化石の研究、って お茶の間に届いていますか?

荻野 慎太郎 (おぎの しんたろう)
博士(理学)
京都大学霊長類研究所 教務補佐員

山梨県南アルプス市出身。2007年鹿児島大学博士。専門は古脊椎動物の記載と復元アート。対象としているのは主に食肉類ですが、それ以外の哺乳類も研究しています。

 

研究内容

ogino's images

これまでに公表している復元図.左から,大型レッサーパンダParailurus baikalicus、ニホングリソンOriensictis nipponica,アロサウルス復元画像(産総研地質標本館に展示)

地質時代の哺乳類化石を観察、記載し、これをもとに陸生哺乳動物相の成立過程や時空的変遷をとらえる―これが私の研究テーマです。
日本国内から産出した哺乳類化石をはじめ中国・ロシアなど東アジアの標本を扱い、特に霊長類化石と共産するイタチやレッサーパンダなど中型食肉類を研究対象としてきました。恐竜のように現生で近縁な種が絶滅した分類群は、想像の余地がたくさんあって楽しいのですが、ほんの数百万年前、数十万年前に、今のレッサーパンダの1.5倍もある種がバイカル湖の近くにいたり(下図左)、中南米にしか分布していないイタチの仲間が氷河期の日本にも生息していた、ということがわかったり(下図中)、というのも案外面白いものです。
現在は台湾・ミャンマーなどアジア南方へも研究対象を広げ、これらの地域の動物相を記載することによって他地域との類縁関係を考察し、それらがかつて生息していた古環境や古生物地理学的分布の復元、サル類や人類との関わりの解明を試みています。
新生代後期の脊椎動物化石の研究は、まだ多くの未知の部分が残されています。私は、記載に関して何でも屋となるべく日々の研究を行っていて、化石動物群全体を扱うという状況が発生しても、笑顔で承諾できる研究者であろうと思っています。

教育普及活動の取り組み

昨年度、ほんの短い間でしたが、つくば市の産業技術総合研究所で研究していました.産総研では、学術と社会の間に存在する隔絶(産総研ではこれを「死の谷」問題としています)を埋めるための手段についての研究に着手し、さまざまなアプローチを行いました。研究の最終目的は社会への還元なのですが、研究者の立場としては論文を公表することがそれに相当するという誤認識があります。研究活動を最終的に届ける先は、あくまでお茶の間です。 研究の成果を、お茶の間に持って行くことをアウトカム活動と呼びますが、化石研究の分野は「ああ、ピラミッドの研究ね」と言われてしまう程度に認知されているのが現状ですので、案外 一般には浸透していないのです。したがって、古生物の研究者はこれまでに増して積極的なアウトカム活動を行っていく必要があります。

私は、研究することと同時並行で、古生物学というプラットホーム上に研究者、教育者、アーティスト、メディアなどさまざまな関係者を乗せ、その上で有機的な結びつきを持った「お茶の間に届く」普及活動を展開しています。具体的活動例として、古生物復元を行っているアーティスト達と連携し市民や児童・生徒などとのコミュニケーション手段として研究を紹介したり、出版社と連携し「お茶の間に届く研究」をテーマとした書籍の製作を進めています。2010年1月の日本古生物学会夜間小集会では、国内初となる復元アーティストと研究者の話し合いの場を設け、学会出席者の1/3にのぼる100名近くの参加者を集めることができました。さらに今夏、東京六本木ヒルズで行われる恐竜展のイベントの企画、研究者のブッキングを担当し、これらの活動に有機的な関わりを築く努力を重ねています。
地球科学は多くの魅力的なコンテンツをもち、多大な関心が払われている分野と言えるでしょう。この分野では、関係者を数多く集めることによって継続的な事業展開を目指すことが可能だと思います。研究者一人ひとりがプラットホームとなり、協創のベースとなる必要があります。研究者が研究機関、博物館、アーティストなどさまざまな関係者らとの緊密な連携を取ることにより、よりよい相互補完関係を構築し、さらに関係する人々がそれぞれ受益することで、活動自体の多様化を達成できるでしょう。

 

学歴
2001年3月 鹿児島大学理学部地球環境科学科卒業
2004年3月 鹿児島大学理工学研究科地球環境科学専攻修了
2007年3月 鹿児島大学理工学研究科生命物質システム専攻修了

 

研究業績
[原著論文]
伊藤毅,荻野慎太郎,西岡佑一郎,高井正成 (2010) 幾何学的形態測定を用いたニホンザルの歯種同定.霊長類研究.

河野重範・平山 廉・薗田哲平・高橋亮雄・久保 泰・酒井哲弥・仲谷英夫・高井正成・荻野慎太郎・高桑祐司・青木良輔・入月俊明 (2010) 島根県松江市美保関町の下部中新統古浦層より発見された陸生脊椎動物(予報).Journal of Fossil Research 42(2): 95-102.

Shintaro Ogino, Hiroyuki Otsuka, and Hideji Harunari (2009) Study on the middle Pleistocene Matsugae fauna, Northern Kyushu, west Japan. Paleontological Research. 14(4): 367-384.

Shintaro Ogino, Hideo Nakaya, Masanaru Takai, Akira Fukuchi, Evgeny N. Maschenko, and Nikolai P. Kalmykov (2009) Mandible and lower dentition of Parailurus baikalicus (Ailuridae, Carnivora) from Transbaikal area, Russia.   Paleontological Research. 13(3): 259-264.

Shintaro Ogino and Hiroyuki Otsuka (2008) New Middle Pleistocene Galictini (Mustelidae, Carnivora) from the Matsugae Cave Deposits, Northern Kyushu, West Japan.  Paleontological Research. 12(2): 159-166.

荻野慎太郎・大塚裕之 (2005) 北東部九州の洞穴堆積層産中期更新世松ヶ枝動物群に見出されたMacaca属(Macaca cf. fuscata)化石の形態学的研究.霊長類研究 21: 1-9.

 

[総説]
荻野慎太郎 (2009) グリソン類(イタチ科,食肉目)の分類の現状.化石 85: 54-62.

 

[紀要等]
Shintaro Ogino, Hideo Nakaya, Masanaru Takai, Akira Fukuchi (2009) Notes on carnivore fossils from the Pliocene Udunga fauna, Transbaikal area, Russia. Asian Paleoprimatology 5: 15-24. 2009.

Shintaro Ogino, Masanaru Takai, Hideo Nakaya, Hitomi Hongo (2009) Artiodactyl specimens from the Udunga fauna. Asian Paleoprimatology 5: pp. 103-127.

Akira Fukuchi, Hideo Nakaya, Masanaru Takai, Shintaro Ogino, Nikolai P. Kalmykov. (2009) A preliminary report on the Pliocene rhinoceros from Udunga, Transbaikalia, Russia. Asian Paleoprimatology 5: pp. 55-92.

Hideo Nakaya, Masanaru Takai, Akira Fukuchi, Shintaro Ogino. (2009) A preliminary report on some fossil mammals (Equidae, Perissodactyla and Hyracoidea) from the Pliocene Udunga fauna, Transbaikalia, Russia.  Asian Paleoprimatology 5: pp. 93-99.

兼子 尚知・荻野 慎太郎・坂田 健太郎・坂田 澄恵(2010)地質情報展2009おかやま 自然の不思議「鳴り砂」.GSJ Newsletter, In press.

兼子紗知・利光誠一・古谷美知明・吉田朋弘・澤田結基・兼子尚知・荻野慎太郎・坂田健太郎・坂田澄恵・井川敏恵(2010)つくば科学フェスティバル2009出展報告.  GSJ Newsletter, No. 64, 6.

荻野慎太郎・坂田澄恵・坂田健太郎(2009)地質情報展2009岡山での研修報告.GSJ Newsletter,No. 62, 1-2.

 

[国際会議録]
Shintaro Ogino, Hiroyuki Otsuka, Masanaru Takai(2008)The first discovery of fossil colobine monkey from the Early Pleistocene of Taiwan. Society of Vertebrate Paleontology 68th annual meeting. 122A.

Shintaro Ogino, Hideo Nakaya, Masanaru Takai, Evgeny Maschenko, Nikolai Kalmykov(2007)A late Pliocene large mustelid Ferinestrix from the Udunga fauna, Transbaikal area, Russia.Society of Vertebrate Paleontology 67th annual meeting. 125A.

Shintaro Ogino, Hiroyuki Otsuka(2006)New Middle Pleistocene galictini (Mustelidae, Carnivora) from Matsugae cave deposits, Noethern Kyushu, West Japan.Society of Vertebrate Paleontology 66th annual meeting. 106A.

 

[口頭発表]
荻野慎太郎・渡部真人・仲谷英夫.2010.後期中新世イラン・マラゲー産のイタチ類化石.日本古生物学会代159回例会.一般講演.琵琶湖博物館.1月.

高井正成・タウンタイ・アウンナインスー・ジンマウンマウンテイン・江木直子・荻野慎太郎.2009.ミャンマーの鮮新世の地層からみつかった東南アジア最古の旧世界ザル類化石.日本古生物学会2008年年会.一般講演.千葉大学.6月.

高井正成・荻野慎太郎・岩本光雄.2009.愛媛県肱川町敷水から出土した後期更新世のニホンザル化石の検討.日本古生物学会代158回例会.一般講演.琉球大学.2月.

荻野慎太郎. 2008.グリソン類(イタチ科)の化石記録を用いた分類学的検討.2008年度日本哺乳類学会山口大会.9月.

福地亮・仲谷英夫・高井正成・荻野慎太郎・E.N.マシェンコ・N.P.カルミコフ.2008.ロシア連邦,トランスバイカル地方ウドゥンガ(中期鮮新世)より産出したサイ化石.日本古生物学会2008年年会.一般講演.東北大学.7月.

荻野慎太郎・大塚裕之・春成秀爾.2008.九州北部の中期更新世松ヶ枝動物群の研究. 日本古生物学会第157回例会.一般講演.宇都宮市.2月

荻野慎太郎・仲谷英夫・高井正成・E.N.マシェンコ・N.P.カルミコフ.2007. トランスバイカル地域の上部鮮新統ウドゥンガ哺乳動物相中の大型イタチ類化石. 日本古生物学会第156回例会.一般講演1.徳島市.2月.

荻野慎太郎・大塚裕之.2006.中期更新世松ヶ枝動物郡中のイタチ類化石.日本古生物学会第155回例会.一般講演.京都大学.2月.

 

[ポスター発表]
荻野慎太郎・仲谷英夫・高井正成・福地亮・E. N. マシェンコ・N. P. カルミコフ. 2009.トランスバイカル地域の上部鮮新統ウドゥンガ動物相中の大型レッサーパンダ化石の形態学的研究. 日本古生物学会第158回例会.琉球大学.2月.

荻野慎太郎・大塚裕之・高井正成.2008. 台湾の早期更新世堆積物中から発見されたコロブス類化石の報告. 第24回日本霊長類学会大会.ポスターP13.明治学院大学.7月.

荻野慎太郎・仲谷英夫・高井正成・E.N.マシェンコ・N.P.カルミコフ.2007.トランスバイカル地域の上部鮮新統ウドゥンガ哺乳動物相中のイタチ上科化石. 日本古生物学会2007年年会.大阪市立大学.6月.

荻野慎太郎・大塚裕之.2005.中期更新世裂罅堆積物中から発見されたニホンザルの形態学的意義.日本古生物学会第154回例会.ポスターP6.山形市.1月.

荻野慎太郎・大塚裕之.2005.中期更新世松ヶ枝脊椎動物化石群とその地質時代.日本地質学会西日本支部会2004年度総会ならびに第150回例会.ポスターP18.鹿児島大学.2月.

荻野慎太郎・大塚裕之.2002.更新世松ヶ枝動物群における新種アナグマ(食肉目,イタチ科,アナグマ亜科)について.日本古生物学会第151回例会.ポスターP4.鹿児島大学.1月.

 

■ 研究以外の活動…………古生物復元,デザイン,普及活動

夜間小集会
古生物アーティストの活動~アートがつむぐパレオ・コミュニケーション~.
荻野慎太郎・小田隆・徳川広和.2010.日本古生物学会第159回例会.琵琶湖博物館.1月

ポスター発表

古生物復元への提言.徳川広和・荻野慎太郎・犬塚則久.2010. 日本古生物学会第159回例会.琵琶湖博物館.1月.

 

連絡先
〒484-8506
愛知県犬山市官林41-2
京都大学霊長類研究所 系統発生分野
電話&ファックス: 0568-63-0536 (分野代表)
メール:ogino (AT) pri.kyoto-u.ac.jp

<更新日:2010年7月1日>