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平成24(2012)年度頭脳循環プログラム報告

派遣研究者:香田啓貴
研究内容:ヒトの音声言語の起源
派遣先:イギリス・セントアンドリューズ大学 社会学習・認知進化センター
     (2012/3/12〜2012/8/11、2012/8/28〜2013/3/26)
     スイス・ヌーシャテル大学比較認知科学研究センター
     (2013/3/4〜2013/3/26)

研究成果:
(概要)
派遣者は、日英スイスにまたがり、ヒト以外の霊長類の視聴覚コミュニケーションの実験的研究をした。ヒトにユニークである、音声言語によりコミュニケーションとの相違点と類似点を検討するためである。対象動物は、ニホンザル、フサオマキザル、であった。また、日英スイスのネットワークを拡張し、フランス、での共同実験も進めた(英滞在前、滞在中のディスカッションにより、訪れず進めることができた)。その中で、キャンベルズモンキーについてデータを得られた。これは、派遣者がフランスとの共同研究を以前からしたのと、受入であるズバルビューアー教授がフランスとの共同研究を長年実施していたので、スムーズに行う利点があったためである。さらに、以前よりデータを積み重ねたテナガザルについても、国際交流の中で突き詰め、そのデータをまとめることができた。本事業の支援を受けて、直接的成果となった公表物として、5点。未公表、投稿準備を2件。以下に列挙。

(項目別)
1)キャンベルズモンキーの音声コミュニケーションにおける会話ルールに関する研究
ヒト以外の霊長類の音声は、その音響構造が遺伝的に制約を受けているため、ヒト以外の霊長類で言語の前駆的なものを見つけることは、これまで疑問視されてきた。あらたなタイプの音声を学習するという証拠は乏しく、そのために言語と霊長類の音声コミュニケーションとの類似性は過小評価されてきた。しかし、「音声の使用法の学習」に関しては、さまざまな霊長類で報告されている。遺伝的に制約を受けた音声を使用する文脈(どの音声をどういう文脈で使うかというルール)は、後天的に学習するというものだ。今回われわれは、ヒト言語にみられる特徴、「会話ルール」について学習がおこるかどうかを検討した。アフリカに生息するグエノンの自発的な発声を観察したところ、コドモは、経験のあるオトナとは異なり、ある決まった会話ルールにまったく従わずに発声していた。さらに、1つは文脈に沿った形で発声された音声、もうひとつは文脈に沿わないかたちで発声された音声という、2種類の音声状況を作り、音声再生実験をおこなった。その結果、2種類の音声文脈の違いを、オトナは区別できたのに対し、コドモはできなかった。本研究は、ヒトの会話とヒト以外の霊長類のコミュニケーションに共通した、会話ルールの存在と、その後天的な学習のプロセスの共通性について、系統的な連続性を示した。イギリス派遣前に本実験は、フランスで実施した。この共同研究で統括的役割を演じ、日英共同研究の足がかりを作った。

2)幼児特徴への視覚的選好性に関する研究(図1)
ヒトは加齢に伴い様々な特徴が変化する。正確な年齢が分からなくても、大まかな年齢(乳児であるか老人であるかなど)は、その特徴をもとにすぐにわかる。こうした年齢クラスの概念が、ヒト以外の動物で存在するかどうか、霊長類2種を対象に、認知実験を行った。パラダイムは、ヒト乳児、サル、イヌで用いられる視覚性対呈示課題を用いた。ニホンザルのアカンボウ(0歳児)の全身写真と性成熟したオトナの全身写真を用いて、自発的な弁別ができるかどうかを検討した。視覚性対呈示課題の結果、ニホンザル個体は、ニホンザルのアカンボウとオトナ写真を自発的に弁別できることが示されたのに対し、興味深いことにグエノンは区別が困難だった。ヒトにとって動物の年齢が分かりにくいのと同様に、グエノンにとってはニホンザルの年齢クラスの区別がつきにくいことが示唆され、年齢クラスの弁別における種特異的なプロセスを示唆した。さらに、面白いことに、弁別能力とは別に、対呈示された写真への注視時間を計測したところ、ニホンザル・グエンンの両種ともに、アカンボウ写真に対して長い注視時間が確認された。すなわち、年齢クラスの概念の有無にかかわらず、アカンボウ写真については、思わず注視時間が長くなることを示した。つまり、アカンボウに対する視覚的な選好性が種を超えて確認できた。動物行動学者のコーラント・ローレンツは、アカンボウにみられる諸特徴が動物の愛情を喚起させ養育行動につながると予言したが(ローレンツの幼児図式仮説)、その萌芽現象をヒト以外の動物で、世界で初めて確認した。本研究も日英派遣前にフランスで実施をした。


図1
ニホンザルに、ニホンザルのアカンボウ写真とオトナ写真を同時に呈示したときの、注視時間。論文より一部改編。薄いグレーがアカンボウへの注視時間を示している。アカンボウに対して注視が長いようだ。

3)聴覚性刺激を用いた感覚性強化法の有効性に関する研究(図2)
ヒト以外の動物では、物に対する興味や選好性を客観的に測定するのは、とても難しい。本実験では、ヒト以外の動物で、音のカテゴリーに対する選好性を計測する方法を確立することを第一の目的とした。用いた方法は、感覚性強化法と呼ばれるパラダイムである。このパラダイムでは、実験空間に2か所の場所(場所A,B)を設定し、場所Aに移動するとあるカテゴリーの音が流れ、場所Bに移動すると別の音のカテゴリーが流れる。その滞在時間を比較して、どちらの音が好むかを判断する。まず、騒音条件で実施したところ、とても大きな騒音(90dB)には滞在せず、話し言葉と同程度の騒音(70dB)によく滞在した。耳障りな音を避け、より心地よい音環境を好むことが示され、パラダイムの有効性を確認した。そのうえで、ヒトでよく知られている協和音の選好性についてサルで初めて検討した。ヒトでは通文化的に協和音への選好性がよく知られているが、サルでは未確認だった。実験の結果、サルでは選好性はなく、ヒト特有な現象であることを示唆した。


図2
感覚性強化法を用いた、サルの滞在時間。2つの場所があり、どちらかに滞在すると、2種類のカテゴリーの内、どちらかの音が流れる。Exp1は実験1で、協和音と不協和音の組み合わせ、Exp2は実験2で、大きな騒音と小さな騒音の組み合わせ。サルは、大きなうるさい騒音を避けて、小さな騒音側に滞在しやすい。五月蠅い音声を避けているためである。滞在時間は、サルの選好性や忌避性に関与しているが、協和音と不協和音の組み合わせではそういう差は認められない。協和音を心地よいと感じたり、不協和音を心地よくないと感じることは、無いか、ヒトのように大きい啓ことではないことを示している。

4)ニホンシカとニホンザルの「異種間コミュニケーション」に関する研究(図3)
世界遺産地として知られる屋久島には、中型の哺乳類としてニホンザルとニホンシカが同所的に生息している。同所的に生息するシカとサルは、同じ採食メニューを利用する。興味深いのは、サルの群れが採食樹に上り果実を食べているときに、その木の下にシカが集まってくることである。樹冠に実る果実を効率的に採食するために、シカが、サルの採食時に発するフードコールを利用しているのではないかと予測を立てて、野外実験を行った。共通した採食樹であるクスノキの下にスピーカーを設置して、サルに採食時に固有に発せられるフードコールと言う音声をプレイバックしたところ、シカが統計的に有意にあつまってくることが示された。この場合、シカがサルの音声を利用する行動は、サルにとって利益も不利益もない。つまり、シカにとって異種であるサルの音声を読み取る行動は、シカの一方向の異種シグナルの利用と考えられ、動物行動学における「盗聴」のよい例と考えられた。それをもとに、異種間コミュニケーションの可能性について論じた。本研究は、日本で実施したが、論文執筆に当たり、英国のグループとの議論が成果をまとめるに当たり大きな力となった。英国国営放送運営のBBC Nature Newsでも取り上げられた


図3
シカに対するプレイバック実験。Playbackと書かれた条件の、Test以降で、シカがスピーカーの周りに集まってきていることを示している

5)フサオマキザルの新規文脈音声の発見と実験的研究
フサオマキザルのコミュニケーションのなかで、とくに新しい音声の利用法について観察を続けている。また、その音声が、柔軟に新規文脈で使用しているのかどうかを実験的にも検討している。実験は終わり、成果をまとめているところである。



(印刷公表物リスト)
1-5は本事業の直接成果 6以降は本事業支援中に得られた間接的成果
1) Lemasson, A. Glas, L., Barbu, S., Lacroix, A., Guilloux, M., Remeuf, K., Koda, H. 2011. Youngsters do not pay attention to conversational rules: is this so for nonhuman primates? Scientific Reports 1, Article number: 22
2) Sato A*, Koda H*#, Lemasson A., Nagumo S., Masataka N.(*Equal contribution著者、#責任著者) 2012 Visual recognition of age class and preference for infantile features:implications for species-specific vs universal cognitive traits in primates. PLoS ONE 7(5): e38387
3) Koda H. 2012 Possible use of heterospecific food-associated calls of macaques by sika deer for foraging efficiency. Behavioural Processes 91(5): 30-34.
4)Koda H, Basile M, Olivier M, Remeuf K, Nagumo S, Blois-Heulin C, Lemasson A. in press. Validation of an auditory sensory reinforcement paradigm: Campbell's monkeys, Cercopithecus campbelli, do not prefer consonant over dissonant sounds. Journal of Comparative Psychology
5) Lemasson A, Guilloux M, Rizaldi, Barbu S, Lacroix A, Koda H. 2013. Age- and sex-dependent contact call usage in Japanese macaque. Primates online first

6) Koda H, Nishimura T., Tokuda TI, Oyakawa C., Nihonmatsu K, Masataka N. 2012. Soprano singing in gibbons.American Journal of Physical Anthropology
7) Koda H., Oyakawa C., Nurulkamilah S., Rizaldi, Sugiura H., Bakar A., Masataka N. 2012. Male Replacement and Stability of Territorial Boundary in a Group of Agile Gibbons. Primates

他2件がunder review(3月末時点)

総括と自己評価:
ヒトとそれ以外の霊長類のコミュニケーションを比較分析する試みは、この30年行われ続けているが、本事業中に、旧世界サル2種、新世界サル、類人猿と幅広く集中的に実験できたことは、研究者自身の修士課程以来の研究の総括となった。フットワーク軽く、さまざまなアプローチに挑戦できたのは、国際共同研究ならではの成果と言える。

達成点:十分な時間が得られ、論文執筆・実験遂行ともにそれなりに順調といえた。欧米のメリハリの利いた生活(ワークと休暇、一日の仕分け)に習い、効率的に仕事をすることができた。国際研究としても、多くの可能性を広げられた。今後のグラント申請につながると思われる。
未達成点:より多くの実験をする予定だったが、そこまでいかなかった。特に、英国でリスザルの実験も実施予定だった。だが、フサオマキザルの実験に終始してしまい、実験のセットアップまでで終わった。

総合としては良くできたが、計画どおりにもいかず、反省点も多かった。