最終更新日
2025/01/07

サル類の飼育管理

1) 飼育サル類一覧

人類進化モデル研究センターではサル類の一元管理を担っています。現在、6種 1200頭を超えるサル類を飼育しています。

2024年9月30日現在の飼養頭数

 ニホンザル 855頭(うちNBRPニホンザル分460頭)
 アカゲザル 177頭
 カニクイザル 9頭
 コモンマーモセット 189頭
 チンパンジー 11頭
 アジルテナガザル 3頭
 合計 1244頭

2)当センターにおけるサル類健康管理の概要

当センターにおけるサル類の飼育管理にあたっては、常勤技術職員(獣医師含む)と非常勤職員が連携し、繁殖・育成・個体群管理・獣医学的ケア・施設管理・情報管理に努めています。また、EHUB所内および所外共同研究者へのサルの供給や試資料の提供などといった研究支援も重要な業務の一つです。

3) 施設とその特色

当センターではサル類の種特異性や研究利用に応じ、大きく3つの飼育形態を整えています。繁殖母群を大規模単位で飼育する屋外放飼場、育成や小規模繁殖のためのグループケージ、さらに各種研究や処置のための屋内ケージ室に大別されます。これらサル類を飼育する施設には、サル類の逸走を防ぐために頑丈であること、サル類が安全かつ安寧に生活できるような環境配慮がなされていること、さらに作業者の安全が担保されていることなどが必要です。サル類の運動能力や社会性などを考慮したうえで、新たな施設の設計や設備の改良を重ねることで、より良い飼育環境の構築に取り組んでいます。

チンパンジーの屋外放飼場 マカク類の屋外グループケージ

4) 自家繁殖による地域個体群の管理

とりわけニホンザルおよびアカゲザルにおいては、地域個体群の遺伝的素因を維持させるため、放飼場やグループケージにおいて各地域個体群を分けて飼育しています。1980年代に自家繁殖体制を確立し、現在に至るまで、遺伝的多様性を保持した地域個体群の繁殖を続けています。さらに、近交係数の上昇に伴う遺伝病の発生を抑えるため、出生個体の父子判定の結果もふまえて群編成を決定しています。

5) サル類の健康管理・獣医学的管理

栄養バランスに配慮した飼料と良質な水はサル類の健康管理に欠かせません。サル用の固形飼料に加えて種に応じてレパートリーに富んだ餌を与えています。マカク類には葉野菜や根菜類、枝葉や種苗類など、チンパンジーやテナガザルにはさらに多種多様な野菜と果物、マーモセットにはミルワームや樹液なども与えます。採食品目を増やすだけでなく、種特異的な行動様式が発現できるようにパズルフィーダーなどを用いて与え方にも工夫しています。各施設には複数の給水器が設けられており、常時新鮮な水を提供できます。

パズルフィーダーの孔から餌を取り出して採食する様子 枝葉を採食する様子
パズルフィーダーの孔から餌を取り出して採食する様子。手足で支えて指先を器用に使います。 枝葉を採食する様子。新芽、葉、樹皮などを採食する過程では、その動物種の種特異的な行動がみられます。身体の機能を駆使できる機会を提供することは重要です。

サル類はそのほとんどが社会的な種であり、群れ内での闘争や軋轢により外傷を負うこともあります。またヒトと同様に様々な疾病にかかるおそれもあります。当センターでは健康なサル類を研究利用するため、獣医師により外傷の処置や疾患の治療を行なっています。また日常的な観察や診療に加え、定期的に体重測定や健康診断も実施しています。さらに獣医診療の技術向上を念頭に、外部サル飼育施設の獣医師との情報交換会を行っています。

6) 技術提供・情報提供

サル類を対象とした研究において、各種試料(血液、尿、糞便、その他)のサンプリングや麻酔管理などの専門技術を提供しています。EHUB所内外への研究支援も積極的におこなっています。また、飼育個体の基本的情報やデータベース記録からの情報提供により研究を支援します。

7)微生物学的統御

サル類が健康で正常な状態を維持するためには、微生物(細菌、ウイルス、真菌、寄生虫など)の管理と制御が必要です。なぜなら、特定の微生物はサル類の感染症を起こす可能性があるからです。そこで、外部からのサル類導入時にはしっかりと検疫を行い、病原微生物の侵入や感染症の発生を防ぎます。またサル類の定期的な微生物検査を繰り返し行い、サルやヒトに大きな被害をもたらす可能性がある特定の病原微生物がいないことが明らかな飼育サル群(Specific Pathogen Free: SPF)を作出しています。