第18回(2002年613日)の授業への質問に対する回答


 前回のビデオで、自然保護と伝統的生活を守ることの両立について、たくさんの人が感想や疑問を書いてくれました。中にはかなり紋切り型のイメージでとらえている人もいましたが、問題はそう単純ではありません。動物が少なくなったのは誰のせいか?ピグミーの人々は近代化政策の犠牲者なのか?なぜ動物を保護しなくてはいけないのか?政府は何をするべきなのか?考えるべきことが山ほどあります。自然保護の問題は、戦争や民族紛争、人口爆発、地球環境問題などともに、最後の授業(715)でもう一度取り上げてみたいと思います。
 なお、授業の説明に補足をしておくと、「ピグミー」というのはアフリカ各地の熱帯林に住む身長の小さな狩猟採集民の総称です。イトゥリの森に住んでいるピグミーはムブティと呼ばれる人々で、イトゥリの北にはエフェ、カメルーンにはバカ、コンゴにはアカと呼ばれるピグミーが住んでいます。
 板書の書き方のせいでしょうが「チンパンジーがクジラを狩猟する」と誤解した人がいました。もちろん違います。


Q.ヒトの祖先に近い生活をしている人はピグミーのほかにいないのか
A.アフリカではカラハリ砂漠に住むクン・サンがいますし、東南アジア、インド、南米にも狩猟採集民がいます。


Q.完全に狩猟採集だけで暮らしている人は今はいないのか
A.一人のおじいさんが「おれは森に残るんだ」といって狩猟採集を続ける、というようなことは今でもあるでしょうが、集団レベルで完全に狩猟採集だけで暮らしている民族は今では世界中どこにもいないと考えられます。


Q.クン・サンは今どうしているか
A.彼らも政府の定住生活の影響で、人工井戸を使った農耕や牧畜を始めたり、白人の農場で働く人が増えています。


Q.クン・サンはなぜ112-19時間しか働かないのか
A.第一の理由はそれだけあれば十分食べられるからですが、余分に働かないのはあまりがんばるのは周囲からマイナスの評価を受けること、頻繁に移動を繰り返し、大した保存の手段を持たない彼らには余分な食物は邪魔だからです。


Q.なぜネットハンティングが主なのか、他の猟はしないのか
A.ネットハンティングがもっとも安定して肉を獲得できるからです。そのほかにも単独で弓矢や槍を使う猟があります。


Q.ネットはみんな持っているのか
A.現在問い合わせ中です。


Q.ピグミーの女の人は狩猟に参加していると言えるのか
A.ネットハンティングでは女の人は勢子になりますから、参加していると言えます。


Q.狩猟でけがをしたり命を落とした人はいないのか
A.具体的に調べた研究は今は見当たりませんが、おそらくいるだろうと思います。


Q.ムブティは槍に使う鉄をどうやって手に入れたのか
A.周辺の農耕民に肉などと交換してもらって手に入れました。


Q.雨の日も狩猟に行くか
A.いやがるそうです。


Q.ネットハンティングのときの声は歌か
A.さあ?


Q.子供は何才から狩猟に出るか
A.バカの例の場合、少年は10歳にならないころから自分たちでちゃちな弓を作ってネズミを取って遊んだりするので区別が難しいのですが、本格的な狩猟に参加するのは15歳を過ぎてからのようです。


Q.わなは使わないのか
A.ビデオの解説によればムブテイの人々は使わないようですが、わなで猟をするピグミーはたくさんいます。


Q.クジラはどうやって捕まえたか
A.江戸時代の和歌山の捕鯨が伝統捕鯨としてはもっとも洗練されたものです。海岸の見張り場所からクジラを見つけると、何隻もの船で出漁し、大きな網を絡ませて行動を妨げ、船で近づいて銛を何本も打ち込んで弱らせてとどめをさします。殺したクジラを2隻の船の間にはさんで岸まで運び、岸で解体します。


Q.ゾウの肉はどんな味か/キリンの肉はどんな味か
A.バカの調査をしている私の後輩によれば、ゾウは「すじがなく、濃厚なだしが取れる。牛肉より硬いが、牛肉よりうまい。沖縄のソーキソバのようにして食べたらうまいだろうと思った」とのことです。キリンを食べたことのある人は私のまわりにいないので分かりませんでした。


Q.狩猟を禁止されたピグミーの人たちは今は肉を食べないのか
A.全く食べられないわけではないでしょう。市場で買えるでしょうし、ニワトリを飼っている人もいるかもしれません。


Q.肉が嫌いな狩猟採集民はいないか
A.聞いたことがありません。


Q.獲物を分けるときに仲間割れは起こらないか
A.よほど食物が不足していない限り、激しい争いにはなりません。それに狩猟採集民は(かつては)離合集散性の激しい移動生活をしているので、なにかもめごとがおこったらさっさと荷物をまとめて出ていってしまい、大きな争いごとに発展するようなことはなかったでしょう。


Q.獲物を取ってきた人がなじられ、男だけが狩猟に行くのなら、男は女になじられるのか
A.そうでしょう。


Q.弓矢を作った人が所有者ならみんな狩りに行こうとしないのではないか
A.実際に狩猟をした人にどこを分けるかが決まっていて、狩猟をしても丸々損というわけではないのです。


Q.なぜキャンプ地が三つもあるのか
A.狩猟採集生活では、よほど豊かな場所を除けば、一つの場所にいつづけるとその場所では食物はあまり取れなくなるということが起こります。そうなれば別のところに移るしかありません。クン・サンは1年に2500km2もの広大な土地を移動して回ります。


Q.ピグミーの言語は独自のものか、旧宗主国のものか
A.ピグミーのうち、バカは独自の言語を持っています。しかしビデオに出たムブティは独自の言語を失い、周辺の農耕民の言語を話しています。ムブティの住む旧ザイールの旧宗主国はベルギーですが、旧ザイールで民族間の共通語として広く使われているのはリンガラ語、またはスワヒリ語です。東アフリカではスワヒリ語が、西アフリカではフランス語が民族間の共通語になっています。多くのピグミーはこれらの共通語も使うことができます。


Q.ピグミーは年月や月日をどのように把握しているのか
A.彼らも1月や1年にあたる単語を持っています。1ヶ月は月の満ち欠けで、1年は乾季・雨季という季節の移り変わりで把握しているようです。それ以上の長い年月はふつうちゃんと覚えていないようですが、そのかわりに生まれた子供にそのころあった印象的な出来事でもって命名したりします。たとえば父親がヒヒを狩ってきたときに生まれた子なら「ヒヒ」、戦争が始まったときに子なら「戦争」、役人が税金を徴収するようになったころに生まれた子なら「税金」などです。「名は体を現す」と考える日本人から見れば珍妙な名前ですが、かれら自身はもちろんそれが変な名前だとは全く思っていません。その子が成長したのを見たら、「ああ、税金を取られるようになったのはあのころだったなあ」と思い出すわけです。ポリネシア人はもっと徹底していて、「あるときケイアアという村で豚を盗んだ悪人があったとさ」というような、ちょっとした物語風の長い名前をつけるそうです。


Q.ピグミーはなぜ小さいのか
A.熱帯林の中を敏捷に動き回るのには小さい方が有利だったからと説明されています。


Q.ピグミーの女子供はみな腹が出ていたがなぜか
A.タンパク質をあまり摂取せず炭水化物だけを取っているとああいう体形になります。


Q.マヤニミンギのおでこが膨らんでいたがあれは何か
A.分かりませんが、ピグミーの人にこぶが多いという話は聞いたことがありません。


Q.アフリカの狩猟採集民は短命だそうだがワクチンを打てば百年以上生きられるというのはほんとうか
A.ありえないと思います。彼らが短命なのは、食物供給が不安定なために栄養状態が悪くなることがあるため、あるいは遠くへ出かけるときに事故で死ぬためで、免疫力が弱いからではありません。抗菌グッズも持たず、病原菌を持った虫がうようよしている中で生きているのですから、文明人よりはよほど病原菌に対する抵抗力は強いはずです。


Q.観光客が来る頻度はどのくらいか/農耕を始めたピグミーと観光客を相手にするピグミーではどちらの生活が豊かか
A.これは分かりませんが、旧ザイールは1996年ごろから政情不安が続いており、観光客も今はだいぶ少ないはずです。


Q.農耕を始めたピグミーはどんなものを栽培しているのか
A.バナナやキャッサバ、トウモロコシなどの他に、カカオやラッカセイなどの商品作物を作っている人々もいます。


Q.農耕を始めたピグミーは農耕の技術、種などをどうやって手に入れたのか
A.政府の指導・援助を受けたか、周辺の農耕民の手を借りたのでしょう。


Q.ピグミーは食生活が変わって体に変化はないか
A.とくに若い人が大きくなったといわれています。


Q.なぜ今のピグミーは洋服を着るようになったか
A.洋服を着た人々と頻繁に接触するようになり、考えが変わったのでしょう。ビデオで今のピグミーの女の人の着ている巻きスカートの柄はたいへん鮮やかでしたが、バカの調査をしている私の後輩はピグミーの女の人は大変おしゃれでファッションのセンスがよいといっています。


Q.ピグミーの女の人は生理のときどうしているか
A.ピグミーの人については問い合わせ中です。西アフリカ、コートジボアールでオナガザルの調査をしていた女性研究者に聞いてみたら、近くの村の女の人は月経中も布を当てたりはせず、とにかく川やシャワーで頻繁に洗うそうです。もちろんアフリカでも町の女の人は店に行って生理用品を買います。アフリカの田舎でもだんだん生理用品が普及していて、研究者がお土産に生理用品を持っていくと喜ばれるそうです。


Q.ピグミーの少年が顔を白く塗っていたのはなぜか
A.現在問い合わせ中です。


Q.イモのエネルギー効率は肉より低いか
A.イモは炭水化物含有量がきわめて高く、カロリーを摂取する上ではよいのですが、タンパク質がほとんど含まれていません。その点では肉に劣ります。もっとも、栄養含有量だけではなく、肉とイモを手にいれるのに必要な労力も考えなくてはいけません。ただし、肉の獲得は不安定なので、比較は困難です。


Q.ヒトの祖先が食べていて今のヒトが食べない食物はないか
A.何百万年も前のヒトの祖先の食物はおおっざぱに類推するしかないので、こういう細かい質問にはお答えできません。


Q.死肉を食べたら病気にならないのか
A.殺してから腐るまで12日ありますから、その間であれば(ふだんから胃を鍛えてさえおけば)大丈夫でしょう。


Q.ヒトが食べて病気になる動物はいるか
A.毒を持った動物がそうです。そのほか、肉食動物の肝臓を食べるとビタミンAが過剰摂取になり、歯茎から血を出したりふらふらになったりして死にます。


Q.毒のある動物、木の実、キノコをどうやって見分けるのか
A.毒があるのものは食べると苦くてまずいので、それですぐにわかります。ところがキノコはうまいのに毒がある、ということがしばしばあります。ヒトの場合はどのキノコが食べられてどれが食べられないのかを長い時間かけて学習し、それを文化的に次の世代に伝えたのでしょう。


Q.オカピはなぜ他の場所では絶滅したのか/オカピは何頭くらいいるのか
A.申し訳ないが分かりません。


Q.オカピのお尻にはなぜ縞があるのか
A.よくある説明は藪の中では縞の方がカムフラージュになりやすいというものですが、本当のところはわかりません。オカピは日本では横浜のズーラシア動物園にいます。


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<文責: 半谷吾郎 (hanya<atmark>pri.kyoto-u.ac.jp)>
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<最終改変日: 2004年11月24日>