■ 研究論文の紹介

Femoral morphology and femoropelvic musculoskeletal anatomy of humans and great apes: A comparative virtopsy study

Naoki Morimoto, Marcia S. Ponce de León, Takeshi Nishimura, and Christoph P.E. Zollikofer

Anatomical Record 294(9), 1433-1445 (2011)


ヒトと大型類人猿の大腿骨と大腿−骨盤筋骨格系の形態: 比較バーチャル剖検

森本直紀*、Ponce de León MS*, 西村剛, Zollikofer CPE*

*スイス・チューリヒ大学人類学研究所
京都大学霊長類研究所

チンパンジーやゴリラ、オランウータンなど大型類人猿とヒトをCTで撮像し、その骨盤−大腿部の筋骨格系をコンピューター上でバーチャルに解剖して、比較検討しました。大腿骨の近位(骨盤に近い方)の形態学的特徴は、化石人類のロコモーション(歩行様式)復元でよく使われます。そこに残された骨表面のざらつきや凹凸によって、筋のつき方が推定でき、つき方に対応したロコモーションのタイプが推定できるからです。しかし、大型類人猿での骨の特徴と筋付着との対応関係は必ずしもよく解明されているわけではありませんでした。今回のバーチャル解剖の結果、すべての大型類人猿の外側広筋は、ヒトと同様に、大殿筋の前に停止していました。ゴリラとオランウータンでは、大殿筋は大腿骨の外側に上下に走るlateral spiral pilasterという稜の下についていたのですが、チンパンジーではヒトと同様にその上でした。これまでよく使われていた教科書的な情報を改める発見でした。おそらく、ゴリラ・オランウータン型が原始的な状態で、ヒト・チンパンジー型が両系統の共有派生形質と考えられます。つまりは、この形質の差異は、ロコモーションを推定する手かがりとならないのでしょう。大腿骨は移動、歩行機能を担う主体となる骨の一つですので、その形態進化の多くはロコモーション・タイプの分化・進化を反映して機能適応したものであると考えられます。しかし、この部位にもロコモーション機能とは関係のない、単なるかつての系統分岐を反映しているだけの特徴があるので、化石人類のロコモーション復元には注意が必要です。本研究では、残念ながら亡くなった京都市動物園のヨウコと高岡古城公園動物園のリック、2個体のチンパンジーを霊長類研究所のCTで撮像したデータが利用されています。改めて、ご協力くださった関係者のみなさまに感謝いたします。

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