霊長類研究所

進化形態分野



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私の興味は、「我々人間はどのようにして直立二足歩行を進化させたのか?」
「霊長類(サル)の歩き方は、他の動物とどのように異なるのか?」
「動物の歩行は、どのように制御されているのか?」にありますが、
そうした大きなテーマを解明するためのアプローチとして、以下のような、
より限定したテーマの研究を行っています。




霊長類ロコモーションにおける足部の運動解析



ニホンザルの四足歩行(上)と二足歩行(下)時の足圧分布計測の例


動物は何故、そのように歩き、木に登り、跳躍をするのでしょうか?ロコモーション(身体の位置移動:歩行など)は動物の最も基本的かつ重要な活動のひとつで、そこにはその種の持つ身体形質とその種が棲む環境の両方が密接に関わります。我々は、霊長類の進化と適応を理解する一助として、彼らのロコモーションを運動学的に分析しています。そうした情報は、ヒト独自のロコモーション、つまり直立二足歩行の起源と進化に関する手がかりをもたらすと期待できます。

本研究では、特に足の動きに注目し、ビデオ画像や足圧分布計を用いた分析を行なっています。足に注目したのは、身体と環境の接点となる部位だからです。左の図は、四足歩行と二足歩行での足の使い方の比較です。同じニホンザルでも、四足で歩く時と二足で歩く時では足底(足裏)への圧力のかかり方が異なることがわかります。二足訓練されたサルとされていないサルの足の使い方を比較する研究、歩行速度との関連を調べる研究なども進めています。(一部、信州大・Pataky助教との共同研究)。

半規管形態とポジショナル行動の関連

各種霊長類の内耳半規管の形態を、生活様式やポジショナル行動との関連を考慮しながら比較研究しています。

半規管(右図)は頭部の回転加速度を検出する末梢器官で、身体の平衡、空間における頭部の位置、視線の方向などの制御に重要な働きを果たしています。その半規管の曲率半径(輪の大きさ)が動物の敏捷性と関連するということが、Matanoら、およびSpoorらの研究により、わかってきました。一般に、敏捷な動物ほど大きな半規管を持つようです。しかし、霊長目全体を調べるとそのような傾向が見られるものの、近縁種間でもその法則が成り立つのかどうかについてはわかっていません。また、半規管が頭部の他の部分に対してなす角度は種ごとに異なりますが、その機能的意義についても不明です。

この研究では、近縁だがロコモーションが異なる種(例えばメンタウェールトンとクロカンムリリーフモンキー)の間で半規管の曲率半径や管半径、頭蓋骨の他の部分に対する角度等を比較し、半規管形態の持つ機能的意義を調べようとしています。(ローハンプトン大・Rae准教授、朝日大・矢野助教との共同研究)





Presbytis melalophosの頭蓋骨と半規管(および蝸牛)


歩行時と立位時の頭部のNIRS計測



NIRSから推定された脳の活動部位(左)とNIRSの計測用プローブ(右)

二足歩行を行う時と四足歩行を行う時では、脳の活動はどのように違うのでしょうか?言い換えると、二足歩行を行えるようになるためには、ヒトの脳はサルの脳からどのように変わらなければいけなかったのでしょうか?この質問に答えるために、神経科学の分野で多くの研究がなされています。我々は、非侵襲的に脳の活動を推定できるNIRSを用い、歩行時や立位時、足踏み時の脳活動を調べようとしています。現在は、ヒト被験者を用いた実験と、ニホンザル被験体を用いた実験準備を並行して行っています。霊長類研究所認知学習分野の正高教授、後藤准教授、県立広島大の森大志教授との共同研究です。





足底の筋配置から見た足の機能軸の推定



霊長類4種の足内筋浅層



足の骨間筋配置と「機能軸」

なぜ生き物は様々な形をしているのでしょうか?生物の形やその進化を、機能と関連付けて考えるのが機能形態学です。霊長類の進化を理解する上で機能形態学は有効なツールとなります。ある機能を果たすにはそれ相応の形態が必要であり、逆に、ある形態を持っていれば、特定の機能を果たし得ると推測できるからです。我々の研究室では、霊長類の筋や骨格の形態を、CT、MRI、肉眼解剖的手段等で調べ、行動と照らし合わせること、他の種と比較することで機能と形態の関係を確立し、霊長類の進化と適応、およびその背景の理解を目指しています。

左の下の絵は、ヒトとニホンザルの足にある「骨間筋」という筋の配置の模式図です。この筋の配置を見ると、ヒトでは第2趾が足の中心となっているのに対し、ニホンザルでは第3趾が中心となっていることがわかります。ヒト以外の他のほとんどの霊長類では、足の機能の中心は第3趾なのに、何故ヒトの足は第2趾が中心となっているのでしょうか。おそらく、直立二足歩行と関連するのだろうと我々は考えています。現在は、ヒトに最も近縁な類人猿において、足の機能の軸がどこにあるのかを調べ、運動データと照合することで、二足歩行と足の機能軸の関連について探っています。





Structure from Motion法を応用した無標点3次元計測法の開発


Structure from Motion法(以下SfM法)とは視点の異なる複数枚の画像から対象物の3次元形状とカメラ位置を計算する手法で、対象物に標点の装着は必要ありません。本研究では、これまで静止画についてのみ行われていたSfM法を動画に拡張し、動物のロコモーション分析に応用しています。具体的には同期のとれた4台のビデオカメラの映像の各フレームについてSfM法による分析を行ない、動物の体表面を3D座標を持つポイントクラウドとして表現しようとしています。

ロコモーションの運動学的計測は、これまで実験室内に限られていました。高精度の計測を行なおうとすると体表面に標点(マーカー)を設置しなくてはならず、そのようなことができるのは、統制された環境でトレーニングされた被験体を用いて行なう実験だけだったからです。しかし、SfM法を応用した我々の方法を用いると、屋外で自由に動く動物の体表面形状について、非侵襲的に3Dデータが得られます。現在は、実験室での検証を終え、屋外条件での3D再構成を試みつつ(右図)、解析プログラムのリファインを行なっています(マンチェスター大・Sellers准教授との共同研究)。



SfM法を応用して4つのビデオ映像から3D再構成した放飼場のニホンザル2頭の歩行。
背景もニホンザルの身体も、全て3D座標を持つポイントクラウドとして表現されている


NIRS信号による筋の生理学



NIRS(2ch)による前腕筋群の活動の計測

脳活動の計測にトポグラフィとして用いられることが多いNIRS(近赤外線分光法)ですが、筋の局所代謝の計測にも用いることもできます。

左の図は、前腕屈筋群の活動時に、血液中の酸化ヘモグロビンおよび脱酸化ヘモグロビン濃度がどのように変化するのかを調べたものです。筋の収縮開始とともに、血管が圧迫されて血流がやや減り、その後、酸化ヘモグロビン濃度は減少を続け、脱酸化ヘモグロビン濃度は上昇に転じます。筋収縮が終了すると、酸化ヘモグロビン濃度は回復し、脱酸化ヘモグロビン濃度も元のレベルに戻ります。現在は、こうした血液中酸素動態が、筋の疲労とどのように関連するのか、筋電図との対応はどのようになっているのか、といった基礎的な点を押さえるためのデータを収集中です。(山口大・森准教授との共同研究)




加齢変化特性を考慮できるニホンザルの四足歩行計算機シミュレーションの開発


霊長類歩行の加齢変化とその変化を及ぼす要因を調べようとする研究です。サルでもヒトと同様に、加齢とともに歩幅や歩行速度の減少、関節運動域の減少などが生じることはわかっています。しかし、それらがどのような原因から生じるのかについては、まだ解明されていません。加齢変化は総合的なものであり、個別の変化(筋力の低下、関節運動特性の変化、神経伝達速度の低下、姿勢の変化等)のどれがどのように関わるのかを、切り分けて考えることは極めて難しいからです。

そこで、そうした検討が可能となるシミュレーションモデルの作成を目指して、首都大の長谷教授と共同研究を行っています。若年サルと同じように歩くように作成したコンピュータモデルについて、各種パラメータを個別に変化させて、高齢サルの歩行を再現させることによって、どういった要素が歩行の高齢化に最も強く関与しているのかを探ります。現在は、順動力学モデルの調整中です。(首都大学東京・長谷教授との共同研究)





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Last Updated : Sep 1, 2013