第4回、第5回(2002年4月18日、22日)の授業への質問に対する回答
野生状態と違う条件で飼育することの影響(気候、別種のサルがすぐそばにいること、ストレスによって毛を抜くことなど)についての質問がいくつかありました。こういった問題もたいへん面白いのですが、私は野生動物の研究者なので、飼育動物特有の問題についてはほとんど無知です。もう一度動物園に行って、飼育係の人に聞いてみることをお勧めします。
それから、動物園で皆さんが観察中に動物が見せた行動についての質問がいくつかありました。分かる範囲でお答えしましたが、そのときその動物がたまたま取った(と思われる)行動については、その理由を説明せよといわれても今となってはお手上げです。
動物園で見たことを、誤解している人がいました。サル山にいたサルは「アカゲザル」です。ニホンザルとは非常に近縁ですが、別の種です。アカゲザルはニホンザルよりやや尾が長いのが特徴です。また、マンドリルは確かに自分で毛を抜いてはげている部分がありましたが、お尻にはもとから毛がありません。
サルが子殺しをするということに、衝撃を受けた人がたくさんいたようです。メスは自分の赤ん坊を殺したオスとなぜ交尾できるのかとか、サルには悲しみの感情はないのか、などの感想もありました。メスにとっても、せっかく生んだ赤ん坊を殺されるのは損ですから、赤ん坊を守ろうと頑張って抵抗します。しかし結局はオスにはかなわず、殺されてしまうのです。その後も(食物や捕食者の条件により)群れを出て行くわけにはいかない。人間の感情としては納得できないでしょうが、すでに赤ん坊を殺されてしまったメスとしては、たとえ自分の赤ん坊を殺したオスであっても、交尾して一からやり直すのが最善の方法だといえるのです。もちろん、サルがどう思っているかは分かりません。これは、「そのようにふるまうメスは、そうしないメスに比べ自分の遺伝子をより次世代に伝えることができる」という説明です。
また、子殺しの話を聞いてメスはやられっぱなしと思った人や、逆にオスの分布はメスの分布で決まるということからメスのほうが優位だと感じた人がいました。実際の社会交渉の場面では、オスのほうがメスより優位で、たとえばいい食物を目の前にしても、メスはオスの前ではその食物を取りません(もっとも、中にはメスのほうが強いサルもいます。動物園にもいたワオキツネザルとその仲間がそうです)。子殺しのときのように結局オスにはかなわない、ということもありますが、オスもメスの行動のすべてをコントロールできるわけではありません。少なくとも血縁同士で暮らしているメスを無理に引き剥がしたりするほどの力はありません。また、サルのオスはメスに交尾を強制することができません。どんなに強いオスでも、メスがうずくまって交尾を拒否したら交尾はできないのです。そんなわけで、オスとメスのあいだは、どっちがどっちを支配しているかのような、単純なことではないといえそうです。
Q.霊長類を動物園で飼育することについてはどんな法律があるのか
A.すべての霊長類は「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)」(日本では通常「ワシントン条約」として知られています)に登録されています。この条約には三段階の規制があり、もっとも厳しい附属書Tに載せられた種は商業的取引が禁止されます。類人猿など絶滅の恐れの高い種がここに入ります。他の霊長類はすべて附属書Uに記載されており、国際商取引には政府の許可が必要です。現在動物園には附属書Tに記載された種もいますが、これらはこの条約の発効以前に原産国で捕まえられた個体の子孫で、現在は野生由来の個体を取引することは禁止されています。ニホンザルを日本国内で取引することはこの条約の対象外ですが、鳥獣保護法という法律があって、野生ニホンザルを捕獲したり、飼育することには都道府県知事の許可が必要です。
Q.個別の檻に入っていたサルは単独性か
A.違います。それぞれのサルの社会は次の通り。シロテテナガザル:ペア型。シシオザル:母系複雄または単雄複雌群。マンドリル:不明。フサオマキザル: 母系複雄複雌群。シロガオサキ:ペア型。ブラッザグエノン:ペア型または母系複雄複雌群。ワオキツネザル: 母系複雄複雌群。ハヌマンラングール: 母系複雄または単雄複雌群。ゴリラ:非母系単雄複雌群。チンパンジー:父系複雄複雌群。ショウギャラゴ:単独性。スローロリス:単独性。オランウータン:単独性。
Q.ゴリラの頭のこぶのようなものはなにか
A.ゴリラのオスは側頭筋というものを噛むための筋肉が発達しており、頭蓋骨のてっぺんまでその筋肉がついています。それでこぶのように見えるのです。
Q.マンドリルのオスの皮膚は生まれたときから派手なのか
A.人間の男性のひげや女性の乳房のように、性的に成長して現れる特徴です。
Q.マンドリルの顔の色はなぜ派手なのか
A.顔の色の派手なオスはメスによくもてるようで、その結果子供をたくさん残し、その息子はみな顔が派手で、…ということを繰り返すうちマンドリルのオスはみな顔が派手になっていったと考えられます。オランウータンのオスの顔の横のひだ、長い毛なども、それがとくに生存に有利なわけではなく、メスをひきつけるための特徴でしょう。
Q.サルには耳がないように見えた
A.ありますが、耳介が毛に隠れて見えにくくなっています。
Q.サルのメスに嫉妬はあるか
A.オスには明らかに嫉妬に似た感情があります。優位なオスは劣位のオスがメスと交尾するのを必ず邪魔するからです。しかしメスには、普通そのような感情はないようです。サルのメスが子供を残すためにはオスは種をつけてくれればよく、あとはそのオスがどこかに行ってしまっても大して困りません。ではなぜ人間の女性には嫉妬があるのか?それは子供を作った後の人の男性と、サルのオスとの違いを考えてみたらおのずから分かるかもしれません。詳しくは性の進化についての授業でお話します。
Q.どんなオスがメスにもてるのか
A.よくわかりません。ニホンザルでは群れにむかしからいるオスよりも、新しく現れたオスをメスは好むようです。
Q.子殺しをする種ではどのようにして子供を殺すのか
A.かみ殺します。
Q.子供を殺さずに群れから追い出すだけではだめなのか
A.離乳してしまったオスの子供は殺さずに群れから追い出します。また離乳したメスの子供は殺しません。母親の発情を止めているのは離乳していない赤ん坊だけなので、赤ん坊だけを殺します。殺さずに母親から引き離すことは不可能なのでしょう。
Q.複雄単雌型でもメスが交代するときに子殺しはあるのか
A.ありません。単雄複雌型のオスと違い、複雄単雌型ではもともとペアが基本なのであぶれた雌はそれほどおらず、オスをめぐっての競合は激しくありません。したがってあぶれたメスが群れからメスを追い出すという行動は観察されていません。また、群れのメスが死んでしまった場合、残されたオスが別のメスと新たに群れを作るということはあります。その場合、残された子供は(別に殺されなくても)母親から母乳をもらえずに死んでしまうでしょう。いくらオスが子育てを手伝うといっても、母乳を与えるということまではできないのです。
Q.他の動物にも子殺しはあるか
A.サルではだいたい20種くらいから報告があります。サル以外ではライオンが有名なところです。
Q.母系の群れが多いのはサルだけか
A.メスが生まれた場所にとどまるというのは、哺乳類の一般的傾向です。メスは食物をできるだけ多く獲得するために、なわばりを作る。なわばりをめぐって競合が起こるわけですが、同じ競合が起きるなら、自分が生まれ育ってよく知っている場所に、また血縁の近い個体といたほうがよい、というのがその説明です。
Q.ゴリラの群れはオスが死んだ後、ばらばらになるより息子が引き継いだ方が安定するのではないか
A.また、息子はその群れで生まれ育ったわけですから、そのまま群れを引き継ぐと、自分の姉妹と交尾してしまうかもしれません。また、若い息子は、群れのメスを捕食者や他のオスから守るには、頼りないことが多いのでしょう。
Q.ゴリラのオスがメスを引っ張ってくるということは、ゴリラも個人に恋愛感情を抱くということか
A.ゴリラのオスは、人の男性にくらべれば明らかに手当たりしだいにメスを奪ってくるようです。
Q.ゴリラは捕食者に食べられることはあるのか
A.ゴリラでは報告がありませんが、チンパンジーがライオンに食べられたという報告があります。授業でもチラッと話しましたが、襲われるということでは、ゴリラのメスにとっては捕食者よりゴリラのオスのほうが重要かもしれません。ゴリラのオスは他の群れからメスを奪ってきますが、そのときにメスをめぐってオス同士で争いが起き、メスが持っていた子供が死んだりすることがあります。そういう乱暴なオスから身を守る必要というのも、ゴリラが群れを作る大きな理由の一つでしょう。
Q.複雄単雌型のサルではなぜオスは自分の子供ではない赤ん坊の世話をするのか
A.メスは両方のオスと交尾をするので、どちらのオスも父親の可能性があります。ですからまったく無駄な行動をしているわけではないようです。
Q.サルのオスは自分の子供を他の子供と見分けられるのか
A.単雄群では、事実上群れのオスがメスの交尾を独占するので父親はほぼ分かります。
Q.サルは血縁をどの程度認識しているのか
A.生まれたときにすぐに剥奪されてしまっては血縁は認識できません。またメスが複数のオスと交尾した場合は、誰が父親かはサルには分からないし、観察者もDNAを使った特別の方法を使わねば分かりません。ですから、血縁個体は母子のつながりを核にした、生まれたときから親しく付き合っている個体として認識されます。ニホンザルでは3親等(おじおばと甥姪)くらいまでの血縁個体とは交尾を避けあうようですから、サルが血縁と認識しているのはこのくらいまでのようです。
Q.群れの中でどの程度意志疎通ができるのか
A.霊長類の群れの中でもっとも洗練されたコミュニケーションの例は、サバンナモンキーの捕食者に対する警戒音です。サバンナモンキーは、ワシなど空からの捕食者、ヘビ、ヒョウに対する三つの警戒音を使い分けていました。テープレコーダーでそれぞれの音を聞かせると、ワシに対する警戒音を聞いたサルは木から降りて地面に隠れ、ヘビに対する警戒音を聞いたサルは立ち上がって地面を眺め、ヒョウに対する警戒音を聞いたサルは木に登ったそうです。さらに、それぞれのサルは群れの中のどの個体がその音を出したのかを聞き分けていたそうです。
Q.群れを出て行くサルはどのくらいまで成長したら群れを出て行くのか
A.生まれた群れを出るのは性成熟に達する前後です。2回目に群れを出る期間は、種により個体によりさまざまです。ニホンザルのオスは3-4年で離脱しますが、ボノボのメスのように一生に一度しか移籍しないものもいます。
Q.群れで暮らしている種類のサルにも一匹狼的なサルはいるのか
A.います。ニホンザルのオスなら、群れを出てからしばらくは単独生活をして、他の群れを探し、どのこの群れに入るかを決めるようです。
Q.食べ物が多いと群れのが大きいのか
A.食物の量そのものより、重要なのはその分布です。非常に大きな木で果実がたくさんなっていれば、一本の木でかなりたくさんのサルがいっしょに食べられるので、群れの中での競合は小さいでしょう。一方、群れと群れとのあいだでは、そういう価値のある木をめぐっては、とくに競合が生じやすいでしょう。つまり、群れを作ることの不利益が小さく、利益が大きいので、群れは大きくなると考えられます。
Q.力以外に集団内で地位を示す行動はあるか
A.動物園では攻撃的交渉が多くどうしても力を誇示しているように見えてしまうのですが、自然状態では争いごとはもっと少なく、順位を誇示するような行動はそれほど見られません。むしろ、順位が低い個体が優位者が来たら身を避けるなどして、自制することによって順位が保たれているように思えます。
Q.サルが一生に産む子供の数はどのくらいか
A.ニホンザルのメスでは5歳で繁殖をはじめ、25歳くらいまでのあいだに2年に1回くらいの割合で子供を作るとして、最大10頭くらいでしょう。
Q.オスに適している環境、メスに適している環境というのはあるのか
A.ダーウィンフィンチが旱魃のときに嘴が大きくなったという話を2回目の授業で例に出しました。このとき、実はオスのほうが生き残る割合が高かったのです。それはオスのほうが嘴が大きいからです。しかし、こういう状態は安定ではありません。メスのほうが少ない状態では、娘を産んだほうが息子を産んだ場合よりたくさん孫ができるでしょう。なぜならメスがずっと少ないので、息子を産んでも交尾相手を見つけられずにあぶれてしまうと考えられるからです。そんなわけで、一時的にオスが多くなっても、結局はオスとメスはだいたい同じくらいに戻ってしまいます。
Q.捕食者がいないところに移したら群れを作るのをやめるのか
A.捕食者がいる状況に適応している群れ生活をしているサルは、すでに群れで生活するような遺伝的な傾向を持っているので、捕食者がいなくなったからといってもすぐに止めることはないでしょう。ただし、突然変異が起こるほど十分な時間がたち、集団の遺伝子頻度が変わるほど何世代もそういう状況に置けば群れを作ることをやめるかもしれません。
Q.違う種類のサルにあったときはどうするのか
A.千差万別です。お互い無関心なもの、一方が片方を追い払ってしまうもの、チンパンジーのように他のサルを食べてしまうもの、あるいはアフリカのグエノンや新世界ザルのタマリンの仲間のように、別の種の群れがあたかもひとつの群れのように一緒に動くことがあります。こういう群れを混群といいます。
Q.サルも日焼けするのか
A.そういうことはないような気がしますが、私自身、考えたことがありませんでした。からだに毛がほとんど生えていないのもヒトの大きな特徴ですので、日焼けが問題になるのもヒトだけかもしれません。
Q.母系の群れではオスはどれくらいの頻度で入れ替わるのか
A.おおむね、3-4年で交代するようです。
Q.いとこ同士で子供を作ると障害が多いと聞くが本当か
A.本当です。精子や卵などの生殖細胞を作るときに、ある働きをする遺伝子に突然変異が起こると、その遺伝子が働くなることがしばしば起こります。しかし実際には有性生殖をする生物では父親と母親両方から遺伝子を受け取るので、一方の親から受け継いだ遺伝子が正常に働かなくても、もう一方の親から受け継いだ遺伝子がちゃんと機能して、正常に生きていけることが多いのです。ところが、両親が近親者の場合、同じ遺伝子を共有している可能性が高いので、両方の親から正常に機能しない遺伝子を受け継いでしまう可能性が高くなります。そうなれば、受精しても流産する率が高いでしょうし、生まれても障害を持つことが多くなります。いとこも近親者ですから近親交配による悪影響が出る可能性があります。ただ、いとこ同士が突然変異でできた正常に働かない遺伝子を共有する可能性は最大で0.54=0.625%にすぎません。障害を持つ子供が生まれる確率は、近親者以外の結婚の場合1%で、いとこどうしの場合は1.8%だそうです。これを多いと思うか大して変わらないと思うかは人それぞれでしょう。
<文責: 半谷吾郎 (hanya<atmark>pri.kyoto-u.ac.jp)>
<問い合わせ先: 半谷吾郎 (hanya<atmark>pri.kyoto-u.ac.jp)>
<最終改変日: 2004年11月24日>