第12回(2002年5月23日)の授業への質問に対する回答
誤解がありましたのでそれを最初に解いておくと、「ネアンデルタール人」というのはヨーロッパと西アジアに住んでいた旧人のことです。アジアやアフリカに住んでいた旧人はネアンデルタール人ではありません。
Q.もし大型動物がいなかったらHomo erectusは出アフリカしなかったのか
A.おそらくそうでしょうが、歴史に「もし」はありませんので、あまりこういう質問はしないでください。
Q.北京原人の化石が再び見つかることはないのか
A.発掘すれば見つかる可能性はあります。戦争のどさくさのときに紛失した化石が出てくることは絶望的でしょう。
Q.ピテカントロプスとは何のことか
A.ジャワ原人が最初に発見されたときにつけられた学名(Pithecanthropus erectus)です。
Q.原人と旧人の差は何か
A.おもに脳容量の差です。
Q.現代人は頭の後ろがへこみ、ネアンデルタール人は膨らんでいたように見えたが、これは一般的な違いなのか。
A.すばらしい観察眼です。これは一般的な違いです。脳容量は一緒でも頭の形は違っていたのです。
Q.ネアンデルタール人の鼻が現代人より大きいということは嗅覚が優れていたということか
A.鼻が大きいのは寒さへの適応だったといわれています。鼻の奥にある鼻腔を大きくし、冷たい空気を暖めたようです。
Q.おとがいとは何か
A.漢字で書けば頤、顎の先の出っ張りのことです。
Q.ネアンデルタール人の腕力は現代人より強いか
A.ネアンデルタール人は現代人より全体として頑丈な体つきをしていますから、その可能性はあります。
Q.ネアンデルタール人の眉上隆起が猿人・原人より弱いとはどういうことか
A.隆起の程度が小さいということです。
Q.ネアンデルタール人の脳容量が同じということは、現代人と同じ能力があったということか/脳の大きさが同じということは言語能力があったということではないのか
A.頭の形が違いますから、必ずしもそうとは言えません。ただ頭の形の脳の機能との関係は、現在は不明です。
Q.舌骨とはどんな骨か
A.U字型の幅数mm、長さ数cmの骨です。
Q.ネアンデルタール人はどんな肌の色をしていたか/ヨーロッパ人はいつから目が青く金髪になったのか
A.化石に残らないので分かりません。
Q.旧人の寿命はどのくらいだったか
A.はっきりとは分かりませんが、40歳を越えていたと考えられるネアンデルタール人の化石が見つかっています。
Q.ネアンデルタール人は道具を使っていたか
A.Homo erectusよりもさらに洗練された石器を使っていました。
Q.ネアンデルタール人の中で体格などに地域差はあったのか
A.ありました。ヨーロッパの寒冷地に住むネアンデルタール人は授業で説明したような特徴を特に強く持っていました。
Q.どうしてシャニダール遺跡のネアンデルタール人の右腕は事故でなく先天的な障害だと分かるのか
A.切断されていたり折れたりしたわけでなく、萎縮していたからです。
Q.ネアンデルタール人はいつも埋葬をしていたか
A.そうでない例もたくさんあります。
Q.埋葬死体といっしょに見つかった花はにおいけしのためではないのか
A.そうかもしれません。しかし墓に供えるシキミという植物も臭い消しの作用があります。だから消臭作用と死者への弔意は矛盾しないと私は思います。
Q.花粉はそんなに長いこと残るのか
A.数千万年以上に渡って残ります。
Q.埋葬が始まる前はどうやって死体を処理していたのか
A.類人猿から想像すると、単にほったらかしにしておいたのでしょう。
Q.ネアンデルタール人は文字を使っていたか
A.証拠はありません。最古の文字は文明社会の誕生以後、せいぜい7000年前のことです。
Q.現代でもネアンデルタール人のような顔つきの人がいるが本物のネアンデルタール人とは別物か
A.顔つきには個人差がありますから中にはそういう人がたまたま生まれることもあるかもしれません。しかし集団全体としてネアンデルタール人とそっこりというような人々は現代にはいません。
Q.「ネアンデルタール」はどういう意味か
A.1856年、最初に化石が見つかったドイツのネアンデル渓谷(ドイツ語でネアンデルタール)にちなみます。
Q.ネアンデルタール人のDNAを使ってネアンデルタール人をよみがえらせることは可能か
A.化石の中の遺伝子が完全な形で残っているとはほとんど考えられないので、可能性はまずないでしょう。
Q.ネアンデルタール人の学名が人によって違っていて問題はないのか
A.ありますが、Homo sapiensと呼ぶかneandeltharensisと呼ぶかは個々の研究者のネアンデルタール人に関する主張と関わってきますので、そう譲れないのでしょう。
Q.ヨーロッパで4万年前に現代人が出現したというがどこから現れたのか
A.西アジアからです。さらにその西アジアの現代人はアフリカから来たことが化石証拠からたどることができます。
Q.ネアンデルタール人の絶滅はどのように起こったのか
A.授業で気候変動、現代人が持ちこんだ病気の流行、現代人による殺戮の三つを挙げました。これは私の想像でそれを実証するものは何もありません。歴史時代にもある民族がある民族を絶滅させてしまったということは頻繁に起こっており、その多くは病気の流行か殺戮によるものです。詳しくはジャレッド・ダイアモンド「人間はどこまでチンパンジーか?」(新曜社)を読んでください。
Q.ネアンデルタール人の絶滅が気候変動だったとして、現代人も気候変動にあえば絶滅することはあるのか
A.可能性はないとは言えませんが、低いでしょう。現代人では気候変動に対処できずに消滅した民族集団は知られていません。消滅は他の民族に殺されたか、混血によって大きな集団にとりこまれてしまったことによって起こっています。
Q.現代人とネアンデルタール人の混血と思われる化石が見つかっているそうだが、どんな特徴を持っているのか
A.ポルトガルで発見された四歳の男の子で、年代はネアンデルタール人がほぼ絶滅したと考えられている2万5000年前、顎や腕の特徴は現代人に近く、腕や脚が短く全体にずんぐりしているところはネアンデルタール人に似ていました。
Q.ネアンデルタール人と現代ヨーロッパ人の間に見つけられていない人々がいる可能性はないか
A.ヨーロッパではかなり発掘が進んでいるので、可能性は低いですが、ないとはいえません。
Q.現代人が「突然」現れたというのは不自然ではないか、では何から進化したのか
A.「突然」現れたように見えるのは集団の置き換わりがあったヨーロッパだけで、最初に現代人が出現したアフリカではそれ以前に生きていた人々から連続的に変化してきたと考えられます。
Q.何が現代人への進化を促したのか/現代人のほうがネアンデルタール人より勝っていたのか/何かアフリカに現代人を出現させる要素があったのか/現代人の祖先はなぜ再び「出アフリカ」したのか
A.ネアンデルタール人の言語能力を低く見積もる人の中は、現代人への進化の最終段階で言語が登場し、そのためにそれまで生きていた人々を圧倒したと考える人がいます。もっとも、最近はネアンデルタール人も言語は話せたという考えが有力ですから、そうすると現代人とそれ以前の人々の差はせいぜい顔つきや体格の差しかなく、生存能力に差があったとは考えにくいことになります。アフリカ起源説が正しいとしても、この時代アフリカだけで何か特殊なことが起こったという証拠は何もなく、2回目の「出アフリカ」をした原因も説明されていません。
Q.現代人のミトコンドリアDNAの比較は、現代の全ての人の祖先は20万年前に生きていた一人の人だということか
A.ミトコンドリアDNAのその部分が20万年前の一人の人に由来するということで、他の部分を調べたら他の時代のほかの人になるでしょう。たった一人がから全ての現代人が生まれたということはありえません。
Q.現代人のミトコンドリアDNAの比較では、どこからDNAをとったのか
A.胎盤(へその緒)からです。化石人類はこの研究では含まれていません。
Q.アフリカ起源説が正しいとして、アフリカからアジア・ヨーロッパまで歩いていったのか、そんなことが可能か
A.アメリカ大陸への拡散のスピードに比べたら、「出アフリカ」はゆっくりしたものです。
Q.アジアでは多地域進化説、ヨーロッパではアフリカ起源説が正しいということはないか
A.ありえますし、実際そう主張している研究者もいます。
Q.アフリカ起源説と多地域進化説のどちらが正しいかいつわかるのか
A.さあ…。
Q.現代人のアフリカ以外の起源説はありえないのか
A.ネアンデルタール人が東アジアに来たり、逆に東アジアの旧人がヨーロッパやアフリカに行った証拠はありません。
Q.アジアで大幅な集団の置換が起こった証拠が見つかることはあるか
A.アジアでは化石証拠がまだ少ないので、これからネアンデルタール人と同時代の化石の発掘が進めば、ありえます。
Q.アフリカ起源説が正しいなら、なぜこのように現代人の外見や言語は多様なのか
A.直観的にはそうですが、外見は急速に変化することがありますので、不可能ではないと思います。
Q.なぜ最初に現代人が出現したアフリカで今も原始的な生活を送っている人が多いのか
A.この授業の最後で「なぜ世界は西欧化したか」という問題を取り上げます。気が早い人はジャレッド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄(上下)」(草思社)を読んでください。
Q.まだ新人になりきっていないヒトはいるのか/何をもって旧人と新人を分けるのか
A.旧人と新人の違いは授業で言いましたが、新人と旧人の差が、現代のさまざまな民族の差と比べてどの程度のものかは、研究者によって捕らえ方は違いますが、現代の全ての人々の基本的身体能力に差はないので、あきらかに全て新人です。新人と旧人の差がせいぜい顔つき程度の些細なものである場合、新人と旧人を分けるのは劇的な集団の置き換わりがあったヨーロッパ中心のものの見方で、旧人と新人を区別することに大した意味はないのかもしれません。
Q.なぜ骨の埋まっている場所がわかるのか
A.地層が露出していて、他の動物の化石がとれるようなところは、人類の化石が取れることが多いので、そう言うところを狙って探すようです。埋葬がはじまったような新しい時代になると、洞窟を探したり、土木工事でたまたま見つかった場所を集中的に探したりするようです。中国では(かつては)化石を竜骨といって薬として珍重しましたから、漢方薬の店に行って見つけた場所を聞いて回ったりしたそうです。
Q.骨からDNAはとれるのか/DNAは人体のどこにでもあるのか
A.人体のうち、細胞のある場所であればどこでも取れます。毛なら毛根の細胞からとれます。骨は骨髄にある細胞で作られるので、とれます。
Q.化石人類も歯は生え変わったか
A.歯が生え変わるのは哺乳類に共通の性質です。
Q.「ヒト」「人間」「人類」の違いは何か
A.この授業では「ヒト」「人間」は現代人のみを指し、「人類」はチンパンジーとの共通祖先から分かれて以降に出現した化石人類を全て含めた人々を指します。ただし全ての人類学者がそういう使い分けをしているわけではありません。
Q.ヒトがこれから進化することはありえるか/近未来にヒトの寿命が200歳まで延びると聞いたが本当か
A.これは毎回いろいろな人が聞く質問です。あまりにも何回も聞かれるので、以前書いたことを繰り返せば、突然変異が起こり、それが人類全体に広まるのに十分な時間がたてば、当然進化するでしょう。ただしヒトのように寿命の長い生物では目に見える変化として現れるには少なくとも何千年とかかるでしょうし、種が変わってしまうほどの大きな変化は何万年かかかるでしょう。百年くらいの単位では「進化」と呼べるような変化は起こらないでしょうし、ましてや寿命がそこまで延びるような大きな変化が起こるとは思えません。
Q.人類ははじめ魚だったというがほんとうか
A.人類もその一員である哺乳類は2億3千万年前爬虫類から生まれ、爬虫類は3億2千万年前両生類から生まれ、両生類は3億6千万年前に魚類から生まれたわけですから、はるかはるかむかしの祖先は魚です。
Q.人類が生まれる前からゴキブリはいたのか
A.質問の意図は???ゴキブリは昆虫の中でも古いグループで恐竜よりも昔、2億年以上前から生きています。
Q.石油は化石からできるのか
A.これも質問の意図は???一般的には海中に堆積したプランクトンの遺体からできるといわれていますが、最近、化石とは関係なく、地中のメタン?が変化してできたという説が現れたそうです。
Q.死の概念はヒトだけのものか
A.おそらくそうです。
Q.サルは仲間が死ぬと悲しがったりするか
A.ほとんど無関心ですが、ただ母親を失った離乳前のチンパンジーの写真は、目が虚ろでいかにも悲しそうに見えます。
Q.今正しいと思われていることも、全て考古学者の想像か
A.もちろんそんなことはなく、ほとんどの考古学者は、良心的に発掘されたものから確実に言えることしか言わないはずです。ただ一般の人はどうしても具体的なイメージを求めたがるので、復元図が一人歩きすることがしばしば起こります。私が言いたいのは、復元図を信じる前に、その根拠となる実際に発掘されたものを自分でよく確かめようということです。
Q.サルの起源、自分の祖先、こういったことが全て分かったとき、そこに何があるのだろうか
A.数学では一人の天才の出現によってその分野の研究が全て完了してしまうことがあるそうです(「分野を殺す」というそうです)。ですが、少なくとも生物学ではそのようなことは考えられません。そもそも全部で何種の生物がいるのかも分からず、比較的よく研究されている種についても分かっていることは彼らの生活のごく一部です。発見は新たな疑問を生むのが常なので、分からないことというのは次から次に増えていきます。研究は個々の研究者が面白いと思うからやるのであって、「だから一体なんなんだ」というようなことをどうしても思ってしまう人は、研究をしなければそれでよいのです。
<文責: 半谷吾郎 (hanya<atmark>pri.kyoto-u.ac.jp)>
<問い合わせ先: 半谷吾郎 (hanya<atmark>pri.kyoto-u.ac.jp)>
<最終改変日: 2004年11月24日>