最終更新日
2017/08/01

動物福祉

 


タイヤロープの上の母子ザル(撮影:須田直子)

 生物学研究の多くの場面では動物実験が不可欠であるが、実験の成否以外に、実験に使われる動物の待遇について研究者自身が考えるようになった歴史は長くない。実験研究も人の営みである以上、社会からの評価に耐える内容である必要があるのは明らかであり、特に脊椎動物に関しては、直接の実験使用だけでなく、どのような飼育を行うかについても十分な配慮が求められる時代になっている。日本でも動物実験における適切な配慮について規制する法律(動物の愛護および管理に関する法律)が制定され、各研究機関ごとにガイドラインが作られているが、これは最近20年ほどの間に生じた流れである。

 ヒトと同じ霊長目に属するサル類では、その扱いについての社会の関心はさらに高い。そのためもあり、日本で研究用動物の飼育・使用に関する指針を最初に策定したのは、京都大学霊長類研究所であった(1986年)。これは文部省(当時)が各大学等に動物実験指針策定を通達するより前のことで、サル類を研究対象とすることの課題とそれを克服する必要性をみずから感じていたことを示している。

人類進化モデル研究センターでは霊長類研究所で研究に用いられるサル類の維持管理・繁殖と実験動物学研究を担当しているが、日常業務の中でも研究領域の面でも、倫理に関する取り組みが強く求められる部署であり、この問題に関してセンターが負っている責任は大きい。センターが研究所の中で果たしている動物福祉にかかわる役割には以下のようなものがある。

1. サル取り扱いに関するライセンス講習: 共同利用研究員を含む全所員は、サルに接する前に所定の段階に応じた講習・実習を受けてライセンスを取得する必要があり、その講師はセンターの教員が務めている。また、講習のテキストの大分部分の作成も担当している。

2. 動物倫理委員会(サル委員会)への参加: センターの教員および技術職員が必ずメンバーに入ることが規定されており、サルを使う全ての実験計画の事前審査を行っている。

3. 動物福祉研究の推進: 痛みなどのストレス軽減やケージサイズの検討など、飼育・使用場面での応用を支える基礎研究を行っている。

4. サルの検査および診療: 実験使用中もしくは訓練中のサルの健康管理のため、研究者の要請によって随時獣医師によるチェック・処置を行っている。

実際の飼育現場では以下のような試みを行い、環境エンリッチメントの理念を現場に結びつける努力を払っている。

1. 遊具: グループケージでは通常の止まり木のほかに、タイヤやロープなどで遊具を作り、サルの遊び・運動の機会を増やしている。止まり木も、水平方向および垂直方向に回転するものも一部導入している。
個別ケージでは、サルがかじったり動かしたりできる木片をチェーンで吊り下げている。放飼場では、樹木と止まり木を長いロープでつないだり、小さな池を作っている。

2. パズル給餌器:工夫しないと餌を取れない仕掛けを数種類考案し、サルの採食時間を延長することを試している。

3. 環境:放飼場では、水の流れる小川や丸太を組み合わせたジャングルジムを作り、土や草・水に触れられる構造にしている。特にリサーチリソースステーションでは、自然の植生を生かした放飼場で、サル類本来の行動を引き出せるようにしている(センターホームページの別項"リサーチリソースステーション"を参照)。

4. 餌・水:サル専用固形飼料は、それのみでサルに必要な栄養を満たすように作られているが、霊長類研究所ではその他にサツマイモや果物をサルに給与している。水は新鮮なものがいつでも飲めるよう、全ての飼育室に自動給水装置を設置している。

(文責:松林清明)