただき、それらの生殖細胞特異的に発現が認められる NANOS3 遺伝子座に tdTomato をノックインしたレポーター細胞株を樹立した。NANOS3-tdTomato の発現を指標に、始原生殖細胞の分化誘導系を最適化したところ、高効率に始原生殖細胞を分化誘導できる系が確立できた。免疫染色による解析から、チンパンジー iPS 細胞から誘導された始原生殖細胞は、ヒトにおいて生殖細胞分化に必須な SOX17, BLIMP1, TFAP2C、あるいは多能性マーカーである NANOG, OCT4 を高発現しており、一方で多能性マーカーである SOX2 を発現していないことが判った。この発現パターンはヒトの始原生殖細胞と同様であり、本研究で確立した分化誘導系がヒト生殖細胞発生の理解に向け、よりモデルになると考えられる。


H30-B17
代:清家 多慧
ニホンザルの遊び終了時におけるコミュニケーション
ニホンザルの遊び終了時におけるコミュニケーション

清家 多慧

ニホンザルの遊びにおいて、「遊びはもう終わりである」ということを相手に示すような行動はないのかということを明らかにするため、遊び終了時の行動の分析を行った。宮城県の金華山島のニホンザル1〜4歳の個体を対象として6月から7月にビデオを用いたデータ収集を行い、合計135バウト、154分の遊びの動画が得られた。「取っ組み合い遊び」を起点とすると、遊びの終了時には一方の個体が相手から走って離れる場合、歩いて離れる場合、双方が近接のまま静止する場合の3パターンが存在したが、それぞれの行動に着目すると、その後の個体間交渉には異なる傾向が見られた。取っ組み合い遊びの最中に、〜って相手から離れると追いかけっこ遊びへの移行になり遊びが終了しにくい、∧發い徳蠎蠅ら離れるとその後誘い掛けが起こらず遊びが終了しやすい、A佇が近接状態のまま静止するとその後誘い掛けが起こりやすいため結果的に遊びが終了しにくい。また、敵対的な意味合いが強いと考えられる威嚇や悲鳴、グリメイスは、必ずしも遊びを終了させることにはつながっていなかった。これらの結果から、相手から「歩いて離れる」という行動が他の行動に比べ、高い確率で遊びの終了につながることが示された。このことは、「歩いて離れる」という行動はありふれた行動であるが、それが遊びの最中に急に出現すると、遊び終了のシグナルとして機能する可能性を示唆している。


H30-B18
代:篠原 隆司
協:篠原 美都
協:森本 裕子
協:渡邉 哲史
協:森 圭史
霊長類精子幹細胞の培養
霊長類精子幹細胞の培養

篠原 隆司 , 篠原 美都, 森本 裕子, 渡邉 哲史, 森 圭史

マーモセットの遺伝子改変については非常に効率が悪く問題となっている。本研究の目的は、この問題を解決するために、マーモセットの培養精子幹細胞(Germline Stem Cell)の確立を目指す。
 今年度は適当なサンプルが入手できなかったため、他から得たサンプルで系の確立を目指した。



H30-B19
代:松尾 光一
協:森川 誠
協:山海 直
協:Suchinda Malaivijitnond
マカクにおける繁殖季節性に起因する骨量増減と骨リモデリングのメカニズム

論文
Koichi Matsuo, Shuting Ji, Ayako Miya, Masaki Yoda, Yuzuru Hamada, Tomoya Tanaka, Ryoko Takao-Kawabata, Katsuhiro Kawaai, Yukiko Kuroda, Shinsuke Shibata(2019) Innervation of the tibial epiphysis through the intercondylar foramen. Bone 120:297-304.
マカクにおける繁殖季節性に起因する骨量増減と骨リモデリングのメカニズム

松尾 光一 , 森川 誠, 山海 直, Suchinda Malaivijitnond

性ホルモンが骨代謝に大きな影響を及ぼすことはよく知られている。ニホンザルが季節繁殖性を示し、繁殖期と非繁殖期に性ホルモンの増減を毎年繰り返していることも知られている。しかし、毎年繰り返されるホルモンの増減によって、ニホンザルの骨密度や骨構造がどのように変化しているのかということは知られていない。
さらし骨を用いて得られた橈骨のマイクロCTデータにより、骨梁の構造を解析した(図:橈骨のCTデータ解析例)。死亡日と年齢をもとに、季節変化や加齢変化を調べたところ、これまで解析してきた大腿骨と同じく、特に比較的若い世代の橈骨においても、骨量などのパラメータが季節性変動を示した。大腿骨における骨量の季節性変動が、橈骨においても再現性が見られたことで、さらし骨について、季節性変動があるという仮説に確証が得られた。
 2018年8月21-22日および2019年1月17-18日に、京都大学霊長類研究所内で飼育されているオスのニホンザル生体8頭を用いて、ヘリカルCTによる生体橈骨の骨密度解析と採血を行った。血清を用いて、テストステロンおよび25ヒドロキシビタミンDの濃度測定を行った。
 耳小骨や大腿骨、橈骨のさらし骨の解析結果によれば、オスのニホンザルにおいて、大腿骨と橈骨の骨量には季節性変動が存在すると結論づけられる。一方、可能であればより高い解像度のCTを用いて、同一個体(生体)で経時的変化を追究し、さらし骨による結果と合致するかどうかを検討する必要がある。
 



H30-B20
代:岩槻 健
協:中嶋 ちえみ
協:稲葉 明彦
協:中安 亜希
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

学会発表
稲葉 明彦、熊木 竣佑、粟飯原 永太郎、山根 拓実、大石 祐一、今井啓雄 BSAがサル消化管オルガノイド培養に与える影響(2018年5月12日) 第72回 日本栄養・食糧学会大会(岡山県立大学).

中安亜希、中嶋佑里、三宅佐和、中嶋ちえみ、佐藤幸治、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 霊長類味蕾オルガノイドを用いた味覚センサー構築の試み(2018年5月12日) 第72回 日本栄養・食糧学会大会(岡山県立大学).

Ken Iwatsuki, Hiroo Imai, Yuzo Ninomiya, Peihua Jiang, Koji Sato Takumi Yamane , Yuichi Oishi Generation of taste organoid from non-human primate(2018年9月) ECRO meeting(ビュルツブルグ(ドイツ)).

Ken Iwatsuki Introducing in vitro culture system into researches of endoderm-derived cells(2018年12月2日) 味覚嗅覚の分子神経機構(九州大学).
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

岩槻 健 , 中嶋 ちえみ, 稲葉 明彦, 中安 亜希

 昨年度に引き続き、ニホンザルとアカゲザルより消化管および味蕾オルガノイドの作製を行い、栄養素や呈味物質を用いたカルシウムアッセイ系の構築を目指した。
 消化管オルガノイドはマトリゲル中に球体として存在するため、内腔側にアクセスするためには細い針等で球体内部に栄養素を注入するか、オルガノイドを平面培養し内腔側を露出させる必要があった。我々は後者の方法の検討を進めた。まず、マトリゲルの濃度を100%から徐々に低下させたところ、30%から0%のマトリゲル濃度にて培養することでオルガノイドは培養皿の底に沈み接着することが分かった。培養皿底面をガラス面に変えても、約半分のオルガノイドはガラス面に接着していた。そこで、ガラス面に接着させた細胞を固定し、タイトジャンクションのマーカーであるZO-1にて染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、頂端-基底膜という極性が形成されていることが確認された。つまり、オルガノイドが開裂し上皮細胞の性質を保った状態で接着させることに成功した。今後は、オルガノイドを上記の方法で培養皿底面に吸着させ、呈味物質を用いたカルシウムアッセイを行う予定である。



H30-B21
代:小野 龍太郎
協:八木田 和弘
協:金村 成智
協:山本 俊郎
霊長類歯牙の象牙質成長線に関する比較解剖学的検討
霊長類歯牙の象牙質成長線に関する比較解剖学的検討

小野 龍太郎 , 八木田 和弘, 金村 成智, 山本 俊郎

  象牙質(歯の構造的主体)の脱灰標本では、"成長線"と呼ばれる木の年輪のような層状構造が観察され、1日毎に1本ずつ形成されると理解されている。我々は、これまでにマウスを用いた研究で、歯の種類によっては成長線の形成周期が必ずしも24時間ではない可能性を見出している。象牙質はリモデリングを受けないため、形成期間中の様々な生理的変化が地層のように重なって記録され、半永久的に保存される。そのため、成長線は直接観察が困難な稀少動物種における生活史の解明、食性や生活環境の把握などに役立つツールとなる可能性がある。さらには化石種に応用することで、古生物学への貢献も期待できる。本研究では、成長線の霊長類研究領域における有用性について検討するとともに、その形成メカニズムの解明を目指す。
  今年度の研究では、生年月日と死亡年月日が判明しているニホンザル下顎骨の骨格標本を用いて歯の萌出状態を網羅的に記録した。その中で、特徴的な歯列像を示す4つのライフステージ (6ヶ月,2歳,4歳,6歳)に着目し、各群より雄性4個体を抽出した。現在、抜去した第一大(乳)臼歯を用いて、脱灰標本を作製中である。先行実験で行った1検体(6歳)では、象牙質に加えてセメント質においても明瞭な成長線の観察に成功している(画像参照)。今後は、成長線の年齢による経時的変化や乳歯・永久歯間での違いについて比較解剖学的な検討を行う予定である。



H30-B22
代:中内 啓光
協:正木 英樹
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製

中内 啓光 , 正木 英樹

本年度は提供を受けたチンパンジー末梢血細胞からiPS細胞を作製し、以下の研究を行った。

a) チンパンジーナイーブ型iPS細胞の開発
現時点で最も有望なナイーブ型への変換方法であるchemical resettingをチンパンジーiPS細胞に適用した。一過性にはナイーブ様の細胞が出現するものの、維持培養することができなかった。いずれかの分化シグナルの阻害が必要であると考えており、引き続き取り組んで行きたい。

b) チンパンジープライム型iPS細胞からの異種間キメラ動物作製
前年度の段階でチンパンジープライム型iPS細胞に抗アポトーシス因子であるBCL2を発現させたところ、マウス胚において最長で9.5dpcまでの移植細胞の寄与が認められることを確認していた。キメラ個体を組織学的に検証したところ、移植されたチンパンジー細胞がホスト胚の組織に統合されていないことが示唆された(添付資料図1)。そこで、各発生段階におけるチンパンジー細胞のキメリズムとキメラ率を測定し、どの段階で問題が起きているかを検証したところ、発生の進行に伴いキメラ率、キメリズムともに急速に低下することがわかった(図2)。これ以上のキメラ率向上にはドナーあるいはホストの遺伝的な改変が必要であると予想している。ブタ胚とのキメラではより進んだ発生段階までドナー細胞が生存していたことも示唆的である(図3)。どのような改変が必要かは現在検討中である。

b)の結果については現在論文をまとめており、2019年中の発表を予定している。



H30-B23
代:持田 浩治
協:川津 一隆
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究

持田 浩治 , 川津 一隆

 本研究は,個体の直接的な学習経験(個体学習)だけでなく,他者の行動をモデルとした観察学習が,まずさや危険さと関連した目立つ体色(警告色)を創出・維持する,という仮説の妥当性を,理論と実証の両面から検証することを目的としたものである.前年度は,ニホンザルが,ヘビの危険さと目立つ色刺激(赤黒縞模様)とを連合させる,警告的観察学習が可能であることを明らかにした.そこで今年度は,学習する刺激を弱化させ(茶黒縞模様),警告的観察学習が成立するかを検討した.学習実験には,前年度に引き続き,ニホンザルがヘビ模型を警戒する学習用ビデオとウィスコンシン型汎用テスト装置を用いた.また,赤〜茶色系とは色相の異なる,目立つ色刺激として,緑色のヘビ型模型も実験刺激として導入した.実験結果は,全ての被験個体が,茶黒縞模様や緑色のヘビ型模型を回避する,警告的観察学習ができないことを明らかにした.つまり,直接的な個体学習なしに警告的観察学習が成立するためには,危険さと連合できる色刺激に,刺激の強度だけでなく,何らかの色相の偏り(バイアス)が存在することを示唆する.


H30-B24
代:齋藤 慈子
協:新宅 勇太
吸啜窩の発達的変化の種間比較
吸啜窩の発達的変化の種間比較

齋藤 慈子 , 新宅 勇太

母乳育児が推奨される中、現代の母親にとって断乳・離乳の時期は大きな問題となっている。ヒトという霊長類がいつまで授乳をする生物なのかに関して、多くの客観的な情報が提供されることで、離乳や断乳の時期について示唆が得られると考えられる。ヒト乳児の口蓋には、線維質で構成された副歯槽堤により形作られる、吸啜窩というくぼみが存在する。乳児はこの吸啜窩に乳首を引き込み固定することで、安定した吸啜を行うことができる。この吸啜窩は発達とともに消失するとされるが、吸啜窩の消失という形態発達が離乳という機能発達に関与している可能性がある。この仮説が正しいとすれば、吸啜窩の消失の時期から、離乳時期についての情報が得られる。本研究では、この仮説を検証するために、吸啜窩の消失と離乳との関連を、ヒト以外の霊長類で確認することを目的とした。
霊長類研究所所蔵のニホンザルの上顎骨標本38個体分(生後0.1〜154.3週齢)を組み立て、口蓋を3Dスキャナーで撮像、解析した。その結果、ヒトで定義される吸啜窩と同様のくぼみは、ニホンザル乳児個体では確認されなかった。上顎の形状から、ニホンザルでは、特別なくぼみを発達させることなく、乳首を固定、安定した吸啜を行うことができる可能性が示唆された。この結果から、ヒトにおける上顎形態の変化が、吸啜窩を進化させたという仮説が新たに提起された。



H30-B25
代:佐藤 暢哉
協:林 朋広
コモンマーモセットにおける空間認知

論文

関連サイト
関西学院大学文学部総合心理科学科 佐藤暢哉研究室 https://sites.google.com/site/nsatolab/
コモンマーモセットにおける空間認知

佐藤 暢哉 , 林 朋広

 本研究は,コモンマーモセットの空間認知能力について検討することを目的として,齧歯類を対象とした実験で広く用いられている空間学習課題・空間記憶課題を,マーモセットを対象として実施できるような実験パラダイムの開発を目指した.その第一段階として,本年度はマーモセット用の飼育ケージ内に設置可能な放射状迷路を作製した.実際にケージ内に放射状迷路を設置し,マーモセットに迷路内を探索させる予備実験を実施してみたが,いくつかの装置の不具合が発見された.今後は,不具合の修正はもちろんのこと,装置の改良を試み,実際にマーモセットを対象にいくつかの空間認知課題を実施したいと考えている.


H30-B26
代:那波 宏之
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波 宏之

ヒトの精神疾患の多くは難治性であり、根治治療法が無い場合も多い。これまで長年、げっ歯類モデルを用いてそのメカニズムや治療法が探索されてきたものの、ヒト霊長類とげっ歯類間のの高次脳機能は予想以上に大きく、妥当性の高い霊長類モデルの樹立が待ち望まれている。本研究者らは、統合失調症の最有力な仮説である「サイトカイン炎症性仮説」に基づき、霊長類研究所との共同利用研究課題として、げっ歯類でのモデルで実績のある上皮成長因子EGFを用い、霊長類(マーモセットおよびアカゲザル)の新生児に皮下投与を行い、精神疾患のモデル化を試みてきた。これまでにマーモセット新生児4頭へのEGF投与を実施した。内マーモセット2頭が、3年経過したのちに活動量の上昇・アイコンタクトの頻度低下・逆転学習課題等の成績低下を示した。本年度はEGF投与されたマーモセットのビデオによる行動観察を継続するとともに、マーモセットのミスマッチネガテイビテイーなどの脳波測定に向けた電極開発、測定技法の標準化を行った。今後、本格的に正弦波やマーモセットの鳴き声などと用いたミスマッチネガテイビテイー等の事象関連電位計測の計画を進める予定である。また行動異常が現れたアカゲザルについては、ヒトや同種他個体に対する行動異常を定量化する方法を検討したものの、再現性の高い客観指標の取得には至っていない。アカゲザルモデルについても、その認知行動変化を定量化すべく、継続的に試行を重ねたい。


H30-B27
代:伊藤 浩介
サル類における聴覚事象関連電位の記録
サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤 浩介

 これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論はほぼ完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となってきた。一方、マーモセットの脳波記録では、‘部面積が小さく電極の設置が難しいことや、頭皮の皮脂の多さによる電極インピーダンスの増大などの問題が明らかになった。これらの要因により、電極設置に時間がかかり、電極数を増やせず、脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。そこで、昨年度より継続して、これらの問題の解決を目的とした技術開発を行ってきた。2017年度は主として電極のデザインを見直し、今年度(2018年)は電極の設置について、これまでにないまったく新しい発想の方法を考案した。これにより、電極設置の迅速化(従来より75%の時間短縮)、電極の高密度化(7 个療填亡峙離で設置可能)、脳波記録の質の安定化が達成された。なお、この新しい電極設置方法は、特許化の可能性を検討するために新潟大学の発明委員会に届出を行っており、ここでの詳細な記載は控える。


H30-B28
代:荒川 那海
協:颯田 葉子
協:寺井 洋平
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

論文
Nami Arakawa, Daisuke Utsumi, Kenzo Takahashi, Akiko Matsumoto-Oda, Atunga Nyachieo, Daniel Chai, Ngalla Jillani, Hiroo Imai, Yoko Satta, Yohey Terai(2019) Expression changes of structural protein genes may be related to adaptive skin characteristics specific to humans Genome Biology and Evolution 11:613-628. 謝辞あり

学会発表
荒川那海 皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出す塩基置換の推定について(2018年8月22日) 日本進化学会第20回大会(東京大学駒場Iキャンパス).

Nami Arakawa Acquisition of Human-specific Characteristics of Skin through Gene Expression Changes (Poster)(2018年7月11日) The annual meeting of the Society for Molecular Biology and Evolution(パシフィコ横浜).

Nami Arakawa Acquisition of Adaptive Characteristics in Human Skin through Gene Expression Changes(2018年10月4日) 第46回内藤コンファレンス(シャトレーゼガトーキングダムサッポロ).

寺井洋平 遺伝子発現から探るヒト特異的皮膚形質(2018年10月19日) 第72回日本人類学会大会 一般シンポジウム1 皮膚の人類学(国立遺伝学研究所).

霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

荒川 那海 , 颯田 葉子, 寺井 洋平

個体が外界と接する皮膚でのヒト特異的形質は、ヒトという種が外部環境に適応する際に重要な意味を持っていたと考えられる。本研究では始めにヒトの皮膚は表皮と真皮が厚く、これら2層を結合する表皮基底膜が波型であることを示した。次にRNA発現量解析(RNA-seq)を行い、基底膜や弾性線維の構成成分をコードする遺伝子(COL18A1, LAMB2, CD151, BGN)が類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)に比べヒトの皮膚で有意に高く発現していることを明らかにした。これらの発現量増加はヒトの皮膚での基底膜の波型や弾性線維の増加に繋がる可能性がある。それらの特徴は表皮・真皮の厚みと共に皮膚の強度を増し、ヒトで減少した体毛の代わりに外部の物理的な刺激から体内部を保護していると考えられた。ヒト特異的発現を示した各遺伝子について、その発現調節領域を配列の保存性とヒストン修飾の情報から推定した。それらの領域中のヒト特異的置換(各遺伝子につき2〜10置換)がヒト特異的な遺伝子発現を生み出すと推定された。今後これらの候補置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのか、皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイとゲノム編集による発現比較により検証していく。


H30-B29
代:伊沢 紘生
協:宇野 壮春
協:関 健太郎
協:三木 清雅
協:高岡 裕大
協:関澤 麻伊沙
協:涌井 麻友子
金華山島のサルの個体数変動に関する研究
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

伊沢 紘生 , 宇野 壮春, 関 健太郎, 三木 清雅, 高岡 裕大, 関澤 麻伊沙, 涌井 麻友子

 申請時の本研究の目的は5つで、その結果は以下の通りである。仝賃凌瑤亡悗垢覦貔督敢困録柔祖未2回、秋と冬に実施した。結果は秋が251頭、冬が268頭だった。なお、秋の調査では1群で数え落としがあり、群れ外オス(非追随オス)の発見も不十分だった。群れごとのアカンボウの出生数と死亡(消失)数は、春の調査を上記2回の一斉調査に加えて実施。出生数は6群で計10頭と今年度はきわめて少なく、死亡(消失)数は0頭、1年以内の死亡率は0.0%だった。2鳩録泙鉢た物リスト作成は群れごとの担当者が随時実施した。ネ憩旭茲諒儿(拡大)は個体数が増加したA群とB?群でかなり顕著に見られた。また6群間の比較生態・社会学的調査は分派行動とオスの一生に関する調査を重点的に実施した。
 以上のほかに研究の目的には記載していないが、島に自生するオニグルミ(Juglans mandshurica)について、成熟木の本数と分布と10年間の増減および幼木・若木の島内での分布と種子散布者の特定、クルミの実(核果)を食べるサルとヒメネズミ(Apodemus arrenteus)の関係等について他地域と比較しながら総合的な調査を実施した。そして、その結果を宮城のサル調査会の機関紙「宮城県のニホンザル」第31号で公表した。



H30-B30
代:松本 惇平
協:柴田 智広
マカクザルマーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

学会発表
Rollyn Labuguen, Vishal Gaurav, Salvador Negrete Blanco, Tomohiro Shibata, Jumpei Matsumoto, Kenichi Inoue. Monkey Features Location Identification using Convolutional Neural Networks(2018/10/26) 第 28 回 日本神経回路学会全国大会(沖縄).
マカクザルマーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

松本 惇平 , 柴田 智広

 最新の機械学習アルゴリズム(深層学習など)を用いて、任意の画像および映像内のマカクザルの姿勢(主要関節や目鼻の位置)を推定するソフトウェア(図)を開発するために、1)霊長類研究所の放飼場等で飼育されているサルの日常の様子を撮影し、2)得られた画像・映像データをもとに教師データを作成し、3)教師データをもとに機械学習アルゴリズムを実行し、未学習のサル画像の姿勢推定を行った。その結果、単一の個体が写った画像においては、良好な精度で姿勢推定することができた。現在、本結果の論文投稿を準備中である。次年度以降も引き続き画像・映像データの収集とソフトウェアの改良を行っていく。
 本研究で開発中のソフトウェアは、姿勢や動作の解析から、運動機能や情動、行動意図、社会行動を客観的・定量的に評価することを可能にし、種々の脳機能の研究や野外生態調査、サルの健康管理など多くの分野への貢献が期待される。



H30-B31
代:Heui-Soo Kim
協:Hee-Eun Lee
Transposable element derived Mirco RNA analysis in various primate tissues

学会発表
Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Analysis of Transposable Element derived miRNA-625-5p in Primates( 2018.11.29) IJCGM 2018( Seoul, Rep. of Korea).
Transposable element derived Mirco RNA analysis in various primate tissues

Heui-Soo Kim , Hee-Eun Lee

Hearing is one of important skill in evolutionary studies. According to Clark et al. 2003, there were six hearing related genes(Table.1) and we chose EYA1 gene to select its target microRNA(miRNA) which is miR-195-5p (Fig.1).Pink box is showing where miR-195-5p is located among EYA1 gene, and miR-195-5p is one of the miRNA that targets EYA1 gene. RNA hybrid (Fig.2) and alignment was proceeded (Fig.3) for miR-195-5p and EYA1 gene.The lower MFE value means binding between the gene and miRNA is stronger. Figure 4 is showing the conservation of miR-195 among various species. miR-195-5p is well conserved in primates, cow, dog and rat. Additionally, one of important factor, transcription factor binding sites(TFBS) near miR-195 was analyzed. Table 2 is showing the list of TFBSs near miR-195. The relative expression analysis of miR-195-5p and EYA1 gene was proceeded by quantitative Polymerase Chain Reaction (qPCR). The result shows that in eastern chimpanzee, kidney showed highest expression in miR-195-5p, on the other hand, kidney showed lowest expression in EYA1 gene. The result of Western chimpanzee shows that kidney and ovary is one of the lowest expressed tissue for miR-195-5p, on the other hand, EYA1 gene expression was very high in ovary. Usually, miRNA inhibits the expression of target gene, and the expression pattern between miRNA and its target gene is contray to each other. According to qPCR data, co-transfection in primate celllines might provide the better understanding between EYA1 and miR-195-5p.  


H30-B32
代:豊川 春香
多雪地生態系においてニホンザルが支える機能の評価〜ニホンザルと食肉目の種子散布プロセスの比較から〜
多雪地生態系においてニホンザルが支える機能の評価〜ニホンザルと食肉目の種子散布プロセスの比較から〜

豊川 春香

熱帯地域において森林開発や乱獲に伴う大型果実食者の減少が生態系機能の低下に直結することが知られているが、そのほかの気候帯においてはほとんど着目されてこなかった。本研究では、特に研究例の少ない多雪地生態系を対象に、ニホンザルと中型食肉目各種が起点となる種子の一次・二次散布特性を比較することで、ニホンザルが持つ森林の多種共存を支える固有の機能の特定を試みた。結果、Chao2法(Chao1987)により推定した一次散布種子の種数はニホンザル(35.5種)で、中型食肉目(23.0種)と比べて多く、散布種子量も多かった。二次散布においては、誘引された糞虫の個体数はニホンザル糞の方が多く、優れた埋土能力をもつセンチコガネ科の誘引効果も高かいことから、多様な種子が土壌へ埋め込まれる可能性があった。また、中型食肉目の糞にも糞虫は誘引され、二次散布が発生することが確認できた。種子捕食者においては、1日当たりの捕食頻度がニホンザル糞0.03回、食肉目糞0.11回とニホンザル糞の方が捕食される可能性が低く、糞虫の個体数や出現時間の速さから捕食者が訪れる前に種子が埋め込まれている可能性が示唆された。よって、ニホンザルは種子散布から埋土まで優れた機能をもち、埋土種子供給者として生態系レジリエンスの向上に貢献することが期待される。


H30-B33
代:山下 俊英
協:貴島 晴彦
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究

山下 俊英 , 貴島 晴彦

これまで、霊長類モデルを用いて、軸索再生阻害因子と脊髄損傷後の神経回路網再形成による運動機能再建に焦点をあて研究を行ってきた。その結果、阻害因子のひとつであるRepulsive guidance molecule-a (RGMa)が脊髄損傷後損傷周囲部に増加することを突き止め、その責任細胞のひとつに免疫細胞の一種であるミクログリア/マクロファージを同定することができた。さらに、RGMaの作用を阻害する薬物を用いて脊髄損傷後の機能回復過程および神経回路網形成の有無を検討した。その結果、RGMa作用を阻害した群(RGMa群)は、コントロール群(薬物投与なし)に比べ、運動機能、特に巧緻運動の回復が顕著にみられた。神経回路網形成については、順行性トレーサーでラベルされた皮質脊髄路の軸索枝の一部は、自然回復に伴って脊髄損傷部を越え、直接手や指の筋肉を制御する運動ニューロンへ結合していることが分かった。このような神経軸索枝は、RGMa群においてより多く観察された。次に、脊髄損傷部を越えた神経軸索枝が直接運動機能の回復に寄与しているか否かを、電気生理学手法と神経活動阻害実験を併用して確認した。その結果、直接運動機能の回復に寄与していることが明らかとなった。これらの結果から、脊髄損傷後の運動機能回復を促進させる治療法としてRGMaを分子ターゲットとした方法が有用であると考える。


H30-B34
代:村田 幸久
協:中村 達朗
コモンマーモセットにおける食物アレルギーの診断と管理法の開発
コモンマーモセットにおける食物アレルギーの診断と管理法の開発

村田 幸久 , 中村 達朗

昨年度に引き続き、正常便のマーモセット2個体、Marmoset Wasting Syndrome(MWS)が疑われたマーモセット2個体から尿を採取し、排泄された脂質濃度の網羅的な測定(リピドーム解析)を行った。昨年度の測定分とあわせ、正常個体3個体、MWS疑いの個体3個体のデータを解析した。141種類の脂質代謝物を測定した結果、48種類がMWSが疑われた個体で2倍以上に濃度が上昇していた。今後これらの病態マーカーとしての応用の可能性や、それぞれの病態生理活性についての検討を進めていきたい。


H30-B35
代:Laurentia Henrieta Permita Sari Purba
Functional characterization of bitter taste receptors in Asian Leaf-eating Monkeys

学会発表
Laurentia Henrieta Permita Sari Purba, Kanthi Arum Widayati, Sarah Nila, Kei Tsutsui, Nami Suzuki-Hashido, Takashi Hayakawa, Bambang Suryobroto, Hiroo Imai A story of Bitter Taste Perception in Folivorous Primates(28 March 2018) Health Ingredients South East Asia International Conference(Jakarta).
Functional characterization of bitter taste receptors in Asian Leaf-eating Monkeys

Laurentia Henrieta Permita Sari Purba

Leaf-eating monkeys (Subfamily Colobines) are unique among primates because their diet mostly consisted of leaves that perceptually tasted bitter to human. We confirmed that Asian colobines (Trachypithecus sp., Presbytis sp. and Nasalis sp.) were all less sensitive to PTC compared with macaque both in behavioral detection and cell assay. In addition we found four Asian colobine specific amino acid mutations (V44I, Q93E, I148F, and R330K) that revealed in comparison with human, chimpanzee and macaque TAS2R38 receptors.
By calcium imaging, we measured the responses of cell expressing mutant TAS2R38 of macaque mimicking colobine and confirmed that double-, triple- and quadruple- site mutations are less sensitive to PTC compare to the wild type.
Last year, we did behavioral experiment in African colobines (C. angolensis and C. guereza) in parallel with functional assay. The sensitivity of TAS2R38 of African colobine are variable compare to their Asian relatives. In cellular level, all TAS2R38 of African colobines were showed lower sensitivity to PTC compare to the TAS2R38 of Japanese macaque. Based on amino acid comparison of their TAS2R38 to the macaque and Asian colobines, we found some amino acid mutations specific in the TAS2R38 of African colobines. Thus, we predict that low sensitivity of the African colobine monkeys are partially caused by those mutations. In addition, we also functionally characterized the TAS2R14 of macaque and colobines. TAS2R14 receptors of macaques and colobines showed no response to several known bitter ligands that activate human TAS2R14 such as aristolochic acid, flufenamic acid and caffeine. There are no amino acid differences in the known binding site positions of TAS2R14, thus we predict that the difference in sensitivity between the TAS2R14 of human and old world monkeys caused by amino acid deletion in human lineage. On the other hand, since we used the difference expression vector (pEAK10) for preparing the TAS2R14 of macaque and colobines than previously done in human TAS2R14 (pcDNA5.1), the no response might be caused by the failure of expression of the receptors in the cell membrane.



H30-B36
代:伊藤 孝司
協:北川 裕之
協:西岡 宗一郎
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

伊藤 孝司 , 北川 裕之, 西岡 宗一郎

霊長類研究所で飼育中の若桜群ニホンザルの中で、特徴的な顔貌、四肢や体幹の形態異常が見い出された複数の血縁個体由来の剖検及び生検耳介組織を対象に、その抽出液における複数のリソソーム酵素活性を測定した結果、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)が特異的に欠損していることが判明した。ムコ多糖症I型(MPS1)は、IDUA遺伝子の劣性変異が原因で、酵素活性とその生体内基質であるヘパラン硫酸やデルマタン硫酸の、骨、関節、心臓、皮膚または脳などにおける過剰蓄積、または尿中への排泄及び全身症状を伴う先天性代謝異常症(ライソゾーム病の一種)であるが、同家系ニホンザルでは、IDUA遺伝子に1塩基置換に基くミスセンス変異が同定され、世界初で自然発症ムコ多糖症サルの発見に至った。また徳島大が開発した、ヒトIDUA遺伝子を絹糸腺で高発現する組換えカイコの繭からIDUAを精製し、組織内への取り込みに必要な末端マンノース6-リン酸(M6P)含有合成糖鎖を人工的に付加する糖鎖工学技術を確立した。MPS1患者に対し臨床応用されている酵素補充療法を、発症前期の若齢サル個体に適用するための技術的基盤を構築した。


H30-B37
代:羽山 伸一
協:中西 せつ子
福島市に生息する野生ニホンザルの放射能被曝影響調査
福島市に生息する野生ニホンザルの放射能被曝影響調査

羽山 伸一 , 中西 せつ子

 本研究グループでは、2008年から福島県ニホンザル特定鳥獣保護管理計画にもとづき福島市で個体数調整のために捕獲された野生個体の死体提供を受け、妊娠率の推定や遺伝子解析などを行ってきた。福島市にはおよそ20群、2000頭の野生群が生息しているが、2011年の福島第1原子力発電所の爆発により放射能で被曝した。
 そこで、2012年度に放射性セシウムの蓄積状況と血液性状の関係を調査し、血球数やヘモグロビン濃度などの低下を明らかにし、また被ばく後に胎仔の成長遅滞が起こっていることも明らかにしてきた。
 今年度は、引き続き被ばく状況をモニタリングし、コホート解析で生まれ年による造血機能への影響の違いを分析した。その結果、2011年以前に出生していた個体では、被ばく後2〜3年程度は骨髄細胞比率の低下がみられたが、成長とともに回復する傾向があった。一方、2011年以降に出生した個体では、成長とともに回復しない個体が多かった。したがって、今後は生まれ年による影響の違いを考慮して比較検討する必要があると考えられた、
 なお、将来における中長期的な影響評価を可能にするため、採取した臓器及び遺伝子等の標本保存を行った。



H30-B38
代:井上 治久
協:沖田 圭介
協:今村 恵子
協:近藤 孝之
協:江浪 貴子
協:月田 香代子
協:大貫 茉里
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上 治久 , 沖田 圭介, 今村 恵子, 近藤 孝之, 江浪 貴子, 月田 香代子, 大貫 茉里

ヒト特有の高次機能をもたらす分子機構とその破綻こそがアルツハイマー病等の神経変性疾患の原因であるという仮説のもとに、チンパンジーとヒトのiPS細胞由来神経細胞の比較解析を目的としている。ヒトiPS細胞およびチンパンジーiPS細胞から神経細胞を分化誘導し、免疫染色による神経細胞マーカーの解析と平面微小電極アレイ計測システム(MED64-Basic、Alpha Med Scientific)を用いた神経活動の評価を行った。ヒトiPS細胞由来神経細胞およびチンパンジーiPS細胞由来神経細胞の両者において、薬剤応答性を含む機能的な神経ネットワークが形成されていることが示された。これらの比較解析により霊長類神経系の機能解明とヒト疾患解析への応用に有用である可能性が考えられた。


H30-B39
代:横田 伸一
二ホンザルとアカゲザルにおける新規ストレスマーカーの探索とストレス反応性の比較研究
二ホンザルとアカゲザルにおける新規ストレスマーカーの探索とストレス反応性の比較研究

横田 伸一

本研究の目的は、ニホンザルとアカゲザルにおいて簡便に測定できるストレスバイオマーカーを見出し、それぞれのサル種におけるストレス反応性の特徴をバイオマーカーの観点から明らかにすることである。平成30年度は、比較的軽度で短時間の身体的・心理的要因を含むストレス反応について評価するため、獣医師が採血動作を模してサルの腕を保持するという一連の動作(挟体を引いた状態で2分間)を行った直後に麻酔をし、30分経過後の血液中および唾液中のコルチゾール、アミラーゼ、免疫グロブリンA(IgA)の濃度について、プレ値(ストレス負荷無しで2日前の同時刻に採材)との比較検討を行った。その結果、血液中でも唾液中でもコルチゾール、アミラーゼ、IgAのストレス負荷による変化はいずれも認められず、短時間の挟体保定や獣医師(実験実施者)の接触などの手技的な影響は無視できることが示唆された。昨年度は、サルをホームケージから他室の個別ケージに一時的に移動させるというストレス負荷により、アカゲザルの唾液中でのみアミラーゼとIgAの濃度が有意に減少することを明らかにしている。本検討により、昨年度の検討結果の信頼性を高めることができた。本課題の検討結果については、現在、論文投稿の準備中である。


H30-B40
代:國松 豊
アフリカ中新世霊長類化石の形態学的研究

論文
Takano, T., Nakatsukasa, M., Kunimatsu, Y., Nakano, Y., Ogihara, N., and Ishida, H. (2018) Forelimb long bones of Nacholapithecus (KNM-BG 35250) from the middle Miocene in Nachola, northern Kenya Anthropological Science 126:135-149.
アフリカ中新世霊長類化石の形態学的研究

國松 豊

 本研究では、東アフリカのケニヤ共和国北部にある中新世中期及び後期の化石産地(ナカリ、ナチョラ、サンブルヒルズ)から日本隊の長年の野外調査によって収集された化石標本を対象に、主に霊長類化石の分析と記載を目的としている。これらの化石は、すべて、ケニヤ国立博物館に保管されている。2018年度は、8月から9月にかけて、中新世後期の化石産地であるケニヤ北部のナカリ地域において、化石収集を目的とする野外調査に参加し、霊長類を含む脊椎動物化石を新たに採集した。2019年3月に、再度ケニヤに渡航し、ナイロビにあるケニヤ国立博物館において、上記の化石産地に由来する類人猿・旧世界ザル化石の整理・分析を続行した。国内においては、霊長類研究所の現生霊長類骨格標本及び化石模型を利用し、ケニヤの霊長類化石の記載を進めた。今年度は、特に、中新世中期のナチョラピテクスの側頭骨の研究の成果を公表する事に努めた。他の多くの哺乳類同様、霊長類一般において側頭骨岩様部には、脳の一部が入り込む弓下窩と呼ばれるくぼみが存在するが、現生大型類人猿ではこのくぼみが消失するという派生形質が見られる。化石に残りにくい部位であるため、化石類人猿での報告例は少ないが、ナチョラピテクスでは現生大型類人猿のように弓下窩が消失していた。一方で、これまでに知られているナチョラピテクスの体肢骨標本からは、ナチョラピテクスはまだ現生類人猿のように懸垂型のロコモーションには適応しておらず、樹上性四足歩行型であることがわかっている。仮に弓下窩の消失が現生大型類人猿との共有派生形質とすれば、現生類人猿に見られる懸垂型ロコモーション適応は複数の系統で独立に進化したのではないかという考えを支持するものである。


H30-B41
代:藤田 一郎
協:稲垣 未来男
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定

藤田 一郎 , 稲垣 未来男

恐怖や威嚇の表情、あるいは有害生物の存在といった潜在的な危険情報の視覚的な検出に、大脳皮質視覚経路だけでなく皮質下視覚経路も関わると考えられている。しかし、霊長類において皮質下視覚経路を支持する解剖学的な証拠は乏しい。そこで危険情報の処理に関わる扁桃体へ経シナプス性に輸送される逆行性ウィルストレーサーを注入し、入力経路を順番に辿ることで、皮質下視覚経路の解明を目指した。今年度はアカゲザル1頭において、経シナプス性逆行性輸送トレーサーの注入実験を行い、生存期間1.5日の後に標本切片を作成した。標本切片を観察した結果、皮質下視覚経路を構成すると考えられてきた視床枕および上丘において、扁桃体を始点として逆行性に標識された神経細胞が実際に存在することを確認した。視床枕では多くの神経細胞が標識された一方で、上丘では少数の神経細胞だけが標識されていた。生存期間1.5日では、トレーサーは最大でも2シナプスだけしか超えないことから、この結果は上丘→視床枕→扁桃体へと至る皮質下視覚経路の存在を強く示唆する。次年度以降はより定量的な解析を進めるとともに、個体数を増やして再現性があるかどうかを確認する予定である。


H30-B42
代:Kevin William McCairn
協:Kendall Lee
協:Taihei Ninomiya
Multi-Dimensional Analysis of the Limbic Vocal Tic Network and its Modulation via Voltammetry Controlled High-Frequency Deep Brain Stimulation of the Nucleus Accumbens
Multi-Dimensional Analysis of the Limbic Vocal Tic Network and its Modulation via Voltammetry Controlled High-Frequency Deep Brain Stimulation of the Nucleus Accumbens

Kevin William McCairn , Kendall Lee, Taihei Ninomiya

これまでMPTP投与によって作製したパーキンソン病(PD)サルモデルから、安静時およびボタン押し課題遂行中における大脳皮質、大脳基底核、小脳から神経活動(主に局所電場電位)の多領域多点同時記録を実施した。その結果、PDサルモデルの小脳からベータ波の過活動を検出し、更にcross-frequency coupling解析により、運動遂行時における大脳皮質(特に一次運動野)との間のphase amplitude couplingが大脳基底核よりもむしろ小脳で顕著であることが明らかにした。具体的な結果は次のとおりである。(1)時系列に基づいて、大脳基底核の淡蒼球と一次運動野との間のcross-frequency couplingを解析したところ、健常時やチックモデルではベータ帯域におけるphase amplitude coupling が運動遂行時に強く検出されるのに対して、PDモデルでは同様のcoupling現象がほとんど消失していた。(2)同様に、小脳(主に小脳皮質)と一次運動野との間のcross-frequency couplingを解析したところ、上記(1)の結果と異なり、健常時やチックモデルにおいて運動遂行時にみとめられるベータ帯域でのphase amplitude coupling が、PDモデルにおいても検出された。
これらの結果は、PDの病態発現における小脳の関与を示唆しており、これにより、cross-frequency couplingに関する実験データに基づいて神経ネットワークの数理モデルを構築し、発振・同期の機能的意義を明らかにできるだけでなく、DBSによる治療効果の検討をとおして、神経活動への介入による発振制御とその臨床応用に関する新たな知見を得ることができると考える。現在、サル2頭分のデータをまとめており、可及的速やかに原著論文を作成する予定である。



H30-B43
代:外丸 祐介
協:信清 麻子
協:畠山 照彦
一卵性多子ニホンザルの作製試験

学会発表
外丸祐介、江藤智生、信清麻子、畠山照彦、兼子明久、宮部貴子、岡本宗裕 ニホンザル体外受精卵のガラス化保存と冷蔵保存について(2018年10月25日) Cryopreservation Conference 2018(岡崎).
一卵性多子ニホンザルの作製試験

外丸 祐介 , 信清 麻子, 畠山 照彦

本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すもので、これまでに生殖工学基盤技術の検討を進めることで「卵巣刺激→体外受精→受精卵移植」により産子を得るための再現性の高い技術を確立してきた。また、一卵性多子の獲得手段として受精卵分離技術の応用に取り組み、二分離した体外受精卵から単子ではあるが健常産子の獲得に成功している。これらの技術の基盤の下で、今年度は一卵性双仔の獲得に向けて移植試験を実施したが。産子を得ることはできなかった(次年度も移植試験を継続予定)。この一方で、ニホンザル受精卵の冷蔵保存について検討した。移植試験の際には受精卵のステージとレシピエント雌の性周期を同調させる必要があるが、マウス・ラット等の小型実験動物と異なり、サル類ではレシピエントの確保が容易ではない。この対策として、短期間の時間調整を想定した冷蔵保存試験を実施した結果、20%ウシ胎子血清を添加したPBI液を用いることで、4-6℃で4日間の保存後にも高い生存性が得られることが確認できた。冷蔵保存は長期的な保存には不適であるが、超低温保存では生じる凍結・ガラス化や融解時のダメージを回避できることから、数日程度の時間調整には有効であると考えられた。


H30-B44
代:蔦谷 匠
協:Matthew Collins
協:Enrico Cappellini
協:大河内 直彦
プロテオミクス解析によるニホンザル授乳状況の推定
プロテオミクス解析によるニホンザル授乳状況の推定

蔦谷 匠 , Matthew Collins, Enrico Cappellini, 大河内 直彦

本研究では,霊長類の離乳年齢を正確に推定する方法を開発するため,新たな乳摂取の指標として,完全には消化されずに糞中に排出される乳由来タンパク質に注目した. 霊長類研究所に飼育されている授乳・離乳状況既知のニホンザル(Macaca fuscata)より糞試料を得た.0歳児(授乳中),2歳児(離乳後),オトナそれぞれから,2-5個を分析に供した.質量分析計を利用して試料中に存在するタンパク質を網羅的に同定する最先端のプロテオミクス分析を利用した.
分析の結果,乳に特異的に含まれるタンパク質(カゼインやラクトアルブミン)は授乳されている0歳児の糞中のみから検出された.授乳されなかった0歳児の糞からは,乳に特異的なタンパク質は検出されなかった.ほかの体液にも含まれるが乳に特に豊富に存在するタンパク質(リゾチーム,免疫グロブリンJ鎖)については,0歳児で検出ペプチド数が大きかった.
離乳過程が進行した際,どこまで乳タンパク質が検出可能であるかを検証する必要はあるが,糞のプロテオミクス分析により,個体の授乳・離乳状況を推定できる可能性が示された.また,本手法は野生個体に対しても適用可能である.



H30-B45
代:筒井 健夫
協:小林 朋子
協:鳥居 大祐
マカク乳歯歯髄幹細胞を用いた歯髄再生への応用
マカク乳歯歯髄幹細胞を用いた歯髄再生への応用

筒井 健夫 , 小林 朋子, 鳥居 大祐

平成30年度はニホンザル3例に対して、採取した乳歯歯髄細胞を培養し三次元構築体を形成後に同一個体の乳歯へ移植を行い、永久歯の萌出時期を考慮し、約3ヶ月後に抜歯による採取を行った。また、前記3例を含めたニホンザル5例に対して、以前に三次元構築体を移植した乳歯を永久歯の萌出時期を考慮し、抜歯による採取を行った。細胞採取対象乳歯および抜歯対象歯は、採取処置前後においてエックス線撮影により対象歯、その周囲組織と後続永久歯の状態の確認を行った。細胞採取対象乳歯と乳歯細胞移植、および抜歯による後続永久歯への障害は観察されなかった。抜歯対象歯は、乳犬歯および第2乳臼歯であり、歯冠側1/3程度の歯髄除去処置を行い移植した。移植後の歯髄貼付薬として水酸化カルシウム水性ペーストのカルシペクス?兇鰺僂い新覯漫移植歯の歯髄内に硬組織形成がエックス線撮影およびマイクロCTにより観察された。またマイクロCTを用いた硬度解析の結果より、象牙質以上の硬度を示したため現在内容物について解析を進めている。平成30年度の移植時には、歯髄貼付薬として生体親和性の高いMineral Trioxide Aggregate (ProRoot?MTA)を使用し、抜歯により採取された乳歯をマイクロCTを用いて解析を進めている。


H30-B46
代:寺山 佳奈
高知県室戸市におけるニホンザルが利用する食物資源の解析

学会発表
寺山佳奈・加藤元海 高知県室戸市におけるニホンザル加害群の採食物の特徴(2019年3月17日) 日本生態学会第66回大会(神戸).
高知県室戸市におけるニホンザルが利用する食物資源の解析

寺山 佳奈

高知県室戸市に生息するニホンザルは農作物被害をもたらすことが知られているが、ニホンザルの採食物に関する研究はない。直接観察が困難な野生動物の食性調査として、一般に糞や胃内容物を用いた調査がなされている。申請者らは、ニホンザルの主要な農作物が多く存在する夏期において高知県室戸市に生息するニホンザル加害群の採食物の特徴を明らかにする事を本研究の目的とした。高知県室戸市で有害鳥獣として駆除されたニホンザル9個体(オス7個体、メス2個体)を対象とし、胃内容物を葉や農作物、昆虫などの11項目に分類した。ポイントフレーム法によってカウントする格子点の総数は1000点とし、各項目の占有率を求めた。出現回数の多かった項目は9個体中8個体から出現した葉と果実であり、次いで昆虫が6個体から出現した。占有率は葉が38.7%と最も高く、次いで果実が33%、農作物が16.6%であった。採食が確認された果実は、ヤマモモやビワ、タブノキなど調査地に多く見られる果実類であった。農作物ではイネの採食が確認され、昆虫ではアリやコガネムシが出現した。
上記の内容を、日本生態学会大66回大会(神戸)にてポスター発表を行なった。
提出画像は(画像1:出現した採食物の平均占有率と出現率、画像2:各採食物の占有率、画像3:出現した採食物のリスト、画像4:出現した採食物の写真)



H30-B47
代:平田 暁大
協:柳井 徳磨
協:酒井 洋樹
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

論文
Hirata A*, Miyamoto Y, Kaneko A, Sakai H, Yoshizaki K, Yanai T, Miyabe-Nishiwaki T, and Suzuki J.( in press) Hepatic Neuroendocrine Carcinoma in a Japanese Macaques (Macaca fuscata). J. Med. Primatol. 48:137-140. 謝辞 あり

学会発表
平田 暁大、兼子 明久、宮部 貴子、宮本 陽子、石上 暁代、山中 淳史、酒井 洋樹、柳井 徳磨、鈴木 樹理 幼児期のニホンザルの喉頭に発生したB細胞性リンパ腫の一例( 2018/7/8) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).

兼子 明久、平田 暁大、宮部 貴子、石上 暁代、山中 淳史、林 美里、友永 雅己、酒井洋樹、柳井徳磨、鈴木 樹理 チンパンジーのクモ膜下出血の1例( 2018年7月7日) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).

宮本 陽子、兼子 明久、平田 暁大、石上 暁代、宮部 貴子、酒井 洋樹、柳井 徳磨、中村 克樹、鈴木 樹理 ニホンザルの肝臓に発生した神経内分泌腫瘍の1例( 2018/7/7) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).

石上 暁代、兼子 明久,平田 暁大,鈴木 樹理 膵島アミロイドーシスによる二型糖尿病を発症したボンネットモンキーの1例( 2018/7/7/) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).

宮部 貴子、平田 暁大、兼子 明久、宮本 陽子、石上 暁代、山中 淳史、酒井 洋樹、柳井 徳磨、鈴木 樹理 ニホンザルにおける口腔扁平上皮癌の一例( 2018/7/8) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

平田 暁大 , 柳井 徳磨, 酒井 洋樹

 飼育下でサル類に発生する疾患およびその病態を把握するため、霊長類研究所で死亡あるいは安楽殺したサル類を病理学的に解析していた。平成29年度中に10頭(コモンマーモセット4頭、ニホンザル4頭、ボンネットモンキー1頭、チンパンジー1頭、オマキザル1頭)の病理学的解析を行った。さらに、同研究所の獣医師と臨床病理検討会(CPC、Clinico-pathological conference)を開催し、病理学的解析結果を治療データ、臨床検査データ(血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査等)と照合し、症例の総合的な解析を行った。

【論文発表】
 肝臓原発の神経内分泌癌のニホンザルの症例について論文発表した(Hirata A et al., J. Med. Primatol., 48(2), 137-40, 2019)。サル類において、肝臓の神経内分泌腫瘍はヒヒにおいて報告されているのみで、マカクでは初めての報告である。詳細な血液検査データと病理解析結果を提示した貴重な報告であり、サル類の臨床診断技術の向上に資すると考えられる。



H30-B48
代:中務 真人
協:芳賀 恒太
協:小林 諭史
協:小嶋 匠
協:富澤 佑真
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

中務 真人 , 芳賀 恒太, 小林 諭史, 小嶋 匠, 富澤 佑真

ヒトと類人猿の運動器官進化研究において、脊柱の形態進化は大きな関心を集めているが、脊柱の形態特徴には、機能的、進化的意味の立証が不十分なものが見られる。この計画では、腰椎横突起の位置が脊柱の腹側陥入の程度を反映するか、腰椎横突起の位置が固有背筋の相対的なサイズと関係するかを検証する。
2018年度に類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザル)15個体、旧世界ザル(カニクイザル、ニホンザル、マントヒヒ)12個体のCTデータを収集し2断面で予備分析を行った。椎骨式の変異が存在する種間で比較を行うため、相同性が高いと考えられる第1腰椎、下部腰椎として最後から2あるいは3つ目の腰椎を選び、その頭側面を計測面とした。
その結果、オナガザル上科と類人猿の下位腰椎レベルで類人猿の固有背筋サイズが小さい傾向が見られたが、第1腰椎ではその傾向がみられなかった。また、類人猿とヒトを比較すると、ヒトの固有背筋サイズが大きい傾向が見られたが、第1腰椎ではその傾向はみられなかった。オナガザル上科とヒトを比較すると、前者が後者より大きな固有背筋をもつ傾向はみられなかった。これらの結果は、対象とした霊長類において、各々のロコモーション様式に適応して固有背筋が発達する部位が異なることを示唆した。また、腰椎横突起の位置と固有背筋サイズの関係を見たときに、ヒトを除いた下位の腰椎では、横突起はより腹側にあるほど固有背筋が大きいという傾向が認められたが、上位の腰椎ではそのような傾向は見られなかった。これは、横突起の位置が固有背筋サイズに支配されるとする意見に否定的な結果であった。今後、資料数を増やすとともに、頭側から尾側への連続的な変化の検出を行う。



H30-B49
代:時田 幸之輔
霊長類下肢の筋構成と支配神経パターン

学会発表
小池魁人 時田幸之輔 小島龍平 平崎鋭矢 霊長類大腿屈筋群の比較解剖学的観察(2018年7月14日) 第34回日本霊長類学会大会(東京都練馬区).

小池魁人 時田幸之輔 小島龍平 平崎鋭矢 ニホンザル大腿二頭筋へ進入する神経の筋内分布及び仙骨神経叢における層序(2019年3月27日) 第124回日本解剖学会総会・学術集会(新潟県新潟市).

小池魁人 時田幸之輔 小島龍平 平崎鋭矢 二頭筋短頭支配神経比較解剖学的考察(2019年7月14日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本県熊本市).
霊長類下肢の筋構成と支配神経パターン

時田 幸之輔

チンパンジー2側,リスザル2側,ニホンザル2側について大腿二頭筋(Bf)の構成とその支配神経を観察した.チンパンジーBfの長頭(Lg)は坐骨結節,短頭(Br)は大腿骨体後面遠位から起始し, 腓骨頭,外側下腿筋膜に停止した.Lgには坐骨神経(Ish)脛骨神経部(Ti)からの枝(RT)が分布した.Brには総腓骨神経部(F)からの枝(RF)が分布した.リスザル,ニホンザルBfにはLgとBrの区別がなかった.リスザルBfの起始停止は坐骨結節-腸脛靭帯,腓骨頭,外側下腿筋膜であった.この筋には,起始部付近にRTが分布し,筋腹遠位部2/3付近にRFが進入した.ニホンザルBfは坐骨結節から腸脛靭帯,膝関節付近へ走行する筋束(Bf-1)と坐骨結節から腓骨頭,外側下腿筋膜へ走行する筋束(Bf-2)の2部に分かれた.この筋には,RTとRFが進入した.RTには,Bf-1へ進入する枝(RT-1)とBf-2へ進入する枝(RT-2 )があった.RFはBf遠位から進入していた.RTは筋に分布していたが,RFは筋を貫き皮神経となっていた.RTは仙骨神経叢のL6-S1の腹側成分に由来しTi本幹より腹側から分枝していた.RFはL5の中間成分で上殿神経(Gi)より腹側から分枝していた.


H30-B50
代:Jeanelle Uy
The relationship between gut size and torso anatomy
The relationship between gut size and torso anatomy

Jeanelle Uy

The gut (gastrointestinal tract) is a unique example of a visceral structure that is thought to have driven changes to postcranial dimensions. A longstanding assumption within paleoanthropology is that the torso skeleton, particularly the ribcage and pelvis, reflects organ size; however, no data exists in the literature that directly links soft tissue (guts) to hard tissue (bones). The purpose of this project is to determine if gut size is related to torso morphology. We will test if the bony anatomy of the ribcage and pelvis is related to gut size in anthropoids. Thoracic measurements were obtained from Homo, Hylobates, Pan, Pongo, Gorilla, Macaca, and Cebus skeletons. Existing whole abdomen scans from humans (n=89) were obtained from my institution (UW-Madison) and existing scans of Cebus (n=8) were obtained from KUPRI.We found that Homo has unique thorax form and gut form that is distinguished from other nonhuman primates, but the nonhuman primates in our study overlapped in both thorax form and gut size. We also found male humans tend to have gut volumes that are correlated with pelvic variables, but we do not find any relationships between the pelvis and gut volume in females. There is a small but significant correlation between caudal thorax breadth and gut volume in humans. We did not find any relationship between gut volume, caudal thorax size, and body size in Cebus. Variability in gut volume within Homo sapiens and Cebus is high and equivalent. Variability in gut volume that cannot be explained by body size is higher in females than in males in Homo sapiens. In conclusion, the human ribcage, gut, and pelvis have complex relationships with each other; human females differ in their relationship with the torso skeleton and gut size possibly due to spatial demands of gestation or metabolic demands of gestation and lactation.


H30-B51
代:澤野 啓一
協:田上 秀一
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

澤野 啓一 , 田上 秀一

従来、ヒトを含む真猿類の頭部血管系の走行(経路、口径変化、湾曲の程度等)はほぼ同一であるとみなされてきた。その様な先入観も災いして、実際には詳細には調べられては来なかった。筆者は主に白骨頭蓋底の調査の過程で、Foramen jugulare (FJ)の形状が、ヒトと、ヒト以外のAnthropoideaとでは大きく異なることを確認していた。Sinus sigmoideus (SSG)からVena jugularis interna (VJI)への流れは、当然FJの形状に制約される(あるいは、還流静脈の形状がFJの形状に反映される)訳であるから、その実情を明らかにする為に、血管造影CT撮影に拠って、生きた状態でのニホンザルの脳還流静脈路の研究を行った。同時に並行して、それに対応する部分のヒトの形状に関する研究も行った。頭蓋を耳眼水平面に置いた状態で比較すると、ニホンザルのFJは斜めになだらかに傾斜して開口する形状である。これは他のAnthropoideaとほぼ同様の形状であった。それに対してヒトでは、Squama occipitalisの下壁が、下方に膨隆していることと、他の真猿類ではFJの前端に相当する部分が、ヒトではFJが垂直化することに拠ってFJの上端に成っていることの為に、SSGからVJIへの還流静脈路は一旦上行した後、急角度で屈曲して下方に向っている。他方、ニホンザルの脳静脈還流路は、FJの形状から予測された通り、斜めになだらかに傾斜して流れる形式であり、ヒトの場合との違いが鮮明に成った。このようなヒトとヒト以外の真猿類との違いは、頚動脈管と頚動脈の場合と、あたかも並行関係に有るように見える。ヒトのFJの形状とSSGからVJIへの還流静脈路の特異性が、ヒトに於ける脳と脳頭蓋底の後方と下方への膨隆の結果として生じた受動的なものに留まるのか、あるいは更に何らかの機能的役割が付与されたものであるのかについては、今後の研究課題である。ニホンザルの脳静脈路がヒトと異なる他の部位についてもこれから明らかにする。


H30-B52
代:神奈木 真理
協:長谷川 温彦
協:永野 佳子
協:Ganbaatar Undrakh
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

学会発表
Hasegawa A, Fujikawa T, Ganbaatar U, Nagano Y, Masuda T, Tanaka Y, Akari H, Kannagi M. Impaired T-cell responses in natural infection of STLV-1 as a primate model of immune suppression in HTLV-1 infection.(2018.09.27) 第 77 回日本癌学会学術総会(大阪).

冨士川朋夏、長谷川温彦、Undrakh Ganbaatar、永野佳子、増田貴夫、田中勇悦、明里宏文、神奈木真理. STLV-1 自然感染ニホンザルにおける STLV-1 特異的 T 細胞免疫の低応答性.(2018.09.01) 第 5 回日本 HTLV-1 学会学術集会(東京).
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

神奈木 真理 , 長谷川 温彦, 永野 佳子, Ganbaatar Undrakh

サルTリンパ球向性ウイルス(STLV)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の近縁ウイルスであり、ニホンザルに高率に自然感染している。ヒトでは、HTLV-1感染者の一部が成人T細胞白血病(ATL)を発症するが、これらの個体では、HTLV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)応答が低く、このCTL応答を強化することには治療的意義があることは、これまでの我々の研究により明らかになってきている。本研究では、STLV自然感染ニホンザルにおける免疫応答がヒトHTLV-1感染と近似したモデルと成り得るかどうかを見極め、CTLを活性化させる免疫療法が感染細胞を減少させる効果を個体レベルで検証することを目的としている。抗原特異的T細胞応答はMHCに拘束されるため、平成29年度に個体毎のSTLV特異的CTL応答の解析系を確立し、平成29〜30年度に詳細な解析を行った結果、STLV自然感染ニホンザル6頭中4頭が高応答、1頭が低応答、1頭は不明であった。低応答を示した個体ではプロウイルスDNA陽性細胞率(PVL)が高く且つウイルス制御能が低かった。これはATL患者や一部のHTLV-1キャリアに近似する結果である。この結果については平成30年度の日本癌学会ならびにHTLV-1学会において口頭発表を行った。さらに、低応答性個体に対する免疫接種実験に着手した。今後、低応答性の個体を複数選出し免疫療法の効果の検証を行う予定である。


H30-B53
代:日比野 久美子
協:竹中 晃子
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究

日比野 久美子 , 竹中 晃子

 日本人の動脈硬化症を引き起こす高コレステロール(Ch)血症は厚生労働省において今なお難病に指定され、原因不明が4割もある。LDL受容体遺伝子(LDLR)のエクソン3にCys82(61)Tyr変異を持つインド由来アカゲザル7頭に0.1%および0.3% Ch含有食の投与実験を行った結果、2頭が12週でヒトの難病に匹敵する高い動脈硬化指数(LDL/HDL>3.5)5.8を示した。これら2頭を含むヘテロ接合体3頭の全ゲノム解析をタカラバイオに依頼して行った。高Ch血症を引き起こす可能性のある16遺伝子についてエクソン、スプライシング部位、プロモーター領域について検討し、2頭に共通する変異が5遺伝子のエクソン6座位に新たに見出されたので、残るヘテロ接合体5個体(すでに死亡している元になった#1304を含む)と正常個体4頭について、これら6座位の変異の有無を調べた。それぞれのプライマーを設定しPCR法で増幅し、増幅産物をABIキャピラリー電気泳動法により塩基配列を決定した。高Ch血症を示した2頭にあったLDLRのさらなる変異Ile598(577)Val (ATC→GTC) はこの家系の他の個体もホモ接合体で有しており、LDL結合領域に近い変異であったが、難病レベルのLDL値を示す原因とはならなかった。LDLを細胞内に取り込む際に必要なLDLRAP1にはAsn102Ser(AAC→AGC)変異がこの2頭にヘテロ接合体として共通にあったが家系内にもヘテロ、ホモ接合体がおり多型であった。ヒトの高Ch血症を調べる際にオックスフォードジーンテクノロジー社でさらに検討されるPCSK9、APOB、APOE、LIPA、STAP1には2頭のみに共通する変異はなく、現在、 NCBI、LOVDなどのデーターベースを参考に他の遺伝子についてさらに解析を進めている。また、今年度得られた結果に基づき、来年度はLDL受容体の活性測定を計画している。


H30-B54
代:佐藤 真伍
協:西岡 絵夢
協:渡邊 明音
協:福留 祐香
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

佐藤 真伍 , 西岡 絵夢, 渡邊 明音, 福留 祐香

 Bartonella quintanaは人に発熱や回帰性の菌血症を引き起こす原因菌で,重症化すると心内膜炎や細菌性血管腫を引き起こす。ヒトに特異的に寄生するコロモジラミがB. quintanaのベクターで,衛生環境とB. quintanaの流行は密接に関係している。第一次・二次世界大戦時にB. quintana感染は兵士の間に流行し,その後終息したものの,現在では都市部に生活する一部のホームレスにおいて本菌の感染が確認されている。近年,中国の霊長類研究施設内で飼育されているアカゲザルやカニクイザルも本菌を保有していることが明らかとなっている。さらに,日本の野生ニホンザルもB. quintanaを保菌していることが我々の研究によって明らかとなっている。
 以上ような背景から,京都大学 霊長類研究所内で飼育されているMacaca属のサルを対象に,本菌の分布状況を継続的に検討することとした。平成28年度の本共同利用・共同研究(課題# 2016-D-21)では,和歌山県由来の椿群のニホンザル1頭からB. quintanaが分離され,Multi-locus sequence typing(MLST)によりST22に型別された。さらに,平成29年度の研究(課題# 2017-B-28)では,大阪府由来の箕面群のニホンザル2頭からもB. quintanaが分離された。
 平成30年度の研究(課題# 2018-B-54)では,箕面群の分離株の遺伝子性状について,MLSTにより解析した。その結果,いずれの株も野生ニホンザルや椿群のニホンザルから分離された株と同一のST22に型別された。さらに,椿群のサル1頭からも新たにB. quintanaが分離された。B. quintanaを保菌していた計4頭のサルは,いずれも過去に野外から導入した個体であることから,今後,感染ザルにおける本菌の持続感染期間についても詳細に検討していく必要があると考えられた。



H30-B55
代:岡田 誠治
協:俣野 哲朗
協:刈谷 龍昇
サル造血免疫機能の解析とサル免疫不全ウイルス感染モデルマウスの樹立
サル造血免疫機能の解析とサル免疫不全ウイルス感染モデルマウスの樹立

岡田 誠治 , 俣野 哲朗, 刈谷 龍昇

本研究の目的は、ニホンザルの造血・免疫系を解析し、その特徴を明らかにすること、その結果を基にニホンザルの造血免疫系を構築したマウスモデルとエイズモデルを構築することである。
 本年は、新たなサンプルを得ることができなかったため、昨年度までのサンプルを用いて引き続き効率の良い移植系の確立を目指し研究を進めた。



H30-B56
代:加藤 彰子
協:近藤 信太郎
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する

加藤 彰子 , 近藤 信太郎

 歯周病は歯周組織に起こる慢性の炎症性疾患であり日本の成人の約80%が歯周病に罹患している。現在、歯周病は生活習慣病の一つと考えられており、病態・病因の解明は解決すべき重要な課題である。顎口腔機能は、その個体が生活する環境や食性に伴い長い時間をかけて適応、変化する。これら顎口腔領域の形態が歯周病の進行とどのように関わっているかを調査することが本研究の目的である。具体的には、マカクザルの頭蓋骨を用いて歯科用コーンビームCTおよびマイクロCT撮影を行い、歯槽骨の吸収程度を評価して顎口腔系の解剖学的形態との関連性を調べる。本研究により歯周病に関わる顎口腔領域の形態因子と各マカクザルの住む環境因子との関係性を明らかにすることで、歯周病の病因解明の一助とする。2018年度はアカゲザルおよびニホンザル合計45個体の観察およびCT撮像を行った。これらを通してマカク属の異なる種間で歯周病の発症パターンに相違があることと、歯冠咬合面の咬耗度に相違があることを示すデータを蓄積している。2019年度はさらにデータ解析を進め、マカクザルの歯槽骨吸収の特徴についてまとめを行いたいと考えている。


H30-B57
代:高須 正規
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価

高須 正規

家畜の飼養管理で一般的に用いられている代謝プロファイルテストをニホンザルに応用し,飼育環境の違いがニホンザルのQOLに与える影響を評価できるか否かを明らかにした。
異なるグループケージで飼育されているニホンザル2群(A群・B群)に対して,代謝プロファイルテストを行った。A群は5-6歳のオス5頭,B群は同4頭で形成されていた。A群のケージ(Aケージ)は,格子面が多く,風よけスペースとしてサルが入れる小さなボックスが設けられていた。一方,B群のケージ(Bケージ)は,サルが十分に動けるスペースを有する副室(水飲みあり)が設けられていた。
両群の定期的な体重測定時(5月,7月,9月,11月,1月,3月)に橈側皮静脈より血液を採取した。採取した血液を用い,CBCならびに血液生化学検査を行った。その結果,冬季においてA群のヘマトクリット値が上昇することが示された。
冬季にA群のヘマトクリット値が高かったことは,Aケージの給水場所が風よけスペースの外にあるため,サルがスペースから出ようとせず,積極的に飲水をしなかった可能性が考えられた。一方,Bケージは副室内に水のみがあるため,冬季であっても飲水量が減少しなかったと考えられた。
これらのことから,代謝プロファイルテストは,二ホンザルのQOL評価に応用できると考えられた。また,AケージよりもBケージで飼育することでニホンザルのQOLを高められることが示唆された。


H30-B58
代:Lia Betti
協:Todd C. Rae
"Positional, dimorphic and obstetric influences on pelvic shape in primates"

論文
Betti L and Manica A(2018) Human variation in the shape of the birth canal is significant and geographically structured. Proc Roy Soc B B 285:20181807 (DOI:10.1098/rspb.2018.1807).

Wroe S, Parr WCH, Ledogar JA, Bourke J, Evans S, Fiorenza L, Benazzi S, Hublin J-J, Stringer C, Kullmer O, Rae TC, Yokley T(2018) Computer simulations show that Neanderthal facial morphology represents adaptation to cold and high energy demands, but not heavy biting. Proc Roy Soc B285:20180085.
"Positional, dimorphic and obstetric influences on pelvic shape in primates"

Lia Betti , Todd C. Rae

Our proposal was to develop a test of the relative importance of locomotion, habitual posture, and obstetric-related selective pressures in shaping the pelvis and birth canal in humans and other primate species. Adaptation for bipedalism in our lineage led to a shorter and more compact pelvis with a narrower pelvic canal, while increased encephalisation meant a larger neonatal head and the need for a more spacious birth passage, leading to an evolutionary conflict (“obstetrical dilemma”) and a tight fit between the size of the newborn and the size of the birth canal. Recent biomechanical studies, however, contradict the assumption that a wider pelvis would reduce locomotor efficiency, suggesting that other factors might be constraining the size of the human birth canal. The new comparative analysis we have proposed is designed to address the importance of locomotion, posture and obstetric requirements in shaping the pelvis across primate species, using an improved and innovative methodology. We plan to use 3D landmarks and semilandmarks derived from virtual 3D reconstructions based on CT scans of articulated pelves to achieve a high-definition representation of the shape of the pelvis and birth canal in a variety of catarrhine and strepsirrhine species.
To do so, we sought funds from the Kyoto University Cooperative Research Program to begin pilot work and to obtain the necessary additional funding. As travel to the PRI was not possible immediately, we purchased some of the essential reference works necessary to derive the locomotor and postural and other behavioural data with the funds that were provided. In addition, we purchased large hard drives required to store the huge digital files that result from the full-body CT scans required for the project. Using these tools, we began to put together a database using previously obtained scans of cadaveric material of male and female chimpanzees (genus Pan) from the KUPRI Digital Morphology Museum, to compare with Homo sapiens which we were able to obtain from the Visible Human Project. A small preliminary analysis was performed by manually segmenting the scans Avizo ver. 8. The resulting data were analysed (Procrustes fit, PCA of superimposed landmarks projected in Euclidean space) using Morphologika (O’Higgins and Jones, 1999). The plot of the first two PCs (Fig. 2) shows that the sexes are differentiated in a similar way in these species, suggesting that sexual shape dimorphism is captured effectively by the landmark configuration and is present in both species.
These encouraging preliminary results indicate that the methodology is sound and that the study stands a very good chance of producing substantial outcomes. We have used this pilot study as a basis for applying for additional funds, and have already secured a grant totalling £8,950 (?\1,308,101) over two years from the Great Britain Sasakawa Foundation, and we are awaiting news of a Leakey Foundation application for $19,277 (?\2,153,364).



H30-B59
代:倉岡 康治
協:稲瀬 正彦
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響

倉岡 康治 , 稲瀬 正彦

霊長類は他個体に関する視覚情報に興味を示す。また、動物の社会行動においてはテストステロンやオキシトシンが重要な役割を果たすことが知られているため、上記のホルモンがニホンザルの社会的視覚刺激の好みにどう影響するかを行動実験で調べることを目的としている。
 本実験では、飼育ケージ内でのサルの自発的な行動によりデータを得る実験環境を構築している。霊長類研究所飼育室において、飼育ケージにタブレット型コンピューターを取り付け、複数の他個体画像を提示する。サルがある画像に興味を示して触れれば、その画像をより長く提示し、別の画像に興味を示さず触れることが無ければ、その画像は少しの時間の後に消えるようにプログラムする。この課題で各視覚刺激に対するサルの興味を調べ、社会性ホルモンと知られるオキシトシンを投与した後、その興味がどのように変化するかを調べる。
 本年度は、麻酔下で被験体の鼻よりオキシトシンを投与した。1時間後に覚醒を確認してから他個体画像に触れる回数を計測し、オキシトシン投与前のそれと比較した。その結果、オキシトシンを投与することにより、他個体画像に触れる回数が減った。特に他個体画像提示後30分程はほとんど画像に触れることがなかった。これは他個体画像への興味低下というよりも、まだ麻酔の影響が残っていることが推測される。今後は麻酔からより時間をおいて計測を開始するか、麻酔をしない状態でのオキシトシン投与を検討する必要がある。



H30-B60
代:清水 貴美子
協:深田 吉孝
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

学会発表
Kimiko Shimizu Mechanism of circadian regulation of long-term recognition memory(2018. 11. 29-30) International Conference of the Genetics Society of Korea (ICGSK)(Seoul, Korea).
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

清水 貴美子 , 深田 吉孝

我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた (Shimizu et al. Nat Commun 2016)。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにすることを目的とする。
 ニホンザル6頭を用いて、苦い水と普通の水をそれぞれ飲み口の色が異なる2つのボトルにいれ、水の味と飲み口の色との連合学習による記憶効率の時刻依存性について実験をおこなった。各個体あたり、朝/昼/夕の何れかに試験をおこない、学習から24時間後にテストを行う。ボトルをセットしてから最初の一口目が正解(普通の水)だった場合にポイントを加算する方式で、6頭の記憶テスト結果を評価したところ、昼に有意に記憶効率が高いという結果が得られた。さらに、昼の記憶効率の高さにSCOPが関わっているかどうかを確かめるために、6頭のうちの2頭の海馬にSCOP shRNA発現レンチウイルスまたはコントロールレンチウイルスを投与し、昼の時刻の記憶効率を測定した。コントロールレンチウイルスを投与したサルは、何も投与していないサルの昼の時刻と同程度の記憶効率を示したが、SCOP shRNA発現レンチウイルスを投与したサルは、著しく記憶効率が低下していた。このテストは各個体につき5回おこない、一定の傾向が見られたと判断し、次年度は論文投稿準備と補強データのための実験を行う予定である。



H30-B61
代:棒 洋二郎
協:永野 昌志
協:鳥居 佳子
協:黒澤 拓斗
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

棒 洋二郎 , 永野 昌志, 鳥居 佳子, 黒澤 拓斗

 ニホンザルにおいては人工授精(AI)による妊娠率は低く、特に凍結精液を用いたAIによる産子獲得例がない。そのため、精液の凍結保存法改善とともに、メスの卵胞動態を把握したうえでAIプログラムの開発が必要である。
 ニホンザルの精液凍結については、ドライアイス上(-80℃)で0.5mlストローを凍結した場合に運動性が高かったが-80℃では凍結乾燥などにより長期保存が見込めないため、最終的には液体窒素中で保存する必要がある。そのためにドライアイス上で凍結を実施した後、液体窒素内に保存するまでの工程を検討した。0.5mlストローに封入しドライアイス上で凍結した精液を液体窒素液面上4cmまたは9cmに静置し温度を下げたのち、液体窒素中に投入した。37℃温湯中でストローを融解した後の精子運動性は液面上4cmのほうが高かったが、液体窒素に投入することで運動性が顕著に低下していた。
 また、効率的かつ計画的ににAIを実施するため雌ニホンザルの発情同期化を試みた。21日間合成プロジェステロン剤(Altrenogestを0.44mg/kg/日)をリンゴにまぶし雌20頭に経口投与したところ、投与終了後4日目に13頭、5日目に5頭、6日目に2頭と3日間のうちにすべての個体において月経出血が確認された。同じであった。



H30-B62
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand

論文
Sellers WI, Hirasaki E(2018) Quadrupedal locomotor simulation: producing more realistic gaits using dual-objective optimization. Royal Society Open Science 5:171836. 謝辞謝辞あり

学会発表
Sellers WI, Hirasaki E. Analysing Primate Grip Shapes Using Geometric Morphometrics.(2018) European Society for the Study of Human Evolution. (Faro, Portugal.).

Hirasaki E., Sellers WI. Effects of lateral stability on generated walking gait in a chimpanzee musculoskeletal model.(2018) The 72nd Annual Meeting of the Anthropological Society of Nippon(Mishima, Japan).
The comparative biomechanics of the primate hand

William Sellers

This project forms part of our ongoing research into the biomechanics of primates. In the last year we added a new modality to our experimental protocol and measured the pressures acting on the substrate due to the grip the monkey was using. This was combined with our now standard approach of using markerless motion capture to record the kinematics of the fingers during grip. We have improved our methodology in this respect by changing the camera positions and improving the precision of the calibration objects. It is always challenging to incorporate extra information in an experiment and in particular there are difficulties with synchronising the different data streams and spatially aligning the data. We performed a large number of trials on two experimental monkeys due to the requirement for the animal to place his hand cleanly onto the centre of a relatively small pressure sensing mat whilst being filmed with our eight camera setup. Vertical climbing in particular is difficult experimentally because it is almost impossible to get a good view of the experiment and this is something that we are planning to improve upon this coming year. Even so we have reasonable coverage for two tasks: vertical climbing and horizontal walking on 50 mm poles. The challenge is now one of data analysis. The pressure data is in cylindrical coordinates due to being wrapped around the pole and we will need to produce a customised analytical workflow to accommodate this. However we are confident that the combination of techniques will allow us to isolate the contributions due to the individual fingers and other parts of the hand during locomotion which has important implications in terms of the form-function relationship, and will make an important contribution to primate biomechanics. We have presented the initial data at both the European Society for the Study of Human Evolution and the Anthropological Society of Nippon and will be preparing a manuscript for publication this year.


H30-B63
代:長谷 和徳
協:吉田 真
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

学会発表
吉田真,長谷和徳,伯田哲矢,平崎鋭矢 体の質量中心の位置は四足歩行時の四肢運び順の決定因子のひとつである(2018年10月20日) 第72回日本人類学会大会(静岡県三島市).

Makoto Yoshida, Tetsuya Hakuta, Kazunori Hase, Eishi Hirasaki Effect of the position of the center of mass on quadruped gaits(2018年7月12日) 8th World Congress of Biomechanics(Dublin, Ireland).
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

長谷 和徳 , 吉田 真

 本研究では,従来より開発を進めていた関節動態や神経系の運動制御機構などを考慮したマカク類の四足歩行のコンピュータ・シミュレーションモデルに加えて,組み立て式小型ロボットを用いてマカク類の身体力学系を模擬した実機モデルを新たに作成し,実環境におけるロボット四足歩行を実現することで,コンピュータ上のシミュレーション結果を検証し,それらを通して霊長類進化過程における身体運動と力学環境の影響の理解を目指した.
 四足歩行ロボットはサーボモータの性能などを考慮すると,実寸で作製することは困難であったため,相似則に従って相似比0.65となるように身体寸法を定めた.全身で20関節自由度を有し,各関節にサーボモータを組み込み,先行研究で開発したシミュレーションモデルの歩行時の各関節角度に追従するように各サーボモータを制御した.また,制御回路中の消費電力を測定し,これより歩行のエネルギー効率を求められるようにした.実験では身体の重心位置を前方/後方に変化させ,それぞれについて歩容を前方交叉型と後方交叉型に変更し,歩行のエネルギー効率を調べた.サーボモータの出力限界の問題などをさらに検討し,実機モデル・コンピュータモデル・実際のマカクとの運動の比較検討を今後進める.



H30-B64
代:三浦 智行
協:阪脇 廣美
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

三浦 智行 , 阪脇 廣美

我々は、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究してきた。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得た。平成30年度は、これまでのワクチンを更に改良して細胞性免疫誘導効果が高くなるように工夫したワクチンを作製すると共に、ワクチン評価実験に適した遺伝的背景をもつアカゲザル3頭を選定し、ワクチン接種実験を開始した。平成31/令和元年度に攻撃接種実験を行い感染防御効果を調べる予定である。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株の感染実験を継続解析し、ワクチン評価モデルとしての基礎データを蓄積した。


H30-B65
代:荻原 直道
協:大石 元治
協:PINA Marta
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

論文
Blickhan, R., Andrada, E., Hirasaki, E., Ogihara, N.(2018) Global dynamics of bipedal macaques during grounded running and running Journal of Experimental Biology 221:jeb178897.

Ogihara, N., Hirasaki, E., Andrada, E., Blickhan, R(2018) Bipedal gait versatility in the Japanese macaque (Macaca fuscata) Journal of Human Evolution 125:2-14.

学会発表
荻原直道 ニホンザルの歩行分析から探るヒトの身体構造と直立二足歩行の特異性(Dec 8, 2018) 計測自動制御学会 システム・情報部門 自律分散システム部会 第63回 自律分散システム部会研究会(愛知県名古屋市).

荻原直道 ヒトの形態進化と二足歩行機能(Dec 2, 2018) 第6回 埼玉県立大学 理学療法研修会(埼玉県越谷市).

荻原直道 X線CT装置を活用した人類進化研究(July 20,2018) 精密工学会・現物融合型エンジニアリング専門委員会(東京都文京区).

関連サイト
慶應義塾大学理工学部機械工学科 荻原研究室 www.ogihara.mech.keio.ac.jp/
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

荻原 直道 , 大石 元治, PINA Marta

 本研究では、ヒト的な直立二足歩行の獲得を妨げる四足性霊長類の運動学的・生体力学的制約要因がどこにあるのかを明らかにするために、ニホンザル四足歩行の運動学的・生体力学的解析を行い、二足歩行と対比することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を明らかにすることを目的としている。
 本年は、ニホンザルに鉛が入ったチョッキを着用させることで身体重心位置を頭側にシフトさせたときの、ニホンザル四足歩行の接地パターンを、トレッドミルを用いて比較・分析した。その結果、分析したすべての個体・速度条件において観察されるわけではないが、diagonal sequenceからlateral sequenceに接地パターンを変化させる傾向が高まることが観察された。霊長類の四足歩行は、通常diagonal sequenceを採用するのに対して、多くの他のほ乳類はlateral sequenceを採用する。この違いを説明する仮説として、重心位置の違いが提案されているが、本研究により、身体重心位置が接地パターンに変化を及ぼしうることが示唆された。
 また、ニホンザルの屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって求める研究を継続した。



H30-B66
代:Kanthi Arum Widayati
協:Yohey Terada
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

学会発表
Widayati KA, Yan X, Suzuki-Hashido N, Purba LHPH, Bajeber F, Suryobroto B, Terai Y, Imai H Sensitivity to Bitter Molecule Phenylthiocarbamide (PTC) in Four Species of Sulawesi Macaques( September 22-24, 2018) 10th International Symposium on Primatology and Wildlife Science.(Science Seminar House, North Campus of Yoshida Campus, Kyoto University).
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

Kanthi Arum Widayati , Yohey Terada

Sulawesi Macaques are unique because they distributed allopatrically with restricted parapatry in the Sulawesi island. While they showed considerable morphological variation among themselves despite that they inhabit relatively small total area, there is no data about their phenotypes that involved in perceiving? environmental signals, such as bitter perception. The purpose of this research aims to characterize one of the best-studied bitter taste receptors TAS2R38 in four species of Sulawesi macaques, Macaca nigra, M. tonkeana, M. hecki and M. nigrescense. TAS2R38 mediates the perception of the bitterness of phenylthiocarbamide (PTC). So far we found there are polymorphisms in behavior response between four species, where all individuals of Macaca hecki are sensitive to PTC while a few individuals of M. tonkeana, M. nigra and M. nigrescense are not sensitive to PTC. The genetic bases of PTC non-sensitive phenotype are different in each species. By direct sequence and functional assay, we confirmed that pseudogenization were caused in PTC non-sensitive in. M. nigra and M. nigrescense, while nonsynonymous amino acid substitutions were responsible for PTC-non-sensitivity in M. tonkeana. The mechanism of PTC-non-sensitivity in M. tonkeana was similar with human. In human, PTC-non-sensitive phenotype was inversely correlated with sensitivity to bitterness of Antidesma bunius fruit. Thus, we expect that PTC-non-sensitive TAS2R38s in M. tonkeana are responsible to detect another bitter ligand molecules.More over, we found that one the PTC-non-sensitive haplotype in M. tonkeana is shared with M. nemestrina. This information will help new findings of receptor binding sites and speciation of Sulawesi macaques.


H30-B67
代:Bambang Suryobroto
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

Bambang Suryobroto

Sulawesi macaques consist of seven species of genus Macaca that allopatrically and endemically in Sulawesi Island, Central Indonesia. Because Sulawesi Island lays beyond the easternmost boundary of Oriental zoogeographical realm, their ancestor(s) should cross the Wallace Line waterways to reach the Island. The mode of speciation between the seven species is inferred to be speciation with gene flow. In the present research we determined the exonic sequences of two individuals each of all the seven species; that is M. nigra, M. nigrescens, M. hecki, M. tonkeana, M. maurus, M. ochreata and M. brunnescens. Taking M. nemestrina as outgroup and using the neighbor-joining method of clustering, the data from all synonymous sites of the exome shows that they are monophyletic and the tree topology reflects the geographical distribution of the seven species. The northern species consists of M. hecki, M. nigrescens and M. nigra; the southern species consists of M. maurus, M. tonkeana, M. ochreata and M. brunnescens. The calculated length of differentiation is very small so we think that soon after the ancestor migrated to Sulawesi Island they diverged into the seven species. From result of FY 2017, we found that M. hecki and M. tonkeana had been split at about 50000 generations ago; by assuming generation time of 6.5 year, it coincided with the peak of interglacial period at 325000 years ago (ya). By detecting single nucleotide polymorphism (SNP) within the exons, there is excess of rare variants that indicates an ancient bottleneck event from 387 kya to 345 kya. The event occurred when earth was entering glacial period within which sea surface temperature declined by about 2 to 4 degC and sea levels went down to about -40 to -100 m from present levels.


H30-B68
代:大石 元治
協:荻原 直道
大型類人猿の前腕における回内-回外運動機構の機能形態学的解析
大型類人猿の前腕における回内-回外運動機構の機能形態学的解析

大石 元治 , 荻原 直道

樹上性ロコモーションや、手の器用さと関連が深い運動の一つに、前腕の回内-回外運動がある。この運動は円回内筋などの前肢筋により橈骨が尺骨を軸にして“回転”する。本研究では未固定の前肢の標本を用いて、前腕骨格の回内-回外運動を再現しながらCT撮影することにより、回内時と回外時の橈骨と尺骨の相対的な位置関係を観察した。本年度は、チンパンジー1個体の前腕のCT撮影を行うことができた。最大回内時、最大回外時のCTデータから三次元再構築を行った(図)。得られた三次元骨格モデル上にランドマークを設定して、これらの座標を用いて、前腕の回内-回外運動の可動域を算出した。結果、チンパンジーの回内-回外運動の可動域は約160度を示し、Sarmiento (2002)の過去の報告とほぼ一致していた。今後は種数、標本数を増やすとともに、大型類人猿間の定量的や、回外域・回内域の比較を行なっていきたい。


H30-B69
代:後藤 遼佑
三次元運動解析を見据えたシロテテナガザルの身体モデルの作成
三次元運動解析を見据えたシロテテナガザルの身体モデルの作成

後藤 遼佑

 本年度は三個体のシロテテナガザル標本の全身のCT撮像のみを行なった。

 当初の計画は、シロテテナガザルの三次元的に解析することを目的として、シロテテナガザルの各種ロコモーションにおける身体セグメントの位置データに対してCTデータを重ね合わせる計画であった。従来の運動解析手法では、身体ランドマークの位置を三次元的に計測した場合であっても、解析の段階で矢状面、冠状面、水平面に投影され、最終的には二次元データへと情報量が削減されていたが、この分析により三次元的な運動解析を実現する計画であった。

 しかしながら、現時点においては、運動データに対するCTデータの重ね合わせは完了しなかった。三個体のシロテテナガザルのCT撮像は完了したため、今後も継続して解析を行い計画を遂行する。



H30-B70
代:柏木 健司
ニホンザルが豪雪山岳地域を生き抜く上での温泉活用と戦略

論文
Kashiwagi, K., Tsuji, Y., Yamamura, T., Takai, M. and Shimizu, M. (2018) Presence of feces in the abandoned Nokado Mine, Tochigi Prefecture of Central Japan, Provides further evidence of cave use by Japanese macaques Primates Research (霊長類研究) 34(1):79−85. 謝辞あり

学会発表
柏木健司 「サルだって寒いのは嫌 冬場の廃坑避難を確認」研究成果掲載(9月2日朝刊)(2018年9月2日) 下野新聞 朝刊(群馬県).

柏木健司 豪雪地域のニホンザルは洞窟と温泉を使って冬を越す(2018年10月28日) 平成30年度 自然史学会連合 体験教室 日本霊長類学会ブース(富山市科学博物館).
ニホンザルが豪雪山岳地域を生き抜く上での温泉活用と戦略

柏木 健司

 黒部峡谷支流の黒薙川沿いには、河床から温泉が所々で湧出し、その周囲の河床礫は温泉沈殿物で被覆されている。岩盤に掘られた人工トンネルは、湯を送る引湯管トンネルとして活用されている。2016年11月8日、河床礫を舐めるニホンザルがビデオに記録され、温泉沈殿物からミネラルを摂取していたと判断した。2017年4月4日、引湯管トンネル内でニホンザルの老齢個体の死体を採集した。前年冬季にトンネルに入り死亡した個体と判断した。上記事例を基に研究に着手したものの、十分な成果は得られず、研究手法も合わせ今後の課題となった。
・黒薙川河床からの温泉の湧出が十分でなく、2018年度の観察記録は皆無であった。
・引湯管トンネル内に温湿度ロガーを設置し、気象観測を実施中である。自動撮影カメラは、湿気と湯気のため、設置していない。
・2017年12月26日、黒薙川対岸の人工トンネル付近の岩盤に、体を摺り寄せるニホンザルが記録された。温泉により温まる岩盤で、暖を取っていたと判断した。この地点で、2018年に自動撮影カメラの観察を試みたものの、出水でカメラが水没するなど、データ取得は難しい。なお、昨12月より設置中である。
 4月以降にデータ回収を予定している。



H30-B71
代:鯉田 孝和
色盲サルの皮質応答計測
色盲サルの皮質応答計測

鯉田 孝和

霊長類研究所で維持飼育されている2色覚サル(色盲サルとよぶ)を利用し、ニューロン活動を計測することでS錐体(青黄)色選択性を持つ細胞の比率が3色型と異なるかを確かめる実験を行う。実験は麻酔下で手術中に行う。
 本年度は実験に先立って、霊長研の手術室内で神経活動を計測するための装置の整備を行った。手術室に備え付けられていたアースは性能に難があったが、追加で設置するのは困難であった。そこでアース無しでの計測を行うためにAC100V電源を必要としない直流バッテリー駆動型のアンプシステム(INTAN)を導入した。これにより電源由来のハムノイズは生じなくなる。さらに電極をファラデーケージで囲い、近傍から100V電源を十分に離すことで、スパイク応答を記録するのに十分な20?V程度の背景ノイズレベルが達成できた。視覚刺激提示と計測システムはノートパソコン2台で構成されるためコンパクトであり、運搬も容易である。繰り返し実験を行うにあたって、実験前後での片付けとセットアップが容易であることも確かめた。次年度は引き続いて、動物を対象とした記録実験を行う予定である。
 また本実験に先立って、色盲サルおよび色盲遺伝子のキャリア個体を用いた色覚行動実験の論文執筆を進めた。論文はi-Perceptionにacceptされた。



H30-B72
代:保坂 善真
協:割田 克彦
サル雌性生殖器由来幹細胞の分離とその機能解析の試み
サル雌性生殖器由来幹細胞の分離とその機能解析の試み

保坂 善真 , 割田 克彦

 実験3年度目は、実験初年度と同様、月経血由来細胞から、細胞性状の解析を解析し、組織細胞への分化を試みる計画であった。月経血は4日間にわたる採取で、のべ6頭、11回の採取を行った。
 月経血は採取後速やかに、5%抗生物質/抗菌剤(以下抗生剤)入りのメディウム(MEM alpha)中で2回、洗浄と遠心分離を繰り返し、さらに3%抗生剤入りの培養メディウム中で4℃一晩静置してから、プラスチックプレート上に播種し、細胞はその多くがプレート面に生着した。細胞の増殖を試みるために、FBS濃度を5%、抗生剤を3%に維持して増殖を試みたが、ほとんど増殖せず、すぐに死滅するか、大きく多角形に広がってプレート面に張り付き、増殖性が失われていた。一方、一般的な細胞の培養条件である抗生剤の濃度を1%以下にすると、培地に細菌やカビが発生し、実験を進めることが困難であった。
 材料の月経血は、陰部にスポイトを挿入して採取するため、材料への細菌やカビなどの混入は不可避である。比較的高濃度の抗生剤の入りメディウムによる月経血の洗浄によって、実験初年度よりも培地のコンタミネーションの割合は減少した。その一方で、上述したような細胞への影響(培養早期での死滅、形態の変化)が見られるようになり、これらの一部は、抗生剤による影響と考えられた。月経血より細胞を採取し、細胞を安定的に増殖させて分化に至らせることは困難であった。



H30-B73
代:澤田 玲子
成人を対象とした単語認知に関する脳波研究
成人を対象とした単語認知に関する脳波研究

澤田 玲子

先行研究から、表記されるフォントによって、文字から得られる印象が変わったり、表記方法によって単語の記憶成績に影響があったりすることが知られている。また、ヒトの手によって生成された手書き文字とコンピュータ等によって生成された印字では、文字の処理機構に違いがあることが報告されている。しかし、手書き文字・印字という表記の違いによって生み出される単語に対する主観・意味認識の違い、またその心理メカニズムはわかっていない。これを明らかにするために、本研究では、表記の違いが単語に対する主観にどのような影響を与えるか、また主観の違いを生み出す神経基盤はどのようなものかを明らかにすることを目指している。本年度は、手書き文字・印字で表記された単語を呈示し、単語によって喚起される感情や単語に対して感じる自己関連性について、その程度を9件法で評価してもらった。その結果、印字に比べて、手書き文字で表記されたときに強く感情が喚起されることが示された。また、ポジティブ感情を喚起する単語では、印字に比べて手書き文字で表記されたとき、高く自己関連性を感じることがわかった。このように手書き文字・印字といった表記の違いが、単語に対する主観に影響を及ぼすことが確認された。今後、このような差異をもたらす神経基盤を明らかにすることを目指す。


H30-B74
代:前多 敬一郎
協:束村 博子
協:上野山 賀久
協:真方 文絵
協:迫野 貴大
野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発
野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発

前多 敬一郎 , 束村 博子, 上野山 賀久, 真方 文絵, 迫野 貴大

雄ニホンザルにニューロキニンB受容体(NK3R)拮抗剤を投与し、血中薬剤濃度の変化を検討するとともに、血中テストステロン濃度および精巣の組織学的変化を指標としてその繁殖抑制効果を検証した。
繁殖期の雄ニホンザル2個体(実験個体)にNK3R拮抗剤SB223412の粉末を充填したシリコンチューブを、1個体(対照個体)に同形状の空のチューブを皮下インプラントした。インプラントは71日間維持し、その後摘出した。
インプラント前に1回、インプラント後から2週間は2日に1回、その後1週間に1回、チューブ摘出時に1回、計16回の採血(1 mL/回)を行った。血漿を分離し、血漿中薬剤濃度をLC/MS、血漿中テストステロン濃度をEIAにて解析した。その結果、血漿中薬剤濃度は実験個体においてチューブ移植後2日目から21目にかけて増加し、血漿中テストステロン濃度は56日目以降において実験個体が対照個体より低い傾向が見られた。
また、インプラント前に1回、その後2週間に1回、チューブ摘出時に1回、計6回の陰嚢の体積測定および精巣組織生検(2 mm角/回)を行った。精巣組織はブアン固定後に薄切しHE染色を行った後、光学顕微鏡で観察した。その結果、陰嚢体積、精巣組織像および各精細管の精子形成ステージに実験個体と対照個体との顕著な差異は見られなかった。



H30-B75
代:田伏 良幸
ヤクシマザルにおける個体間の社会関係が抱擁行動の方向性に与える影響
ヤクシマザルにおける個体間の社会関係が抱擁行動の方向性に与える影響

田伏 良幸

 今回屋久島でヤクシマザルのUmi-A群を対象に社会関係と抱擁行動の方向性について調査した結果、ヤクシマザルは2個体間で行われる抱擁行動は7パターン見つかり、先行研究よりも多様なパターンで抱擁行動をしていることが明らかとなった。年齢区分を分けてみると、未成熟個体(コドモ・アカンボウ)の方が成熟個体(オトナ・ワカモノ)よりも正面同士で行われることが多くみられた。未成熟個体の抱擁行動の相手は母親やきょうだいなどの同一家系の個体と同年齢個体が全体の73%を占めた。未成熟個体が正面同士以外のパターンになる場合は、未成熟個体ではなく、成熟個体の側が主体的になって正面以外の向きから抱きついていた。また、成熟個体は、未成熟個体よりも抱擁行動の方向のパターンが多様になることが明らかとなった。これらのことから、抱擁行動の向きは成長に伴って多様になっていく可能性が示唆される。オトナになると、社会関係に応じて抱擁行動の向きのパターンを変えるようになるのかもしれない。この研究結果は、『ヤクシマザルの抱擁行動−成熟個体と未成熟個体の比較−』というタイトルで、修士論文としてまとめた。


H30-B76
代:松原 幹
屋久島の野生ニホンザルによる頬袋由来種子の二次散布と糞虫相調査
屋久島の野生ニホンザルによる頬袋由来種子の二次散布と糞虫相調査

松原 幹

3月にヤクシマザルが採食し、頬袋散布したバリバリノキの種子を拾い集め、シカ除けカゴやネズミ除けカゴ、虫除けカゴ内に安置し、種子の消失率と種子食のために訪問する動物の調査をおこなった。4月中旬現在、カメラトラップ5台が稼働中で、月末に撮影データを回収し、1ヶ月後の種子残存率や発芽率を確認する。実験区設置から半年後の2019年度9月に実験区内の種子残存率と発芽率を確認する予定である。糞虫相調査として、ヤクシマザルの糞を使った昆虫トラップを5か所に1週間設置し、ヤクシマルリセンチコガネ2匹を採集した。3月中旬から下旬にかけての春の糞虫出現状況についての報告は屋久島西部林道では本研究が初めてで、糞虫の活動開始時期は3月中旬以降と推測された。


H30-B77
代:落合 知美
協:川出 比香里
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

学会発表
川出比香里,木村嘉孝,宮下実,落合知美 群れ飼育のトクモンキー(Macaca sinica)における採食エンリッチメントの効果:糞便と体重から(2018.11.17-18.) 第21回SAGAシンポジウム(熊本).

川出比香里,木村嘉孝,宮下実,落合知美 単独飼育のシシオザル(Macaca silenus)における採食エンリッチメントの効果:被毛評価と体重から(2018.11.17-18.) 第21回SAGAシンポジウム(熊本).
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

落合 知美 , 川出 比香里

 動物は、その生息地で得られる食べ物の種類や量、分布などに合わせ、形態や生態を適応させ、進化してきた。そのため動物の種ごとに、餌となる食べ物や採食回数、採食方法などは異なる。しかし動物園での給餌は1日1〜数回であり、餌の種類は人間社会の中で手に入る食べ物の中から選ばれている。特に霊長類においては、「サル=バナナ」のイメージが強いためか、バナナなどの果実を中心とした餌が与えられることが多い。そこで本研究では、動物園で飼育するシシオザル(Macaca silenus)とトクモンキー(Macaca sinica)を対象に、餌の改善(糖質を抑え、繊維質を高めるなど)を中心とした採食エンリッチメントを実施し、その評価を試みた。
 採食エンリッチメントを実施する前は、シシオザルでは日常的な下痢、痩身、毛並みの悪さが、トクモンキーでは給餌時の個体間の争いと各個体の体重差が観察されていた。そこで給餌回数を増やすとともに、餌の内容の検討をおこなった。餌は、果物を段階的に野菜に変えるなどして、細かい試行錯誤を繰り返し、最終的には果物を野菜で置き換え、野菜も根菜類から葉物野菜を増やし、ペレットを変更(サル用ペレットからリーフイーター用ペレットに変更)した。これらの変更で改善が感じられたため、体重の変動や観察記録、写真などの記録から、定量的な評価を試みた。
 その結果、極端に体重差が見られたオトナオス2個体の体重の偏りが少なくなった。また、嗜好性の高い餌を減らすことで餌をめぐる闘争が減少し、採食時間が延長した。糞便の状態が良くなり、毛並みも良くなった。これらの結果について、学会発表をおこない、たくさんのアドバイスを受けることができた。今後、より科学的な分析をおこなうとともに、野生での行動や生態についてより詳しい情報を集め、論文にまとめていく予定である。



H30-B78
代:森光 由樹
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

学会発表
森光 由樹, 山端 直人, 鈴木 克哉 兵庫県北部に生息するニホンザル絶滅危惧群の長距離移動とその後 〜ニホンザル広域管理の必要性について〜(2018年07月15日) 日本霊長類学会(武蔵大学・東京都練馬区豊玉上).
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

森光 由樹

兵庫県内のニホンザルの地域個体群は、美方、城崎、大河内・生野、船越山、篠山の5つに分けられている。最も絶滅が危惧されている美方地域個体群として美方A群とB群の2群が生息していた。しかし美方A群が2017年夏、鳥取県八頭町へ長距離移動した。(直線距離で最大37km移動した)。その後、この群れは捕獲されたため絶滅した(森光ほか2018)。現在、美方地域個体群としては、美方B群のみが生息している。2018年のカウント調査では、12頭の生息が認められた。そのうち成獣メスは、3頭であった。成獣メスの頭数を指標にレスリー行列モデルによるモンテカルロシミュレーション(坂田・鈴木2003)を用いて絶滅確率を計算したところ、20年後の美方B群の絶滅確率は34%まで上昇した。近畿地方北部から中国地方北部(兵庫県北部から、鳥取、島根県東部まで)は、ニホンザルの分布情報はなく、保全すべき地域個体群の抽出が重要である。成獣メス3頭の群れの遺伝的多様性のモニタリングを引き続き行いながら、広域管理にかんする情報の整理と管理手法の策定が緊急の課題となっている。


H30-B79
代:佐々木 えりか
協:井上 貴史
協:石淵 智子
協:高橋 司
協:黒滝 陽子
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立

佐々木 えりか , 井上 貴史, 石淵 智子, 高橋 司, 黒滝 陽子

本研究では対象個体1頭で実施した。9回の採血を行い(表1)血漿プロゲステロン濃度と、一部エストラジオール濃度の測定を実施した。7月にプロゲステロン値の動きがないために妊娠を疑い、妊娠診断エコーを実施したところ、7月30日に妊娠が確定した(図1)。子宮を還流して胚を採取することができなくなったため、採卵手術は一旦中止して経過観察をおこなった。12月4日に流産を確認して、12月10日より採血を開始した。数少ない採血の中で、排卵シグナルを検出したかったため、血漿中のプロゲステロンとエストラジオールを測定してタマリンの性周期を管理した。エストラジオールの値が上昇したため妊娠を疑い腹部エコーを行ったところ、再度12月27日に妊娠が確認された。1月8日に腹部エコーを行ったところ流産が確認され、採血を再開した。経時的な採血の結果から、過去にタマリンの黄体期では最高40μg/mlの血漿プロゲステロン濃度が確認されていたが、対象個体では最高で30.1 μg/mlのプロゲステロン濃度しか確認できなかった。したがって、対象個体は老齢のため黄体期が維持されずに流産してしまう可能性が示唆された。黄体期が不明な状態の排卵予測は難しかったが、排卵を予測して1月24日に対象個体の採卵を実施した。その結果タマリン胚は得られなかったが、子宮灌流にて得られたタマリンの子宮内膜を初代培養して(図3)その後凍結保存した。その後、対象個体の体重がピーク時に比べて(図4)減少してしまったため(404g)、採血、採卵を中止することとし、本研究期間が終了した。本研究を通して、タマリンの受精卵もコモンマーモセットと同様に非侵襲的に得る事が可能であることが示され、今後、稀少種である新世界ザルの遺伝資源の保全に有用であることが示された。


H30-B80
代:城戸 瑞穂
協:曹 愛琳
協:西山 めぐみ
口腔における感覚受容機構の解明
口腔における感覚受容機構の解明

城戸 瑞穂 , 曹 愛琳, 西山 めぐみ

口腔は鋭敏な器官である。適切な口腔感覚は、哺乳類において哺乳・摂食・情報交換など多様な行動の基盤となっている。しかし、その機構についての理解はまだ限られたものである。。私たちは、(狭義の)味覚とされる甘味・塩味・酸味・苦味・うまみ以外の口腔内の感覚、とくに、温度感覚や唐辛子や胡椒などのスパイスなどのへ感覚、触圧感覚などの機構の解明を目指し、こうした広義の味覚とされる感覚の分子基盤として、TRP チャネル(transient receptor potential channel)を想定し研究を進めてきた。そして、口腔粘膜上皮に、温度および機械受容への関与が報告されているTRPチャネルが機能的に発現していることをラット、マウスおよびヒトを対象に明らかにしている。そして、マウス、ラット、ヒトの間で、発現しているTRPチャネルや、発現の量に多様性があることが分かった。そこで、ヒトにより近いサルにおける発現および機能的側面を調べ、これまでに得た結果と比較することで、口腔感覚の理解を深めることを目的とし、 温度感受性及び機械刺激感受性チャネルのタンパクレベルの発現解析を行った。
深麻酔下で生理食塩水により脱血し、4%パラホルム含有リン酸緩衝液にて灌流固定を施した動物から口腔粘膜を採取し4%パラホルム含有リン酸緩衝液にて浸漬固定した。その後、固定液をショ糖リン酸緩衝液にて置き換えた後、凍結切片を作製し、免疫組織学的染色を施した。特異的抗体の条件を検討したところ、一部特異的と思われる染色様式が認められたが、非特異反応との十分な分別には到らなかった。今後切片の処理法を検討することで良い結果に繋げたいと考えている。



H30-B81
代:牟田 佳那子
協:太田 裕貴
協:岡野 ジェイムス洋尚
協:外丸 祐介
協:信清 麻子
コモンマーモセットにおける表情解析手法の確立
コモンマーモセットにおける表情解析手法の確立

牟田 佳那子 , 太田 裕貴, 岡野 ジェイムス洋尚, 外丸 祐介, 信清 麻子

申請者らはコモンマーモセットの疼痛に関連した表情の解析を実施しており、昨年度は表情筋の解剖学的調査と実際の表情変化の解析を行った。表情筋の解剖学的調査に関して、当初死亡個体を解剖し表情筋の走行を確認する予定であったが、極めて薄く複雑に走行している表情筋の解剖には熟練した技術を要し、少ない個体数での詳細な解析は困難と判断した。このため予定を変更し、磁気共鳴画像装置(MRI)を用いて筋繊維の拡散テンソル画像(DTI)を描出することで筋走行の描出を試みた。DTIは水分子の拡散度と拡散方向を計測し、神経細胞の走行の描出に用いられる技術である。申請者らは死亡個体の頭部を撮像し表情筋の走行画像を得た(図1)。実際の表情変化解析に関して、幾何学的形態測定学の手法を用いて表情の変化を調査した。開腹手術を受ける個体を対象に、手術直前および術後1日目の顔面の正面画像に48個のランドマークを設置(図2)、術前と術後でこれらの位置の違いを統計学的に検討した。その結果、耳元と口元に有意な変化を認めた(図3)。これらはラットや猫といった他の動物種と類似した結果であった。いずれの解析においても昨年度中には十分な個体数が確保できなかったため、継続して解析を進める予定である。


H30-B82
代:Leonardo C?sar Oliveira Melo
協:Maria Ad?lia Borstelmann de Oliveira
協:Anisio Francisco Soares
Absorption and bioavailability of gum’s compounds used by marmoset in field and laboratory conditions
Absorption and bioavailability of gum’s compounds used by marmoset in field and laboratory conditions

Leonardo Cesar Oliveira Melo , Maria Ad?lia Borstelmann de Oliveira, Anisio Francisco Soares

The marmosets (Callithrix spp.) are an obligate gum eater (exudativore). Their morphological, physiological, behavioral and genetic traits are extremely adapted to gum foraging and feeding. However, marmosets in captive colonies have not been fed with gum resources enough (i.e., fruit-based diet, like other primates). Recent e?ort of animal welfare and environmental enrichment in captive colonies including Japan Monkey Centre (JMC) has changed the diet menu to “natural” repertoire using
Arabic gum (Acacia senegal, Fabaceae), which is easily available in the food supply. Arabic gum led to positive improvements of the marmoset behavior and health. However, Arabic gum is native to Sub-Saharan Africa, where is not a natural habitat of marmosets, that is, south America. In this study, we aim to replicate the more natural diet condition in captive marmosets. Adult captive common marmosets (C. jacchus) in JMC have everyday eaten 3 g dried Arabic gum. We selected two Brazilian gum species “barauna” (Schinopsis brasiliensis, Anacardiaceae) “angico” (Anadenanthera peregrina, Fabaceae) and fed 2 JMC common marmosets with these gum species. We recorded their feeding behavior using video camera and collected feces for microbiome analysis. We first supplied barauna for 7 days, put interval (basically Arabic gum) for 14 days, then supplied angico for 7 days, and fnally reverted Arabic gum feeding. One marmoset eventually accepted both barauna and angico, but another did not all the gum. Food choice tests also supported gum species and individual di?erence of diet preference. In conjunction with further analysis of behavior recoding, we are going to analyze microbiome ?uctuation related to the supplied gum change because gum is a major recourse of fber digested by gut bacteria. These results will be an important reference to improve captive marmoset welfare.


H30-B83
代:宮沢 孝幸
協:金村 優香
協:橋本 暁
協:小出 りえ
協:北尾 晃一
サルフォーミーウイルスから見るニホンザルの種分化分析
サルフォーミーウイルスから見るニホンザルの種分化分析

宮沢 孝幸 , 金村 優香, 橋本 暁, 小出 りえ, 北尾 晃一

本研究課題「サルフォーミーウイルスから見るニホンザルの種分化分析」では、日本全国に棲息するニホンザルから非病原性レトロウイルスであるSFV(サルフォーミーウイルス)を網羅的に分離し、ウイルス遺伝子の多様性を調べる目的で行った。各地に棲息するニホンザル等の口腔内スワブよりSFVの遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応により増幅し、遺伝子解析を行った。その結果、ニホンザル由来のSFVはアカゲザル由来のSFVと特に近縁であるが、独自の配列をもっていることが新たに分かった。
 また、本研究課題の目的であるウイルス遺伝子配列の多様性を調査する一環として、SFVのlong terminal repeat(LTR)と呼ばれる繰り返し配列についての調査も行った。SFVのLTRは同ウイルスの他の遺伝子に比べ保存性が低い事が知られている。ニホンザル由来のSFVのLTRの独自性を調べるため、SFVに持続感染している細胞のRNAを抽出し、次世代シーケンシング解析を行った。その結果、ニホンザル由来のSFVに感染している細胞では特有のマイクロRNAが発現していることが解析により判明した。以上のことから、本研究課題によりニホンザル由来のSFVがもつ多様性についての理解が一層深まった。



H30-B84
代:緑川 沙織
協:時田 幸之輔
肉眼解剖学に基づく霊長類腹鋸筋の機能とその系統発達

学会発表
緑川 沙織,時田 幸之輔,小島 龍平,平崎 鋭矢 リスザル肩甲挙筋・腹鋸筋・菱形筋の形態とその支配神経(2018年7月13~15日) 第34回日本霊長類学会大会(武蔵大学江古田キャンパス).

緑川 沙織 霊長類および哺乳類における頚胸部体幹筋の形態とその支配神経(2018年10月19~22日) 第72回日本人類学会大会(静岡県三島市民文化会館 国立遺伝学研究所).
肉眼解剖学に基づく霊長類腹鋸筋の機能とその系統発達

緑川 沙織 , 時田 幸之輔

ヒト肩帯筋の形態的特徴を明らかにすることを目的とし、チンパンジーとリスザルの腹鋸筋(SV)、肩甲挙筋(LS)、菱形筋(Rh)の筋形態と支配神経を調査した。これら3筋は、肩甲骨内側縁に停止する筋である。SVはチンパンジー、リスザルとも上位10肋骨程より起始していた。SV支配神経はチンパンジーでC5-7, リスザルでC6,7であった。LSはチンパンジーでC1-4横突起、リスザルでC1-5,6横突起より起始していた。支配神経は、チンパンジーでC3,4, リスザルでC4,5であった。Rhは、チンパンジー・リスザルともC5-Th4棘突起より起始するほか、リスザルでは後頭骨より起始する筋束がみられた。支配神経はC4,5が分布し、リスザル後頭骨起始部にはC3が分布していた。チンパンジーSV・LS・Rhは, 筋形態・支配神経ともヒトと類似しており、類人猿に共通した形態であることが示唆される。一方リスザルは、各筋の支配神経分節がヒト・チンパンジーと異なるほか、Rh後頭骨起始部を持つ点が異なる。Rh後頭骨起始部を持つ種は、カニクイザル・マーモセット・ブタ胎仔等があり、四足歩行を移動様式とする種に共通した形態である可能性が示唆された。


H30-B85
代:加賀谷 美幸
霊長類の運動適応と胸郭-前肢帯配置
霊長類の運動適応と胸郭-前肢帯配置

加賀谷 美幸

肩甲骨は胸骨に関節する鎖骨とのみ関節し、胸郭の表面に配されており、その配置は、前肢の可動性に影響しうる。本年度は、所内のテナガザル生体および大型類人猿ネットワーク(GAIN)により利用機会を得たチンパンジー冷凍標本を背臥位にてCT撮影し、過年度までに撮影した他種と前肢帯骨格の位置を比較した。ニホンザルやヒヒの胸骨頸切痕は頸椎と胸椎の境界レベル付近にあるが、テナガザルとクモザルではより尾側にあり、およそ第3-4胸椎レベルであった。チンパンジーやオマキザルは中間的であった。胸骨の位置がより尾側にあると頭部と胸部の間で鎖骨や肩甲上腕関節がとりうる範囲を大きくでき、前肢の可動域を拡大すると考えられる。チンパンジー標本を三次元座標計測したところ、前方への前肢最大挙上位では肩甲棘が体の長軸に平行になるほどに肩峰が内側かつ背側に移動し、鎖骨は胸鎖関節からほぼまっすぐ背側に向かって肩峰に達し、肩甲骨関節窩が頭側に向けられていた。これに対応する肢位での肩甲棘角度は、テナガザル冷凍標本ではチンパンジーと同様に170度程度、ニホンザルやヒヒ、オマキザル、クモザルではおよそ140〜160度の範囲であった。


H30-B86
代:矢野 航
霊長類−口腔内細菌叢の共進化の自然史
霊長類−口腔内細菌叢の共進化の自然史

矢野 航

国内外霊長類の唾液を採取しDNA抽出後、次世代シーケンサーによる口腔内細菌叢検索を行い宿主生態との関連を探索した。以下の結果を得て学会発表等を行った。

1. 日本モンキーセンター飼育のレッサースローロリスの歯周病関連口腔細菌叢の検索
JMCで飼育されているレッサースローロリスのべ6頭から、口腔内外の湿性試料を採取し霊長研所蔵の次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina)を用いて細菌叢を比較した。レッサーロリスの口腔細菌叢から歯周病に関連すると思われる新規株を検出した(図1)。本研究結果は現在投稿準備中である。

2. ウガンダ共和国カリンズ森林で同所的に生息する霊長類の口腔細菌比較
ウガンダ共和国カリンズ森林保護区に同所的に生息する5種の霊長類の食物残渣付着唾液からDNA抽出し次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina)を用いて細菌叢を比較した。細菌叢全体ではチンパンジーが多種と大きく異なるパターンを示し、残りの4種も類縁だがそれぞれ異なるパターンを示した(図2)。本研究の結果は2018年度に日本霊長類学会(東京)、歯科基礎医学会(博多)で発表した。



H30-B87
代:金子 新
協:塩田 達雄
協:中山 英美
協:三浦 智行
協:入口 翔一
アカゲザルiPS細胞の免疫細胞への分化
アカゲザルiPS細胞の免疫細胞への分化

金子 新 , 塩田 達雄, 中山 英美, 三浦 智行, 入口 翔一

 前年度までに報告していたアカゲザル由来iPS細胞ならびに同iPS細胞の血液分化能を検証するために、T細胞分化能に加えてマクロファージ分化能をin vitroで検討した。iPS細胞から誘導されたマクロファージはFACS解析でCD11b(+)・CD14(+)でありCD68(+)・CD86(+)・CD163(-)であることからM1タイプのマクロファージであると考えられた。実際、これらのiPS細胞由来マクロファージを大腸菌particleと共培養すると大腸菌particleを貪食した。またHIV/SIVの感染受容体でもあるCD4に加えてCCR5・CXCR4の発現も認められ、実際にこれらのマクロファージは一時的にSIVに感染しウイルス産生を認めたため、同アカゲザルiPS細胞から誘導した造血幹細胞に由来する免疫細胞はSIV感染ならびに感染防御モデルを構築する材料として十分な性質を持つことを確認した。
 引き続き、感染防御能の付与を目的としたゲノム編集実験にも取り組んだ。アカゲザルiPS細胞のゲノム編集は非常に効率が悪いが、条件検討を繰り返しゲノム編集の効率が改善した。今回我々はSIV感染の副受容体の一つと考えられているCCR5をターゲットにしたCCR5ノックアウトiPS細胞を作成している。今後、CCR5ノックアウトiPS細胞から誘導したマクロファージにSIV感染抵抗性が生じるか否かをin vitroおよびin vivoで評価する予定としている。



H30-B88
代:岡澤 均
協:陳 西貴
協:藤田 慶大
協:田川 一彦
マーモセット疾患モデルを用いた神経回路障害ならびに分子病態の解析および治療法の開発
マーモセット疾患モデルを用いた神経回路障害ならびに分子病態の解析および治療法の開発

岡澤 均 , 陳 西貴, 藤田 慶大, 田川 一彦

マーモセットの神経疾患モデルをウイルスベクターを用いて作出し、神経回路の変性や病態解明、さらには治療法の開発を目指す研究である。東京医科歯科大学で4頭のマーモセットに空間記憶課題を訓練し、ウイルスベクターを注入する前のデータを取得した。霊長類研究所では、すでに4頭の訓練と事前のデータ取得を終えている。今後、ウイルスベクターを注入し、疾患モデルを作出して、神経回路や認知機能の変化を明らかにする。


H30-B89
代:Brittany Kenyon
協:Noreen von Cramon-Taubadel
協:Stephen Lycett
Morphological and Taxonomic Distinction in Macaca: a 3D Geometric Morphometric Analysis of the Skeleton
Morphological and Taxonomic Distinction in Macaca: a 5D Geometric Morphometric Analysis of the Skeleton

Brittany Kenyon , Noreen von Cramon-Taubadel, Stephen Lycett

The purpose of my project is to determine whether or not skeletal variations aid in taxonomic assessment of primates and to what extent these variations can determine species-level taxonomy. Secondarily, I am exploring if these variations are most likley caused by diet, locomotion, or climate. To do this, I am collecting 3D scans of skeletal elements of several species of macaques, given that macaques have the widest geographic range of any primate aside from humans and wide behavioral differences between speices.
Final analysis will not be complete until May 2020, though preliminary anaylsis suggests that the scapula and os coxa may be better taxonomic indicators that previously thought. In a MDS (multidimensional scaling) test based on Procrustes matrices, the scapula is actually the best taxonomic indicator, which is surprising since previous research has shown that the cranium best indicates taxonomy. Further analysis will elucidiate these findings and aid in explaining what is driving these morphological differences between species. An even number of males and females are being tested, and it does appear that the female os coxa predicts taxonomy better than the male os coxa, which will also be explored in further testing.



H30-B90
代:熊谷 美樹
ニホンザルの幼少個体における順位獲得と母親による援助の性差
ニホンザルの幼少個体における順位獲得と母親による援助の性差

熊谷 美樹

ニホンザルは母系で順位を継承するが、まれにコドモ同士で家系順位に反する優劣交渉が観察される。本研究は、このような交渉を逆交渉と定義し、量的な解析からその要因を明らかにすることを目的とした。宮崎県幸島に生息するニホンザル餌付け群のコドモを対象に、餌撒き時の優劣交渉を観察した。そしてGLMM解析にて個体間関係が逆交渉に及ぼす影響について調べた。すると、逆交渉には劣位な家系の個体が優位な家系の個体より体重が重いことが影響していた(表1)。また、多重比較の結果、交渉した2個体のうちオスが劣位な家系のペアは、メスが劣位な家系のペアより逆交渉が起こりやすく、さらに劣位な家系の個体がメスのとき、相手がオスの場合より相手がメスの場合に逆交渉になりやすいことが分かった(表2)。次に、参加個体が起こす優劣行動にはどのような要因が効いているのか調べた。すると敗者の悲鳴は、勝者がより重いほど生起していた(表3)。体重の軽い個体はより重い個体と相対したときに、さらに体の大きな第3者の援助を要請するべく悲鳴をあげるのかもしれない。また、悲鳴はメスがオスに負けるとき、メスに負けるときより多く発せられており(表4)、メスはオスと1対1で戦うことを避けている可能性が考えられる。優劣交渉の形成には敗者側による劣位的なふるまいが貢献しているようである。本研究の結果から、その他要因の効果を統制した上でも体の大きな個体とオスが逆交渉の成立において有利であるという新たな知見を得ることができた。


H30-B91
代:佐々木 基樹
霊長類後肢骨格の可動性
霊長類後肢骨格の可動性

佐々木 基樹

 これまでにニシローランドゴリラ3個体、オランウータン2個体、チンパンジー4個体の後肢のCT画像解析をおこない、第一趾の可動状況を観察してきた。第一趾を最大限伸展させた状態でCT画像撮影をおこない、得られたCT断層画像データを三次元立体構築して第一中足骨と第二中足骨がなす平面上におけるそれら中足骨のなす角度をソフト上で解析した結果、平均でオランウータン約104度、ニシローランドゴリラ約73度、そしてチンパンジーで約52度であった。今回、類人猿以外の霊長類であるニホンザルの第一趾の可動状況を観察して、第一中足骨と第二中足骨がなす平面上のなす角度を計測した。計測の結果、ニホンザルの第一中足骨と第二中足骨がなす角度は約47度で、これまで計測した類人猿の値よりも小さかった。今後、検体数を増やすことで精度を上げ、さらに、他の類人猿(テナガザルやボノボ)を含む多くの種の霊長類の後肢の解析をおこなうことで、観察された中手骨間の角度の違いを考察していきたい。


H30-B92
代:小倉 淳郎
協:越後貫 成美
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察

小倉 淳郎 , 越後貫 成美

 最近我々は、顕微授精技術を用いることにより、マーモセット体内で自然発生した生後11ヶ月齢の未成熟精子(伸長精子細胞)から産仔を獲得した。そこで本研究では、さらに早期に顕微授精を行う可能性を検討するために、性成熟の早いマウスへ新生仔マーモセット未成熟精細管を移植し、精原細胞から精子・精子細胞発生が加速するかどうかを確認する。昨年度(2017-B-30)、4ヶ月齢雄マーモセットの片側精巣を採取し、去勢NSGマウスの腎皮膜下に移植を行った。今年度、移植から約3ヵ月後に組織を回収して組織学的観察を行った結果、初期円形精子細胞までの発生を確認した。生体下での円形精子細胞の出現は10-11ヶ月なので、異種移植を行うことにより3-4ヶ月ほど精子発生が加速した結果が得られた。


H30-C1
代:川合 伸幸
協:邱??
サルの脅威刺激検出に関する研究
サルの脅威刺激検出に関する研究

川合 伸幸 , 邱カチン

ヒトがヘビやクモに対して恐怖を感じるのは生得的なものか経験によるのか長年議論が続けられてきた。我々は、ヘビ恐怖の生得性は認識されていることを示すために視覚探索課題を用いて、ヒト幼児や(ヘビを見たことのない)サルがヘビの写真をほかの動物の写真よりもすばやく検出することをあきらかにし、ヒトやサルが生得的にヘビに敏感であることを示した。しかし、どの程度まで早くヘビを認識できるかは不明であった。そこで、ニホンザルがヘビを他の動物より早く見つけられるかを視覚探索課題において、短時間で刺激にマスクする実験を行い検討した。その結果、少なくとも2頭のサルは0.1秒の提示時間であっても9枚の動物の写真の中から孤立項目であるヘビの写真を正しく検出した。そしてその成績はクモの検出精度よりも高かった(なお、1頭は実験継続中であり、1頭は反応時間を測定できるまで訓練ができなかった)。これらの結果は、サルはわずか100 msでヘビをできることを示しており、ヘビ検出理論を指示するものである。


H30-C2
代:樋口 隆弘
協:平野 満
協:能勢 直子
協:塩谷 恭子
次世代心臓分子画像診断法の開発

論文

次世代心臓分子画像診断法の開発

樋口 隆弘 , 平野 満, 能勢 直子, 塩谷 恭子

アカゲザル5頭を用いて、F18標識のノルエピネフリントランスポーターをターゲットにした新規PETトレーサー候補2種類の分布及び心臓での動態を検討した。同トレーサの体内分布は、ラット、ラビット、ミニブタでも検討していたが、種による分布、特異度に差が大きく、今後のヒトでの臨床応用に際して非常に有益な情報が得られた。


H30-C3
代:土屋 萌
福島原発災害による野生ニホンザル胎仔の放射線被ばく影響
福島原発災害による野生ニホンザル胎仔の放射線被ばく影響

土屋 萌

 2011年3月11日に起きた福島第一原発事故に伴い、周辺に生息する野生ニホンザルはヒト以外の野生霊長類において世界で初めて原発災害による放射線被ばくを受けた。放射線被ばくによる健康影響は数多く報告されており、胎仔の小頭化や成長遅滞もその一つである。本研究では、被ばくしたサルの次世代への影響を調べるため、震災前後における胎仔および新生仔の脳の病理組織像について比較した。
 脳の組織標本は、2012年〜2018年に捕獲された福島市のサルを用い、2012年に青森県下北半島で捕獲されたサル、2018年に福島県猪苗代町で捕獲されたサル、京都大学霊長類研究所にて採材されたサルの脳を比較対象とした。それぞれにHE染色・免疫染色・PAS染色を行った。
 脳の免疫染色では、福島市のサルにおいて星状膠細胞には数珠状の構造物が顕著に見られた。破壊像は見られなかったことから、脳の成長過程で何かしらの異常が起きている可能性が示唆された。



H30-C4
代:橋戸 南美
協:松田 一希
同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体機能の解明

学会発表
橋戸南美, 糸井川壮大, 早川卓志, Amanda D Melin, 河村正二, Colin A Chapman, 松田一希, 今井啓雄. 同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体の遺伝的・機能的多様性. (2018年7月14日) 第34回日本霊長類学会大会.(東京).
同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体機能の解明

橋戸 南美 , 松田 一希

アフリカのキバレ国立公園に同所的に生息するオナガザル科7種を研究対象としており、本年度はアカコロブス、アビシニアコロブス、ベルベットモンキーの3種(各1個体)について約30種類の全苦味受容体遺伝子(TAS2R)の配列を決定した。アカコロブスでは5種類のTAS2Rで種特異的な偽遺伝子化が生じており、他種に比べて苦味受容体遺伝子数が少なかった。また、アカコロブスやアビシニアコロブスは,βグルコシドの一種で毒性の高い青酸配糖体を含む葉を食べることが報告されている。そのため,βグルコシドを受容するTAS2R16に着目して,細胞アッセイによる受容体機能解析を行った。βグルコシドの一種であるサリシンに対するTAS2R16の反応性を調べたところ、アビシニアコロブスのTAS2R16はアカコロブスやベルベットモンキーに比べて,有意に反応性が低いことが明らかになった。他のβグルコシドの物質でも同様に反応性を調べたところ、物質によって3種間で反応性に違いがみられた。以上の結果について、第34回日本霊長類学会大会で口頭発表を行い、成果を報告した。
 次年度は、同所的に生息する他の種についても同様の解析を行い、生息地を共有しながらも異なる食物レパートリーを示す背景について苦味受容体の機能差の観点から考察を深める予定である。



H30-C5
代:小林 純也
霊長類細胞におけるDNA損傷応答・細胞老化の解析
霊長類細胞におけるDNA損傷応答・細胞老化の解析

小林 純也

 放射線をはじめ様々な環境ストレスでゲノムDNAは損傷を受けるが、正常な遺伝情報を保つ(ゲノム安定性)ために生物は損傷したDNAを修復する能力を持つ。しかし、このような修復能力は加齢により減退し、その結果、DNA損傷が蓄積し細胞老化が起こると考えられる。一方で、遺伝子は常に正確に修復・複製されると進化に必要な遺伝子の多様性がうまれないことから、修復・複製の正確度にはある程度の幅があって、ゲノム安定性と遺伝的多様性の間でバランスがとられている可能性がある。このようなDNA損傷応答能・修復能と細胞老化、ゲノム安定性・遺伝的多様性の関係を探るために、本研究ではヒトを含む霊長類繊維芽細胞でDNA損傷応答能の差異を検討することを計画し、平成28年度から共同利用・共同研究を開始した。
 平成30年度研究では霊長類研究所から提供を受けた細胞のうち、アカゲザル由来正常繊維芽細胞を用い、ヒト正常繊維芽細胞と比較するとともに、SV40トランスフォーム細胞でアカゲザルと同じく旧世界ザルに由来するCOS7細胞をヒトトランスフォーム細胞と比較した。正常繊維芽細胞とトランスフォーム細胞ともにこれら種間で放射線照射後のATMキナーゼの活性化、及びDNA修復関連因子の初期応答に差異は認められなかった。一方、DNA複製阻害によって発生する複製ストレス時に活性化されるATRキナーゼについては、トポイソメラーゼ阻害剤であるカンプトテシン処理時にこれらキナーゼ阻害剤を用いて検討すると、この時のATRの活性化に旧世界ザル由来細胞でのみ、部分的なATM依存性が認められた。これは放射線照射時のATR活性化でも同様であった。これらの結果からヒトと旧世界ザル細胞ではATRキナーゼの活性化機構、さらには複製ストレス応答機構に違いがあることが示唆される。



H30-C6
代:辰本 将司
協:郷 康広
ニシフーロックテナガザルの新規ゲノム配列決定
ニシフーロックテナガザルの新規ゲノム配列決定

辰本 将司 , 郷 康広

小型類人猿であるテナガザル類は,4属18種より構成され,形態形質(毛色多型,歌のレパートリーなど)や分子(核型)の多様性に極めて富んだ分類群であるが,大型類人猿に比べて研究の進展が遅れている.ゲノム研究においても大型類人猿のゲノムは全ての属に関してすでに参照ゲノム配列が決定されているが,テナガザル類に関しては,クロテナガザル(Nomascus)属の参照ゲノムしか決定されておらず,テナガザル類の進化的多様性を考慮した場合,その他のテナガザル属のゲノム配列を新規に決定する必要性は,テナガザル類の研究の進展に果たす役割として大変重要であると考えられる.本研究では,テナガザル類の中でも極めて生息数の限られているニシフーロックテナガザル(Hoolock hoolock)の新規全ゲノム配列を決定することを目的とする.1頭の全ゲノム配列を決定することで,過去の1万年〜数百万年のフーロックテナガザルの集団動態(集団サイズの増減の変遷)や遺伝的多様性に関する情報が得られるため,テナガザル類の基礎的な研究のみならず,保全生物学にも貢献できるデータを提供することが可能となる.
 新規ゲノム配列を決定するために,超長鎖(理想的には平均100kb以上)のDNAの抽出の必要があっため,霊長類研究所資料委員会保有のニシフーロックテナガザル由来の線維芽細胞を対象とし超長鎖DNAを抽出した.抽出したDNAから新規ゲノム解析ライブラリ作製装置(10X Genomics社Chromiumシステム)を用いたゲノムライブラリ作製,イルミナ社HiSeqX型シーケンサーを用いて配列の決定を行った.新規ゲノムのアセンブルをした結果,ゲノムのつながりの良さを示すscaffold N50長が,それぞれ27.9Mbという良質なゲノム配列を得ることができた.



H30-C7
代:加納 純子
霊長類細胞における染色体反復配列領域の機能解析
霊長類細胞における染色体反復配列領域の機能解析

加納 純子

 真核生物の線状染色体末端には、テロメアと呼ばれるドメインが存在しており、生命維持のための重要な役割を果たしている。テロメアに隣接して、サブテロメアと呼ばれるドメインが存在している。しかし、サブテロメアの機能や制御について、まだ知見が少なく、不明な点が多く残されている。興味深いことに、大型類人猿のチンパンジーやゴリラでは、テロメアとサブテロメアの間にSubterminal Satellite (StSat)配列と呼ばれる長大な重複DNAが存在しているが、ヒトには一切存在しない。StSat配列の存在がヒトと大型類人猿の性質を分けている可能性が考えられるため、具体的にStSat配列が大型類人猿でどのような機能を果たしているのか、逆にそれがヒトには存在しないことがどのような影響を与えているのかを分子レベルで明らかにすることを目指している。
 まず、StSat配列領域におけるクロマチン構造を探るため、DNAに結合しているヒストンタンパク質の翻訳後修飾の状態をクロマチン免疫沈降方によって解析したところ、H3K9の高度なメチル化が検出されたことから、ヘテロクロマチン構造が形成されていることが示唆された。次に、StSat配列領域に特異的に結合するタンパク質の同定を試みた。まず、StSat配列をもつオリゴDNAとチンパンジー細胞の抽出液を混合し、特異的に結合するタンパク質を質量分析によって同定したところ、RNAに関連するタンパク質が多く検出された。さらに、enChIP法によって細胞内でStSat領域に局在するタンパク質を同定するための実験系を確立した。



H30-C9
代:中道 正之
協:大西 絵奈
飼育下のコモンマーモセット(Callithrix jacchus) 集団における子育てと社会関係について
飼育下のコモンマーモセット(Callithrix jacchus) 集団における子育てと社会関係について

中道 正之 , 大西 絵奈

コモンマーモセット(Callithrix jacchus)は共同?殖種として知られており、ヒトの核家族に似た集団を形成するが、その社会関係に関しては十分に研究されていない。本研究は飼育下のコモンマーモセットにおける子供の数と繁殖ペア間の社会関係の関係性を明らかにすることを目的とした。6集団(各集団における子供の数:0,0,2,2,3,4頭)の?殖ペア計12頭を合計117時間観察し、それぞれの社会関係を毛づくろい、追従、性行動、攻撃行動、近接関係を基に議論した。観察の際にはビデオカメラを用いて人の出入りの無い時間のみを分析した。
 子供の数と繁殖ペア間の社会関係の間に緊密な関係性を認めることができなかった。サンプル数が6集団であったことに加え、ホルモン、対象個体の年齢、子供の性別等の様々な影響が考えられるために、子供の数と繁殖ペア間の社会関係の関係性を明らかにすることは出来なかったと考えられる。しかし、ニホンザル(Macaca fuscata)のメスでも報告されているような高齢個体における低頻度の毛づくろいや、妊娠ペアにのみ見られたオスからメスへの低頻度の追従など、ケーススタディとして有意義な結果が得られた。



H30-C8
代:川田 美風
協:森本 直記
マカクザルにおける母体骨盤と児頭の形態関係について
マカクザルにおける母体骨盤と児頭の形態関係について

川田 美風 , 森本 直記

ヒトにおける出産様式の進化に関する研究は、脳機能・歩行様式・生活史が関わる多面的な課題である。しかし、出産進化のメカニズムにおいて鍵となる新生児と骨盤の化石記録が乏しく、直接的な検証が極めて困難である。そのため、現生の霊長類をモデルとした研究が不可欠である。本共同研究では、マカクザルをモデルとし、出産メカニズムに関する生体データを取得・解析することを目的とした。アカゲザルとニホンザルをそれぞれ1組ずつに対しX線CT撮像を行い、母親と胎児の3次元データを取得した。これまでに取得したデータに、本年度のデータを追加して、統計解析を行ったところ、母親の骨盤と胎児の頭蓋の形態間に統計的に有意な相関が確認された。現在得られた結果をもとに、論文を執筆中である。


H30-C10
代:中林 一彦
協:小林 久人
霊長類の種特異的ゲノム刷り込み機構確立の解明

学会発表
小林 久人 Active endogenous retroviruses drive species-specific changes in the mammalian oocyte methylome and genomic imprinting(2019年2月3-4日) International Symposium on Epigenome 2019(国立がん研究センター).
霊長類の種特異的ゲノム刷り込み機構確立の解明

中林 一彦 , 小林 久人

胎盤を有する哺乳類では、ゲノムインプリンティング(刷り込み)機構と呼ばれる、2本ある対立遺伝子(アレル)のうち親の由来に応じで片方のアレルのみにエピジェネティックな修飾が施される現象が存在する。母由来アレル特異的なDNAメチル化修飾の成立する際には卵子における転写の横断が必須であり、近年行われた哺乳動物の卵子エピゲノム情報の比較により、種特異的なDNAメチル化パターンの成立にはゲノム中のLTR型レトロウイルス配列(LTRレトロトランスポゾン)の再活性化に起因する卵子での転写が寄与したことが明らかとなった。種特異的・系統特異的に存在する LTRレトロトランスポゾンが卵子型ゲノム刷り込みの成立に寄与することを比較発生学的に証明するため、チンパンジー胎盤におけるヒト(霊長類)特異的刷り込み遺伝子のDNAメチル化状態を、バイサルファイト・ターゲットシーケンス法により解析した。結果、ヒトと同様のLTR誘導型転写物のある領域では、ヒトと同様の刷り込み様の二峰性(高メチル化と低メチル化の二極性)のメチル化パターンを示すことを明らかにした(図1)。またアカゲザルでの同様の解析結果と和わせて、進化におけるLTR挿入が霊長類特有のゲノム刷り込み成立に寄与したことを強く支持する結果となった。研究成果は、現在科学専門誌に投稿中(査読中)である。


H30-C11
代:佐藤 佳
協:伊東 潤平
協:三沢 尚子
協:小柳 義夫
霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究
霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究

佐藤 佳 , 伊東 潤平, 三沢 尚子, 小柳 義夫

 本研究では、比較ゲノム・系統学的解析手法およびヒト・チンパンジーの細胞を用いた実験手法を駆使することにより、ヒトおよびチンパンジーそれぞれの系統において起こったトランスポゾンと宿主遺伝子との間での進化的軍拡競争を高解像度に描出し、両系統間において比較解析することを目的とする。具体的には、比較ゲノムおよび分子系統学的解析により、ヒト・チンパンジー分岐後に活発に増殖したトランスポゾンをゲノムから同定・抽出した。
また、以下は制度上の問題で年度内に実施できなかったため、現在、ヒトiPS細胞株、チンパンジーiPS細胞株の分与のために、京都大学iPS研究所とのMTA締結を進めている。 



H30-C12
代:堀益 靖
協:服部 登
協:河野 修興
KL-6抗原と生物の進化
KL-6抗原と生物の進化

堀益 靖 , 服部 登, 河野 修興

チンパンジー肺組織標本を用いて、当教室の所有する抗KL-6抗体(10000倍希釈)による免疫組織学的検討を行った。肺胞領域においては、II型肺胞上皮と思われる丈の高い立方状細胞の一部に弱い染色が認められた。これにより、KL-6糖鎖抗原はチンパンジー肺組織においてもヒトと同様にII型肺胞上皮に発現していることが確認された。しかし、その染色強度はヒト健常肺と比べて弱く、また、ヒト肺胞上皮でみられるようなapical membraneへの局在性は確認できなかった。さらに、ヒトにおいてKL-6糖鎖抗原が連続的に高発現することが確認されている気管支線毛上皮においても、チンパンジー肺組織では不連続で散在的なKL-6発現が確認されたのみであった。以上の結果は、われわれがすでに行っている血清レベルでの検討とも合致するものであり、ヒトを除くチンパンジー、オランウータン等のヒト科動物においてもKL-6糖鎖抗原が発現していること、しかしその発現レベルはヒトと比べて弱いことが明らかとなった。


H30-C13
代:佐藤 侑太郎
協:狩野 文浩
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる社会的認知研究
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる社会的認知研究

佐藤 侑太郎 , 狩野 文浩

 本研究では、チンパンジーの社会的認知能力の解明を目的とした一連のアイ・トラッキング実験をおこなう。赤外線式アイ・トラッカーを用いて、チンパンジーがモニター上の視覚刺激を見る際の眼球運動を計測する。今年度は、音声コミュニケーションにおける異感覚間情報統合に関する研究の予備実験をおこなった。この実験では、モニター上に2つの画像を提示する。同時に、そのうちの片方と関連する同種他個体の音声を提示する。例えば、食物の画像に対してはフード・コール(チンパンジーが採食場面で発する)が対応する音声刺激となる。このとき、チンパンジーの視線が、音声刺激と対応する画像刺激にどの程度偏るかどうかを検討する。このような特定の画像への選択的注視は、音声情報によって形成される心的表象の有無を反映すると考えられる。同様の手法は、主にヒト幼児を対象に言語理解能力を調べるのに用いられており、有用であることが実証されている。本研究で得られる成果は、チンパンジーのコミュニケーション能力や、ヒト言語能力の進化を理解する上で重要である。今年度は、この研究の予備実験を実施し、実験手続きを精緻化する上で有用な知見を得ることができた。現在、得られた情報をもとに次年度の実験実施に向け準備を進めている。


H30-C14
代:山村 崇
排泄物中に含まれる繁殖制御因子の解析
排泄物中に含まれる繁殖制御因子の解析

山村 崇

ヒト以外の霊長類の排泄物中に含まれる繁殖中枢を刺激する繁殖制御因子の存在を確認するために、ヒト以外の霊長類の排泄物を採取した。
 ニホンザルとアカゲザル、チンパンジーの雌雄それぞれから繁殖中枢刺激因子が安定して存在していると予想される性成熟に達した個体を用いた。ニホンザル(6頭:雄3頭、雌3頭)とアカゲザル(11頭:雄7頭、雌4頭)は繁殖期に季節性を有するため、繁殖期(9〜11月)・非繁殖期(8月)のそれぞれの時期に、チンパンジー(5頭:雄1頭、雌4頭)は5月に検体の採取を行った。採取した検体は、無処理の状態でマイナス20〜30度で冷凍し、保存した。
 今後、繁殖中枢刺激因子の存在の有無を検定系を用いて行う予定である。



H30-C15
代:久世 濃子
協:五十嵐 由里子
類人猿における骨盤の耳状面前溝の性差および種差
類人猿における骨盤の耳状面前溝の性差および種差

久世 濃子 , 五十嵐 由里子

ヒトでは、骨盤の仙腸関節耳状面前下部に溝状の圧痕が見られることがあり、特に妊娠・出産した女性では、深く不規則な圧痕(妊娠出産痕)ができる。一方、未経産の女性や男性でも、耳状面前下部に浅い圧痕が見られるが、その形成要因は不明である。我々は、京都大学霊長類研究所および国内の研究機関等で標本を観察し、大型類人猿でも耳状面前下部に圧痕が見られることを発見した。30年度は2019年3月に京都大学霊長類研究所で、GAIN提供の4個体(チンパンジー雌2個体、ゴリラ雄2個体)の骨盤を観察した。その結果、今まで観察されていた圧痕発生頻度の種間差(ゴリラで高く、オランウータンで低く、チンパンジーはその中間)を追認できた。30年度は、ヒトと四足歩行する動物の両方で、歩行時や姿勢が変わる時(坐位から立位)に仙腸関節にわずかな「ズレ(動き)」が見られることを簡易モデルで確認することができた。これが耳状面前下部に負荷をかけ、圧痕を形成する一因となっている可能性がある。この実験観察はヒトの腰痛(仙腸関節痛)が起きるメカニズムについて研究している技術者との協力を得て行った。今後は大型類人猿の体重に関するデータを収集し、モデルやシミュレーション等を使って、耳状面前下部にかかる負荷について検証することで、圧痕の形成要因を考察し、発生頻度の種間差を報告する論文としてまとめる予定である。


H30-C17
代:澤田 晶子
協:牛田 一成
協:土田 さやか
ニホンザルの植物由来の物質に対する分解能の検証
ニホンザルの植物由来の物質に対する分解能の検証

澤田 晶子 , 牛田 一成, 土田 さやか

植物は植食者に対する防衛戦略として化学物質を生産しており、植食性の霊長類は相当量を摂取しているものと考えられる。植物毒をはじめとする植物由来物質に対するニホンザルの分解能を実験的に明らかにするため、糞便を用いた腸内細菌の培養実験を実施した。まずは実験系を確立するため、屋久島のニホンザルの糞便を用いて予備実験を実施したところ、培地の安定性や測定手法について解決すべき問題点が見つかったため予定していた飼育個体を用いての実験までには至らず、次年度に持ち越しとなった。今後は、植物性食物の摂取頻度によって分解能が異なることが予測されるため野生個体と飼育個体の比較検証をおこなうほか、難消化性多糖を加えた培地を用いて植物由来の難消化性成分および反栄養物質の消化・分解能の測定も検討している。


H30-C18
代:酒井 朋子
霊長類の比較脳解剖イメージング研究のためのデータベース・システムの開発

学会発表
酒井朋子 最先端の計算解剖学的手法による比較霊長類脳イメージング研究(2019/01/15) 京都大学脳機能統合センターセミナー(京都).

Sakai, T., Hata, J., Ohta, H., Shintaku, Y., Kimura, N., Ogawa, Y., Sogabe, K., Mori, S., Okano, H.J., Hamada, Y., Shibata, S., Okano, H., and Oishi, K. The Japan Monkey Centre Primates Brain Imaging Repository for comparative neuroscience: an archive of digital records including records for endangered species(2018/11/5) Annual Meeting of the Society for Neuroscience 2018(San Diego).

酒井朋子、畑純一、太田裕貴、新宅勇太、木村直人、岡野ジェイムス洋尚、濱田穣、岡野栄之、森進、大石健一 最先端の計算解剖学的手法による比較霊長類脳イメージング研究の確立(2019/02/06) 第8回日本マーモセット研究会大会(日本橋ライフサイエンスハブ).

酒井朋子、畑純一、太田裕貴、新宅勇太、木村直人、岡野ジェイムス洋尚、濱田穣、岡野栄之、森進、大石健一 最新のコンピュターサイエンスがもたらす霊長類脳画像データーベース:サルにもヒトにもやさしい『オープンサイエンス』を目指して(2019/01/26) 第63回プリマーテス研究会(日本モンキーセンター).
霊長類の比較脳解剖イメージング研究のためのデータベース・システムの開発

酒井 朋子

本研究では、GAINが提供する神戸市王子動物園のチンパンジー・ジョニーの死後脳標本を用いて、理化学研究所 脳神経科学研究センター9.4テスラの高磁場MRI装置を用いて、T2強調画像と拡散強調画像を撮像した。本研究により、従来の撮像技術では困難であった、チンパンジー脳標本の全脳レベルでの高解像度の拡散強調画像(0.5mm3)の収集に成功した。本研究成果として、招待講演一題、国際会議における発表1件、国内会議における発表2件を行った。                                                                    (招待講演)
1. 酒井朋子「最先端の計算解剖学的手法による比較霊長類脳イメージング研究」京都大学脳機能統合センター 2019/01/15,京都大学(京都)
(国際会議における発表)
2. Sakai et al, “The Japan Monkey Centre Primates Brain Imaging Repository for comparative neuroscience: an archive of digital records including records for endangered species” Annual Meeting of the Society for Neuroscience 2018 2018/11/5, San Diego
(国内会議における発表)
3. 酒井朋子ら「最先端の計算解剖学的手法による比較霊長類脳イメージング研究の確立」第8回日本マーモセット研究会大会 2019/02/06,日本橋ライフサイエンスハブ(東京)
4. 酒井朋子ら「最新のコンピュターサイエンスがもたらす霊長類脳画像データーベース:サルにもヒトにもやさしい『オープンサイエンス』を目指して」第63回プリマーテス研究会 2019/01/26,日本モンキーセンター(愛知)



H30-C19
代:渡士 幸一
協:竹内(柴田)潤子
霊長類ヘパドナウイルスのスクリーニングおよびその受容体進化解析
霊長類ヘパドナウイルスのスクリーニングおよびその受容体進化解析

渡士 幸一 , 竹内(柴田)潤子

申請者らは先行研究において、分子進化学的解析とウイルス学的実験を融合させ、HBV・ヘパドナウイルス受容体(NTCP)の解析を実施した。その結果、ヘパドナウイルスが宿主進化の選択圧となっていたことを初めて見出し、また、NTCP上の宿主特異性を決定するアミノ酸サイト[amino acid (aa) 158]を同定した。つまり、NTCPのaa158がGlycine(158G)の時はHBV感受性であるが、Arginine(158R)の時はHBV非感受性であることを明らかにした(Takeuchi et al. Journal of Virology 2019)。その中で、[酊肯猴獲茲NTCP配列の解析が進んでいないこと、旧世界ザル由来のヘパドナウイルスが同定されていないことが、研究遂行の妨げとなっていた。本研究では、京大霊長研より譲り受けた肝臓サンプル [フクロテナガザル(n = 3)、ボルネオオランウータン(n = 3)、ニホンザル(n = 4)、アカゲザル(n = 4)]を用い、下記の通り、研究を開始した。NTCP配列同定:サンプルよりRNAを抽出し、RT-PCR法でNTCP領域を増幅後、配列を同定した。その結果、フクロテナガザル、ボルネオオランウータンは158G型の、ニホンザル、アカゲザルは158R型のNTCPをもっていた。これはヒト上科はHBV感受性NTCPを、旧世界ザルはHBV非感受性NTCPをもつという過去の報告と一致した。▲悒僖疋淵Εぅ襯垢離好リーニング:サンプルよりDNAを抽出し、過去の文献 (Drexler et al. PNAS 2013) に記載のプライマーセットを用いてfirst- & second- round PCRを実施し、ヘパドナウイルス配列の増幅を試みた。フクロテナガザル、ボルネオオランウータンはHBV感受性NTCPを保持していたが、ヘパドナウイルスは検出されなかった。現在、ニホンザル、アカゲザルのウイルススクリーニングおよびNTCP配列の詳細な分子進化学的解析を進めている。


H30-C20
代:西川 真理
協:持田 浩治
協:木下 こづえ
ニホンザルにおける夜間の性行動および配偶者選択
ニホンザルにおける夜間の性行動および配偶者選択

西川 真理 , 持田 浩治, 木下 こづえ

ニホンザルの夜間の行動データを記録するために、暗視ビデオカメラおよび赤外線投光器を用いて育成舎の外側から撮影する方法を検討し、予備観察をおこなった。本調査はニホンザルの交尾期である10月から開始する予定であった。しかし、観察を実施する予定だった育成舎の近傍で井戸の掘削工事がおこなわれる時期と重なってしまい、撮影機材の設置が困難となり、データを収集することができなかった。


H30-C21
代:布施 裕子
協:時田 幸之輔
霊長類固有背筋横突棘筋群・脊髄神経後枝内側枝の比較解剖学

学会発表
布施裕子 胸・腰神経後枝内側枝の形態的特徴ー横突棘筋群との位置関係に着目してー(2019年3月28日) 第124回日本解剖学会全国学術集会・総会(朱鷺メッセ(新潟県)).
霊長類固有背筋横突棘筋群・脊髄神経後枝内側枝の比較解剖学

布施 裕子 , 時田 幸之輔

 脊髄神経後枝は外側枝・内側枝の2つに分岐され、固有背筋に筋枝を分岐した後に皮神経となり、外側皮枝・内側皮枝となる。ヒトでは、一般的に内側皮枝が頸部〜胸部に分布し、外側皮枝が腰背部へ分布するとされており、分節によって発達の程度が異なるとされる。今回、ニホンザルにおいて外側枝・内側枝と固有背筋の形態において観察された所見を報告する。
 まず内側枝の観察では、横突起間(▲1)から出た後、皮枝と筋枝に分かれ、横突棘筋群の深層の1〜3本の短い筋と、4本目以降の長い筋の間を走行した。筋枝は短い筋に対して浅層より分岐(▲2、3)した後、長い筋に対して深層から進入(▲4)した。皮枝は同分節の椎骨棘突起に付着する長い筋を潜り皮下へ出現(▲5)した。内側皮枝は第2〜第8胸神経で確認された。第10胸神経からは、内側枝は1本目の短い筋よりも深層を走行し、筋枝も筋に対して深層より進入(▲6)するようになった。
 外側枝は、最長筋と腸肋筋の間を通り、最長筋に対して外側(▲7)から、腸肋筋に対して内側(▲8)から筋枝を分岐し、最終的に皮枝(▲9)となった。外側皮枝は第4胸神経から第3腰神経で確認されたが、第12胸神経外側皮枝より腸肋筋の筋束を貫通(▲10)する形態をとった。



H30-C22
代:川本 芳
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

川本 芳

  房総半島では以前から在来のニホンザル群が南房総(館山市と南房総市)に定着した外来のアカゲザル(アカゲザル母群)と交雑することが分かっていた。近年になり新たにカニクイザルが交雑に関与する可能性が疑われるようになってきた。本研究は, 房総半島におけるニホンザルの交雑状況を解明するために, これまで調査が十分に進まず, カニクイザルとの交雑が疑われる外房地域(勝浦市, 鴨川市とその周辺)のニホンザルを対象として, 既得の血液試料と新たに集めた試料を使い, DNAタイピングから交雑状況を評価し, 関係する外来マカク種を特定することを目的にしている。交雑判定に利用する遺伝標識は, Y染色体の種特異的DNA配列である。従来の分析ではY染色体上で多型を示す3つのSTR座位(DYS472, DYS569, DYS645)のアリルの組み合わせでY染色体タイプを分類している。外房地域の一部ではアカゲザル母群に検出されていないY染色体タイプ(Xタイプと呼称)をもつ交雑個体が認められており, 本研究ではこの由来解明を課題と考えている。2019年6月から野外調査を5回実施した。野生群を探索し, 形態観察と試料(糞および食痕物)採取を行った。この調査ではアカゲザルの形態特徴を示す個体を勝浦市西部の浜行川群と鴨川市東部の誕生寺群で観察した。一方, 2019年3月までに糞と食痕物から41試料を採取した。アメロゲニン遺伝子による性判別でこのうち16試料がオスと特定でき, 現在Y染色体タイプを分析中である。さらに今回の研究では, Y染色体DNAの系統解析で汎用されてきたTSPY遺伝子につきXタイプ個体のDNA配列も分析した。ニホンザル, アカゲザル, カニクイザルの既知配列を参照した比較分析では, Xタイプ個体のTSPY 遺伝子はアカゲザルおよびインドシナ半島のカニクイザルに近く, スンダ地域のカニクザルの配列とは異なるとの結果を得た。またこの比較から, 判別に有効なTSPYのSNPサイトを3箇所特定し, 調査に利用できる種判別法が考案できた。これにより非侵襲的に得た試料を使い, TSPY遺伝子のSNP分析で種判別を進める目処がたった。


H30-C23
代:河村 正二
協:蘆野 龍一
協:松下裕香
協:"MELIN, Amanda"
協:新村 芳人
テナガザル視覚・嗅覚・味覚遺伝子レパートリーの種間相違性の解明
テナガザル視覚・嗅覚・味覚遺伝子レパートリーの種間相違性の解明

河村 正二 , 蘆野 龍一, 松下裕香, "MELIN, Amanda", 新村 芳人

京都大学霊長類研究所に細胞株として保存されているテナガザル3属3種6個体(Hylobates agilis 2個体, Hoolock hoolock 2個体, Symphalangus syndactylus 2個体)のゲノムDNAを用い、L/Mオプシン、Sオプシン、嗅覚受容体、苦味受容体(TAS2Rs)、旨味甘味受容体(TAS1Rs)、中立対照ゲノム領域をtarget captureで抽出し、大規模並列(次世代)シーケンシングによりそれらの塩基配列を決定し、これら感覚遺伝子のテナガザルにおける進化多様性を明らかにすることを目的とした。これまでにtarget captureのプローブを設計し、民間企業に委託して作製した。テナガザルゲノムDNAのライブラリー化を現在進めており、次年度にtarget captureと次世代シーケンシングを実施する。


H30-C24
代:Chris-Alexandros Plastiras
協:Dimitris S. Kostopoulos
協:Gildas Merceron
"Ecological diversity of Plio-Pleistocene Palearctic cercopithecids (Primates, Mammalia); evidence from dental tissues "
"Ecological diversity of Plio-Pleistocene Palearctic cercopithecids (Primates, Mammalia); evidence from dental tissues "

Chris-Alexandros Plastiras , Dimitris S. Kostopoulos, Gildas Merceron

This project is focused to investigate the ecological diversity of the the cercopithecids that inhabited the Palearctic realm during Pliocene to Pleistocene. Our aim is to characterize the feeding ecology of these cercopithecids, by means of analysis of microwear textures of their dentition (Dental Microwear Textural Analysis), and the analogies of hard dental tissues, such as the enamel (3D Dental Topography). The methodologies will be applied on fossil representatives of the genera Mesopithecus monspessulanus, Dolicopithecus, Paradolicopithecus, Procynocephalus, Macaca and Theropithecus, from several fossiliferous localities of Greece, France, Bulgaria, Spain, Italy, Romania and Japan, while the collection of data will be provided by a series of scheduled visits on the hosts museums/institutions.The same methodologies will be applied in a substantial sample size of modern cercopithecids with known and different dietary habits, to serve as a base for the comparisons between taxa. So far, the collected material and data consists of fossil cercopithecids from localities of France (Seneze, Perpignan, Montpellier), Spain (Puebla de Valverde, Vallparadis, Cal Guardiola), Italy (Valdarno, Capo Figari-Sardinia), Bulgaria (Dorkovo, Tenevo), Greece (Dafnero, Dytiko, Megalo Emvolo, Vatera) and the sample of modern cercopithecids. With this cooperative research programm in Japan, we aim to acquire silicon microwear molds of a)the fossil cercopithecid from Nakatsu (Dolichopithecus (Kanagawapithecus) leptopostorbitalis sp. nov.; specimen number KPM-N NC005802) housed in Kanagawa prefectural Museum of Natural History (KPMNH) and b) from wild populations of modern cercopithecids focused on different species of macaques (Macaca cyclopis, Macaca cyclopis*fuscata fuscata, Macaca fuscata fuscata, Macaca fuscata fuscata*mulatta, Macaca fuscata yakui, Macaca nemestrina pagensis, Macaca sinica) and colobine genera (Presbytis femoralis catemana, Presbytis melalophos bicolor, Presbytis melalophos melalophos, Presbytis potenziani, Simias concolor, Semnopithecus entellus)
housed in the Primate Research Institute of Kyoto University.



H30-C25
代:森 裕紀
協:内海 力郎
協:佐藤 琢
動物の画像からの個体識別のためのパターン認識手法の開発
動物の画像からの個体識別のためのパターン認識手法の開発

森 裕紀 , 内海 力郎, 佐藤 琢

チンパンジーの個体認識と個体追跡について、画像処理・画像認識技術を用いた技術の検討を行った。
チンパンジーの顔からの個体認識システムは、画像データセットであるImageNetを用いて学習を行ったResNet-50をベースとして、京大のチンパンジーのための転移学習を行い構築した。学習データは、7個体42枚の画像からデータ拡張(ぼかし、ガンマ(明るさ)補正、ガウスフィルタ、コントラスト、反転・回転(60度・270度))を行い1344枚とした。ランダムに取り分けた未知データに対する認識率として、76.62%の成績となった。失敗例として、Pal、Mari、CloeをGonと誤認したり、PalをAkiraと誤認したりしていた。
チンパンジー個体追跡システムは、Level 1(室内環境・固定カメラ・単数個体)、Level 2(室内環境・移動カメラ・単数個体)、Level 3(屋外環境・移動カメラ・単数複数)と問題の難易度を変化させて、システムの検討を行った。検出手法としては、Single Shot Multibox Detector (SSD)モデルを用いて、ImageNetから抽出したチンパンジー画像にチンパンジー領域を手作業で追加した学習データにより追加学習を行い構築した。また、追跡手法は、背景差分法による背景消去と画像処理ライブラリであるOpenCVなどに実装されている物体追跡手法を組み合わせて構築した。一度、SSDによりチンパンジー領域を検出してからそのチンパンジーを追跡するシステムを構築し、一定の状況下ではロバストに追跡できることを示した
今後は霊長類研究所より個体の名前入りのチンパンジーの動画像を収集してシステムの改善を図りたい。



H30-C26
代:近藤 玄
協:外丸 祐介
協:棒 洋二郎
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明

近藤 玄 , 外丸 祐介, 棒 洋二郎

精子には、数多くのGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)が発現しており、そのいくつかは精子の受精能獲得に深く関与している。申請者は、予備実験において、マウス精子で発現量の多いGPI-AP(SpGPI-APと仮称)を同定し、このタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製し、精子のFACS解析を行なったところ、精子は二つの集団に大別された。さらにこれらをソーティングし、運動性、体外受精能、人工授精能等をしらべたところ、直進運動性や体外受精能において差異がみとめられ、これまで想像されていたが分子的根拠がなかった精子集団の不均一性とより受精しやすい集団が存在することが判明した。本研究は、当該タンパク質によって二別される精子集団の比較解析をヒトにより近いマカク属サル精子を用いて調べることを目的とする。
今回ニホンザル精子を精巣上体から採取し、抗マウスSpGPI-APモノクローナル抗体10クローンにてFACS解析を行なったが、サル精子にクロスする抗体クローンは得られなかった。



H30-C27
代:松田 一希
協:豊田 有
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

松田 一希 , 豊田 有

霊長類の社会構造の理解は,霊長類学における重要な中心的議題の一つである.個体関係の記述(親和性/敵対性)や順位の記述(優劣関係),血縁関係の記述を通じて,群内の個体関係の構造を把握し,母系/父系社会などといった,社会類型を記載してきた.その一方で,それらの記載は主に研究者が直接観察し分類したり,ビデオを通じて事後に解析するなどといったデータに基づくものであり,連続的な記録としての大規模データの蓄積や解析は今までなかった.本研究は,小型の位置記録装置を飼育ニホンザル集団の全個体に装着することで,高精度で大規模な連続的な位置データ情報を収集し,個体間関係の記述を,社会ネットワーク分析を通じて評価することを目的とした.2018年度は,5個体からなるニホンザル集団を研究対象として,その位置計測を,時空間精度として高精度(10cm誤差以内,5点記録/1秒)に,かつ連続的に収集した.グループでの小型ビーコンを取り付けた首輪の装着に先立ち,個別ケージでサル1頭を対象として試験的に首輪を装着して48時間監視をし,首輪の装着による問題がサルに見られないことを確認した.その後に,研究対象としたサルたちに首輪を装着し,第二放餌場前西側グループケージに放ち,各個体の時空間情報データを10日間収集した.観察中の行動について特殊な制限はなく(給餌やアクセスの制限など),通常の飼育をした.10日間の記録後実験は,速やかにサルから首輪を外した.データ収集は成功し,各個体について数百万にのぼる正確な位置情報データを得た.現在,膨大なデータの解析、個体間ネットワークの可視化などを進めている.図は、予備的解析により可視化した対象5個体の距離データに基づいたネットワーク図。


H30-C28
代:吉村 崇
協:沖村 光祐
霊長類の視覚の季節変化の分子基盤の解明
霊長類の視覚の季節変化の分子基盤の解明

吉村 崇 , 沖村 光祐

代表研究者らは最近、メダカの眼においてトランスクリプトーム解析を行い、光受容器からその下流の情報伝達に関わる遺伝子の発現量が季節間で変化することで、光応答性や色覚が季節変化することを報告した(図)。興味深いことに、心理学の分野ではヒトの色覚が季節変動することが知られている。また冬季うつ病患者においても冬季にのみ、光感受性が低下することが網膜電位図により示されている。しかし、ヒトを含めた霊長類において眼の光応答性が季節変化を示す仕組みは解明されていない。そこで本研究では自然環境下で飼育されたニホンザルの眼における遺伝子発現をRNA-seq解析により明らかにすることを目的とした。
 本研究では屋外飼育ケージで維持されているニホンザルから冬および夏に眼を採材することを計画していたが、2018年度の研究では、屋外飼育ケージで維持された個体の採材は叶わなかった。そこで2018年12月に他の研究者との多重利用により、屋内飼育されたアカゲザルのメス2個体から両眼を採取し、本研究に必要な手技に問題がないことを確認した。2019年度も引き続き共同利用を行う計画であり、屋外飼育ケージの個体の採材に向けて準備を進めている。