ニホンザルによる被害問題の現状と課題

最終更新日:2018年5月16日

平成30年度 京都大学霊長類研究所 共同利用研究会

ニホンザルによる被害問題の現状と課題

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講演要旨

市街地に出没するハナレオス・ハナレメスの行動特性  海老原寛・檀上理沙・清野紘典・岡野美佐夫・岸本真弓・加藤洋(野生動物保護管理事務所)
 近年、ニホンザルの生息数が増加している。これに伴い、市街地へ出没するハナレザルも増加する傾向にある。その行動特性については、生物学的にも興味深い知見となるため、市街地におけるハナレザルの行動特性を整理し、各行動特性の発現機序について考察する。ハナレザルにはオスもメスも確認され、既存のニホンザルの社会構造に当てはまらない結果が得られた。観察されたそれぞれの行動には、性的な特異性があった。

東北地方におけるニホンザル個体群の現状と課題  宇野壮春(東北野生動物保護管理センター)
 ニホンザルの保護管理を考えるうえで、連続する群れ(個体群)の規模はその保護管理手法を左右する。例えば規模の小さい個体群であれば保護側の施策が必要になるし、大規模の個体群であれば管理側の施策に偏りやすい。一方で保護に偏りすぎると人との様々な軋轢が生まれやすく、管理に偏りすぎると個体群の保全という観点が浮かび上がる。つまり、保護と管理は適度なバランスが必要だと考えられる。本稿では東北地方の個体群の事例を挙げながら現状について話題提供したい。

環境省ガイドラインに基づくニホンザル個体数管理の方法? 清野紘典(野生動物保護管理事務所)
 平成28年3月に環境省は「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編)」(以下、ガイドライン)を改訂した。ガイドラインは自治体の管理施策を推進し対策の実行性をあげるための基本方針が示されており、個体数管理の方法論についても具体的な指針がある。一方、全国的にはガイドラインに示された捕獲の考え方が必ずしも普及しているとは言えず、捕獲が被害軽減に結びついていない現状にある。そこで、ガイドラインの考え方に基づき実施された個体数管理の実践例から、捕獲を計画的に実行するためのモニタリングと実行された捕獲の効果を評価し、被害軽減に効果的な個体数管理のあり方について検討する。

高知県におけるニホンザル保護管理の現状と課題  葦田恵美子(NPO法人 四国自然史科学研究センター)
 高知県においてもサルによる農作物等への被害が発生しており個々の防除対策と有害捕獲が実施されている。捕獲頭数は年々増加しているが、現状の有害捕獲が被害軽減に結びついているとは言い難い。一方で現状の有害捕獲はサルの個体群の攪乱も考えられる。根本的に被害軽減とサルの個体群の維持を目指すには、科学的な根拠のもと保護管理を検討する必要がある。本稿では、これまでに把握されている県内の分布域や群れ数、遊動域面積などの情報を整理し、今後の課題を検討する。

三重県におけるニホンザル被害管理と個体数管理の現状と課題 山端直人(兵庫県立大学)・鬼頭敦史(三重県農業研究所)
 三重県は群れ数が約130群程度、多い群れでは200頭を超える群れも多数存在し、その被害は深刻となっている。平成28年の「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編)」に合わせ管理計画を改定すると同時に、最も被害が深刻な市町の1つである伊賀市で被害管理と群れ単位の個体数管理による管理モデルを育成してきた。その結果、モデル地域ではサルの被害を95%削減することに成功している。今後は、このモデルを県域に広げることが課題であり、市町単位に地域実施計画を作成し管理を進めている。本稿ではその際の課題についても整理したい。

ニホンザルによる農作物被害問題とその研究の歴史的経緯 小金澤正昭(宇都宮大)・山端直人(兵庫県立大)
  サルによる農作物被害問題に研究者としてどのようにかかわってきたかを整理したい。被害問題を鳥獣管理の手法に基づき、個体数管理、被害管理、生息地管理の3つの側面から、議論したい。個体数管理については、被害防除の手段として考えられているが、明らかな分布拡大と個体数増加の結果と見ることができる。また、群れの捕獲では、これまで銃やくくり罠、箱わなによる捕殺が行われているが、これとは対照的に大型囲いわなによる群れごとの捕獲(通称、地獄檻)や最近ではICTによる大型捕獲檻が用いられるようになってきた。これらの実施にともなって、捕獲を行なうと群れが分裂する事態が確認された。このような状況の中で、ソーニングによってサルを保全する必要があることが指摘された。被害管理では、サルの運動能力の高さから、電気柵がもっぱら使われているが、その問題点を整理した。また、生息地管理ついては、ほとんど手が付けられていない状況にある。

ニホンザルが利用する農作物のリスト  辻大和(京大霊長研)・江成広斗(山形大)・大谷洋介(大阪大)・鈴木克哉(里地里山問題研究所)・滝口正明(自然環境研究センター)・小金澤正昭(宇都宮大)・山端直人(兵庫県立大)・葦田恵美子(NPO法人 四国自然史科学研究センター)・清野紘典(野生動物保護管理事務所)・宇野壮春(東北野生動物保護管理センター)・海老原寛(野生動物保護管理事務所)
 ニホンザルが利用する(しない)農作物についての情報は各地で報告があるが、多くは地方自治体の報告書の資料という形でしか残されておらず、他の地域の関係者がアクセスすることは困難である。そこで、各地の調査員で協力して情報を収集し、集約することを試みた。得られた資料は基礎・応用両面で役立つ資料になると期待される。

被害の現場と基礎科学をつなぐ 江成広斗(山形大)・滝口正明(自然環境研究センター)
 この20年の間に、ニホンザルによる農作物被害の現状とその対策に関する調査が各地で行われ、多くの知見が蓄積されてきた。しかしながら、それらの成果が公表される機会は決して多くはなく、各地の取り組みが関係者同士で共有されているとはいいがたい。また基礎分野の研究者と応用分野の研究者、現場の担当者の連携が不足しているという現状もある。分野を超えて協力する体制をつくるには、それぞれの立場がどのような取り組みをすべきなのか、提案したい。


ニホンザルによる被害問題の現状と課題・要旨