獣医学・動物福祉学分科
Primate Medicine and Welfare 人類進化モデル研究センター

 

当センターは、霊長類研究所が京都大学に附置・設立された1968年に、実験研究用サル類の飼育を担当する飼育室としてスタートしました。1969年には、飼育だけでなく健康管理をおこなう専門部署として霊長類研究所付属サル類保健飼育管理施設(サル施設)となり、自家繁殖供給体制を確立しました。1999年に、サル施設からセンターへ改組されて教員スタッフが倍増し、2009年には飼育サル数が1000頭を超えるほどになりました。現在では、研究用サル類の飼育・繁殖と健康管理を一手に担うとともに、分子レベルから個体レベル、さらには群れ(社会生態)レベルまで多様な研究を、大学院生、研究員、教員と技術職員が有機的に連携しながら進めています。 感染症分科、保全遺伝学分科、獣医学・動物福祉学分科からなり、獣医学・動物福祉学分科では、自然発症疾患に関する研究、動物福祉に関する研究、サル類の麻酔、痛みに関する研究を推進します。


自然発症疾患に関する研究

 飼育下の非ヒト霊長類(サル類)の自然発症疾患について、実際に症例をみている技術職員の臨床獣医師と連携協力しながら、臨床研究をおこなっています。症例についてはできるだけ報告の形にまとめ、発表して残すことで、経験を積み重ねて知識としていくことが大切だと考えています。
自然発症疾患の例
<チンパンジー>
・横断性脊椎炎
・くも膜のう胞
・変形性関節炎
<ニホンザル>
・急性鼓脹症
・非アルコール性脂肪性肝炎
・サルレトロウイルス血小板減少症
・肝細胞癌
・扁平上皮癌
関連する研究
・チンパンジーの口腔内の健康に関する研究
・非ヒト霊長類のヘリコバクター感染に関する研究

 

動物福祉に関する研究

 動物福祉(Animal Welfare)とは、ヒトによる動物の利用を前提としたうえで、飼育動物に与える苦痛を最小限に抑え生活の質(QOL)の向上を図るという考え方です。生理学的・行動学的・生物学的指標を用いた、サル類の身体的・心理的健康状態の客観的評価が重要です。動物本来の行動要求に応えるための環境エンリッチメントや、拘束や麻酔のリスクを最小限に抑えるための行動管理手法を用いて、飼育サル類のQOLの向上を目指しています。
関連する研究
・ストレスに関する生理学的研究
・コントラフリーローディングにもとづく採食エンリッチメントの検討
・正の強化トレーニングに関する研究


サル類の麻酔に関する研究

<質の高い麻酔を目指して> 
サル類の研究および飼育・健康管理において、麻酔が必要となる場面が多々あります。中でも、脳神経科学研究での開頭術などは、長時間の麻酔が必要となります。動物福祉の観点から、サル類への痛みや不快感などの負担をできるだけ少なくするためには、質の高い麻酔が求められます。
 静脈麻酔薬プロポフォールは、調節性に優れ、フェンタニルなどの鎮痛薬と併用することにより緻密な麻酔管理が可能となるため、ヒトの脳神経外科手術の麻酔では好んで用いられています。プロポフォールの持続投与による維持麻酔では、薬物動態の情報に基づいて投与速度を調節することが必要であるため、我々は、ニホンザルにおけるプロポフォールの母集団薬物動態モデルを作成しました。今後は、薬力学の検討や、フェンタニルの母集団薬物動態モデル作成もおこない、さらに質の高い麻酔を目指しています。また、マーモセットにおいても同様に、質の高い麻酔の開発をおこなっています。


サル類の痛みに関する研究

<サル類の痛みとは?>
サル類は、本来群れで生活しており、他のメンバーに弱みを見せないよう、痛みを隠す傾向にあります。そのため、痛みの評価は非常に困難です。我々は、表情や行動を解析して、サル類の痛みの評価方法を検討しています。
実験的に痛みを与えるのではなく、外傷や手術で痛みのあるサルを対象に、研究をおこなっています。


<連絡先>
准教授 鈴木樹理  suzuki.juri.4u@kyoto-u.ac.jp
サル類のストレス定量および動物福祉のための基礎研究
サル類の成長に関する研究
サル類の自然発症疾病に関する臨床研究

助教 宮部貴子 miyabe.takako.2s@kyoto-u.ac.jp
サル類の麻酔に関する研究
サル類の痛みに関する研究
サル類の自然発症疾病に関する臨床研究