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2010年11月11日更新

ニホンザルの病気について、よくある質問集

京都大学霊長類研究所疾病対策委員会(CDC-KUPRI)

ニホンザルの病気について、その概要と、よくある質問に対する答えを用意しました。なお、詳細については、当該論文が「霊長類研究」で公表されています。下記からもダウンロードできます。どなたでもご覧になれますので、ぜひ参照してください。また、皆様から寄せられた質問について、そのつどお答えを追加することで、最新の情報を提供しています。(7月12日、7月23日、7月28日、8月6日、8月10日、11月11日 更新)


(1) ニホンザルの出血症(仮称)について 霊長類研究, Vol. 26, pp.69-71 (2010)

(2) ニホンザル血小板減少症の原因究明についての報告

(3) ニホンザル血小板減少症の今後の対策に関する報告


概要

京都大学霊長類研究所で発生していたニホンザルの疾病の原因究明の結果を報告します。ニホンザルにおいて、血小板減少を特徴とし、集団内での流行を呈したこの疾病は、SRV-4(サルレトロウイルス4型)と深い関連があるという証拠が、京都大学霊長類研究所をはじめとする5つの研究機関のすべてから得られました。

 今回の疾病について5つの研究機関において異なる検証方法で相補的に検討した結果、同じ結論に達しました。なお、このSRV-4は人に感染することはほとんど無いと考えられ、また発症した例はありません。ニホンザル以外の霊長類では、人を含めて、SRV-4感染によりニホンザルで見られたような急性の血小板減少を特徴とする疾病を起こした例は報告されていません。また、霊長類研究所でニホンザルの飼育や治療に最も永くたずさわってきた者のうち4人の血液検査をしましたが、SRV-4への感染はありませんでした。SRV-4抗体もありません。すなわち、今回のニホンザルの疾病は、ニホンザルのみでひきおこされる感染症だと考えられます。なお、このSRV-4というレトロウイルスは、東南アジアにすむ一部のカニクイザルでは自然感染しています。今回の病気は、自然界では本来出会うことのないカニクイザルとニホンザルが実験室等で同居するという霊長類研究所の特殊な環境で生じた疾病と考えられます。
 SRV-4と深い関連をもつニホンザル血小板減少症の発生ゼロを目指します。

 

よくある質問とその答え

Q1: 人間には感染しませんか。
A1: この10年間で、ニホンザル以外には同様の症状がありません。人間で発症した事例はありません。ニホンザル以外では発症した事例がないという実態があります。なお今回判明したSRV-4というウイルスは、東南アジアでカニクイザルが自然感染しており、人間への健康被害は報告されていません。

Q2:他のサルで同じ症状はないですか。
A2: ありません。研究所には14種1200個体のサル類がいますが、これまでこうした発症例はありません。ニホンザルに特異的に起こる症状です。

Q3: とくになりやすい性とか年齢とか出身地とか、発症する何か特徴はないですか。
A3: ありません。いずれの分析でもとくに有意な差はありませんでした。

Q4: 原因は何ですか。
A4: SRV-4が深い関連をもっていると判明しました。

Q5: 野生ニホンザルにこの病気はありますか
A5: ニホンザル血小板減少症のような報告例はありません。

Q6:「ニホンザルに特異的に起こる症状」の病気ということは、ニホンザルだけが特有にもつ病気ということですか。
A6: そうではありません。京都大学霊長類研究所で飼育する14種のサルの中で、そのうちのニホンザルだけが発症している病気である、という意味です。したがって、日本に生息するニホンザル固有の病気ではありません。ニホンザルはみな危険だということではありません。
Q7:日本国内や海外で例はないのですか。

A7: 調べたかぎり、これとまったく同じものはありません。さらに広く調べるためにも論文にまとめて公表しました。今後とも、逐次、解析結果を報告してまいります。そうした過程で、国内外の科学者コミュニティーからさまざまなご意見をいただき、情報交換をおこない、発症ゼロと原因解明に向けた努力をしています。

Q8: 人間でこれに似た病気はありますか
A8: 症状としては「再生不良性貧血」です。しかし原因が違います。

Q9: ニホンザルが発症するとどうなるのですか。
A9: 食欲が低下し、横になっていることが多く、顔面が蒼白になります。鼻粘膜から出血し、口唇部に血液が付着し、皮下に出血斑があり、暗褐色の泥状便などが主な症状です。いったん発症すると高い確率で死亡します。血液所見では、血小板が激減し、それに続く赤血球ならびに白血球の低下が、発症したサルすべてに共通して認められます。なお、死亡時には血小板数がゼロになるケースがほとんどであり、これがもっとも大きな特徴になっています。全般的な症状をもとにこれまで「再生不良性貧血症」あるいは「出血症」と仮称しましたが、「血小板減少症」というのが最も特徴的な症状です。原因の究明が進み、SRV-4が深く関与しているとわかりました。病名をその原因を冠して呼ぶならば、「ニホンザル・サルレトロウイルス関連流行性血小板減少症」(英名:SRV-associated Infectious Thrombocytopenia in Japanese monkeys、 略称:「ニホンザル血小板減少症」)です。

Q10: 発症してからどれくらいの期間で死亡するのですか。
A10: 急速に死に到ります。何をもって発症とするかの定義の問題もあっていちがいには言えませんが、症状が出てから少なくとも1-2週間以内といえるでしょう。

Q11: どのような検査をしましたか。
A11: 第2期のアウトブレイクにおける病気の広がり方から、何らかの感染症が疑われました。また、炎症性マーカーであるCRPはいずれの個体でも上昇していないこと、白血球数の減少が見られること、抗生物質の投与が無効なことから、細菌感染でなく、ウイルス性の感染症であることが強く示唆されました。そこで、5つの研究機関が連携してウイルスを中心に原因病原体の解明を進めました。Ebola(エボラ出血熱), Marburg(マールブルグ病), Lassa(ラッサ熱), CCHF(クリミアコンゴ出血熱)等のヒトが感染すると重篤な症状を呈するウイルスについての抗体を調べましたが、いずれも陰性でした。SRV-4のみがすべての発症個体に共通して検出されました。対照条件となるニホンザル群ではSRV-4は検出されません。

Q12: どういう日常の対策を講じていますか。
A12: ほとんどの病原体に効果をもつビルコン(次亜塩素酸系消毒液)による消毒の導入をしています。さらに、作業着のオートクレーブ滅菌、使い捨てゴム手袋の二重化、マスク・ゴーグル装着などのバイオセイフティー対策を徹底しています。

Q13: どういう今後の対策を考えていますか。
A13: さらなる原因の究明に向けて、所外の研究機関との連携も図り、この血小板減少症の発症メカニズムの解明をめざしています。それとともに、より迅速かつ確実な検査法の確立と全個体スクリーニングを推進します。

Q14: どうしてこの時期に発表したのですか
A14: 何事もオープンかつ迅速に公表するようこころがけています。ただし、いたずらに不安をあおることのないように正確な情報提供にも努力しています。まず、過去10年間の資料を精査し、原因特定のための努力を重ねたうえで、論文としてまとめて科学的な事実に基づく正確な公表を心がけました。7月公表の論文をご覧ください。その後の5研究機関の努力で、SRV-4と深い関連をもった疾病だとわかりましたので、11月にその結果と今後の対策を公表しました。同時に、この「よくある質問集」を公開することで、メディアや一般の皆様から寄せられた質問にも、迅速にお答えするようにしています。

Q15: 京都大学霊長類研究所とモンキーセンターは同じ組織なのですか?
A15: モンキーセンターは独立した民間施設で、「財団法人日本モンキーセンター」という名称です。京都大学に付属する研究所である霊長類研究所とは異なります。同じ犬山にあり、隣接していますがまったく別の組織です。ぜひ、混同なさらにようにしてください。本件と無関係なモンキーセンターに風評被害でご迷惑をおかけして、たいへん申し訳なく思っています。

Q16: 日本モンキーセンターのサルは危険ではないのですか?
A16: 危険ではありません。霊長類研究所から日本モンキーセンターには、ニホンザルを含めていっさいサル類を供出していません。また、日本モンキーセンターのサル類では類似した病気は出ていません。なお今回のニホンザルの限定された発生場所と日本モンキーセンターとのあいだには、研究所のニホンザルの運動場があり、ニホンザルが暮らしていますが、そこの群れでも発症がありません。こうしたことから、日本モンキーセンターのサル類は安全だと考えています。

Q17: 特定の種にしか発症しないということがあるのですか?
A17: あります。感染症は宿主特異性があって、生物種によって感染する種としない種があります。また、同じ病原体に感染しても、発病が重篤な種、軽い種、そしてまったく発症しない種があります。

Q18: ニホンザルはすべて危険ですか?
A18: そんなことはありません。これまで10年間、研究所内の特定の区域だけしか病気はでていません。たとえば、霊長類研究所内でも、同じ敷地内の他の放飼場や東に1キロ離れたリソーチリソースステーション(RRS)ではまったく発症例がありません。SRV-4に感染したサルならびにその近くにいたサルは、すべて隔離して経過を見守っています。

Q19: 安楽死処分するのですか。
A19: 発症したニホンザルと同居していた個体は、現在隔離状態で封じ込めています。個々の健康状態と血液検査結果を観察しています。このたびSRV-4が発症と深い関連をもっていることが判明しました。このSRV-4の感染力(伝播力)はそれほど強くありませんが、ウイルスは糞便中にも排出されます。したがって、ウイルス感染を他のニホンザルへと広げる可能性があります。また、罹患すると重篤な症状を呈し高い確率で死にいたります。したがって、検査の結果、現在ウイルスを産生していると認められた個体は、他の個体に病原体を伝播する前に、また病気が重篤になり多大な苦痛を感じる前に、安楽死を施す必要があります。そのうえで、この新たに発見した疾病であるニホンザル血小板減少症の診断法と予防法の確立、さらには治療法の開発に向けた研究を早急におこない、この疾病の根絶をめざします。