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湯本貴和 プロフィール

 わたしは1959年に徳島県で生まれました。幼いころから生物や岩石鉱物など、いわゆる博物学が大好きでした。徳島市内の高等学校に進学し、登山部や生物部で本格的に自然に親しむようになりました。高校2年生?3年生のときに『今西錦司全集』(平凡社)を読みふけり、京都大学理学部に入学しました。学部卒業後、京都大学大学院理学研究科に進学し、理学部附属植物生態研究施設(当時、のちに生態学研究センターに改組)で、田端英雄先生や諸先輩方のもとで植物生態学を学びました。  
 研究テーマは、「植物と動物の相互関係」です。固着性生物である植物は、自ら移動するチャンスはふたつしかありません。花粉と種子のステージです。その際に、植物は風や水などを移動媒体として使うほか、被子植物に顕著ですが、動物の移動能力を巧みに利用する術を得ました。それが今日の被子植物の繁栄につながっていると考えられます。花を訪れて花蜜をもらうかわりに花粉を運ぶ動物を送粉者、果実を食べるかわりに種子を運ぶ動物を種子散布者とよびます。わたしは、植物と送粉者、植物と種子散布者との関係を中心に研究を行なってきました。それ以外にも、植物は動物の力を借りて葉などが喰われるのを防ぐ、被食防御をめぐる関係があります。熱帯に分布するアリ植物が典型的なものです。このような「動けない植物が、どのように動物を使っているのか」という問いが、当時から現在につながる、わたしの中心テーマのひとつです。  
 まず修士課程では、中央アルプス木曽駒ヶ岳の高山植物群落で花にやってくる昆虫の調査を始めました。群集として開花の期間が短いこと、植物の丈が低くて、眼下で花が観察できること、植物相も送粉者相も単純で、分類群や生活型が限られていることが、研究上のメリットでした。しかし、そのメリットは研究としての限界でもあります。わたしはもっと多様で複雑な花と送粉者の関係を求めて、博士課程では屋久島の照葉樹林、そしてヤクスギ林の研究に移りました。多くの高木やつる植物は、光の当たる森林の表面、これを林冠とよびますが、この林冠部で花を咲かせ、果実をつけます。わたしは岩登りやケービングで使われるロープクライミングの方法を用いて、一番高くて樹上25mほどの林冠で調査を行ないました。一度、木から落ちて、丸一日気を失っていたこともあります。  


 木曾駒ヶ岳のオオマルハナバチとトウヤクリンドウ (1982-1983)


 1989年に神戸大学に就職後、屋久島で植物と種子散布者との関係の研究を本格的に開始し、渡り鳥が種子散布に果たす役割の研究や、ニホンザル(ヤクシマザル)を個体追跡して種子が散布される距離や種子が運ばれやすい場所などの研究を行ないました。またチームに誘われて、アフリカ・コンゴ民主共和国(当時のザイール)カフジ=ビエガ国立公園、コンゴ共和国ヌアバレ=ンドキ国立公園、南米・コロンビア国マカレナ国立公園で、霊長類を含む、さまざまな動物たちの種子散布を通じての森林との関わりを研究するようになりました。この頃から、霊長類学の諸先輩にたいへんお世話になっています。

     
左、屋久島のニホンザル(1984-1987)。右、コンゴ民主共和国、カフジ=ビエガ国立公園のヒガシゴリラ(1987-1991)。


   
左、マルミミゾウの糞を探る(コンゴ民主共和国)。右、コンゴ共和国、ヌアバレ=ンドキ国立公園のマルミミゾウ。


   
左、マカレナ国立公園のウーリーモンキー(コロンビア)。右、マカレナ国立公園のシロハラホウカンチョウ(コロンビア)

 1994年に京都大学生態学研究センター(生態研)に異動してからは、東南アジアの熱帯林を研究する機会に恵まれて、マレーシア・サラワク州ランビルヒル国立公園でフタバガキ林に特有な一斉開花現象とそこでの複雑で多様な植物?送粉者関係の研究や、タイ国カオヤイ国立公園で多様な動物による種子散布・種子捕食の研究などを行ないました。またマレーシア・サバ州キナバル山国立公園での結実フェノロジーやマレーシア半島のパソー保護区での種子捕食者の研究などでも、多くの大学院生と共同研究を行なうことができました。これらの成果の一部は、『屋久島-巨木と水の森の生態学』(1995, 講談社ブルーバックス)、『熱帯雨林』(1999, 岩波新書)などで、関心の高い一般の方々にも読めるかたちで出版しています。

   
左、タイ、カオヤイ国立公園のサイチョウ。右、マレーシア・ランビルヒル国立公園で、木に登って調査。



ランビル・ヒル国立公園のハシナガクモカリドリとオオバヤドリギの一種(マレーシア)

 2003年に総合地球環境学研究所(地球研)に異動し、多様性領域プロジェクト「日本列島における人間-自然相互関係の歴史的・文化的検討」のリーダーとして、日本列島の半自然草原や里山を含むさまざまな自然に成り立ちを、理系文系あわせて約130名で共同研究を行いました。「日本列島はなぜ生物多様性ホットスポットとして現在まで多様な生物相を保ち続けたのか」という問いに対して、生態学的研究は無論のこと、花粉分析や植物系統地理による植生史研究、考古学・文献史学・民俗学などによる列島各地での人間と自然の関わりの研究、安定同位体分析などを使った過去や現在の人間の食生態研究などでアプローチし、その結果を吟味しながら「自然と人間との関係は今後どうあるべきか」について討論を繰り返しました。
 

 もともと「植物と動物の相互関係」研究には、植物学と動物学の学際的な要素が大きな位置を占めます。「人間と自然の相互関係」研究では、それを拡張して自然科学と人文社会科学の学際研究に挑戦したともいえるかもしれません。本研究5年間の成果は、個々の学術論文だけでなく、共同研究者のみなさんには献身的にご協力いただいて『日本列島の三万五千年?人と自然の環境史』全6巻(2011、文一総合出版)、『奄美沖縄環境史資料集成』(2011, 南方新社)、『新・秋山紀行』(2012, 高志書院)などにまとめられています。
 


ルオ自然保護区のボノボ(コンゴ民主共和国)


 2012年度から霊長類研究所(霊研)に異動し、本来の「植物と動物の相互関係」の研究に戻りました。ボノボの長期観察拠点であるコンゴ民主共和国のワンバの調査も始めました。しかし地球研で培われた「人間と自然の相互関係」という視点も保持していきたいと考えています。大型類人猿を含む霊長類群集と植生構造の関係、つまり霊長類の食べ物と住みかの研究を通じて、危機に瀕している熱帯林とその住人たる霊長類の保全に資する研究を行なうのはもちろんです。それに加えて「ヒトはどこから来て、どこに行くのか」という、霊研の究極課題に少しでも貢献できるように努力していきたいと思っています。



<問い合わせ先: 湯本貴和 <yumoto.takakazu.6w<atmark>kyoto-u.ac.jp>
<最終改変日: 2013年5月8日>