ENGLISH トップ 所長挨拶 概要 教員一覧 研究分野・施設 共同利用・共同研究 大型プロジェクト 国際集会 教育,入試 広報,公開行事,年報 新着論文,出版 教員,職員公募 国際共同事業 霊長類研究基金 リンク アクセス HANDBOOK FOR INTERNATIONAL RESEARCHERS Map of Inuyama サイトマップ
トピックス
コラム・連載 質疑応答コーナー ボノボ チンパンジー「アイ」 頭蓋骨画像データベース 霊長類学文献データベース サル類の飼育管理及び使用に関する指針 Study material catalogue/database 野生霊長類研究ガイドライン 霊長類ゲノムデータベース 写真アーカイヴ ビデオアーカイヴ

京都大学霊長類研究所
郵便番号484-8506
愛知県犬山市官林
TEL. 0568-63-0567(大代表)
FAX. 0568-63-0085

本ホーム・ページの内容の
無断転写を禁止します。
Copyright (c)
Primate Research Institute,
Kyoto University All rights reserved.


お問い合わせ

 

平成27(2015)年度頭脳循環プログラム報告


派遣研究者:松田 一希
研究内容:消化機能の研究

消化機能の研究
本研究では、「人間の多能性」を究明する端緒として、様々な霊長類種の消化機能の多能性の解明を目指しました。霊長類の中でも、特に特殊化した複胃を進化させたコロブス類のサルに注目し、多くの霊長類でみられる単胃による消化機構との比較を通じて、霊長類の消化生理機構の進化メカニズムを検討しました。また本研究の特色は、野生霊長類を対象とした観察データを基盤としつつも、屋内における実験的手法から、霊長類の消化機構を緻密に解明している点です。

東南アジアにおけるフィールドワークは、マレーシアのサバ大学、アフリカでは、ウガンダのマケレレ大学と共同で行いました。いずれもコロブス亜科に分類される特殊化した複胃を有する、テングザルとアビシニアコロブスが主な観察対象でした。野生下での両種の採食行動の観察を行うと同時に、それぞれの種が採食した植物種や、糞サンプルを収集しました。また、採食行動は森林内の食物環境に大きな影響を受けるため、両国において植物フェノロジーに関するデータの収集も行いました。野生霊長類の行動観察から、霊長類は寝る前により多くの食物を摂取し、夜間の時間を使い効率よく食物を消化していることが明らかになりました(Matsuda et al. 2014a)。また、テングザルなどが生息している湿地林を棲みかとする様々な霊長類種に関して、その採食行動や植物フェノロジーについて言及する本の編集を行うことで、より一般的な霊長類の採食生態への理解を深めました(Barnett et al. in press-b)。本著の中の数章については、自身も著者として執筆しました(Barnett et al. in press-a; Bennett et al. in press; Bernard et al. in press; Matsuda et al. in press-a)。湿地林におけるテングザル調査を通して確立した、ボートによるセンサス手法、自動撮影カメラを用いた研究手法についての成果も、論文として出版しました(Ancrenaz et al. 2014; Matsuda et al. 2015a; Matsuda et al. in press-b)。フィールドで収集した糞サンプルは、実験室においてその粒度分析を行いました。複胃を有する霊長類種は、単胃のものに比して、食物をより効率的に消化吸収している証拠として、その粒度が単胃の種に比べてより細かくなっていることを明らかにすることができました。加えて、テングザルの糞粒度は、複胃を有する霊長類種(コロブス類)の中でも特に細かくなっていることから、本種が日常的に反芻行動をし、より食べ物を細かく粉砕することが、消化効率の観点からも適応的であることが証明されました(Matsuda et al. 2014b)。

上述の野生下における霊長類種の観察に加え、より詳細な消化機構を解明するため、シンガポール動物園との共同研究を実施し、マーカーを用いた消化実験を行いました。実験の対象としたのは、テングザル、アカアシドゥクラングール、カオムラサキラングール、ジャワラングールの4種でした。異なるサイズの固相マーカーと、液相のマーカーをサルに食べさせ、その後定期的に全ての糞を回収するという実験でした。糞の定期的な回収だけではなく、サルの餌の摂取量と栄養成分も測定することで、回収した糞中に含まれるマーカーを分析して得られる、食物の消化管内滞留時間だけではなく、摂取した食物の消化速度や消化率を検討できるように実験を行いました。合計で1500個以上の糞を回収し、その糞をオーブンで乾燥させ、全糞サンプルはチューリッヒ大学に郵送しました。その後、チューリッヒ大学を訪問し、共同研究者とシンガポール動物園で収集した糞サンプルを分析しました。その結果、特にテングザルの消化機構の詳細が明らかになりました。霊長類全種の中で、反芻行動が唯一報告されている特別な消化戦略をとるテングザルですが、その消化機構、特に飲み込んだ食べ物が消化されていく過程は、他のコロブス類とは大差のないことを確認しました。つまり、反芻行動を行う動物群のような、前胃内における粒度の異なる食物のソーティング(分離)機構は、胃内で生じていないことが明らかになりました(Matsuda et al. 2015c)。テングザルの詳細な消化機構の解明に加えて、霊長類を利用した消化実験の手法をいかに標準化するかについて、シンガポール動物園で集めた詳細なデータセットを用いて議論することもできました。

チューリッヒ大学での糞分析を終えた後、ゲッティンゲン大学の畜産学部に滞在し、野外で集めたテングザル、アビシニアコロブスの食べる葉の消化効率を計測しました。牛のルーメン液と粉砕した葉を混ぜることで発生するガスを計測し、消化率の指標としました。現在、野外調査で計測した葉の硬度と合わせて、コロブス類のサルが、どういった指標で採食する葉を選択しているのかについて論文を執筆している最中です(Matsuda et al. in prep)。

上記の発見は、ハノイ(ベトナム)、ボゴール(インドネシア)、札幌(日本)、コタキナバル(マレーシア)で開催された国際学会や国際シンポジウムで講演しました。また、ヨーロッパ滞在中には、近隣大学からの招待を受け、積極的に成果を講演しました。本プログラム中による発見を含む、一連の研究成果が評価され、2016年3月には、第20回日本生態学会の宮地賞を受賞しました。

上記の霊長類の採食、消化・生理に関する研究に加え、本プログラムがきっかけとなり活発にコミュニケーションを重ねるようになった、フランスの国際共同研究者と、コロブス類の社会構造と毛づくろい行動に関する包括的な論文を発表することもできました(Matsuda et al. 2015b)。



写真1:チューリッヒ大学獣医学部の入口(左)、構内(中央)、受け入れ教授であるDr. Marcus Clauss氏との研究打ち合わせの様子(右)



写真2:実験室にて採取した牛のルーメン液を用い、テングザルやクロシロコロブスが食べた葉の消化効率を計測している(左、中央)、受け入れ研究者であるDr. Juergen Hummel教授とラボテクニシャンのHerr Jeromin氏と実験中(右)



写真3:ハノイの国際霊長類学会にて、自身が企画したシンポジウムで、テングザルの消化機構について講演



写真4:ウガンダのフィールドステーションにて、お世話になった現地アシスタントたち


写真5:シンガポール動物園で消化実験を行った霊長類種。左からテングザル、アカアシドゥクラングール、カオムラサキラングール、ジャワラングール

 


図1:シンガポール動物園で行った消化実験結果の一部。液相(Co)、固相のマーカー(Cr、La、Ce)が、テングザルでは同時に排出されるのに対し、反芻動物である牛では、液相マーカー、より細かい粒度の固相マーカーの順に排出されていく様子がわかる。つまり、霊長類で唯一、反芻行動が報告されているテングザルだが、その消化機構は、反芻動物とは異なることが明らかとなった(Matsuda et al. 2015, Physiology and Behavior)

(具体的な成果)
著書・論文(査読あり)

Ancrenaz, M., Sollmann, R., Meijaard, E., Hearn, A. J., Ross, J., Samejima, H., Loken, B., Cheyne, S. M., Stark, D. J., Gardner, P. C., Goossens, B., Mohamed, A., Bohm, T., Matsuda, I., Nakabayasi, M., Lee, S. K., Bernard, H., Brodie, J., Wich, S., Fredriksson, G., Hanya, G., Harrison, M. E., Kanamori, T., Kretzschmar, P., Macdonald, D. W., Riger, P., Spehar, S., Ambu, L. N. and Wilting, A. 2014. Coming down from the trees: Is terrestrial activity in Bornean orangutans natural or disturbance driven? Scientific Reports 4. DOI: 10.1038/srep04024

Barnett, A. A., Hawes, J. E., Pontes, A. R. M., Layme, V. M. G., Chism, J., Wallace, R., Cardoso, N. d. A., Ferrari, S. F., Beltrao-Mendes, R., Wright, B., Haugaasen, T., Cheyne, S. M., Bezerra, B. M., Matsuda, I. and dos Santos, R. R. in press-a. Survey and study methods for flooded habitats. In (Barnett, A. A., Matsuda, I., and Nowak, K., editors) Primates in Flooded Habitats: Ecology and Conservation, pp. Cambridge University Press, Cambridge

Barnett, A. A., Matsuda, I. and Nowak, K. in press-b. Primates in Flooded Habitats: Ecology and Conservation. Cambridge University Press, Cambridge.

Bennett, A., Parolin, P., Ferreira, L. V., Matsuda, I. and Burgess, N. in press. Flooded and riparian habitats in the Tropics: community definitions and ecological summaries. In (Barnett, A. A., Matsuda, I., and Nowak, K., editors) Primates in Flooded Habitats: Ecology and Conservation, pp. Cambridge University Press, Cambridge.

Bernard, H., Matsuda, I., Hanya, G., Phua, M.-H., Oram, F. and Ahmad, A. H. in press. Feeding ecology of the proboscis monkey in Sabah, Malaysia, with special reference to plant species-poor forests. In (Barnett, A. A., Matsuda, I., and Nowak, K., editors) Primates in Flooded Habitats: Ecology and Conservation, pp. Cambridge University Press, Cambridge.

Matsuda, I., Akiyama, Y., Tuuga, A., Bernard, H. and Clauss, M. 2014a. Daily feeding rhythm in proboscis monkeys: a preliminary comparison with other non-human primates. Primates 55:313-326. DOI: 10.1007/s10329-014-0407-5

Matsuda, I., Ancrenaz, M., Akiyama, Y., Tuuga, A., Majalap, N. and Bernard, H. 2015a. Natural licks are required for large terrestrial mammals in a degraded riparian forest, Sabah, Borneo, Malaysia. Ecological Research 30:191-195. DOI: 10.1007/s11284-014-1219-1

Matsuda, I., Fukaya, K., Pasquaretta, C. and Sueur, C. 2015b. Factors Influencing Grooming Social Networks: Insights from Comparisons of Colobines with Different Dispersal Patterns. In (Furuichi, T., Yamagiwa, J., and Aureli, F., editors) Dispersing Primate Females, pp. 231-254. Springer,

Matsuda, I., Nakabayashi, M., Otani, Y., Yap, S. W., Tuuga, A., Wong, A., Bernard, H., Wich, S. A. and Kubo, T. in press-a. Comparison of Plant Diversity and Phenology of Riverine and Mangrove Forests with those of the Dryland Forest in Sabah, Borneo, Malaysia. In (Barnett, A. A., Matsuda, I., and Nowak, K., editors) Primates in Flooded Habitats: Ecology and Conservation, pp. Cambridge University Press, Cambridge.

Matsuda, I., Otani, Y., Bernard, H., Wong, A. and Tuuga, A. in press-b. Primate survey in a Bornean flooded forest: evaluation of best approach and best timing. Mammal Study.
Matsuda, I., Sha, J. C., Ortmann, S., Schwarm, A., Grandl, F., Caton, J., Jens, W., Kreuzer, M., Marlena, D., Hagen, K. B. and Clauss, M. 2015c. Excretion patterns of solute and different-sized particle passage markers in foregut-fermenting proboscis monkey (Nasalis larvatus) do not indicate an adaptation for rumination. Physiology & Behavior 149:45-52. DOI: 10.1016/j.physbeh.2015.05.020

Matsuda, I., Tuuga, A., Hashimoto, C., Bernard, H., Yamagiwa, J., Fritz, J., Tsubokawa, K., Yayota, M., Murai, T., Iwata, Y. and Clauss, M. 2014b. Faecal particle size in free-ranging primates supports a 'rumination' strategy in the proboscis monkey (Nasalis larvatus). Oecologia 174:1127?1137. DOI: 10.1007/s00442-013-2863-9

国際学会

口頭発表

Matsuda I, Tuuga A, Clauss M「Nocturnal activity in a flooded forest primate ? the proboscis monkey」XXV International Primatological Society Congress. ハノイ(ベトナム).2014年8月 *企画シンポジウム「Moonlighting ? the nocturnal ecology of diurnal primates」企画者:A Barnett, I Matsuda

Md-Zain BM, Abdul-Latiff MA, Rahman NA, Ruslin F, Roos C, Matsuda I, Ampeng A, Tuuga A, Yaakop S「Phylognetic relationships of Trachypithecus cristantus and Trachypithecus obscurus in Malaysia」XXV International Primatological Society Congress. ハノイ(ベトナム).2014年8月

Matsuda I「Following the Trail of the Elusive Proboscis Monkey in Borneo」Biological Colloquium in Institut Pluridisciplinaire Hubert Curien, Universite de Strasbourg, Strasbourg, France ストラスブール(フランス)2014年12月(招待講演)

Matsuda I 「Proboscis Monkey - Mysterious Monkey in Borneo」 Biological Colloquium in University of Veterinary Medicine Hannover ハノーバー(ドイツ)2015年1月(招待講演)
Matsuda I 「Following the Trail of the Elusive Proboscis Monkey in Borneo」International Conference on Rainforest Ecology, Diversity and Conservation in Borneo コタキナバル(マレーシア)2015年6月9−11日(招待講演)

Matsuda I「Regurgitation and remastication in free-ranging proboscis monkeys」 The 4th International Congress on Asian Primates ボゴール(インドネシア)2014年8月(招待講演)

Matsuda I, Hummel J , Sha JCM, Tuuga A, Clauss M.「Ruminant-Like Primate, Proboscis Monkey in Borneo: Physiological Similarity and Difference from Functional Ruminants」Vth International Wildlife Management Congress 札幌2015年7月

ポスター発表

Otani Y, Matsuda I, Tuuga A, Bernard H「Usage of riverine forest by two species of macaques, in Borneo」XXV International Primatological Society Congress. ハノイ(ベトナム).2014年8月

国内学会

口頭発表

松田一希、Physilia CYS、Sha JCM、Clauss M「霊長類の休息姿勢:なぜコロブス類は垂直姿勢を好むのか?」第31回日本霊長類学会 京都 2015年7月

松田一希「どうやって論文をまとめるか―効率の良い書き方」第31回日本霊長類学会(自由集会) 京都 2015年7月

松田一希「より充実した研究を目指して―若手霊長類研究者へのエール」(企画集会)第31回日本霊長類学会 京都 2015年7月

松田一希、John Sha、Ismon Osman、Sen Nathan、清野悟、香田啓貴「テングザルの鼻はなぜ長い?」第63回日本生態学会 仙台 2016年3月

松田一希「テングザル研究:パワーエコロジーに未来はあるか?」(宮地賞受賞記念講演)第63回日本生態学会 仙台 2016年3月