第13回(2002年5月27日)の授業への質問に対する回答
誤解がありましたのでそれを最初に解いておくと、今いる小さなビーバーやサルのように木の上でくらす小さなナマケモノは、12000年前まで生きていたクマくらいあるビーバーや5mの地上性のナマケモノから進化したのではありません。12000年前までは大きいナマケモノ・ビーバーも、小さいナマケモノ・ビーバーも両方いたのに、大きい方だけが絶滅したのです。
Q.動物が他の動物を攻撃するように、人間が狩猟で動物を絶滅させてしまってもそれは自然破壊ではなく、弱肉強食の自然摂理に基づく行為なのではないか
A.大きな間違いです。第一に自然破壊はヒトだけのものではありません。体の大きなゾウは森林を通るときに木をなぎ倒します。もしゾウが増えすぎたら森林は破壊されるでしょう。これも規模は小さいが自然破壊です。第二に1頭のライオンが1頭のカモシカを殺すことと、その種に属する全ての個体を殺し尽くすことをいっしょにしてはいけません。あるひとつの種の行為によってこれほどまでに大量の生物が(進化的には)一瞬の間に絶滅したのは地球の歴史上はじめてのことです。これを自然破壊と呼ばずして何を自然破壊と呼ぶのでしょうか? 弱肉強食が自然の摂理とは何のことでしょう?「生物は種の保存のために生きている」が間違いであることは再三言ってきましたが、「弱肉強食が自然の摂理」というのも、大した根拠もなく流布している言葉のように私に思えます。授業への批判は多いに歓迎します。が、もっともらしいが意味不明のお題目を並べただけでは批判にはなりません。事実に基づいて批判してください。
Q.オーストラリアの生物もヒト同様どこか別のところから移住してきたのに、なぜヒト以外の生物は独特なのか
A.たとえばコアラやカンガルーなどの有袋類がオーストラリアに渡ってきたのは、数千万年前です。せいぜい数万年の歴史しかないヒトとは違い、独自の進化をとげる時間が十分あったのです。
Q.なぜ6万年前船で海を渡ったことが分かるのか/どんな手段で渡海したのか
A.全て状況証拠です。アジアからオーストラリア・ニューギニアに渡ったのは人類と人類が持ちこんだイヌやネズミだけであることからも、一度もつながったことがないことは明らかです。泳いで渡ったとも考えられなくはありませんが、10kmもイヌを一緒に泳がせたり、女子供も泳がせるというのは想像しにくい。やはり船を使ったのでしょうが、木で作られた船は腐りやすく、直接の証拠は全くありません。今のアボリジニは海にはほとんど入らず、ニューギニアにいちばん最初に渡った人々の子孫は後からやってきたインドネシア人に押されて高地にしか住んでおらず、現在の彼らの生活から復元することも不可能です。
Q.ニューギニアの子供のおなかが膨らんでいるのと、Australopithecusの骨格で腹が膨らんでいるのと関係があるか
A.関係ありません。ニューギニアの子供も骨格ではわれわれと同じです。
Q.アボリジニはいつ頃渡ってきた人々か
A.オーストラリアへの移住は3回くらいあったようですが、アボリジニの祖先は四万年前ごろにはいたようです。
Q.氷河期はどのくらい寒かったのか
A.もっとも寒いときで世界平均気温が今より7-8度低かったといわれています。
Q.なぜ氷河期は起こるか/氷河期はまた来るか
A.気候変動の地球物理学的メカニズムは私の手におえませんが、1万8000年前に最終氷期が終わって以降、8000年前までは温暖化が続き、今は長期的には寒冷化の最中にあります。とはいえこれは1万年単位での気候変動で、ここ数十年は人間活動の影響による急激な温暖化が進行していることは言うまでもありません。
Q.無氷回廊は他の場所にはできなかったのか、なぜ出現したことが分かるのか
A.西海岸沿いにも出現した可能性があります。氷河は地面を削り、それが氷河の脇に堆積するのでそれで復元できます。
Q.シベリアからアラスカに渡った人々は寒さに対してどんな対策を持っていたのか
A.冬のうちは植物は枯れてしまうのでほとんど肉だけに依存すること、魚や動物の毛皮で作った防寒性の衣服を着ること、断熱性の高い住居を作ることなどです。
Q.大型動物の絶滅は人類の狩猟だけが原因か
A.研究者によって見解の相違はありますが、人類による狩猟が最大の原因であったことは言えると思います。
Q.肉は保存していたのか/狩猟は食べるだけが目的だったのか
A.簡単につかまる肉を保存しようとは思わないはずです。マンモスの骨でできた住居跡が見つかっています。
Q.なぜ絶滅させるほどたくさんの大型動物を狩猟しなくてはいけなかったのか/当時の人々は狩りすぎたら絶滅することが予測できないほど知能が低かったのか
A.肉はその日腹いっぱいになるだけ食べて、後はうち捨てて次から次へと獲っていけば、獲物が絶滅するのは当たり前です。ですが、アメリカ大陸の広さがどのくらいかということを知らない彼らに絶滅を予測しろというのは無理な話です。長年その土地で暮らしているアフリカの人々と違い、アメリカに渡ってきたばかりの人々はどのくらい獲れば獲物がいなくなってしまうという知識は持ち合わせていなかったのでしょう。もちろん彼らも現代人の一員ですから知能にはわれわれと差がありません。地球の大きさも石油の埋蔵量も知っているのに、車を乗り回しペットボトルを買っては捨てることを繰り返している現代人は1000年先が読めなかった最初のアメリカ人を笑うことはできません。
Q.現在の日本くらいの人口密度であれば移住する必要はなかったのではないか
A.日本の高い人口密度は農耕をしているから可能だったわけで、狩猟採集生活ではそのような高い密度は維持できません。農耕をしなかったのは、少なくとも最初は狩猟採集だけで十分生きて行けたからでしょう。
Q.移住した数がかなりの数なら移住前の人口は多かったのか
A.授業でも説明した通り、たとえ最初の人口が100人でも、栄養状態がよければ数百年で南北アメリカ大陸を埋め尽くすことは可能です。
Q.どんな道具で大型動物を倒したのか
A.前回配ったプリントで3枚目のスライド(南北アメリカ大陸への拡散)の横に絵が書いてありますが、これはクローヴィス石器といい、彼らはこれをやりの先につけて狩猟したと考えられます。
Q.アメリカ大陸に最初に渡ってきた人々は肉食性だったのか
A.植物性のものも食べたでしょうが、よくわかりません。
Q.なぜアメリカ大陸に渡った人々は南下したのか、農耕に土地が必要だったのか
A.アメリカ大陸で農耕が起こるのは数千年あとのことです。
Q.大型動物が簡単に殺されたというのはおとなしくて動きがのろいということか、反撃したりはしなかったのか
A.アメリカ大陸で人類に絶滅させられた中にはチーターやライオンなどもいましたから、全部がそうだというわけではありません。ヒトの匂いをかいだり姿を見ても逃げなかったのでしょう。いくら最初のアメリカ人が優秀なハンターだったとはいえ、チーターやライオンまで狩猟していたとは思えませんが、大型の肉食獣も餌になる大型動物がいなくなれば絶滅せざるをえません。大型肉食獣の絶滅も間接的には人類の影響でしょう。
Q.南北アメリカ大陸の大型動物は1000年間もヒトを見て逃げることを覚えなかったのか
A.1000年というのは大陸縦断の移動のスピードで、それぞれの地域で大型動物がはじめてヒトに出会ってから絶滅するまでの時間ではありません。おそらくそれぞれの地域では数10年くらいのヒトが怖いことを学習する暇もないほど速やかに絶滅は起こったのでしょう。
Q.リスクの大きい大型動物より小型動物を獲ったほうがよかったのではないか/大型動物の狩猟で死者は出なかったのか
A.これは狩猟経験のない文明社会人の考えでしょう。熟練した狩猟者にとっては、少々の危険を冒しても、大量に肉を手にできる大型動物のほうが魅力的だったようです。これは現在の狩猟採集民にも見られる考えです。
Q.大型動物のほうが小型動物より長生きか
A.そうです。長生きということは世代間隔が長く、増えるのに時間がかかり、一度数が減るとなかなか回復しません。
Q.小型動物は絶滅しなかったのか
A.私がよく知っているサルの例でいうと、新世界ザルのうちチンパンジーくらいあった1種は絶滅したようですが、そのほかは歴史時代になってからも絶滅していません。現在最大の新世界ザルは体重10kgくらいです。
Q.大型動物を飼ったりはしなかったのか
A.アメリカ大陸では結局ヨーロッパ人の到達までほとんど大型獣の家畜化は起こりませんでした。そこらへんで楽に手に入る野生動物がいるのに面倒な手間をかけて動物をわざわざ飼おうという動機は起こらなかったのでしょう。大型動物がほとんど獲れなくなったときには、家畜化しようにも動物がいなくなっていました。
Q.ゾウやバッファロー、ライオンなど、今もいる大型動物はどうやって生き残ったのか
A.アフリカやユーラシアでゾウやライオンなどの大型動物が今でもいる理由は授業で説明しました。南北アメリカ大陸に今でもいる大型動物はバッファロー、トナカイ、ジャガー、ヒグマなどです。私の想像では、バッファローやトナカイは集団で暮らしていたために絶滅を免れたのではないかと思います。ライオンやチーターなどの肉食獣が絶滅したのはヒトが彼らの餌である大型草食獣を獲り尽くしてしまったからでしょうが、ジャガーの獲物は小型動物ですし、ヒグマは植物性食物もかなり食べますから、生き残ったのではないかと私は想像しています。
Q.チーターはどうやって渡ったのか
A.北アメリカ大陸とユーラシア大陸は昔つながっていたので、そこを経由して渡ってきました。
Q.5mのナマケモノは何を食べていたか
A.今も生きている小型のナマケモノ同様、木の葉です。
Q.大型動物の絶滅によりアメリカ大陸の生態系はどのような影響を受けたか
A.いくつかの大型動物は特定の植物の種子を散布していましたから、それらの木が減るか、絶滅したと考えられます。
Q.大型動物の大量絶滅と恐竜絶滅に関係はあるか
A.????????????????????????????????????????????????????
Q.最初のアメリカ人は火を使えたか
A.もちろんです。火を使った最古の証拠は50万年前の北京原人にさかのぼります。
Q.なぜ危険を冒してまで移住したのか/海を渡るときに転覆しなかったのか、渡海は毎回成功していたか
A.南太平洋は穏やかな海なので、日本近海とは事情が違いますが、もちろん死んだ人もいるでしょう。ただ、死人が出る可能性があることは絶対にしない、というのは現代人の考えです。日本でも江戸時代には大きな船の建造が幕府により厳しく制限されていたのに商品経済が発達したため、船による流通を担った多くの船乗りが犠牲になりました。
Q.オーストロネシア語族とは何のことか
A.インド・ヨーロッパ語族という言語グループがありますが、これはヨーロッパとインドで話されているよく似た言語の総称です。オーストロネシア語族もそのような言語グループのひとつで、ニューギニアとオーストラリアをのぞく太平洋の全域、マダガスカル、東南アジア南部の人々がしゃべっています。日本語にも影響を与えたと考えられますが、それは日本人の成立についての授業でお話します。
Q.ラピタ人より前にメラネシアに先住民族はいたか
A.いませんでした。
Q.ポリネシア人・ラピタ人はどんな栽培植物・家畜を持ちこんだのか/タロイモとはどんなものか
A.家畜はイヌ、ブタ、ニワトリ、栽培植物はタロイモ、ヤムイモ、パンノキなどです。ヤムイモはヤマノイモ科に属するイモの総称で、日本ではナガイモとヤマノイモが相当します。タロイモはサトイモ科のイモの総称で、日本のものではサトイモとコンニャクイモです。
Q.ラピタ人の船は木製か土製か
A.土で船を作れるかどうかは、「かちかち山」に書いてあります。
Q.太平洋を渡った人も海の獲物を求めてのことか、クジラなどの大型の生みの生き物の絶滅は起こったか
A.ラピタ人、ポリネシア人の移住は農耕に必要な土地を求めてのことです。ポリネシアの人々の伝統捕鯨はささやかなもので、クジラの乱獲はヨーロッパの近代捕鯨開始後のことです。
Q.組織的遠洋航海では何日くらい航海していたのか
A.想像の域を出ませんが、たとえばハワイ諸島は最も近い島から2000km(東京から沖縄くらい)離れています。江戸時代、北海道から下関周りで大坂に向かう航路である北前船の航路はこのくらいで、10-20日くらいかかったようです。
Q.ポリネシアの人々は大陸には移住しなかったのか
A.しなかっただろうと思います。したとしてもすでにアメリカ大陸にはたくさんの人がいたので、渡ってきた少数のポリネシア人はすぐに混血して分からなくなっているでしょう。
Q.ポリネシア人がアメリカ大陸に到着して争いはなかったのか
A.ポリネシア人がアメリカに到達したことは確実ですが、彼らはアメリカに何の痕跡も残していないので分かりません。
Q.ひとつの島にどのくらいの人数でどのくらいの期間過ごせたのか
A.島の土地の面積、その島で農耕ができるかにより異なります。
Q.イースター島のモアイ像はポリネシア人が到達したときにすでにあったのか
A.ポリネシア人が作ったものです。あれだけ巨大なものを作るだけの豊かな時代があの島にはあったわけですが、ヨーロッパ人が到達したころにはその繁栄はとっくに去り、ほとんど食うや食わずの生活をしていました。
Q.14000年前にシベリアから移住した人と2000年前にアメリカに達したポリネシア人とどちらがインディアンの先祖か
A.シベリアから渡ってきた人々です。
Q.未知の土地へ移住したのは罪人のような追い出された人々だったのか
A.そうとは限らないと思います。そんな消極的なものではあれほど大規模で速やかな分布の拡大は不可能でしょう。
Q.アジア以外の人々は移住しなかったのか
A.アメリカ・オーストラリアにもっとも容易に到達できるのはアジアですし、大西洋やインド洋には遠洋航海の「練習」ができるような沿岸の島々(日本列島、東南アジアの島々)などが少なかったことが、近代以前のアフリカやヨーロッパの人々が外洋に進出しなかった大きな理由だと私は想像しています。ただ近代以前に全く移住がなかったわけではなく、10世紀ごろ、北欧のバイキングが商業目的の遠洋航海をしてアメリカ大陸にも達したと考えられています。
Q.人種の名前はどうやってつけるのか
A.アボリジニのような民族呼称は彼らの言葉で「人」を意味する言葉かその周辺の民族が呼ぶ言葉を使うことが普通です。
Q.1万年程度で言語などがそれほど大きく変化するだろうか
A.ニューギニアの人類史はせいぜい6万年ですが、その中で別れた言語はお互いが中国語と英語くらい異なっています。
Q.写真で歯が黒い人がいたがあれは何か
A.見なおしてみましたがそういう写真はありませんでした。仮面をつけているのを見間違えたのでしょうか?
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<最終改変日: 2004年11月24日>