研究(進化精神医学・生物学的精神医学)

 

精神・発達障害は社会的問題として、近年とりわけ注目を集めています。米国では約2人に1人、日本では約5人に1人が、一生の間に何らかの精神・発達障害をかかえるとの統計報告があります。このような精神・発達障害はヒト社会においての不適応な行動変化として問題となっています。では、ヒト以外の動物に精神・発達障害は起きるのでしょうか?仮に、ヒトでの精神・発達障害の症状と類似した行動が見られたとして、動物の社会ではヒト社会と同様、問題となるのでしょうか?

精神・発達障害がヒトへの進化の過程で派生してきたことは間違いないと考えられます。もし精神・発達障害が生活環境や社会集団内での不適応な行動変化であれば、進化の過程で淘汰されているはずです。事実、統合失調症や自閉症などの精神・発達障害者での出生率は健常者とくらべ、顕著に低いことが見られます。しかし、実際には精神・発達障害はヒトの間に長い間、存在しており、その発症率は、少なくとも過去数千年から数百年の間は一定、もしくは(とりわけ自閉症や注意欠陥・多動性障害などの発達障害とうつ病のような感情障害は)近年増加していると報告されています。このことは一体、何を意味しているのでしょうか?

脳神経科学研究の進歩にともない、現在、精神・発達障害の生物学的メカニズムの解明と治療法の開発の研究が盛んに行われています。これらの研究は「どのように(How)」精神・発達障害が起きるのかを明らかにすることを目的としています。一方、私達は「なぜ(Why)」精神・発達障害がヒトに存在しているのかを進化論的視点にたって、生物学的に解明することを目指しています。この様な研究主題においては、従来の動物とヒトとでは基本的にその脳機能・構造は類似しているという前提を基にした、動物での基礎研究をヒトへと応用を試みる従来のトランスレーショナル研究のアプローチではなく、ネズミ・サル・ヒトなど異なる種を研究対象とし、種によって脳機能・構造は異なるということ認め、それがどのように異なるのかを比較する研究アプローチが重要であると考えられます。

私達が行っている具体的な研究課題例としては以下のようなものがあります。

✓ストレスによる脳機能変化の世代間伝播の生物学的メカニズムの研究

✓胎児期と生後の環境相互作用による脳発達への影響の研究

✓ヒトの精神・発達障害に関連する行動が動物(ネズミとサルの)社会構造のなかで持つ利益/不利益的役割の研究

✓脳の前頭前野皮質領域における幼生成熟(ネオテニー)と環境適応としての進化

✓近赤外分光方法を用いたヒトとサルの視覚情報や認知・情動機能関連脳活動の比較研究

✓精神疾患・発達障害における症状の多様性とストレスとの関係の研究

このような研究テーマ・プロジェクトに興味のある方、もっと詳しく知りたいという方は、大歓迎ですので、いつでもお気軽にご連絡ください(goto.yukiori.5c[at]kyoto-u.ac.jpまで)。