第6回(2002年4月25日)の授業への質問に対する回答
前回お見せしたビデオの解説には、私が同意できない点が1ヶ所あります。私は、ニホンザルの母親はコドモを教育しているとは思いません。ニホンザルの母親が子供をほったらかしにした場合、放って置かれた子供は結果的にたくましく育つかもしれませんが、母親がそれを意識しているとは思えません。
また、「サルはミネラル分を取るために海水を飲む」「秋に脂肪をためて冬はそれを消費して過ごす」などのことも、サルは自分で栄養計算をしているわけでも、またこれから訪れる冬を予測し、意識してそうしているわけではありません。彼らをそうさせるのは海水を「おいしい」と感じるからであり、秋に脂肪をためこむのは食料条件がよいときには食べられるだけ食べてしまうという性質を持っているからに過ぎません。そういう性質を持つサルは、ミネラル分をバランスよく取ることができたり、冬をうまく乗り切ることができたりして、結果的によく生き残り、より多くの子供を残した(つまりその性質が集団に広まった)わけですが、そうなることを別にサル自身が理解しているわけではありません。ですからビデオの説明を聞いて「サルは賢い」とか、「ヒトはサルより劣っている」と思うのは見当違いです。ヒトがおいしいと思うものを食べたいだけ食べるというのは、現代の日本では高血圧やら肥満やらを引き起こすよくないことと思われています。本当にそうでしょうか?ヒトの歴史のほとんどの時代は、野生のニホンザルと同様、食物は探すのがたいへんで、過食が問題になることはなかったでしょう。おいしいと思うものを食べたいだけ食べてしまうという性質は、ニホンザルの例で分かるように、食物が限られているときには非常に有利な性質です。現代日本人は、豊かになったがゆえに健康のためにおいしいと思うものを気がすむまで食べる、ということができなくなってしまいました。悲しいことです。
Q.日本でいちばん大きなサル関係の施設はどこか
A.愛知県犬山市に名鉄が作った財団法人「日本モンキーセンター」が経営しているサル専門の動物園「日本モンキーパーク」があります。京都市動物園の5、6倍くらいの種類のサルがいます。そのとなりに、京都大学霊長類研究所があります。サルの研究所としては世界でももっとも大きな研究所のひとつです。
Q.ミトコンドリアDNAのタイプが違うと、どのくらいサルの性質に違いがあるか
A.授業でお話したDNAの領域は、遺伝子ではない無意味な配列なので、目に見える違いとしては現れません。
Q.南限のサルはなにか
A.アフリカには南の端の喜望峰までサルがいます。ブルーモンキー、サバンナモンキー、チャクマヒヒです。ここは南緯34度で、日本でいうと下関、徳島付近に相当します。南米ではアルゼンチンの南緯30度に住むブラウンホエザルが南限です。ここの緯度はほぼ屋久島と同じです。
Q.寒い地方のヒトも脂肪を蓄えるのか
A.実はノーです。イヌイット(エスキモー)の人は冬でも脂肪は増えません。正確には、多少は増えるでしょうが、日本人に比べてとくに増えるということはないようです。ヒトは冬を乗りきるのにサルとはまったく違うことをやっているのです。
Q.もし冬に人がえさをやってもサルはそれを食べずに脂肪を消費するのか
A.もちろん、人が与えたものを食べるでしょう。冬にえさをやることは栄養状態を格段に改善するので、サルはどんどん赤ん坊を生み、数が瞬くうちに増えます。全国のサルを餌付けしているところではサルの人口増加が大きな問題です。
Q.サルはどのくらいの寒さまで耐えられるのか
A.ニホンザルの生息地でもっとも寒いのは、長野県の上高地です。ここは2月の平均気温は札幌より低く零下7℃です。寒いときには零下20℃よりも下がることもあるでしょう。このような寒さに生理的にどのように適応しているのかは興味のあるところですが、よくわかっていないようです。
Q.氷河期はどのくらい寒かったのか
A.もっとも寒かった最終氷期には、日本付近の平均気温は今より7-9℃低かったと考えられます。これは、現在の東京と札幌の気温差に相当します。上高地の気温が札幌よりやや低いことを考えると、最終氷期には北関東あたりにニホンザル分布の北限があったと考えるのは、つじつまがあっているといえると思います。
Q.冬にサルが行動しないのは冬眠とは違うのか
A.冬にはサルはできるだけ動かないようにしますが、それでも吹雪の日でなければ少しは動き、食物を食べます。冬眠は穴などに潜って代謝を下げ、なにも食べずに冬をすごすことで、ニホンザルにはその能力はありません。霊長類ではごく一部の原猿が夏の乾燥の厳しい時期に夏眠をします。
Q.ニホンザルは冬には毛が増えるのか
A.ニホンザルは1年に1回、6月ごろに換毛します。その毛はだんだん伸びていき、12月ごろに最大になります。ですから冬に毛の長さは最大になります。本数は変わりません。
Q.雪の上を歩いて冷たくはないのだろうか
A.多少は冷たいでしょうが、ニホンザルの手の皮・足の皮の下は1cmくらい結合組織に覆われいて、ヒトほどには寒さは感じないと思います。
Q.食物の少ない地方にも肥満のサルはいるか
A.脂肪を溜め込んだ時期には、肥満に見えるかもしれません。でも溜め込んだ脂肪を冬の厳しい時期には消費され、冬が終わるころにはがりがりになるでしょう。本当の肥満というのはヒトと人に飼われている動物だけに起こることです。
Q.サルは春まで冬芽を残しておく知恵はないのか
A.サルにそこまで先のことを予測しろというのは、無理な話です。それにたとえわかっていたとしても、他に食べるものがなければそうするしかないでしょう。それから、サルは確かに植物の種子を散布しますが、これも植物のためを思ってやっていることではもちろんありません。実際にいくつかの種類の植物の種子をサルは全部かみ割ってしまいます。植物は種子は散布してもらいたいが種子は破壊しないでほしい。そのために種子を堅くしたり毒を含ませたり、いろいろな工夫をします。一見サルと植物の両方にとって利益のあるように見える現象でも、実際は利己的にふるまおうとする両者の妥協の産物なのです。自然界に見られる共生関係は、決して言葉のイメージほどには甘いものではありません。
Q.下北のサルは長年そこに暮らしていたのだから寒さに対してもっと進化をしてもよいはずだ
A.授業で話した通り、氷河期には東北ではサルは絶滅しました。下北のサルがそこに住み始めたのはせいぜい1万年前のことです。これは進化が起こるには短すぎます。下北のサルは「長年」そこに暮らしてきたのではないのです。
Q.ニホンザルはどのようにして氷河期を乗り切ったのか
A.東北地方では絶滅してしまったのですから、むしろニホンザルは氷河期を乗り切ることができなかった、という言い方のほうが正しいでしょう。結局ニホンザルが耐えられるのは現在の東北地方程度の寒さが限界だったのでしょう。
Q.なぜわざわざ寒い思いをして北に住むのか/南へ移住したらよいではないか
A.確かに北日本は条件の厳しいところですが、住めないわけではありません。南へ移住したらといっても、移住先に別の群れがいたら、そこで食物をめぐって争うよりは、厳しいけれど寒いところで暮らした方がよいこともあるでしょう。
Q.下北のサルは屋久島のサルより我慢強いか
A.さあどうでしょう…。屋久島の研究者としては屋久島のサルの肩を持ちたくなりますが。
Q.北のサルと南のサルではどちらが大きいか
A.北のサルのほうが体は大きいのです。体が大きい方がエネルギー効率がいいという話をしましたが、寒いところではなおさら熱を逃がさないような体形にならないといけないので、体が大きくなります。
Q.関東のサルと関西のサルには違いがあるか
A.遺伝的には違います。屋久島と下北くらい非常に離れると、体の大きさのように見た目にも違いは現れてきますが、関東と関西くらいでは見た目では変わりはあまりないでしょう。
Q.暑いところのサルは寒いところでも暮らせるか
A.実際にやってみなくては分かりませんが、同じニホンザルなら、しばらく寒いところに馴らし、その土地の食べ物を覚えさせれば、何とかやって行けると思います。熱帯のサルはおそらくだめでしょう。彼らは脂肪蓄積の能力も体温調節の能力もニホンザルより劣っていると考えられるからです。
Q.夏もエネルギー摂取量が少ないのはなぜか
A.春は若葉を食べますが、若葉は繊維質が少なくタンパク質が多く、質の高い食物です。秋は木の実がなり、ニホンザルにとって食物が豊富です。夏はそういった質の高い食物の端境期にあたり、サルは木の葉、それも若葉ではなくて成熟した葉などを食べます。成熟した葉は繊維質が多くそれほどいい食物とは言えません。それで夏もエネルギー摂取量が少ないのです。ただし、屋久島では夏に結実する果実もありますから、夏がそれほど悪いわけではないと思います。
Q.屋久島のサルの行動圏は季節によって変わるのか
A.海岸部では変わりません。標高が上がるにつれ、少しずつ季節変化が見られるようになります。私が調査していた標高1000m付近の群れは、6月から9月にかけて高度で約100mくらい上部を利用していました。中部山岳地帯では2000m近い季節移動をする群れもあります。
Q.屋久島のサルに捕食者はいるか
A.いません。本土では大型のワシがサルを襲う可能性がありますが、屋久島にはそういう動物はいません。
Q.ニホンザルとヤクシマザルの関係は何か
A.「ヤクシマザル」というのは、ニホンザルのうち、屋久島に住むもののことを言います。ヤクシマザルも紛れもなくニホンザルの一員ですが、本土のサルと多少違う点もあるので、そう呼ぶことがあります。
Q.現在の朝鮮半島にもサルはいるか
A.いません。化石は出土していますが、氷河期に絶滅してしまったようです。
Q.サルの掟とはどんなものか
A.別にサルには「これを守らなかったらみんなから制裁を受ける」というような意味の掟はありません。「自然界の掟」というような言葉を聞くことがありますが、それは「食物が多ければサルの数も多い」「病気にかかれば死ぬ」というくらいの、「傾向」とか、「法則」とでも言うべきものを、格調高く?言い換えただけのことです。テレビ番組ではそれでいいでしょうが、生物を科学的に理解しようとするときには、そういう誤解を招きやすい言葉は使うべきではないでしょう。
Q.群れ同士が争うときに誰が先頭になって戦うのか
A.若いオスや子供です。群れの中心であるはずのオトナメス、もっとも強いはずのオスはたいてい後ろの方にいることが多いようです。もっとも、ニホンザルでは「戦う」というほどのことは起こりません。せいぜい大きな群れが小さな群れを追い払う程度です。
Q.サルには食物の好き嫌いはあるのか
A.野生のサルはそれほど贅沢なことは言っておられませんが、おそらく多少はあると思います。
Q.海水は塩分が濃くてのどが乾くのではないか
A.「塩分」というのは、海水に含まれる金属イオン(Na+、Mg+)などのことで、「ミネラル(=鉱物=金属)分」というのと同じことです。サルはまさに「塩分」を取るために海水を飲んでいるのです。
Q.頬袋はどんなサルにあるのか
A.旧世界ザルです。
Q.オスがメスに交尾を求めることはないのか。ビデオでは逆だった
A.あります。メスに振られてばかりのオスというのもいます。
Q.サルは子孫を残すためだけに交尾をするのか
A.妊娠してしまってからも発情して交尾をすることがあります。ですから必ずしも子孫を残すためだけではないようです。詳しくは性の進化の授業でお話します。
Q.オスは子育てをしないのか
A.ニホンザルはしません。ニホンザルのメスは複数のオスと交尾するので、そもそも赤ん坊の父親が誰かはオスにも母親にも(観察している人間にも)分からないのです。
Q.若いオスも赤ん坊に興味を持つのか
A.持たないことはありませんが、メスのコドモの方がはるかに積極的に赤ん坊に興味を示します。休息時間にオスの子供は集団で遊ぶのを好み、メスのコドモはひとり遊びや赤ん坊の世話をするのを好むなど、性成熟する前からオスとメスには行動に違いがあります。
Q.最近アレルギー性疾患が増えているのは寄生虫を駆除したからだといわれているが、サルはどうなのか
A.現代日本人のように過度に「清潔」にしていると、ほんの少しの刺激にからだが過敏に反応して、アレルギーが起こります。ニホンザルが「過度に清潔」になっているとは考えられないので、現代人が苦しむようなアレルギーは基本的にはサルにはないのですが、ただスギ花粉症だけはあります。これは高度成長期に日本中の森をどんどん切ってスギの林に変えていったからで、サル自体に原因があるのではなく、スギ花粉の量が最近激増したためだと考えられます。
Q.けがをしたら治らないのか/けがをしたときには自然に治るのを待つのか、薬は使わないのか
A.けがをしたニホンザルがすることはせいぜいなめるくらいですが、それでもこれは助からないだろうと思うような傷でもいつのまにか治っていてびっくりすることがよくあります。回復力はかなりあると思います。ニホンザルでは報告がありませんが、チンパンジーは薬を使うようです。動きが緩慢で元気がなかったサルが、ふだんは食べない葉を食べ、翌日には元気になったということが繰り返しありました。その葉の成分には、抗生物質が含まれており、現地の人も薬草として利用していたのです。チンパンジーの薬草利用・自己治療行動については、杉山幸丸編著「霊長類生態学」(京都大学学術出版会)の第4章を読んでください。
Q.けがをしたサルは面倒を見てもらえるのか
A.サルは、同じ群れのサルのけがや病気に対して無関心です。どうもニホンザルには他の個体の気持ちになって考えるという能力はないようです。したがって、ニホンザルは他のサルをだますこともしません。
Q.子供が死んだら母親は埋めたりするか
A.しません。子供がまだ幼いときに死んでしまった場合、死体がミイラのようになってもいつまでも抱えて動いたりすることがあります。ニホンザルには死という概念はないようです。
Q.なぜコドモのサルの死亡率が高いのか
A.コドモは免疫システムや体の作りが未完成で病気にかかったりひどいけがをしやすいこと、母親の母乳に依存しているあいだは母親の栄養状態が悪くなれば他に食物がなく飢えてしまいやすいこと、また(これはニホンザルではあまり関係ありませんが)捕食者に狙われやすいためです。
Q.オトナまで成長できるサルはどのくらいか
A.屋久島では1歳まで生き延びるのが75%、性的に成熟する5歳まで生きるのが60%、完全に成長が終わる10歳までが20%くらいです。
Q.サルの寿命はどのくらいか
A.野生状態では、20歳を越えるサルはあまりいないと思います。餌付けされた嵐山のサルでは、最高記録は33歳です。
Q.サルは何歳くらいから衰え始めるか
A.これも野生かどうかでかなり違います。まあ20歳くらいと思いますが、実際にはよぼよぼのサルというのを私は屋久島で見たことがありません。野生では衰え始めるとそう長くはいきられないためでしょう。
Q.サルの妊娠期間はどのくらいか
A.6ヶ月です。ニホンザルは秋に妊娠し、春に出産します。
Q.海水でミネラルを補うのは屋久島だけか
A.海があれば他の地域でもします。私は宮城県金華山でも見たことがあります。
Q.生まれたばかりの子供のサルにも毛があるか
A.あります。やや黒っぽくて短い、ふわふわした毛です。
Q.サルの持久力は人間と比べてどれほど違うか
A.おそらくヒトの方がはるかに優れているでしょう。42kmもずっと走りつづけられるという動物は、ヒト以外におそらくないでしょう。マラソンのように極端な例でなくても、空も飛ばず海に住んでいるわけでもないのにヒトほど長距離を移動する動物はゾウくらいのものです。ヒトは長距離を移動することに実に長けた動物なのです。もっとも現代日本人はそれほどその能力を使っていませんが。
Q.サルは泳げるか
A.海を渡るほどには泳げませんが、多少は泳ぎます。嵐山のサルの子供は夏には池に飛び込んで遊びます。
Q.サルの目はまんなかに寄っていたが
A.そうでしょうか?私はそうは思いません。
Q.サルの赤ん坊はどうやって母親を見分けられるのか
A.母親どころか、群れの全員を見分けています。たぶん人間と同じように顔で見分けているのでしょう。
Q.サルの鳴き声は感情によって使い分けられるのか
A.サルにも怒る、不安である、くらいの感情はあります。ニホンザルの音声はある研究によれば34種類に分類されます。群れが平静な状態のときに互いの位置を確認するとき、自分が群れからはぐれて他のサルを呼ぶとき、威嚇のとき、悲鳴、警戒音、赤ん坊が母親にしかられたとき、発情したときなど、それぞれの状況に応じて出す音が違います。
Q.サルの音声コミュニケーションをヒトが真似られるか
A.私が調査をはじめたころ、まだ私の存在に慣れていなかった私の群れは、わたしが「クー」と鳴きまねをすると「クー」と答えてくれました。ですが、しばらくして「あの下手な鳴き声はあの人間の声だ」と見破られてしまったのか、2月もしないうちにまず返事をしてくれなくなりました。
Q.けがをしたサルを人間が保護してはいけないのか。調査はしてもいいが保護はできないのか
A.研究者は可能であればできるだけ自然状態のままサルを観察したいと思っていますし、また野生のサルは野生のままにしておくことがサルにとってもよいと思っています。野生のサルの調査が非常に難しかった研究の初期には研究者は餌付けを奨励しましたが、それはやはり、ニホンザル本来の生態の破壊であったと最近では批判されています。サルを保護するというのは、サルがかわいいからえさをやるとか、かわいそうだから助けるということではなく、サルを野生のままに保ち、サルが野生のままに生きていけるようにサルが生きている森を守っていくことだと思うのです。野生のサルの赤ん坊が死にそうになっていても私は助けないでしょう。
もちろん、ニホンザルが今にも絶滅しかかっている、というのなら話は別です。そういうときは一頭でも貴重ですから何とか助けようとするでしょう。しかし幸いなことにニホンザルはそのような状況にはありません。
Q.ビデオに出てきた「G群」の由来はなにか
A.こういうのは最初に調査をはじめた人が勝手につけます。G群のメスは、アサギ、ワカバ、キミドリ、…と緑色関係の名前がついていたので、greenからとったのではないかと私は想像しています。私の調査していたH群は初代の第1位のオス、ヒエンドに由来します。ちなみにこのヒエンドというのは屋久島のある魚の方言です。
Q.サルにしかノミはつかないのか/毛づくろいで塩分をとっているというのは本当か
A.サルにはノミはほとんどつきません。ノミは巣のある場所に定住して、巣に戻ってくる動物の血を吸うので、サルのように巣を持たない動物にはほとんどつかないのです。ちなみに、ダニは草の葉などにしがみついて訪れた動物に飛び移り、血を吸います。サルが毛づくろい(グルーミング)で取っているのはおもに毛に産み付けられたシラミの卵です。シラミは特定の種類の動物にしかつかず、一生をその動物の皮膚上で暮らします。サルにはサルジラミとハラビロサルジラミが、ヒトにはアタマジラミとケジラミがつきます。頭髪と陰毛や腋毛などでは毛のタイプも違うのでつくシラミも違うのです。
毛づくろいで何を取っているかは、長いことなぞでした。塩分を取っているということをいう研究者もむかしはいました。しかし、現代日本人は忘れてしまいましたが、ヒトも毛づくろいをしてシラミの卵を取るのです。シャンプーなどない国の人々は今でもそうですし、「梁塵秘抄」に載っている平安時代のわらべ歌には、シラミのことが歌われています。サルの研究などまったく知らなかったはずの芥川龍之介は、「羅生門」の中で「猿の親が子猿のしらみを取るように、一本一本毛を抜き…」(引用は不正確です)というようなことを書いています。
ニホンザルの毛づくろい行動がなぜシラミ卵を取る行動だとわかったかについては、田中伊知郎「『知恵』はどう伝わるか」(京都大学学術出版会、生態学ライブラリー)に詳しく書かれています。研究というのはここまで徹底的にやるものだ、ということが分かる、非常に印象深い本です。
Q.シラミは食べても大丈夫か/シラミの卵にはどんな栄養素が含まれているか
A.藤永哲・林晃史「虫の味」(八坂書房)に、シラミを食べてみた話が出ています。それによれば、「プツリ、プツリと食べてみたが、とくに味はなかった。なんとなく、渋みがある」と書いてあります。まあ大丈夫なんでしょう。シラミも動物ですから、ごくごく微量ながらサルが必要とする栄養素はだいたい全部あると思います。
Q.なぜシラミの卵を食べるのか
A.人間の感覚からしたら気持ち悪いものですが、まあ食べて問題のあるものでもないし、ごく微量ですが栄養にもなります。同じ理由でサルは精液だって食べてしまいます。人間が同じように「気持ち悪い」と思うもののうち、実際に衛生上問題のあるものや栄養のないもの、たとえば嘔吐物や糞尿などは食べません。手についたりしたら一生懸命ふいたりしますから、彼らにとってもいやなもののようです。
Q.屋久島のサルは毛づくろいをするのに毛がはげないのか
A.シラミの卵はサルの毛に接着剤で固められたような状態でくっついています。サルは毛づくろいのときに爪を立てて卵を毛からはずし、その後毛に沿って卵を抜き取り、食べます。ですからふつうは毛づくろいでは毛は抜けません。毛を抜くまで毛づくろいするのは飼育されているサルに特有の現象です。
Q.屋久島のサルは他の動物とはどんな関係を持っているのか
A.屋久島には中型以上の哺乳類はサルとシカしかいません。サルはほとんどの場合サルはシカには無関心ですが、ごくまれにコドモのサルがシカと遊ぼうとしたりします。シカの方は、幾分サルに依存しています。サルは木の実や葉を食べるときに、枝を折り、全部食べずに捨てることがよくあります。木に登れないシカにとっては、サルはふだんは食べられない木の上にあるものを落としてくれるありがたい存在なのかもしれません。
Q.街に現れるサルの種類はなにか
A.人に飼われていたサルでなければ、すべてニホンザルです。ニホンザルのオスは一生のあいだにいくつもの群れを渡り歩きますから、そのあいだには単独でかなり広い範囲を動くことがあります。ときには都会の真中にやってくることもあります。時々新聞をにぎわせるのはたいていがこうしたオスです。
Q.サルはどのくらい手が器用か、道具は使えるか
A.野生状態ではニホンザルは道具を使いません。しかし、手はたいへん器用です。嵐山の野猿公園に行けばサルが小麦を一粒一粒つまんで食べるのが見られます。
Q.生物は種の保存のために生きているのか
A.この質問をした人は第2回の授業に出席していなかったと思います。「生物は種の保存のために生きている」というのは生物進化にまつわるもっとも大きな誤解です。生物は自分の遺伝子を次世代に残すためにふるまっており、種を保存するためにふるまっているのではありません。
<文責: 半谷吾郎 (hanya<atmark>pri.kyoto-u.ac.jp)>
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<最終改変日: 2004年11月24日>