R3
論文 0 報 学会発表 0 件
R3-A1
代:高樋 美佳
協:大沼 清
チンパンジー人工多能性幹細胞からの心筋細胞分化誘導法の樹立
R3-A2
代:岩槻 健
協:有永 理峰
協:坂口 恒介
霊長類消化管オルガノイド培養系を用いた生体防御機構の解明
R3-A3
代:Heui-Soo Kim
協:Woo Ryung Kim
協:Eun Gyung Park
Analysis of microRNA derived from transposable elements (TEs) in primates.
R3-A4
代:吉村 崇
協:中山 友哉
協:CHEN Junfeng
協:松本 昇子
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明
R3-A5
代:藤原 摩耶子
協:村山 美穂
希少動物の保全を目的とした霊長類の配偶子保存研究
R3-A6
代:今村 拓也
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化
R3-A7
代:城戸 瑞穂
協:吉本 怜子
協:西山 めぐみ
消化管粘膜におけるメカノセンサー発現の解明
R3-A8
代:一柳 健司
協:新田 洋久
協:藤原 聡一郎
霊長類におけるエピゲノム進化の解明
R3-A9
代:寺村 岳士
協:竹原 俊幸
Na?ve型チンパンジーiPS細胞の誘導と異種間キメラ動物の作製
R3-A10
代:正木 英樹
協:水谷 英二
チンパンジー多能性幹細胞の性状解析および異種間キメラ動物の作製
R3-A11
代:Jae-Won Huh
協:Hee-Eun Lee
協:Se-Hee Choe
協:Hye-Ri Park
協:Hyeon-Mu Cho
Exonization event caused by primate specific Alu element in primate evolution
R3-A12
代:鈴木 俊介
協:川崎 恵一朗
協:竹内 亮
協:牧 廉斗
協:松下 紋子
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化
R3-A13
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:平井 康治
協:角野 風子
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析
R3-A14
代:南本 敬史
協:永井 裕司
協:小山 佳
協:堀 由紀子
協:三村 喬生
化学遺伝学による霊長類セロトニン神経機能の解明
R3-A15
代:松本 正幸
協:山田 洋
協:國松 淳
マカクザル外側手綱核の神経連絡
R3-A16
代:小山 文隆
協:田畑 絵理
霊長類におけるほ乳類キチナーゼの遺伝子発現とその酵素機能の解析
R3-A17
代:田中 真樹
協:岡田 研一
協:亀田 将史
協:澤頭 亮
行動制御における皮質下領域の機能解析
R3-A18
代:筒井 健一郎
協:中村 晋也
協:大原 慎也
協:吉野 倫太郎
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出
R3-A19
代:二宮 太平
協:則武 厚
協:磯田 昌岐
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析
R3-A20
代:石田 裕昭
協:新井 誠
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
R3-A21
代:森田 尭
多チャンネルマイクロホンアレイと機械学習を用いたテナガザルの音声コミュニケーション分析
R3-A22
代:宇賀 貴紀
協:三枝 岳志
協:熊野 弘紀
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
R3-A23
代:西村 幸男
協:鈴木 迪諒
意欲が運動を制御する神経基盤の解明
R3-A24
代:斎藤 通紀
協:中村 友紀
協:横林 しほり
協:沖田 圭介
協:Guillaume Bourque
協:井上 詞貴
協:藤原 浩平
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明
R3-A25
代:河村 正二
協:早川 卓志
協:"MELIN, Amanda"
協:"MARQUES,Tomas"
霊長類保存ゲノム試料の全ゲノム解析活用
R3-A26
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:山崎 美和子
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明
R3-A27
代:橋本 均
協:笠井 淳司
協:勢力 薫
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析
R3-A28
代:石塚真太郎
近親交配リスクから探るPan属のメス分散の進化
R3-A29
代:上園 志織
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究
R3-A30
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:Woranan Wongmassang
αシヌクレイン過剰発現モデルサルを用いたパーキンソン病の病態生理の解析
R3-A31
代:荒川 那海
協:颯田 葉子
協:寺井 洋平
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について
R3-A32
代:鈴木 郁夫
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索
R3-A33
代:岡野 栄之
協:今泉 研人
霊長類iPS細胞を用いた脳オルガノイドのサイズと内部構造の制御解析
R3-A34
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
協:種田 久美子
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定
R3-A35
代:Zhijin Liu
協:Jiali Zhang
Phylogenetic genomics and adaptive evolution of the genus Trachypithecus
R3-A36
代:Cantas Alev
Comparative molecular analysis of primate embryonic development using iPSCs
R3-A37
代:香月康宏
チンパンジー21番染色体導入マウスの作製と比較ゲノム解析のための基盤技術開発
R3-A38
代:北山 遼
協:早川 卓志
グエノン類の混群形成メカニズム解明のための遺伝マーカーの検討
R3-A39
代:五藤 花
協:早川 卓志
協:郷 康広
類人猿の音声コミュニケーションの根底にある遺伝基盤の解明
R3-A40
代:齋藤 渉
協:桃井 保子
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討
R3-A41
代:川合 伸幸
他個体の警戒音声によって脅威対象の発見が促進されるか
R3-A42
代:早川 卓志
チンパンジーの舌乳頭における遺伝子発現の亜種間比較
R3-A43
代:井上 治久
協:沖田 圭介
協:今村 恵子
協:近藤 孝之
協:月田 香代子
協:Suong Dang
協:大貫 茉里
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用
R3-A44
代:松田 一希
協:豊田 有
霊長類社会の基盤となる個体間インタラクションの細部機構解明
R3-A45
代:嶋田 誠
人類進化における多様性の役割の解明
R3-A46
代:高島 康弘
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析
R3-B1
代:菊池 泰弘
協:荻原 直道
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元
R3-B2
代:Mukesh Chalise
Study on phylogeography of highland macaques and langurs in Nepal
R3-B3
代:Wirdateti
Reexamination of species classification and phylogeography in tarsiers (Tarsius spp.) from Sulawesi by mtDNA markers
R3-B4
代:佐々木 哲也
協:武井 陽介
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常
R3-B5
代:辻 大和
協:荒木 太一
協:伊藤 友仁
サル糞に集まる糞虫による二次散布能力の評価
R3-B6
代:岸 雄介
協:山中 総一郎
サルの発達・老化におけるクロマチン構造変化の解析
R3-B7
代:小湊 慶彦
協:佐野 利恵
サルの赤血球上の血液型抗原発現が転写調節領域の分子進化により規定されることの証明
R3-B8
代:岩永 譲
霊長類における黄色靭帯と棘間靭帯の解剖学的研究
R3-B9
代:伊藤 浩介
サル類における聴覚事象関連電位の記録
R3-B10
代:浅川 満彦
近畿・中国および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)等の寄生虫症および感染症に関する疫学調査
R3-B11
代:矢野 航
CT像に基づいた霊長類の移動姿勢-肝臓・内耳形態の進化的連関
R3-B12
代:中塚 雅賀
屋久島のニホンザル(Macaca fuscata yakui)におけるコドモの遊びの量の群間比較
R3-B13
代:風張 喜子
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討
R3-B14
代:佐藤 暢哉
協:林 朋広
コモンマーモセットにおける空間認知
R3-B15
代:小倉 淳郎
協:越後貫 成美
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察
R3-B16
代:大橋 篤
屋久島におけるサイズの異なる隣接群間でのニホンザルオスの社会関係の比較
R3-B17
代:那波 宏之
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
R3-B18
代:Catia Correia Caeiro
協:Hannah Buchanan-Smith
Using CalliFACS to develop an annotated database and an automated coding system for the facial expressions of common marmosets
R3-B19
代:Emma Ayres Kozitzky
The dental phenotype of anthropoid primate hybrids: Evidence from Macaca fuscata and M. cyclopis
R3-B20
代:荻原 直道
協:大石 元治
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析
R3-B21
代:加藤 彰子
ニホンザルの歯槽骨吸収と咬合・咀嚼に関する研究
R3-B22
代:栗原 洋介
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響
R3-B23
代:新井 誠
協:石田 裕昭
マーモセットを用いた血中ペントシジン値の正常発達軌跡の同定
R3-B24
代:小野 龍太郎
協:八木田 和弘
協:金村 成智
協:山本 俊郎
霊長類歯牙の成長線に関する比較解剖的考察
R3-B25
代:田中 郁子
μCT撮影のための筋組織染色法の改良―鳥類と霊長類―
R3-B26
代:大石 元治
協:荻原 直道
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について
R3-B27
代:吉田 富
齧歯類と霊長類の神経回路基盤解明のためのシングルセル遺伝子解析
R3-B28
代:小坂田 文隆
協:竹内 遼介
協:山口 真広
霊長類脳における細胞種特異的な神経回路構造の解明
R3-B29
代:土田 さやか
協:牛田 一成
コモンマーモセットの口腔疾患治療薬選抜に関する研究
R3-B30
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand
R3-B31
代:保坂 善真
協:田村 純一
協:割田 克彦
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析
R3-B32
代:松岡 史朗
協:中山 裕理
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態
R3-B33
代:神奈木 真理
協:長谷川 温彦
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫
R3-B35
代:松本 惇平
協:柴田 智広
協:三村 喬生
サル用マーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発
R3-B36
代:清水 貴美子
協:深田 吉孝
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関
R3-B37
代:柳川 洋二郎
協:鳥居 佳子
協:竹田 あおい
協:中 茉莉子
ニホンザルにおける凍結精液を用いた人工授精プログラム開発
R3-B38
代:日比野 久美子
協:竹中 晃子
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究
R3-B39
代:神田 暁史
協:外丸 祐介
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立
R3-B40
代:Bambang Suryobroto
協:Yohey Terai
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques
R3-B41
代:森本 直記
協:川田 美風
マカクザルにおける骨盤形態の加齢変化
R3-B42
代:三宅 弘一
協:松本 多絵
協:三宅 紀子
新生児遺伝子治療の有効性と安全性の検討
R3-B43
代:金子 新
協:塩田 達雄
協:中山 英美
協:三浦 智行
協:入口 翔一
協:岩本 芳浩
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究
R3-B44
代:伊藤 孝司
協:北川 裕之
協:灘中 里美
協:桐山 慧
協:篠田 知果
協:佐々井 優弥
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究
R3-B45
代:藤田 一郎
協:稲垣 未来男
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定
R3-B46
代:澤野 啓一
協:田上 秀一
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究
R3-B47
代:佐々木 基樹
類人猿における拇指(趾)可動性の非破壊的解析
R3-B48
代:笹岡 俊邦
協:福田 七穂
協:小田 佳奈子
協:崎村 建司
協:中務 胞
協:夏目 里恵
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究
R3-B49
代:姉帯 沙織
協:時田 幸之輔
肉眼解剖学に基づく霊長類背側肩帯筋の機能とその系統発達
R3-B50
代:高須 正規
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価
R3-B51
代:後藤 遼佑
協:時田 幸之輔
ヒト上科動物の数種ロコモーション様式における脊髄賦活化分節の推定
R3-B52
代:齋藤 慈子
協:新宅 勇太
吸啜窩の発達的変化の種間比較
R3-B53
代:Kanthi Arum Widayati
協:Yohey Terai
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques
R3-B54
代:筒井 健夫
協:鳥居 大祐
協:深田 哲也
マカク乳歯歯髄幹細胞移植における再生歯髄の解析
R3-B55
代:添野 雄一
協:中村 千晶
協:佐藤 かおり
協:川本 沙也華
協:田谷 雄二
協:工藤 朝雄
協:埴 太宥
オランウータン口腔粘膜の病理学的解析
R3-B56
代:平田 暁大
協:酒井 洋樹
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究
R3-B57
代:伊沢 紘生
協:宇野 壮春
協:関 健太郎
協:高岡 裕大
協:筒井 颯
協:関澤 麻伊沙
協:涌井 麻友子
金華山島のサルの個体数変動に関する研究
R3-B58
代:國松 豊
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究
R3-B59
代:Klara Petrzelkova
協:Bethan Mason
協:Barbora Pafco
協:Takayuki Wada
協:Takashi Hayakawa
Genetic Diversity of Strongylid Nematode Communities in Southeast Asian Primates
R3-B60
代:Jose Luis Alatorre Warren
協:Sakai Tomoko
"Early postnatal brain development in humans, chimpanzees and macaques using longitudinal MRI"
R3-B61
代:Rafaela Takeshita
協:Emilee Hart
協:Emily Curtis
"The Costs of Maternal Investment in Japanese Macaques (Macaca fuscata)
R3-B62
代:中務 真人
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究
R3-B63
代:西川 真理
協:河村 正二
隠蔽的・警告的な色彩のヘビの検出にリスザルの色覚型が及ぼす影響
R3-B64
代:近藤 玄
協:信清 麻子
協:柳川 洋二郎
協:渡邊 仁美
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明
R3-B65
代:郷 康広
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究
R3-B66
代:長谷 和徳
協:吉田 真
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発
R3-B67
代:伊村 知子
協:鈴木 千春
チンパンジーにもトライポフォビアは生起するのか
R3-B68
代:Surdensteeve Peter
協:Noor Haliza Hasan
"Intestinal protozoa infecting primates in the Lower Kinabatangan Wildlife Sanctuary, Malaysia. "
R3-B69
代:荒川 高光
協:江村 健児
協:櫻屋 透真
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する
R3-B70
代:信清 麻子
協:外丸 祐介
協:畠山 照彦
一卵性多子ニホンザルの作製試験
R3-B71
代:鯉江 洋
協:揚山 直英
協:中山 駿矢
協:白 仲玉
霊長類の循環器系加齢誘引疾患に関する研究
R3-C1
代:森山 隆太郎
COVID-19の性感染症可能性の組織学的検討
R3-C2
代:村松 明穂
協:山本 真也
チンパンジーにおける位取り記数法の学習と作業記憶における加齢効果

R2
論文 44 報 学会発表 48 件
R2-A1
代:岩槻 健
協:有永 理峰
協:坂口 恒介
協:小松 さゆり
オルガノイド培養系を用いた霊長類消化器官の機能解析

論文
Akihiko Inaba, Shunsuke Kumaki, Ayane Arinaga, Keisuke Tanaka, Eitaro Aihara, Takumi Yamane, Yuichi Oishi, Hiroo Imai, Ken Iwatsuki(2020) Generation of intestinal chemosensory cells from nonhuman primate organoids Biochemical and Biophysical Research Communications (BBRC) Accepted. 謝辞あり

学会発表
稲葉明彦、有永理峰、早津徳人、岡崎康司、遠藤高帆、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 サル消化管オルガノイドを用いた霊長類特異的Tuft細胞機能の探索(2019.12.14) 2020年度日本農芸化学会大会(中止だが、ポスター発表選出)(福岡).

有永理峰、稲葉明彦、坂下陽彦、田中啓介、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 消化管オルガノイドを用いたTuft細胞の機能解析(優秀発表賞受賞)(2020.10.23) 日本味と匂学会第54回大会(オンライン).

小松さゆり、中安亜希、大島永心、新藤壮剛、今井啓雄、伯川美穂、杉山宗太郎、綾部時芳、中村公則、山根拓実、大石祐一、岩槻健 霊長類T1R1およびT1R2抗体の作製(2021.318-21) 日本農芸化学会2021年度大会(仙台).

坂口 恒介、中嶋 ちえみ、稲葉 明彦、石井 栞 、熊谷 孝太郎 、佐藤 晃司、今井 啓雄、山根 拓実、大石 祐一、岩槻 健 サル膵管オルガノイド作製とTuft細胞への分化誘導系の確立(:2021.318-21) 日本農芸化学会2021年度大会(仙台).

有永理峰、岡村真子、山本咲也香、THUPTIANRAT  NAPATSORN、稲葉明彦、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 Afamin-Wnt3a CMは霊長類消化管オルガノイドの細胞分化をサポートする(2021.3.18-21) 日本農芸化学会2021年度大会(仙台).
オルガノイド培養系を用いた霊長類消化器官の機能解析

岩槻 健 , 有永 理峰, 坂口 恒介, 小松 さゆり

 前年度に続いて、サルの消化管上皮細胞の三次元培養系(オルガノイド培養系)を使い、研究計画で課題として掲げた、1)消化管上皮細胞の至適分化条件の探索および、2)機能評価系の構築を行った。
まず、消化管オルガノイドの培養を安定化させるために近年報告されたIGF-1とFGF-2を培地に添加し、代わりにp38阻害剤であるSB202190を除いて培養した。その結果、オルガノイドを形成率が向上したばかりでなく、分化細胞数も増えたため、以後IGF-1とFGF-2を添加した培地を用いることにした。次に、この新しい培地組成を分化誘導培地に替え、II型免疫系を惹起するIL-4を加えることでTuft細胞への分化誘導を試みた。その結果、Tuft細胞選択的に発現する遺伝子であるPOU2F3、DCLK1、TRPM5などの発現上昇が観察された。また、免疫染色によりDCLK1タンパク質の発現も増加することが確認された。特筆すべきことは、このIGF-1およびFGF-2を用いることで、これまでの不安定な培養系が改善されたことである。
 現在、霊長類のTuft細胞のナチュラルリガンドが何かについてはかはまだ明らかではない。マウスの研究により寄生虫感染がトリガーとなり、Tuft細胞が活性化し一連のII型免疫反応が引き起こされるが、今回IL-4によるTuft細胞の分化誘導もその一部を再現したものである。今後は、本系を用いてII型免疫反応を増強する食品因子や化学物質の探索を目指したい。れを見ているときのチンパンジーの視線と瞳孔径を測定した。現在データの分析を進めている。



R2-A2
代:吉村 崇
協:中根 右介
協:中山 友哉
協:Ying-Jey Guh
協:Junfeng Chen
協:沖村 光祐
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明

吉村 崇 , 中根 右介, 中山 友哉, Ying-Jey Guh, Junfeng Chen, 沖村 光祐

環境の季節変化に応じて、代謝、免疫機能、気分など、ヒトの様々な生理機能は季節変化を示す。また、心疾患、肺がん、精神疾患などの発症率にも季節の変化が存在するが、それらの季節変化をもたらしている分子基盤は明らかになっていない。次世代シーケンサーの進歩により、様々な組織の時系列試料において全転写産物の振る舞いをゲノムワイドに明らかにできる環境が整った。サルは進化的にヒトに近く、これまでヒトの生理機能や病態の理解に必須の役割を果たしてきた。特に、ヒトの様々な生理機能や病態の季節変化の分子基盤を明らかにするためには、繁殖などにおいて、明瞭な季節応答を示すアカゲザルを用いる以外に研究手段がない。そこで本研究では、屋外の自然条件下で飼育されているアカゲザルにおいて、全身の様々な組織における全転写産物の季節性時空間動態をRNA-seq解析によって明らかにすることを目的として実験を行ったところ、季節変動する遺伝子を抽出することに成功した(図)。また、血液におけるメタボローム解析を行うことで、季節変動する代謝物を見出すことに成功した。


R2-A3
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
協:種田 久美子
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明
霊長類の生理機能季節変化の分子基盤の解明

関 和彦 , 大屋 知徹, 梅田 達也, 工藤 もゑこ, 窪田 慎治, 種田 久美子

現在までに、最も効率的に脊髄運動ニューロンに遺伝子を導入する方法を確立しつつある。つまり、マカクサルの第一背側骨間筋の神経終板帯を電気生理学的に同定し、当該部位にウイルスベクター(AAV9) によって、脊髄運動ニューロンへのGFPの導入を試みた。結果として、定性的評価では100個以上の運動ニューロンがラベルされた。ヒトでは当該筋を支配するα運動ニューロンの数は120程度と言われるので、効率は高いといってよい。G遺伝子の欠損により感染伝播能を欠失させた高発現狂犬病ウイルスベクターの開発も進捗しており、次年度は最低2回の実験を計画している。


R2-A4
代:筒井 健一郎
協:中村 晋也
協:大原 慎也
協:吉野 倫太郎
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

学会発表
吉野 倫太郎 マカクザル内側前頭皮質の側坐核及び扁桃体への投射様式の違いによる領域区分(2020年7月31日) 第43回日本神経科学大会(神戸).
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井 健一郎 , 中村 晋也, 大原 慎也, 吉野 倫太郎

 我々は、内側前頭葉、特に前部帯状皮質と扁桃体や側坐核を結ぶ繊維連絡の構成を明らかにするために、ウイルストレーサーを用いた解剖学的解析を行っている。本年度は、これまでに行った逆行性ウイルスベクターを用いた実験結果の解析を進めた。さらに、マカクザルの前部帯状皮質の複数領域(背側部、膝前部、膝下部)にそれぞれ異なる蛍光タンパク質を発現する順行性ウイルスベクターを注入する実験を行った。その結果、いずれの注入部位についても扁桃体や側坐核において標識された軸索が認められたが、その分布パターンには違いが認められた。今後は、さらに解析と実験を進め、これらの解剖学的結果について論文投稿の準備を行うとともに、化学遺伝学的手法による機能阻害実験によりこれらの神経経路の機能を調べていく。本研究の一部について、第43回日本神経科学大会(ポスター)および第61回日本神経学会学術大会(招待講演)において発表を行った。


R2-A5
代:Zhijin Liu
協:Fang Dong
Phylogenetic genomics and adaptive evolution of the genus Trachypithecus
Phylogenetic genomics and adaptive evolution of the genus Trachypithecus

Zhijin Liu , Fang Dong

The divergence between limestone and forest langurs was estimated to have occurred at ~2.90 Mya (95% HPD 2.23–3.56). Phenotypically, the limestone langurs exhibit generally black fur coloration, while the forest langurs are predominantly gray pelage coloration. As melanocortin 1 receptor (MC1R) is a critical regulator of melanin pigment formation during pelage development, we first examined the MC1R gene in both limestone and forest langurs. We found one amino acid substitution (E94D) of the MC1R in all limestone langurs, but not in any forest langurs.
To further explore the effects of the substitution E94D of MC1R on melanin synthesis in limestone langurs, we evaluated MC1R activity by in vitro cyclic adenosine monophosphate (cAMP) assays of MC1R-94E and MC1R-94D. We measured the production of intracellular cAMP in response to different concentrations of α-MSH with MC1Rs from four primate species (Homo sapiens, Macaca mulatta, T. francoisi and T. phayrei), respectively (Fig 4). All MC1Rs showed a dose response to increasing concentrations of a-MSH. With increasing concentrations of α-MSH, the cells showed an increasing production of cAMP. MC1R of limestone langurs (T. francoisi) exhibited significant higher level of basal cAMP production compared to forest langurs (T. phayrei) and other primates (H. sapiens and M. mulatta) (P value < 0.01).



R2-A6
代:南本 敬史
協:永井 裕司
協:小山 佳
協:堀 由紀子
協:三村 喬生
脳活動制御とイメージングの融合技術開発
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

南本 敬史 , 永井 裕司, 小山 佳, 堀 由紀子, 三村 喬生

本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.R2年度は脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い化合物として独自に見出したDCZの有効性についてさらなる検証を進め,抑制性DREADD(hM4Di)を両側DLPFCに発現させたサルに微量のDCZを投与することで,空間作業記憶の障害を引き起こすことを示すなど,サルDREADD操作性の高精度化・安全性・利便性を高めることに成功し,論文として報告した(NagaiらNat Neurosci,2020).さらにDCZを放射性ラベルした[11C]DCZはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で,高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに,陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功.サル尾状核に発現させたhM4DiをDCZで賦活化することにより、一過性に抑制することでこの部位が遅延報酬割引価値に基づいた意欲行動を制御することに必須であることを示した(HoriらbioRxiv2020).加えて,PETで可視化したDREADD陽性細胞の軸索終末部にDCZを局所注入することで経路選択的な抑制制御ができることを明らかする(OyamaらbioRxiv2021)など,複数の論文としてまとめ投稿中である.これらの成果はマカクサルの特定神経回路をターゲットとしたDREADDによる神経活動操作がいよいよ実用段階になったことを示す.成果論文をpreprintで共有するとともに,研究会を定期的に開催し(例えば霊長類脳の遺伝子導入による脳回路操作とイメージング研究会2021.2.27 online),DREADDによるサル脳回路操作の技術普及を図る.


R2-A7
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:山崎 美和子
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明

小林 和人 , 菅原 正晃, 加藤 成樹, 渡辺 雅彦, 山崎 美和子, 内ヶ島 基政, 今野 幸太郎

マーモセット束傍核―尾状核経路の認知機能における役割を評価するために、視覚弁別学習課題を用いて、行動学的な解析を行った。イムノトキシン細胞標的法のための遺伝子として、インターロイキン-2 受容体αサブユニット(IL-2RαとGFP変異体mVenusの融合遺伝子をコードし、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの線条体内に注入した。その後、束傍核にイムノトキシンあるいはコントロールとしてPBSを注入することにより、視床線条体路の除去を誘導した。視床線条体路を欠損する動物の行動学的評価として、中村教授・高田教授の開発した、視覚弁別課題を用いて認知機能の解析を行った。視覚弁別課題では、第一に、1つの単純な画像の提示を用いて画像に触れること、およびそれにより報酬を得られることを学習させた。次に、報酬が得られる正画像と得られない誤画像の2種類の弁別用画像を同時に提示して、正画像を選択した正答率や一定の正答率に達する所要期間を評価した。一定の正答率に達した後、画像の正誤を逆転させて同様に正答率と一定の正答率に達する所要期間等を評価した。コントロール群に比較して除去群は視覚弁別学習の獲得に変化はなかったが、逆転学習の実行が低下する傾向を示した(t検定、P = 0.063)。本実験は、コントロール群m実験群のそれぞれを2頭の動物を用いて行ったため、動物数を追加して確認する必要がある。行動テストの後、視床線条体路を構成する細胞数の減少を抗GFP抗体を用いて免疫組織学的に検出した。コントロール群に比較して、実験群の束傍核細胞数は40%程度に減少することから経路の除去を確認した。


R2-A8
代:石田 裕昭
協:西村 幸男
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田 裕昭 , 西村 幸男

前頭極は、霊長類に特有の前頭前野領域であり、ヒト・マカクザルでは「認識していることを認識する」メタ認知に関与すると言われている。前頭極に関して統合失調症患者の脳形態学的研究では、前頭極の体積減少が示され、これが患者の病識欠如や社会生活を送る上での困難さ(目的指向的な行動制御の困難さ)に関わる可能性が示唆されている。
ヒト脳fMRIを用いて前頭極の機能的ネットワークが調べられてきた一方で、細胞レベルでの神経ネットワークは未解明の部分が多い。そこで、本研究課題では、前頭極を有するマカクザルをモデルに、狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプストレーシング法を用いて、前頭極の多シナプス性神経ネットワークの解析を行った。
これまでに、一次シナプスまでの神経ネットワーク(N=2)、二次までの多シナプス性ネットワーク(N=2)について解析を完了した。これらのデータに基づき、マカクザル前頭極の皮質間ネットワークについてまとめ、論文の執筆を進めている。
2020年度は、三次までの多シナプス性ネットワークを明らかにするために、サル2頭を用いて注入実験を実施した。その結果、2頭のうち1頭については期待した線条体への感染が認めらなかったことから、三次までの越シナプス感染に至らなかったと解釈した。ウイルスベクターの生存時間の再検討が必要と考えられる。来年度は、三次シナプスまでの感染させた個体を追加し、前頭極−大脳基底核ネットワークの実態を明らかにする。



R2-A9
代:橋本 均
協:笠井 淳司
協:勢力 薫
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

論文
Masato Tanuma. Atsushi Kasai, Kazuki Bando, Naoyuki Kotoku, Kazuo Harada, Masafumi Minoshima, Kosuke Higashino, Atsushi Kimishima, Masayoshi Arai, Yukio Ago, Kaoru Seiriki, Kazuya Kikuchi, Satoshi Kawata, Katsumasa Fujita, Hitoshi Hashimoto(2020) Direct visualization of an antidepressant analog using surface-enhanced Raman scattering in the brain. JCI Insight 5(6):e133348. 謝辞あり
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本 均 , 笠井 淳司, 勢力 薫

学会発表
丹生光咲、笠井淳司、勢力薫、橋本均.(2021年3月8日)「全脳レベルの活動・回路マッピングから解き明かすストレス脳」第64回日本薬理学会(札幌コンベンションセンター)

笠井淳司、勢力薫、橋本均.(2021年3月9日)「全脳活動地図と経時的活動が示す不安様行動の制御機構」第64回日本薬理学会(札幌コンベンションセンター)

本年度は高田研で作成された全脳感染性蛍光標識アデノ随伴ウイルスベクターを用いて脳全体の神経細胞を蛍光標識した霊長類脳を得た。また、高田研で作成された刺激依存的な蛍光標識アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、微小脳領域内の刺激依存的な全脳投射パターンをFASTを用いてシングル細胞レベルで観察した。


R2-A10
代:小松 英彦
協:齊藤 治美
視覚の充填知覚を司る情報処理機構の探索
視覚の充填知覚を司る情報処理機構の探索

小松 英彦 , 齊藤 治美

2頭のサルに注視課題を訓練し、第一次視覚野(V1)の視野地図で盲点に対応する視野を表現している領域(盲点領域)からニューロン活動の記録を行った。片目を遮蔽して単眼視の条件で、盲点を覆う一様な刺激を提示し、盲点で充填知覚が起きる条件で、V1の各層にどのような活動が生じるかを多チャンネル電極を用いて調べた。その結果、V1盲点領域の深層と浅層の両方で視覚応答が見られた。次に、充填知覚に伴い盲点領域およびその周辺領域で同期活動が生じるかを調べるために、2本の多チャンネル電極を同時に刺入して記録を行った。この結果については現在解析中である。V1と外側膝状体を結ぶ双方向の回路の働きにより、充填知覚時の活動が生じるかをオプトジェネティクスの方法により調べる計画であったが、実験が予定より遅れたために共同利用で予定していたオプトジェネティクスの研究については行うことができなかった。


R2-A11
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:Woranan Wongmassang
αシヌクレイン過剰発現モデルサルを用いたパーキンソン病の病態生理の解析
αシヌクレイン過剰発現モデルサルを用いたパーキンソン病の病態生理の解析

南部 篤 , 畑中 伸彦, 知見 聡美, 佐野 裕美, 長谷川 拓, 纐纈 大輔, Woranan Wongmassang

パーキンソン病 (PD) の病態を調べるため、ドーパミン選択的神経毒MPTPを投与したニホンザルPDモデルを作製し、大脳基底核の中継核である淡蒼球外節(GPe)の神経活動を記録した。大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答を調べてみると、正常サルでは早い興奮-抑制-遅い興奮という3相性の応答が観察できるが、PDサルでは遅い興奮が著しく増大していた。GPeにおける皮質由来の遅い興奮は、大脳皮質-線条体-GPe-視床下核-GPe路を介して伝達されることから、PDでは線条体からGPeへの情報伝達が増強されていることが示唆された。同様の応答様式がドーパミンD2受容体のノックアウトマウスでも観察されることから、線条体-GPeにおける情報伝達の増強は、主にD2受容体を介する情報伝達の消失によると考えられる。
 また、aシヌクレイン過剰発現PDサルを作製するため、aシヌクレイン遺伝子を搭載した逆行性感染型アデノ随伴ウイルスベクター(AAV2-retro)をニホンザルの線条体に注入投与した。約2か月で黒質緻密部のドーパミン神経の細胞死が起こる考えられたが、行動や大脳基底核の神経活動の明らかな変化は観察されなかった。黒質緻密部を組織学的に調べたところ、逆行性に感染した細胞は多くなく、細胞の脱落も観察できなかった。現在、新たに開発した逆行性感染型AAVベクターを用い、遺伝子の発現効率を調べる実験を進めている。



R2-A12
代:Heui-Soo Kim
協:Woo Ryung Kim
Analysis of microRNA derived from long interspersed nuclear element (LINE) in primates

学会発表
Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression Analysis of MicroRNA-21-5p and 221-3p in Chimpanzee(2020.08.06) he 62th Annual Meeting and International Symposium of Korean Society of Life Science(Gyeong-ju,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Molecular Characterization of MicroRNA-887-3p Derived from Long Interspersed Element in Chimpanzee(2020.10.15) The 29th international KOGO Annual eConference Frontiers in integrative Genomics and Translational Medicine(Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Target Gene Analyses of miR-21-5p and miR-221-3p in Chimpanzee(2020.10.15) The 29th international KOGO Annual eConference Frontiers in integrative Genomics and Translational Medicine(Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analyses of MicroRNA-887-3p in Chimpanzee(2020.10.22) The 75th Annual Meeting of the Korean Association of Biological Sciences(Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of MicroRNA-21-5p and 221-3p in FOXP2(2020.10.22) The 75th Annual Meeting of the Korean Association of Biological Sciences(Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of microRNA-887-3p Derived from Long Interspersed Element in Pan troglodytes(2020.11.26) International Conference of the Genetics Society of Korea 2020 & 7th Asia-Pacific Chromosome Colloquium(Pusan,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of miR-21-5p, miR-221-3p in FOXP2(2020.11.26) International Conference of the Genetics Society of Korea 2020 & 7th Asia-Pacific Chromosome Colloquium(Pusan,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analyses of miR-887-3p in Pan troglodytes(2020.12.02) The Korean Society for intergrative biology (Online).

Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Molecular characterization of MicroRNA-21-5p and MicroRNA-221-3p in FOXP2(2020.12.02) The Korean Society for intergrative biology (Online).
Analysis of microRNA derived from long interspersed nuclear element (LINE) in primates

Heui-Soo Kim , Woo Ryung Kim

Transposable element (TE), which jumps around another region of genome, can be alternative enhancer, promoter and generate some microRNAs (miRNAs). MicroRNA is short single strand RNA (ssRNA) that is about 22 nucleotides in length. The miRNA binds to 3’ untranslated and regulates the expression of target messenger RNA (mRNA). The miRNA also plays a crucial role in several biological processes at the post transcriptional level. MicroRNA-588, miR-887-3p, miR-582-5p and miR-1825 are derived from long interspersed element (LINE), which is group of non-long terminal repeat retrotransposons and account for approximately 21% of human genome. The expression patterns of miRNAs were analyzed in various tissue samples of chimpanzee (Pan troglodytes) that has considerable genetic similarities with human. MicroRNA-887-3p and miR-582-5p were highly expressed in spleen and the highest expression of miR-588 was identified in kidney of chimpanzee. Especially, miR-1825 which regulates progression of several cancers and other diseases is highly expressed in colon. Bioinformatic analyses about miR-1825 were also conducted by using several bioinformatic tools. Common target genes of miR-1825 were chosen by four databases of target gene prediction, including TargetScan, miRDB, miRWalk, miRPathDB. For the additional study, target gene of miR-1825 will be selected and its expression patterns in chimpanzee will be analyzed.


R2-A13
代:北山 遼
協:早川 卓志
グエノン類の混群研究メカニズム解明のための遺伝マーカーの検討

論文

学会発表
北山遼, 峠明杜, 橋本千絵, 五百部裕, 今井啓雄, 古市剛史, 早川卓志 ゲノムから探るグエノン類の混群形成メカニズム(2021年3月6日) 第65回プリマーテス研究会(日本モンキーセンター(愛知県犬山市)・オンライン).

グエノン類の混群研究メカニズム解明のための遺伝マーカーの検討

北山 遼 , 早川 卓志

ウガンダ共和国のカリンズ森林に生息するアカオザルとブルーモンキーは混群を形成する。混群の成立要因はいまだよくわかっていない。そこで本研究は、従来の仮説に分子の視点を取り入れ、品質の良い飼育グエノン類の遺伝試料を用いて、カリンズのグエノン類の混群研究に有用な遺伝子マーカーの選抜をおこなうことを目的とした。2020年10月に霊長類研究所を訪問し、グエノン類11種の遺伝試料を譲り受けた(霊長類研究所訪問はコロナウイルスの感染拡大防止に最大限配慮しておこなった)。そのうち、アカオザルとブルーモンキーに近縁な4種について、全ゲノムショットガン法による全ゲノムの塩基配列決定をおこなった。組織からのDNA抽出までを代表者が実施し、シークエンス解析は解析業者に外注した。現在は得られた全ゲノムデータの解析中である。今後はこの全ゲノムデータを活用し、有用な遺伝子マーカーの選抜をおこなう。遺伝子マーカーの選抜にあたり、今年度に全ゲノム解析を行わなかった種や個体も解析、比較に用いることで、より正確に各マーカーの有効性を評価したい。最終的にこれらのマーカーを用いて、カリンズのグエノン類の集団解析を実施する。


R2-A14
代:田中 真樹
協:竹谷 隆司
協:亀田 将史
協:澤頭 亮
行動制御における皮質下領域の機能解析

論文
Itoh, T.D., Takeya, R. & Tanaka, M.(2020) Spatial and temporal adaptation of predictive saccades based on motion inference. Sci Rep 10:5280 . 謝辞なし

Tanaka, M., Kunimatsu, J., Suzuki, T.W.,Kameda, M., Ohmae, S., Uematsu, A. & Takeya, R. Roles of the cerebellum in motor preparation and prediction of timing. Neuroscience AOP(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32360700). 謝辞なし
行動制御における皮質下領域の機能解析

田中 真樹 , 竹谷 隆司, 亀田 将史, 澤頭 亮

感覚性視床は皮質下の情報を大脳の一次感覚野に中継するが、これは大脳皮質深層から視床へのフィードバック経路によって調節を受けることが知られている。運動性視床についても脳幹、小脳、大脳基底核の情報を運動性皮質にただ中継するだけではなく、視床のレベルで何らかの情報修飾が行われていると考えられる。これを明らかにするため、ニホンザルの大脳視床路を光遺伝学的に抑制し、視床のニューロン活動に及ぼす影響を調べた。京大から抑制性オプシンであるハロロドプシンを発現するウイルスベクターを提供していただき、北大で補足眼野に遺伝子導入を行った。眼球運動課題を行っているサルの視床ニューロンの記録中に、同部の光刺激によって皮質視床路を終末で抑制した。多くのニューロンが課題特異的な活動変化を示したが、課題非特異的なベースライン活動の変化も約半数で認められた。この課題非特異的な変化はオプシンを発現していない個体でも観察され、その潜時と活動変化の方向から局所の熱産生による影響が疑われた。京大で免疫組織学的検討を行っていただいたところ、大脳・視床とも良好に遺伝子発現がみられた。以上の結果はeNeuro誌(8 (2) ENEURO.0511-20.2021)に発表した。引き続き、分子ツールを用いた本共同研究課題「行動制御における皮質下領域の機能解析」をさらに発展させるための準備を進めている。


R2-A15
代:松本 正幸
協:山田 洋
協:國松 淳
マカクザル外側手綱核の神経連絡
マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本 正幸 , 山田 洋, 國松 淳

外側手綱核から投射を受け、抑制的な活動制御を受ける中脳ドーパミンニューロンが形成する神経回路の解剖学的な探索を目的として、特に、これまで不明であったドーパミンニューロン―小脳間の神経連絡に着目した。先行研究により、ドーパミン神経系の異常との関係が指摘されている発達障害者において、小脳の異常が報告されており、ドーパミンニューロン―小脳間の相互作用が推測される。令和2年度はコロナ禍のために霊長研で実験を実施することができなかったが、共同研究者でもある所内対応者と議論を深め、どの脳領域にどのような種類のトレーサーを注入すればドーパミンニューロン―小脳間の神経連絡を同定できるのか(たとえば黒質緻密部のドーパミンニューロンが小脳のどの部位に投射を送っているのか等)、実験計画を洗練することができた。令和3年度にこの実験を実施予定である。


R2-A16
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:平井 康治
協:緒方 久実子
協:東山 哲也
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

藤山 文乃 , 苅部 冬紀, 平井 康治, 緒方 久実子, 東山 哲也

本研究では、齧歯類の脳の尾側線条体に、ドーパミン 受容体およびドーパミンのマーカーであるtyrosine hydroxylase (TH)の発現が非常に少ない領域があることを報告した。その後、本共同利用研究によって所内対応者の高田昌彦教授、井上謙一助教の協力で得たマーモセット脳で確認したところ、同様の領域が確認され、これは種を超えた所見であることが判明し、本教室の大学院生が本年度学位論文として報告した。次年度は、この領域の機能に迫るために、D1R / D2R poor zoneの投射ニューロンが他の線条体領域の投射ニューロンと異なる性質を持つかどうかという(1)投射ニューロンの特性、D1R / D2R poor zoneにどのタイプのニューロンが存在するのかという (2) 細胞構築と、どこの領域から入力を受けてどこに出力するのかという (3) 入出力構造をその他の線条体領域と比較することで、機能が異なるかどうかを解明し、さらにこの領域が(4)霊長類にも存在するかどうかの検証を行う。


R2-A17
代:高須 正規
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価

高須 正規

令和2年度,新型コロナウイルスの影響により,霊長類研究所への訪問が叶わず,実験を速やかに進めることが困難であった。感染拡大を防止しつつも,研究を進めるために,オンラインでのミーティングを持ち,コロナ禍における申請研究の方向を明確にした。
 まず,投稿中の論文採択のための議論を持った。さらに,投稿論文におけるレビューアからのコメントを基に,今後,進めるべき内容を議論した。加えて,行動自粛下で採取できるデータに関して議論した。
 令和3年には,投稿論文の採択を得ることに加え,ここで議論した内容を進める。これにより,臨床獣医学で用いられている代謝プロファイルテストの野外飼育ニホンザルへの応用を実現し,そのQOLの向上へ寄与したいと考えている。



R2-A18
代:二宮 太平
協:則武 厚
協:磯田 昌岐
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析

論文
Noritake, Atsushi. Ninomiya, Taihei. Isoda, Masaki.(2021) Subcortical encoding of agent-relevant associative signals for adaptive social behavior in the macaque Neuroscience & Biobehavioral Reviews 125:78-87.
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析

二宮 太平 , 則武 厚, 磯田 昌岐

本共同研究は、社会的認知機能に重要とされる、いわゆる社会脳ネットワークの詳細を解剖学的アプローチにより明らかにすることを目的とする。具体的には、マカクザルの内側前頭皮質(MFC)と腹側運動前野(PMv)を対象とした、越シナプス能をもたないG遺伝子欠損型狂犬病ウイルスベクターおよびテトラサイクリン遺伝子発現調節システム(Tet-onシステム)を利用した、神経路特異的トレーシング実験をおこなう。本年度はマーカー遺伝子としてGFP遺伝子を挿入したG遺伝子欠損型RVベクターの回収に成功し、当該ベクターの大量調製法と濃縮・精製法を確立した。また、げっ歯類への注入実験により、高い逆行性感染能と外来遺伝子発現能を有していることも確認した。注入実験の対象となるMFCおよびPMvの同定に必要な、細胞外電位記録法および皮質内微小電気刺激法についても実験をおこなえることを確認している。今後は、霊長類におけるベクターの有効性を確認し、必要があれば更なるベクターの調整をおこなった後、当初計画していたMFCとPMvへの注入実験および神経ラベルの解析を進めていく予定である。


R2-A19
代:小山 文隆
協:田畑 絵理
霊長類におけるほ乳類キチナーゼの遺伝子発現とその酵素機能の解析
霊長類におけるほ乳類キチナーゼの遺伝子発現とその酵素機能の解析

小山 文隆 , 田畑 絵理

キチンは N-アセチル-D-グルコサミンが β-1,4 結合した多糖で,エビ,カニ, 昆虫など多くの生物に存在している。ほ乳類はキチンを合成していないが,その分解酵素であるキチナーゼを発現している。北米での先行研究で,ほ乳類の祖先は昆虫を主食にしており,酸性キチナーゼ (Acidic Chitinase, Chia) 遺伝子がほ乳類の進化と密接に関わっていることが示された。霊長類の CHIA には二つのパラログが存在している(ここではそれぞれ CHIA1, CHIA2 とよぶ)。しかし,それぞれのパラログの遺伝子発現,機能については大部分が未解明である。我々は,ヒトで,CHIA1 は高いレベルで発現しているが,non-coding RNA であることを見出している (Tabata et al., 未発表データ)。2020 年度の研究で,Great Apes のチンパンジーで,CHIA1 が,肺で高い発現をしていることを見出した。ヒトの CHIA1 との類似性から推定すると,この遺伝子の転写物は stop codon が出る long noncoding RNA になっていると思われた。他方,ゴリラ,オランウータンでは CHIA1 の発現は認められなかった。Lessor Apes のテナガザルでは,CHIA2 が,胃で高いレベルで発現していてた。CHIA2 は,マウスやブタなどのほ乳類の胃で高い発現をする分子であり,旧世界ザルのカニクイザル,新世界ザルのマーモセットでは偽遺伝子化していた (Tabata et al., Sci Rep. 9, 159, 2019)。以上のことから,進化の過程で, CHIA1 の偽遺伝子化,CHIA2 の発現調節の変化があったものと推定された。


R2-A20
代:西村 幸男
協:鈴木 迪諒
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

論文

関連サイト
研究室ホームページ http://www.igakuken.or.jp/neuroprosth/
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

西村 幸男 , 鈴木 迪諒

意欲を司る腹側中脳領域(腹側被蓋野、黒質緻密部、赤核後部)が皮質脊髄路ニューロンの活動を促通する神経回路の存在を明らかにする目的で、逆行性越シナプス神経トレーサーである狂犬病ウイルスを、2頭のサルの頸膨大へ注入し、一定期間の生存期間を経て、灌流固定を行い組織実験を行なった。2頭のサル共に腹側中脳領域に脊髄へ越シナプスで投射するニューロンの存在を確認できた。さらに標識されたニューロンの一部はドパミンニューロンであった。一方で、腹側中脳で標識されたニューロンが脊髄へ直接投射するニューロンである可能性を排除するために逆行性のコンベンショナルトレーサーを1頭のサルの頸膨大へ注入し、組織実験を追加した。その結果、腹側被蓋野・黒質緻密部・赤核後部の領域から脊髄へ直接投射するニューロンの存在しないことを確認した。上記のすべての結果により、腹側中脳から脊髄へ2シナプス性に投射する神経路が存在することを明らかにした。現在これらの成果を含めて論文化を進めており、投稿予定である。


R2-A21
代:宇賀 貴紀
協:三枝 岳志
協:熊野 弘紀
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

宇賀 貴紀 , 三枝 岳志, 熊野 弘紀, 須田 悠紀

運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。昨年度に引き続き、サル1頭のMT野にhM4Di遺伝子を搭載したウイルスベクターを打ち、マルチユニットと局所電場電位(LFP)の反応変化を解析した。


R2-A22
代:佐藤 侑太郎
協:狩野 文浩
アイ・トラッキングによるチンパンジーの社会認知研究
アイ・トラッキングによるチンパンジーの社会認知研究

佐藤 侑太郎 , 狩野 文浩

当該年度は、前年度に実施した以下の実験にかかる、データ分析や論文執筆に取り組んだ。チンパンジーが他個体の音声(警戒声・採餌声)を聞いたときに、関連のある事物(果物・ヘビ)の画像と結びつけることができるかを、視線計測装置を使った実験によって調べた。実験の結果、チンパンジーが警戒声を聞いたときにヘビの画像をより長く見ることが示唆され、警戒声とヘビとを結びつけることができる可能性が示唆された。この成果は、チンパンジーの音声コミュニケーションに関わる認知メカニズムを理解するうえで重要である。
 また、類人猿が他者の身体の構造をどの程度理解しているかを、視線計測装置を使った実験によって調べた。実験の結果、類人猿も身体運動が関節によって制限されていることをある程度は理解している可能性が示唆されたものの、全体的な結果は曖昧であり、明確な結論を導くことはできなかった。瞳孔径を活用した情動反応評価についても、信頼できる結果は得られなかった。しかしながら、これらの成果は、今後の研究に方法論的観点から示唆を与えることが期待される。現在、これらの成果をまとめた論文を、国際学術誌に投稿中である。



R2-A23
代:上園 志織
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究

上園 志織

 当該研究は、小型霊長類であるマーモセットを実験動物とし、神経トレーサー(狂犬病、レンチ、アデノ随伴ウイルスベクターなど)の注入により霊長類の島皮質の入力および出力系の連絡を明らかにすることで、島皮質の詳細な機能マップを作成し、島皮質が果たす機能の全容解明の基盤となる神経ネットワークを細胞レベルで包括的に示すことを目的としている。
当該研究の対象である島皮質は他の大脳皮質に比べ深部にあり、細胞構築の違いから大きく3つの亜領野(無顆粒性島皮質、不全顆粒性島皮質、顆粒性島皮質)に分類される。これまでの注入実験により、島皮質の亜領野への限局的な注入を成功させるためには、注入実験の方法をより高い精度でおこなう必要があることが分かった。そこで、2020年度はMRIの脳画像とトレーサー注入部位の同期をより精密にするために、研究協力者とMRIの際に使用する脳定位装置およびマーカーパーツの改良をおこなった。新規のマーカーパーツを実際に使用し、MRIでのテスト撮像を進めた。2021年度は見直しをおこなったシステムでのトレーサー注入実験を行う予定である。



R2-A24
代:伊村 知子
協:鈴木 千春
ヒトとチンパンジーにおける質感知覚に関する比較認知研究
ヒトとチンパンジーにおける質感知覚に関する比較認知研究

伊村 知子 , 鈴木 千春

チンパンジー7個体(オス3個体、メス4個体)を対象に、メスの性皮の腫脹に関連する色や光沢の手がかりが性皮画像に対する選好注視に及ぼす影響について検討した。昨年度までの成果から、①最大腫脹時の性皮画像を最小腫脹時の性皮画像よりも長く注視すること、②性皮の大きさや形を揃えて光沢の強度のみを操作すると、より強い光沢を持つ性皮画像を長く注視することが示された。本年度は、光沢への選好注視が性皮に特有のものかを確認するため、①色相を反転させた青色の性皮画像と、②光沢に関する輝度分布の情報は保持しつつ性皮の形が知覚できないようピクセル毎に並び替えたシャッフル画像を作成し、より強い光沢、あるいはより強い光沢と同じ輝度分布を持つ画像への選好注視が生じるかについて調べた。実験では、光沢情報の異なる2枚の画像を左右に並べて画面に4秒間提示し、注視時間をアイトラッカーにて測定した。1日につき12試行を1セッションとし、色相反転画像、シャッフル画像について2セッションずつ実施した。その結果、青色の性皮や性皮の形が知覚されない画像では、強い光沢、あるいはそれと同じ輝度分布を持つ画像への注視時間の増加は見られなかった。したがって、チンパンジーは少なくとも性皮の腫脹という文脈において、光沢への選好注視を示すことが示唆された。


R2-A25
代:荒川 那海
協:颯田 葉子
協:寺井 洋平
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

荒川 那海 , 颯田 葉子, 寺井 洋平

ヒトの皮膚は他の霊長類に比べ多くの形態的特徴があるが、それらがどのように進化してきたのか、その遺伝的基盤はあまり明らかになっていない。本研究ではこれまでに、発現量解析で検出された皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出すヒト系統での塩基置換を推定した。今年度の研究では、それらの置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのかを、皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイとゲノム編集により解明することを目的とした。始めにプロモーターアッセイに必要な各種ベクターの作成を行った。これらのベクターを皮膚培養細胞に導入する際にはエンドトキシンなどの細胞毒性を示す物質を取り除いておく必要がある。そこでベクターのクローニング後はエンドトキシンを取り除く工程を取り入れたプラスミドDNA精製を行った。また、予備実験としてゲノム編集を行った細胞株を作成中であり、プロモーターアッセイで絞り込んだ候補置換について培養細胞での発現比較を行う準備を進めた。今後、作成したベクター等を皮膚培養細胞に導入し、推定した置換サイトをヒト型と類人猿型の塩基にしたプロモーターアッセイとゲノム編集を行うことで、着目する遺伝子のヒト特異的発現を生み出す塩基置換を特定していく。


R2-A26
代:寺井 洋平
スラウェシマカクにおける自然選択圧の検出

論文

関連サイト
種分化と適応の機構の研究の紹介 http://adaptive-speciation.com/
スラウェシマカクにおける自然選択圧の検出

寺井 洋平

インドネシア、スラウェシ島には7種のマカクが異なる地域に分布しており、分布の境界で交雑帯を形成している。しかし交雑帯が広がることはなく、地域への適応など何らかの要因がそれぞれの種を分けていると予想されている。これまでの研究で体毛色に関連した遺伝子(MC1R)が種間で配列が異なり、自然選択を受けて進化してきたと予想していた。自然選択は、MC1Rとその周辺ゲノム領域間での多型/種特異的変異の比率の比較により検出できる。しかし本研究ではこれまでエキソーム解析を行ってきたため、MC1Rの周辺領域の配列情報はなかった。今年度は、MC1Rとその周辺領域を含むニホンザルのBACクローンを選択し、それらBACクローンのDNA抽出、断片化、ビオチン化によりプローブを作成した。このプローブを用いて、スラウェシマカクのBAC領域をキャプチャし次世代シークエンスにより配列を決定した。その結果、BACクローンの領域の配列はキャプチャされていたが、キャプチャが不完全でカバー率が低く、配列の信頼性の高い領域が少なかった。これはBAC DNAのビオチンラベルの効率が低かったためだと考えられ、現在、再度BAC DNA抽出とビオチンラベルを進めている。


R2-A27
代:河村 正二
協:早川 卓志
協:"MELIN, Amanda"
協:"MARQUES,Tomas"
霊長類保存ゲノム試料の全ゲノム解析活用
霊長類保存ゲノム試料の全ゲノム解析活用

河村 正二 , 早川 卓志, "MELIN, Amanda", "MARQUES,Tomas"

スペイン・Pompeu Fabra Universityのトーマス・マルケス博士とのゲノム解析の共同研究として、2019-2021年の3年間に600以上の霊長類ゲノムの決定を目指す同研究機関での"Primate Genome Sequencing in Search for Insights on Classifying Disease Variants"プロジェクトに参加している。2020年度は、全ゲノムシーケンス用のライブラリー作製の条件検討の試行として8種(ボルネオオランウータン、スマトラオランウータン、ゴールデンマンガベイ、アジルマンガベイ、アボリビアリスザル、シロガオマーモセット、アザラヨザル、ボリビアハイイロティティ)について、ライブラリーを作成し、そのうち6種についてマルケス研究室に送付した。シーケンス結果を待ち、本格実施を進めていく。一方、感覚系遺伝子にフォーカスした適応進化解析に向け、1)別プロジェクトで決定したノドジロオマキザルの全ゲノムシーケンスデータから色覚オプシン、嗅覚受容体(OR)、鋤鼻受容体(VR)、味覚受容体(TASR)遺伝子の配列解析を行って論文発表し(PNAS 118(7): e2010632118)、2)target captureと次世代シーケンスによるオナガザル科と広鼻猿類のORとTASR遺伝子の解析について学会・研究会で発表した。


R2-A28
代:狩野 文浩
協:山本 晋也
協:James Brooks
アイ・トラッキングを用いたチンパンジーの社会認知の比較研究

論文
Brooks, James, Kano, Fumihiro, Sato, Yutaro, Yeow, Hanling, Morimura, Naruki, Nagasawa, Miho, Kikusui, Takefumi, Yamamoto, Shinya(2021) Divergent effects of oxytocin on eye contact in bonobos and chimpanzees Psychoneuroendocrinology 125:105119. 謝辞We thank the staff and apes at Kumamoto Sanctuary for their assistance in conducting the experiments and Nozomi Hirayama for her help in analyzing the urinary oxytocin samples. We also thank S.H. Brosnan for providing constructive comments on our manuscript. Financial support came from Japan Society for Promotion of Science [KAKENHI 20H05000, 18H05072, 19H01772 to FK, 18H02489 to MN, 19H00972 to TK, 19H00629 to SY] and Kyoto University Leading Graduate Program in Primatology and Wildlife Science.
アイ・トラッキングを用いたチンパンジーの社会認知の比較研究

狩野 文浩 , 山本 晋也, James Brooks

オキシトシン(とプラシーボの生食)を噴霧投与することで、アイ・トラッキングで画像の見方を記録したとき、オキシトシンが及ぼす効果を検討した。熊本サンクチュアリのボノボとチンパンジーを対象にした実験では、オキシトシンがボノボに対しては、顔画像の目に対する注視を促進し、チンパンジーでは逆に抑制することを見出した。オキシトシンが近縁種の行動の違いの進化に影響する可能性を示した。
霊長類研究所においては、既知個体と未知個体を対提示し、その選好注視においてオキシトシンが及ぼす影響を検討した。全体としてオキシトシンの影響は確認できなかったが、一部のオス個体においてはオキシトシン条件において未知個体をより強く選好注視するなど、部分的には効果が認められた。今後、条件を限定するなどして、さらに調査を進める。
添付の画像は、霊長研のチンパンジーにネブライザーでオキシトシン溶液を噴霧しているところ。チンパンジーはその間ジュースを飲んでいる。霧を嫌がることはなかった。

Brooks, J., Kano, F., Sato, Y., Yeow, H., Morimura, N., Nagasawa, M., . . . Yamamoto, S. (2021). Divergent effects of oxytocin on eye contact in bonobos and chimpanzees. Psychoneuroendocrinology, 125, 105119.



R2-A29
代:鯉江 洋
協:揚山 直英
協:中山 駿矢
協:白 仲玉
霊長類の循環器系加齢誘引疾患に関する研究
霊長類の循環器系加齢誘引疾患に関する研究

鯉江 洋 , 揚山 直英, 中山 駿矢, 白 仲玉

申請者はこれまでにカニクイザルとニホンザルなどサル類の循環器疾患を研究した。人と解剖学的構造及び生理学的機能が近いため、人医学への貢献が考えられる。今年度は従来の研究を継続し、「各種霊長類の発達と加齢に関する総合的研究」分野に申請を行った。また今回の研究も昨年と同様に、獣医臨床学的手法を用い心臓の評価を行い、人医学で心筋損傷評価に用いたマーカーの有用性を検証をはじめた。本研究結果は人とサル類を含めた霊長類全般に有意義な結果をもたらすと考える。
新型コロナウイルスの影響により、今年度申請者らは過去に得られたデータをさらに解析し、第163回日本獣医学会で発表した(オンライン)。その予演会などの打ち合わせをZOOM会議で行った。内容については、臨床で貴重な心筋症疾患個体であり、その病態を中心に発表した。本研究で得られた基礎及び臨床データは、獣医循環器分野や霊長類研究のみならず、人医学においても、大変貴重だと思われる。次年度は引き続き、これらの症例の継続研究を行いたいと考えている。



R2-A30
代:正木 英樹
協:水谷 英二
チンパンジー多能性幹細胞の性状解析および異種間キメラ動物の作製
チンパンジー多能性幹細胞の性状解析および異種間キメラ動物の作製

正木 英樹 , 水谷 英二

本年度は以前に提供頂いたチンパンジー細胞から樹立した細胞株を用いて、マウス胚との異種間キメラ作製実験を実施した。以前の研究課題(2019-B-87)で樹立されたナイーブ型株をマウス着床前胚に移植し子宮内で発生させたところ、将来的にマウス個体を形成する領域であるエピブラストへの寄与が認めらていたが、実験条件の改善によって、現在ではより多くの細胞をエピブラストに寄与させられるようになった。また、当該胚は最長でE8.5までキメラ状態を維持できることを確認している。今後はより高度なキメラ形成を目指して、チンパンジー細胞との異種間キメラ形成により適した動物種との間でキメラ形成実験を実施する予定である。
今年度はコロナ禍の影響を考慮し、学会発表は行わなかった。
これまでの成果をまとめた論文を近日中に投稿予定である。



R2-A31
代:城戸 瑞穂
協:吉本 怜子
協:西山 めぐみ
口腔粘膜におけるメカノセンサー発現の解明

学会発表
林美紗、城戸瑞穂、伯川美穂、今井啓雄 霊長類の下部消化管上皮細胞における味覚関連分子と機械イオンチャネルの発現(2021.1.26-27) 第10会マーモセット研究会大会(オンライン).
口腔粘膜におけるメカノセンサー発現の解明

城戸 瑞穂 , 吉本 怜子, 西山 めぐみ

口腔粘膜は鋭敏な器官である。その繊細かつ鋭敏な感覚の機構については、未だ不明なことが多い。適切な口腔感覚は哺乳・摂食・情報交換など多様な行動の基盤であり、その異常は摂食行動の阻害や発話などを阻み、生活の質の低下、引いては生命維持の繋がる。近年、メカノセンサー分子の実体が特定され、機能解明も発展している。そこで、力学的に多様な環境として口腔に着目し、受容との関係にも着目されている。口腔は力学的に咀嚼など多様な刺激に常に曝されるユニークな器官であるが、その力学的な受容の機構についての理解はまだ限られたものである。そこで、私たちは、口腔内の力学センサーがどのような部位に存在をするのかを明らかにすることを目的として、固定された組織において、メカノセンサーイオンチャネルが口腔の上皮および結合組織に発現していることを明らかにした。特に、咀嚼により大きな力が加わる歯肉では、部分的に強い発現を示し、細胞内の骨格を担う分子と関連を示すことを見いだした。今後、異なる構造を示す消化管等と比較しながら細胞生物学的な詳細な解析を進める予定である。


R2-A32
代:生江 信孝
協:桃井 保子
協:齋藤 渉
協:木村 加奈子
協:大栗 靖代
協:正藤 陽久
協:飯田 伸弥
協:斎藤 高
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査

生江 信孝 , 桃井 保子, 齋藤 渉, 木村 加奈子, 大栗 靖代, 正藤 陽久, 飯田 伸弥, 斎藤 高

かみね動物園で飼育しているチンパンジーの雌(愛称ヨウ、推定50歳)個体において上顎に内歯瘻がみられた。2020年4月に麻酔下で検診したところ破折していたため、抜歯処置をほどこした。また、チンパンジーの雄(愛称ゴヒチ、推定43歳)個体において、2020年5月に闘争によって左下の犬歯が折れてしまったため切断し縫合処置をほどこした。
この2例の処置で得られた歯を鶴見大学にサンプルとして送付した。
昨年度歯科治療をほどこしたチンパンジーの雌(愛称マツコ、推定43歳)の治療経過を直接確認してもらいたかったが新型コロナウィルス感染拡大により叶わなかった。メールのやり取りにて報告を行った。


R2-A33
代:齋藤 渉
協:桃井 保子
協:花田 信弘
協:今井 奨
協:岡本 公彰
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

齋藤 渉 , 桃井 保子, 花田 信弘, 今井 奨, 岡本 公彰, 宮之原 真由

新型コロナウイルスの影響により霊長類研究所内への入場がかなわず、研究を進めることができませんでした。


R2-A34
代:田中 由浩
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析

田中 由浩

個体識別や感情推定について、顔画像、音声、歩容など、生体情報を活用する方法が様々提案されているが、カメラやマイクを用いた視聴覚情報を用いた研究開発が多く、運動に伴う触覚情報(力や振動)について検討が十分進んでいない。触覚情報は外から見えにくい性質も持ち、個体識別や感情推定に活用できれば、工学的応用だけでなく基礎科学にも活用でき、人を含む動物研究にも新しい分析を提供できる。本研究では、チンパンジーのタップ動作を対象に、個体識別や提示課題における各種反応との関係を分析することを目的としている。本年度は、新たに実験データを追加するのではなく、これまでに5個体に対して行われたタッチパネルを用いた顔に見える画像選択課題の実験データについて分析を深めた。実験は6ヶ月間で、データは1個体あたり約90日、約3000タップある.0.04sのタップ振動の強度および反応時間による2次元分布を作成し、特に簡単と難しい課題の総数は約半々であるが、この割合を分けて分布図を作成し、難易度の割合に応じた応答を模擬した。その結果、個体差はあるものの、簡単な課題が多い場合に、反応時間が短く、振動強度が大きいタップの割合が増える傾向が見られた。個々の試行に対する応答からの難易度の推定は困難であるが、複数試行における結果から難易度の推定の可能性が考えられる。今後は難易度の割合を分けた実験を実際に行い、検証を行いたい。


R2-A35
代:竹下 秀子
協:山田 信宏
協:高塩 純一
協:櫻庭 陽子
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

竹下 秀子 , 山田 信宏, 高塩 純一, 櫻庭 陽子

本研究は,2013年7月14日に出生,母親の難産,育児困難により人工保育となったが,脳性まひによる右半身の強いまひが残ったミルキー(女性、高知県立のいち動物公園)の参加を得て、飼育個体に障害のある場合への発達支援と動物福祉環境改善の指針を得るために実施した。3歳6カ月から7歳5カ月までの月1回の療育活動前1~2時間のビデオ記録から,10秒ごとのタイムサンプリング法により,行動と障害部位の状態の指標として,座位における右足首の背屈(正常な状態)割合を算出した。計67.2時間(41日)分のデータから,観察年月日を独立変数として回帰分析した結果,右足首の背屈割合は,全体では有効な正の回帰線が得られたが,療育活動の一部縮小及び屋外リハビリ運動場の工事期間中には負の回帰線が得られた。工事が終わり新しい屋外リハビリ運動場の使用が始まると,右足首の背屈割合は高い水準になった。他方,2020年10月から顕著に活動量が落ち,常同行動が出現し,療育者・観察者に対する反応も変化してきた。これまでの取り組みにより,行動発達や生活環境の充実に一定の成果が得られたが,思春期を迎えるにあたり,今後は「人による感覚刺激中心の療育」から,他個体との同居を含む「チンパンジーによる社会的リハビリテーション」への転換を急ぎ図っていく必要がある。


R2-A36
代:Daniel Schofield
The Bossou Archive Project
The Bossou Archive Project

Daniel Schofield

The Bossou Archive Project aims to digitise and catalogue video footage of wild chimpanzees from Bossou, Guinea, from over 30 years of fieldwork, and implement a framework for researchers to access and analyse this data. Recently, a key result of the Bossou Archive project was the development of the artificial intelligence (AI) to automatically track and identify chimpanzees using deep neural networks (CNNs) (Schofield et al. 2019 https://advances.sciencemag.org/content/5/9/eaaw0736). Using the output of this system, a new publication is in prep for analysing the Bossou chimpanzees social networks over 17 years of the archive (Schofield et al, in prep). In addition to this work, collaboration with Oxford University engineering (VGG) we have developed full body and behaviour recognition (Bain et al., in review, Science Advances). The cooperative research project has supported Amazon Web Services storage costs for the archive - additional funding is being sought for development a web-framework to allow for easier access for researchers, enable remote collaboration and annotation of the Bossou archive, and promote the next phase of development for new automated methods.


R2-B1
代:岩永 譲
協:嵯峨 堅
協:R. Shane Tbbbs
霊長類における黄色靭帯と棘間靭帯の解剖学的研究
霊長類における黄色靭帯と棘間靭帯の解剖学的研究

岩永 譲 , 嵯峨 堅, R. Shane Tbbbs

本年度の共同利用・共同研究では過去にわれわれが報告したヒト黄色靭帯の微細構造の研究をアカゲザルに応用し解明しようとしたものである。本来であれば、現地に赴きアカゲザル屍体の解剖により肉眼観察・組織学的観察を行う予定であったが、コロナ禍のため訪問が不可能であった。そのため、勤務地(米国Tulane University)でのヒト黄色靭帯の追加研究を行うことで、来年度の継続研究につなげることとした。過去のわれわれの報告ではヒト黄色靭帯と棘間靭帯、そして関節包の立体構造を明らかにするため、肉眼観察および靭帯の水平断の組織学的観察を行ったが、今回は同様に靭帯組織を採取し、矢状断・冠状断を行うことで、様々な角度からの観察を行うこととした。現在、標本を採取し組織切片を作成する前段階まで進んでおり、今後は染色、観察を行い、来年度の共同利用・共同研究でアカゲザルの標本との比較を行いたいと考えている。


R2-B2
代:荻原 直道
協:大石 元治
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

論文
Blickhan R. Andrada E. Hirasaki E Ogihara N.(2021) Trunk and leg kinematics of grounded and aerial running in bipedal macaques Journal of Experimental Biology (in press).
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

荻原 直道 , 大石 元治

本研究では、ニホンザル四足歩行の運動学的・生体力学的解析を行い、二足歩行と対比することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を明らかにすることを目的とした。具体的には、ニホンザルの二足・四足歩行の運動学的・生体力学計測、歩行に関係する主要な筋の速筋線維・遅筋線維比計測、下肢関節の受動弾性特性計測を統合して、ニホンザルの四足歩行と二足歩行の運動学と力学の共通点と差違を分析することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を抽出することを試みている。本年はコロナ禍で霊長研を訪問できなかったため、新たな実験は行えなかったが、昨年までのデータについてメール等で相談しつつ解析を進めた。具体的には、ニホンザル二足歩行中の後肢および体幹の3次元角度が歩行速度の増大によりどのように変化するのかを解析し、論文にまとめた。


R2-B3
代:神田 暁史
協:外丸 祐介
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立

神田 暁史 , 外丸 祐介

霊長類の実験動物であるマーモセットは国内での遺伝的交流が少なく、奇形出現や繁殖性低下などのリスクを生じるような近交化が進んでいる。健全な個体を維持するためには、他研究機関のマーモセットと意図的な遺伝子交流を行うことが必要とされるため、本課題は精子の保存・輸送法と性周期の解析による人工授精法の確立を目指す。京都大学霊長類研究所との共同研究により、今までに以下のような成果が得られた。
①低侵襲な採血と血漿中のプロゲステロン濃度の測定による性周期の把握
②長時間にわたる精子活性の維持の方法

①に関しては、低侵襲な採血法として無麻酔下のメスの尾から血液を採取し、血漿を抽出してELISA法でプロゲステロン濃度を測定することで、ある程度の性周期を把握することができた。現在は排卵のタイミングを探るべく、血漿中のエストラジオール濃度を低侵襲および安価に測定可能な簡易キットを検討しており、当施設で飼育するオスの精子を用いて、人工授精による妊娠が可能か検討している。
②に関しては、15℃の温度で精子の活性を長時間にわたり維持できることがわかった。実際に霊長類研究所のオスから採取した精子を同温度で低温保存し、新幹線を利用して約4時間かけて広島大学に輸送した結果、予備実験と同程度の割合で精子が活性を維持していることを確認できた。しかし、2020年度はコロナの影響で実験を進めることができなかった。

以上の研究手技を基に、本年度は霊長類研究所で採取した精子を低温保存によって新幹線で広島大学まで輸送し、人工授精を実施することで産子獲得を達成したいと考えている。



R2-B4
代:菊池 泰弘
協:荻原 直道
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元

菊池 泰弘 , 荻原 直道

中期中新世類人猿・ナチョラピテクスの脊椎骨は頸椎、下位胸椎、腰椎、仙骨については報告があるものの、上位胸椎については未報告である。そこで、本年度はナチョラピテクスの上位胸椎標本KNM-BG 48094を復元(昨年度、予備分析済)するための現生比較標本の詳細な調査を行った。ゴリラ、オランウータン、チンパンジー、シアマン、アヌビスヒヒ、パタスモンキー、ハヌマンラングール、テングザル、ホエザル、クモザル(オスメス1頭ずつ、ゴリラとオランウータンはオスのみ、テングザルはメスのみ)における第3-6胸椎を調査した。これら67個の胸椎標本(チンパンジー・オスの第6胸椎は棘突起欠損のため除外)をCT撮像後、Analize9.0およびGeomagic XOS64の3Dソフトを用いて三次元再構築し、相同点104点を決定した。その後Procrustes解析によるサイズの正規化および位置合わせ後、座標(シェープ)を主成分分析で解析した。その結果、第1主成分と第2主成分の散布図において、ぶらさがりのオランウータンおよびブラキエーションのシアマン、ナックルウォーキングのゴリラおよびチンパンジー、地上性四足歩行種、樹上性四足歩行種、セミブラキエーションのクモザルおよびアームスイングのテングザル、それぞれにおけるプロットがクラスターを作り、上位胸椎は移動運動様式に適応した形態を有している可能性が示唆された。来年度は、本研究で得られた結果から本格的にKNM-BG 48094の復元・特徴抽出を進める予定である。


R2-B5
代:東 超
霊長類の各種の組織の加齢変化
霊長類の各種の組織の加齢変化

東 超

加齢に伴う循環器系の内臓のカルシウム、リン、マグネシウム、硫黄、鉄、亜鉛など元素蓄積の特徴を明らかにするため、サルの心臓の元素含量の加齢変化を調べた。用いたサルは19頭、年齢は新生児から29歳までである。サルより心臓を乾燥重量100mg程度採取し、水洗後乾燥して、硝酸と過塩素酸を加えて、加熱して灰化し、元素含量を高周波プラズマ発光分析装置(ICPS-7510、島津製)で測定し、次のような結果が得られた。
① すべてのサルの心臓のカルシウム含量は1.5mg/g以下であり、平均含量は0.54mg/gであった。サルの心臓は石灰化しにくい内臓であることが分かった。
② 年齢とリン含量の相関係数は-0.773(p = 0.0001)であり、加齢とともにサルの心臓のリン含量が有意に減少することを明らかにした。
③ 年齢と硫黄含量の相関係数は-0.564(p = 0.012)であり、サルの心臓の硫黄含量が加齢とともに有意に減少することを明らかにした。
④ 年齢と亜鉛含量の相関係数は-0.462(p = 0.047)であり、サルの心臓の抗酸化作用をもつ亜鉛含量が加齢とともに有意に減少することを明らかにした。



R2-B6
代:近藤 玄
協:信清 麻子
協:柳川 洋二郎
協:渡邊 仁美
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明

近藤 玄 , 信清 麻子, 栁川 洋二郎, 渡邊 仁美

精子には、数多くのGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)が発現しており、そのいくつかは精子の受精能発揮に深く関与している。申請者は、予備実験において、マウス精子で発現量の多いGPI-AP(SpGPI-APと仮称)を同定し、同遺伝子の欠損マウスを作製したところ、精子の卵管への遊走が損なわれ、妊娠異常が認められた。また、このタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製し、精子のFACS解析を行なったところ、精子は二つの集団に大別された。さらにこれらをソーティングし、運動性、体外受精能、人工授精能等をしらべたところ、直進運動性や体外受精能において差異がみとめられ、これまで想像されていたが分子的根拠がなかった精子集団の不均一性とより受精しやすい集団が存在すること、またそれがポジティブに選択されうることが示唆された。本申請では、当該タンパク質によって二別される精子集団の比較解析をヒトにより近いマカク属サル精子を用いて調べることとした。今年度は、マカクサルSpGPI-APと反応するモノクローナル抗体を用いて、精巣および活性化条件でインキュベートした精子におけるタンパク質発現をウエスタンブロッティングにて調べた。その結果、精巣でのSpGPI-AP発現は認めたものの、インキュベート精子では全く認めず、約30%のインキュベート精子でSpGPI-APが検出できるマウスとは異なる結果を得た。今後は、様々な条件で処理したサル精子におけるSpGPI-APタンパク質発現を調べ、マウスとサルでのこのタンパク質の動態を比較解析する予定である。


R2-B7
代:佐藤 たまき
協:豊田 直人
ニホンザルMacaca fuscataの飼育個体に見られる下顎骨形状オス化の発現タイミング
ニホンザルMacaca fuscataの飼育個体に見られる下顎骨形状オス化の発現タイミング

佐藤 たまき , 豊田 直人

霊長類の顔面頭蓋における個体発生に関する研究では、頭蓋骨を対象とした先行研究は数多くあるものの、下顎骨に関する研究は比較的乏しい。本研究では、幅広い発達段階を含む乾燥下顎骨の表面にランドマークをとり、幾何学的形態計測法によって個体発生パターンを定量的に明らかにすることを目的とした。
令和二年度はニホンザル(n=53)とカニクイザル(n=45)の下顎骨のデータを得ることができた。個体発生にともなう形状変異のうち、第一主成分で代表される多くの成分が重心サイズと強い線形関係を示した。多変量回帰の結果、飼育環境の影響による表現型可塑性の有意差は得られなかった。2種の個体発生パターンを比較した結果、カニクイザル種群の進化史を反映していると思われる結果が得られた。さらに、2種で共通する個体発生パターンはヒトのパターンと異なることが示唆された。今後、標本の大きさを増やすことでデータの信頼性を高め、研究の対象とする分類群を広げることで議論の妥当性を高めたい。
現在、これらの結果を論文にまとめ、投稿する準備を進めている。


R2-B8
代:田村 大也
金華山の野生ニホンザルにおけるオニグルミ採食技術獲得過程の学習行動
金華山の野生ニホンザルにおけるオニグルミ採食技術獲得過程の学習行動

田村 大也

宮城県金華山島にて2020年11月29日~12月13日に、金華山島B1群を対象に野外調査を実施した。調査期間中は毎日10時間以上の追跡が行えた。それにもかかわらず、調査期間中にオニグルミ採食行動が観察されたのは2日間のみであった。昨年は島全域で食物環境が劣悪であったため、調査期間より前の例年より早い時期に、オニグルミがほぼ食べ尽くされていたことが原因の一つだと考えられる。しかし、クルミの採食行動が観察された数日間でいくつかの発見もあった。ひとつは、2016年の調査で、ある方法(片半分型)でオニグルミを割っていた1頭のオトナメスが、4年後の今回の調査でも同じ割り方を使っていることを確認した。片半分型はこのメスを含め数個体でしか観察されておらず、オトナメスの大多数は「半分型」という割り方を用いる。そのため、「片半分型」を用いている個体でも、時間の経過と共に「半分型」に移行する可能性も予想していたが、今回の観察により否定された。この観察は一度獲得した採食技術が個体内で長期にわたり固定されている可能性を示唆している。ふたつ目は、群れ全体でオニグルミ採食行動がほとんど観察されな中で、2個体のコドモがオニグルミ採食を試行している場面を観察した。興味深いことに、この2頭のコドモの母親は他の個体と比べてオニグルミをよく採食する個体であった。これまでの調査から、オニグルミ採食技術の獲得には母親のオニグルミの採食頻度が影響している可能性を考えていたが、この観察はその予想を支持するかもしれない。


R2-B9
代:栗原 洋介
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

学会発表
栗原洋介 サルは森の壊し屋?:見逃されてきたサルと枯死木の関わり(2020/12/13) 屋久島学ソサエティ(オンライン).
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

栗原 洋介

本研究の目的は、ニホンザルが枯死木分解にあたえるインパクトを定量することである。本年度は、主に枯死木分解実験の継続と森林内の枯死木現存量調査を行った。
1. サル排除実験の継続:2019 年に屋久島・西部林道沿いに設置した枯死木調査プロット 10 箇所において、サル排除実験を継続している。対象の材を複数個に分割し、一方はそのまま放置、他方はサルが破壊できないようにネットで覆った。定期的に材の写真撮影を行い 3D モデルを作成することで、材の表面積・体積のデータを蓄積している。また、自動撮影カメラを用いて動物の訪問および枯死木とのコンタクトを調べている。サルはすべての材を訪問し、すべてのプロットでそのまま放置した材がサルによって大きく破壊された。想定よりも早く実験が進んだため、よりロバストな結論を得ることを目指し、新たに調査プロット 10 箇所を新設した。
2. 森林内の枯死木現存量調査:50 m 四方の調査プロットを 8 つ(合計 2 ha)設定し、枯死木のサイズ、腐朽タイプ、腐朽度、種名などを記録した。現在も分析中であるが、屋久島海岸林の枯死木現存量は他サイトよりも少ない傾向にあることがわかった。
来年度以降も、同様の調査を継続して実施する予定である。



R2-B10
代:藤田 一郎
協:稲垣 未来男
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定

藤田 一郎 , 稲垣 未来男

霊長類において、潜在的な危険情報の視覚的な検出に皮質下視覚経路が関わると考えられている。しかしながら解剖学的な証拠は乏しい。本研究では、危険情報の処理を担う扁桃体へ越シナプス性逆行性神経トレーサーを注入して入力経路を順番に辿ることで、皮質下視覚経路の解剖学的な実態の解明を目指している。トレーサーが最大でも2シナプスしか越えないように実験条件を設定して実験を行った。これまでの解析により視床枕および上丘において扁桃体を始点として逆行性に標識された細胞が存在することを確認した。視床枕では多くの細胞が、上丘では少数の細胞が標識されていた。視覚情報が上丘と視床枕を経由して少ないシナプス接続で扁桃体へと伝わることを示唆する結果を得た。今年度は上丘とは別の皮質下視覚関連領域である外側膝状体に標識細胞が存在するかどうかを解析した。その結果、外側膝状体には標識細胞が存在しないことが分かった。外側膝状体経由の少ないシナプス接続による扁桃体への視覚経路は存在しない可能性が高いと考えられる。


R2-B11
代:風張 喜子
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討

風張 喜子

ニホンザルは、メンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。これまでの研究で、各個体が周囲の個体の動向を把握し自分の行動を調節することで互いの近接が保たれていることが示唆されている。一方で、群れが一時的に2つ以上の集団に分かれる分派行動も時に見られる。通常は互いに離れないようにふるまうニホンザルがなぜ分派するのか、明らかになっていることは少ない。また、意図的および非意図的とされる分派の報告例はあるものの、その判別基準はあまり整理されていない。そこで、宮城県金華山島の野生ニホンザルを対象として、分派の直接観察を通じて意図の有無を判別できる行動上の特徴を整理したうえで、要因を検討することを目的とした。本研究は十分な観察例数を蓄積するのに数年にわたる継続調査が必須であり、本年度は長期的な計画の3年目である。これまでに、分派集団のでき方から意図的・非意図的分派を判別できること、非意図的な分派では分派中に突然の移動停止や方向転換が見られる場合が多いことなどが明らかになりつつある。また、前年度に観察された群れの第一位オスとメスとの親和的な関係を基礎とした頻繁な分派行動について、共同研究者と学会で発表し国際誌への投稿の準備を進めている。


R2-B12
代:吉田 富
協:古谷 昭博
齧歯類と霊長類の神経回路基盤解明のためのシングルセル遺伝子解析
齧歯類と霊長類の神経回路基盤解明のためのシングルセル遺伝子解析

吉田 富 , 古谷 昭博

我々は、2020年度においては、主に条件検討を中心に研究を行った。マウス及び霊長類(マカク猿)の脊髄(C6〜T1)に,蛍光体を含む逆行性トレーサー(AAV retro-tdTomato, CTB-Alexaなど)を注入し,皮質脊髄ニューロンを特定的に標識した。数日〜数週間後,トレーサーを注入した動物の脳を取り出し,運動皮質を切り出して,分離酵素でシングルセル懸濁液に分解した.その中から蛍光体で標識された皮質脊髄ニューロンをFACS (Fluorescence-Assisted Cell Sorter) により分取した.また,同様に皮質細胞から核を抽出し,FACSにより精製も行なった。いくつかの異なる条件で実験を行い、最適な条件を見出した。2021年度は、その条件を用いて、実際にsingle cell (or nucleus) RNA-sequencewを行う予定である。


R2-B14
代:小野 龍太郎
ニホンザル歯牙の成長線における比較解剖学

学会発表
小野 龍太郎*,小池 宣也,井之川 仁,土谷 佳樹,梅村 康浩,山本 俊郎,金村 成智,八木田 和弘 A New Insight of Tooth Growth ~ 8-hour Ultradian Increments in Mouse Molar Dentin ~(2020年9月11日) 第62回歯科基礎医学会 アップデートシンポジウム 若手研究者による口腔生理学最前線(web開催).
ニホンザル歯牙の成長線における比較解剖学

小野 龍太郎

歯の成長線には、形成期間中に個体内で起きたライフサイクルが反映される。それゆえ、直接観察が困難な稀少動物種における生活史の解明、食性の把握、年齢査定などに役立つツールとなる可能性がある。さらには化石種に応用することで、古生物学への貢献も期待できる。
昨年度までに、ニホンザル雄性個体(6歳)の第一大臼歯を用いて成長線の観察に成功している。象牙質(歯冠の構造的主体)とセメント質(歯根部)では、成長線の間隔幅や本数が異なっており、硬組織の種類によって発育パターンが異なる可能性が示唆される。今年度は、歯種による違いを比較する目的で、ニホンザル前歯を用いた同様の検討を行ったところ、横断切片にて象牙質の表層付近を同心円状の線状構造が約8−9μm間隔で配列する様子が確認できた。これは、臼歯象牙質で得られた結果(約12μm間隔)よりも若干小さく、また、マウス前歯での解剖学的パターンと酷似したものであった。このように、歯牙の発育形成に関わる生物種を超えた統合的理解のためには、ニホンザルにおける基礎的データの集積が不可欠であると考える。さらに、同じマカク属のアカゲザルやカニクイザル、マーモセットについても予備的分析を行い、成長線の霊長類研究における有用性に関しても引き続き検討する予定である。



R2-B15
代:緑川 沙織
協:時田 幸之輔
肉眼解剖学に基づく霊長類背側肩帯筋の機能とその系統発達
肉眼解剖学に基づく霊長類背側肩帯筋の機能とその系統発達

緑川 沙織 , 時田 幸之輔

カニクイザルの背側肩帯筋(腹鋸筋SV・肩甲挙筋LS・菱形筋Rh)と斜角筋の筋形態および支配神経について調査した。SVは、第1〜9肋骨より起始していた。LSは全頸椎の横突起から起始していた。Rhは、後頭骨・頸椎の項靭帯・第1〜7胸椎棘突起から起始していた。これらの筋は、肩甲骨の内側縁に付着していた。これらの背側肩帯筋は第3〜8頸神経前枝(C3〜C8)から分岐した神経によって支配されていた。
 斜角筋では、腕神経叢の腹側の腹側斜角筋ScVと背側の背側斜角筋ScDを区別した。ScDは最浅層で停止が第4肋骨におよぶ長斜角筋ScLとし、ScL深層で第1肋骨に停止する筋束をScDとした。
 C3,4から分岐した神経は、ScLの浅層を走行しLS・Rhに分布していた。C5の神経は、ScDの深層を走行しLS・Rhに分布していた。C6の神経は2本観察され、1本はScDを貫いてLSおよびSVの頭側部に分布していた。もう1本は、C7,8の神経と合流しScLとScDの間を走行、SVへ分布していた。
 LS・Rh支配神経の一部がScD深層を走行する特徴はタマリン・リスザルと共通していた。SV支配神経が頭側から尾側の分節にかけてScDの浅層へ移行する特徴はヒトと共通していた。



R2-B16
代:土田 さやか
協:牛田 一成
コモンマーモセットの口腔疾患治療薬選抜に関する研究
コモンマーモセットの口腔疾患治療薬選抜に関する研究

土田 さやか , 牛田 一成

本研究では、コモンマーモセットの歯垢から細菌を分離し、口腔疾患の元となる歯垢にどのような細菌が存在しているのかを検索し、その薬剤耐性を調査することを目的とした。霊長類研究所で飼育されている5個体の歯垢、歯石サンプルを嫌気希釈液および非選択培地に採取し、嫌気培養を行った。分離された口腔細菌の細菌16S rRNA遺伝子を用いて菌種同定を行ったところ、口腔疾患の原因菌と考えられるFusobacterium、Streptococcus、Actinomyces、Aggregatibacter、Campylobacter属細菌が多数検出され、Fusobacterium nucleatum subsp. polymorphumは、検査した全てのに最も高い割合で存在していることが確認された。また、これらの口腔疾患原因菌は、口腔の状態が悪い(歯周病罹患個体もしくは疑いのある個体)の方が多く検出されることが明らかとなった。加えて、歯石と歯垢で検出菌種を比較したところ、歯石と歯垢の構成細菌は大きく異なることが明らかとなった。本研究により、マーモセットの口腔疾患治療時には歯垢内細菌のみではなく歯石内細菌にも効果のある薬剤を選択する必要があることが示唆された。


R2-B17
代:松田 一希
協:豊田 有
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

論文
Matsuda I, Stark DJ, Saldivar DAR, Tuuga A, Nathan SKSS, Goossens B, van Schaik CP, Koda H( 2020) Large male proboscis monkeys have larger noses but smaller canines Communications Biology 3( doi: 10.1038/s42003-020-01245-0). 謝辞あり

学会発表
香田啓貴・荒井迅・松田一希 霊長類の動物の隊列観察をどれぐらいすると社会の階層性を推定できるか?数値実験を通じた考察(2020/12/4 - 12/6) 第36回日本霊長類学会学術大会(中部大学(オンライン開催)).
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

松田 一希 , 豊田 有

霊長類の社会構造の理解は、長い歴史のある霊長類学において中心的議題の一つである。個体間関係の記述(親和的か敵対的か)や順位の記述(優劣関係)、血縁関係の記述を通じて、群内の個体関係の構造を把握し、母系社会や階層社会などといった、社会類型を記載してきた。その一方で、それらの記載は主に研究者が直接観察し分類したり、ビデオを通じて事後に解析するなどといったデータに基づくものであり、連続的な記録として、且つ大規模データとしての蓄積や解析はなかった。本研究は、小型の位置記録装置を飼育ニホンザル集団の全個体に装着し、1秒間隔で完全な連続記録を実施することで、高精度で大規模な連続的位置データ情報を収集し、個体間関係の記述を、社会ネットワーク分析を通じて評価することを目的とした。昨年度までに収集した1群(5頭)の位置情報データをもとに、個体の空間配置と空間移動軌跡の常時計測系を確立し、深層学習を用いた、ノンパラメトリックな個体間インタラクションの解析手法を論文として出版した(Morita et al. 2021 Methods Ecol. Evol.)。新たに実施した実験では、ビーコンを装着した5頭のニホンザルの群れを、短期的に1:4頭に分離することで、個体間インタラクションの程度をコントロールし、社会的なインタラクションの変遷過程に着目した行動データを収集した。特に、群れでいる正常な社会状態と、個体を隔離した際の各個体の動き方にどのような個性的特徴が反映されるかを分析・検討した。深層学習を用いた分析から、個体が群れで生活する状態と、隔離された状態では動き方に明らかな違いがあり、高精度でそれを識別することに成功した。また、個体を群れから隔離した状態では、各個体の動きに個性的特徴がでやすいことを発見した。一方、群れで生活をすることで各個体は、他の個体と採食、社会的な交渉をする際に活動の同期が生じるため、各個体が持つ個性的な動きの特徴が軽減することがわかった。以上の結果はアーカイブスにアップし、学術雑誌に投稿中である(Morita et al. 2021 bioRxiv)。


R2-B18
代:今村 拓也
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

論文
Kana Ikegami, Teppei Goto, Sho Nakamura, Youki Watanabe, Arisa Sugimoto, Sutisa Majarune, Kei Horihata, Mayuko Nagae, Junko Tomikawa, Takuya Imamura, Makoto Sanbo, Masumi Hirabayashi, Naoko Inoue, Kei-ichiro Maeda, Hiroko Tsukamura, Yoshihisa Uenoyama(2020) Conditional kisspeptin neuron-specific Kiss1 knockout with newly generated Kiss1-floxed and Kiss1-Cre mice replicates a hypogonadal phenotype of global Kiss1 knockout mice Journal of Reproduction and Development 66:359.

Shiori Minabe, Sho Nakamura, Eri Fukushima, Marimo Sato, Kana Ikegami, Teppei Goto, Makoto Sanbo, Masumi Hirabayashi, Junko Tomikawa, Takuya Imamura, Naoko Inoue, Yoshihisa Uenoyama, Hiroko Tsukamura, Kei-Ichiro Maeda, Fuko Matsuda(2020) Inducible Kiss1 knockdown in the hypothalamic arcuate nucleus suppressed pulsatile secretion of luteinizing hormone in male mice Journal of Reproduction and Development 66:369.

学会発表
今村拓也、藤本雄一、亀田朋典、吉良潤一、中島欽一 母体由来炎症シグナルを胎仔脳由来ノンコーディングRNA制御により緩和する(2020年7月29日-8月1日) 第43回日本神経科学大会(Web開催(シンポジウム・オーガナイザー)).

関連サイト
研究室ウェブサイト https://sites.google.com/view/imamuralabhiroshima/home
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

今村 拓也

本課題は、ほ乳類脳のエピゲノム形成に関わるnon-coding RNA (ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている。本年度は、霊長類iPS細胞から脳オルガノイドを作製し、霊長類特異的ncRNAによりエピジェネティックに活性化される遺伝子の発現をマウス型に改変するプロトコールの確立に取り組んだ。またこれを基礎として、次世代シーケンサー解析からスクリーニングした霊長類特異的プロモーターncRNA-mRNAペアの操作を順次行なった。複数の代表的な霊長類特異的プロモーターncRNAあるいはその制御下にあるmRNAについて解析したところ、それらのノックダウン効果は、脳オルガノイド中の神経幹細胞の増殖を早期に止め、ニューロンに分化させるまでに及ぶことが明らかとなった。したがって、霊長類脳のサイズ拡大を支えるメカニズムに、種特異的ncRNAの進化的獲得が関与することが考えられた。


R2-B19
代:信清 麻子
一卵性多子ニホンザルの作製試験
一卵性多子ニホンザルの作製試験

信清 麻子

本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すものであり、これまでに生殖工学基盤技術の検討に取り組むことで、「卵巣刺激→体外受精→受精卵移植」により産子を得るための再現性の高い技術を確立し、多子ではないものの受精卵分離胚移植による産子獲得、また別種であるカニクイザルへの受精卵移植により、正常なニホンザル産子を得ることにも成功しレシピエントしての有用性を確認し、一卵性多子ニホンザルの獲得に向けた基盤が十分に築かれた状況にある。しかし、前年度行ったホルモン測定の結果から、屋内飼育のニホンザルの繁殖期は、野生のニホンザルとは異なることを確認し、移植試験を野生のニホンザルの繁殖期よりも絞って実施する必要があることがわかった。
 そこで、2020年度は、屋内飼育ニホンザルの限られた繁殖期に、効率よく移植実験を行うことを目指し、性周期を同調させる方法を検討した。産業動物で用いられている黄体退行作用を持つ生理活性物質(プロスタグランジン)を黄体期後半に一度、2.5μg/Kg 筋肉注射を実施する方法で性周期の同期化を試みたが、この方法では繁殖期にない個体では内在の性ホルモンを制御できるまでの効果を確認することはできなかった。また、今までに精子採取を行なっていた雄個体が死亡し、別の採精候補個体を探す必要がでてきたため、精子の活性を調べる目的で4個体から採精を行った。
 なお、採卵〜移植実験を2月25日〜3月3日にかけて実施するべく、実験個体を選択するためのメンスの情報を確認するなどの準備を進めていたが、コロナに関係する移動制限により来所が叶わず、一度も採卵〜移植実験は行うことができなかった。



R2-B20
代:大石 元治
協:荻原 直道
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について

大石 元治 , 荻原 直道

関節の可動域はその形状に加え、筋や靭帯などの軟部組織によって決定される。大型類人猿の足部の形態学的研究は骨格や筋についてのものがほとんどであり、腱や靭帯についての報告は1から2個体の報告にとどまっている。そこで、本研究は大型類人猿における足部の腱や靭帯の種間/種内バリエーションを明らかにして、足部の運動に関係する形態学的特徴を理解することを目指している。本年度は、チンパンジー2個体、オランウータン1個体の標本を利用する機会を得た。まず、無傷の状態での足部骨格の特徴を明らかにするために、足のCT撮影を行った。これらの3個体の足部については、今後、解剖を行い、筋や靭帯の種間/種内バリエーションの有無を評価する。


R2-B21
代:Wirdateti
Reexamination of species classification and phylogeography in tarsiers (Tarsius spp.) from Sulawesi by mtDNA markers
Reexamination of species classification and phylogeography in tarsiers (Tarsius spp.) from Sulawesi by mtDNA markers

Wirdateti

In the fiscal year of 2021, I could not visit the Primate Research Institute due to the pandemic of Covid-19, so I could not carry out the planned experiment for Tarsius. Therefore, we had a meeting by email with Dr. Tanaka, the corresponding researcher, about the strategy of experiment of phylogenetic analysis of Tarsius, and the application for Cooperative Research Program in 2021.


R2-B22
代:江成 広斗
協:江成 はるか
多雪がニホンザル個体群に及ぼす影響:冬期採食痕を個体数密度指数として
多雪がニホンザル個体群に及ぼす影響:冬期採食痕を個体数密度指数として

江成 広斗 , 江成 はるか

気候変動の進行に伴い、暖冬化が各地でみられる一方で、日本海側北部では低気圧の異常発達に伴う突発的な多雪がしばしばみられるようになった。一方で、政府方針「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」に基づき、農業被害をもたらす中・大型獣類の捕獲数は近年大幅に増加している。こうした現況は孤立分断化が進んでいる北東北のニホンザルの保護管理を考えるうえでも重大な懸念となっている。そこで、申請者らは適切な個体群モニタリングに資する個体数指数(相対個体数)として、冬季の樹皮や冬芽に対する採食痕数に着目し、その年次変動を評価することとした。2020年(寡雪年)の残雪期調査では、40m×15キロの固定調査サイトにおいて食痕数のカウントを実施し、あわせて上記サイトの異なる植生タイプにおいて10m×10mの方形区を設置し、毎木調査を実施した。その結果、ニホンザルにより樹皮または冬芽が採食された1519本の木本植物が記録された。この数は多雪年の2-3倍に相当する本数である。今後は、同様の調査を継続させると同時に、本調査により実施した毎木調査により餌資源量(利用可能量)を加味することで、食痕数を個体数指数として利用可能か否かを具体的に検討していく。


R2-B23
代:三宅 弘一
協:松本 多絵
新生児遺伝子治療の有効性と安全性の検討
新生児遺伝子治療の有効性と安全性の検討

三宅 弘一 , 松本 多絵

我々は各種遺伝病の遺伝子治療の研究を進めてきており、脳全体の広範な神経変性を伴う、異染性白質ジストロフィー(MLD)や全身の骨形成不全を伴って生後早期に死亡する周産期型低フォスファターゼ症に対して新生児期に欠損酵素を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを投与する事により各疾患モデルマウスを使用して良好な治療結果を得ている(Mol Ther Methods Clin Dev. 2016, Hum Gene Ther.2015, Gene Ther.2014, Hum Gene Ther.2012, Hum Gene Ther. 2011)。今後これらを臨床応用するに当たり大型動物での有用性および安全性の検証は不可欠であり、特に新生児おける投与にあったってはより詳細な安全性の検討が必要である。本研究では各疾患の欠損酵素を新生仔霊長類に静脈投与もしくは筋肉投与にてその有効性(治療に有効な酵素活性が得られるかどうか?長期間の発現が可能か?など)と安全性(腫瘍形成の有無、免疫反応の有無など)を経過を追って検討し、新生児遺伝子治療の有効性と安全性を明らかにする事を目的としている。今年度は新生仔霊長類は使用できなかったため小児期霊長類を用いてAAVベクターの投与を行った。今後経過を追って有用性と安全性について検討していく予定である。


R2-B24
代:川本 芳
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

論文
Yoshi Kawamoto(2021) Genetic Assessment on the Origin of Alien Macaques in the Boso Peninsula in Japan Mammal Study 46(2):173-186. 謝辞あり

学会発表
川本芳, 直井洋司, 萩原光, 白鳥大佑, 池田文隆, 相澤敬吾, 白井啓, 岡野美佐夫, 近藤竜明, 田中洋之 ニホンザルのミトコンドリアDNA非コード領域内の反復配列多型:房総半島の外来種交雑モニタリングおよびニホンザルの地域個体群調査への応用(2020年12月6日) 第36回日本霊長類学会大会(オンライン大会)(中部大学).
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

川本 芳

当初計画以外で新知見を得た。交雑地域調査で, mtDNA 非コード領域末端にこれまで見逃していた2塩基(CA)の反復配列多型が存在することを発見した。他地域と比較した結果, 房総にはこの反復が4〜6回あると確認でき, 置換変異と組み合わせると全域に6種類ものニホンザルmtDNAタイプが区別できるようになった。これらで母系が異なる個体群の分布地域も調査できた。一方, 南房総で交雑するアカゲザル群にはこの反復多型はなく, この特徴でもニホンザルと区別できることが明らかになった。当初計画に沿った検討では, Y染色体ハプロタイプにつきサンプリング時期による地域比較ができた。これらのまとめをもとに, 交雑に関与した外来種の起源を検討した結果を英文で公表した。この中では南房総に定着し交雑したアカゲザルの出自も検討し, 中国東部地域から人為導入されたことを結論した。さらに, Y染色体ハプロタイプの分類とそれらの分布状況から, 南房総の中国東部由来のアカゲザル以外に第2の外来種がニホンザルの交雑に関与する可能性を考察した。なお, 今年度発見した多型については第36回日本霊長類学会大会で口頭発表した。


R2-B25
代:齋藤 慈子
協:新宅 勇太
吸啜窩の発達的変化の種間比較
吸啜窩の発達的変化の種間比較

齋藤 慈子 , 新宅 勇太

母乳育児が推奨される中、現代の母親にとって断乳・離乳の時期は大きな問題となっている。ヒトという霊長類がいつまで授乳をする生物なのかに関して、多くの客観的な情報が提供されることで、離乳や断乳の時期について示唆が得られると考えられる。ヒト乳児の口蓋には、線維質で構成された副歯槽堤により形作られる、吸啜窩というくぼみが存在する。乳児はこの吸啜窩に乳首を引き込み固定することで、安定した吸啜を行うことができる。この吸啜窩は発達とともに消失するとされるが、吸啜窩の消失という形態発達が離乳という機能発達に関与している可能性がある。この仮説が正しいとすれば、吸啜窩の消失の時期から、離乳時期についての情報が得られる。本研究では、この仮説を検証するために、吸啜窩の消失と離乳との関連を、ヒト以外の霊長類で確認することを目的とした。
昨年度までに、霊長類研究所所蔵のニホンザルの上顎骨標本を組み立て、口蓋を3Dスキャナーで撮像・解析し、ヒトで定義される吸啜窩と同様のくぼみは、ニホンザル乳児個体では確認されないこと、また、継時的にMRI撮像データのあるニホンザルの上顎の形状を分析し、2歳ごろまで小臼歯後ろにくぼみが存在することを示した。このように、上顎の形状から、ニホンザルでは、特別なくぼみを発達させることなく、乳首を固定し、安定した吸啜を行うことができる可能性が示唆された。この結果から、ヒトにおける上顎形態の変化が、吸啜窩を進化させたという仮説が新たに提起された。
本年度は、霊長類研究所および日本モンキーセンター所蔵の骨標本を追加で分析する予定であったが、COVID-19の影響で出張がかなわず、今後の予定についてメールで所内対応者及び協力者と打ち合わせを行った。



R2-B26
代:川田 美風
協:森本 直記
霊長類における出生前後の肩幅の成長様式

論文

学会発表
川田 美風 霊長類における出生前後の肩幅の成長様式(2019/10) 第73回日本人類学会(佐賀).

関連サイト
日本人類学会若手会員大会発表賞 http://anthropology.jp/st_prize.html
霊長類における出生前後の肩幅の成長様式

川田 美風 , 森本 直記

ヒトにおいて直立二足歩行に適応した骨盤形態は産道を狭隘化し、脳の大型化と伴って、顕 著な難産をもたらした。この運動効率と分娩のトレードオフは分娩のジレンマとして知られ、多くの研究が行われてきた。しかし難産の要因となるのは頭部の大きさだけではない。頭部が産道から出たにも関わらず、肩が産道内に留まる肩甲難産はヒトでは珍しくなく、頭部と同様に肩も重要な難産要因である。難産を緩和するために、ヒトでは胎児期に頭部の成長抑制が起こることが知られているが、肩幅についての産科的研究は皆無である。
 そこで本研究では、霊長類における肩甲難産リスクが胎児期の肩成長に及ぼす影響の解明を目的とした。その結果、出生前の肩成長は肩甲難産リスクのあるヒトのみで胎児期の肩の成長抑制が見られ、肩幅は広いが肩甲難産リスクのないチンパンジー、肩幅が小さく肩甲難産リスクもないマカクでは胎児期の成長抑制は見られないことが示された。これはヒトで肩甲難産への適応として胎児期の肩成長の抑制が進化していることを支持し、人類進化において頭部よりも先に肩で分娩のジレンマが生じたことを示唆する。本研究成果について第73回日本人類学会大会で口頭発表し、現在論文を執筆中である。



R2-B27
代:佐藤 真伍
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

佐藤 真伍

Bartonella quintanaは,発熱や下肢の痛み,回帰性の菌血症を主訴とする塹壕熱の原因菌である。第一次・第二次世界大戦時に塹壕熱は欧州の兵士内に大流行して以降,一旦その流行はみられなくなったものの,近年では都市部に生活するホームレスなどで散発的な発生している。さらに2000年代になると,Macaca属のサルもB. quintanaを保菌していることが明らかとなり,日本の野生ニホンザルからも本菌が分離されている。これまでの我々の研究によって,京都大学 霊長類研究所内で飼育されている研究用ニホンザルの3頭(ID #:TB1,MN51およびMN57)からB. quintanaが分離され,その遺伝子型は野生のニホンザル由来MF1-1株と同一のタイプ(ST22)であることも明らかとなっている。そこで本年度には,研究用ニホンザル1頭(ID #:MN51)から分離した株(MN51-1株)のドラフトゲノム配列を決定し,CDS 492個のゲノム配列に基づいて型別するcore genome MLST(cgMLST)法によって,MN51-1株と野生ニホンザル由来MF1-1株および中国のアカゲザル由来RM-11株を比較した。その結果,MN51-1株はMF1-1株と359個のCDSを共有していた一方で,RM-11株とは8個のCDSのみが同一であった。これらの成績から,MN51-1株はアカゲザル由来株よりも野生のニホンザル由来B. quintanaにより近縁であることが再確認されたとともに,cgMLST法は同一のSTタイプの株(MN51-1株とMF1-1株)を詳細に遺伝子タイピングできることが明らかとなった。今後,その他の研究用ニホンザルから分離したB. quintanaについても同様に検討し,ニホンザルに分布する本菌の遺伝的多様性とcgMLST法の解析能力をさらに検討していく必要があると考えられた。


R2-B28
代:松本 晶子
協:Alexandre Suire
協:菅野 啓太
マカクザルの深部体温測定技術の開発
マカクザルの深部体温測定技術の開発

松本 晶子 , 菅野 啓太

本研究の目的は、サルの深部体温を簡単に24時間計測する技術を確立することであった。
 深部体温やそのリズムは、健康状態を把握するための重要な指標の1つと考えられているが、動物の深部体温を計測する方法はいまだ確立されていない。体表温度計(一般的な体温計やスマートウォッチなどのウェアラブル機器による体温計測)は体幹から離れている場所で計測するものであり、皮膚表面の温度は外気温等の要因によって簡単に変動することもあり、誤差が生じやすい。ヒトではパッチ型のセンサーも開発され始めているが、体毛が長く、手の器用なサルへの応用は難しい。サル等では体内に外科的な方法で計測機を埋め込む方法も行われているものの、侵襲的な実験は避けるのが望ましい。飲み込み型ピルセンサー(飲む体温計)は錠剤サイズで、1~4日で体外から排出されるため、サル調査での利用可能性が期待できる。本研究では、ピルセンサーの利用にむけて、サルにセンサーを飲ませる方法とレコーダー装着の方法を検討した。
 実験ではニホンザルのオトナオス1頭を対象に、HQI製 Pill Sensors 262Kを麻酔下で胃に挿入した。ヒトでは通常48時間(最長96時間)以内に排出されることが確認されていたが、今回の実験では正常に排出されなかった。このことから、ニホンザルを対象とするセンサーは、サイズが22.6mmx10.7mm以下である必要があることがわかった。また、レコーダーは2-3mの距離でデータを記録するが、ケージで飼育されている個体の場合にはそれが干渉して記録できないことが判明した。今後の課題として、対サイズに応じたピルセンサーの小型化とレコーダーの設置場所を検討する必要がある。



R2-B29
代:國松 豊
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究

國松 豊

2020年度は当初、8月~9月にかけてケニヤ共和国北部のナカリ地域において中新世後期の地層を対象に化石採集のための野外調査をおこない、その後、再度ケニヤに渡航してケニヤ国立博物館に収蔵されている化石を整理・分析する予定であったが、コロナ禍のために、ケニヤへの渡航が不可能となった。そのため、国内において、これまでケニヤで収集したデータの整理・分析作業を進めた。
 アジアに関しても、2020年度はタイへ渡航できない状況が続き、予定していたタイ東北部ナコンラチャシマでの野外調査と東北タイ珪化木博物館での標本調査は実施できなかったが、こちらも、従来の調査で収集したデータの整理・分析作業に重点を移した。昨年度のナコンラチャシマの調査で新たに見つかった中新世後期のコロブス亜科化石の分析のため、中新世後期にユーラシア西部を中心に生息していたコロブス亜科であるメソピテクスの化石模型をギリシアの研究者から借り受けるなどし、タイ標本との比較を進めた。


R2-B30
代:一柳 健司
協:一柳 朋子
協:新田 洋久
霊長類におけるエピゲノム進化の解明
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

一柳 健司 , 一柳 朋子, 新田 洋久

本年度はヒトとチンパンジーのiPS細胞を用いて、胚様体を形成させ、さらに骨格筋細胞へと分化させるプロトコールの検討を行った。形態には胚様体やさらに分化した接着細胞へと変化が確認できたが、各種分化マーカー遺伝子の発現量を定量PCRで確認したところ、うまく分化していないことが分かった。現在、さらに条件を検討しているところである。


R2-B31
代:神奈木 真理
協:長谷川 温彦
協:永野 佳子
協:Ganbaatar Undrakh
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

学会発表
Hasegawa, A., Murata, M., Fujikawa, T., Nagano, Y., Akari, H., Kannagi, M. Restoration of impaired STLV-1-specific CTL response in STLV-1-infected Japanese macaques by a CTL-based vaccine. (2020年10月1-3日 ) 第79回日本癌学会学術総会(広島(WEB開催)).

神奈木真理 成人T細胞白血病の免疫原性に基づく新規細胞治療法の開発(2021.02.13 ) HTLV-1関連疾患研究領域研究班合同発表会(東京(WEB開催)).
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

神奈木 真理 , 長谷川 温彦

本研究では、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の近縁ウイルスであるサルTリンパ球向性ウイルス(STLV)に自然感染したニホンザルにおけるSTLV特異的細胞障害性T細胞(CTL)応答の解析ならびに活性化を目的としている。これまでの解析で、多くのニホンザルでSTLV-1特異的CTL応答を検出したが、一部の個体ではプロウイルスDNA量が高いにも関わらずSTLV-1特異的CTL応答が著しく低いことが分かった。HTLV-1感染においても、成人T細胞白血病(ATL)患者ではHTLV-1特異的CTLが低く、CTLを活性化するワクチン療法による抗腫瘍効果が期待されている。我々は、このようなワクチン療法のモデル実験の一つとして、ニホンザル個体末梢血中のSTLV−1感染細胞を不活化したものを抗原として同一個体に免疫接種実験を実施した。2020年度は新型コロナウイルス流行により実験計画がやや遅れたが免疫接種個体のフォローアップを行った。その結果、免疫後にSTLV−1特異的CTL応答が顕著に活性化し、これに伴い感染細胞のHTLV-1発現量の減少が認められた。この現象は、免疫前にCTL応答の低かった個体だけでなく、ある程度CTL応答の検出されていた個体においても認められた。また、免疫接種個体から誘導されたSTLV-1特異的CTLの性状を解析した結果、CTLの標的抗原がSTLV-1 Taxであることが判明し、さらにCTLが認識するdominant epitopeの一つを同定した。


R2-B32
代:佐々木 基樹
類人猿における拇指(趾)可動性の非破壊的解析

学会発表
山田晴日,佐々木基樹,山田一孝, 都築 直,遠藤秀紀, 福井大祐,坂東 元,柚原和敏,藤本 智, 北村延夫 大型陸生哺乳類3種における手骨格可動性の比較形態学的研究(9月14日~30日) 第163回日本獣医学会学術集会(山口大学).
類人猿における拇指(趾)可動性の非破壊的解析

佐々木 基樹

2020年度の共同利用・研究期間中に、過去に撮像したオランウータン2頭のCT画像解析を試みた。オランウータンの後肢の趾を屈曲させたときに第一足根骨(内側楔状骨)の頭側に認められる滑車様の関節面を、第一中手骨は回外しながら内側方向にスライドしていた。また、第一中手骨は中手指関節の関節面に趾骨との広い関節面を有しており、第一趾の趾骨が大きく屈曲することで第一趾趾骨の腹側面は他の趾骨と対向するようになった。今後、実物の骨との比較でオランウータン第一趾の可動性と拇指対向に関してさらに検索していければと考えている。


R2-B33
代:佐々木 哲也
協:鮑培毅
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

論文
Tetsuya Sasaki, Yusuke Komatsu, Tetsuo Yamamori( 2020) Expression patterns of SLIT/ROBO mRNAs reveal a characteristic feature in the entorhinal-hippocampal area of macaque monkeys. BMC Res Notes. 13( 1): 1-6.. 謝辞 あり

Tetsuya Sasaki, Yosuke Takei(2020) Localization Mechanism of Myosin Id, an ASD Risk Gene Product in Dendritic Spines Japanese Journal of Biological Psychiatry 31(2):93-97.

Sasaki T, Tome S, Takei Y.( 2020) Intraventricular IL-17A Administration Activates Microglia and Alters Their Localization in the Mouse Embryo Cerebral Cortex. Mol Brain. 13(93):1-6. 謝辞なし

学会発表
Tetsuya Sasaki Cortical area specificity of dendritic spine morphology in primates(2020-09-11) 2020 Technical Training Meeting for Young Investigator Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas ― Platforms for Advanced Technologies and Research Resources/(on line).

Tetsuya Sasaki; Peiryi Bao; Yosuke Takei Effects of interleukin 17A on cortical architecture and the involvement in ASD pathology.(2020.09.10-12) The 63rd Annual Meeting of the Japanese Society for Neurochemistry(Hachioji (held on line)).

Peiyi Bao, Tetsuya Sasaki, Yosuke Takei. Localization of Myosin Id, an ASD Risk Gene Product in Dendritic Spines.(2020.07.31-08.01. ) The 43rd Annual Meeting of the Japan Neuroscience Society. (Kobe (Held on line).).

関連サイト
解剖学・神経科学研究室 https://www.neurosci.tsukuba.ac.jp/~takeilab/
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

佐々木 哲也 , 鮑培毅

霊長類の大脳皮質は機能分化が進んでおり、複数の「領野」に区分される。その神経回路は、生後発達期に大規模な再編成がなされて機能的領野が形成される。霊長類の神経回路発達過程にニューロン、グリア細胞が果たす役割を詳細に検討するために、細胞種特異的な遺伝子発現解析、エピジェネティクス解析を計画した。本年度は、コロナ禍のため、霊長類研究所との往来が制限された。2018年度の共同利用研究によりアカゲザル2頭の脳組織を採材したものを用いて、凍結組織からの効率の良い細胞分離法を模索している。また軸索誘導因子SLITとその受容体ROBOがマカクザル嗅内皮質_海馬周辺領域に特徴的な層分布をもって発現していることを見出し査読付き論文として発行した(Sasaki et al., 2020)。


R2-B34
代:伊藤 浩介
協:酒多 穂波
サル類における聴覚事象関連電位の記録
サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤 浩介 , 酒多 穂波

これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論が完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となった。一方、マーモセットの脳波記録では、①頭部面積が小さく電極の設置が難しいことや、②頭皮の皮脂の多さによる電極インピーダンスの増大などの問題が明らかになった。これらの要因により、電極設置に時間がかかり、電極数を増やせず、脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。
 そのため、これらの問題の解決を目的とした技術開発を行ってきたが、一昨年度(2018年度)に、電極の設置について、これまでにないまったく新しい発想の方法を考案し、これにより電極設置の迅速化(従来より75%の時間短縮)、電極の高密度化(7 ㎜の電極間距離で設置可能)、脳波記録の質の安定化が達成された。昨年度(2019年度)は、この新しい電極設置方法を利用して、マーモセットの聴覚誘発電位記録を行い、世界初の報告として原書論文にまとめて投稿したが、すぐには受理されなかった。
 そこで本年度は、この論文を改訂して再投稿し、最終的にはHearing Research誌(IF 3.69)に受理された(Itoh et al., in press)。さらに、これまでに収集した複数種類の実験におけるヒト・アカゲザル・マーモセットの聴覚誘発電位データに、他から提供された、既報のチンパンージの脳波データの再解析を加えることで、霊長類4種の比較を行い、論文にまとめている。



R2-B35
代:小倉 淳郎
協:越後貫 成美
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察

小倉 淳郎 , 越後貫 成美

我々は、顕微授精技術を用いることにより、マーモセット体内で自然発生した生後 11 ヶ月齢の未成熟精子(伸長精子細胞)から産仔を獲得した。そこで本研究では、さらに早期に顕微授精を行う可能性を検討するために、性成熟の早いマウスへ新生仔マーモセット未成熟精細管を移植し、精原細胞から精子・精子細胞発生が加速するかどうかを確認した。2017年度までに生後4 ~7ヶ月齢雄マーモセットの片側精巣を採取し、去勢NSGマウスの腎皮膜下に移植行った。生後4ヶ月齢マーモセット精巣移植から約 3 ヵ月後に組織を回収して組織学的観察を行った結果、初期円形精子細胞までの発生を確認した。生体下での円形精子細胞の出現は 10-11 ヶ月なので、異種移植を行うことにより 3-4 ヶ月ほど精子発生が加速した結果が得られた。2018年度より、より世代短縮が可能か明らかにするため、生後0~1日齢の個体由来の精巣を実験対象とした。前年度には、移植後3ヶ月では精原細胞まで、1年では精母細胞までの発生が確認された。今年度は移植後6か月のサンプルで精母細胞までの発生を認めた。サンプル間での精子発生速度のばらつきがあるが、出生直後の精巣でも精子発生の加速化が可能であることが明らかになった。


R2-B36
代:荒川 高光
協:江村 健児
協:櫻屋 透真
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

論文
Emura K, Hirasaki E, Arakawa T(2020) Muscle–tendon arrangement and innervation pattern of the m. flexor digitorum superficialis in the common marmoset (Callithrix jacchus), squirrel monkey (Saimiri sciureus) and spider monkey (Ateles sp.). J Anat . 謝辞あり

学会発表
>櫻屋透真 、関谷伸一、江村健児、平崎鋭矢、荒川高光 霊長類間の神経支配パターン比較に基づくヒトのヒラメ筋羽状筋部と足底筋における新たな系統発生学的仮説( 2020年12月5日-6日) 第36回日本霊長類学会(WEB開催).

江村健児、平崎鋭矢、荒川高光 ニシローランドゴリラの浅指屈筋の筋束構成と支配神経パターンについて(2020年12月5日-6日) 第36回日本霊長類学会(web開催).
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

荒川 高光 , 江村 健児, 櫻屋 透真

共同利用研究で貸与を受けたリスザルとクモザルの液浸標本を用いて、前腕屈筋群、特に浅指屈筋の起始・停止、支配神経パターンを解析した。その成果はJournal of Anatomyに掲載となった(Emura et al., 2020, 謝辞あり)。また、下腿屈筋群の支配神経パターンを解析した。ヒラメ筋と足底筋の間の支配神経パターンの近縁性を見いだし、それをもとに、ヒラメ筋と足底筋の系統発生を考察し、ヒトにおいてみられる足底筋の退縮は、実は退縮ではなく、ヒトにおけるヒラメ筋の発達に伴い、ヒラメ筋の羽状筋部に近い足底筋が多くの例で現存するに至っている可能性について提唱したい。本成果は第36回日本霊長類学会大会で発表し、最優秀口頭発表賞を受賞した。現在論文準備中である。次年度は対象部を上腕と大腿部へとつなげ、鎖骨下筋と肩甲帯の関係、大腿二頭筋短頭についても同様に解析を行っていきたい。


R2-B37
代:三浦 智行
協:阪脇 廣美
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

論文
Pisil, Y., Yazici, Z., Shida, H., Matsushita, S., and Miura, T. (2020) Specific substitutions in region V2 of gp120 env confer SHIV neutralisation resistance. Pathogens 9:181.

Nakamura-Hoshi, M., Takahara, Y., Ishii, H., Seki, S., Matsuoka, S., Nomura, T., Yamamoto, H., Sakawaki, H., Miura, T., Tokusumi, T., Shu, T. and Matano, T.(2020) Therapeutic vaccine-mediated Gag-specific CD8+ T-cell induction under anti-retroviral therapy augments anti-virus efficacy of CD8+ cells in simian immunodeficiency virus-infected macaques. Sci. Rep. 10(1):11394.
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

三浦 智行 , 阪脇 廣美

我々は、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究している。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得たことから、これまでのワクチンを更に改良して細胞性免疫誘導効果が高くなるように工夫したワクチンを作製すると共に、ワクチン評価実験に適した遺伝的背景をもつアカゲザル3頭を選定し、ワクチン接種した後に攻撃接種実験を行った。感染防御効果を調べたところ、部分的な増殖抑制効果が認められた。免疫応答と感染防御効果との相関を調べたところ、in vitroでのCD8細胞によるウイルス増殖抑制活性が相関した。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株の感染実験を継続的に解析し、血中ウイルス量の推移と中和抗体産生について解析し、ワクチン評価モデルとして必要な基礎情報を更に蓄積した。その結果、SHIV-MK38C株は、Tier1BとTier2の中間の中和抵抗性を有することが明らかとなり、Tier1Cと新たにカテゴライズすることとした。


R2-B38
代:澤野 啓一
協:田上 秀一
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

澤野 啓一 , 田上 秀一

今年度はCovid-19感染症大流行の為、霊長類研究所での新規の血管造影CT撮影は実施出来なかった。しかし前年度までに得られたDATAに基づいて、所内対応者と連絡を取りつつ新たな解析を行うことで研究を推進することが出来た。その研究成果の第一段階は、令和3年3月に開催されたthe 126th Annual Meeting of The Japanese Association of Anatomistsにおいて報告した。Venae cerebri internae (VCI, internal cerebral veins)に関しては、我々が調べたMacaca fuscata fuscata (Mff,)では8例全例で、その末梢側はVena magna cerebri Galeni (VMCG, Great cerebral vein of Galen or Galen's vein)に向かっていた。humansに比べて、Mffの場合は、VCIがつながるVMCGは、Sinus rectusとの角度が比較的緩やかで、かつ、VCIより下部は、Vena basalis Rosenthali (Rosenthal's basal vein)との間の空間に血管が少ないので、結果的に見やすく成っている。MffのありふれたRosenthal's basal veinの末梢側の流出先は、humansとは異なり、Sinus sigmoideusに向かうが、流入路・流出路の両方を詳細に調べると変異が多い。Foramen jugularis (FJ)通過前後のSinus sigmoideus (SSG) からVena jugularis interna (VJI)への血管の屈曲が、Mffとhumansとで非常に異なる点に関しては、直接的な原因は両種のFJのcranial base における三次元的な形状の違いに由来すると考えられるが、humansに於ける極端な屈曲の増加がもたらす機能的意義に関しては、更に検討を進める必要性を感じた。


R2-B39
代:柳川 洋二郎
協:對馬 隆介
協:鳥居 佳子
協:阪井 紀乃
協:篠原 明
ニホンザルにおける凍結精液を用いた人工授精プログラム開発

学会発表
栁川 洋二郎、對馬隆介、兼子明久、澤田悠斗、宮部貴子、今井啓雄、片桐成二、岡本宗裕 ニホンザルにおける精液採取の方法が新鮮および凍結融解後の精液性状に与える影響(2020.11.26-27) Cryopreservation conference 2020(Online).
ニホンザルにおける凍結精液を用いた人工授精プログラム開発

柳川 洋二郎 , 對馬 隆介, 鳥居 佳子, 阪井 紀乃, 篠原 明

新型コロナウイルス感染症に伴い実験が実施できない状況が続いていたが、10月頃から実験可能ということで12月8日に実験を実施予定で準備を進めていた。しかし、札幌市における感染者数の増加に伴う訪問の自粛要請や同時期における政府の「札幌発GoToの差し控え」要請もあり、実験を中止した。その後も状況が改善せず繁殖期が終わってしまったため本年度は実験を実施できなかった。


R2-B40
代:那波 宏之
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波 宏之

本年度は、疾患モデルマーモセットとその同腹仔であるコントロールの健常マーモセットのペア3組に対して①行動量定量化、②脳MRI撮像および③脳波計測を実施した。①行動量の定量化では、マーモセットの飼育ケージ内での行動を深度センサーを利用した3次元トレースシステムを使い、一週間連続で一日2回一定時間内に計測した。現時点で、3組のペア内で行動量や運動軌跡パターンに顕著な差を認めなかったが、今後も定期的にデータ収集を進め、比較解析していく。②脳MRI撮像は、以前から継続している年1回の構造MRIおよび拡散テンソル像を実施した。ある程度の頭数の脳MRIデータが収集できた時点で解析を行う予定である。③脳波計測では、聴覚刺激に対する脳波応答を非侵襲に計測した。統合失調症患者で特徴的な聴性定常反応の低下が疾患モデル個体で観察できるか否かに注目し、3ペアから脳波データを計測した。


R2-B41
代:松岡 史朗
協:中山 裕理
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

論文
松岡史郎(編)(2020) 令和元年度天然記念物生息調査むつ市に生息するにニホンザルの生息実態調査調査報告書 下北半島のサル 令和2年:1-23.
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

松岡 史朗 , 中山 裕理

1987年から継続調査している下北半島南西部の87群は、5頭から始まり、現在も指数的に増加している。87Aの2020年度の個体数は、83頭で、2013年の分裂した頭数を越えたが今年度は観察期間中に泊まり場を異にするようなサブグーピングは観察されなかった。遊動面積は、ほぼ昨年度と同じで、分裂以降、群れの個体数は増加しているが、遊動面積はほとんど変化がない。出産は、87A群で40%、死亡率は赤ん坊で20%、1歳で9%であった。87B群に関しては、観察日数が少なく、正確な出産率、死亡率が得られなかった。1987年からの観察データから、群れ個多数が増加すると、初産年齢が上がる傾向が見られた。出産年齢である5歳にまで達したメスの死亡年齢は19歳、産子数は8頭(n=9)であった。例数は少ないが、メスは、22歳前後で出産しなくなり、死亡最高年齢は30歳であった。


R2-B42
代:笹岡 俊邦
協:福田七穂
協:小田 佳奈子
協:崎村 建司
協:中務 胞
協:夏目 里恵
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

笹岡 俊邦 , 福田七穂, 小田 佳奈子, 崎村 建司, 中務 胞, 夏目 里恵

<目的>遺伝子改変マーモセットの作出には多くの受精卵の獲得が必須である。また、遺伝子改変動物精子の取得方法の確立も望まれている。そこで私たちは、霊長研の中村克樹研究室より提供を受けた卵巣及び精巣上体尾部を含む精巣組織を用いて、異種間移植法を中心とした技術を活用して、マーモセット受精卵生産方法の確立を目指してきた。今年度は、他の施設由来の組織を含めて、移植組織の保存条件と異種間移植の生着率及び成熟卵子取得の関連、精巣組織移植に関する検討をおこなった。
<方法>
供与された卵巣組織は冷蔵して送付されるが、移送の条件や、私たちの移植準備状況などにより、移植までの時間は一定で無い。そこで、冷蔵保存の時間と移植片の生着率、取得卵胞数の関連を、ラット及びマーモセット卵巣を用いて調べた。卵巣は細切し、卵巣除去したヌードマウス腎臓被膜下に移植した。膣開口を組織生着の目安にし、ホルモン投与により卵胞成熟を促した。また、精巣組織は、細切後に、雄ヌードマウスの皮下、腎臓被膜下、マウス精巣組織内にそれぞれ移植し、その生着率と精子形成について調べた。
<結果>ラット卵巣は細切後冷蔵し、経時的にヌードマウスに移植した。その結果、採材2日後までは高効率に生着し、成熟卵胞が取得できた。また、マーモセット卵巣は、保存期間が長くなると異常卵胞が増加する事がわかった。したがって、採材後2日以内に移植することが望ましい。また、精巣の移植部位に関しては、皮下及び腎被膜下では、時間と共に組織が吸収され、精子は得られなかった。一方、精巣組織内に移植したものは、精巣組織が保たれていた。今後、高品質受精卵取得法を本共同研究を進める中で確立したい。



R2-B43
代:保坂 善真
協:田村 純一
協:割田 克彦
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析

保坂 善真 , 田村 純一, 割田 克彦

令和2年度は、新型コロナウイルスの影響により、霊長類研究所への訪問ができず、採材および実験等を進めることができなかったが、霊長類研究所の対応者である岡本宗裕教授と、今後のメールでの研究の方針について打ち合わせを行った。


R2-B44
代:佐藤 暢哉
協:林 朋広
コモンマーモセットにおける空間認知

論文

関連サイト
関西学院大学文学部 総合心理科学科 佐藤暢哉研究室 https://sites.google.com/site/nsatolab/
コモンマーモセットにおける空間認知

佐藤 暢哉 , 林 朋広

本研究では,コモンマーモセットの空間認知能力について検討することを目的として,齧歯類を対象とした実験で広く用いられている空間学習課題・空間記憶課題を,マーモセットを対象として実施できるような実験パラダイムの開発を目指した.これまでの共同研究において作製した飼育ケージ内に設置可能なマーモセット用の放射状迷路を使用した実験を実施予定であったが,新型コロナウイルス感染症の流行のため,実際の実験実施が叶わなかった.そのため,今後の研究内容などについて研究所内対応者とメールを中心に打ち合わせを行なった.次年度には,作製した装置を用いていくつかの空間認知課題を実施したいと考えている.


R2-B45
代:松本 惇平
協:柴田 智広
協:三村 喬生
サル用マーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

論文
Rollyn Labuguen, Jumpei Matsumoto, Salvador Negrete, Hiroshi Nishimaru, Hisao Nishijo, Masahiko Takada, Yasuhiro Go, Ken-ichi Inoue, Tomohiro Shibata(2021) MacaquePose: A novel ‘in the wild’ macaque monkey pose dataset for markerless motion capture. Frontiers in Behavioral Neuroscience. 14:581154. 謝辞あり

学会発表
S. Blanco Negrete, R. Labuguen, J. Matsumoto, Y. Go, K. Inoue, T. Shibata Multiple Monkey Pose Estimation Using OpenPose.(2021.1.11) 25th International Conference on Pattern Recognition (ICPR 2020).(オンライン開催; 当初予定:Milan, Italy).
サル用マーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

松本 惇平 , 柴田 智広, 三村 喬生

本研究では、最新の機械学習アルゴリズム(深層学習など)を用いて、任意の画像および映像内のサルの姿勢を推定するソフトウェアを開発を目指す。これまで(2018-2019年)霊長類研究所や複数の動物園でマカクサルの画像を合計計約2万頭分を収集し、画像上の特徴点(手足の位置など)をラベル付けした大規模教師データを作成した。このデータをもとに機械学習で訓練された姿勢推定ソフトを用いて、所内対応者の井上助教が所持するパーキンソン病モデルマカクサルの実験映像を解析し、運動機能等の評価を行った。3年目の2020年度では、まず、大規模教師データで訓練したソフトの詳しい性能評価を行い、結果をデータセットと共に論文として発表した(図A; Labuguen et al., 2021)。また、データセットおよび訓練済みネットワークモデルを霊長類研究所HP上で公開した(www.pri.kyoto-u.ac.jp/datasets/macaquepose)。次に、複数個体の姿勢推定が可能なOpenposeアルゴリズムを上記のデータセットで訓練し、複数のマカクサルの姿勢を同時推定することを試みた(図B; Blanco et al., 2021, ICPR 2020)。この結果、良好な結果が得られたものの、これまで行ってきた単一個体の推定結果比べるとまだノイズが多く、さらなる改良が必要と考えられた。最後に、同期した複数のカメラでサルを撮影することで、3次元的な姿勢の復元や複数個体姿勢推定の性能改善に役立つ、マルチカメラシステムの構築を行うとともに、得られた複数視点の画像から単一個体の3次元姿勢の復元するソフトを開発した(図C)。今後はマルチカメラシステムでデータ収集を行い、このデータをもとに複数個体の社会行動などを解析が可能な3次元マーカーレスモーションキャプチャーソフトの開発を目指す。本研究で開発中のソフトウェアは、姿勢や動作の解析から、運動機能や情動、行動意図、社会行動を客観的・定量的に評価することを可能にし、種々の脳機能の研究や野外生態調査、サルの健康管理など多くの分野への貢献が期待される。


R2-B46
代:清水 貴美子
協:深田 吉孝
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

清水 貴美子 , 深田 吉孝

我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた (Shimizu et al. Nat Commun 2016)。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにすることを目的とする。これまでの研究において、苦味と水ボトル飲み口の色との組み合わせ学習について、ニホンザル6頭を用いて朝昼夕の1日3時刻での記憶テストを複数回行った結果、昼に有意に記憶効率が高いという結果が得られている。さらに、この昼の記憶効率の高さにSCOPが関わっているかどうかを確かめるために、SCOP shRNA発現レンチウイルスまたはコントロールレンチウイルスの海馬への投与を一頭ずつおこない、昼の時刻の記憶効率を測定した。コントロールレンチウイルスではほとんど影響が見られなかったが、SCOP shRNA発現レンチウイルスを投与したサルは、chance level よりも著しく記憶能力が低下していた。
 これまでの結果を踏まえ、論文化するために必要な実験等について議論を行った。論文化するためには、shRNA発現レンチウイルスの投与実験をもう一頭ずつ (Scop shRNA とcontrol )おこなう必要があるが、その前に、すでに投与した一頭ずつのshRNA発現や投与位置を示す必要があること、保存サンプルを使って海馬のSCOP量やその時刻変化などの分子的データを取ることが可能であること、記憶テスト方法の見直しの必要性などを議論した。



R2-B47
代:Kanthi Arum Widayati
協:Yohey Terai
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

学会発表
Widayati KA, Xiaochan Y, Suzuki-Hashido N, Itoigawa A, Fahri F, Terai Y, Suryobroto B , Imai H Characteristics of Bitter Taste Receptor TAS2R38 in Macaca maur(25-27 November 2020) International Conference of the Genetics Society of Korea 2020 & Asia-Pacific Chromosome Colloquium 7( Bexco, Busan, Korea).
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

Kanthi Arum Widayati , Yohey Terai

This research aims to characterize genetic information of TAS2R38 taste receptors in seven allopatric species Sulawesi macaques. In previous studies, we characterized the function of TAS2R38 in four allopatric species of Sulawesi macaques in Sulawesi Island from Central to Northern Sulawesi. We found variation of response of TAS2R38 to synthetic phenylthiocarbamide (PTC) with functional divergence among species. We detected a shared haplotype in all four Sulawesi macaques, which may be Sulawesi macaques' ancestral haplotype. In addition to shared haplotypes among Sulawesi macaques, other TAS2R38 haplotypes were species-specific. In the present study, we will expand our samples to the Southern part of Sulawesi to determine whether this variation exists in the South Sulawesi macaque species. We predict that some of the TAS2R38 South Sulawesi macaques will have some different genetic backgrounds compared to the North Sulawesi macaques due to geographical separation and different types of soil and may reflect in the vegetation. We found one type of mutation responsible to PTC non-sensitive in M. maura. The mutation is shared between M. maura and M. tonkeana. The previous study showed that each species has a specific PTC-non-sensitive genotype that we predict exists after speciation. We expect so does M. maura. Since last year, we could not finish the genetic analysis due to Covid-19 pandemic situation. Therefore this year, we will continue to analyze the rest of the sample to determine the genetic background underlying the differences in their phenotypes variations.


R2-B48
代:原田 優
サルの発声学習に関連する身体運動の役割についての分析的研究
サルの発声学習に関連する身体運動の役割についての分析的研究

原田 優

霊長類を含む哺乳類の音声は、発声器官が関与する様々な筋肉群の身体運動の協調によって生成される音であり、発声運動と身体運動は独立しているのではなく、依存した運動制御の関係と言える。そのため、発声運動の原理を理解する際には、身体全体の動きと相まって検討される必要がある。
これまでの先行研究では、ヒトやヒト以外の動物における発声運動と身体運動の相関が明らかにされてきた。マーモセットでは発声と移動様式との関連性は、年齢成熟によって変化することが明らかになっている。このように、先行研究の実験に基づく証拠からは身体運動全体を考慮して発声運動を解釈するという考えの重要性が強調されている。
本研究ではシロテテナガザルの観察を行い、シロテテナガザルにおける自発的な発声と身体運動の関係性について調べた。その結果、発声と運動には関係性が見られず、姿勢では一貫した結果を得ることができなかった。
これは先行研究であるマーモセットの事例と矛盾せず、類似した報告となった。一方で、マーモセットの単一の発声とは発声行動が異なる長い時系列を持ったシロテテナガザルの歌(発声)と姿勢については解釈が難しく、今回の測定・分析指標では評価・測定しきれていない可能性があるため、さらに詳細な測定・分析が必要だろう。



R2-B49
代:Bambang Suryobroto
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

学会発表
Bambang Suryobroto Evolutionary Deployment of Sulawesi Macaques(November 25-27, 2020) Genetics Society of Korea(BEXCO Busan, Korea).
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

Bambang Suryobroto

Monkeys live in Sulawesi Island (Central Indonesia) are classed into seven species of genus Macaca. They are M. nigra, M. nigrescens, M. hecki, M. tonkeana, M. maurus, M. ochreata, and M. brunnescens. As the seawater gap between Sunda Shelf and Sulawesi Island had never been closed so that their ancestor should cross the Wallace Line to come to the Island, Sulawesi macaques become a good model for evolutionary speciation and differentiation.

The question of which species has the same most recent common ancestor as Sulawesi macaques is approached by comparing the single-nucleotide variants (SNV) in 0.5 million sites in exomes of Sulawesi macaques and M. nemestrina, M. sinica, M. fascicularis, and M. mulatta. We found that, firstly, the Sulawesi macaques are monophyletic, and we confirmed that it is with M. nemestrina that they share a common ancestor.

We follow the model of speciation with gene flow and trace the demographic history of M. tonkeana and M. hecki which had been reported to hybridize. We found that recreated history consists of the bottleneck, split, and introgression events. Female M. maurus were recorded to have their first infant at 6-6.5 years of age (Okamoto et al 2000). If we take 7 years as the generation time, the bottleneck period of the ancestral population can be said to occur around 417-372 thousand years ago (kya), the speciation started 350 kya, and M. tonkeana introgressed into M. hecki at 30 kya.



R2-B50
代:斎藤 通紀
協:中村 友紀
協:横林 しほり
協:沖田 圭介
協:Guillaume Bourque
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明

斎藤 通紀 , 中村 友紀, 横林 しほり, 沖田 圭介, Guillaume Bourque

本研究は、ヒト・類人猿・マカクザルにおいて生殖細胞の遺伝子発現制御機構を比較し、種特有の性質が世代を超えて維持されるメカニズムの一端を解明することを目的とする。
2020年度は、チンパンジーiPS細胞と2019年度に樹立したオランウータンiPS細胞が、核型異常を起こさず未分化状態で長期維持できること、teratoma assayを用いて三胚葉分化能を有することを確認した。また、ゴリラ線維芽細胞から新たにiPS細胞を樹立し、こちらも未分化状態で長期培養可能であることを確認した。さらに、始原生殖細胞様細胞(Primodial Germ Cell-like cell, PGCLC)のマーカーであるTFAP2C座にEGFP遺伝子を導入したチンパンジー・オランウータンiPS細胞株を樹立し、TFAP2C-EPFP陽性の細胞群が出現する誘導条件を同定した。
2021年度は誘導したPGCLCのさらなる性状解析を行い、生殖系譜の発生における種差を明らかにするなど予定している。



R2-B51
代:中務 真人
協:富澤 佑真
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

論文
Tomo Takano, Masato Nakatsukasa, Marta Pina, Yutaka Kunimatsu, Yoshihiko Nakano, Naoki Morimoto, Naomichi Ogihara, Hidemi Ishida(2020) New forelimb long bone specimens of Nacholapithecus kerioi from the Middle Miocene of northern Kenya Anthropological Science 128(1):27-40. 謝辞なし
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

中務 真人 , 富澤 佑真

近年、人類とチンパンジー系統分岐前の祖先が、短縮した腰部か祖先的な長い腰部をもっていたかを巡る議論が活発に行われている。これに関する議論の中で、腰椎横突起の位置が固有背筋のサイズと関係する(類人猿のように背側に位置すればサイズが小さい)とした仮定が一般に受け入れられているが、これを検証した研究は存在しない。ヒト、チンパンジー、オランウータン、テナガザル、オナガザル亜科の液浸標本をCT撮影し、この検討を行った。第1腰椎から最終腰椎まで頭側面レベルでの固有背筋横断面積を計測し、体重で標準化し比較を行った。オナガザルに対し、オランウータン(n=2)はどのレベルでも低い値を示す一方、チンパンジー、テナガザル(共にn=3)は上部腰椎ではオナガザルに匹敵する大きな断面積を、下部腰椎では小さな断面積を示した。ヒトは背側にある横突起にかかわらず、最も大きな断面積を示した。類人猿において、横突起の位置と固有背筋サイズの関係に変異が存在する事は、横突起の位置自体は脊柱陥入の程度によって定まり、必ずしも背筋の発達を反映しない可能性を示唆する。また、ヒヒとマカクの間に顕著な違いが見られるなど、固有背筋の横断面積と運動との関係は単純でないことが示唆された。


R2-B52
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand

学会発表
Hirasaki E, Sellers WI. Impotance of the pollex during locomotion in Japanese macaques: an analysis of hand pressure distribution.(2020.12) Primate Society of Japan(Online).
The comparative biomechanics of the primate hand

William Sellers

The restrictions on travel imposed by the COVID-19 pandemic meant that we had to change our plans for our 2020 research program since it was not possible to travel to PRI to collect experimental data as originally intended. Instead, we focussed on a virtual primatology project using data that we had obtained from PRI in previous years. Our planned project was to quantify the finger movements in primate hands during locomotor and manipulation tasks, so instead we turned our attention to how such actions could be controlled. The ultimate aim of producing such a control system is that it can be used as a way of quantifying the manipulative and locomotor abilities of fossil primates. We used our previously published chimpanzee computer simulation (Sellers & Hirasaki 2018) and created a novel, heuristic based targeting system. This targeting system allows us to calculate the desired muscle lengths required to move a location on the hand to any specified reachable point in the local environment. With this information we can use standard length control algorithms to activate the limb musculature to produce the movements of the arm required to achieve the desired action. This overcomes the problems associated with having very many more muscles than degrees of freedom at the joints, and the many possible ways of achieving a desired reach action. We tested our ideas in our chimpanzee simulation and were able to demonstrate high quality positional control in reach tasks at the ESHE 2020 virtual conference. In addition, we were able to combine our limb position control system with a general quadrupedal locomotion controller to produce a drivable chimpanzee walking model capable of starting, stopping and turning corners. Whilst currently not very efficient, or indeed stable, this fully controlled simulation demonstrates the possibility of taking any primate skeletal morphology and generating control patterns for a range of locomotor performances. For the very first time we have moved beyond steady state, fixed speed locomotion, and there is a reasonable chance that this approach can be used to generate a much larger range of primate locomotor and manipulation activities including climbing and foraging tasks. We intend to pursue this approach by replacing our chimpanzee model with a much more challenging to control Japanese macaque model and collecting further experimental data at PRI to confirm the accuracy of our simulations. Being forced to work under the difficult conditions imposed by lockdown measures has potentially led to a significant breakthrough for primate musculoskeletal studies and palaeobiological reconstruction.


R2-B53
代:高島 康弘
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析

高島 康弘

ヒト胚性幹細胞(ES細胞)はFGFとACTIVINシグナルを利用し、維持される(プライム型と呼ぶ)。一方、マウスES細胞はLIFシグナルを利用し、維持されている(ナイーブ型と呼ぶ)。人工多能性幹細胞(iPS細胞)も同様であり、ヒトはFGFとACTIVINであり、マウスはLIFシグナルであり、維持されるシグナルが異なっている。
ヒトiPS細胞をマウスと類似した培養方法へと変更したヒトiPS細胞を樹立することに成功した。
一方、非ヒト霊長類ES/iPS細胞は、ヒト同様にFGFとACTIVINのシグナルによって維持されており、ヒトと同様のプライム型である。申請者は、ヒトと同様の方法を用いて、カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセットをナイーブ化する試みを行ってきたが、ヒト同様の方法では、誘導することが難しいことが分かった。
よりヒトに近縁であるチンパンジーiPS細胞の多能性に関連するシグナルを解析し、チンパンジー、ヒトを含む霊長類における相違と相似を明らかにすることを試みた。またチンパンジーiPS細胞(プライム型)をより受精卵に近いナイーブ型チンパンジーiPS細胞へとリプログラミングを行った。形態的には、プライム型からナイーブ型への移行を認めた。遺伝子発現の確認やより効果的なナイーブ型への移行方法を継続して、解析しているところである。



R2-B54
代:鈴木 俊介
協:川崎 恵一朗
協:竹内 亮
協:牧 廉斗
協:松下 紋子
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

学会発表
竹内 亮, 鈴木俊介 ヒト特異的タンデムリピートから転写される脳発現RNA遺伝子HSTR1の同定(2020年12月4日) 第43回日本分子生物学会年会(オンライン).
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

鈴木 俊介 , 川崎 恵一朗, 竹内 亮, 牧 廉斗, 松下 紋子

研究計画のとおり,CDK5RAP2, MCT1/SLC16A1, TBC1D5 遺伝子座中のヒト特異的レトロトランスポゾンSVA F1を,CRISPR/CAS9システムによるゲノム編集より欠失させたヒトiPS細胞株の作出に取り組んだ。iPS細胞以外の培養細胞では狙いどおりの欠失を引き起こすことができるガイドRNAを設計することができたが,iPS細胞を用いて同様の実験を行うと欠失が確認できないという状況である。遺伝子導入時に多数のiPS細胞が死滅していることが原因である可能性が考えられるため,この点について対策を行う必要がある。SVA F1欠失ヒトiPS細胞が得られ次第,チンパンジーやニホンザルiPS細胞を用いた比較実験に進む予定である。


R2-B55
代:伊沢 紘生
協:宇野 壮春
協:関 健太郎
協:高岡 裕大
協:関澤 麻伊沙
協:涌井 麻友子
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

論文
伊沢紘生(2020) 金華山のサルのクルミ実生食い その1.-過去の記録から- 宮城県のニホンザル(33):3-5.

関澤麻伊沙(2020) 金華山のサルのクルミ実生食い その3.-A群での観察記録- 宮城県のニホンザル(33):11-13.

伊沢紘生(2020) クルミの発芽実験から見えてきたサルの実生食いの課題 宮城県のニホンザル(33):14-24.

伊沢紘生(2020) 金華山のサル・隣接するD群から見たB₁群の異常な事態 宮城県のニホンザル(34):26-35.

伊沢紘生(2020) 金華山のサル・B₁群の2019年交尾期後半以降の動向 宮城県のニホンザル(34):36-38.

伊沢紘生(2020) 金華山のサル・かつてのB₂群崩壊について B₁群の事例からわかったこと 宮城県のニホンザル(34):39-46.

伊沢紘生(2020) ニホンザル・第一位オスの群れ離脱に伴って起きること 宮城県のニホンザル(34):47-52.

関澤麻伊沙(2020) 金華山のサル・群れの分派要因について 宮城県のニホンザル(34):53-58.

伊沢紘生(2020) ニホンザル・群れの分派と離合集散 宮城県のニホンザル(34):59-61.

伊沢紘生(2020) ニホンザル・群れの内という概念の重要性 宮城県のニホンザル(34):74-82.
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

伊沢 紘生 , 宇野 壮春, 関 健太郎, 高岡 裕大, 関澤 麻伊沙, 涌井 麻友子

 野生ニホンザルの良好な研究フィールドとしての維持・管理は別として、申請時の本研究の具体的な目的は5つで、その結果は以下の通りである。①個体数に関する一斉調査はコロナ禍の中、最大限の感染防止対策を講じつつ申請通り2回、秋と冬に実施した。結果は秋が244頭、冬が232頭だった。その詳細は伊沢の責任でとりまとめ、金華山のサルにこれまで関わりをもってきたすべての研究者とデータを共有している。②群れごとのアカンボウの出生数と死亡(消失)数は、春の調査が十分にできなかったので不明だが、秋の調査では12頭だったのが冬の調査では8頭に減っていた。③家系図と④食物リスト作成は群れごとの担当者が随時実施した。⑤遊動域の変更(拡大)は個体数の増加したB₁群で昨年に続き本年もかなり顕著に見られた。また、6群間の比較生態・社会学的調査は分派行動や群れの離合集散に関する調査を重点的に実施。その成果は、「宮城県ニホンザル」第34号に“特集:金華山のサル・群れと個と”として発行した(103項、発行日は令和2年8月)。


B1群の分派集団にいたサンショウの新芽を採食中の3歳オス


B1群の分派集団にいた第二位オス「イツモ」と3歳オス


磯の陽だまりで休息中のD群のサル達


磯に下りてワカメを採食中のD群のオトナオス


クマノミズキの冬芽を採食中のD群のオトナメス


R2-B56
代:加藤 彰子
協:内藤 宗孝
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する

論文
Smith, T.M., Cook, L., Dirks, W., Green, D., Austin, C.(in press) Biological rhythms and chemical records in teeth reveal juvenile diet, health, and neurotoxicant exposures retrospectively. BioEssays. 謝辞あり

学会発表
Akiko Kato, Munetaka Naitoh, Koji Inagaki, Eishi Hirasaki, Shintaro Kondo, Masaki Honda. Analysis of alveolar bone loss and molar occlusal angle in Japanese macaques(2021年3月28日) 第126回 日本解剖学会総会・全国学術集会(名古屋).
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する

加藤 彰子 , 内藤 宗孝

2020年度はニホンザルの乾燥頭蓋骨の観察を通して上顎大臼歯部に独特の裂開状または開窓状の歯槽骨吸収像が存在することに注目し、これら歯周病の所見の一つである歯槽骨吸収像と咬合機能との関係を調査した。具体的には、試料を歯科用コーンビームCT(CBCT)で撮像し,CBCT画像を用いてニホンザル18個体の上下顎第1(M1),第2(M2),第3(M3)大臼歯における近遠心方向及び頬舌側方向の歯槽骨吸収程度を評価した結果,上顎M1では89%の個体,上顎M2では61%の個体で,近心頬側歯槽骨のみ限局的に根尖全体が露出していた。また,咬合機能の指標として「咬合面傾斜角度」(咬合面と頬側咬頭の舌側斜面との角度)の評価を行った。咬合面傾斜角度は,上顎M1で最も大きく(29.6度),次いでM2(25.9度),M3(21.9度)であった。これまでに、大きな咬頭傾斜は歯の側方移動を引き起こすという報告があることから、本研究で調査したニホンザルにみられた大臼歯の頬側の歯槽骨吸収は、咬合時に歯が側方へ移動し頬側の歯周組織に障害が引き起こされた状態、つまり咬合性外傷が生じている状態であるのではないかと推測された。


R2-B57
代:Surdensteeve Peter
協:Noor Haliza Hasan
"Intestinal protozoa infecting primates in the Lower Kinabatangan Wildlife Sanctuary, Malaysia"
"Intestinal protozoa infecting primates in the Lower Kinabatangan Wildlife Sanctuary, Malaysia"

Surdensteeve Peter , Noor Haliza Hasan

This project was cancelled because of COVID-19.


R2-B58
代:添野 雄一
協:中村 千晶
協:佐藤 かおり
協:川本 沙也華
協:田谷 雄二
協:工藤 朝雄
オランウータン口腔粘膜の病理学的解析
オランウータン口腔粘膜の病理学的解析

添野 雄一 , 中村 千晶, 佐藤 かおり, 川本 沙也華, 田谷 雄二, 工藤 朝雄

本研究は、国内の動物園でオランウータンの死亡例があった際、粘膜組織および主要臓器の部分試料を得て行うもので、死亡例が無い期間では、各地の動物園における飼育個体の健康状態について情報収集を続けている。しかし、令和2年度では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策のため、代表研究者らは所属大学の行動指針に従って他県への移動ができず、また動物園も外部からの立ち入りを制限していたために訪問作業を実施することができなかった。その旨は対応者の先生にメールにて報告している。一方、本研究課題で計画している病理組織所見のデータベース化と比較解析の基盤構築については、これまでに得ている標本データを利用してデータ格納様式の方向性を決めることができた。


R2-B59
代:落合 知美
協:川出 比香里
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

落合 知美 , 川出 比香里

学会発表
落合知美 チンパンジー放飼場への植樹とその広がり(2020.12.4-6) 第36回日本霊長類学会(オンライン開催).

 2014年から2016年にかけて宇部市ときわ動物園で実施したサル類の給餌内容の変更を論文としてまとめるため、飼育現場で得られた情報を整理し、科学的・定量的な評価を試みてきた。今年度は、トクモンキーの採食エンリッチメントについて、観察記録や体重変動についてのデータから得られた結果を図や表としてまとめ、論文化する作業をおこなった。メールでのやり取りやZOOM会議により、目的部分の文章はほぼ完成した。しかし、感染症の拡大により動物園の運営体制が変わり対応に追われたこと、予定していた実際に顔を合わせての打ち合わせができなくなったことから、結果や考察についてまとめる作業ができなかった。学会発表もオンラインとなり、貴重な意見をいただくことができた。しかし、それらの内容を論文へ反映させるまでには至らなかった。



R2-B60
代:村田 幸久
協:中村 達朗
協:小林 幸司
協:永田 奈々恵
コモンマーモセットにおける消耗性症候群の診断と管理法の開発
コモンマーモセットにおける消耗性症候群の診断と管理法の開発

村田 幸久 , 中村 達朗

昨年度までに正常便のマーモセットおよびMarmoset Wasting Syndrome (MWS)が疑われたマーモセットの尿について排泄された脂質濃度の網羅的解析(リピドーム解析)を行った。この結果について論文にまとめ、出版した (Yamazaki et al 2020, PLOS ONE, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0234634)。
本年度は新型コロナウイルス感染症の影響で実験できなかったため、研究費は全額返還した。



R2-B61
代:井上 治久
協:沖田 圭介
協:今村 恵子
協:近藤 孝之
協:月田 香代子
協:Suong Dang
協:大貫 茉里
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

論文
松島早希,今村恵子,井上治久(2021) 脳オルガノイドによるマイ・メディシン 医学のあゆみ 272(6(印刷中)).
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上 治久 , 沖田 圭介, 今村 恵子, 近藤 孝之, 月田 香代子, Suong Dang, 大貫 茉里

 本研究課題では、ヒト特有の高次機能をもたらす分子機構とその破綻こそがアルツハイマー病等の神経変性疾患の原因であるという仮説のもとに、チンパンジーとヒトの脳神経系細胞の違いを同定するため、チンパンジーおよびヒトのiPS細胞から作製した脳神経系細胞の比較解析を目的としている。
 これまで、ヒトiPS細胞およびチンパンジーiPS細胞から二次元培養により神経細胞を分化誘導し、免疫染色による神経細胞マーカーの解析を行った。また、三次元培養による脳オルガノイドの作製を行った。平面微小電極アレイ計測システム(MED64-Basic、Alpha Med Scientific)を用いた神経活動の評価を行なった。
 これらの神経系細胞を用いたモデルの比較解析により霊長類神経系の機能解明とヒト疾患解析への応用が有用である可能性が考えられた。



R2-B62
代:長谷 和徳
協:吉田 真
協:羽賀 雄海
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発
R2-B63
代:鈴木 郁夫
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索

論文
Elisa De Franco, Maria Lytrivi, Hazem Ibrahim, Hossam Montaser, Matthew N Wakeling, Federica Fantuzzi, Kashyap Patel, Céline Demarez, Ying Cai, Mariana Igoillo-Esteve, Cristina Cosentino, Väinö Lithovius, Helena Vihinen, Eija Jokitalo, Thomas W Laver, Matthew B Johnson, Toshiaki Sawatani, Hadis Shakeri, Nathalie Pachera, Belma Haliloglu, Mehmet Nuri Ozbek, Edip Unal, Ruken Yıldırım, Tushar Godbole, Melek Yildiz, Banu Aydin, Angeline Bilheu, Ikuo K. Suzuki, Sarah E Flanagan, Pierre Vanderhaeghen, Valérie Senée, Cécile Julier, Piero Marchetti, Decio L Eizirik, Sian Ellard, Jonna Saarimäki-Vire, Timo Otonkoski, Miriam Cnop, Andrew T Hattersley(2020) YIPF5 mutations cause neonatal diabetes and microcephaly through endoplasmic reticulum stress Journal of Clinical Investigation 130(2):6338-6353.

学会発表
Ikuo K. Suzuki 脳発達から人間性の起原を探る(2020.09.01) 第22回日本進化学会(オンラインミーティング(沖縄)).

鈴木郁夫 早期ライフステージにおけるヒト固有大脳皮質発生プログラムの解明(2020.12.11) 革新的先端研究開発支援事業 早期ライフ領域キックオフ会議(オンラインミーティング(東京)).

鈴木郁夫 ヒト固有NOTCH2NL遺伝子による脳発達の揺らぎと脳進化方向性の研究(2020.12.15) 第八回新学術領域研究「進化の制約と方向性」領域会議 (オンラインミーティング(東京)).
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索

鈴木 郁夫

本研究はヒト大脳皮質発生における種固有の特徴を明らかにすることを目的としている。その目的のために、ヒトES細胞とチンパンジーiPS細胞をそれぞれ培養条件下において大脳皮質へと分化誘導し、ヒト固有の大脳皮質発生ダイナミクスを明らかにすることを計画している。2020年1月に共同研究提案が採択され、同月霊長類研究所にて樹立されたチンパンジーiPS細胞2株を供与していただいた。その後、申請者の実験環境においても順調に維持培養を行うことが可能であることを確認し、拡大培養の後に凍結ストックを作成した。加えて、大脳皮質への分化誘導実験を3回行い、いずれも分化誘導開始後25日の段階で良好な神経幹細胞を得ることができた。現在、これらのチンパンジーiPS細胞由来大脳皮質細胞の凍結ストックを作成し、今後の実験解析に備えているところである。


R2-B64
代:平田 暁大
協:酒井 洋樹
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

平田 暁大 , 酒井 洋樹

飼育下でサル類に発生する疾患およびその病態を把握するため、霊長類研究所で死亡あるいは安楽殺したサル類(ニホンザル、コモンマーモセット他)を病理組織学的に解析した。
 平成29年度からの継続研究であるが、今年度、特筆すべき症例としてニホンザルのリンパ腫の症例があげられる。ヒトあるいはイヌやネコといった愛玩動物と違い、サル類では生前に疾患がみつけられることは少なく、生存時の臨床データを収集することや、治療を行うことは難しく、診断法や治療法の確立を困難にしている。今回、呼吸器症状を示して治療対象となったニホンザルの頚部において腫瘤を発見し、外科的に摘出した腫瘤を組織学的および免疫組織学的に解析し、「T細胞性リンパ腫」と確定診断した(添付画像ファイル参照)。この症例は、詳細な臨床データ(血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査等)を採取した後、治療を行なったものの、状態が悪化し、人道的観点から安楽殺され、剖検を行った。現在、解析を進めており、同研究所の獣医師(教員、技術職員)と臨床病理検討会(CPC、Clinico-pathological conference)を行った後、学会発表、論文発表を行う予定である。



R2-B65
代:郷 康広
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

論文
Autio JA, Glasser MF, Ose T, Donahue CJ, Bastiani M, Ohno M, Kawabata Y, Urushibata Y, Murata K, Nishigori K, Yamaguchi M, Hori Y, Yoshida A, Go Y, Coalson TS, Jbabdi S, Sotiropoulos SN, Kennedy H, Smith S, Van Essen DC, Hayashi T. (2020) Towards HCP-Style macaque connectomes: 24-Channel 3T multi-array coil, MRI sequences and preprocessing. Neuroimage 215:116800.

Hori K, Yamashiro K, Nagai T, Shan W, Egusa SF, Shimaoka K, Kuniishi H, Sekiguchi M, Go Y, Tatsumoto S, Yamada M, Shiraishi R, Kanno K, Miyashita S, Sakamoto A, Abe M, Sakimura K, Sone M, Sohya K, Kunugi H, Wada K, Yamada M, Yamada K, Hoshino M.(2020) AUTS2 regulation of synapses for proper synaptic inputs and social communication. iScience 23: 101183.

Ishishita S, Tatsumoto S, Kinoshita K, Nunome M, Suzuki T, Go Y, Matsuda Y. (2020) Transcriptome analysis revealed misregulated gene expression in blastoderms of interspecific chicken and Japanese quail F1 hybrids. PLoS One. 15: e0240183.

Hiraga K, Inoue YU, Asami J, Hotta M, Morimoto Y, Tatsumoto S, Hoshino M, Go Y, Inoue T.(2020) Redundant type II cadherins define neuroepithelial cell states for cytoarchitectonic robustness. Commun Biol. 3: 574.

Kishida T, Toda M, Go Y, Tatsumoto S, Sasai T, Hikida T. (2021) Population history and genomic admixture of sea snakes of the genus Laticauda in the West Pacific. Mol Phylogenet Evol. in press.

Labuguen R, Matsumoto J, Negrete S, Nishimaru H, Nishijo H, Takada M, Go Y, Inoue K, Shibata T.(2021) MacaquePose: A novel ‘in the wild’ macaque monkey pose dataset for markerless motion capture Frontiers in Behavioral Neuroscience in press.
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

郷 康広

ヒト精神・神経疾患の霊長類モデル動物の開発のために,マカクザルとマーモセットを対象とした実験的認知ゲノミクス研究を行った.令和2年度は霊長類研究所において実施される健康診断時に行われる採血の機会を利用し,マカクザル257個体(ニホンザル184個体,アカゲザル73個体)の血液試料のサンプリングを行った.サンプリングした血液からDNAを抽出し,次世代シーケンス解析用のライブラリ作成を全サンプルに対して行った.ヒト精神・神経疾患関連遺伝子(503遺伝子)を解析対象とし,257個体における遺伝子機能喪失(Loss-of-Function:以下LoF)変異保有個体の同定を行った.その結果,精神・神経疾患との関連が強く示唆されている10遺伝子(APBB2, APOL4, APP, ATXN2, CC2D1A, CHAT, COQ2, DRD4, GIGYF2, HFE),36個体において稀な(集団アリル頻度5%以下)LoF変異を持つ可能性のある個体を同定した.


R2-B66
代:小嶋 匠
狭鼻猿類における蝸牛形態変異と頭サイズの関連
狭鼻猿類における蝸牛形態変異と頭サイズの関連

小嶋 匠

霊長類において、聴覚器官である蝸牛のサイズは体サイズに対し負のアロメトリーの関係をもつ。一方で現生・化石人類では、ヒト以外の狭鼻猿類が示す蝸牛と体サイズのアロメトリー傾向から逸脱し、蝸牛長と卵円窓面積が想定されるよりも大きいことが報告されている。この説明として、ヒト系統における脳の大型化が原因であるという仮説があるが、脳サイズと蝸牛形態の関係に関する定量的研究はない。また、蝸牛が収められている頭蓋骨における、脳サイズ以外の特徴が蝸牛形態に与える影響も不明である。そこで本研究では、ヒトでは相対に大きな値を示す蝸牛長と卵円窓面積が、頭蓋骨のサイズ変数である頭蓋腔容量、頭部重心サイズ、両耳間距離のいずれにより最もよく説明されるのかを現生ヒト上科霊長類において検証した。蝸牛及び頭蓋骨のサイズ変数の計測には、X線コンピューター断層データから得られた三次元モデルを用いた。その結果、頭蓋腔容量が相対蝸牛外周長(蝸牛の1巻きあたりの平均外周長)と最も強い相関を示し、体サイズよりも脳サイズのほうが、相対蝸牛外周長についてのより良い予測因子であることが明らかになった。このことから、ヒトが体サイズと比較して大きな相対蝸牛外周長をもつことは脳の大型化によるものである可能性が示唆された。


R2-B67
代:小林 俊寛
協:平林 真澄
協:正木 英樹
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価

小林 俊寛 , 平林 真澄, 正木 英樹

胚発生初期に生じる始原生殖細胞 (Primordial germ cells: PGC) はすべての生殖系列の源である。生殖細胞が生じると考えられる妊娠初期のヒト胚は倫理的・実際的に直接解析することが困難であるため、これまで多くの研究がマウスの胚を用いて進められてきた。しかしながら、近年、PGC の発生機構にはマウスとヒトで差異があることが判ってきており、よりヒトに近いモデルを用いてそのメカニズムを明らかにすることが、その理解に重要であると考えられる。そこで本研究では、ヒトに最近縁の霊長類であるチンパンジー由来の iPS 細胞を用いて、PGC が生じる過程を in vitro で再構築し、その成熟化、あるいは配偶子形成能を評価することのできる系の確立を目指してきた。前年までの共同研究において、所内対応者の今村公紀先生から分与いただいたチンパンジー iPS 細胞から PGC を分化誘導することに成功し、そのトランスクリプトームは先行研究にあるヒトの PGC と極めて近いことが明らかになった。本年度は、汎用な実験動物をレシピエントとして、移植によりその動物の体内で配偶子 (精子・卵子) を作れるかを検証するための実験系の構築を行った。まずドナーとなるチンパンジー iPS 細胞は、移植後の動態を追跡するため、全身で mClover2 を発現するようなプラスミドを導入した。またレシピエントには、生殖細胞を完全に欠損する Prdm14 KO ラットの新生児を用い、その精細管への細胞移植系を確立した。特に同種であるラットの PGC をドナーとした場合、ドナー由来の精子形成を観察することができたことから、チンパンジー iPS 細胞由来の PGC を評価する実験系として利用できることが期待される。


R2-B68
代:栗田 博之
ニホンザルにおける母親の栄養状態と乳児の成長との関連性について
ニホンザルにおける母親の栄養状態と乳児の成長との関連性について

栗田 博之

当初計画では、霊長類研究所にて、乳児と母親の生体計測を麻酔下で実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、動物実験を中止し、大分市高崎山自然動物園にて餌付けされているニホンザル群における乳児の体重測定と母親の体重及び体長の測定に、研究費を充てさせていただいた。
 具体的には、高崎山ニホンザルB群及びC群を対象として、2020年6月から8月までの間に出生した11個体(オス:4個体;メス:7個体)の体重を、捕獲せずに上皿自動秤に載せる方法によって縦断的に測定した。それによって得られた体重値に基づき、Kurita et al. (2012, Anthropol. Sci., 120(1), 33-38)の方法によって「離乳時体重」と定義する180日齢時体重を算出した。また、母親の栄養状態を評価するために、2020年9月に写真計測法(Kurita et al., 2012, Primates, 53, 7-11)によって母親の頭臀長を測定(厳密にはこの時には撮影のみ)し、同年10月に上皿自動秤を用いて母親の体重を測定した。
 上記の方法によって得られた180日齢時体重は、11個体の平均値が 1,327 g であり、範囲は 1,050~1,600 g であった。母親の10月時体重は、平均値が 8,394 g であり、範囲は 7,570~9,400 g であった。なお、母親の頭臀長については、今後、撮影したデジタル写真データをパソコンに取り込み、Image Jを用いて算出する予定である。また、母親の栄養状態については、将来的に、体重と頭臀長から算出される体格指数を考案し、それによる評価を行う予定である。



R2-B69
代:金子 新
協:塩田 達雄
協:中山 英美
協:三浦 智行
協:入口 翔一
協:岩本 芳浩
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究

論文
Yoshihiro Iwamoto, Yohei Seki, Kahoru Taya, Masahiro Tanaka, Shoichi Iriguchi, Yasuyuki Miyake, Emi E. Nakayama, Tomoyuki Miura, Tatsuo Shioda, Hirofumi Akari, Akifumi Takaori-Kondo, and Shin Kaneko(投稿中) Generation of macrophages with altered viral sensitivity from genome-edited rhesus macaque iPSCs to model human disease. 謝辞あり

学会発表
岩本芳浩、 関洋平、 鷲崎彩夏、田中正宏、 入口翔一、 田谷かほる、 三宅康行、 中山英美、 三浦智行、 塩田達雄、 明里宏文、 高折晃史、金子新 遺伝子改変iPSC由来血液細胞の評価のためのアカゲザルモデルの作成(2020年9月12日) 第12回 日本血液疾患免疫療法学会学術集会(大阪).
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究

金子 新 , 塩田 達雄, 中山 英美, 三浦 智行, 入口 翔一, 岩本 芳浩

前年度までに報告していたアカゲザル由来iPS細胞に対して、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集の系を確立した。アカゲザルiPS細胞のゲノム編集は非常に効率が悪いが、条件検討を繰り返しゲノム編集の効率が改善した。最適化したCRISPR/Cas9システムを用いてSHIVに対する感染防御能を付与する目的にSHIVの感染受容体であるCCR5をターゲットとしてアカゲザル由来iPS細胞のゲノム編集を行ったところ、CCR5 homo ノックアウト株を30%と効率よく作成できた。CCR5ノックアウトiPS細胞株(ΔCCR5 iPS細胞)は元株とほぼ同様の造血前駆細胞・CD4CD8共陽性T細胞・マクロファージへの分化誘導能を有していた。
さらに、ΔCCR5 iPS細胞から分化誘導したマクロファージ(ΔCCR5 iMac)にSHIV感染抵抗性が生じるか否かをin vitroで評価したところ、元株と比較してΔCCR5 iMac に対するSHIVの感染効率の低下を認めた。
一頭のSHIV感染アカゲザルに対してΔCCR5 iPS細胞由来造血前駆細胞の自家移植を行い、iPS細胞由来造血前駆細胞の生着と免疫再構築の評価に加え、SHIV感染の推移をモニタリングしており、次年度も評価を続ける予定である。



R2-B70
代:森光 由樹
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

森光 由樹

兵庫県内のニホンザルの地域個体群は,美方(1群),城崎(1群),大河内・生野(4群),船越山(1群),篠山(5群)の5つに分けられている。それぞれの地域個体群は孤立している。特に絶滅が危惧されている地域個体群は,美方と城崎の群れで,2020年のカウント調査では,美方B群は15頭(成獣メス4頭),城崎A群30頭(成獣メス9頭)と個体数が少ない状況にある。上記5つの地域個体群のミトコンドリアDNA(以下,mtDNA)コントロール領域(412bp)の分析では,それぞれ地域個体群間で異なるハプロタイプが6タイプ検出されている(森光&鈴木2013)。地域個体群内の群れでmtDNAに違いがあるのか,より詳細を調べるためmtDNAコントロール領域全域(1008bp)の分析を行った。兵庫県に生息している12群の成獣メスをそれぞれ1頭,学術捕獲し血液を採取し分析を行った(n=12)。その結果,計8タイプが検出された。篠山で1つ,大河内・生野で1つ異なったハプロタイプが新たに検出された。今後は,今回の結果から作成した,兵庫県mtDNAハプロタイプの地理的分布図を用いて,オスの群れ間の移動について分析を進める予定でいる。


R2-B71
代:柏木 健司
協:堀 真子
奈良県天川村洞川地区の鍾乳洞産二ホンザル化石の形質解析と年代
奈良県天川村洞川地区の鍾乳洞産二ホンザル化石の形質解析と年代

柏木 健司 , 堀 真子

申請者は現在、洞窟産のニホンザル化石を含む哺乳類化石について、古生物学的研究を進めている。2019年度にその事前の予察調査として、奈良県天川村洞川地区で調査を実施し、既存の竪穴の確認に加え、今後の調査を進める計画立案を進めた。2020年度前半は、奈良県天川村洞川地区を含む紀伊半島中央部エリアについて、既存文献による洞窟データの整理を行い、現地調査の準備を進めたものの、新型コロナの流行に関連して、現地調査の実施には至らなかった。


R2-B72
代:佐々木 えりか
協:篠原 晴香
協:黒滝 陽子
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立

佐々木 えりか , 篠原 晴香, 黒滝 陽子

絶滅危惧種に指定されているワタボウシタマリン(タマリン)の種の保全のため、我々がコモンマーモセットで用いている生殖工学技術を転用し基盤技術開発を行ってきた。しかし、使用しているタマリンの高齢化、個体の他施設への分与の決定により今までのように実験を続けることが困難となった。そこで京都大学霊長類研究所に保存されている、凍結細胞を用いて個体復元技術を開発するためにiPS細胞を樹立する。その後、卵子へ分化誘導、凍結精子との受精を経て個体作出を目指したい。この技術が確立されれば、国内のワタボウシタマリンの保全につながり更に、他の絶滅危惧種の霊長類の保全へも貢献できる。
 本研究ではまずはじめに、以前の共同利用により分与いただいた、タマリン皮膚由来線維芽細胞を用いて、予備検討を実施した。マーモセットiPS細胞樹立条件(Watanabe et al.,2019)と同じ条件にてタマリンiPS細胞の樹立を試みた。7日間連続の初期化因子トランスフェクション後、フィーダー細胞上に細胞を播種した。通常であれば数日間でコロニーが出現するが、この実験ではコロニーを確認することができなかった(図1a)。このことから、マーモセットの条件よりもさらに初期化を促す因子が必要である可能性が示唆された。また、タマリンが高齢であることも樹立できなかった要因の一つであると考えられる。
 次に、今回の共同利用で分与いただいた細胞のうち、皮膚・耳・筋肉由来線維芽細胞3種類についてiPS細胞樹立実験の前に、細胞の正常性を確認するため、核型解析を実施した。
タマリンの正常2倍体染色体数は、46本でマーモセットやヒトと同じである。皮膚・耳由来線維芽細胞では、46,XYの正常核型を示した(図2a)。一方筋肉由来線維芽細胞では、46,X,+13となり、Y染色体が無く13番染色体がトリソミーを示した(図2b)。皮膚と耳の細胞では正常核型を示していることから、So152Mの個体特有の染色体異常ではなく、培養により生じた異常であると考えられる。



R2-B73
代:筒井 健夫
協:鳥居 大祐
協:深田 哲也
協:那須 優則
協:小林 朋子
再生医療応用のためマカク乳歯歯髄幹細胞の細胞特性解析
再生医療応用のためマカク乳歯歯髄幹細胞の細胞特性解析

筒井 健夫 , 鳥居 大祐, 深田 哲也, 那須 優則, 小林 朋子

令和2年度は、コラーゲンゲル上で三次元培養した乳歯歯髄細胞を移植した歯牙について解析を行った。移植細胞は乳切歯より採取し、初代培養後に三次元構築体を作製しニホンザル3例に対して、採取された細胞と同一個体へ移植を行った。約10ヶ月間後に移植された歯牙を抜歯し、軟エックス線およびマイクロCT解析を行った。軟エックス線撮影像からは、歯髄内にエックス線不透過像が観察され、細胞移植後にエックス線不透過物が産生されたことが示唆された。移植時に三次元構築体を付着した根管口部位において不透過像が強く観察された。また、内部吸収像は観察されず、細胞移植による病的組織像は観察されなかった。マイクロCT解析では、歯髄内に硬度の異なる硬組織形成が確認された。軟エックス線撮影像においてエックス線不透過像が確認された根管口部位では、顕著に高密度の硬組織形成物が根管口を覆うように確認された。令和3年度は細胞採取、継時的な細胞移植および移植組織の組織学的検査を計画しており、移植組織の歯髄組織の再生状態および硬組織形成について解析を行う。


R2-B74
代:設樂 哲弥
協:中野 良彦
ヒト上科を対象とする後肢筋の筋線維型の分布の比較
ヒト上科を対象とする後肢筋の筋線維型の分布の比較

設樂 哲弥 , 中野 良彦

ヒトの二足歩行への身体適応の一つとして、骨盤形態の変化に伴う殿筋と大腿部後面の筋の機能変化及び機能分化に古くから関心が寄せられてきた。しかし、実際の筋の走行と関節中心との関係に基づいて、歩行時における筋の機能を論じた研究は少ない。本年度の本研究では、歩行時における股関節周囲筋の機能を明らかにするために、ニホンザルとシロテテナガザルの液浸標本各三個体を用いて、筋骨格系モデルを作成し、筋のモーメントアーム長を計測することを目的とした。モデルの作成に先立って、各筋の支配神経、筋の形態、走行、構築を観察した。 三次元形態計測装置Micro Scribe Mを用いて、筋の起始点・停止点および骨のランドマークの空間における三次元座標を取得し、筋骨格系モデルを作成した。本年度作成したニホンザルとシロテテナガザルの股関節周囲筋の筋配置モデルを用いて、来年度は実験的に二足歩行及び四足歩行のキネマティクスを計測し、実際の歩行を筋配置モデルで再現した際の各筋のモーメントアームの経時的変化を明らかにすることを目標とする。


R2-B75
代:後藤 遼佑
協:設樂 哲弥
ニシゴリラが行うぶら下がり行動の観察
ニシゴリラが行うぶら下がり行動の観察

後藤 遼佑 , 設樂 哲弥

ニシゴリラのオトナオス (20歳)とコドモオス (9歳) が行うぶら下がり行動を観察した。特に180 kg (オトナオス) と50 kg (コドモオス) の身体サイズバリエーションがアームスイング頻度等に与える影響に注目した。【結果1】 身体サイズがアームスイングの連続性と生起頻度に影響した。オトナオスにおいて1ステップのみのアームスイングは観察されたものの、連続的なぶら下がりロコモーションは観察されなかった。一方、コドモオスでは頻繁な連続的アームスイングが観察された。個体差と発達的影響は排除できないが、アームスイングの連続性と生起頻度には身体サイズが影響すると考えられた。【結果2】 懸垂中の採食姿勢にも身体サイズが影響した。採食を伴うオトナオスの懸垂行動では、ぶら下がりに使う片側前肢に加え、左右どちらかの後肢で周囲にある支持物を把持し、最低2点で身体を支えた。コドモオスは片側前肢だけでぶら下がりながら採食した。【結果3】 コドモオスのアームスイングは、単肢支持期における前進と二重支持期における後退を伴う周期運動であった (図1)。スイング期にある前肢が (図1写真1) 頭上の支持基体に到達して二重支持期となると (図1写真2)、恐らく重力の影響により、振り子様に身体が後方に振れ始めた。二重支持期の終期に、完全に伸展されたトレイリング前肢 (前方の腕) によって後方への振子運動が制動され (図1写真3)、身体の運動が前方への振子運動に切り替わった。それとほぼ同時にリーディング前肢 (後方の腕) が支持基体からリリースされて単肢支持期となり、身体全体が前進した (図1写真4)。テナガザルやクモザルのブラキエーションではゴリラほど顕著な後方への振子運動は観察されない。これらの結果から、真ブラキエーターが行う連続的かつ円滑なぶら下がり型ロコモーションの進化には、身体の後退を伴わずに継続的に前進するメカニズムが要求されると考えられた。


R2-B76
代:Mukesh Chalise
Study on phylogeography of highland macaques and langurs in Nepal
Study on phylogeography of highland macaques and langurs in Nepal

Mukesh Chalise

Due to the pandemic of Covid-19, I could not visit the Primate Research Institute, Kyoto University, so I could not carry out the planned experiment for phylogeography of Nepal Assamese macaques. Therefore, we had a meeting by email with Dr. Tanaka, the corresponding researcher, about the further sampling and experiment for phylogeography of Assamese macaques, and the application for Cooperative Research Program in 2021.


R2-B77
代:河野 礼子
類人猿の上腕骨サイズと歯牙サイズの対応関係の検討
類人猿の上腕骨サイズと歯牙サイズの対応関係の検討

河野 礼子

ミャンマー調査で発見された大型類人猿の上腕骨遠位部化石の分析の一環で、現生類人猿の上腕骨サイズと歯牙サイズの対応関係の検討を進める予定であったが、コロナウィルス感染症の影響により霊長類研究所を訪問することが難しい時期が多く、想定通りの作業は行うことができなかった。そこで所内対応者および共同研究者らとはメール連絡などをしつつ、上腕骨化石の分析に関連して実施可能な作業をいくつか進めていった。具体的には9月に霊長類研究所を短時間訪問して研究方法等に関する相談を実施し、取得済みのデータについての確認をおこなった。2月には兵庫の放射光施設SPring8にて上腕骨化石の高精度X線CT撮影を試行した。また3月には上腕骨形状の比較分析手法として相同モデルの利用について検討を進めた。


R2-B78
代:伊藤 孝司
協:北川 裕之
協:月本 準
協:桐山 慧
協:篠田 知果
協:佐々井 優弥
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

伊藤 孝司 , 北川 裕之, 月本 準, 桐山 慧, 篠田 知果, 佐々井 優弥

霊長類研究所(大石、宮部、金子ら)との共同で、徳島大(伊藤ら)は、ニホンザル若桜集団の中に、リソソーム酵素α-L-イズロニダー(IDUA)遺伝子における1塩基置換(ミスセンス潜性変異)が原因で、IDUA活性欠損と特徴的な顔貌、心弁膜症等を伴うムコ多糖症I型(MPS1)(ライソゾーム蓄積症)を自然発症した3個体を見い出してきた。2020年度は、徳島大(伊藤、篠田、佐々井ら)が、糖鎖転移活性をもつエンドグリコシダーゼEndo-MやEndo-CC改変体を利用し、ヒトIDUAを絹糸腺で高発現する組換えカイコの繭から精製したIDUAの付加糖鎖を、組織細胞内への取り込みに必要な末端マンノース6-リン酸(M6P)含有合成糖鎖または鶏卵黄由来末端シアル酸含有二分岐型糖鎖(SG)と挿げ換えたネオグライコIDUAを作製した。これらの糖鎖改変IDUAは、MPS1ニホンザル個体(♀20160521生)皮膚由来線維芽細胞内に取り込まれ、リソソームまで輸送されることを明らかにした。またコロナ禍のため遅延した本個体へのネオグライコIDUAの静脈内定期継続投与実験に先立ち、個別飼育室に移し、関節可動域、心エコー等の検査を実施した。また糖鎖非修飾型IDUAを約50mg精製するとともに、野生型マウスへの皮下投与(0.58 mg/kg体重、毎週1回、計4回)を行い、体重減少や行動異常が無いことを確認した。


R2-B79
代:浅川 満彦
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

論文
石島栄香, 清野紘典, 藏元武藏, 海老原 寛, 岡本宗裕, 浅川満彦(2021) 徳島県および福井県で捕獲されたニホンザルMacaca fuscataの寄生蠕虫類の保有状況 酪農大紀, 自然 45:印刷中. 謝辞あり

浅川満彦(2020) 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった近畿・中国・四国地方における研究活動概要 青森自誌研(25):77-82. 謝辞あり

Kakiuchi, K., Asakawa, M.(共同筆頭), Ishiniwa, H., Tamaoki, M. and Onuma, M.(2021) Temporal change in the parasite fauna of the large Japanese field mouse Apodemus speciosus in the radioactive contaminated zone of Fukushima. Jpn. J. Zoo Wildl Med. 26(1):1-5. 謝辞あり

学会発表
浅川満彦 飼育哺乳類で新たに検出された寄生虫2種のエキゾチック動物医療における意義-2019年刊公表結果の概要紹介(2020年3月20日開催の予定であったが、コロナ禍のため同年10月25日に延期、直前中止) 日本獣医エキゾチック動物学会症例検討会2020(東京).
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

浅川 満彦

①ときわ動物園:2020年9月、四国地方と瀬戸内海を挟んで対面の山口県に所在するときわ動物園内のサル類飼育施を視察し、同園の宮下 実園長(今回添付した画像参照)および専任獣医師・飼育担当の方々と打ち合わせをした。その結果、目的であったニホンザルのほか、国内では当該園でのみ飼育されるハヌマンラングール(今回添付した画像参照)等の飼育個体の糞便材料をお送り頂くことになった。当該園としては健康管理面で有益であるとのことであった。やはり、息の長い研究は双方にとってプラスであることが再確認された。不幸にして落命した個体の剖検で寄生虫が得られる場合、その寄生虫の同定依頼もお約束頂いた。
②徳島県および福井県:四国地方・徳島県個体については、(株)野生動物保護管理事務所(以下、WMO)で有害捕獲されたサンプルを頂いた。比較材料として福井県の個体が次の報告が印刷中である;石島栄香, 清野紘典, 藏元武藏, 海老原 寛, 岡本宗裕, 浅川満彦. 2021. 徳島県および福井県で捕獲されたニホンザルMacaca fuscataの寄生蠕虫類の保有状況. 酪農大紀, 自然, 45: 印刷中。また、この刊行に先駆け、次の総説で一部データを紹介した;浅川満彦. 2020. 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった近畿・中国・四国地方における研究活動概要. 青森自誌研, (25): 77-82.なお、以上、2編の論文では、その謝辞に本研究助成について明記している。
③滋賀県:四国および北陸の報告の継続として、現在、近畿地方について調査を進行中である。WMOから滋賀県の有害捕獲個体(申請数計30個体)が送付されることになった。そのため、2021年度の申請にはこれも追加した。
④COVID-19による学会研究発表の中止:2019年(B-8)ので公表した飼育サル類の高病原性円虫類による症例について、次の学会で報告を予定した;浅川満彦. 飼育哺乳類で新たに検出された寄生虫2種のエキゾチック動物医療における意義-2019年刊公表結果の概要紹介. 日本獣医エキゾチック動物学会症例検討会2020, 東京。これは今年3月20日予定であったが、10月25日に延期されたが、結局中止。



R2-C1
代:木村 賛
ナチョラピテクス化石研究の比較資料としての霊長類下腿骨調査

学会発表
木村賛、菊池泰弘、清水大輔、高野智、辻川寛、荻原直道、中野良彦、石田英實 ケニア産中新世ホミノイドNacholapithecus kerioi下腿骨の特徴予報(2020年12月6日) 第36回日本霊長類学会大会(中部大学(オンライン)).
ナチョラピテクス化石研究の比較資料としての霊長類下腿骨調査

木村 賛

北部ケニア・ナチョラで発見された中新世化石ホミノイドであるナチョラピテクスの下腿骨については2つの報告がある。しかし、大きな化石集団であるナチョラピテクスにはほかにも未報告の下腿骨が見つかっている。これらの化石の特徴を検討するための比較資料として、現生霊長類下腿骨の形態を調べた。本年度はホミノイドを中心として研究所所蔵の約18種55体の霊長類下腿骨を観察・計測した。これまでに霊長類研究所ならびに国内外の研究施設で調べたものと合わせ、骨格77種256個体の霊長類(ヒトを含む)の計測値を化石との比較検討に用いた。現生霊長類種をその主なロコモーション様式により分類して分類群ごとの形態特徴を抽出した。ナチョラピテクス下腿骨は弯曲が少なく、筋付着痕が弱く、筋活動が弱かったことを思わせる。足関節の形態は、類人猿や樹上移動運動に特化したサルとは異なり、内かえし・外かえしの少ない関節運動に適応していると見られる。これらの予報的検討は、2020年12月に開かれた第38回日本霊長類学会オンライン大会にて共著者とともに発表した。


R2-C2
代:川合 伸幸
サルの脅威刺激検出に関する研究

学会発表
邱カチン・川合伸幸 自然風景の中のヘビは素早く正確に検出されるのか?-フリッカー変化検出課題を用いたヘビ検出の検討 (2018年9月1日) 2018年度日本認知科学会第35回大会(立命館大学(茨木市)).
サルの脅威刺激検出に関する研究

川合 伸幸

これまでの共同利用研究を通じて、サルはヘビを他の動物よりも早く見つけることを示して来た(Shibasaki & Kawai, 2009; Kawai & Koda, 2016, Kawai, 2019)。ヘビを見たことのないサルがヘビをすばやく検出するということは、サルは生得的にヘビを検出する視覚システムを有していることが示唆される。しかし、これまでは視覚探索課題を用いて脅威対象の検出を評価してきた。視覚探索課題はターゲットへの注意を反映しているのか、背景刺激が注意を惹きつけるのかが不明であるとの批判がある。そこで、霊長類で初めてフリッカー課題を用いて、脅威の対象を早く検出できるかの予備的検討を行った。フリッカー課題とは、画像の一部(ターゲット)だけが異なる相似の画像をブランクを挟んで繰り返し提示し、異なる箇所をどれだけ早く正確に検出できるかを調べる手法である。
 R2年度はコロナウィルスのため実験が中断し、また諸般の事情で研究が9月末までしか実施できなかったために、初期訓練を遂行するにとどまった。2頭のサルが、フリッカー課題で、背景と異なるターゲットを検出することを習得した。ただし、まだターゲットは非常に大きく、実際に自然画像や脅威対象の動物を提示するには、さらにターゲットを小さくし、また背景画像として自然画像を用いるなど、さらなる訓練が必要である。



R2-C3
代:坂巻 哲也
野生ボノボの人口動態と集団サイズの研究
野生ボノボの人口動態と集団サイズの研究

坂巻 哲也

申請者は現在、ボノボのエコツーリズム開発プロジェクトのため、コンゴ民主共和国を本拠地とし、当国のロマコ森林の調査に従事している。2020年中に日本へ一時帰国した際に、霊長類研究所に数週間ほど滞在し、古市剛史教授の元で管理されているワンバの長期データの整理と分析を行なう計画であった。しかし、本年はCOVID-19のコロナ禍のため、日本への帰国時期は大幅に遅れ、2020年10月に一時帰国したもの、本計画を遂行するスケジュールを組むことができなかった。


R2-C4
代:Emma Kozitzky
The dental phenotype of anthropoid primate hybrids: Evidence from Macaca fuscata x M. cyclopis

論文
Emma Ayres Kozitzky( 2021) The Impact of Hybridization on Upper First Molar Shape in Ro-bust Capuchins (Sapajus nigritus x S. libidinosus) Dental Anthropology Journal 34( 1).

学会発表
Emma Ayres Kozitzky Does Molar Shape Distinguish Robust Capuchin Hybrids (Sapajus nigritus x libidinosus) From Non-Hybrids? A 2D Geometric Morphometric Approach( 2020) American Association of Physical Anthropologists( JW Marriott Los Angeles).

Emma Ayres Kozitzky December 4, 2020( Postcanine tooth shape and morphological integration in hybridizing baboons) New York Consortium in Evolutionary Primatology(City University of New York Graduate Center).
The dental phenotype of anthropoid primate hybrids: Evidence from Macaca fuscata x M. cyclopis

Emma Kozitzky

Because of the COVID-19 pandemic, I was unable to visit Kyoto University to complete any part of the project outlined in my application to work with the Cooperative Research Program. However, I did re-apply to the program and received funding for the project 2021-B-19 "The dental phenotype of anthropoid primate hybrids: Evidence from Macaca fuscata and M. cyclopis" with the help of host researcher Eishi Hirasaki. I will collect photographs, linear measurements, and 3D surface scans of the dentitions of these taxa and their hybrids from November to December of 2021. The data derived from this project will be part of my PhD dissertation, which I aim to complete in the winter of 2022.


R2-C5
代:佐藤 佳
協:伊東 潤平
協:三沢 尚子
協:今野 順介
協:小柳 義夫
ウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究
ウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究

佐藤 佳 , 伊東 潤平, 三沢 尚子, 今野 順介, 小柳 義夫

本年度は、コロナ禍のため、検体授受のための訪問、および、計画した研究の遂行がきわめて難しい状況であった。そのため、公共データベースを用い、ヒトと霊長類の生殖細胞の分化・成熟におけるとランスポゾンとSTFsのバイオインフォマティクス解析を実施した。


R2-C6
代:藤原 摩耶子
協:村山 美穂
種の保存を目的とした野生動物の配偶子保存研究

学会発表
Fujihara M, Inoue-Murayama M. Ovarian tissue cryopreservation for female fertility preservation in wild animals. (October 25, 2020) 13th International Virtual Conference of Asian Society of Conservation Medicine(Online).
種の保存を目的とした野生動物の配偶子保存研究

藤原 摩耶子 , 村山 美穂

2021年1月13日に福岡市動物園で死亡したメスチンパンジー「コナツ」(推定44歳)の卵巣を当研究室に郵送していただき、死後2日目の1月15日に受取り、種の保存のための配偶子保存の研究に供試した。卵巣は一部を組織解析用に固定した後、未成熟卵子のある皮質部を切り出し、凍結保存を実施した。その際、十分な数の卵巣皮質片を回収できたことから、凍結保護剤の異なる2種類のガラス化凍結法と、緩慢凍結法を実施した。一方、成熟した卵子は回収できず、卵子単独での凍結保存の実施は行わなかった。
凍結保存前の卵巣組織の一部は組織固定し、パラフィン包埋をした後、H&E染色を実施して組織観察を行った。その結果、凍結保存を実施した卵巣には複数の未成熟卵子(原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞)が含まれることを確認し(添付写真)、この年齢(推定44歳)でも卵巣に未成熟卵子を有していることを確認できた。しかし、排卵前の成熟卵子(胞状卵胞)は観察されなかったことから、凍結保存を試みた際に回収できなかったように、本個体の卵巣は成熟卵子を持たず、本来は配偶子保存は不可能とされる状態であったと考える。未成熟卵子をターゲットとしている本研究ならば、この年齢のチンパンジーの卵巣からも多数の未成熟卵子の活用が期待できる。一方で、形態的に損傷した卵子(卵胞)も見られたことから、死後2日目には卵子の退行が始まっており、より早く、より良い状態で卵巣の回収と卵子の保存を実施することが望まれる。
回収時に残った卵巣組織の一部はDNA、RNA、タンパク質として保存したため、今後凍結前後の変化について、組織観察と合わせて、分子生物学的解析を実施する予定である。



R2-C7
代:西川 完途
協:原 壮太朗
協:福山 伊吹
協:尾崎 洸太朗
協:沈 彦鵬
小型爬虫両生類の系統分類学
小型爬虫両生類の系統分類学

西川 完途 , 原 壮太朗, 福山 伊吹, 尾崎 洸太朗, 沈 彦鵬

申請者は骨形態を用いることで、爬虫両生類の種や属の見直しをすることを目的としている。分類に使用する爬虫両生類は種や属の証拠となるため、骨格の観察には既存の標本をマイクロCTを用いて非破壊検査をする必要があった。これまでのマイクロCT装置では解像度が足りず、頭骨要素の観察ができなかったが、貴研究所にのマイクロCT装置(写真1)を用いることで頭骨要素の観察が可能になった。今年度はサンショウウオ属、イモリ科、チョボグチガエル属の断層撮影を行った。これらの両生類は、これまで詳細な骨格形態の種間比較の研究が乏しく、現在は属レベルの定義が難しい外部形態の計量形質に頼っている。今回の結果からいくつかの種に特徴のある頭骨要素が確認できた。この形質は種の特徴だけでなく属として定義できる可能性もあるが、観察した個体数が少ないため、種内変異を考慮しながらマイクロCTを続けていく予定である。また、両生類は軟骨も多く保持している脊椎動物である。今回、diceCTの方法(写真2)をご教授いただいたため、これから硬骨だけでなく軟骨の比較も行なっていく予定である。


R2-C8
代:Cantas Alev
Comparative molecular analysis of primate embryonic development using iPSCs
Comparative molecular analysis of primate embryonic development using iPSCs

Cantas Alev

During the last fiscal year (FY2020) collaborative work between the Alev-lab at ASHBi and Imai-lab at the PRI was initiated. Non human primate (NHP) fibroblasts (of different great ape-species) have been provided by Dr. Imai as part of this collaborative interaction to tha Alev-lab. They will be used to generate NHP induced pluripotent stem cells (iPSCs).These NHP iPSCs will be used to establish and analyze in vitro models of primate embryonic development. Despite the ongoing virus pandemic online/virtual meetings between Dr. Imai and Dr. Alev have been continuing. During these meetings active discussions were made in preparation of joint scientific research as well as joint grant applications, includng an application for a Transformative Research Type A grant, which is lead by Dr. Alev. We are confident that the initiated collaborative interactions between both labs will continue to grow in future and contribute to an overall better understanding of human and non-human primate biology.


R2-C9
代:小藪 大輔
原猿類における下顎骨形態の進化生物学的研究
原猿類における下顎骨形態の進化生物学的研究

小藪 大輔

いわゆる原猿類と括られる霊長類はツパイTupaiidae,メガネザルTarsiidae,ロリスLorisidae,キツネザルLemuridae,インドリIndriidae,アイアイDaubentoniidaeの6科を含む、単系統ではない多系統群である。他の霊長類に比して原猿類にみられる下顎形態の特徴は下顎骨の腹尾側に位置するAngular process角突起の突出である。他の哺乳類を見渡すと、この部位はげっ歯類、兎形類、無盲腸類(モグラ類、トガリネズミ類、ハリネズミ類)、翼手類、皮翼類で同様に鋭角に突出することが知られる。他方、真猿類の多くではこの部位は鋭角な突出を見せず、下顎骨の腹尾側に弧を描く。霊長類を含む哺乳類では一般的に、外側方向では咬筋深層、内側方向には内側翼突筋の付着部位となっている。本研究では原猿類を真猿類と比較しながら角突起の喪失的進化の背景の解明を目指している。貴所に導入設置されているブルカー製スカイスキャン・マイクロCT装置を用いて網羅的に撮影を行った。撮像されたデータは三次元再構築ソフトAmira 5.3 を用いてボリュームレンダリング、およびマニュアル・オートを併用したセグメンテーション作業を行った。セグメンテーションの完了したデータはSTLフォーマットで出力し、Geomagicにてモデルの最適化を行った。完成した三次元モデルは統計環境RのPMCMR, ade4, Morpho, ffmanova, ape等の各種オープンリソースの解析パッケージを用いて解析を進めた。角突起の形態的多様性、そしてその発生過程を三次元座標を用いて評価し、生態学的形質との連関を検証するとともに、下顎における他の突出部位である、筋突起、関節突起との定量的な連動性 modularity について検討を進めている。


R2-C10
代:村松 明穂
協:山本 真也
チンパンジーにおける位取り記数法の学習と作業記憶における加齢効果
チンパンジーにおける位取り記数法の学習と作業記憶における加齢効果

村松 明穂 , 山本 真也

本研究の目的は,①ヒトにおける数の概念の進化的基盤を探ること,②発達・加齢がチンパンジーの作業記憶に与える影響を明らかにすることである。飼育チンパンジーを対象に,タッチモニタを用いたコンピュータ課題による実験的研究を行っている。
 数の概念に関する研究では,既にチンパンジーが学習しているアラビア数字の系列1から9について,前方・後方に系列を延長し,数系列0から19の学習と定着を試みた。参加7個体すべてにおいて,数系列0から19を学習できたことが確認された。今後は,20以上のアラビア数字についてのテスト課題を実施し,チンパンジーがどのように十進法の表記ルールを学習したのか確認する予定である。
 作業記憶に関する研究では,過去10年のあいだ定期的に実施してきた作業記憶の課題について,現時点での各個体のパフォーマンスを確認した。また,過去10年間の作業記憶に関する課題のデータを各記憶媒体などから回収し,整理をおこなった。さらに,作業記憶に関する新規課題を開始した。今後は,作業記憶課題のパフォーマンスをそれぞれ年齢ごとに個体内・個体間で比較し,チンパンジーの作業記憶が10年でどのように変化したのか確認する予定である。



R2-C11
代:岸 雄介
協:山中 総一郎
サルの発達・老化におけるクロマチン構造変化の解析

論文

関連サイト
東京大学薬学部分子生物学教室 http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~molbio/
サルの発達・老化におけるクロマチン構造変化の解析

岸 雄介 , 山中 総一郎

 個体の発達は様々な組織の機能獲得を伴うが、逆に老化は様々な組織の機能低下を誘導し、老齢個体の生活に大きな障害をもたらす。これまでの多くの発達・老化研究はマウスを用いてその成果を挙げてきたが、マウスとヒトには大きなギャップが存在するため、ヒトの発達・老化を理解するためにはヒトの近縁種である霊長類を用いた老化研究が必須である。
 クロマチン構造は発達および老化の過程で大きく変化することが知られており、またHGPSなどの早老症患者ではクロマチン因子の変異が原因であることもわかっている。そのため、少なくとも老化による機能低下の原因の一つはクロマチン構造の破綻であると考えられる。
 本年度は、生後数日、4-5年齢、11-15年齢のアカゲザルの脳から、一次視覚野、一次運動野、背側前頭前皮質、内側前頭前皮質、海馬の凍結サンプルを、また精巣・卵巣のサンプルを採取し、送付していただいた。そして、一次視覚野からニューロン核を採取し、RNA-seq解析を実施した。現在その結果を解析中であり、今後は他の脳領域も含めてニューロン核を用いたクロマチン解析を実施する。また生殖組織の免疫染色も実施することで、脳と生殖組織の老化メカニズムの解明を目指す。



R2-C12
代:Samuel Refetoff
協:Takashi Yoshimura
協:Junfeng Chen
Analysis polymorphism of short tandem repeat in Gorilla
Analysis polymorphism of short tandem repeat in Gorilla

Samuel Refetoff , Takashi Yoshimura, Junfeng Chen

研究代表者はこれまで一貫して甲状腺に関する研究を行ってきた。また、研究協力者は鳥類や哺乳類の甲状腺刺激ホルモン(TSH)に関する研究を行ってきた。研究代表者は最近、血液中の甲状腺刺激ホルモンが高値を示す「高TSH血症」の患者の遺伝解析を行ったところ、ゲノム中に存在する縦列型反復配列(short tandem repeat: STR)の多型が血液中のTSH濃度と関連することが示唆された。同じ霊長類のニシゴリラにおいても同様な縦列型反復配列が存在することが明らかになったため、研究協力者とともに、本共同利用研究で提供していただいたニシゴリラのDNAをもとにゴリラの縦列型反復配列の多型を明らかにした。今後はさらに個体数を増やすために、他の個体についても検討することで縦列型反復配列の多型と血中TSH濃度の関係が明らかになることが期待される。


R2-C13
代:小湊 慶彦
協:佐野 利恵
サルの赤血球上の血液型抗原発現が転写調節領域の分子進化により規定されることの証明
サルの赤血球上の血液型抗原発現が転写調節領域の分子進化により規定されることの証明

小湊 慶彦 , 佐野 利恵

令和2年度にチンパンジー、ニホンザル、アジルテナガザルの血液および唾液の採材を進める予定であったが、新型コロナウイルスの影響により採材が行われなかった。霊長類研究所対応担当の大石先生とメールにて打ち合わせを行い、引き続き令和3年度も研究を継続することとした。


R2-C14
代:田中 郁子
μCT撮影のための筋組織染色法の改良 -鳥類と霊長類-
μCT撮影のための筋組織染色法の改良 -鳥類と霊長類-

田中 郁子

CT画像で筋を識別するために筋の染色は不可欠であるが,動物の筋を染色すると,一般的に筋は縮んで小さくなり,部位によっては変形が大きくなることもある.元の状態と比べどの程度縮んだのかについては,まだ研究例が少ないため,重量に対しての染色時間の決定方法には検討の余地がある.
本研究では染色時間に着目し,筋縮小への影響が最小となる条件を明らかにすることを目的とした.染色時間の長短と筋重量との関係から縮小量を見積もり,縮小量の最小である最適な時間を調べるために,対照実験を実施した.染色時間は経験則での時間を参考にし,それが正しいかどうかも同時に検証した.
対象としたのは,ウズラの足部である.個体差を考慮し,各2体ずつ用いた.左右大腿筋から切り出し,ルゴール溶液で染色し,μCT撮影を実施した.それをAvizoを使用して,筋骨格モデルを作成した.
染色時間が最も短い条件では,CT画像からの筋識別が不可能であるが,冷凍庫で24時間保存した後に再度CT撮影をしたところ,軟組織が充分に識別できた.
本研究ルゴール溶液のみの染色法は,1.5倍ほど染色時間はかかるが,縮小をほぼ与えないので,デジタル解剖において効果的な手法である.



R2-C15
代:岡野 栄之
協:今泉 研人
霊長類iPS細胞を用いた脳オルガノイドのサイズと内部構造の制御解析
霊長類iPS細胞を用いた脳オルガノイドのサイズと内部構造の制御解析

岡野 栄之 , 今泉 研人

非ヒト霊長類iPS細胞として、チンパンジー皮膚線維芽細胞からepisomal vectorで樹立されたiPS細胞を4ライン、ニホンザル皮膚線維芽細胞からSendai virus vectorで樹立されたiPS細胞を2ライン、今村研究室から供与され、培養を行った。さらに、ヒトiPS細胞培養において確立された脳オルガノイド培養手法を用いて、これらのiPS細胞から脳オルガノイド作成を目指したが、正しい形態を保ったオルガノイドの作成には成功しなかった。この原因の1つとして、iPS細胞の培養条件が考えられる。供与された非ヒト霊長類iPS細胞はfeeder-free条件あるいはそれに類似した培養条件であり、従来の脳オルガノイド培養手法において用いられるfeeder細胞を用いたiPS細胞培養とは異なる。ヒトiPS細胞からの脳オルガノイド作成においても、同様のfeeder-free条件は誘導効率を著しく低下させるデータを得ており、今後は、脳オルガノイド作成に最適なiPS細胞培養条件の検討を行っていく。


R2-C16
代:早川 卓志
協:五藤 花
協:郷 康広
テナガザルの発声行動に関連する脳発現遺伝子の解析
テナガザルの発声行動に関連する脳発現遺伝子の解析

早川 卓志 , 五藤 花, 郷 康広

2020年度は凍結標本からの遺伝試料採取およびその解析に取り組んだ。研究の対象として扱ったのは、霊長類研究所に凍結保存されていたシロテテナガザルHylobates larの遺伝標本である。まず、所内対応者である大石の指導のもと、音声行動に関係すると推定される領域を含む複数の脳領域を選定した。それに従って、協力者である五藤が、脳から合計17か所から凍結状態を維持しながら採材を行った。また、比較対象として脳以外の6つの組織からも同様に採材を行った。次に、採材した組織サンプルからRNAを抽出し、RNA-Seqを行って網羅的に発現遺伝子の塩基配列を決定した。得られたデータを、協力者の郷が作成したリファレンスゲノムアセンブリや、データベースに公開されているリファレンスゲノム配列にマッピングし遺伝子発現を調べた。さらに一つの遺伝子に注目した解析や、主成分分析などの一次解析に取り組んだ。研究結果については、一部を五藤の卒業研究として発表したほか、第15回PWSシンポジウムのポスターセッションや第65回プリマーテス研究会のライトニングトークにて発表した。


R2-C17
代:狩野 文浩
タッチパネルを用いた視線検出課題
タッチパネルを用いた視線検出課題

狩野 文浩

ヒトとチンパンジーの視線の検出しやすさを検討するため、タッチパネルを用いて、ヒトとチンパンジーを対象に、視線の方向を検出する課題を行った。結果、ヒトとチンパンジー被験者ともに、チンパンジーの視線の方向よりも、ヒトの視線の方向のほうが検出しやすいということが明らかになった。刺激画像のチンパンジーとヒトの目の色をそれぞれ反転させた場合(チンパンジー画像が白い強膜を持ち、ヒト画像が黒い強膜を持つようになる)、チンパンジーの目はより検出しやすくなり、ヒトの目はより検出しにくくなった。すなわち、刺激画像の強膜の白い色がチンパンジーとヒト両種の被験者にとって視線の検出に直結していることが明らかになった。さらに詳細を分析し、投稿準備をする予定である。


R2-C18
代:森山 隆太郎
COVID-19の性感染症可能性の組織学的検討
COVID-19の性感染症可能性の組織学的検討

森山 隆太郎

 マカク雄生殖腺および副生殖腺組織におけるACE2受容体免疫陽性細胞を観察した結果、精巣のライディッヒ細胞、セルトリ細胞がACE2受容体免疫陽性であった。同様にTMPRSS2免疫陽性細胞を観察した結果、精巣のライディッヒ細胞、セルトリ細胞、精原細胞、精巣上体頭部・体部・尾部にある精巣上体管周囲の上皮細胞、精嚢、前立腺および尿道球腺の腺腔を囲む上皮細胞がTMPRSS2免疫陽性であった。
 Western blotting法によりACE2受容体およびTMPRSS2発現組織を同定した結果、抗ACE2受容体抗体でバンドが観察された組織は精巣のみであり、抗TMPRSS2抗体でバンドが観察された組織は精巣、精巣上体頭部・体部・尾部、精嚢腺、前立腺、尿道球腺であった。また、RT-PCR法によりmRNA発現組織を同定した結果、ACE2受容体mRNA発現組織は精巣のみであり、TMPRSS2 mRNA発現組織は精巣、精巣上体頭部・体部・尾部、精嚢腺、前立腺、尿道球腺、陰茎であった。
 以上より、繁殖期のマカク生殖腺・副生殖腺においてACE2受容体とTMPRSS2が共発現している細胞は精巣のライディッヒ細胞とセルトリ細胞であることが明らかとなった。この結果は、SARS-CoV2が精巣のこれら細胞に感染し、造精機能障害や男性ホルモン分泌障害を引き起こす恐れのあること、さらには精子と混ざる前の精槳にはSARS-CoV2が存在しないことを示唆するものである。



R2-C19
代:新井 誠
協:石田 裕昭
霊長類モデルを用いた血中ペントシジン値の正常発達軌跡の同定
霊長類モデルを用いた血中ペントシジン値の正常発達軌跡の同定

新井 誠 , 石田 裕昭

本研究の目的は、マカクザルの血漿ペントシジンおよびビタミンB6に対して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定し、乳幼児期、性成熟期、成体・中年期、高齢期におけるこれらの血液バイオマーカーの正常発達軌跡を明らかにすることである。
本研究では、マカクザルの年齢に基づき、発達区分を乳幼児期(1歳から2歳)、性成熟期(4歳から5歳)、成体・中年期(8歳から15歳)、高齢期(18歳から25歳)と設定し、各区分において雌雄それぞれ4-6頭ずつ末梢血を採取した。
血漿ペントシジン値について、ヒトと動物モデルの相同性を明らかにするため、ヒト健常者(20代から60代男女合計10名)、マカクザル(性成熟期から高齢期雌雄合計10個体)の血漿ペントシジンをHPLCを用いて計測した。霊長類との比較のために、性成熟期(12週齢)のマウス、モルモットの血漿ペントシジン値を計測した。
その結果、 マカクザルは正常ヒトに相同する血漿ペントシジン値(正常範囲)を示した。一方でマウス、モルモットの血漿に含まれるペントシジンは極めて微量で、HPLCでは検出限界値を示すことが多かった。この結果から、糖化ストレスのバイオマーカーとしての血漿ペントシジンは、マカクザルにおいてヒトと相同に計測されることが明らかになった。このことは、マカクザルがペントシジン病態を理解するためのモデル動物としての有用である可能性を示唆する。
今後、発達区分間、性別間において血漿ペントシジン値およびビタミンB6について計測し、ヒトに近似するものとして、マカクザルから正常発達軌跡を得る。



R2-C20
代:寺村 岳士
協:村川 康裕
協:中西 真人
Naive型チンパンジーiPS細胞の誘導と異種間キメラ動物の作製
Naive型チンパンジーiPS細胞の誘導と異種間キメラ動物の作製

寺村 岳士 , 村川 康裕, 中西 真人

京都大学霊長類研究所において樹立されたチンパンジーiPS細胞を用い、低分子化合物での処理によりNaïve誘導を行った。14日間Naïve誘導を行ったチンパンジーiPS細胞はマウスES細胞に類似した形状を示し、転写因子の発現の変化、細胞表面マーカーの発現変化を認めた。さらに、マウス胚との異種間キメラ動物作製実験において、胚体への取り込みと胎児組織への寄与を示唆する観察像が得られた。本成果は、チンパンジーiPS細胞がNaive化誘導後に安定した形質を示し、典型的な基底状態を示しうる優れたヒト細胞モデルとなりうることを示している。
次年度には同細胞を用い、キメラ動物作製実験を中心にさらに検討を進める予定である。




H31
論文 44 報 学会発表 112 件
H31-A1
代:佐藤 侑太郎
協:狩野 文浩
アイ・トラッキングによるチンパンジーの社会認知研究

論文

関連サイト
京都大学野生動物研究センター http://www.wrc.kyoto-u.ac.jp/members/satoY.html
アイ・トラッキングによるチンパンジーの社会認知研究

佐藤 侑太郎 , 狩野 文浩

今年度は、霊長類研究所のチンパンジー7~10個体を対象に一連の視線計測実験によるデータ収集をおこなった。第一に、感覚間選好注視実験(cross-modal preferential looking)によってチンパンジー音声の参照的機能を調べた。モニターに果物とヘビの動画を横に並べて提示し、チンパンジー警戒声、採餌声、悲鳴などの音声を再生した。実験の結果、警戒声を聞かせた時にチンパンジーがヘビの動画をより長く見ることがわかった。この結果は、チンパンジーが警戒声とヘビの視覚情報とを関連付けることができることを示唆する。第二に、視線追従(gaze-following)における集団間バイアスを調べた。実験では、1個体のチンパンジーが左右いずれかを向く動画が提示された。動画中のチンパンジーが同施設で飼育される個体か別施設(熊本サンクチュアリ)で飼育される個体かで、視線追従の生じやすさに違いがあるかを調べた。第三に、他者身体運動の理解に関する実験をおこなった。この実験はヒト乳幼児を対象におこなわれた過去の実験がもとになっている。CGアニメーションを用いて、生理学的に不可能な動作(上腕の肘関節が逆に曲がる)をみせるキャラクターの動画を提示した。これを見ているときのチンパンジーの視線と瞳孔径を測定した。現在データの分析を進めている。


H31-A2
代:石田 裕昭
協:西村 幸男
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田 裕昭 , 西村 幸男

申請者らは、マカクザルをモデルに狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプストレーシング法を用いて、前頭極における多シナプス性神経ネットワークの解析を進めてきた。前頭極における大脳間ネットワークについて、これまでに1次および2次シナプスまでのネットワークについて解析を終えており、論文の執筆を進めている。

本年度は、前頭極―大脳基底核ネットワークを調べる目的で、2次シナプスまでのネットワークの解析を終えた。さらに1頭のサルを用いて、3次シナプスまでの神経ネットワークを調べる実験を実施した。今後、前頭極―大脳基底核ネットワークについて3次シナプスまでの神経ネットワークを観察するため、もう1頭のサルを用いた実験を追加し、データの解析を進める。


H31-A3
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:平井 康治
協:緒方 久実子
協:東山 哲也
協:角野 風子
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

藤山 文乃 , 苅部 冬紀, 平井 康治, 緒方 久実子, 東山 哲也, 角野 風子

最近霊長類で線条体のtailと呼ばれる部位が報酬系などで特殊な役割を果たしていることが報告されている。私たちは、げっ歯類においても同様の機能分担がある領域があるのかを調べるために、齧歯類とマーモセットの尾側線条体の比較解剖学を行なっている。一部の領域において、D1Rおよびtyrosine hydroxylaseの染色性が弱く、D2Rの染色性が強い領域 (D1R-poor zone) を発見し、現在論文執筆中である。この研究は所内対応者の高田昌彦教授にご提供いただいたマーモセットを用いた実験を進めている。


H31-A4
代:小松 英彦
協:齊藤 治美
視覚の充填知覚を司る情報処理機構の探索
視覚の充填知覚を司る情報処理機構の探索

小松 英彦 , 齊藤 治美

盲点の視野上での位置を2頭のニホンザルで計測した。まず、サルが注視点を見ている時に視野のさまざまな位置に小光点を呈示し、それに向かってサッケードを行うように視覚サッケード課題を訓練した。一部の試行では、小光点を呈示せず、その場合には注視点に対する注視を続けたら報酬を与えた。このような訓練を行ったのち、サルの片目をマスクで遮蔽し、タスクを行わせた。盲点内部に小光点が呈示された場合、サルは注視を続けるので、これにより盲点の位置を同定することができた。盲点は耳側視野の水平子午線上で網膜中心から15度くらいの偏心度のところに同定された。次に注視課題を行っているサルの第一次視覚野(V1)に金属微小電極を刺入し、受容野のマッピングを行い、盲点に対応する視野位置を表現している場所を探索した。鳥距溝後壁皮質にそのような領域が同定された。盲点において生じる充填知覚にV1がどのように関わっているかを調べるため、V1の各層から同時にニューロン活動を記録して、層毎の活動の違いを調べる予定である。そのための準備として、V1に多チャンネルリニアアレイ電極を刺入し、ニューロン活動を記録するための予備実験を行った。


H31-A5
代:田中 真樹
協:竹谷 隆司
協:鈴木 智貴
協:亀田 将史
行動制御における皮質下領域の機能解析

論文
Kameda, M., Ohmae,S. & Tanaka, M.(2019) Entrained neuronal activity to periodic visual stimuli in the primate striatum compared with the cerebellum. eLife 8:e48702. 謝辞なし

Suzuki, T.W.& Tanaka, M.(2019) Neural oscillations in the primate caudate nucleus correlate with different preparatory states for temporal production. Commun Biol 2:102. 謝辞なし

Miterko, L.N., …, Tanaka, M. (27名中21番目), …, Sillitoe, R.V. (2019) Consensus paper: Experimental neurostimulation of the cerebellum. Cerebellum 18:1064-1097. 謝辞なし
行動制御における皮質下領域の機能解析

田中 真樹 , 竹谷 隆司, 鈴木 智貴, 亀田 将史

これまで、視床や小脳をターゲットにして分子ツールを用いた複数の研究を進めてきた。令和元年度は運動性視床で行った実験について対照動物からのデータ収集を終え、夏ごろから定量解析を行い、論文作成に着手した。本実験では、補足眼野にAAVベクターを接種し、運動性視床から単一ニューロンを記録しながら終末に発現させたハロロドプシンを光刺激して大脳視床経路の役割を探った。ベクターを接種した個体では光刺激によって課題関連活動の変化とともに、非特異的な活動の変化も認めた。課題関連活動の変化は興奮性、抑制性の両方があり、運動方向やイベントに特異的に光刺激の効果を認めた。一方、ベクターを接種しない対照個体でも同様の実験を行ったところ、非特異的な活動変化のみを認め、これらの多くは興奮性の効果を示した。これらのことから、運動性視床の課題関連活動の少なくとも一部は、大脳からの直接入力によって調整されていることが明らかとなった。光刺激の効果にはオプシンを介したものと、局所の温度変化によるものの2種類があると考えられる。これらの研究成果は現在、投稿に向けて準備中である。


H31-A6
代:西村 幸男
協:鈴木 迪諒
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

論文

学会発表
M Suzuki, K-I Inoue, H Nakagawa, M Takada, T Isa and Y Nishimura. Macaque ventral midbrain facilitates the output to forelimb muscles via the primary motor cortex. (2019年4月) Annual Meeting of Society for the Neural Control of Movement(Toyama).

鈴木迪諒 意欲を司る中脳辺縁系が運動と機能回復を制御する神経基盤(2019年8月24日) 第27回日本運動生理学会大会(広島).

関連サイト
研究室ホームページ http://www.igakuken.or.jp/neuroprosth/
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

西村 幸男 , 鈴木 迪諒

越シナプス神経トレーサー(狂犬病ウイルス)により、意欲の中枢である腹側中脳から2シナプス性の脊髄への投射の存在を見出した、また本成果に関して論文執筆を開始した。これらの成果の一部を下記に示す学会にて発表した。

1. Suzuki M, Inoue K-I, Nakagawa H, Takada M, Isa T and Nishimura Y. Macaque ventral midbrain facilitates the output to forelimb muscles via the primary motor cortex. The 2019 Annual Meeting of the Society for the Neural Control of Movement (NCM) (2019.4.26-27 Toyama, Japan)

2. 鈴木迪諒:意欲を司る中脳辺縁系が運動と機能回復を制御する神経基盤、第27回日本運動生理学会大会シンポジウムIV「運動技能向上・再獲得を担う脳内神経基盤の包括的理解」(2019.8.24 広島)


H31-A7
代:福田 真嗣
協:村上 慎之介
協:谷川 直紀
協:楊 佳約
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響

福田 真嗣 , 村上 慎之介, 谷川 直紀, 楊 佳約

本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行った。高次脳機能評価を行うため、図形弁別課題およびその逆転学習課題を訓練した。さらに、記憶機能を検討するため空間位置記憶課題も訓練した。これらのマーモセットの便を採取し、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢解析を行った。得られた腸内細菌叢情報と認知機能情報について、相関解析や多変量解析手法を用いてアプローチし、認知機能に関連する腸内細菌叢の探索を行っている。これまでに、学習成績の比較的良いマーモセットと悪いマーモセットの腸内細菌叢に一部差があることを見出すことができた。今後はより詳細な解析を実施する。



H31-A8
代:狩野 文浩
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究

論文
Kano, F., Krupenye, C., Hirata, S., Tomonaga, M., & Call, J. (2019) Great apes use self-experience to anticipate an agent’s action in a false-belief test Proceedings of the National Academy of Sciences 116(42):20904-20909. . 謝辞We thank Naruki Morimura, Yutaro Sato, YuriKawaguchi, Daniel Hanus, Hanna Petschauer, and the staff at KumamotoSanctuary, Primate Research Institute, and Wolfgang Koehler PrimateResearch Center for their assistance in conducting the experiments. Financialsupport came from the Japan Society for the Promotion of Science KAKENHIGrants 18H05072, 19H01772, 16H06301 (to F.K.), 18H05524 (to S.H.), 16H06283,LDG-U04, GAIN (to M.T.); European Commission Marie Skłodowska-CurieFellowship MENTALIZINGORIGINS (to C.K.); and European Research CouncilSynergy Grant 609819 SOMICS (to J.C.).
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究

狩野 文浩

類人猿の意図理解に関して、成果を上げた。これまでの研究から、類人猿が、予期的な注視を指標にした課題において、動画の中で、他者(動画の中の役者)が現実とは異なる誤った知識を抱いている(誤信念をもつ)状況においても、他者の行動の向かう先を予測的に注視することが示されている。本研究では、その心的メカニズムに関してさらに調査を進めた。先行研究では、類人猿が他者の意図理解にもとづいて課題を解決したのか(心の理論)、他者が最後に見た場所を再訪する、というような、特定の「行動ルール」にもとづいて課題を解決したのか、明らかではなかった。この「行動ルール」仮説を検証するために、本研究では、類人猿が、他者が同一の行動をしている状況においても、自己の経験に照らし合わせて、他者の行動の予測のやり方を変化させるか調べた。課題では、まず類人猿は近くで見ると透けて見えるトリック衝立と、近くで見ても透けて見えない普通の衝立のどちらかを経験した。2つの衝立は遠目から見ると同じに見える。その後、類人猿は動画を見た。動画では、類人猿が経験した衝立と同じ見た目の衝立の後ろに役者が隠れる様子が映され、その目の前では、隠されたオブジェクトが移動した。動画を見た類人猿は、トリック衝立を経験した場合は、役者がそのイベントを見たかのように役者の行動を予測し、普通の衝立を経験した場合は、役者がそのイベントをみなかったかのように役者の行動を予測した。したがって、予期的な注視を指標にした課題において「行動ルール」仮説は成立しないことが示された。Kano F, Krupenye C, Hirata S, Tomonaga M, & Call J (2019) Great apes use self-experience to anticipate an agent’s action in a false-belief test. Proc. Nat. Acad. Sci. 116(42):20904-20909.


H31-A9
代:宇賀 貴紀
協:三枝 岳志
協:熊野 弘紀
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

宇賀 貴紀 , 三枝 岳志, 熊野 弘紀, 須田 悠紀

運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度はサル1頭のMT野にhM4Di遺伝子を搭載したウイルスベクターを打ち、マルチユニットと局所電場電位(LFP)の反応変化を解析した。


H31-A10
代:Kurnia Ilham
The effects of the physical characteristics of seeds on gastrointestinal passage time in captive long-tailed macaques (Macaca fascicularis)
H31-A11
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:Woranan Wongmassang
協:Zlata Polyakova
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究

南部 篤 , 畑中 伸彦, 知見 聡美, 佐野 裕美, 長谷川 拓, 纐纈 大輔, Woranan Wongmassang, Zlata Polyakova

パーキンソン病 (PD) の病態を明らかにするため、ドーパミン選択的神経毒MPTP (1-methy-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine) をニホンザルに投与し、PDモデルを作製した。大脳基底核出力部である淡蒼球内節の神経活動を覚醒下で記録したところ、発火頻度に変化はなく、オシレーションもみられなかった。大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答様式について調べてみると、正常サルでは早い興奮-抑制-遅い興奮からなる3相性の応答が観察できるが、PDサルでは3相性応答のうちの抑制が消失していた。記録を行いながらドーパミン補充療法を施し、症状が改善された時に記録を行ってみると、抑制が回復して3相性の応答様式に戻っていた。これらの結果は、大脳皮質-大脳基底核経路を介した淡蒼球内節における一過性の伝達様式の異常が、PD症状の発現に寄与していることを示唆する。淡蒼球内節はGABA作動性の抑制性ニューロンで構成され、常時連続発火することによって投射先である視床と大脳皮質を抑制している。正常状態では、直接路を介した入力によって淡蒼球内節が一時的に抑制されると、脱抑制によって視床と大脳皮質の活動が増大し運動を起こすが、PDでは大脳皮質からの入力によって淡蒼球内節が十分に抑制されず、視床と大脳皮質に対する抑制を解除出来ないため、無動や寡動を来すと考えられる。


H31-A12
代:橋本 均
協:中澤 敬信
協:笠井 淳司
協:勢力 薫
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

論文
Kaoru Seiriki, Atsushi Kasai, Takanobu Nakazawa, Misaki Niu, Yuichiro Naka, Masato Tanuma, Hisato Igarashi, Kosei Yamaura, Atsuko Hayata-Takano, Yukio Ago, Hitoshi Hashimoto(2019) Whole-brain block-face serial microscopy tomography at subcellular resolution using FAST NATURE PROTOCOLS 14(5):1509-1529. 謝辞あり

学会発表
橋本均 高速・高拡張性全脳イメージングシステムFAST:アンバイアス、仮説フリーでの薬物の有効性と安全性の評価へ(2019/6/26) 第46回日本毒性学会学術年会(アスティとくしま).

橋本均 高速・高精細全脳イメージングによる脳機能解析(2019/7/4) 第44回レーザ顕微鏡研究会&シンポジウム(大阪大学銀杏会館).

勢力薫、橋本均 蛍光全脳イメージングのための連続断層イメージング法FAST(2019/9/24) 第57回日本生物物理学会年会(宮崎シーガイア・コンベンションセンター).
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本 均 , 中澤 敬信, 笠井 淳司, 勢力 薫

学会発表
勢力薫、笠井淳司、中澤敬信、橋本均.(2019年7月25日)「脳内のシンギュラリティ検出のための全脳高解像度イメージング」Neuro2019(朱鷺メッセ)

勢力薫、笠井淳司、丹生光咲、田沼将人、五十嵐久人、中澤敬信、山口瞬、井上謙一、高田昌彦、橋本均 高精細全脳イメージング技術FASTの開発と精神疾患モデルマウスの病態解析―脳全体を対象とした仮説フリーな病態・薬物治療機序の組織学的解析―(2018年10月13日)第68回日本薬学会近畿支部会 (姫路獨協大学)

本年度は高田研で作成された複数の蛍光標識アデノ随伴ウイルスベクターを隣接する微小脳領域に感染させた脳を得た。高速高精細な全脳イメージングシステムFASTを用いて、単一細胞レベルで観察し、霊長類脳の詳細な全脳神経回路の情報を得るための画像データ処理法の開発等を実施している。


H31-A13
代:二宮 太平
協:磯田 昌岐
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析
神経路選択的トレーシング法による社会脳ネットワークの解析

二宮 太平 , 磯田 昌岐 , 則武 厚

本共同研究は、社会的認知機能に重要とされる、いわゆる社会脳ネットワークの詳細を解剖学的アプローチにより明らかにすることを目的とする。具体的には、内側前頭皮質(MFC)と腹側運動前野(PMv)を対象とした、越シナプス能をもたないG遺伝子欠損型狂犬病ウイルスベクターおよびテトラサイクリン遺伝子発現調節システム(Tet-onシステム)を利用した、神経路特異的トレーシングをおこなう。そのため、まず昨年度は実験目的に適したウイルスベクターの詳細な検討および作製をおこなった。現在、同様のベクターを用いた検証実験が計画されており、その際ベクターの有効性を確認する予定である。また、注入実験の際に電気生理学的手法を用いた対象領野の同定が必要であるため、細胞外電位記録実験および電気刺激実験に向けたセットアップをおこなった。今後は、ベクターの有効性を確認し、必要があれば更なるベクターの調整をおこなった後、当初計画していた、MFCとPMvへの注入実験および神経ラベルの解析を進めていく予定である。


H31-A14
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定

関 和彦 , 大屋 知徹, 梅田 達也, 工藤 もゑこ, 窪田 慎治

脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。

本年度は新たなウィルスベクターの開発を継続して行なった。また、国立精神・神経医療研究センターにおいて、霊長類研究所から供給を受けたAAVベクターの機能評価をマーモセットを対象に行う研究を終了し、原著論文を発表した。


H31-A15
代:Aye Mi San
Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

学会発表
San AM, Tanaka H, Hamada Y Phylogeography and conservation of rhesus macaque (Macaca mulatta) in Myanmar(February 8-10, 2020) The 7th Asian Primate Symposium 2020. The 1st International Conference on Human-Primate Interface(Gauhati University, India).
Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

Aye Mi San

In Myanmar, rhesus macaque (Macaca mulatta) distributed through Central to Northern Myanmar (>15°N). For the phylogeographic study, the target region of D-loop (1.2 kbp) was amplified and sequenced. The results showed that at least two clusters of rhesus macaque (M. mulatta) were observed in Myanmar. The Northern cluster has large genetic distance (0.072 to 0.085) from Central and North-western cluster. These two clusters may have different histories, i.e., they have been isolated by ancient geographic or ecological barriers such as Chindwin River, Ayeyarwady River, mountain ranges, valleys (22°N-24°N) and different climate. To characterize their phylogeographic positions within rhesus macaques, D-loop were sequenced of eight rhesus macaques from Primate Research Institute whose provenances were either India or China, and aligned with Myanmar rhesus. These results suggested that Myanmar Northern clade clustered in the Indian 1 haplogroup and Central and North-western clade clustered in Indian 2 haplogroup. Based on our findings we suggested that Myanmar origin rhesus macaques might be genetically suited for biomedical research similar as Indian origin rhesus macaque. As for the Conservation of Myanmar rhesus macaques, such information are necessary as population sizes and the way of distribution (whether local population ranges are fragmented from each other?), or the genetic variability within local populations; and information on the condition of habitat environment in Central-Northern Myanmar, such as industrial, agricultural or logging activities or great migration of people.
These results were presented at the 7th Asian Primate Symposium and the 1st International Conference Human-Primate Interface (8th-10th February, 2020, Gauhati University, India).


H31-A16
代:南本 敬史
協:永井 裕司
協:小山 佳
協:堀 由紀子
脳活動制御とイメージングの融合技術開発
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

南本 敬史 , 永井 裕司, 小山 佳, 堀 由紀子

本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.R1年度は脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い化合物として独自に見出したDCZの有効性についてさらなる検証を進め,抑制性DREADD(hM4Di)を両側DLPFCに発現させたサルに微量のDCZを投与することで,空間作業記憶の障害を引き起こすことを示すなど,サルDREADD操作性の高精度化・安全性・利便性を高めることに成功し,論文として報告した(NagaiらNat Neurosci, in press).さらにDCZを放射性ラベルした[11C]DCZはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で,高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに,陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功.この終末部にDCZを投与することで経路選択的な抑制制御ができることを明らかにした.この成果は複数の論文に発表するとともに,化合物DCZの情報とともに共有するにより,DREADDによるサル脳回路操作を広く展開する.




H31-A17
代:松本 正幸
協:山田 洋
協:國松 淳
マカクザル外側手綱核の神経連絡
マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本 正幸 , 山田 洋, 國松 淳

嫌悪的な事象(報酬の消失や罰刺激の出現)を避けることは、動物の生存にとって必須である。研究代表者と所内対応者、協力研究者らの研究グループは、マカクザルを用いた電気生理実験により、外側手綱核と呼ばれる神経核がこのような回避行動の制御に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにしてきた(Kawai et al., Neuron, 2015; Kawai et al., Cerebral Cortex, 2019)。このような外側手綱核の回避行動に対する役割をさらに神経回路レベルで理解するためには、外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持ち、そのシグナルがどの領域に伝達されているのか、またどの領域を起源とするのか知る必要がある。しかし、外側手綱核の神経連絡を調べた解剖学的な研究の多くはげっ歯類を対象にしたものであり、霊長類を対象とした研究はほとんどおこなわれていない。
これまでに、フサオマキザルの外側手綱核に神経トレーサーを注入し、霊長類の外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持つのかを明らかにしようと試みた。ただ、外側手綱核は非常に小さな神経核(2mmほど)であり、組織学的な解析をおこなった結果、神経トレーサーが外側手綱核から外れた位置に注入されていたことが明らかになった。2020年度以降、より高い精度で神経トレーサーを注入できる方法を工夫し(電気生理マッピングを事前におこなうなど)、また、外側手綱核と関連が深くトレーサーが注入しやすい他の領域(中脳ドーパミン領域など)をターゲットにして手綱核周辺の神経回路を明らかにするなど、複数のアプローチを組み合わせて実験を進める予定である。


H31-A18
代:Muhammad Azhari Akbar
Inter-specific comparison of seed dispersal parameters between long-tailed macaque Macaca fascicularis and silvery lutung Trachypithecus cristatus in West Sumatran coastal area
H31-A19
代:Wirdateti
Analysis of mitochondrial sequences for species identification and evolutionary study of slow loris (genus Nycticebus)
Analysis of mitochondrial sequences for species identification and evolutionary study of slow loris (genus Nycticebus)

Wirdateti

The Cooperative Research Program 2019, following the 2018 program activity, focused on genetic variation of the mtDNA markers in each species or between populations of slow loris. This study aims to understand the degree of genetic variation between species and among populations within the species to aid future conservation efforts. Last year, we analyzed using the 16S r-RNA of mtDNA. This year we analyzed the COI gene of mtDNA as a marker. These results will be valuable as supportive data in the release and reintroduction of these species to the wild without disturbing the gene pool of existing populations. This study can also be used for further studies of slow loris evolution in Asia. The analysis was conducted using a whole length of COI, which is about 1600 bp from 43 samples consisting of N. coucang (n= 20), N. javanicus (n= 19), and N. menagensis (n=4). Most of the samples came from confiscated, and some were collected from the wild.
The data analysis was conducted using the DNA pars and the MEGA 6.0 program. The results of DNA polymorphism from all samples of this study showed that variable (polymorphic) (S) was found in 310 sites with parsimony-informative 171 sites, and Nucleotide diversity; Pi: 0.03800; the haplotypes as many as 36 with Haplotype Diversity (Hd): 0.986 ± 0.011. DNA polymorphism between species was estimated by genetic distance (d) and nucleotide diversity (π); these indices between N. menagensis and N. Javanicus Java were higher (d = 0.065 ± 0.006; π = 0.019 ± 0.006) than those of N. menagensis with N. coucang (d = 0.046 ± 0.005; π = 0.013 ± 0.002). While between N.javanicus and N.coucang is d = 0.055 ± 0.005; π = 0.020 ± 0.002. Contrary, on the morphological character, the head fork (strip pattern on the head) and the back strip (lines on the back) are almost similar between N. coucang with N. menagensis, but have a clear difference with N. javanicus. This results of morphological observation suggested that molecular identification of the confiscated slow lories is necessary.
Each species has a different haplotype; N. javanicus h = 16; N. coucang h = 16, and N. menagensis h = 4. The haplotype diversity (Hd) of the N. coucang population (Hd = 0.996) was higher than Javan slow loris (Hd = 0.942) and Kalimantan slow loris (Hd = 0.966). This result indicated that the population of Javan slow loris has a low genetic diversity. Based on the phylogenetic analysis using ancestor trees between N. menagensis and N. coucang, it was showed that N. menagensis is ancestral or the oldest, then the analysis between three species in this study are showed that N. javanicus is the ancestral species of the slow loris Indonesia.
From this study, we conclude that the COI gene of mtDNA could be used as a genetic marker for the identification of species in the genus Nycticebus, especially for the three species of Indonesia. These results support the results of the previous studies using 16S RNA.


H31-A20
代:Tshewang Norbu
Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan
Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan

Tshewang Norbu

In the 2000s, new macaque species were found in Arunachal Pradesh and eastern Tibet. Therefore, it is recognized that the evolutionary study of Assamese macaques (Macaca assamensis) in Bhutan is important for clarifying the phylogenetic relationships of Asian macaques. In 2019, I focused on the Assamese macaques living in Sakteing Wildlife Sanctuary, which is located southernmost part of Bhutan and borders Arunachal Pradesh. First, I conducted interview-survey to assess the distribution of macaques, and then, visited the macaques inhabiting sites to observe macaque populations, collect DNA samples (fecal samples or other materials), and take photographs for morphology study. I carried out such a field-survey in several different places, considering altitudinal gradient that would enable us to better understand the behavioral patterns of the macaque at varying altitudes and different forest types. The coordinates of the sampling sites were also noted using GPS for future mapping and references. One of the purposes in this project was to compare the genetic and morphological features of the eastern populations of Assamese macaques with that of western populations.
I collected a total of 25 fecal samples from different sites in eastern Bhutan. Under the Materials Transfer Agreement between our institute and PRI, I brought these samples to PRI for molecular phylogenetic analysis. After DNA extraction, I did the long-PCR which amplify approximately 9 kb in mitochondrial DNA (mtDNA), including full length of 16S r-RNA, D-loop and cytochrome b gene. This was to avoid mis-amplifying NUMT (mtDNA-like sequence in nuclear genome). Next, the D-loop region was amplified with the primers of LqqF (5'- TCCTAGGGCAATCAGAAAGAAAG-3’) and SARU5 (5’- GCCAGGACCAAGCCTATTT-3’), using the long-PCR product as template DNA. I sequenced the PCR product using DNA sequencing service of the company as well as by ourselves at the laboratory of Dr. Tanaka. DNA sequencing was successful for 25 samples. I continue the phylogenetic analysis of the DNA sequence data obtained in 2019 along with that of Assamese macaque from western part of Bhutan.


H31-A21
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:山崎 美和子
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明
ウイルスベクターを利用した経路選択的操作技術による霊長類皮質ー基底核―視床連関回路の機能解明

小林 和人 , 菅原 正晃, 加藤 成樹, 渡辺 雅彦, 山崎 美和子, 内ヶ島 基政, 今野 幸太郎

マーモセット束傍核―尾状核経路の認知機能における役割を評価するために、視覚弁別学習課題を用いて、行動学的な解析を行った。イムノトキシン細胞標的法のための遺伝子として、インターロイキン-2 受容体αサブユニット(IL-2RαとGFP変異体mVenusの融合遺伝子をコードし、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの線条体内に注入した。その後、束傍核にイムノトキシンあるいはコントロールとしてPBSを注入することにより、視床線条体路の除去を誘導した。視床線条体路を欠損する動物の行動学的評価として、中村教授・高田教授の開発した、視覚弁別課題を用いて認知機能の解析を行った。視覚弁別課題では、第一に、1つの単純な画像の提示を用いて画像に触れること、およびそれにより報酬を得られることを学習させた。次に、報酬が得られる正画像と得られない誤画像の2種類の弁別用画像を同時に提示して、正画像を選択した正答率や一定の正答率に達する所要期間を評価した。一定の正答率に達した後、画像の正誤を逆転させて同様に正答率と一定の正答率に達する所要期間等を評価した。コントロール群に比較して除去群は視覚弁別学習の獲得に変化はなかったが、逆転学習の実行が低下する傾向を示した(t検定、P = 0.063)。本実験は、コントロール群m実験群のそれぞれを2頭の動物を用いて行ったため、動物数を追加して確認する必要がある。行動テストの後、視床線条体路を構成する細胞数の減少を抗GFP抗体を用いて免疫組織学的に検出した。コントロール群に比較して、実験群の束傍核細胞数は40%程度に減少することから経路の除去を確認した。


H31-A22
代:生江 信孝
協:桃井 保子
協:齋藤 渉
協:木村 加奈子
協:大栗 靖代
協:正藤 陽久
協:飯田 伸弥
協:斎藤 高
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査

学会発表
大栗靖代・正藤陽久・飯田伸弥・木村加奈子・秋葉悠希・宮部貴子・兼子明久・斎藤高・斎藤香里・秋葉悠希・斎藤渉・桃井保子 内歯瘻および外歯瘻を繰り返したチンパンジーの歯科治療:1症例報告(2019年11月16-17日) 第22回SAGAシンポジウム(愛知県犬山市).
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査

生江 信孝 , 桃井 保子, 齋藤 渉, 木村 加奈子, 大栗 靖代, 正藤 陽久, 飯田 伸弥, 斎藤 高

かみね動物園で飼育しているチンパンジーの雌1個体(愛称マツコ、推定41歳)において、 腫脹、排膿、薬剤投与を繰り返す内歯瘻および外歯瘻がみられた。食欲に大きな変化はみられなかったが、外歯瘻があらわれると同時に左半身の脱毛が始まり大きなストレスになっていると推測された。ハズバンダリートレーニングにて日々歯のブラッシング、口腔内の確認をし、給餌内容を糖分の多い果物、根菜類を減らし葉物などの野菜類、枝葉の量を増やすなど見直しを行ったが症状が治まることはなかった。
2019年8月に、日立市かみね動物園において、全身麻酔下で歯科治療をおこなった。口腔内X線検査をおこない、優先度の高い3歯を抜歯した。約3時間に及ぶ全身麻酔下での治療は初めてだったが、覚醒後からすぐに餌を欲しがるなど大きなダメージはみられなかった。治療後には5日間、消炎鎮痛薬を経口投与した。経過は良好で、日々口腔内を確認したが患部の腫脹はみられず、抜歯窩は約3週間で回復した。その後現在に至るまで内歯瘻および外歯瘻はみられていない。この治療経過は2019年11月16日にSAGA22、2019年12月17日に第67回動物園技術者研究会にて「内歯瘻および外歯瘻を繰り返したチンパンジーの歯科治療:1症例報告」として発表した。


H31-A23
代:齋藤 渉
協:桃井 保子
協:花田 信弘
協:今井 奨
協:岡本 公彰
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

齋藤 渉 , 桃井 保子, 花田 信弘, 今井 奨, 岡本 公彰, 宮之原 真由

チンパンジー1個体の重篤な歯科疾患の治療
霊長類研究所チンパンジー歯科研究チームは、茨城県日立市立かみね動物園より、当該動物園で飼育中のチンパンジー1個体(メス、推定41歳、愛称マツコ)に対する歯科治療の要請を受け、平成30年度共同利用・共同研究活動として現地に赴いた。重篤な歯科疾患を有するチンパンジー1個体の歯科的対応に際しては、現地の歯科医師、獣医師、飼育員、また企業よりボランティアとして派遣された放射線技師らと協働した。当該個体は2008年入園時にすでに多数のう蝕歯を有しており、それがおおよそ10年を経て口腔内は憂慮すべき不健全状態にあった。2019年8月に、全身麻酔下で歯と歯周組織の視診・触診検査および全歯のX線検査 (図1) を行い、その結果に基づきただちに診断後治療方針を決定した。優先すべき処置として、左上中切歯、右上犬歯、右下第3大臼歯を抜歯し (図2)、処置後5日間消炎鎮痛薬を経口投与した。その後、患部の腫脹や食欲低下はみられず、抜歯窩は約3週間で回復した。この一連の診療経過は、 「内歯瘻および外歯瘻を繰り返したチンパンジーの歯科治療:1症例報告」 として、2019年11月16日にSAGA22で発表した。

チンパンジーの歯の象牙質の微細構造観察 (図3)
上述の抜去した左上中切歯を、ホルマリン固定し、実体顕微鏡観察後に写真撮影、次いで、X線マイクロCT (Shimadzu inspeXio SMX-225CT, Kyoto,Japan) で115 kv、70μA、スライス厚さ0.218 mm 条件下で撮像した。その後、抜去歯から切片を作製し、象牙質面を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、象牙細管の大きさや、象牙細管と管間象牙質が占める面積の割合すなわち象牙細管の密度、また成長線の間隔などはヒトの象牙質構造と近似していることがわかった。しかし、ヒトよりセメント質が厚く、管周象牙質形成がみられないことが特徴的であった。


H31-A24
代:田中 由浩
協:秋田 駿
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析

田中 由浩 , 秋田 駿

個体識別や感情推定について,カメラやマイクを用いた視聴覚情報を用いた研究開発が多く,触覚情報(力や振動)について検討が十分進んでいない.触覚情報は外から見えにくい性質も持ち,新たな情報源として基礎と応用の両側面で活用が期待される.そこで本研究では,チンパンジーのタップ動作を対象に,深層学習を用いた個体識別,提示課題における各種反応との関係を分析した.5個体に対し顔に見える画像の選択課題をタッチパネルで与え,タップによる振動データと反応時間,課題難易度,正解の有無を記録した.実験は6ヶ月間行われ,1個体に対し約90日,約3000タップのデータが集められた.個体識別ではタップによる振動を短く切り出し(0.04s),2つの振動センサ情報を用いることで,1タップで85%程度の識別率が得られた.また,課題難易度,1枚提示の単純課題,課題の正誤に対して,振動強度と反応時間による2次元分布を求めて比較した.その結果,個体差はあるが,単純課題では反応時間が短く,データ数を増やした検証が必要ではあるが,正解時と不正解時で分布全体の傾向がやや異なるように見られた.難易度による差は見られなかった.分布結果は,1タップで反応推定が可能というより,複数課題を通したデータ群による反応割合の推定可能性を示唆する.今後,課題の改良,ヒトに対する実験を通して,解析と考察を深めたい.


H31-A25
代:筒井 健一郎
協:中村 晋也
協:大原 慎也
協:吉野 倫太郎
協:森谷 叡生
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井 健一郎 , 中村 晋也, 大原 慎也, 吉野 倫太郎, 森谷 叡生

内側前頭葉、特に前部帯状皮質と扁桃体および側坐核との線維連絡の構成を明らかにするために、マカクザル(2頭)の扁桃体と側坐核にそれぞれ異なる蛍光タンパク質を発現する逆行性ウイルスベクターを注入し、内側前頭葉において標識される神経細胞の数・分布を調べる実験を行った。その結果、扁桃体や側坐核に投射する神経細胞が前部帯状皮質の膝周囲部や眼窩前頭皮質に多く認められた一方で、その分布パターンには違いがあることが明らかとなった。また、これらの結果を受けて、化学遺伝学的手法による神経経路選択的機能阻害実験を行うための準備を行っている。今後は、結果のさらなる解析を進めるとともに、機能阻害実験に着手したい。


H31-A26
代:森 裕紀
協:内海 力郎
協:佐藤 琢
動物の画像からの個体識別のためのパターン認識手法の開発
動物の画像からの個体識別のためのパターン認識手法の開発

森 裕紀 , 内海 力郎, 佐藤 琢

チンパンジーの個体認識と個体追跡について、画像処理・画像認識技術を用いた技術の検討を行った。
昨年度の研究では、Single Shot Multibox Detector (SSD)を用いたチンパンジー検出モデルを検討したが、本年度はYOLOv3を用いた検出モデルを検討した。
YOROはDeep Learningを用いた物体検出モデルとそのプロジェクトで、現在活発に研究開発が進められている。現在の最新バージョンは3でYOLOv3となっている。YOLOは認識性能だけでなく計算速度も性能が高くCOCO datasetを用いた学習でSSDと認識性能は同程度以上を保ったままで3倍程度速く、動作させることができる。
今回は、前年度と同じデータセットを用いて検証を行い、良好な結果を得た。


H31-A27
代:Daniel Schofield
The Bossou Archive Project
The Bossou Archive Project

Daniel Schofield

The Bossou Archive Project aims to digitise and catalogue video footage of wild chimpanzees from Bossou, Guinea, from over 30 years of fieldwork, and implement a framework for researchers to access and analyse this data. A key part of the Bossou Archive project is to develop a system to identify individuals and analyse their behavior longitudinally over 30 years. The Cooperative Research Program for 2019 focused on developing software using Artificial Intelligence to automatically identify Bossou chimpanzees from raw video footage. We developed a deep convolutional neural network (CNN) framework, for the detection, tracking and recognition of chimpanzees from archival footage. We used 50 hours of footage spanning 14 years, to obtain 10 million face images from 23 individuals to train our CNN models, which obtained an overall accuracy of 92.5% for identity recognition and 96.2% for sex recognition. This system provides the tools for efficiently annotating video footage and automatically generating processing of large volumes of video data, which can be used to analyse behaviour, such as chimpanzee social networks (Figure 1). The output of this work was published in Science Advances (Schofield, Nagrani, Zisserman, Hayashi, Matsuzawa, Biro, Carvalho, 2019: https://advances.sciencemag.org/content/5/9/eaaw0736). Currently, a web-framework is being developed to enable remote collaboration and annotation of the Bossou archive, and promote the next phase of development for new automated methods such as full body tracking and action recognition.



H31-A28
代:伊村 知子
ヒトとチンパンジーにおける質感知覚に関する比較認知研究

学会発表
Tomoko Imura, Shigeki Nakauchi, Nobu Shirai, Masaki Tomonaga Visual search for chromatic composition of art paintings by chimpanzees.(Belgium, Aug 25-29, 2019) 42nd European Conference on Visual Perception(Leuven, Belgium).
ヒトとチンパンジーにおける質感知覚に関する比較認知研究

伊村 知子

本年度は、チンパンジーの配偶者選択において重要な役割を果たす性皮の質感知覚として、チンパンジー7個体(オス3個体、メス4個体)を対象に、色情報やツヤやハリに対応する輝度情報の変化が性皮に対する選好に及ぼす影響について検討した。実験では、チンパンジーの性皮の最大腫脹時と最小腫脹時の画像を左右に並べて画面に4秒間提示し、チンパンジーのそれぞれの画像に対する注視時間をアイトラッカーを用いて測定した。性皮の画像は、林原類人猿研究センター生まれのチンパンジー2個体(撮影当時、歳11-12歳と8歳)を対象に毎日撮影されたものから、最小腫脹時と最大腫脹時のものを6枚ずつ選び、黒色背景上に配置した。カラー画像とモノクロ画像を作成した。1日につき12試行(2個体×6種類)を4セッション実施した。その結果、カラー画像、モノクロ画像にかかわらず、最小腫脹時よりも最大腫脹時の画像を有意に長く注視すること、モノクロ画像よりカラーの画像の方を有意に長く注視することが示された。このことから、チンパンジーは少なくとも性皮の腫脹に対する選好注視を示すこと、色だけでなく輝度の情報も手がかりとなる可能性が示唆された。


H31-A29
代:鯉江 洋
協:揚山 直英
協:中山 駿矢
協:白 仲玉
霊長類の加齢誘引疾患に関する研究
霊長類の循環器系加齢誘引疾患に関する研究

鯉江 洋 , 揚山 直英, 中山 駿矢, 白 仲玉

申請者はこれまでにカニクイザルならびにニホンザルの循環器疾患を中心に研究を行ってきた。サル類は生理解剖学的に人に近く、サル類を用いた循環器研究の結果が人医学に応用が可能である。また加齢に伴い発症する疾病も人と近い。今回も前年度からの研究を継続して「各種霊長類の発達と加齢に関する総合的研究」分野に申請を行った。今回の研究も昨年と同様に、獣医臨床学的手法を用い心臓の評価を行った。本研究結果は人とサル類を含めた霊長類全般に有意義な結果をもたらすものと思われる。
申請者らは、これまでの研究で、臨床上貴重な老齢性心臓疾患個体を発見し、継続的に経過観察を行っている。これらの基礎ならびに臨床データは、今後の獣医循環器分野ならびに霊長類の研究において、大変重要な指標となる。次年度も引き続き、これらの貴重な個体の継続研究を行いたいと考えている


H31-A30
代:上園 志織
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究
霊長類島皮質の神経ネットワークに関する解剖学的研究

上園 志織

大脳基底核から島皮質への多シナプス的入力を解析するために、越シナプス的逆行性トレーサーである狂犬病ウイルスベクターをマーモセットの島皮質に注入した。MRIを用いて脳画像を取得、脳アトラスを参考にして島皮質の亜領野(無顆粒性島皮質、不全顆粒性島皮質、顆粒性島皮質)を同定、それぞれ異なる蛍光タンパク(青、緑、赤)を発現する狂犬病ウイルスベクターを注入した。三次的ニューロンラベルを得るために3日間の生存期間を設けたのち、灌流固定を行い、脳を摘出した。蛍光実体顕微鏡で脳を観察し、3種類の蛍光ラベル(青、緑、赤)を確認した。脳の薄切を行い、組織標本を作製し、主に大脳基底核(線条体、視床下核、淡蒼球外節)の三次的ニューロンラベル着目してニューロンラベルを観察した。大脳基底核におけるニューロンラベルには類似性が見られたため、大脳基底核からの入力様式については島皮質全体で類似している可能性がある。当該研究の対象である島皮質は他の大脳皮質に比べ深部にあり、島皮質の亜領野への限局的な注入を成功させるためには、注入実験の方法をこれまで以上の精度でおこなう必要があることが分かったため、研究協力者とMRI画像の撮像プロトコル、注入実験の条件、麻酔方法の検討を進めた。2020年度は見直しをおこなったシステムでのトレーサー注入実験を行う予定である。


H31-A31
代:原田 悦子
協:須藤 智
チンパンジーにおける健康な加齢にともなう認知的機能やモノとの相互作用の変化
チンパンジーにおける健康な加齢にともなう認知的機能やモノとの相互作用の変化

原田 悦子 , 須藤 智

今年度,チンパンジーの超高齢個体および高齢期個体における実験時の状況を観察しながら,ヒトの健康な加齢に伴う新奇なICT基盤人工物利用時に見られる特異的行動との共通性と相違性について,データの再分析などから明らかにしていく予定であったが,申請者の健康上の理由などから,具体的な研究を進めることは困難であった.ただし,議論のなかで,1) 知覚的,運動的な反応遅延,および2) 特にその影響が大きく出る「課題困難度」(課題事態に伴う負荷条件)によって課題への主体的な取り組みを放棄するなどの反応,については,おそらく共通に観察されるものと思われ,また3) 時間圧,社会的圧などの何らかの外的な認知的負荷が加算された場合にそれらの加齢の影響が大きく生じることも共通要素として存在することが強く期待されている.そうした影響とメタ認知の問題について,またその際に(活動を媒介する)「道具利用」の有無がどのような影響を与えるのか,それに関連して,方略変更が何を契機にどのように発生するかなどの問題を明らかにすべきであることが確認された.


H31-A32
代:竹下 秀子
協:山田 信宏
協:高塩 純一
協:櫻庭 陽子
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

論文
櫻庭陽子(2020) 身体障害をもつチンパンジーとその仲間たち モンキー 4(4):印刷中. 謝辞あり

学会発表
Sakuraba,Y., Yamada, N., Takahashi, I., Kawakami, F., Takashio, J., Takeshita, H., Hayashi, M., Tomonaga, M. Care and rehabilitation activities for a chimpanzee with cerebral palsy: a case study.(August 5-9, 2019.) 53rd Congress of the International Society for Applied Ethology(Bergen, Norway).

Sakuraba,Y., Yamada, N., Takahashi, I., Kawakami, F., Takashio, J., Takeshita, H., Hayashi, M., Tomonaga, M. Evaluating of physical state on a female chimpanzee with cerebral palsy: a case study. (June 22-26, 2019) International Conference on Environmental Enrichment(Kyoto, Japan).

Yamada, N., Takeshita, H., Takashio, J., Sakuraba, Y., Takahashi, I., Kawakami, F., Hayashi, M., Tomonaga, M. Developmental support of chimpanzee with cerebral palsy. Evaluating of physical state on a female chimpanzee with cerebral palsy: a case study. (June 22-26, 2019) International Conference on Environmental Enrichment(Kyoto, Japan).
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

竹下 秀子 , 山田 信宏, 高塩 純一, 櫻庭 陽子

2019年度は引き続き左側機能の増強、右側機能の改善を得るとともに、全体として粗大運動から運動技巧へと運動発達の課題が拡大した。屋内飼育室の左右に張られた数本のロープをブラキエーションや「左右足底ロープ接着・左右手掌ロープ把握の二足立位移動」を駆使して移動し、高所壁際に配置された食物に到達するなど、3次元空間における全身粗大運動が、不安定な基盤からアフォードされつつ展開された。右下肢が支持機能に加えて推進機能を担う場面も見られるようになった。移動時における右半身の身体知覚の向上と、「両足底接地・やや右側に体幹を傾斜・後方への反り返りを含む座位で、左手把握のペットボトルの角度を左前腕回内などの調整によって効率的に果汁を飲む」、「塩ビ管のフィーダーを転がす試行錯誤を経て穴からペレットをとりだす」など、物とのかかわりにおける運動技巧の精緻性が向上した。姿勢運動の安定を基盤に手指の直接操作の経験が物とのかかわりにおいて蓄積され、物体の属性にそくした操作が随時発現した。次年度に向けては、引き続き3次元空間を多様な素材を利用してエンリッチメントしていくことを基本に、他者とのかかわりを絶やすことなく、身体運動的にも社会的にもプレイフルな時間を日常生活に確保する方途を探っていく。


H31-A33
代:齋藤 亜矢
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究

齋藤 亜矢

チンパンジーを対象とした対面場面における描画課題の実施が困難な状況となったため、パネルの開口部を通して描画用の画材を受け渡すという新たな課題場面の構築をおこなった。その際、より正確に描線を記録するためにデジタルペンを導入する予定であり、共同研究者の幕内氏らとの連携により、その準備をおこなっている。


H31-B1
代:一柳 健司
協:平田 真由
協:一柳 朋子
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

学会発表
平田真由, 一柳朋子, 橋本拓磨, 今村公紀, 一柳健司 ヒトおよびチンパンジーiPS細胞を用いたヒストン修飾の比較解析(2019年12月) 第42回日本分子生物学会年会(福岡).

一柳健司 霊長類のエピゲノム進化におけるシス制御配列やトランスポゾン配列の役割(2019年9月) 中部幹細胞クラブシンポジウム「幹細胞人類学」(名古屋).
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

一柳 健司 , 平田 真由, 一柳 朋子

これまでに今村助教が樹立されたキク、マリ、ケニー由来のiPS細胞と理化学研究所から入手したヒトiPS細胞を本研究室にて同条件で培養し、mRNA-seqを行ったところ、両種のトランスクリプトームはほぼ変わらないことを明らかにしてきた。また、small-RNA-seqの解析を行い、チンパンジー特異的なレトロトランスポゾンであるPERVを除けば、種間でのpiRNA発現量差は確認できず、piRNAも種間差が小さいことも明らかにしてきた。

昨年度の研究結果でヒトとチンパンジーのiPS細胞が質的に非常に近いことを示し、リプログラミングの度合いが似ていて、比較可能であると考えられたため、これらのiPS細胞でChIP-seq解析を行い、H3K4me3、H3K27me3、及びH3K27acのゲノム分布を調べた。ヒストン修飾状態は大部分のゲノム領域で種間差がなく、トランスクリプトームの類似度と矛盾しなかった。しかし、ヒトiPS細胞特異的H3K27me3のピークが神経系の発生過程で重要な遺伝子の近傍に多いことが分かり、iPS細胞では両種共に遺伝子発現はなかったが、神経系細胞への分化時に差が生まれ、脳の機能や大きさの種間差に寄与している可能性が示唆された。転写活性化マーカーであるH3K4me3と抑制マーカーであるH3K27me3の両方が検出できるbivalent(両極性)ドメインについて、ヒトiPS細胞特異的なドメインは、頭蓋刻形成に関わる遺伝子のエンハンサーなどが含まれていた。
さらに、ヒト特異的レトロトランスポゾンであるLTR5HSは、その転移によって、蘇運輸箇所周辺にヒト特異的になH3K4me3領域を作り出し、近傍遺伝子を活性化することを発見した。
これらの成果は現在、投稿準備中である。


H31-B2
代:鈴木 俊介
協:土井 達矢
協:竹内 亮
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

鈴木 俊介 , 土井 達矢, 竹内 亮

ヒト特異的転移因子を両アリルで欠失させたヒトiPS細胞を神経系細胞に分化誘導した際の,ホスト遺伝子の発現動態を野生型と比較するため,当該年度においては,CRISPR/CAS9によるゲノム編集実験に用いるガイドRNAの切断効率の検証および,これまでに用いていたプラスミドベクターを細胞にトランスフェクションする系ではなく,ガイドRNAとCAS9タンパク質を直接トランスフェクションする方法の条件検討やゲノム編集効率の検証を行い,より効率よくゲノム編集を行うことのできる実験系を構築した。


H31-B3
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand

学会発表
Sellers WI, Hirasaki E Functional Classification of Dynamic Hand Shape in Primates.(2019.7) International Conference on Vertebrate Morphology 2019.(Prague).

Hirasaki E, Sellers WI Analysis of the palmar pressure distribution during locomotion in Japanese macaques. ( 2019.10) The 72nd Annual Meeting of the Anthropological Society of Nippon(Saga).
The comparative biomechanics of the primate hand

William Sellers

This project forms part of our ongoing research into the biomechanics of primates. We are currently working on the finger movements and grip pressures associated with vertical climbing in Japanese macaques. This last year we had two research goals. Firstly, we needed to improve our data collection methodology to properly capture vertical climbing. The challenge here is that very often the position of the body of the macaque obscures the view of the digits from the cameras and this reduces the amount of usable data we are able to collect in any experimental situation. This is exacerbated by the need for the hand to be placed in the centre of the pressure pad to ensure accurate data recording for the entire hand. We therefore obtained a large number of extra repeats of the basic experimental protocol to ensure reasonable coverage of our two subject animals. Secondly, for the first time, we attempted to collect a comprehensive dataset on the feet and the movements of the toes. This experiment uses exactly the same 8-camera markerless motion capture approach filming the subject animals climbing on the instrumented scaffolding pole as the hand experiments but with the positions of the cameras and pressure pad altered to allow us to record the foot. This experiment has the added difficulty that, due to the length of the digits, the degree of wrapping around the pole is very much larger than seen during the hand experiments and this makes getting a complete view of the digits extremely challenging. There was also the additional potential difficulty that the change in experimental setup required for foot observations might cause problems in terms of training the animals to perform the required actions, although in fact this caused very little delay. The hand experiments have worked well and we now have a good level of coverage there. The foot experiments should benefit from trying different camera positions (and indeed extra cameras) to cover the full movement of the pedal digits and this will be the focus of our 2020 experiments so that we have good coverage for both extremities for vertical climbing. We have presented our initial findings at both the International Congress of Vertebrate Morphology and at the Anthropological Society of Nippon and are continuing to work on data analysis in readiness for publication.


H31-B4
代:Lia Betti
協:Todd Rae
"Positional, dimorphic and obstetric influences on pelvic shape in primates"
"Positional, dimorphic and obstetric influences on pelvic shape in primates"

Lia Betti , Todd Rae

Our project will test the relative importance of locomotion, habitual posture, and obstetric-related selective pressures in shaping the pelvis and birth canal in humans and other primate species, using an improved and innovative methodology. We plan to use 3D landmarks and semilandmarks derived from virtual 3D reconstructions based on CT scans of articulated pelves to achieve a high-definition representation of the shape of the pelvis and birth canal in a variety of primate species.
The data collection began with a visit to the Kyoto University Primate Research Institute (PRI) in Inuyama (23 June to 06 July 2019). During this trip, Dr Lia Betti and Dr Todd C. Rae from the University of Roehampton met with their collaborator Dr Eishi Hirasaki at the PRI, to CT-scan a series of cadavers of primates. The aim of this part of the data collection is to inform of the differential contribution of hard and soft tissue in forming the pelvic girdle and pelvic canal in primates of both sexes. We were able to scan 34 cadavers from 14 species. We aimed for at least one male and one female per species. Although the analyses of the scans will only start at the beginning of summer 2020, preliminary observations revealed unexpected differences in the contribution of soft tissue to the pelvic canal in different species and between the sexes, demonstrating that taking into consideration the soft tissue is extremely important in order to gauge the size and shape of the birth canal in primates based on skeletal remains. Some species, such as Galago senegalensis, show a dramatic level of sexual dimorphism: the male pelvis is fused at the pubic symphysis and soft tissue does not contribute to the pelvic canal, whereas the female pelvis is widely open at the front with a large contribution of soft tissue to enlarging the canal for the passage of the neonate. Other species, such as Pan troglodytes, show no sexual dimorphism in the contribution of soft tissue, with both sexes having a fused or tightly close pubic symphysis.
Data collection for the second part of the project started in London in July. The aim of this part of the project is to acquire a wider knowledge of pelvic canal variation and sexual dimorphism across primates using skeletal remains. Skeletal remains are available in larger numbers than cadavers, and we will correct for the contribution of the soft tissue in different primate groups based on the cadaveric data. Suitable specimens were selected from the Powell-Cotton and the Natural History Museum. CT-scanning started on the 2nd of November 2019 at the Royal National Orthopaedic Hospital in London (medical CT scanner), and at the University of Roehampton (PQCT machine). A total of 54 skeletal specimens have been scanned so far, belonging to 18 primate species. All scanning has now been put on hold due to the Covid-19 pandemic, but we are hoping to continue the data collection in 2021.


H31-B5
代:江成 広斗
ボイストラップ法によるニホンザル探知技術の高度化

論文
Enari H(2021) Human–macaque conflicts in shrinking communities: recent achievements and challenges in problem solving in modern Japan Mammal Study 受理. 謝辞あり
ボイストラップ法によるニホンザル探知技術の高度化

江成 広斗

2013年度に政府が示したニホンザル加害群の半減計画を受けて、各地で本種の捕獲圧が高まっており、保護と管理のバランスを保つための個体群評価の重要性は高まっている。そこで筆者はニホンザルが発する鳴声を指標とする新たな個体群モニタリング技術「ボイストラップ法」の開発に取り組んでいる。ボイストラップ法のメリットはその検知可能範囲の広さと、検知の自動化にある。そこで、検知の完全自動化を目指し、機械学習をもちいた判別モデルを構築するために、本研究では白神山地北東部(青森県西目屋村)において7台、朝日山地北西部(山形県鶴岡市、新潟県村上市)において8台の固定型録音機(song meter SM2+もしくはSM3)を2019年5月、7月、10月に設置し、それぞれ1か月間連続録音をして各種鳴声データを回収した。回収したデータは音声スペクトログラムに変換し、主要な鳴き声に分別して、蓄積した。現在、これらのデータを学習データとして、新たな鳴声判別モデルを構築に取り組んでいる。同種の鳴声であっても、地域性や季節性が大きなものがあることが明らかとなり、そうした変化の多い鳴声については今後も継続して鳴声を収集し、モデルの判別精度を高めていく予定である。


H31-B6
代:風張 喜子
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討

学会発表
山口飛翔・風張喜子 金華山の野生ニホンザルにおける第一位オスの群れへの出入りとそれに伴う群れのまとまりの変動(2020/12/4~6) 第36回日本霊長類学会大会(オンライン開催).
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討

風張 喜子

ニホンザルは、メンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。これまでの研究で、各個体が周囲の個体の動向を把握し自分の行動を調節することで互いの近接が保たれていることが示唆されている。一方で、群れが一時的に2つ以上の集団に分かれて行動する分派も時に見られる。通常は互いに離れないようにふるまうニホンザルがなぜ分派するのか、明らかになっていることは少ない。本研究では分派の直接観察を通じてその要因を検討することを目的とした。宮城県金華山島の野生ニホンザルにおける過去6年間の事例を分析すると、分派集団は群れ全体の動向が把握できる状況で群れの広がりのあちらこちらから個体が集まってできる場合と、群れ全体の動向が把握できない状況で群れの周縁部が分断されてできる場合とに分けられた。前者は群れ全体の動向を各個体が独自に把握しどちらかの集団を選択しているのに対して、後者は群れ全体の動向を把握できず近接個体の動向に頼ったために起きた非意図的分派と考えられた。今後も観察例を蓄積するとともに、事例ごとの意図性の判別・要因の検討を行う。また、秋には先行研究の報告とは異なるパターンの分派が繰り返し観察され、共同研究者とその要因の分析を進めている。


H31-B7
代:Heui-Soo Kim
協:Hee-Eun Lee
協:Jennifer Im
協:Woo Ryung
Transposable element derived Mirco RNA analysis in various primate tissues

学会発表
Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Analysis of Long Interspersed Element Derived Micro RNA 625(2019.08.13) 2019 Joint International Symposium of Korean Society of Life Science and Interdisciplinary Society of Genetic & Genomic Medicine(Busan,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression Analysis of miR-17-5p, miR-21-5p and miR-221-3p in Pan troglodytes(2019.08.13) 2019 Joint International Symposium of Korean Society of Life Science and Interdisciplinary Society of Genetic & Genomic Medicine(Busan,Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Woo Ryung Kim, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Analysis of Long Interspersed Element derived microRNA 625 in Human and Western Chimpanzees(2019.10.02) 2019 International Conference : Korean Society for Molecular and Cellular Biology(Seoul,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression profile and Bioinformatics Analysis of miR-17-5p, miR-21-5p, miR-221-3p in Pan troglodytes (2019.10.02) 2019 International Conference : Korean Society for Molecular and Cellular Biology(Seoul,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression Analysis of miR-21-5p, miR-221-3p in Pan troglodytes(2019.11.22) International Conference on the Genetics Society of Korea 2019(Seongnam,Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Woo Ryung Kim, Jae-Won Huh, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim The Enhancer Activity of microRNA-625 derived from Long Interspersed Nuclear Element Induced by NF- κB(2019.11.22) International Conference on the Genetics Society of Korea 2019(Seongnam,Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Woo Ryung Kim, Jae-Won Huh, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Various Number Tandem Repeats in 3’UTR of SHISA7 Promotes Enhancer Activity of microRNA-3681(2019.11.22) International Conference on the Genetics Society of Korea 2019(Seongnam,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of miR-21-5p, miR-221-3p in Pan troglodytes(2019.12.19) The Korean Society for Integrative Biology(Gangwon-do,Republic of Korea).

Woo Ryung Kim, Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Expression and Bioinformatic Analysis of miR-21-5p, miR-221-3p in Chimpanzee(2020.02.07) The Korean Society for Microbiology and biotechnology(Gyeong-ju, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Sang-Je Park, Jae-Won Huh, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Long terminal repeats derived microRNA-3681 represses the activity of variable number tandem repeats in the 3′ UTR of SHISA7(2020.02.07) The Korean Society for Microbiology and biotechnology(Gyeong-ju, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Sang-Je Park, Jae-Won Huh, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim The enhancer activity of long interspersed nuclear element derived microRNA 625 induced by NF-κB(2020.02.07) The Korean Society for Microbiology and biotechnology(Gyeong-ju, Republic of Korea).
Transposable element derived Mirco RNA analysis in various primate tissues

Heui-Soo Kim , Hee-Eun Lee, Jennifer Im, Woo Ryung

Transposable element (TE) is a DNA sequence that jumps around the genome to insert or delete the part of the genome is also known as transposon or jumping genes. Previous studies revealed that TEs generates new factors by cut- or copy- and -paste into the genome. MicroRNA (miRNA) is one of factor that TE generates and considerable number of miRNAs are derived from TE. MiRNA is identified as class of small non-coding RNA molecules which plays an important role as a regulator of gene expression. Numerous miRNAs are related in human cancer and hsa-miRNA-625 is well-known for oncomiR, miRNAs associated with cancer. Bioinformatics tools were used to select the best target gene with highest binding site of hsa-miRNA-625-5p in the 3’ untranslated region (UTR). The relative expression of hsa-miRNA-625-5p and target gene was confirmed to examine the comparison between different number of canonical binding sites and location of miRNA binding sites designed in 3’ UTR of target gene, GATAD2B. The expression of primers designed in front of 3’ UTR in target gene shows higher expression than primers designed in back of 3’UTR. The luciferase assay revealed the enhancer function of hsa-miRNA-625 and 3’UTR of GATAD2B, as well as more activity increased by NF-κB. In this study, the bioinformatics and experimental analysis provides the data of quantity of canonical binding sites and location of miRNA binding sites affects the target gene expression and NF-κB increases the enhancer activity of hsa-miRNA-625-5p by sharing the binding sites in 3’UTR of GATAD2B.


H31-B8
代:浅川 満彦
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

論文
Hasegawa, H., Matsuura, K., Asakawa, M.(2019) Nematodes belonging to the genus Ternidens (Strongyloidea: Chabertiidae) found in a talapoin Miopithecus talapoin, imported for sale as a pet. Jpn. J. Vet. Parasitol. 18:65-71. 謝辞あり

浅川満彦(2019) 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった関東および中部地方におけ研究活動概要 青森自誌研(23):35-42.

鈴木夏海・浅川満彦(2019) 書籍紹介『Parasites of Apes: An Atlas of Coproscopic Diagnostics』 野生動物医学会ニュースレターZoo and Willife News(49):32-33.

学会発表
Hasegawa, H., Matsuura, K., Asakawa, M. Nematodes belonging to the genus Ternidens (Strongyloidea: Chabertiidae) found in a talapoin Miopithecus talapoin, imported for sale as a pet. Jpn.(2019年10月28日) 12th International Meeting of Asian Society of Conservation Medicine (ASCM) (カンボジア(プノンペン)).

石島栄香, 清野紘典, 岡本宗裕, 平田晴之, 浅川満彦 徳島産ニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫保有状況-国内Macaca属から検出された報告と比較して(2019年8月31日) 第25回日本野生動物医学会大会(山口大学).

石島栄香, 浅川満彦 国内Macaca属サル類に寄生する線虫類の地理的分布-特に、最近実施した東北・四国地方での野生種と輸入サル類の調査研究から(2019年9月13日) 日本線虫学会第27回大会(つくば).

関連サイト
酪農学園大学リポジトリ上の浅川(2019)。謝辞に貴所助成言及 https://rakuno.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=5622&item_no=1&page_id=13&block_id=37
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

浅川 満彦

関東・東北地方との境界に所在する茨城県つくば市・東筑波ユートピア内のニホンザル飼育施設でにニホンザルの飼育状況の視察と糞便などの採集可否についてついて踏査した。その結果、当該施設の現状では研究協力が難しい印象を受けた。四国地方の個体については、(株)野生動物保護管理事務所で有害捕獲されたサンプルを用い次のような2つの学会報告が予報された;石島栄香, 清野紘典, 岡本宗裕, 平田晴之, 浅川満彦. 徳島産ニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫保有状況-国内Macaca属から検出された報告と比較して.第25回日本野生動物医学会大会.山口大学, 8月30日から9月2日.石島栄香, 浅川満彦.国内Macaca属サル類に寄生する線虫類の地理的分布-特に、最近実施した東北・四国地方での野生種と輸入サル類の調査研究から. 2019 年度日本線虫学会第27回大会,つくば,9月11日から13日。また、関東地方におけるニホンザルの寄生虫調査概要は次の総説で刊行され、今後の研究基盤情報とした;浅川満彦, 2019.酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった関東および中部地方におけ研究活動概要.青森自誌研, (23): 35-42.公衆衛生学的な知見としては愛玩用のタラポアンにおける腸結節虫類の分類学的な検討をして次の論文で刊行された;Hasegawa, H., Matsuura, K., Asakawa, M.2019: Nematodes belonging to the genus Ternidens (Strongyloidea: Chabertiidae) found in a talapoin Miopithecus talapoin, imported for sale as a pet. Jpn. J. Vet. Parasitol.,18:65-71。なお、この報告はカンボジアで開催されたアジア野生動物学会(12th International Meeting of Asian Society of Conservation Medicine (ASCM) in Phnom Penh, Cambodia, Oct., from 25 to 27)で予報された。この腸結節虫症は書籍『Parasites of Apes: An Atlas of Coproscopic Diagnostics』で記載されたが、この内容を分析し、鈴木夏海・浅川満彦.2019.野生動物医学会ニュースレターZoo and Willife News(49)で書籍紹介した。                        


H31-B9
代:吉村 崇
協:沖村 光祐
霊長類の視覚の季節変化の分子基盤の解明
霊長類の視覚の季節変化の分子基盤の解明

吉村 崇 , 沖村 光祐

代謝、免疫機能、気分など、ヒトの様々な生理機能は季節の変化を示す。また、心疾患、肺がん、精神疾患などの発症率にも季節の変化が存在するが、それらの季節変化をもたらしている分子基盤は明らかにされていない。次世代シーケンサーの進歩により、様々な組織の時系列試料において全転写産物の振る舞いをゲノムワイドに明らかにできる環境が整った。我々はこれまでに季節応答の明瞭なメダカを屋外の自然条件下で飼育し、1か月に1度、2年間にわたって採材した視床下部、下垂体において、年周変動する遺伝子を約3000個同定することに成功している(図)。サルは進化的な距離がヒトに近く、これまでヒトの生理機能や病態の理解に必須の役割を果たしてきた。特に、ヒトの様々な生理機能や病態の季節変化の分子基盤の全容を明らかにするためには、明瞭な季節応答を示すマカクザルを用いる以外に研究手段がない。そこで本研究では、屋外の自然条件下で飼育されているマカクザルにおいて、全身の様々な組織における全転写産物の年周変動をRNA-seq解析によって網羅的に明らかにすることを目的とした。2019年度は10月、12月、2月に採材を計画通りに実施した。2020年度についても8月まで採材を継続し、RNA-seq解析を実施する。


H31-B10
代:岩永 譲
協:渡部 功一
協:喜久田 翔伍
協:R. Shane Tubbs
協:山木 宏一
霊長類における口唇周囲の表情筋に関する新たな知見の解明

論文
Iwanaga J, Watanabe K, Kikuta S, Hirasaki E, Yamaki K, Bohm RP, Dumont AS, Tubbs RS.(2020) Anatomical study of the incisivus labii superioris and inferioris muscles in non-human primates The Anatomical Record doi: 10.1002/ar.24406.. 謝辞あり
霊長類における口唇周囲の表情筋に関する新たな知見の解明

岩永 譲 , 渡部 功一, 喜久田 翔伍, R. Shane Tubbs, 山木 宏一

上唇切歯筋(incisivus labii superioris:ILS)および下唇切歯筋(incisivus labii inferioris:ILI)の走行や口輪筋との関係は人においてもほとんど記載がなく、近年筆者らがヒト屍体を用いて解剖学的研究として発表した。しかし、ヒト以外の霊長類における同筋の形態、走向、起始・停止や口輪筋との関係は過去に報告がなく、その解明により、霊長類における発声・咀嚼などの行動の解明の一助になると考えられた。そのため、本研究の目的は霊長類における同筋の形態学的特徴を明らかにすることであった。カニクイザル5体、ニホンザル1体、ヤクザル1体、チンパンジー1体の屍体頭部(中・下顔面表層のみ)の解剖を行ったところ、全ての種において、同筋は確認された。チンパンジー以外の種においてはヒトのそれと形態学的に類似していたが、チンパンジーにおいては、他の霊長類よりも発達した筋が観察された。本研究結果は論文として投稿し、Anatomical Recordに採択されている。



H31-B11
代:山口 飛翔
ニホンザルの交尾期におけるオスの攻撃とメスの凝集性の関連の検討
ニホンザルの交尾期におけるオスの攻撃とメスの凝集性の関連の検討

山口 飛翔

霊長類では、繁殖をめぐる性的対立によってオスからメスへの攻撃が頻繁に見られる。こうした攻撃はメスにとってコストになるため、メスは対抗戦略を進化させてきたと考えられている。本研究では、宮城県の金華山島に生息するニホンザルを対象として、メスが交尾期に休息時の凝集性を高めることでオスの攻撃に対抗しているという仮説を検証することを目的として行った。本研究の結果、まずオスから攻撃されるリスクが高い日ほど、メスの休息時の凝集性が高くなることが示された。また、休息時に凝集性が高まる際にメスが第一位オスの周囲に集まる傾向があったこと、そして第一位オスと近接しているときにメスが他のオスから攻撃を受けにくくなったことから、メスが交尾期に第一位オスを「用心棒」として頼って近接した結果として、休息時の凝集性が高まっていたことが示唆された。一方で、凝集する個体数が多いほど攻撃される頻度が低下するという結果は得らなかったが、攻撃の激しさを考慮すれば、凝集すること自体がオスの攻撃への対抗になっている可能性も示された。しかし、データ数が少なく定量的な解析を行うことができなかったため、結論を得るためには今後さらにデータを蓄積する必要がある。


H31-B12
代:松本 惇平
協:柴田 智広
協:Rollyn Labuguen
協:Salvador Blanco
協:Dean Bardeloza
マカクザルマーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

学会発表
Labuguen R, Bardeloza DK, Blanco NS, Matsumoto J, Inoue K, Shibata T Primate Markerless Pose Estimation and Movement Analysis Using DeepLabCut( 2019/5/30 - 2019/6/2) 2019 Joint 8th International Conference on Informatics, Electronics & Vision (ICIEV) and 2019 3rd International Conference on Imaging, Vision & Pattern Recognition (icIVPR)(Spokane, WA, USA).

Jumpei Matsumoto, Koki Mimura, Tomohiro Shibata, Kenichi Inoue, Yasuhiro Go, Hisao Nishijo Development and application of 3D markerless motion capture system for analyzing social and emotional behavior in animals.( 2019/12/16-17) Toyama Forum for Academic Summit on“Dynamic Brain”( 富山).

Jumpei Matsumoto, Hisao Nishijo, Koki Mimura, Kenichi Inoue, Yasuhiro Go, Tomohiro Shibata Development and applications of 3D markerless motion capture systems for analyzing monkey behavior( 2020/1/8-10) 脳と心のメカニズム 第20回冬のワークショップ( 北海道蛇田郡).

Jumpei Matsumoto, Hisao Nishijo, Koki Mimura, Kenichi Inoue, Yasuhiro Go, Tomohiro Shibata Utilization of animal markerless motion capture in neuroscience( 2020/3/17-19) 第97回日本生理学会大会( 大分).
マカクザルマーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

松本 惇平 , 柴田 智広, Rollyn Labuguen, Salvador Blanco, Dean Bardeloza

本研究では、最新の機械学習アルゴリズム(深層学習など)を用いて、任意の画像および映像内のマカクザルの姿勢をマーカーレスで推定するソフトウェアを開発を目指す。初年度である2018年度では、霊長類研究所の放飼場等で飼育されているサルの日常の様子を撮影し、得られた画像データをもとに教師データを作成した。さらに、その教師データをもとに機械学習アルゴリズムを訓練し、単一個体が写った画像においては、良好な姿勢推定精度が得られた。二年目の2019年度は引き続き放飼場等での撮影を行うとともに、霊長類研究所の大学院生などの協力を得て、教師データ(関節位置などのラベリング)の改善を行った。これまでに、延べ約17000頭分の高品質な教師データが得られている(図A; 査読付き国際学会で発表(Labuguen et al., 2019)し、現在論文誌への投稿を準備中)。また、開発したソフトウェアを所内対応者の井上助教の所有するパーキンソン病モデルサルの動作解析へ応用し、筋固縮などのパーキンソン病の特有症状に対応する行動変化を客観的・定量的に評価することに成功した(図B)。さらに、社会行動などにおける複数の個体の動作を同時に解析することを可能とするために、作製したデータセットと深層学習を用いて複数個体の写った画像から各個体の検出を行う予備検討を行った。その結果、高い精度で個体検出が可能であることが明らかになった(図C)。今後は個体検出と各個体姿勢推定を組み合わせ、複数個体の社会行動なども解析が可能なソフトウェアの構築を目指す。
 本研究で開発中のソフトウェアは、姿勢や動作の解析から、運動機能や情動、行動意図、社会行動を客観的・定量的に評価することを可能にし、種々の脳機能の研究や野外生態調査、サルの健康管理など多くの分野への貢献が期待される。


H31-B13
代:栗原 洋介
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

学会発表
栗原洋介 ニホンザルはどこで枯死木を壊す?:主要採食樹と地形の影響(2019/6/8) ニホンザルの「暮らし」を俯瞰する―遺伝子・行動・生態・人との関わり―(京都大学霊長類研究所(愛知)).
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

栗原 洋介

本研究の目的は、ニホンザルが枯死木分解にあたえるインパクトを定量することである。本年度は、主に枯死木バイオマス評価方法の確立および屋久島海岸域における枯死木調査プロットの作成を行った。凹凸が多く不規則な形状をしている枯死木の体積を客観的に評価するために、フォトグラメトリにより 3D モデルを作成した。この手法が野外における枯死木の体積・表面積推定にも有効であることがわかった。また、屋久島・西部林道沿いに枯死木調査プロットを 10 箇所作成した。対象の材を複数個に分割し、一方はそのまま放置、他方はサルが破壊できないようにネットで覆った。自動撮影カメラを設置し動物の訪問を調べるとともに、定期的に材の体積を計測することで、動物の訪問と枯死木の体積減少速度の関連を調べている。前年 2018 年にも同様の調査プロットを予備的に 10 箇所設置していたが、サルはすべての材を訪問し、そのうち 5 箇所において、そのまま放置した材がサルによって大きく破壊されていた。来年度以降は、サルの行動観察を本格的に実施するとともに、枯死木のモニタリングを継続する。


H31-B14
代:半沢 真帆
群間エンカウンターを通して構築されるニホンザルの群間および群内関係
群間エンカウンターを通して構築されるニホンザルの群間および群内関係

半沢 真帆

ニホンザルは、群れが隣接している地域ではエンカウンターが起こる。他群との直接的交渉によるケガなどのリスクを下げるため、敵対的交渉時における群内個体間の協力は必要不可欠であるが、まだ未解明な部分が多い。また、他群への敵対性や親和性は個体により異なる。そこで本研究は、ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)において、個体ごとのエンカウンター時における他群個体との敵対的交渉および親和的交渉を詳細に記録した。結果、敵対的交渉時では、オトナオスやワカモノオスが多く参加し、突進が多く見られた。また、高順位オスと低順位オス間で連合攻撃や援助の要請が見られた。高順位オスは他のオスが参加しているところに要請を受けて攻撃に参加し、自群の参加頭数が多いほど突進する傾向にあった。一方、低順位オスは自群の高順位オスが参加する時ほど突進する傾向にあった。また、援助要請では、自群の参加頭数が少ないほど、他群の相手がオトナオスであると起こる傾向があった。他方、親和的交渉時ではワカモノオスとコドモの参加率が高く、同年齢の他群個体と社会的遊び、マウント、毛づくろいが見られた。敵対的交渉時において高順位オスと低順位オスの間で連合攻撃や援助の要請が見られたことは、平常時の群れ内の個体間関係とは異なった群内個体間のネットワークが構築されている可能性を示唆していた。また、他群への攻撃では、高順位オスは要請に応じて援助するという受動的な性質が、逆に低順位オスでは高順位オスの前で他群への敵対性を見せるという能動的な性質が認められた。しかし、攻撃の大半は肉体的接触に至らない突進であり、その生起率は自群と他群の前線の状況が影響していることから、怪我のようなリスクを回避しながらエンカウンターへの積極性をアピールしていると考えられた。他方、親和的交渉時にコドモやワカモノオスを中心とした参加が見られたことは、他群個体との交渉を通じて、その個体の社会性を高めている可能性や、将来移籍する可能性のある周辺の群れの情報収集をしていることを示唆していた。


H31-B15
代:藤田 一郎
協:稲垣 未来男
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定

藤田 一郎 , 稲垣 未来男

霊長類において、潜在的な危険情報の視覚的な検出に大脳皮質視覚経路だけでなく皮質下視覚経路も関わると考えられているが、解剖学的な証拠は乏しい。本研究では、危険情報の処理を担う扁桃体へ越シナプス性逆行性神経トレーサーを注入し、入力経路を順番に辿ることで皮質下視覚経路の解明を目指している。昨年度のアカゲザル1頭目の実験に引き続き、今年度は2頭目の個体について実験を行って再現性を検証した。トレーサー注入後の生存期間は2日として、トレーサーが最大でも2シナプスしか越えないように実験条件を設定した。1頭目のデータと同様に、視床枕および上丘において扁桃体を始点として逆行性に標識された神経細胞が存在することを確認した。視床枕では多くの神経細胞が、上丘では少数の神経細胞が標識されていた。また、上丘における標識細胞の分布を調べた結果、網膜の神経節細胞から入力を受ける上丘浅層に標識細胞が存在することが分かった。網膜からの視覚情報が上丘と視床枕を経由して少ないシナプス連絡で扁桃体へと伝わることを強く示唆する結果を得た。


H31-B17
代:岩槻 健
協:稲葉 明彦
協:中安 亜希
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

学会発表
山田政明, 中安亜希, 稲葉明彦, 山根拓実, 大石祐一, 岩槻健 マウス有郭乳頭の腎皮膜下移植の試み  (2019.9.17-19) 日本味と匂学会第53回大会(高知市).

稲葉明彦、篠澤章久、有永理峰、熊木竣佑、伯川美穂、林美紗、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 霊長類消化管オルガノイドにおける培養条件最適化の検討(2019.9.17-19) 日本味と匂学会第53回大会(高知市).
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

岩槻 健 , 稲葉 明彦, 中安 亜希

これまで、霊長類の消化管および味蕾オルガノイドの作製には成功していたが、性質が一定の安定した細胞を得ることは困難であった。それは、継代を重ねることにより増殖活性が低下することに原因があったためであった。最近になり、ヒトの消化管オルガノイド培養において新しい増殖因子の組み合わせ(IGF-1とFGF-2)が報告されたため、我々も同様の方法で消化管および味蕾オルガノイドを培養したところ、これまで不安定だった培養系が安定化した。この改良された培養条件では、霊長類の十二指腸、空腸、盲腸、味蕾など調べた組織全てで従来の培養条件よりも細胞の増殖能が高かった。培養が安定化したため、消化管についてはIL-4刺激による細胞分化誘導が生体内と同様に起きるのかを調べ、その際の遺伝子変化をRNA-Seqにより調べた。また、味蕾オルガノイドについては、種々の呈味物質への反応を安定して測定できるかを検討した。
 上記の結果、新しい培養条件で育てた消化管オルガノイドでは、IL-4の誘導によりbrush細胞が選択的に増殖することが免疫組織科学染色、RNA-SeqおよびRT-PCRにて確認された。また、味蕾オルガノイドは人工甘味料や苦味物質に対して安定的に反応することが、カルシウムアッセイによって明らかとなった。本結果は霊長類オルガノイドがex vivo解析系として、様々な機能アッセイに利用できることを示唆している。今後は、消化管および味蕾オルガノイドを用いて、げっ歯類にはなく霊長類に特異的な消化管反応や味反応について解析する予定である。



H31-B18
代:山下 俊英
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究

山下 俊英

統合脳システム分野との共同により、サル脊髄損傷モデルを用いて軸索再生阻害因子であるRGMaの抗体とTMS(経頭蓋磁気刺激)を併用した治療効果に関する一連の研究を実施し、現在、当該研究成果に関する原著論文を作成中である。


H31-B19
代:小野 龍太郎
協:八木田 和弘
協:金村 成智
協:山本 俊郎
ニホンザル歯牙の象牙質成長線に関する比較解剖

学会発表
小野 龍太郎*,小池 宣也,井之川 仁,土谷 佳樹,梅村 康浩,山本 俊郎,金村 成智,八木田 和弘 歯と体内時計のバイオロジー 〜成長線の形成周期は24時間?〜(2019/10/12) 第61回歯科基礎医学会 アップデートシンポジウム 若手研究者による口腔生理学最前線 (東京).

Ryutaro Ono*, Nobuya Koike, Hitoshi Inokawa, Yoshiki Tsuchiya, Yasuhiro Umemura, Toshiro Yamamoto, Narisato Kanemura, Kazuhiro Yagita A New Insight of Tooth Growth(2019/8/28) XVI European Biological Rhythms Society Congress(Lyon(France)).
ニホンザル歯牙の象牙質成長線に関する比較解剖

小野 龍太郎 , 八木田 和弘, 金村 成智, 山本 俊郎

歯の成長線は、形成期間中に個体内で起きたライフサイクルが反映された層状構造である。そのため、直接観察が困難な稀少動物種における生活史の解明、食性や生活環境の把握などに役立つツールとなる可能性がある。さらには化石種に応用することで、古生物学への貢献も期待できる。
 これまでに、生年月日・死亡年月日が判明しているニホンザル下顎骨の骨格標本における歯の萌出状況を網羅的に記録することで、ヒトでの乳歯列期・混合歯列期・永久歯列期に該当する発育ステージを特定した。無作為に抽出した雄性6ヶ月・2歳個体の第一乳臼歯,4歳・6歳個体の第一大臼歯より脱灰標本を作製し、これまでに2検体(永久歯)で成長線の観察に成功している。歯の構造的主体である"象牙質"では成長線が約15μm間隔で同心円状に配列し、歯根部を覆う"セメント質"では表層に沿って約10μm間隔で平行する様子が確認できた。これらの所見は、同一の歯牙であっても硬組織の種類や部位によって発育パターンが異なる可能性を示唆するものである。今後は異なる歯種間での比較、動物種による違いなどについて比較解剖学的な検討を行う予定である。


H31-B20
代:喜久田 翔伍
協:岩永 譲
協:楠川 仁悟
協:渡部 功一
霊長類における前頭神経末梢枝の解剖学的研究
霊長類における前頭神経末梢枝の解剖学的研究

喜久田 翔伍 , 岩永 譲, 楠川 仁悟, 渡部 功一

我々はこれまでに、ヒト新鮮凍結死体を用いて、前頭神経の眼窩内走行およびその終枝の眼窩上縁における経過を明らかにしてきた (Kikuta et al., 2019)。サルは、ヒトとの咀嚼力の違いから顔面骨に生じた応力の一部が眼窩上部の眉弓に集中することで、同部の突出が生じる。このような顔面骨形態の違いから、前頭神経末梢枝の走行に違いがでる可能性があるが、比較解剖学的資料に欠けている。本研究の目的は、霊長類眼神経末梢枝の分布および周囲構造物との関係を、眼窩内・外からの解剖により明らかにし、ヒトとの比較検討を行うことにある。本研究において、カニクイザル5個体の頭部固定標本を詳細に解剖した。全個体で前頭神経を認めた。眼窩内で前頭神経を同定し、総腱輪まで追求したが、眼窩内に分枝を持たず、眼窩上縁の眼窩上切痕から独立して出現していた。カニクイザルは、ヒトで分類される滑車上神経、眼窩上神経は持ち得なかった。前頭神経は顔面表面に出現後、数本に分枝し、皺眉筋および眼輪筋を貫通し、前額部の皮膚を神経支配していた。現在、ヒトとカニクイザルの解剖学的構造の違いを焦点に、本研究結果を論文執筆中である。


H31-B21
代:佐々木 基樹
霊長類後肢骨格の可動性
霊長類後肢骨格の可動性

佐々木 基樹

2019年度の共同利用・研究期間中に、ニシローランドゴリラ1頭のCT画像解析を新たにおこなうことが出来た。これまでにニシローランドゴリラ3個体、オランウータン2個体、チンパンジー4個体の後肢のCT画像解析をおこなってきた。趾の可動域の解析では、第一趾を最大限伸展させた状態でCT画像撮影をおこない、得られたCT断層画像データを三次元立体構築した後、第一趾の可動状況を観察した。ニシローランドゴリラやチンパンジーの第一趾の第一中足骨は、上下方向に可動性を持つオランウータンとは違って足の背腹平面で可動しており、その可動域は、肉眼的にはオランウータン、ニシローランドゴリラ、そしてチンパンジーの順で大きいといった結果が得られている。また、第一中足骨と第二中足骨がなす平面上におけるそれら中足骨のなす角度をソフト上で解析した角度平均は、オランウータンで104度、ニシローランドゴリラで73度、そしてチンパンジーで52度であった。今回解析したニシローランドゴリラの第一趾の可動状況は、これまで解析したニシローランドゴリラと同様に背腹平面で可動していたが、第一中足骨と第二中足骨がなす平面上の角度は94.4度と、これまで計測したニシローランドゴリラの中では一番大きな値であった。その結果、ニシローランドゴリラの平均は79度となった。          



H31-B22
代:Kanthi Arum Widayati
協:Yohey Terai
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

論文
Widayati KA, Yan X, Suzuki-Hashido N, Itoigawa A,Purba LHPH, Fahri F, Terai Y, Suryobroto B,Imai H(2019) Functional divergence of the bitter receptor TAS2R38 in Sulawesi macaques Ecology and Evolution 9(18):10387-10403. 謝辞The authors would like to thank Drs. T. Ueda, T. Misaka, and H. Matsunami for providing cells and vectors. The authors would like to thank BKSDA Sulawesi Utara, BKSDA Sulawesi Tengah, M. Hakukawa, M. Umemura, and A. Alfiyan for their techni- cal support during the experiment. This work was supported by KAKENHI grants from the Japan Society for the Promotion of Science (JSPS; #15H05242 and #18H04005 to H.I., #16K18630 to Y.T.), the JSPS Japan–Indonesia Bilateral Research program (to H.I. and B.S.), research grants from the Kobayashi International Scholarship Foundation and Terumo Foundation (to H.I.), Dana DIPA grant from the Ministry of Research, Technology and Higher Education of the Republic of Indonesia (KLN No. 083/SP2H/PL/ Dit.Litabmas/II/2015 to B.S., WCR No. 1531/IT3.L1/PN/2019 to B.S.), and the Cooperative Research Programme of Kyoto University (Kyodo Riyo Theme nos. 2017-B-37 and 2018-B-66 to K.A.W.).
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

Kanthi Arum Widayati , Yohey Terai

Bitter perception is mediated by G protein-coupled receptors TAS2Rs and plays an important role in avoiding the ingestion of toxins by inducing innate avoidance behavior in mammals. One of the best-studied TAS2Rs is TAS2R38, which mediates the perception of the bitterness of synthetic phenylthiocarbamide (PTC). Previous studies of TAS2R38 have suggested that geographical separation enabled the independent divergence of bitter taste perception. The functional divergence of TAS2R38 in allopatric species has not been evaluated. We characterized the func- tion of TAS2R38 in four allopatric species of Sulawesi macaques on Sulawesi Island that lived in central and north Sulawesi. We found variation in PTC taste perception both within and across species. In most cases, TAS2R38 was sensitive to PTC, with functional divergence among species. We observed different truncated TAS2R38s that were not responsive to PTC in each species of Macaca nigra and M. nigrescens due to premature stop codons. Some variants of intact TAS2R38 with an amino acid substitution showed low sensitivity to PTC in M. tonkeana. Similarly, this intact TAS2R38 with PTC-low sensitivity has also been found in humans. We detected a shared haplotype in all four Sulawesi macaques, which may be the ancestral haplotype of Sulawesi macaques. In addition to shared haplotypes among Sulawesi macaques, other TAS2R38 haplotypes were spe- cies-specific. These results implied that the variation in TAS2R38 might be shaped by geographical patterns and local adaptation.For further study,we will expand our research to Southern Sulawesi. We did experimental behavior several individual of southern species and found some indivivual PTC-non taster in M. maura. We predict that some of the TAS2R38 South Sulawesi macaques will have some different genetic background compare to the North Sulawesi macaques due to geographical separation and different origin of continental plates at the time of island formation.
We published the results of Sulawesi macaques species lived in central and north Sulawesi in journal Ecology and Evolution.


H31-B23
代:Bambang Suryobroto
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

Bambang Suryobroto

Seven species of Sulawesi macaques (Macaca nigra, M. nigrescens, M. hecki, M. tonkeana, M. maurus, M. ochreata and M. brunnescens) continue attracting interest as a model of evolutionary speciation and differentiation. As macaque is a characteristic animal of Oriental zoogeographical realm, their ancestor should cross the Wallace Line between the Island and Sunda Land. We found that genetic tree based on exome sequences reflects their geographic distributions in the Island. Single nucleotide polymorphisms (SNPs) extracted from the exomes show fixed differences among M. tonkeana and M. hecki; these two species had been reported to have hybrid populations in their borderland. The fixed differences were located in 129 genes including that of responsible for olfaction, detoxification, hair formation, and reproduction in female. Especially, an A to G mutation in the start codon of a detoxification gene in M. hecki truncates six amino acids from the full length of the protein in M. tonkeana. However, both short and full type of detoxification proteins possess the same enzymatic activity, though we inferred (from the function of N-terminal amino acids) the localization in the cell membrane may be different. Furthermore we found that M. nigra and M. nigrescens have the same short type as M. hecki while M. maurus, M. ochreata and M. brunnescens the same full type as M. tonkeana. Again, this reflects the geographical distribution because the first three species bearing the short detoxification gene distribute in northern part of the Island, and the later four species with full type in the southern part.


H31-B24
代:伊藤 浩介
サル類における聴覚事象関連電位の記録

論文
Itoh K, Nejime M, Konoike N, Nakamura K, Nakada T.(2019) Evolutionary Elongation of the Time Window of Integration in Auditory Cortex: Macaque vs. Human Comparison of the Effects of Sound Duration on Auditory Evoked Potentials. Front. Neurosci. 13:630.

学会発表
伊藤浩介, 岩沖晴彦 , 鴻池菜保 , 五十嵐博中, 中村克樹 コモンマーモセットにおける頭皮上聴覚誘発電位の無麻酔・無侵襲記録( 2019/7/25) 第42回日本神経科学会大会 NEURO2019(新潟市).

鴻池 菜保, 三輪 美樹, 伊藤 浩介, 中村 克樹 コモンマーモセットにおける聴覚情報処理に関わる神経応答(2019/7/26) 第42回日本神経科学会大会 NEURO2019(新潟市).

Kosuke Itoh Primate non-invasive EEG: a window into human brain evolution(2020年2月22日) The 10th BRI International Symposium: Advanced Brain Imaging for the Future(Niigata).
サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤 浩介

これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論が完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となった。マーモセットの脳波記録では、主として、頭部面積が小さく電極の設置が難しいことにより、電極設置に時間がかかる、電極数を増やせない、インピーダンスが浮動し脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。そこで、昨年度は、電極の設置について、これまでにないまったく新しい発想の方法を考案し、これにより電極設置の迅速化(従来より75%の時間短縮)、電極の高密度化(7 ㎜の電極間距離で設置可能)、脳波記録の質の安定化が達成された。本年度は、この新しい方法を利用することで、4頭のマーモセットから、世界で初めて、頭皮上から無侵襲で聴覚誘発電位の中潜時成分(middle latency response)と皮質成分(cortical auditory cortical potential)を記録することに成功し、英文原著論文にまとめて、投稿をした。


H31-B25
代:寺山 佳奈
高知県室戸市におけるニホンザルが利用する食物資源の解析
高知県室戸市におけるニホンザルが利用する食物資源の解析

寺山 佳奈

高知県室戸市佐喜浜町で捕獲されたメスの成獣1頭に発信機を装着し、農地を利用するニホンザル個体群の行動圏の変化と利用食物を明らかにすることを目的とした。発信機を利用した追跡調査の期間は、2018年9月から2019年8月の12か月間とし、各月1日以上、日の出から日の入りまで1時間間隔でニホンザルの位置情報を求めた。位置情報をもとに最外郭法を用いて対象群の行動圏を推定した。加えて、調査地内に生息するニホンザルの採食物を調べるために、追跡調査中に確認された採食物を記録するとともに、調査地で捕殺された11個体の胃内容物を調べた。調査期間中12か月間の行動圏は10.2 km2であった。各月の行動圏については、秋期と春期に大きくなり、冬期と夏期には小さくなる傾向がみられた。行動圏が最も大きくなったのは9月の3.3 km2であり、最も小さくなったのは12月の0.5 km2であった。追跡調査中に観察されたニホンザルの採食物は、秋期や春期はハゼノキやヤマモモなどの森林内に分布するものであり、冬期や夏期は柑橘やイネなどの農作物であった。胃内容物から出現した品目は、春期にはヤマモモなどの果実が多く、夏期には農作物であるイネが多く出現した。これらのことから、本調査地に生息するニホンザルは餌資源の分布に影響を受けて行動圏を変化させている可能性が高い。


H31-B26
代:那波 宏之
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波 宏之

統合失調症をはじめとする精神疾患の多くは高次脳機能の障害に由来する難治性脳疾患とされるが、多くの疑問が山積していて根治治療法も確立していない。そのげっ歯類モデルは現在、100を超えるが、いずれもヒトの高次脳機能とはギャップが大きく、いずれのモデルもその妥当性を評価することが難しい。それゆえ、ヒトにより生物学的、進化的に近い霊長類モデルの樹立が待ち望まれている。本研究者らは、統合失調症の最有力な仮説である「サイトカイン炎症性仮説」に基づき、霊長類研究所との共同利用研究課題として、げっ歯類でのモデルで実績のある上皮成長因子EGFを用い、霊長類(マーモセットおよびアカゲザル)の新生児に皮下投与を行い、精神疾患のモデル化を試みてきた。これまでにマーモセット新生児6頭およびアカゲザル新生児3頭へのEGF投与を実施した。近年、本研究者らは統合失調症患者のバイオマーカーと期待される神経生理学的な測定法(ミスマッチネガッテイビテイー、注意関連事象関連電位P3a,聴性定常反応)がげっ歯類モデルでも、ヒトと同様の異常性を呈することを報告し、これらの生理指標がヒトから動物へ逆トランスレーション可能であることが判明した。このことから、本年度は、ヒトと同様に非侵襲的に健常マーモセットおよびアカゲザルから脳波を計測する方法を確立した。また、マーモセットおよびアカゲザルの疾患グループ・健常グループで20-120Hzの聴覚刺激に対する聴性定常反応を計測した。その結果、疾患グループの一部の個体では、位相の同期が低下することが明らかになった。今後、対象個体を増やして実験を継続していく。


H31-B27
代:松田 一希
協:豊田 有
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

論文
Morita T, Toyoda A, Aisu S, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, Matsuda I, Koda H(2020) Animals exhibit consistent individual differences in their movement: A case study on location trajectories of Japanese macaques Ecological Informatics 56:101057. 謝辞有り

Morita T, Toyoda A, Aisu S, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, Matsuda I, Koda H(2020) Non-parametric analysis of inter-individual relations using an attention-based neural network bioRxiv:doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.25.994764. 謝辞有り

Koda H, Arai Z, Matsuda I( 2020) Agent-based simulation for reconstructing social structure by observing collective movements with special reference to single-file movement Plos One 15( e0243173): doi: 10.1371/journal.pone.0243173. 謝辞あり

学会発表
Matsuda I Evolution of Primate Multilevel Social System: Proboscis Monkey Society As Complex System(29 Sep - 2 Oct, 2019) The 7th International Congress on Cognitive Neurodynamics(Alghero, Italy).
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

松田 一希 , 豊田 有

霊長類の社会構造の理解は,霊長類学における重要な中心的議題の一つである.個体関係の記述(親和性/敵対性)や順位の記述(優劣関係),血縁関係の記述を通じて,群内の個体関係の構造を把握し,母系/父系社会などといった,社会類型を記載してきた.その一方で,それらの記載は主に研究者が直接観察し分類したり,ビデオを通じて事後に解析するなどといったデータに基づくものであり,連続的な記録としての大規模データの蓄積や解析は今までなかった.本研究は,小型の位置記録装置(ビーコン)を飼育ニホンザル集団の全個体に装着することで,高精度で大規模な連続的な位置データ情報を収集し,個体間関係の記述を,社会ネットワーク分析を通じて評価することを目的とした.2018年度から断続的に,5個体からなるニホンザル集団を研究対象として,その位置計測を,時空間精度として高精度(10cm誤差以内,5点記録/1秒)に,かつ連続的に収集している(図).収集した膨大な個体間インタラクションデータから,本年度は、個体の空間配置と空間移動軌跡の常時計測系の確立に成功し,深層学習を含む統計手法による個体識別および個体間インタラクション解析を定量化するための手法を予備的に開発した(Morita et al. 2019).また,深層学習を用いた,ノンパラメトリックな個体間インタラクション解析手法も新たに開発し,それを高精度の位置測位システムにより得られたニホンザル各個体の位置情報に応用することで,個体間インタラクションの分析を実施した(Morita et al. 2020).加えて,ビーコンを装着した5頭のニホンザルの群れを,短期的に1:4頭に分離することで,個体間インタラクションの程度をコントロールし,社会的なインタラクションの変遷過程に着目したデータの分析にも着手した.
<発表論文>
Morita T, Toyoda A, Aisu S, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, Matsuda I, Koda H (2020) Animals exhibit consistent individual differences in their movement: A case study on location trajectories of Japanese macaques. Ecological Informatics 56:101057. doi: 10.1016/j.ecoinf.2020.101057(査読有)

Morita T, Toyoda A, Aisu S, Kaneko A, Suda-Hashimoto N, Matsuda I, Koda H (2020) Non-parametric analysis of inter-individual relations using an attention-based neural network. bioRxiv. doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.25.994764(査読なし)
<国際会議での発表>
Matsuda I「Evolution of Primate Multilevel Social System: Proboscis Monkey Society As Complex System」The 7th International Congress on Cognitive Neurodynamics, Alghero, Italy, 29 Sep - 2 Oct, 2019


H31-B28
代:加藤 彰子
協:内藤 宗孝
協:近藤 信太郎
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する

加藤 彰子 , 内藤 宗孝, 近藤 信太郎

歯周病は歯周組織に起こる慢性の炎症性疾患であり日本の成人の約80%が歯周病に罹患している。現在、歯周病は生活習慣病の一つと考えられており、病態・病因の解明は解決すべき重要な課題である。
 2018年度に引き続き2019年度は、京都大学霊長類研究所に所蔵の骨格標本のうち、年齢、性別が分かっているアカゲザル、ニホンザルの上顎歯および下顎歯が付いた頭蓋20数個体ずつ、合計46個体のCT撮像を行い、形態観察および比較を行った。その結果、臼歯の咬合面の咬耗のパターンや、臼歯歯槽骨の吸収度が異なるという所見を得た。一方で、飼育個体は食餌や飼育環境による成長や病態への影響も考えられることから、野生個体についての調査も行う必要性があると考えた。そこで、2019年度後半は、ニホンザル野生個体群を対象に骨格標本CTデータを収集した。また、京都大学霊長類研究所(KUPRI)The Digital Morphology Museum (DMM)データベースのニホンザル野生個体群のCTデータを活用し、これらのCT画像から、ヒトの歯周病診断に用いられる基準を適応するため上顎第一大臼歯の矢状方向および前頭方向断面画像をImageJ(1.44, NIH, USA)を用いて作成した。2020年度は、これらの画像をもとに歯周病組織破壊の程度を評価し、野生ニホンザルの歯周病進行度の地域差を検討する。


H31-B29
代:倉岡 康治
協:稲瀬 正彦
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響

倉岡 康治 , 稲瀬 正彦

 本研究は。社会性ホルモンであるオキシトシンがニホンザルの社会的視覚刺激の好みにどう影響するかを行動実験で調べることを目的としている。
 飼育ケージにタブレット型コンピューターを取り付け、複数の他個体画像を提示した際にサルが興味を示して触れれば、その画像をより長く提示するようにプログラムする。オキシトシンを投与した後、その興味がどのように変化するかを調べる。
 昨年度は、麻酔下の被験体に対してオキシトシンを経鼻投与することにより、他個体視覚刺激に対する好みの変化がみられるか検討したが、オキシトシンの効果よりも、麻酔の効果が強く出たと思われる結果となった。そこで本年度は、麻酔をしない状態で、ネブライザーを用いて被験体の鼻周辺にオキシトシンを噴霧し、行動変化を観察した。オキシトシン噴霧後に他個体画像に触れる回数、またはタブレット型コンピューター付属のカメラにより、他個体画像を見る回数を計測した。その結果、オキシトシン噴霧の前後で他個体画像へのアプローチの回数に明確な差を見つけることはできなかった。画像の提示回数やオキシトシン濃度について検討する必要がある。


H31-B31
代:Kevin William McCairn
協:Kendall Lee
Multi-Dimensional Analysis of the Limbic Vocal Tic Network and its Modulation via Voltammetry Controlled High-Frequency Deep Brain Stimulation of the Nucleus Accumbens
H31-B32
代:今村 拓也
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

論文
Taito Matsuda, Takashi Irie, Shutaro Katsurabayashi, Yoshinori Hayashi, Tatsuya Nagai, Nobuhiko Hamazaki, Aliya Mari D. Adefuin, Fumihito Miura, Takashi Ito, Hiroshi Kimura, Katsuhiko Shirahige, Tadayuki Takeda, Katsunori Iwasaki, Takuya Imamura, Kinichi Nakashima(2019) Pioneer factor NeuroD1 rearranges transcriptional and epigenetic profiles to execute microglia-neuron conversion Neuron 101:472.

Ryunosuke Kitajima, Risako Nakai, Takuya Imamura, Tomonori Kameda, Daiki Kozuka, Hirohisa Hirai, Haruka Ito, Hiroo Imai, Masanori Imamura(2020) Modeling of early neural development in vitro by direct neurosphere formation culture of chimpanzee induced pluripotent stem cells Stem Cell Research 44: 101749. 謝辞あり

学会発表
亀田朋典、今村拓也、滝沢琢己、三浦史仁、伊藤隆司、中島欽一 ニューロンは神経活性化により新規DNAメチル化を介してエンハンサー活性を調節し、興奮性シナプス形成に影響する(2019年12月3- 6日) 第42回日本分子生物学会年会(福岡市、福岡国際会議場).

藤本雄一、亀田朋典、吉良潤一、中島欽一、今村拓也 母体由来の炎症シグナルは胎仔脳が発現するサイトカインIL17Dにより緩和できる(2019年12月3- 6日) 第42回日本分子生物学会年会(福岡市、福岡国際会議場).

藤本雄一、亀田朋典、吉良潤一、中島欽一、今村拓也 母体由来の炎症シグナルは胎仔脳が発現するサイトカインIL17Dにより緩和できる、第162回日本獣医学会学術集会、茨城県、つくば国際会議場(2019年9月10-12日) 第162回日本獣医学会学術集会(茨城県、つくば国際会議場).

藤本雄一、亀田朋典、吉良潤一、中島欽一、今村拓也 :母体由来の炎症シグナルは胎仔脳が発現するサイトカインIL17Dにより緩和できる(2019年9月2-5日) 第112回日本繁殖生物学会大会(北海道、北海道大学高等教育推進機構).

今村拓也、中嶋秀行、中島欽一 Mecp2ノックアウトマウス新生仔海馬のシングルセルRNA-seq解析(2019年5月28-29日) 第13回エピジェネティクス研究会年会(神奈川県、神奈川県民ホール).
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

今村 拓也

本課題は、ほ乳類脳のエピゲノム形成に関わるnon-coding RNA (ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている。本年度は、チンパンジーiPS細胞からのin vitro神経幹細胞・分化細胞誘導実験系の利用(ニューロスフィア法および脳オルガノイド培養法)による神経幹細胞動態解析をさらに進めた。ニューロスフィア法については、霊長研・今村公紀助教と共同で解析を進め、iPS細胞から神経幹細胞が樹立する1週間におけRNA発現動態を詳細化することで、分化に重要な分子カスケードを絞り込むこと成功した。本成果は所内対応者である今村公紀・霊長類研究所・助教との共同研究の成果としてStem Cell Research誌に報告し、霊長類研究所よりプレスリリースされた。また、脳オルガノイド培養法については、培養後の次世代シーケンサー解析用サンプル調整プロトコール確立し、シングルセルRNA-seqからのncRNA情報を深化して得つつある。これにより、複雑な細胞構成に由来するノイズを減らし、精度をより向上させた実験を進行するための準備が整った。


H31-B33
代:荻原 直道
協:大石 元治
協:PINA Marta
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

論文
荻原直道(2019) ヒトの足部筋骨格構造の形態的特徴とその進化 バイオメカニズム学会誌 43:83-88.

学会発表
荻原直道、平崎鋭矢 重心位置の前方シフトがニホンザル四足歩行時の接地パターンに与える影響(Oct 12, 2019) 第73回日本人類学会大会(佐賀県佐賀市).

Andrada, E., Blickhan, R., Ogihara, N., Rode, C. The role of global leg mechanics in the transition from grounded to aerial runnning(Sep 10, 2019) 112th Annual Meeting of the German Zoological Society(Jena, Germany).

Andrada, E., Blickhan, R., Ogihara, N., Rode, C. The role of global mechanics at the transition from grounded to aerial runnnig(Jul 7, 2019) Europian Society of Biomechanics 2019(Vienna, Austria).

荻原直道 ヒトの足部構造に内在する歩行機能の解明に向けて(Sep 11, 2019) 2019 Japan Altairテクノロジーカンファレンス(東京都港区).

荻原直道 ヒトの二足歩行の個体発生と系統発生(Aug 6, 2019) 生理学研究所研究会「幼・小児の成長期における脳機能と運動の発達に関する多領域共同研究」(愛知県岡崎市).

ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

荻原 直道 , 大石 元治, PINA Marta

本年は、昨年に引き続き、ニホンザルに鉛が入ったチョッキを着用させることで身体重心位置を頭側にシフトさせたときの、四足歩行の接地パターンを、トレッドミルを用いて比較・分析した。その結果、すべての個体・速度条件において観察されるわけではないが、鉛チョッキの着用により、diagonal sequence (DS)からlateral sequence (LS)に接地パターンを変化させる傾向が高まることが観察された。霊長類の四足歩行は、通常DSを採用するのに対して、多くの他のほ乳類はLSを採用する。この違いを説明する仮説として、重心位置の違いが提案されているが、身体重心位置が接地パターンに関係することが示唆された。
 また、ニホンザルの屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって求める研究を推進した。具体的には、ニホンザル(成獣)2頭を、バルビタール系麻酔薬の過剰投与により安楽殺させ、前肢帯、上腕、前腕、後肢帯、大腿、下腿の筋を骨から分離し、幅約5mm、長さ約10mmの筋組織を採材した。今後筋組織の免疫組織化学的染色(ABC法)を行うことで、遅筋の断面と全筋線維型の断面の面積を求め、筋組織全体に占める遅筋の面積の割合を算出する。
 さらに、ニホンザルの下肢関節の受動弾性特性の計測を試みた。具体的には、ニホンザルの新鮮冷凍保存屍体標本1体を用いて、下肢各関節をモーターで他動的に伸展・屈曲させ、関節角度とそのとき関節まわりに受動的に作用するトルクの関係を求めた。ニホンザル下肢関節の受動弾性特性を定量化するための下地を構築した。


H31-B34
代:齋藤 慈子
協:新宅 勇太
協:吉田 早佑梨
吸啜窩の発達的変化の種間比較

学会発表
齋藤慈子、小平理恵子、吉田早佑梨、西村剛 ニホンザルにおける吸啜窩の存在の検討(2019年7月13日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本市国際交流会館).
吸啜窩の発達的変化の種間比較

齋藤 慈子 , 新宅 勇太, 吉田 早佑梨

母乳育児が推奨される中、現代の母親にとって断乳・離乳の時期は大きな問題となっている。ヒトという霊長類がいつまで授乳をする生物なのかに関して、多くの客観的な情報が提供されることで、離乳や断乳の時期について示唆が得られると考えられる。ヒト乳児の口蓋には、線維質で構成された副歯槽堤により形作られる、吸啜窩というくぼみが存在する。乳児はこの吸啜窩に乳首を引き込み固定することで、安定した吸啜を行うことができる。この吸啜窩は発達とともに消失するとされるが、吸啜窩の消失という形態発達が離乳という機能発達に関与している可能性がある。この仮説が正しいとすれば、吸啜窩の消失の時期から、離乳時期についての情報が得られる。本研究では、この仮説を検証するために、吸啜窩の消失と離乳との関連を、ヒト以外の霊長類で確認することを目的とした。
昨年度、霊長類研究所所蔵のニホンザルの上顎骨標本38個体分を組み立て、口蓋を3Dスキャナーで撮像、解析した。その結果、ヒトで定義される吸啜窩と同様のくぼみは、ニホンザル乳児個体では確認されなかった。また、今年度は、継時的にMRI撮像データのある6個体のニホンザルの、犬歯後ろと小臼歯後ろの環状断画像で、上顎頂点と左右両歯槽堤が作る角度を測定した。結果、犬歯後ろの計測では、角度は発達に伴って一貫した変化が見られなかったが、小臼歯後ろの計測では、2歳頃にかけて角度が小さくなる(くぼみの高さが低くなる)傾向が見られた。このくぼみの高さが、授乳時の乳首の固定に関係している可能性がある。このように、上顎の形状から、ニホンザルでは、特別なくぼみを発達させることなく、乳首を固定、安定した吸啜を行うことができる可能性が示唆された。この結果から、ヒトにおける上顎形態の変化が、吸啜窩を進化させたという仮説が新たに提起された。


H31-B36
代:近藤 玄
協:信清 麻子
協:柳川 洋二郎
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明

近藤 玄 , 信清 麻子, 柳川 洋二郎 

精子には、数多くのGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)が発現しており、そのいくつかは精子の受精能発揮に深く関与している。申請者は、予備実験において、マウス精子で発現量の多いGPI-AP(SpGPI-APと仮称)を同定し、同遺伝子の欠損マウスを作製したところ、精子の卵管への遊走が損なわれ、妊娠異常が認められた。また、このタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製し、精子のFACS解析を行なったところ、精子は二つの集団に大別された。さらにこれらをソーティングし、運動性、体外受精能、人工授精能等をしらべたところ、直進運動性や体外受精能において差異がみとめられ、これまで想像されていたが分子的根拠がなかった精子集団の不均一性とより受精しやすい集団が存在すること、またそれがポジティブに選択されうることが示唆された。本申請では、当該タンパク質によって二別される精子集団の比較解析をヒトにより近いマカク属サル精子を用いて調べることとした。今年度は、カニクイザル精巣からマカクサルSpGPI-AP遺伝子をクローニングし、これを培養細胞に発現させた。これとすでに作製している抗ヒトSpGPI-APモノクローナル抗体とを反応させると、そのいくつかで有意な反応が認められた。一方、ここで反応した抗体とサル精子を反応させたが、いまのところ有意な反応を示すものはなかった。今後は、より多くのモノクローナル抗体をサル精子にてスクリーニングし、以後の実験に使用可能なクローンを同定する予定である。


H31-B37
代:大西 春香
ニホンザルにおける先天性四肢奇形の群れ内の行動とそれに対する他者の行動変化について
ニホンザルにおける先天性四肢奇形の群れ内の行動とそれに対する他者の行動変化について

大西 春香

ヒト以外の霊長類の障害に関する事例研究はあるが、それらは全て障害の度合いから検討し、考察している。そこで、本研究では個々の障害個体に着目し、その個体にとっての「障壁」はどのようなものか検討した。淡路島のニホンザル群で障害の度合いを評価した指標では同じ度合いの奇形で重度とされる2頭の成体メスと1頭の健常成体メスの行動のうち、採食、攻撃、毛づくろいに着目し、2019年5月から8月にかけて観察を行い、それぞれの個体にある「障壁」の個体差を確認した。さらに、それぞれが同じ「障壁」がある場合に、どのような行動の柔軟性を示すのか、これについても個体差を検証した。これら2頭の奇形個体は、比較対象とした1頭の健常個体に比べて採食や攻撃交渉、毛づくろいの手法に様々な個体差が見られた。一方で、そうしたコストの補う行動の柔軟性にも個体差が見られた。ヒト以外の霊長類の障害がある個体の行動をできることとできないことに切り分けて個々に見て行くことは個体の行動を理解する上で非常に重要な視点であると言えるであろうと言うことが本研究において示唆された。


H31-B38
代:平田 暁大
協:酒井 洋樹
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

論文
Hirata A*, Kaneko A, Sakai H, Nakamura S, Yanai T, Miyabe-Nishiwaki T, Suzuki J.(2019) Laryngeal B cell lymphoma in a juvenile Japanese Macaques (Macaca fuscata) J. Comp. Pathol. 169:1-4. 謝辞あり

学会発表
兼子 明久, 平田 暁大, 宮部 貴子, 石上 暁代, 宮本陽子, 酒井洋樹, 鈴木 樹理 脳内出血を発症したニホンザルの2症例(2019年7月5日) 第28回サル疾病ワークショップ(つくば市).
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

平田 暁大 , 酒井 洋樹

飼育下でサル類に発生する疾患およびその病態を把握するため、霊長類研究所で死亡あるいは安楽殺したサル類(ニホンザル、タイワンザル、アカゲザル、コモンマーモセット、マントヒヒ、チンパンジー)を病理学的に解析した。さらに、同研究所の獣医師(教員、技術職員)と臨床病理検討会(CPC、Clinico-pathological conference)を開催し、病理学的解析結果と治療データ、臨床検査データ(血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査等)と照合し、症例の総合的な解析を行った。また、稀少な症例については、国際誌に論文発表するとともに、研究会において報告した。いずれも代表研究者と霊長類研究所の教員・技術職員との共同発表である。

【論文発表】
T-cell/Histiocyte-rich Large B-cell Lymphoma of the Larynx in a Juvenile Japanese Macaque (Macaca fuscata).
Hirata A, Kaneko A, Sakai H, Nakamura S, Yanai T, Miyabe-Nishiwaki T, Suzuki J.
J. Comp. Pathol. 169, 1-4, 2019

【研究会での発表】
脳内出血を発症したニホンザルの2症例
兼子明久、平田暁大、宮部貴子、石上暁代、宮本 陽子、酒井 洋樹、鈴木 樹理
第28回サル疾病ワークショップ(2019年7月開催)




H31-B39
代:佐々木 哲也
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

論文
Sasaki T, Komatsu Y, Yamamori T( 2019) Prefrontal-Enriched SLIT1 Expression in Primate Cortex and its Alteration during Cortical Development. Jap J Biological Psych 30( 2): 81-85.

Tome S, Sasaki T, Takahashi S, Takei Y.(2019) Elevated maternal retinoic acid-related orphan receptor-γt enhances the effect of polyinosinic-polycytidylic acid in inducing fetal loss. Exp Animals 68(4):491-497.

Takei Y, Tome S, Sasaki T. (2019) KIF17-mediated transport of NMDA receptors and schizophrenia. Jap J Biological Psych 30(3):101-104.

学会発表
Saki Tome, Rei Nagata, Tetsuya Sasaki, Yosuke Takei. Analysis of the effect of IL17A increase on neurodevelopment in RORgt-overexpression transgenic mice.(2019.07.25-28.) Neuro2019. ( Niigata.).

Jinmin Li, Tetsuya Sasaki, Fumihiro Shutoh, Yosuke Takei The developmental defect of Serotonergic neuron induced by maternal immune activation. (2019.07.25-28.) Neuro2019.(Niigata.).

Tetsuya Sasaki, Yusuke Komatsu, Yosuke Takei, Tetsuo Yamaori. SLIT2 is preferentially expressed in the the higher-order association areas in primates. (2019.07.25-28.) Neuro2019. (Niigata.).

Tetsuya Sasaki, Yusuke Komatsu, Yosuke Takei, Tetsuo Yamamori. Analysis of genes that characterize the higher association area of the cerebral cortex. (2020.03.25-27.) The 125th Annual Meeting of The Japanese Association of Anatomists.(Ube).
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

佐々木 哲也

霊長類の大脳皮質は機能分化が進んでおり、複数の「領野」に区分される。その神経回路は、生後発達期に大規模な再編成がなされて機能的領野が形成される。霊長類の神経回路発達過程にニューロン、グリア細胞が果たす役割を詳細に検討するために、細胞種特異的な遺伝子発現解析、エピジェネティクス解析を計画した。昨年度の共同利用研究によりアカゲザル2頭の脳組織を採材したものを用いて、凍結組織からの効率の良い細胞分離法を模索している。シナプス再編成期の大脳皮質ミクログリアの分子生物学的特徴が解明されることを期待している。


H31-B40
代:筒井 健夫
協:鳥居 大祐
協:深田 哲也
協:那須 優則
協:小林 朋子
マカク乳歯歯髄幹細胞における幹細胞特性解析と再生医療への応用
マカク乳歯歯髄幹細胞における幹細胞特性解析と再生医療への応用

筒井 健夫 , 鳥居 大祐, 深田 哲也, 那須 優則, 小林 朋子

令和元年度はニホンザル3例について、上顎乳切歯より乳歯歯髄細胞の採取を行い初代培養を行なった。採取された乳歯歯髄細胞は、コラーゲンゲルを用いて三次元構築体を培養し、同一個体に生活歯髄切断法を応用した処置後に移植を行なった。移植された乳歯は永久歯の萌出時期を考慮し抜歯による採取を計画している。また、今回移植を行なった乳歯歯髄細胞は、初代培養後に継代培養を行い、細胞形態の観察および細胞増殖数の計測、また硬組織分化能の解析を進めている。平成30年度で移植を行なった、ニホンザル3例については移植時に歯髄貼付薬として生体親和性の高いMineral Trioxide Aggregate (ProRoot®MTA)を使用し軟エックス線撮影およびマイクロCT解析を行なった。軟エックス線撮影像からは、歯髄内にエックス線不透過像が観察され、細胞移植後にエックス線不透過物が産生されたことが示唆された。また、マイクロCT解析より、歯髄内に硬度の異なる硬組織形成が確認された。令和2年度は組織学的検査を計画しており、細胞移植を行なったサンプルの歯髄内における歯髄組織および硬組織形成について解析を進める。


H31-B41
代:持田 浩治
協:川津 一隆
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究

持田 浩治 , 川津 一隆

本研究は、個体の直接的な個体学習だけでなく、他者の行動をモデルとした観察学習が、不味さや危険さと関連した目立つ体色を創出する、という警告色の「社会学習モデル」による進化仮説の妥当性を検証した。特に、個体学習のみで警告色の進化プロセスを説明する従来の「個体学習モデル」の問題点、類似しない警告色の存在を解消するために、学習後に獲得された行動を促す刺激の般化特性を個体/観察学習で比較した。まず、ニホンザルを対象に、ヘビ様模型の危険さと色刺激を関連付ける観察学習実験を行った。その結果、赤色ヘビ様模型の回避行動は学習できるが、より刺激の弱い茶色ヘビ様模型では学習できないことが明らかになった。次に、赤色ヘビ様模型の回避行動を観察学習した個体に、茶色ヘビ様模型を提示した。その結果、回避行動を促す刺激が、茶色まで般化していることが明らかになった。警告色の個体学習では、回避行動の般化は、刺激が強い方向(例えば茶から赤色へ)でのみ知られている。本研究で明らかにした観察学習後の弱刺激への般化の存在は、個体学習との般化特性の違いと言え、上述の類似しない警告色の存在を説明することを可能にする。


H31-B42
代:佐藤 暢哉
協:林 朋広
コモンマーモセットにおける空間認知

論文

関連サイト
関西学院大学文学部総合心理科学科 佐藤暢哉研究室 https://sites.google.com/site/nsatolab/
コモンマーモセットにおける空間認知

佐藤 暢哉 , 林 朋広

本研究は,コモンマーモセットの空間認知能力について検討することを目的として,齧歯類を対象とした実験で広く用いられている空間学習課題・空間記憶課題を,マーモセットを対象として実施できるような実験パラダイムの開発を目指した.昨年度作製したマーモセット用の飼育ケージ内に設置可能な放射状迷路装置の不具合を修正し、装置の改良を試みた。所内対応者の中村と実際にマーモセットを対象に実施する空間認知課題を設計した.特にエピソード様記憶の有無を調べる課題について検討した。


H31-B43
代:荒川 那海
協:颯田 葉子
協:寺井 洋平
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

学会発表
荒川那海 皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出す塩基置換の特定 (2019年8月7日) 日本進化学会第21回大会(北海道大学).

Nami Arakawa Expression Changes of Structural Protein Genes That May Be Related to Adaptive Human Skin Characteristics (Poster)(2019年7月23日) The annual meeting of the Society for Molecular Biology and Evolution(Manchester, United Kingdom).
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

荒川 那海 , 颯田 葉子, 寺井 洋平

ヒトの皮膚は他の霊長類に比べ多くの形態的特徴があるが、それらがどのように進化してきたのか、その遺伝的基盤はあまり明らかになっていない。本研究ではこれまでに、発現量解析で検出された皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出すヒト系統での塩基置換を推定した。今年度からの研究では、それらの置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのかを、皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイとゲノム編集により解明することを目的としている。始めにプロモーターアッセイやゲノム編集に必要な各種ベクターの作成を行った。またプロモーターアッセイについては、ベクター導入効率の高い皮膚培養細胞株を選出し、その細胞株に最適なトランスフェクション試薬を選ぶことができた。ゲノム編集では書き換えるサイトの近隣の配列に二重鎖切断を導入するが、この反応の予備実験を行った。二重鎖の切断に必要なsingle guide RNAの合成を行い、それとCas9酵素を用いてin vitro下で標的部位に二重鎖切断を入れることに成功した。今後これらの作成したベクター等を皮膚培養細胞に導入し、推定した置換サイトをヒト型と類人猿型の塩基にしたプロモーターアッセイとゲノム編集を行うことで、着目する遺伝子のヒト特異的発現を生み出す塩基置換を特定していく。


H31-B44
代:信清 麻子
協:外丸 祐介
協:畠山 照彦
一卵性多子ニホンザルの作製試験
一卵性多子ニホンザルの作製試験

信清 麻子 , 外丸 祐介, 畠山 照彦

本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すもので、これまでに生殖工学基盤技術の検討を進めることで「卵巣刺激→体外受精→受精卵移植」により産子を得るための再現性の高い技術を確立してきた。
 別種であるカニクイザルへの受精卵移植により正常なニホンザル産子を得ることにも成功し、レシピエントしての有用性が確認され、一卵性多子ニホンザルの獲得に向けた基盤が十分に築かれた状況にある。
 今年度は、受精卵分離技術を用いて操作した胚を移植することで、一卵性多子の獲得を試みたところ、移植した2頭のうち1頭が妊娠に至った。惜しくも該当個体が子宮筋腫を持っていたため、流産し産子を得ることはできなかったが、「卵巣刺激→体外受精→受精卵移植」の技術の再現性の高さを確認できた。
 また、移植試験をニホンザルの繁殖期(11月〜2月)にあわせて設定したが、ホルモン動態を調べた結果、11頭全ての個体において、12月には排卵が確認できるような動態ではなかった。このことから、屋内飼育のニホンザルの繁殖期は、野生のニホンザルとは異なることが確認でき、移植試験の実施日の期間を絞る必要があることがわかった。加えて、効率よい移植試験の実施にむけ、他グループと連携して、プロゲステロン製剤の経口投与による性周期を同調させた個体での移植を検討した。
 昨年度から行なっている、受精卵のステージをレシピエント雌の性周期を同調させる技術の一つである冷蔵保存については、昨年同様良好な結果が得られ、数日程度の時間調整には有効な技術であることが確認された。


H31-B45
代:柳川 洋二郎
協:永野 昌志
協:鳥居 佳子
協:對馬 隆介
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

学会発表
黒澤拓斗、兼子明久、夏目尊好、森本真弓、愛洲星太郎、Vanessa Gris、Rafaela Sayuri Takeshita、宮部貴子、岡本宗裕、永野昌志、片桐成二、栁川洋二郎 ニホンザルにおけるプロジェステロン作動薬による月経周期同期化(2019/8/31-9/1) 第25回日本野生動物医学会大会(山口).

栁川洋二郎、菅野智裕、兼子明久、今井啓雄、片桐成二、永野昌志、岡本宗裕 人工授精への使用を目指したニホンザル精子の凍結保存法の検討(2019/11/18-19) Cryopreservation Conference 2019(つくば市).
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

柳川 洋二郎 , 永野 昌志, 鳥居 佳子, 對馬 隆介

ニホンザルにおいては人工授精(AI)による妊娠率は低く、特に凍結精液を用いたAIによる産子獲得例がない。そのため、精液の凍結保存法改善とともに、メスの卵胞動態を把握したうえでAIプログラムの開発が必要である。
 ニホンザルの精液は射出直後に凝固するが、これまでは既報に従い37℃で培養し液状化後、培地で希釈し凍結作業を行っていた。しかし、精液採取の際に、精液保存液に直接採取し凝固物の形成を可能な限り防止した。その後精子浮遊液を4℃まで約2時間かけて温度を下げた後グリセリン加保存液を添加してから凍結した。凍結には0.25もしくは0.5mlのストローに封入し液体窒素の蒸気で凍結するか、ドライアイス上に200 µlの精液を滴下しペレットを作製した。どの凍結方法においても凍結直前において高活力精子が多いものは、凍結方法の違いによらず融解後の性状が良好で、最大で高活力精子が30%と高い凍結精液を作製することができた。今後は凍結直前までに活力を低下させない方法を検討する必要である。
 また、昨年の成果に基づき、10頭の雌に21日間Altrenogestを0.44mg/kg/日の容量で経口投与し月経を同期化させ、月経開始から11、12および13日目にそれぞれ3、4および3頭に対しAIを実施したが、受胎には至らなかった。


H31-B46
代:高須 正規
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価

高須 正規

野外で飼育されているニホンザルにおいて,気温などの環境変化がどのような影響を与えているのかわかっておらず,適切に飼養管理ができているか否かは判断できていない。これまでに,申請者らは,集団に対して外部要因が与える影響を評価する代謝プロファイルテストを用いて,霊長類研究所の旧タイプの野外ケージAと新タイプの野外ケージBで飼育されているyoung adult期ニホンザルの生理学的状況を評価した。ここで,退避スペースのない旧タイプの野外ケージAで飼育されている集団は,冬季の飲水量が低く,脱水傾向にあることが明らかになった。
 2019年度,野外ケージAで飼育されていた二ホンザルが新しいタイプの野外ケージBに移動された。そこで,今回,代謝プロファイルテストを用いて,集団の環境変化に伴う生理学的変化を明らかにした。
モニタリングの結果,Bケージに移動したニホンザルはこれまでのとおり冬季に体重減少を示すことに加え,Aケージにいた時よりも個体間の電解質の値にばらつきが少なかった。これは,Bケージが飲水しやすい構造になっていることに起因していると考えられ,Bケージへの移動がサルたちのQOLを向上させた可能性が示唆された。


H31-B47
代:伊沢 紘生
協:宇野 壮春
協:関 健太郎
協:高岡 裕大
協:関澤 麻伊沙
協:涌井 麻友子
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

論文
関沢麻伊沙、清家多慧(2019) 離脱オスが一年半後に群れと接触した際の社会交渉 宮城県のニホンザル(32):18-22.

伊沢鉱生(2019) 金華山D群の分裂騒動顚末記―補遺― 宮城県のニホンザル(32):23-27.
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

伊沢 紘生 , 宇野 壮春, 関 健太郎, 高岡 裕大, 関澤 麻伊沙, 涌井 麻友子

申請時の本研究の目的は5つで、その結果は以下の通りである。①個体数に関する一斉調査は申請通り2回、秋と冬に実施した。結果は秋が267頭、冬が269頭だった。②群れごとのアカンボウの出生数と死亡(消失)数は、春の調査を上記2回の一斉調査に加えて実施。出生数は6群で計44頭と今年度は多く、死亡(消失)数も12頭と多く、理由は不明だが1年以内の死亡率は27%だった。③家系図と④食物リスト作成は群れごとの担当者が随時実施した。⑤遊動域の変更(拡大)は個体数が増加したB₁群でかなり顕著に見られた。また6群間の比較生態・社会学的調査は分派行動とオスの一生に関する調査を重点的に実施。その成果は「宮城県ニホンザル」第32号に“特集:金華山のサル・個と群れと”として発行した(発行は令和元年9月)。
 以上のほかに研究目的に記載していないが、島に自生するオニグルミ(Juglans mandshurica)について、その実生をサルはどのように見つけどの部分を食べるかを「宮城県のニホンザル」第33号に“特集:金華山のサル・オニグルミの実生食い”として公表した(発行は令和2年2月)。


H31-B48
代:森本 直記
協:森田 航
ニホンザルにおける内耳・大臼歯形態と個体群史の関係
ニホンザルにおける内耳・大臼歯形態と個体群史の関係

森本 直記 , 森田 航

ニホンザル(Macaca fuscata)は日本に固有の霊長類であり、生息域が北から南まで幅広い緯度分布を示す点が特徴的である。また、いくつかの個体群は本島とは隔離された環境(島)に生息している。これまで、ニホンザルの日本列島における個体群史は主に、分子的・遺伝学的データによって検証されてきた。一方、ニホンザルにおける形態変異は、主に寒冷(あるいは暖)地適応の観点から解釈されてきた。中立的なマーカーによる分子的・遺伝学的データとは異なり、形態学的データでは適応とは無関係な中立的プロセスの検証が難しいと考えられてきた。近年、ヒトの内耳形態の集団間変異が詳しく調べられ、内耳形態を中立的なマーカーとして用いることができるという報告がなされている。今年度は、マイクロCTを用いて、青森、長野、滋賀、島根の各地域から2個体ないし3個体のデータを取得した。個体変異と集団間変異を切り分けるためにも、今後データを拡充することを予定している。


H31-B49
代:布施 裕子
協:時田 幸之輔
霊長類固有背筋・脊髄神経後枝の比較解剖学

学会発表
布施裕子 ニホンザル脊髄神経後枝の観察ー分節の高さによる後枝走行形態の違いに関する考察ー(2019年7月13日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本市国際交流会館(熊本県)).

布施裕子 胸腰部横突棘筋群層構造の再考(2019年9月7日) コ・メディカル形態機能学会第18回学術集会・総会(金沢大学鶴間キャンパス(石川県)).

布施裕子 胸腰神経後枝内側枝の比較解剖学ーヒト・ニホンザル・シロネズミを用いてー(2019年10月12日) 第73回日本人類学会大会(佐賀大学本庄キャンパス(佐賀県)).

布施裕子 胸腰神経後枝内側枝および固有背筋内側縦束の比較解剖学(2020年3月25日) 第125回日本解剖学会総会・全国学術集会.
霊長類固有背筋・脊髄神経後枝の比較解剖学

布施 裕子 , 時田 幸之輔

脊髄神経後枝は、最長筋・腸肋筋を支配する外側枝と、棘筋・横突棘筋を支配する内側枝という筋枝を持つ。またそれぞれ皮下へ出現する外側皮枝・内側皮枝を持つ。内側枝の筋枝の走行や皮枝の有無は分節によって異なるだけでなく種によっても異なる。今回、横突棘筋と脊髄神経後枝内側枝の構造をニホンザルやヒト、他の哺乳類であるブタ胎仔やラットで比較した。ニホンザルの横突棘筋は第1胸椎棘突起に12本停止し、第7、8胸椎棘突起に移行するにつれ筋束数が減少した。第9胸椎棘突起より尾側にて増大した。内側枝の走行は、Th2では上下の横突起間より出た2~4本目の筋束に対し浅層から、5~11本目の筋に深層から筋枝を進入させ、最終的に皮枝となった。Th8は第8胸椎棘突起に付着する4本中1~2本目に浅層から、3本目に深層から筋枝を分岐し、皮枝は消失した。Th12では、第13胸椎棘突起に付着する筋の1本目より深層を走行し、全ての筋束に対し深層より筋枝が分岐した。ヒトの横突棘筋や内側枝の形態はニホンザルと類似していた。ブタ胎仔やラットでは、ニホンザルと異なり横突棘筋の筋束はどの分節でも2本程度だった。ラットはどの分節でも内側皮枝が確認されなかった。このような特徴がありながら、内側枝の筋枝の走行は下位胸神経より横突棘筋の1本目の筋よりも深層を走行するように変化した。


H31-B50
代:清水 貴美子
協:深田 吉孝
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

清水 貴美子 , 深田 吉孝

我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた (Shimizu et al. Nat Commun 2016)。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにすることを目的とする。
 ニホンザル6頭を用いて、苦い水と普通の水をそれぞれ飲み口の色が異なる2つのボトルにいれ、水の味と飲み口の色との連合学習による記憶効率の時刻依存性について実験をおこなった。各個体あたり、朝/昼/夕の何れかに試験をおこない、学習から24時間後にテストを行う。ボトルをセットしてから最初の一口目が正解(普通の水)だった場合にポイントを加算する方式で、6頭の記憶テスト結果を評価したところ、昼に有意に記憶効率が高いという結果が得られた。さらに、昼の記憶効率の高さにSCOPが関わっているかどうかを確かめるために、SCOP shRNA発現レンチウイルスまたはコントロールレンチウイルスの海馬への投与を一頭ずつおこない、昼の時刻の記憶効率を測定した。コントロールレンチウイルスではほとんど影響が見られなかったが、SCOP shRNA発現レンチウイルスを投与したサルは、chance level よりも著しく記憶能力が低下していた。この結果をさらに詳細に解析を行ったところ、記憶能力の低下というよりむしろ、考える気力の低下(無気力)の症状を示しているように考えられた。次年度は、この結果を論文化すべく、論文投稿準備と補強データのための実験を行う予定である。


H31-B51
代:長谷 和徳
協:吉田 真
協:羽賀 雄海
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

論文
長谷和徳, 王森彤(2019) 膝関節有限要素モデルと歩行運動生成モデルによる予測的関節負荷評価システム 臨床バイオメカニクス 40:53-59.

学会発表
羽賀雄海, 長谷和徳, 吉田真, 平崎鋭矢 ニホンザル型四足歩行ロボットによる歩行シーケンスと体重心との関係の力学解析(2019年11月30日) 第40回バイオメカニズム学術講演会(愛知県春日井市(中部大学春日井キャンパス)).

小野智貴,長谷和徳,松永陸央,吉田真,林祐一郎 実測との適合性を考慮した歩行シミュレーション(2019年12月1日) 第40回バイオメカニズム学術講演会(愛知県春日井市(中部大学春日井キャンパス)).

林祐一郎,長谷和徳,泉清美,川原剛正 ヒトの姿勢改善を目指したポール歩行の生体力学解析(2019年11月30日) 第40回バイオメカニズム学術講演会(愛知県春日井市(中部大学春日井キャンパス)).
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

長谷 和徳 , 吉田 真, 羽賀 雄海

本研究では,従来より開発を進めていた関節動態や神経系の運動制御機構などを考慮したマカク類の四足歩行のコンピュータ・シミュレーションモデルに加えて,組み立て式小型ロボットを用いてマカク類の身体力学系を模擬した実機モデルを新たに作成し,実環境におけるロボット四足歩行を実現することで,コンピュータ上のシミュレーション結果を検証し,それらを通して霊長類進化過程における身体運動と力学環境の影響の理解を目指した.
 本年度においては,歩行速度や歩幅など統制し,歩容の変化の比較検討をしやすい歩容条件に設定して実機ロボットによる評価実験を行った.また,体幹支持のためのバネ張力に対する力学的な影響について検討し,その影響が除外できることを確認した.さらに移動仕事率のような歩行のエネルギー効率と体幹部の動きとの関連を調べるため,実機ロボットの胸部・骨盤節の動きの動画解析を行った(図1,2).これらより,歩幅と歩行速度に関係なく,前方交叉型歩行時では,重心位置が後方タイプの方がエネルギー効率が良く,一方,後方交叉型歩行時では重心位置が前方タイプの方がエネルギー効率が良いという結果が得られた.また,今後のさらなる実機ロボットの発展を目指し,新しいサーボモータの導入や,シミュレーションモデルの関節自由度の変更などにも取り組んだ.


H31-B52
代:川本 芳
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

学会発表
川本芳, 直井洋司, 萩原光, 白鳥大佑, 池田文隆, 相澤敬吾, 白井啓, 田中洋之 性特異的遺伝標識による房総半島の外来種に関する見直し(2019年7月14日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本市国際交流会館).
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

川本 芳

今年度は外来種の起源を中心テーマとした。放し飼い施設が外房に存在したことの再発見で問題視したカニクイザルについて, Y染色体TSPY遺伝子を標識に塩基配列を解読し父系起源を検討した。この結果,スンダ地域のカニクイザルの関与は認められず,インドシナ地域のカニクイザルの可能性が残った。一方,房総半島に現存する外来種の母系起源を見直すため,mtDNA Dループを解読して再検討した結果では, 南房総には中国江蘇省付近のアカゲザル由来の1タイプ,半島丘陵部のニホンザルには少なくとも3タイプあることが明らかになった。また,南房総のアカゲザル交雑群の新試料でY染色体を検査したところ,外房の交雑ニホンザルに認めている外来種由来のY染色体ハプロタイプ(Xタイプと呼ぶ)は検出されず,外房のニホンザルでは南房総で野生化した中国からのアカゲザルとは由来の異なる外来マカクの影響が裏付けられた。しかし, インドシナ半島ではカニクイザルとアカゲザルが自然交雑した可能性があり,Xタイプの起源がカニクイザルかは結論できていない。以上の結果は第35回日本霊長類学会と2020年2月の霊長類研究所共同利用研究会で発表した。


H31-B53
代:村田 幸久
協:中村 達朗
協:山崎 愛理沙
コモンマーモセットにおける消耗性症候群の診断と管理法の開発
コモンマーモセットにおける消耗性症候群の診断と管理法の開発

村田 幸久 , 中村 達朗, 山崎 愛理沙

正常便のマーモセットとMarmoset Wasting Syndrome(MWS)が疑われたマーモセットから尿を採取し、排泄された脂質濃度の網羅的な測定(リピドーム解析)を行った。昨年度までに採取したものとあわせ、正常個体7個体、MWS疑いの個体7個体のデータを解析した。

141種類の脂質代謝物の濃度を測定した結果、48種類の脂質の濃度がMWSが疑われた個体で2倍以上に濃度が上昇しることが分かった。ヒトやマウスモデルにおいて、体内の炎症反応を反映すると報告されている脂質も複数見つかっている。引き続き検討をすすめることで、MWSの病態解明を進めるとともに、対象脂質のMWSマーカーとして応用可能性についても検討していきたい。

現在これらの結果について論文にまとめ、現在投稿中である。



H31-B54
代:神田 暁史
協:外丸 祐介
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立
保存・輸送精子を用いた人工授精によるマーモセット系統繁殖技術の確立

神田 暁史 , 外丸 祐介

霊長類の実験動物であるマーモセットは国内での遺伝的交流が少なく、奇形出現や繁殖性低下などのリスクを生じるような近交化が進んでいる。健全な個体を維持するためには、他研究機関のマーモセットと意図的な遺伝子交流を行うことが必要とされるため、本課題は精子の保存・輸送法と性周期の解析による人工授精法の確立を目指す。京都大学霊長類研究所との共同研究により、昨年度は以下のような成果が得られた。
①低侵襲な採血と血漿中のプロゲステロン濃度の測定による性周期の把握
②長時間にわたる精子活性の維持の方法

①に関しては、低侵襲な採血法として無麻酔下のメスの尾から血液を採取し、血漿を抽出してELISA法でプロゲステロン濃度を測定することで、ある程度の性周期を把握することができた (図1)。現在は排卵のタイミングを探るべく、ELISA法で血漿中のエストラジオール濃度を測定しており、当施設で飼育するオスの精子を用いて、人工授精による妊娠が可能か検討している。
②に関しては予備実験として、当施設のオスから精子を採取し、京都大学霊長類研究所から広島大学までの輸送を想定した保存方法を検討した結果、15℃の温度で精子の活性を長時間にわたり維持できることがわかった (図2)。実際に霊長類研究所のオスから採取した精子を同温度で低温保存し、新幹線を利用して約4時間かけて広島大学に輸送した結果、予備実験と同程度の割合で精子が活性を維持していることを確認できた。
以上の研究手技を基に、本年度は霊長類研究所と広島大学のマーモセットを用いて人工授精を行い、遺伝的交流を達成したいと考えている。


H31-B55
代:Laurentia Henrieta Permita Sari Purba
協:Bambang Suryobroto
協:Kanthi Arum Widayati
協:Nami Suzuki-Hashido
Functional characterization of bitter taste receptors in Leaf-eating Monkeys
Functional characterization of bitter taste receptors in Leaf-eating Monkeys

Laurentia Henrieta Permita Sari Purba , Bambang Suryobroto, Kanthi Arum Widayati, Nami Suzuki-Hashido

Bitter taste perception enables the detection of potentially toxic molecules and thus evokes avoidance behavior in vertebrates. It is mediated by bitter taste receptors, TAS2Rs. One of the best-studied TAS2R is TAS2R38. Phenylthiocarbamide (PTC) perception and TAS2R38 receptors vary across primate species, and this variation may be related to variation in dietary preferences. In particular, we previously found that the low sensitivity of TAS2R38s in Asian colobines likely evolved as an adaptation to their leaf-eating behavior. However, it remains unclear whether this low PTC sensitivity is a general characteris- tic of the subfamily Colobinae, a primate group that feeds predominantly on leaves. We performed genetic analyses, functional assays with mutant proteins, and behavioral analyses to evaluate the general characteristics of TAS2R38 in colobines. We found that PTC sensitivity is lower in TAS2R38s of African colobines than in TAS2R38s of omnivorous macaques. Further- more, two amino acids shared between Asian and African colobines were responsible for low sensitivity to PTC, suggesting that the last common ancestor of extant colobines had this phenotype. We also detected amino acid differences between TAS2R38s in Asian and African colobines, indicating that they evolved independently after the separation of these groups.
We published the results above in journal Primates:Purba, L.H.P.S., Widayati, K.A., Suzuki-Hashido, N., Itoigawa, A., Hayakawa, T., Nila, S., Juliandi, B., Suryobroto, B. and Imai, H., 2020. Evolution of the bitter taste receptor TAS2R38 in colobines. Primates, pp.1-10.


H31-B56
代:柏木 健司
黒部峡谷山岳地域のニホンザル化石の形態学的解析

論文
柏木健司(2019) 自動撮影カメラに記録された富山県黒部峡谷出平地域の哺乳類 南紀生物 61(1):32-37. 謝辞あり

学会発表
柏木健司 黒部峡谷のニホンカモシカの洞窟利用 (2019年9月18日) 日本哺乳類学会2019年大会(東京).

柏木健司 黒部峡谷出平における近年の哺乳類相 (2019年12月1日 ) 令和元年度 富山県生物学会研究発表会(富山).
黒部峡谷山岳地域のニホンザル化石の形態学的解析

柏木 健司

富山県は、豪雪地域におけるニホンザルの代表的な生息域の一つに挙げられ、黒部峡谷を含む県下の広い範囲で、群れの分布の広がりや消長について、これまでに情報が蓄積されている。一方、富山県産のニホンザル骨格標本は京大霊長研での収蔵は無く、富山県下の公共機関においても、収蔵情報を含め標本にたどり着くことは、申請者の経験に基づくと困難な現況にある。今回、複数の関係諸機関に問い合わせたところ、一機関で冷凍状態にある数個体の轢死体の収蔵を確認し、現在、標本の受け入れを進めている。さらに今回、北陸豪雪地域におけるニホンザルの形質に関する基礎資料を得ることを目的に、白山自然保護センター所蔵の白山産の約120試料の大臼歯を計測した。下顎M1の歯冠面積は、Aahara and Nishioka (2017)の白山の数値に比較して、雄雌ともに僅かに大きい値となった。また、京大霊長研収蔵試料のうち、福井県高浜と青森県下北、島根県羽須美、他数産地の標本も比較のために計測した。島根県産試料は、下顎M1歯冠面積と大臼歯歯冠面積ともに、今回の計測標本全体の中で小さな値を示す。また、富山県の鍾乳洞産化石標本は、現生白山試料の大臼歯歯冠面積の平均的な大きさである。


H31-B57
代:井上 治久
協:沖田 圭介
協:今村 恵子
協:近藤 孝之
協:月田 香代子
協:Suong Dang
協:大貫 茉里
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上 治久 , 沖田 圭介, 今村 恵子, 近藤 孝之, 月田 香代子, Suong Dang, 大貫 茉里

ヒト特有の高次機能をもたらす分子機構とその破綻こそがアルツハイマー病等の神経変性疾患の原因であるという仮説のもとに、チンパンジーとヒトの神経細胞の違いを同定するため、チンパンジーおよびヒトのiPS細胞から作製した神経細胞の比較解析を目的としている。ヒトiPS細胞およびチンパンジーiPS細胞から二次元培養により神経細胞を分化誘導し、免疫染色による神経細胞マーカーの解析を行った。また、三次元培養による脳オルガノイドの作製を行った。さらに、平面微小電極アレイ計測システム(MED64-Basic、Alpha Med Scientific)を用いた神経活動の評価を行った。ヒトiPS細胞由来神経細胞およびチンパンジーiPS細胞由来神経細胞の両者において、機能的な神経ネットワークが形成され、薬剤で神経伝達の制御が可能であることが示された。これらの神経細胞を用いたモデルの比較解析により霊長類神経系の機能解明とヒト疾患解析への応用が有用である可能性が考えられた。


H31-B58
代:國松 豊
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究

論文
Tanabe,Y., Onodera, M., Nakatsukasa, M., Kunimatsu, Y., Nakaya, H.(2020) A new cane rat (Rodentia, Thryonomyidae) from the Upper Miocene Nakali Formation, northern Kenya. The Journal of the Geological Society of Japan 126(4):167-181.

Takano, T., Nakatsukasa, M., Pina, M., Kunimatsu, Y., Nakano, Y., Morimoto, N., Ogihara, N., Ishida, H.(2020) New forelimb long bone specimens of Nacholapithecus kerioi from the Middle Miocene of northern Kenya Anthropological Science 128(1): 27-40.
アフロ・アジア地域における新第三紀霊長類化石の研究

國松 豊

2019年度は8月〜9月にかけてケニヤ共和国北部のナカリ地域において中新世後期の地層を対象に化石採集のための野外調査をおこない、追加の脊椎動物化石を収集した。2020年3月に再びケニヤへ渡航し、ケニヤ国立博物館において、ナカリ地域の化石の整理をおこない、これまでに収集した霊長類化石の分析を進めた。ナカリ地域からは、中新世小型「類人猿」の一種であるニャンザピテクス類の現在知られている最後の生き残りとして、すでに上顎小臼歯標本を記載・報告しているが(Kunimatsu et al., 2017)、未記載標本の中にニャンザピテクス類の大臼歯がさらにいくつか含まれているようである。
 アジアに関しては、2020年2月にタイ東北部ナコンラチャシマにおいて現地調査をおこない、ナコンラチャシマ郊外から出土し、東北タイ珪化木博物館に収蔵されている中新世の脊椎動物化石の整理・分析を進めた。この過程で新たにコロブス類の下顎標本を得た。同地域から出土した他の哺乳類化石に基づくと、中新世後期のものと思われ、今後、この標本の分析と共産する他の哺乳類化石の分析を進めていく予定である。


H31-B59
代:設樂 哲弥
協:後藤 遼佑
ヒト上科を対象とする後肢筋の筋線維型の分布の比較

学会発表
設樂哲弥 ニホンザルにおける股関節伸展筋の機能:形態分析と運動分析から(2019年3月27日) 第124回日本解剖学会総会全国学術集会(新潟市).

Shitara, T. Rotator actions of hip extensors in Japanese mcaques during arboreal quadrupedal walking: implications for functional differentiation between gluteus medius and hamstrings(26th June, 2019) Asia Pacific Conference on Human Evolution(Brisbane, Australia).
ヒト上科を対象とする後肢筋の筋線維型の分布の比較

設樂 哲弥 , 後藤 遼佑

筋線維型の分布は各動物種が行う主要なロコモーション様式と関連していることが知られている。特に霊長類では後肢がロコモーションにおいて主働していることから、後肢筋の筋線維型の分布は霊長類各種のロコモーション様式への適応を反映していると考えられる。本研究では、ロコモーション様式を異にする三種の霊長類、テナガザル、チンパンジー、ニホンザルを対象として、後肢筋の筋線維型分布を比較することを目的とした。
 本年度は染色方法の確立を目標とし、ニホンザルの薄筋をサンプル試料に用いて遅筋線維と速筋線維の染め分けを試みた。染色方法には免疫組織化学的手法を用いた。10%ホルマリン液浸保存されたニホンザル三標本左側それぞれから薄筋を摘出し、抗fast-myosin抗体(Sigma, M4276, cloneMY-32)と抗slow-myosin抗体(Sigma, M8421, clone NOQ7.5.4D)を用いて、所定の工程で遅筋線維と速筋線維を染色した。
 その結果、ニホンザル三標本中、一標本において比較的鮮明なコントラストが見られた。また、抗fast-myosin抗体を用いた染色のほうが、抗slow-myosin抗体を用いた染色よりも鮮明なコントラストが得られることも分かった。今後はニホンザルの殿筋群とハムストリングスを優先的に染色し、解析手法の確立を目指す。



H31-B60
代:中務 真人
協:小林 諭史
協:小嶋 匠
協:富澤 佑真
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

論文
Nakatsukasa, M., Morimoto, N., Nishimura, T.(2019) (2019). Sesamoids of the pollical metacarpophalangeal joint and the evolution of hominoid hands. Anthropological Science 127(2):159-164. 謝辞あり

Nakatsukasa, M. (2019) Miocene ape spinal morphology: The evolution of orthogrady . In E. Been, A. Gómez-Olivencia, A. A. Kramer (Eds.), Spinal Evolution: Morphology, Function, and Pathology of the Spine in Hominoid Evolution. Cham, Springer Nature Switzerland N/A(N/A):73-96. 謝辞なし
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

中務 真人 , 小林 諭史, 小嶋 匠, 富澤 佑真

計画開始以来、霊長類研究所において、類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザル)15個体、旧世界ザル(カニクイザル、ニホンザル、マントヒヒ)12個体の液浸標本をCT撮影し、腰椎の2レベル(第1腰頭側面レベルと下部腰椎頭側面レベル)において、再構築像から仮想的に断面を作成して、断面における固有背筋の断面積を計測した。その値を体重(大腿骨頭径からの推定値)で正規化し種間比較した。その結果、第1腰椎のレベルでは、チンパンジーとマカク属の間に有意差は認められなかった。また、ヒト上科において、横突起が必ずしも固有背筋の腹側境界を示す適切な指標とはならない事が示された。一方、下位の腰椎レベルではチンパンジーの値が小さい可能性が示された。これは、従来から唱えられている類人猿における固有背筋の縮小を支持する結果であった。この傾向を厳密に検証する上で、旧世界ザルの計測値追加が必要であると判断した。霊長類、特に類人猿の脊柱構造に関する総説をまとめ、脊柱の進化を扱った書籍の一章として公刊した。


H31-B61
代:栗田 博之
ニホンザルにおける母親の栄養状態と乳児の成長との関連性について
ニホンザルにおける母親の栄養状態と乳児の成長との関連性について

栗田 博之

 本研究は、母親の栄養状態と乳児成長の関連性を定量的に評価する目的で2019年度に開始したものである。季節性繁殖動物であるニホンザルを対象として、2つの時期(出産直後で、体脂肪が少ない時期である夏季(1回目)、および、それから約3か月経過後であるが未だ離乳前で、体脂肪が多い時期である秋季(2回目))のそれぞれにおいて、2019年度は一組の母親・乳児の栄養状態指標(頭臀長、前胴長、体重、皮下脂肪厚、太もも回り、胸囲)を計測した。
 その結果として、母親(9歳)の頭臀長、前胴長、体重、皮下脂肪厚(背部、腹部、腸骨稜上部)、太もも回り、胸囲の1回目から2回目にかけての増分は、それぞれ-15mm、1mm、-50g、-0.6mm、-1.1mm、0mm、-6mm、4mmであり、乳児(1回目:71日齢;2回目:162日齢)の上記項目の増分は、それぞれ36mm、28mm、545g、0.2mm、0.2mm、0.3mm、29mm、36mmであった。
 今後、標本数を増やして分析を行う計画である。


H31-B62
代:松岡 史朗
協:中山 裕理
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

論文
松岡史郎(編)(2019) 平成30年度天然記念物生息調査むつ市に生息するニホンザルの生息実態調査調査報告書  下北半島のサル 平成31年:1-25,37-58.
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

松岡 史朗 , 中山 裕理

1987年5頭の群れとして確認された下北半島南西部の87群は、指数的に増加し、2013年4月に43頭(87A群)と22頭(87B群)の2群に分裂した。分裂7年目の2019年度の出産率は、87A群で44%赤ん坊の死亡率は8%であった。87B群に関しては、観察日数が少なく、正確な出産率、死亡率が得られなかった。個体数は87A群では昨年度70頭が今年度は75頭と増加した。87B群はフルカウントができなかった。現在87A群は、2013年の分裂した頭数とほぼ等しいが今年度は観察期間中に泊まり場を異にするようなサブグーピングは観察されなかった。遊動面積は、ほぼ昨年度と同じであった。1987年からの観察データをまとめると、33年間で赤ん坊の死亡率は8.5%(n=188)であった。高い死亡率を示した分裂の年度2013年を除くと6.7%(n=179)となった。初産年齢は6.3歳(n=32)、出産間隔は、1.7年(n=155)となった。連続出産の例56のうち赤ん坊が発情期までに死亡し翌年出産したのは15例であった。現在メスの死亡年齢、生涯産子数のデータも集まりつつあり、遊動面積や遊動距離、採食などの行動に費やす時間、採食に関するデータなどと共に解析すること、金華山など他地域と比較することにより下北地域の個体群増加の要因解明に迫りたいと考えている。


H31-B63
代:城戸 瑞穂
協:吉本 怜子
協:西山 めぐみ
口腔におけるメカノセンサー発現の解明
口腔におけるメカノセンサー発現の解明

城戸 瑞穂 , 吉本 怜子, 西山 めぐみ

口腔は鋭敏な器官である。適切な口腔感覚は哺乳・摂食・情報交換など多様な行動の基盤となっている。近年、メカノセンサーの機能解明が発展し、力学的な環境と受容との関係にも着目されている。口腔は力学的に咀嚼など多様な刺激に常に曝されるユニークな器官であるが、その力学的な受容の機構についての理解はまだ限られたものである。そこで、私たちは、口腔内の力学センサーがどのような部位に存在をするのか、組織形態や解剖学的な部位によるどのような分布の差が認められるのかを明らかにすることを目的として、固定された組織において、メカノセンサーイオンチャネルが口腔の上皮および結合組織に発現していることを明らかにした。マウス組織において、咀嚼により大きな力が加わる咀嚼粘膜、伸展が大きい被覆粘膜、味覚等に関わる特殊粘膜で、発現様式が異なっていた。また、細胞内部の局在も異なっていることから、細胞生物学的な詳細な解析が必要と考えている。


H31-B64
代:荒川 高光
協:江村 健児
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

学会発表
江村健児,荒川高光 リスザルとクモザルにおける浅指屈筋の形態と支配神経パターンについて(2019年7月13日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本県熊本市).

櫻屋透真,荒川高光 ワオキツネザルとヒトの下腿屈筋群における神経束解析を用いた支配神経分岐パターン比較-ヒラメ筋と足底筋に着目して(2019年7月13日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本県熊本市).

Sakuraya T, Arakawa T )Comparison for the ramification pattern of the muscular branches to the soleus and plantaris muscles between the Ring-tailed Lemur (Lemur catta) and Human.(July 27-29,2020) APSBMS 2019 Annual Meeting.

櫻屋透真 、江村健児、荒川高光 霊長類におけるヒラメ筋と足底筋の神経束分岐パターン比較( 2020年3月25日-27日) 第125回日本解剖学会総会・全国学術集会(山口県宇部市).
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

荒川 高光 , 江村 健児

共同利用研究で貸与を受けたリスザルとクモザルの液浸標本を用いて、前腕屈筋群、特に浅指屈筋の起始・停止、支配神経パターンを解析した。また、下腿屈筋群の支配神経パターンを解析した。前腕屈筋群に関し、浅指屈筋の起始・停止には種による相違が認められたが、支配神経のパターンは、筋内分布まで調べたところ、一定の共通性が認められた。本成果は第35回日本霊長類学会大会で発表し、現在論文投稿を行い、revise中である。下腿屈筋群に関しては、ヒラメ筋と足底筋の間の支配神経パターンの近縁性を見いだし、それをもとに、ヒラメ筋と足底筋の系統発生を考察し、ヒトにおいてみられるヒラメ筋の発達は、足底筋の原基を利用している可能性について提唱したい。本成果は第35回日本霊長類学会大会で発表し、最優秀ポスター発表賞を受賞した。次年度はは対象部を上腕と大腿部へとつなげ、鎖骨下筋と肩甲帯の関係、尺骨神経の分岐パターン、大腿二頭筋短頭についても同様に解析を行っていきたい。


H31-B65
代:中村 裕一
協:近藤 一晃
協:Haefliger Adan
機械学習を適用した飼育サル集団からの個体検出・識別と社会交渉場面の自動検出
機械学習を適用した飼育サル集団からの個体検出・識別と社会交渉場面の自動検出

中村 裕一 , 近藤 一晃, Haefliger Adan

近年のセンサ技術の高精度化および機械学習の進歩に伴って、これまで多大なコストと時間のかかっていた、フィールド中の動物の個体検出および個体識別を自動化する機運が高まっている。本研究では、その一つのアプローチとして、飼育サルを対象とし、動画・静止画データからサルの個体検出、個体識別を行うための機械学習的手法の適用とそれによる自動追跡を試みる計画を企画した。しかし,一方で主体的に実施できる環境が構築できず,多くの点については具体的に実施できなかった.活動としては,それ以前に実施された内容を,学会で公表するにとどまったが,これを契機としてより発展させる展開を模索したい.
<国内会議での発表>
濵地瞬, 近藤一晃, 中村裕一, 豊田有, 香田啓貴, 佐藤真一. ニホンザルの性別
・年齢推定における深層学習の推定根拠の可視化. 第47回可視化情報シンポ
ジウム. 2019年7月25-27日, 京都


H31-B66
代:高島 康弘
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析
チンパンジー多能性幹細胞を維持する機構の解析

高島 康弘

ヒト胚性幹細胞(ES細胞)はFGFとACTIVINシグナルを利用し、維持される(プライム型と呼ぶ)。一方、マウスES細胞はLIFシグナルを利用し、維持されている(ナイーブ型と呼ぶ)。人工多能性幹細胞(iPS細胞)も同様であり、ヒトはFGFとACTIVINであり、マウスはLIFシグナルであり、維持されるシグナルが異なっている。
 申請者は、ヒトiPS細胞をマウスと類似した培養方法へと変更したヒトiPS細胞を樹立することに成功した。
一方、非ヒト霊長類ES/iPS細胞は、ヒト同様にFGFとACTIVINのシグナルによって維持されており、ヒトと同様のプライム型である。申請者は、ヒトと同様の方法を用いて、カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセットをナイーブ化する試みを行ってきたが、ヒト同様の方法では、誘導することが難しいことが分かった。
本年度はよりヒトに近縁であるチンパンジーiPS細胞の多能性に関連するシグナルを解析し、チンパンジー、ヒトを含む霊長類における相違と相似を明らかにすることを試みた。またチンパンジーiPS細胞(プライム型)をより受精卵に近いナイーブ型チンパンジーiPS細胞へとリプログラミングを行った。形態的には、プライム型からナイーブ型への移行を認めた。今後遺伝子発現の確認やより効果的なナイーブ型への移行方法を考える。


H31-B67
代:小林 俊寛
協:平林 真澄
協:正木 英樹
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価

学会発表
小林俊寛 哺乳類の生殖細胞成立機構における保存性と多様性(2019年 9月20日) 中部幹細胞クラブ・シンポジウム(愛知県 名古屋).

小林俊寛 Conservation and diversity of germline development in mammals ( 2020年 2月 17-18日) 1st CU- KU Symposium and 4th CU-NIPS Symposium“Advances in Neuroscience Research”( タイ バンコク).
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価

小林 俊寛 , 平林 真澄, 正木 英樹

胚発生初期に生じる始原生殖細胞 (Primordial germ cells: PGC) はすべての生殖系列の源である。生殖細胞が生じると考えられる妊娠初期のヒト胚は倫理的・実際的に直接解析することが困難であるため、これまで多くの研究がマウスの胚を用いて進められてきた。しかしながら、近年、PGC の発生機構にはマウスとヒトで差異があることが判ってきており、よりヒトに近いモデルを用いてそのメカニズムを明らかにすることが、その理解に重要であると考えられる。そこで本研究では、ヒトに最近縁の霊長類であるチンパンジー由来の iPS 細胞を用いて、PGC が生じる過程を in vitro で再構築し、その成熟化、あるいは配偶子形成能を評価することのできる系の確立を目指してきた。前年度において、所内対応者の今村公紀先生から分与いただいたチンパンジー iPS 細胞から PGC を分化誘導することに成功していた。本年度はその更なる解析として、まず RNA-seq によるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、チンパンジー iPS 細胞から分化誘導された PGC は、すでに報告がなされているヒト ES/iPS 細胞由来の PGC と極めて近い遺伝子発現パターンを示すことが明らかになった。また PGC の更なる成熟化を促すため、雌マウス胎児生殖腺から回収した支持細胞と共にチンパンジー iPS 細胞由来の始原生殖細胞 PGC と共培養を行った。その結果、 PGC の二ヵ月ほどの長期にわたる生存と、その一部における増殖が確認できた。今後の詳細な解析が望まれるが、成熟化が進んでいれば、発生中の胚で起こるインプリントの消去をはじめとしたエピゲノム変化も解析することが可能になる有用な実験系になると期待される。


H31-B68
代:澤野 啓一
協:田上 秀一
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

学会発表
澤野啓一1)、田上秀一2)、田中健3)†)、新宅勇太4)、濱田穣5)、安陪等思2)、中務真人6)、川原信隆7)†)、加藤正二郎3)、山田良広1) Quadrangulus-ovalo-jugularis(頭蓋底卵円孔頚静脈孔四辺形)の形状が意味するもの。ヒトと類人猿の比較の中から(2020年1月25日(土)) 第64回プリマーテス研究会(犬山市、愛知県).

Sawano K1,7), Tanoue S2), Tanaka T3), Hamada Y4), Abe T2), Nakatsukasa M5), Yokoyama T8), Hagiwara H9), Kato S3), (Already registered) A comparison of human and monkey cerebrovascular systems (Already registered)(March 28-30, 2021 (Already registered)) The 126th Annual Meeting of The Japanese Association of Anatomists(Nagoya, Japan).
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

澤野 啓一 , 田上 秀一

ニホンザル(Mff)の脳血管系は幾つかの点でヒト(現生人類,Hss)とは異なっている。A. cerebri anterior (ACA)は左右が合体して一本と成り、上行、斜め上前方に走行の後、上方から後方に強く屈曲して後方に向かう。このようなACAの走行は、Hssでは極めて稀である。静脈系では多くの相違点が見いだされつつある。Hssでは、V. cerebri anterior (VCA)、V. cerebri media profunda (VCMP)等からの静脈血は、外側に張り出す弧を描いてV. basalis (VBR, Rosenthal's vein) と成ってV. cerebri magna(VCM, Galen's vein) → Sinus rectus (SR)と流れることが多い。しかしMffでは、VBR (Rosenthal's vein)は上行してVCM → Sinus rectus (SR)と流れるのではなく、幾分蛇行しつつも斜め後外側方向に流れ、Sinus transversus (STR)に合流している。これは経路図を描くと、大きな相違点である。Foramen jugulare (FJ)の形状に反映されたSinus sigmoideus (SSG) からVena jugularis interna (VJI)への流れに関しては、HssではSquama occipitalisの下壁が下方に膨隆していることと、「他のAnthropoideaではFJの前端に相当する部分」がHssではFJの上端と成っていることの為に、SSG からVJIへの還流静脈路は、一旦上行し、次いで急角度で屈曲した後に下方に向うという特殊な経路と成っている。ところがMffでは、SSG からVJIへの還流静脈路は斜めになだらかに傾斜して流れる形状である。Mffの脳血管系がHssとは異なる他の部位に関しても、今後に明らかにし報告する予定である。


H31-B69
代:後藤 遼佑
協:Neysa Grider-Potter
三次元運動解析を見据えたニホンザルの全身骨格データの収集
三次元運動解析を見据えたニホンザルの全身骨格データの収集

後藤 遼佑 , Neysa Grider-Potter

本申請の問題意識は、運動計測において身体深部に位置する関節 (例えば股関節など) の位置データを計測することが難しく、精密な三次元運動学的解析や動力学的解析を困難にしていることにあった。この問題は、体表面ランドマークと身体深部関節の位置関係を数的に記述することで改善させられる可能性があった。本申請では、ニホンザル標本を撮像し、体表面と深部関節のランドマーク間の位置関係を明らかにすることを目的とした。

 京都大学霊長類研究所の医用CTを使用し、ニホンザルの全身を撮像した。関節 (第12胸椎と第1腰椎の椎体間関節、第5腰椎と仙椎の椎体間関節、肩関節、肘関節、股関節、膝関節、足関節) の三次元座標値を特定した。今後、運動解析に常用する体表面ランドマークを同定し、体表面と深部関節の位置関係を数的に記述する予定である。さらに、申請者の所属機関で収集したニホンザルの四足歩行、二足歩行、垂直木登りにおける体表面ランドマークの位置データから、身体深部関節の位置を外挿し、精密な三次元運動解析を進める。


H31-B71
代:落合 知美
協:川出 比香里
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

学会発表
Tomomi OCHIAI THE HISTORY AND CURRENT STATUS OF CAPTIVE CHIMPANZEES (PAN TROGLODYTES) IN JAPAN(2019.6.22-26) International Conference of Environmental Enrichment( Kyoto).

落合知美 国内の飼育霊長類における給餌内容と採食エンリッチメントについて(2019.7.12-14) 第35回日本霊長類学会(熊本).

落合知美, 川出比香里 飼育下霊長類における植樹と枝葉給餌(2019.11.16-17) 第22回SAGAシンポジウム(犬山).
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

落合 知美 , 川出 比香里

学会発表
Tomomi OCHIAI The History and Current Status of Captive Chimpanzees (PAN TROGLODYTES) in Japan (2019.6.22-26) International Conference of Environmental Enrichment (Kyoto).
落合知美 国内の飼育霊長類における給餌内容と採食エンリッチメントについて(2019.7.12-14) 第35回日本霊長類学会(熊本).
落合知美, 川出比香里 飼育下霊長類における植樹と枝葉給餌(2019.11.16-17) 第22回SAGAシンポジウム(犬山).

 2014年から2016年にかけて宇部市ときわ動物園で実施したサル類の給餌内容の変更を論文としてまとめるため、飼育現場で得られた情報を整理し、科学的・定量的な評価を試みている。昨年度は、観察記録や体重変動のデータなどから、採食エンリッチメントの効果が評価できる手がかりを得た。今年度は、研究の目的や方法、条件について、情報収集をおこない、文章としてまとめる作業に着手した。具体的には、霊長類の飼育や、霊長類で実施されている枝葉給餌などの採食エンリッチメントについてまとめ、学会で発表することで情報収集をおこなった。また、実際に研究者と協力者が集まり、データから得られた結果をより正しく表や図に表す作業をおこなった。京都大学霊長類研究所を訪問し、先行研究や野生での関係論文を検索し、収集した。今後は、まずトクモンキーの採食エンリッチメントについて、論文の体制を整えていきたい。


H31-B72
代:松尾 光一
協:山海 直
協:Suchinda Malaivijitnond
マカクにおける繁殖季節性に起因する骨量増減と骨リモデリングのメカニズム
マカクにおける繁殖季節性に起因する骨量増減と骨リモデリングのメカニズム

松尾 光一 , 山海 直, Suchinda Malaivijitnond

グループケージで飼育されているニホンザル(Macaca fuscata)の8個体について、2019年5月10日(非繁殖期)と10月15日(繁殖期)に、採血とマイクロCTによる骨密度測定を行った。血清を用いて、テストステロンと25-水酸化ビタミンDを測定した。また、マイクロCT装置(Helical CT)を用いて、生体ニホンザルの橈骨遠位の成長板(骨幹端)について、骨塩量の標準物質(ファントム)を用いて、定量的なCT撮影を行った。マイクロCTデータは、DICOM医用画像をTIF画像に変換し、画像解析ソフトウエア3DBON(ラトックシステム)で解析した。25-水酸化ビタミンDの濃度と骨量の相関が明らかになった。
生体CTデータの解像度は、さらし骨撮影時より低いので、骨梁構造の詳細な解析は、さらし骨の大腿骨や橈骨のマイクロCTの画像データで行った。死亡時の日付から、繁殖期・非繁殖期を判定した。さらし骨では生体のデータと同じ部位、すなわち橈骨遠位端について、骨梁構造の詳細な解析を行い、季節性変動が認められた。


H31-B73
代:森光 由樹
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

学会発表
森光由樹 絶滅が危惧されている地域個体群の現状と課題~近畿・中国地方の現状~(2019年7月12日-14日) 日本霊長類学会(熊本市国際交流会館).
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

森光 由樹

兵庫県内のニホンザルの地域個体群は、美方、城崎、大河内・生野、船越山、篠山の5つに分けられている。絶滅が危惧されている地域個体群は、美方と城崎で、2019年のカウント調査では、美方B群は17頭(成獣メス4頭)、城崎A群36頭(成獣メス10頭)の生息が認められた。2つの地域個体群の捕獲個体から血液を採取し、常染色体マイクロサテライト計16座位(Kawamoto, et al.2008)についてフラグメント分析を行い、遺伝的多様性について解析を行った。その結果、美方B群(n=10)は、He0.725、城崎A群(n=12)は、He0.702であった。2つの地域個体群は近年、捕獲や交通事故で頭数が減少している。今後、群れの遺伝的多様性が減少する可能性もある。引き続き遺伝情報をモニタリングする必要がある。近畿地方北部から中国地方北部(兵庫県北部から、鳥取県、島根県東部まで)は、ニホンザルの分布情報はなく、今後は保全すべき地域個体群として管理する必要性が求められる。


H31-B74
代:小倉 淳郎
協:越後貫 成美
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察

小倉 淳郎 , 越後貫 成美

我々は、顕微授精技術を用いることにより、マーモセット体内で自然発生した生後 11 ヶ月齢の未成熟精子(伸長精子細胞)から産仔を獲得した。そこで本研究では、さらに早期に顕微授精を行う可能性を検討するために、性成熟の早いマウスへ新生仔マーモセット未成熟精細管を移植し、精原細胞から精子・精子細胞発生が加速するかどうかを確認した。前年度までに生後4 ~7ヶ月齢雄マーモセットの片側精巣を採取し、去勢NSGマウスの腎皮膜下に移植行った。前年度(2018-B-92)、生後4ヶ月齢マーモセット精巣移植から約 3 ヵ月後に組織を回収して組織学的観察を行った結果、初期円形精子細胞までの発生を確認した。生体下での円形精子細胞の出現は 10-11 ヶ月なので、異種移植を行うことにより 3-4 ヶ月ほど精子発生が加速した結果が得られた。今年度は、より世代短縮が可能か明らかにするため、生後1日齢の個体より精巣を採取して移植したサンプルの解析を行った。移植後3ヶ月では精原細胞まで、1年では精母細胞までの発生が確認された。


H31-B75
代:保坂 善真
協:田村 純一
協:割田 克彦
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析
霊長類の消化器等でのコンドロイチン硫酸の組成とコンドロイチン硫酸基転移酵素の発現解析

保坂 善真 , 田村 純一, 割田 克彦

実験初年度は、2頭のニホンザルおよび2頭のアカゲザルより、消化管、泌尿器(腎臓)および呼吸器(気管)を採取し、パラフィン切片を作成の後、コンドロイチン硫酸基転移酵素であるChst12、3および15の免疫染色を行った。
 消化器は、いずれも粘膜上皮細胞および平滑筋で、検索した酵素の陽性反応を示した。とりわけ興味深かったのは、胃底腺で、固有層中に存在する円形の細胞全体に陽性を示した。その形から、壁細胞であると考えられた。壁細胞は固有層全体にわたって分布するが、深部よりも浅部で強い反応を示した。一方、主細胞には陽性反応を認めなかった。
 一方、腎臓では、皮質では、いずれのChstも遠位尿細管が強い陽性を示したが、近位尿細管の反応は、弱いものであった。髄質では、遠位尿細管や集合管と思われる管は陽性であったが、薄壁尿細管は陰性であった。糸球体は、血管間の基質が弱陽性であった。
 呼吸器(気管)は、気管軟骨細胞および、上皮に陽性がみられた。上皮は杯細胞が陽性を示した。
 今度は、細胞の詳細な同定と行うとともに、各酵素が合成するコンドロイチン硫酸の量を計測する予定である.


H31-B76
代:河野 礼子
ミャンマー中部の後期更新世の地層から出土したオナガザル亜科遊離歯化石の3次元形態分析
ミャンマー中部の後期更新世の地層から出土したオナガザル亜科遊離歯化石の3次元形態分析

河野 礼子

ミャンマー中央部サベ地域でみつかった大型オナガザル亜科の遊離歯化石について、現生種との比較を行った。まず、サベの大臼歯化石6点について、霊長類研究所のマイクロCT装置によって連続撮影した。次に比較用の現生マンドリルおよびマントヒヒの大臼歯についても同様にCT撮影した。現生資料は顎から大臼歯を外す必要のために点数が限られ、上顎についてはマンドリル2点、マントヒヒ3点、下顎についてはマンドリル3点、マントヒヒ4点についてCT撮影が可能であった。これらの現生資料とサベの大臼歯化石について比較することでサベ化石について部位を確定し、それぞれ対応する現生標本とCTデータを比較した。その結果、マントヒヒは全体にエナメル質がやや厚めであるのに対し、マンドリルではそれに比べてエナメル質が薄く、また咬頭頂が近遠心により接近しているなどの特徴がみられ、サベ標本は後者により類似する可能性が示された。比較資料数も少ないため、今回は幾何学的形態測定法の実施などには至らず、結果も予備的なものと考える必要がある。今後は比較資料を増やすことでさらに分析を進める必要がある。また、ゲラダヒヒも比較に含める予定であったが、大臼歯を顎から外すことができずに今回は分析できなかった。今後は歯槽骨から外さずにそのままCT撮影することなども視野に入れて、比較対象を属レベルでも増やして分析していく必要があると考えられる。


H31-B77
代:郷 康広
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

論文
Ishishita S, Takahashi M, Yamaguchi K, Kinoshita K, Nakano M, Nunome M, Kitahara S, Tatsumoto S, Go Y, Shigenobu S, Matsuda Y. (2018)(2018) Nonsense mutation in PMEL is associated with yellowish plumage colour phenotype in Japanese quail. Sci Rep. 8(1):16732.

Hirai H, Go Y, Hirai Y, Rakotoarisoa G, Pamungkas J, Baicharoen S, Jahan I, Sajuthi D, Tosi AJ.( 2019) Considerable synteny and sequence similarity of primate chromosomal region VIIq31. Cytogenet Genome Res. 158:88-97.

Kishida T, Go Y, Tatsumoto S, Tatsumi K, Kuraku S, Toda M. (2019) Loss of olfaction in sea snakes provides new perspectives on the aquatic adaptation of amniotes. Proc Biol Sci. 286: 20191828.

学会発表
郷康広 マーモセットにおける遺伝的多様性解析および精神・神経疾患関連遺伝子解析.(2019年6月26日) 日本医療研究開発機構(AMED)セミナー(東京都千代田区).

郷康広,辰本将司,石川裕恵,平井啓久 テナガザル3属の新規ゲノム配列決定とテナガザル科の大規模構造変化・核型進化解析.(2019年8月7日) 日本進化学会第21回大会(北海道札幌市).
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

郷 康広

ヒト精神・神経疾患の霊長類モデル動物の開発のために,マカクザルとマーモセットを対象とした実験的認知ゲノミクス研究を行った.ヒト精神・神経疾患関連遺伝子(約500遺伝子)を解析対象とし,マカクザル831個体,マーモセット1,328個体を対象とした遺伝子機能喪失(Loss-of-Function:以下LoF)変異保有個体の同定を行った.その結果,マカクザルでは53遺伝子,マーモセットでは142遺伝子おいて,精神・神経疾患との関連性が非常に高い遺伝子において稀な(集団アリル頻度5%以下)LoF変異を持つ可能性のある個体を同定した.
 ゲノム解析として,ヒト以外で未だゲノム配列未決定の霊長類種の新規ゲノム解読によるゲノム情報の整備を行った.具体的には,チンパンジーの亜種であるヒガシチンパンジー,テナガザル3種,ニホンザル,スローロリスの新規ゲノム解読,遺伝子情報の整備を行うとともに,それら大規模情報を公共データーベースに登録・公開した.それらの成果の一部として,ヒトの染色体進化に関する論文を発表した(Hirai et al. 2019 Cytogenetic and Genome Research).
 トランスクリプトーム解析としては,ヒトと非ヒト霊長類の死後脳を用いた複数脳領域における比較遺伝子発現解析を行った.具体的には,一分子長鎖シーケンサーを用いたアイソフォームレベルの完全長転写産物の種間(ヒト,チンパンジー,ゴリラ)比較を行い,論文投稿準備中である.また,細胞の個性を単一細胞ごとに定量化するための技術開発を行った.数万の単一細胞の遺伝子発現情報を網羅的に取得できる技術開発を推進した.対象とする細胞種として,免疫系,神経系などを中心として,単一細胞レベルでの遺伝子発現情報を取得する実験および解析系を構築することに成功した.


H31-B78
代:笹岡 俊邦
協:藤澤 信義
協:福田 七穂
協:小田 佳奈子
協:崎村 建司
協:中務 胞
協:夏目 里恵
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

笹岡 俊邦 , 藤澤 信義, 福田 七穂, 小田 佳奈子, 崎村 建司, 中務 胞, 夏目 里恵

<目的>近年ゲノム編集技術の発展により比較的容易に遺伝子改変が様々な動物で行えるようになってきた。しかし、実際に遺伝子改変モデルマーモセットを作出するためには多くの受精卵の獲得が必須である。また、体外受精のため、精子の保存法の確立も望まれている。そこで私たちは、霊長研の中村克樹教授から分与して頂いた、安楽死されたマーモセット精巣上体尾部精子の凍結保存を行った。今年度は安楽殺された、生後12日齢の卵巣の異種間移植にも着手した。
<方法>
卵黄糖液による精子の凍結保存(1)輸送後の精巣上体尾部を卵黄糖液内にて細切した。(2)精子懸濁液を作製し、室温から4℃まで2時間かけて冷却した。(3)精子懸濁液と同量の耐凍剤入り保存液を添加した。(4)プラスチックストローに封入後、液体窒素液面上に静置し凍結した。
マーモセット卵巣の異種間移植(1)冷蔵輸送後の新生児(生後12日齢で安楽殺されたマーモセット)の生殖器より卵巣を採取した(図1)。(2)事前に左右卵巣を除去した免疫不全マウスの、左右の腎被膜下に卵巣片を移植した。(3)移植したマーモセット卵巣の機能開始を調べるため、週2回、免疫不全マウスの膣開口の確認を行った(図2)。
<結果>冷蔵輸送後の精巣上体尾部より運動性を有する精子を回収することができ、それら精子の凍結保存を行った。新生児卵巣を移植した免疫不全マウスはまだ膣開口が認められていないが、引き続き、性周期開始を確認し、確認ができた個体には性ホルモン投与を行い、卵子採取を行う。通常、マーモセットは1.2-1.5歳で性成熟を迎える。マウスに移植したマーモセット新生児卵巣の機能開始時期は確認されておらず、今後、この共同研究を進める中で、明らかにしたい。


H31-B79
代:佐藤 宏樹
協:Tojotanjona Razanaparany
チャイロキツネザルの採食戦略における周日行性の意義
チャイロキツネザルの採食戦略における周日行性の意義

佐藤 宏樹 , Tojotanjona Razanaparany

Most animals, especially those living in unpredictable and harsh environment, must develop strategies to access food for vital element and energy supply. Although Eulemur has less-specialized gut to digest fibre, they consumed fibrous diet during food-shortage periods. It would explain the extension of their feeding time over 24-h, so called cathemeral feeding, to increase food and energy intakes. Here, we studied how Eulemur fulvus organized cathemeral feeding to insure their nutrient and energy intakes. We followed two groups of Eulemur fulvus in a seasonal dry forest of northwestern Madagascar during nine months distributed evenly in the dry and wet seasons. We collected data on their feeding behaviour during all-day and all-night using direct observation. To evaluate fruit availability, phenology of 817 trees belonging to 26 species in two line transects were monitored twice a month. We analysed nutrient contents of food items consumed by E. fulvus in the lab of PRI and determined nutritional intake. The data were treated on daily basis, and nocturnal and diurnal feeding were analysed separately. We examined the effect of season on feeding time and nutrient intakes with liner mixed models (LMMs). Then, we tested the effects of nutritional intake and environmental factors on feeding time with LMMs. Feeding time and feeding time on most consumed items were successively added as dependent variables, and nutritional intake, climate, the availabilities of food and water were set as the independent variables. During daytime, Eulemur fulvus were frugivorous during the wet season but they predominantly spent time feeding mature leaves besides fruits during the dry season. Their feeding time increased with the water intake (from food, hereafter) and ripe fruit availability. They spent more time eating ripe fruits during cool days and such prolonged frugivory increased carbohydrate intake. Their feeding time on mature leaves increased during dry and cool days and it increased their water intake. At night, especially during the dry season, they were mainly frugivorous. Nocturnal feeding was positively predicted by carbohydrate intake and negatively associated with the humidity. The carbohydrate intake and ripe fruit availability predicted positively the time spent feeding on ripe fruits. These results suggest that Eulemur fulvus consumed succulent mature leaves to increase water intake during daytime probably to cope the dry condition of the dry season. Hence, the nocturnal feeding offset the energy supply at night during the dry season by shifting their diet from succulent leaves to fruit. During the wet season, as both fruits and water were available, they probably satisfied their energy requirement using daytime which would explain the marginalization of the nocturnal feeding activities. These different functions between diurnal and nocturnal feeding will explain the significance of cathemeral activities in Eulemur.


H31-B80
代:神奈木 真理
協:長谷川 温彦
協:永野 佳子
協:Ganbaatar Undrakh
協:冨士川 朋夏
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

論文
Kannagi M, Hasegawa A, Nagano Y, Iino T, Okamura J, Suehiro Y.(2019) Maintenance of long remission in adult T-cell leukemia by Tax-targeted vaccine: A hope for disease-preventive therapy. Cancer Science 110(3):849–857.

Kannagi M, Hasegawa A, Nagano Y, Kimpara S, Suehiro Y.(2019) Impact of host immunity on HTLV-1 pathogenesis: potential of Tax-targeted immunotherapy against ATL. Retrovirology 16(1):23.

学会発表
神奈木真理 成人T細胞白血病の免疫原性に基づく新規細胞治療法の開発.(2020.02.15) HTLV-1関連疾患研究領域研究班合同発表会(東京).
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

神奈木 真理 , 長谷川 温彦, 永野 佳子, Ganbaatar Undrakh, 冨士川 朋夏

本研究では、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の近縁ウイルスであるサルTリンパ球向性ウイルス(STLV)に自然感染したニホンザルにおけるSTLV特異的細胞障害性T細胞(CTL)応答の解析ならびに活性化を目的とした。野生のニホンザルでは個体毎にMHCが異なるため、個体別にSTLV感染細胞株を樹立しこれを抗原とする特異的T細胞応答の解析系を作製し解析したところ、多くの感染個体ではSTLV特異的CTL応答が保たれていた。しかし、一部の個体ではプロウイルスDNA量が高いにも関わらずSTLV特異的CTL応答が著しく低かった。これはHTLV-1感染で生じるATL患者やATL発症リスクを持つHTLV-1キャリアの特徴に酷似している。ATL患者ではHTLV-1特異的CTLの活性化により抗腫瘍効果が期待されていることから、STLV特異的CTLの低応答性を示すニホンザル個体に対する免疫活性化を目的として、同一個体由来の不活化STLV感染細胞を用いて免疫接種実験を実施した。その結果、顕著なSTLV特異的CTL応答の活性化が誘導された。これは非常に有望な結果であり、本プロジェクトは令和元年度のAMEDの研究開発事業に採択された。今後個体数を増やしフォローアップを行う予定である。


H31-B81
代:伊藤 孝司
協:北川 裕之
協:月本 準
協:桐山 慧
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

論文
伊藤孝司*,西岡宗一郎,日高朋,月本準,桐山慧,篠田知果,竹内美絵,辻大輔(2019) 遺伝子組換えカイコによるヒトバイオ医薬品開発の現状と課題 蚕糸・昆虫バイオテック 88(3):167-174. 謝辞 あり

学会発表
伊藤孝司*、西岡宗一郎、篠田知果、竹内美絵、福士友理、月本準、辻大輔、小林功、炭谷めぐみ、飯塚哲也、木下嵩司、三谷藍、堂崎雅仁、須田稔、松崎祐二、飯野健太、瀬筒秀樹 組換えカイコ絹糸腺で高発現するヒトリソソーム酵素のN型糖鎖改変と医薬応用(2019年 8月 ) 第38回 日本糖質学会年会(愛知県名古屋市(名古屋大学)).
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

伊藤 孝司 , 北川 裕之, 月本 準, 桐山 慧

霊長類研究所(大石、宮部、金子ら)との共同で、徳島大(伊藤ら)は、ニホンザル若桜集団の中に、リソソーム酵素α-L-イズロニダー(IDUA)遺伝子における1塩基置換(ミスセンス潜性変異)が原因で、IDUA活性欠損と特徴的な顔貌、四肢や体幹の形態異常を伴うムコ多糖症I型(MPS1)(ライソゾーム蓄積症の一種)を自然発症した個体(呼称ヨーダ)を世界初で発見し、今年度は、同変異のホモ個体(呼称ムシューダ♀20160521生、オジーダ♀20190527生)を同定した。神戸薬大(北川、灘中)は、ムシューダ及びオジーダの尿中に、IDUAの生体内基質であるヘパラン硫酸、デルマタン硫酸が排泄されていること、また血漿中の、α-イズロン酸を含むヘパリンが増大していることを明らかにした。徳島大(伊藤、月本、桐山、篠田ら)は、ヒトIDUA遺伝子を絹糸腺で高発現する組換えカイコの繭からIDUAを精製し、組織細胞内への取り込みに必要な末端マンノース6-リン酸(M6P)含有合成糖鎖を、エンドグリコシダーゼM(EndoM)またはEndo-CC改変体の糖鎖転移活性を利用し、人工的にIDUAの付加糖鎖と挿げ替えたネオグライコIDUAを創製した。さらに同研究所の今村がヨーダ耳介組織から樹立した皮膚線維芽細胞株の培養液に、ネオグライコIDUAを投与したところ、細胞表面のM6Pレセプターを介して取り込まれ、リソソームまで輸送され、欠損IDUA活性を治療域まで回復させることを明らかした。今後、本ネオグライコIDUAをムシューダの静脈内に定期継続的に投与することにより、補充治療効果が期待される。


H31-B82
代:大石 元治
協:荻原 直道
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について
大型類人猿の足部における骨格と軟部組織の関係について

大石 元治 , 荻原 直道

関節の可動域はその形状に加え、筋や靭帯などの軟部組織によって決定される。大型類人猿の足部の形態学的研究は骨格や筋についてのものがほとんどであり、腱や靭帯についての報告は1から2個体の報告にとどまっている。そこで、本研究は大型類人猿における足部の腱や靭帯の種間/種内バリエーションを明らかにして、足部の運動に関係する形態学的特徴を理解することを目指している。本年度は、チンパンジー、ゴリラをそれぞれ1個体ずつ観察する機会を得た。チンパンジーにおいては、既報の通り、底側面に長腓骨筋腱、後脛骨筋腱、底側踵立方靭帯、底側踵舟靭帯、底側立方舟靭帯、底側楔舟靭帯などが観察された(図)。しかし、後脛骨筋腱にはHepburn (1892)が報告している中間楔状骨への停止腱は認められず、Gomberg (1981)の報告に類似していた。また、底側立方舟靭帯は後脛骨筋腱の深層を横走しており、Gomberg (1985)の報告と比較して未発達であった。ゴリラについては、現在、観察を継続中である。今後は標本数を増やし、腱・靭帯の分岐や付着から分類を試みる。


H31-B83
代:田伏 良幸
ヤクシマザルにおける抱擁行動の至近要因と季節変化
ヤクシマザルにおける抱擁行動の至近要因と季節変化

田伏 良幸

今年度の共同利用研究では、昨年度の共同利用研究で得られた結果も合わせてまとめた。鹿児島県屋久島町の西部海岸域で、ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)のUmi-A群を対象に、文化行動である抱擁行動の至近要因と生起頻度の季節変化を調べた。データ取得方法は、追跡個体の半径10ⅿ以内で生起した抱擁行動を全生起サンプリングにより行った。その結果、交尾期よりも非交尾期(特にアカンボウがまだ小さい夏)において、抱擁行動の生起頻度が高かった。また、非交尾期の中でみてみると、ワカモノメスやオトナメスが特に非血縁のアカンボウを子守りしているときに、アカンボウの母親と敵対的交渉が生じ、その後抱擁行動が生じることが多かった。このことから、抱擁行動はこれまで報告されているような仲直り行動として機能していることが確認された。一方で、子守り行動という文脈での生起は、今回の調査で初めて明らかになった。ヤクシマザルは他地域に比べて、子守り行動の割合が高いことが報告されている。抱擁行動が子守り行動時に仲直りするのに機能することで、多くの子守り行動ができる機会が生まれ、高い割合での子守り行動が実現できているのかもしれない。


H31-B84
代:緑川 沙織
協:時田 幸之輔
肉眼解剖学に基づく霊長類腹鋸筋の機能とその系統発達

学会発表
緑川 沙織,時田 幸之輔,小島 龍平,平崎 鋭矢 数種霊長類における腹鋸筋・肩甲挙筋・菱形筋の比較解剖学(2019年7月12日~14日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本市国際交流会館).

緑川 沙織,時田 幸之輔,小島 龍平,影山 幾男,相澤 幸夫,熊木 克治,平崎 鋭矢 霊長類における背側肩帯筋の支配神経と背側斜角筋との関係(2019年10月12日~14日) 第73回日本人類学会(佐賀大学本庄キャンパス).
肉眼解剖学に基づく霊長類腹鋸筋の機能とその系統発達

緑川 沙織 , 時田 幸之輔

アカテタマリンの背側肩帯筋(腹鋸筋SV・肩甲挙筋LS・菱形筋Rh)の筋形態および支配神経について調査した。アカテタマリンのSVは、第1~8肋骨より起始し、支配神経はC6,7であった。LSは、C1~5横突起より起始し、支配神経はC4,5であった。Rhは、C4~Th4棘突起および後頭骨より起始し、支配神経はC4,5であった。これらの筋形態と支配神経の分節構成は、昨年の共同利用研究(2018-B-84)にて報告したリスザルのものと類似している。背側肩帯筋支配神経は、背側斜角筋(ScD)との位置関係にヒトと異なる特徴がみられた。ヒトでは、LS・Rh支配神経は中斜角筋の浅層を、SV支配神経は中斜角筋を貫く走行をとる。一方で、リスザルとアカテタマリンではScDは2層観察され、LS・Rh支配神経はScDの深層を、SV支配神経はScD2層間を貫く走行をとっていた。ScDの形態は霊長類間でも差異があり、ヒト中斜角筋との対応関係については検討の余地がある。またKoizumi(2019)は、背側肩帯筋支配神経は脊髄神経前枝からの分岐が中斜角筋支配神経に近いことから、体幹筋に属するとしている。以上より、背側肩帯筋の形成についてはScDと合わせて検討する必要があり、今後の課題としていきたい。


H31-B85
代:佐藤 真伍
協:田中 雅子
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

学会発表
Shingo Sato, Hidenori Kabeya, Yuka Fukudome, Kenta Takeuchi, Chiharu Suina, Munehiro Okamoto, Tadashi Sankai, Jun-ichiro Takano, and Soichi Maruyama Prevalence of Bartonella quintana in experimental macaques in primate research centers in Japan and a unique genetic property of Japanese macaque strain MF1-1.(2019年9月18日~20日) 9th International Congres on Bartonella as Emerging Pathogen (ICBEP)(フランス共和国,パリ市).

佐藤真伍 Macaca属のサルとBartonella quintana ~その疫学から分離株の比較ゲノム解析まで~(2019年11月8日) 第15回 霊長類医科学フォーラム(茨城県つくば市).
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

佐藤 真伍 , 田中 雅子

 Bartonella quintanaは人に発熱や回帰性の菌血症を引き起こす原因菌で,重症化すると心内膜炎や細菌性血管腫を引き起こす。近年では,中国の霊長類研究施設内で飼育されているアカゲザルやカニクイザルも本菌を保有していることが明らかとなった。さらに,日本の野生ニホンザルも本菌を保有していることが我々の研究によって明らかとなっている。
 以上ような背景から,京都大学 霊長類研究所内で飼育されているMacaca属のサルを対象に,本菌の分布状況を継続的に検討することとした。本共同利用研究を通じて,これまでに和歌山県由来のニホンザル1頭(個体ID#:TB1),大阪府由来のニホンザル2頭(個体ID#:MN51,MN57)からB. quintanaを分離している。9つのハウスキーピング遺伝子(塩基長 約4,270bp)を用いたMLST法によって分離株を解析したところ,いずれの株も野生ニホンザル由来株と同一のST22に型別されることが明らかとなっている。本年度には,B. quintanaの遺伝子系統を詳細に解析するための新たな方法として,全ゲノム情報に基づくcore genomeMLST法を検討した。ヒト由来Toulouse株,アカゲザル由来RM-11株およびニホンザル由来MF1-1株間において,Sequence identity=90.0%,Overlap=95.0%以上の相同なLocusは1,056個であった。これら相同なLocusから,2株間あるいは3株間の比較においてSequence identity=100%を示したLocusを除外した。その結果,計493個のLocusがcore genomeMLST法に用いる候補遺伝子として抽出された。今後,研究用ニホンザルであるTB1,MN51およびMN57由来の分離株について全ゲノム配列を決定するとともに,これら候補遺伝子の保有状況と遺伝子型別法を検討していく必要がある。


H31-B86
代:金子 新
協:塩田 達雄
協:中山 英美
協:三浦 智行
協:入口 翔一
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究

論文
Iriguchi S, Kaneko S.(2019) In Vitro Differentiation of T Cells: From Nonhuman Primate-Induced Pluripotent Stem Cells. Methods Mol Biol. 2048:93-106.
遺伝子改変iPS細胞由来造血系細胞の移植による免疫機能細胞再構築に関する研究

金子 新 , 塩田 達雄, 中山 英美, 三浦 智行, 入口 翔一

前年度までに報告していたアカゲザル由来iPS細胞に対して、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集の系を確立した。アカゲザルiPS細胞のゲノム編集は非常に効率が悪いが、条件検討を繰り返しゲノム編集の効率が改善した。最適化したCRISPR/Cas9システムを用いてSHIVに対する感染防御能を付与する目的にSHIVの感染受容体であるCCR5をターゲットとしてアカゲザル由来iPS細胞のゲノム編集を行ったところ、CCR5 homo ノックアウト株を30%と効率よく作成できた。CCR5ノックアウトiPS細胞株(ΔCCR5 iPS細胞)は元株とほぼ同様の造血前駆細胞・CD4CD8共陽性T細胞・マクロファージへの分化誘導能を有していた。(図1にアカゲザルiPS細胞から誘導したマクロファージがバイオパーティクルを貪食する様子を示す。)
さらに、ΔCCR5 iPS細胞から分化誘導したマクロファージ(ΔCCR5 iMac)にSHIV感染抵抗性が生じるか否かをin vitroで評価したところ、元株と比較してΔCCR5 iMac に対するSHIVの感染効率の低下を認めた。
今後はSHIV感染アカゲザルに対してΔCCR5 iPS細胞由来造血前駆細胞の自家移植を行うことにより、iPS細胞由来造血前駆細胞の生着と免疫再構築の有無に加え、SHIV感染の治療モデルとなり得るかを評価する予定である。



H31-B87
代:中内 啓光
協:正木 英樹
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製

学会発表
Hideki Masaki THE PROGENIES OF HUMAN OR CHIMP PLURIPOTENT STEM CELLS DISTURB INTERSPECIES CHIMERA DEVELOPMENT(June 28th, 2019) International Society for Stem Cell Research annual meeting(Los Angeles, USA).

正木英樹 How to make human->animal chimeras?(2019年12月4日) 日本分子生物学会年会(福岡市).
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製

中内 啓光 , 正木 英樹

本年度はチンパンジー胎仔繊維芽細胞をご提供頂き、プライム型およびナイーブ型iPS細胞の作製に取り組んだ。また、以前ご提供頂いたチンパンジー末梢血血球細胞から作製したプライム型iPS細胞のナイーブ型への変換に取り組んだ。
その結果、繊維芽細胞・血球細胞由来を問わず、プライム型iPS細胞からナイーブ型多能性幹細胞への変換および長期間の維持に成功した。これは昨年度までの研究をベースとした新規の培養条件により達成された。RNAseqにより遺伝子発現プロファイルを比較したところ、プライム型株とナイーブ型株は大きく異なる遺伝子発現プロファイルを示すとともに、チンパンジーナイーブ型株の遺伝子発現プロファイルはヒトナイーブ型多能性幹細胞株と類似していることがわかった。
また、樹立されたナイーブ型株をマウス着床前胚に移植し子宮内で発生させたところ、将来的にマウス個体を形成する領域であるエピブラストへの寄与が認められた。これはプライム型株、あるいは細胞死阻害処理を施したプライム型株では見られなかった現象である。

以上の成果を以下の学術集会にて研究協力者の正木が発表した。現在論文発表の準備中である。
“THE PROGENIES OF HUMAN OR CHIMP PLURIPOTENT STEM CELLS DISTURB INTERSPECIES CHIMERA DEVELOPMENT”
International Society for Stem Cell Research annual meeting, June 28th, 2019, Los Angeles, USA
“How to make human->animal chimeras?”
日本分子生物学会年会、2019年12月4日、福岡市


H31-B88
代:三浦 智行
協:阪脇 廣美
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

論文
Koide, R., Yoshikawa, R., Okamoto, M., Sakaguchi, S., Suzuki, J., Isa, T., Nakagawa, S., Sakawaki, H., Miura, T., and Miyazawa, T.(2019) Experimental infection of Japanese macaques with simian retrovirus 5. J. Gen. Virol. 100:266-277.

Himeno, A., Ishida, Y., Mori, H., Matsuura, K., Kikukawa, M., Sakawaki, H., and Miura, T.(2019) Induction of neutralizing antibodies against tier 2 human immunodeficiency virus 1 in rhesus macaques infected with tier 1B simian / human immunodeficiency virus. Arch. Virol. 164:1297-1308.

学会発表
YALCIN PISIL, Zafer Yazici, Hisatoshi Shida, Shuzo Matsushita, Tomoyuki Miura Particular substitutions in V2 and V4 of gp120 env confer SHIV neutralization resistance(2019年10月29ー31日) 第67回日本ウイルス学会学術集会(東京).

横山温香、関根将、三浦智行、伊吹謙太郎 SIV感染サル化マウスのAIDS様病態の免疫学的解析(2019年10月29ー31日) 第67回日本ウイルス学会学術集会(東京).

Yalcin, Pisil, Yazici, Zafer,志田壽利,松下修三,三浦智行 Neutralization sensitive SHIV gain neutralization resistance with only 2 mutation in gp120 V2 area.(2019年11月27ー29日) 第33回日本エイズ学会学術集会(熊本).
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

三浦 智行 , 阪脇 廣美

我々は、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究している。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得たことから、これまでのワクチンを更に改良して細胞性免疫誘導効果が高くなるように工夫したワクチンを作製すると共に、ワクチン評価実験に適した遺伝的背景をもつアカゲザル3頭を選定し、ワクチン接種した後に攻撃接種実験を行った。感染防御効果を調べたところ、部分的な増殖抑制効果が認められた。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株の感染実験を継続的に解析し、血中ウイルス量の推移と中和抗体産生について解析し、ワクチン評価モデルとして必要な基礎情報を蓄積した。


H31-C1
代:Ilaria Brunetti
協:Naoki Morimoto
Pelvic sexual dimorphism in Macaca fuscata: effects of clinal variation and obstetric constraints
Pelvic sexual dimorphism in Macaca fuscata: effects of clinal variation and obstetric constraints

Ilaria Brunetti , Naoki Morimoto

We have CT scanned 113 skeletal adult wild-shot specimens of Macaca fuscat. Adult pelvic shape variation in five population of Japanese macaques (Macaca fuscata) is investigated as a function of sex, climate and population affiliation. Furthermore, interactions between these factors are explored. These questions are addressed by employing methods of biomedical imaging, geometric morphometrics and multivariate statistics.
The results show that population affiliation has profound effects on size and shape of both the pelvis and the birth canal, thus reflecting latitudinal variation and population history. There is no significant sexual dimorphism in pelvic size. However, moderate sexual dimorphism is present both in pelvic shape and in the shape of the birth canal. Additionally, the pelvic morphology of M. fuscata exhibits clinal variation associated with differing mean annual temperatures. Pelvic sexual dimorphism does not vary among populations or along climatic clines.
Overall, the results of this thesis imply that the pelvic morphology in M. fuscata is shaped by a multitude of biological and environmental factors. Most notably, the results provide clear evidence for climatic adaptation but only moderate pelvic sexual dimorphism of the pelvic morphology.


H31-C2
代:川合 伸幸
サルの脅威刺激検出に関する研究

論文
Kawai, N., Nakagami, A., Yasue, M., Koda, H., & Ichinohe, N.( 2019) Common marmosets (Callithrix jacchus) evaluate third-party social interactions of human actors but Japanese monkeys (Macaca fuscata) do not. Journal of Comparative Psychology 133(4):488-495. 謝辞あり

学会発表
川合伸幸 ヒトの心の本性とは 〜比較認知科学で解明する「助け合い」や「いじめ」〜(2020年3月14日) 愛知県保険医協会「春の講演会」(名古屋市 愛知県保険医協会伏見会議室).

邱カチン・川合伸幸 自然風景の中のヘビは素早く正確に検出されるのか?-フリッカー変化検出課題を用いたヘビ検出の検討 (2018年9月1日) 2018年度日本認知科学会第35回大会(立命館大学(茨木市)).
サルの脅威刺激検出に関する研究

川合 伸幸

これまでの共同利用研究を通じて、サルはヘビを他の動物よりも早く見つけることを示して来た(Shibasaki & Kawai, 2009; Kawai & Koda, 2016, Kawai, 2019)。ヘビを見たことのないサルがヘビをすばやく検出するということは、サルは生得的にヘビを検出する視覚システムを有していることが示唆される。しかし、ヘビのどのような視覚特性がヘビ検出にかかわっているかは、まだ明確ではない。報告者は、ヘビの色や形特定の空間周波数のパワーではなく、ヘビのウロコが重要な手がかりであることを突き止めている(Kawai & He, 2016; Kawai, 2019)。しかし、霊長類の視覚システムがヘビにだけ特徴的なウロコを手がかりにヘビを検出すべく進化したなら、逆にヘビのウロコがあればヘビ以外の動物でも早く検出されると予想される。
 そこでこれまでと同様に、視覚探索課題を用いて、1)8枚のヘビ写真から1枚のイモリ写真を検出速度と、その逆のパターンを比較すると、ヘビ1枚を検出するほうが早く、これまでと同様の結果を得た。しかし、2)同じイモリの写真にヘビのウロコを重畳して、イモリターゲットとヘビターゲットの検出速度を比較したところ、差は見られなかった。すなわち、ヘビのウロコをまとうということがヘビ検出の重要な視覚手がかりであることがあきらかになった。


H31-C3
代:橋戸 南美
協:松田 一希
同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体機能の解明
同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体機能の解明

橋戸 南美 , 松田 一希

昨年度は、アフリカのキバレ国立公園に同所的に生息するアカコロブス、アビシニアコロブス、ベルベットモンキーの3種について約30種類の全苦味受容体遺伝子TAS2Rの配列を決定し、また苦味受容体TAS2R16の機能解析を行った。本年度は、これらの種と比較を行うために、国内動物園で飼育されているアビシニアコロブス、ドゥクラングール、テングザル、キンシコウの糞便よりDNAを抽出し、苦味受容体遺伝子TAS2R16の配列を決定した。また、キバレ国立公園同様に、同所的に複数の霊長類種が生息するマレーシアボルネオ島サバ州も調査地としており、野生霊長類6種の糞便を収集した。今後これらのサンプルを使用し、これらの種についての受容体機能解析も行う予定である。本年度は、報告者が妊娠し年度途中に産休・育休に入ったため、十分な実験を行うことができなかった。今年度に計画していた受容体機能解析実験は、産休からの復帰後に行う予定である。


H31-C4
代:鯉田 孝和
協:野村 健人
協:三宅 修平
色盲サルの皮質応答計測
色盲サルの皮質応答計測

鯉田 孝和 , 野村 健人, 三宅 修平

霊長類研究所で維持飼育されている2色覚サルを利用し、皮質ニューロン活動を計測することで色覚異常個体に特化した色情報表現を探索する実験を計画した。計測は手術室にて麻酔下で行うことを予定しているため、電気的ノイズの問題が生じないか確かめた。手術室内に良好な接地は無く、電気ノイズは深刻でありバッテリー駆動型の計測システム構築する必要があった。また手術室は共有施設であるため計測システムはなるべく小さく、設置と撤去、運搬が容易である必要がある。そこで今年度はこれらの要求にこたえるべく、交流電源を必要としないシステムを完成させた。ノートパソコンとバッテリー駆動型アンプシステム(INTAN)を組み合わせて、視覚画像刺激、制御、神経活動の記録が可能となった。装置は鞄も含めて10kgと軽く、運搬は容易である。計測性能は、接地なし、アルミホイルを用いた簡易ファラデーケージ条件でスパイク活動の帯域(500-3kHz)においてノイズが20 µV程度となり、ニーズを十分に満たしていることを確認した。また豊橋技科大内でサルを対象としたシングルユニット計測にも成功した。


H31-C5
代:澤田 晶子
協:牛田 一成
協:土田 さやか
ニホンザルの植物由来の物質に対する分解能の検証
ニホンザルの植物由来の物質に対する分解能の検証

澤田 晶子 , 牛田 一成, 土田 さやか

霊長類がどのようにして植物に含まれる反栄養物質を分解しているのか、その生理学的メカニズムを解明する手がかりとして、ニホンザル糞便を用いた腸内細菌の培養実験を予定していた。しかし、本研究計画において重要な位置付けとなる放飼場個体群からの採材許可が下りなかったため、実験の実施を見送った。


H31-C6
代:斎藤 通紀
協:中村 友紀
協:横林 しほり
協:沖田 圭介
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明

学会発表
藤原浩平、中村友紀、沖田圭介、今村公紀、斎藤通紀 iPS細胞を用いたヒト上科生物の進化原理の解明(2019年11月1日) 第6回六甲医学研究会(淡路市).
霊長類iPS細胞及びそれに由来する生殖細胞のゲノム制御機構の解明

斎藤 通紀 , 中村 友紀, 横林 しほり, 沖田 圭介

申請者は本研究開始後、協力者の沖田圭介博士からチンパンジー、オランウータンのiPS細胞株、所内対応者である今村公紀博士からチンパンジーのiPS細胞株を譲り受け、それぞれに対して既報のある霊長類多能性幹細胞の培養条件から至適条件を見出した(画像1)。また、オランウータン線維芽細胞も今村博士よりご分与頂き、そこから新たにiPS細胞株を複数樹立した。iPS細胞誘導時に強制発現させた遺伝子がこれらiPS細胞株のゲノムに組み込まれていないことをqPCRで確認した。


H31-C7
代:菊池 泰弘
協:荻原 直道
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元
中期中新世・化石類人猿ナチョラピテクスの上位胸椎の復元

菊池 泰弘 , 荻原 直道

1500万年前のアフリカ産化石類人猿・ナチョラピテクスの脊椎は、現生大型類人猿と四足歩行サルのモザイク的な形態が示唆されているが、具体的にどのような移動運動様式のレパートリーを持っていたのか不明であり、ポストクラニアルのさらなる分析の必要性がある。そこで本研究ではナチョラピテクスの新規・上位胸椎標本について復元分析を行った。対象標本(KNM-BG 48094)は化石化の過程で変形しており、原型が不明のため現生種との比較が困難である。このため、以下の変形除去分析を行った。メスのナチョラピテクスの体サイズを考慮し、テングザル(メス1頭)、アヌビスヒヒ(メス1頭)、ハヌマンラングール(オス1頭)、ホエザル(オス1頭)、パタスモンキー(オス1頭)を変形除去のモデル資料とした。これら5個体の第3-6胸椎をCT撮像後、三次元画像上で相同点79点を決定し、サイズ補正した後、KNM-BG 48094標本の塑性変形成分を選択的に除去し立体復元を施した。復元したナチョラピテクス胸椎は、大・小型類人猿、地上性および樹上性オナガザル、そして新世界ザルと比較分析した結果、どちらかというと類人猿ではなくオナガザルに似た特徴を示した。来年度、引き続き分析を継続する予定である。


H31-C8
代:日比野 久美子
協:竹中 晃子
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究

日比野 久美子 , 竹中 晃子

ヒトの心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化症は血中コレステロール(CH)値が高いことによって引き起こされる。高CH血症のサルとして家系を維持してきたインド産アカゲザルはLDLR遺伝子にCys82Tyr変異を有する。LDL受容体活性をヒトのLDLを用いて測定したところ、ヘテロ個体4頭中3頭(1頭は溶血のため測定不可)の平均は71.5%(53~88%)、1頭のホモ個体は42%であった。ヒトの難病レベルの20%以下という低い値にはならなかった。次に、サルの通常食にはCHが含まれていないので、0.1%(ヒトの食事に卵2個/日追加に相当)および、0.3%のCHを投与したところ、2個体で難病レベルの著しい血中CHの上昇を得た。この上昇に関連する原因遺伝子を特定するため、この2個体と血縁のある1個体について全ゲノム検索により、ヒトで報告されている高CH血症の原因遺伝子ならびにLDLRを合成する際に必要な遺伝子における遺伝子変異の検索を行った。46遺伝子234部位のエクソン、スプライス部位に塩基置換 (SNP) が認められた。それらのうち、非同義置換や挿入、スプライス部位のSNPは21遺伝子で60部位見出された。高CH血症を示した2頭にのみ共通する遺伝子変異は、60部位中16部位に見出された。全ゲノム検索をしていない個体も含めてこの2頭のみの遺伝子変異がみつかれば、高CHの原因遺伝子である可能性が考えられる。このことから、LDLR Cys82Tyr変異を持つ8頭と、正常個体4頭についてこの16個のSNP領域をPCR法で増幅し、塩基配列決定を行った。その結果、MPTPS2遺伝子にVal241Ile変異(G→A)を引き起こす変異がこの2頭のみに見出された。MBTPS2はX染色体に存在するので伴性遺伝する。メスでG/Aのヘテロ変異はあった。MBTPS2遺伝子は細胞内CH濃度が充分高くなるまでLDLR遺伝子の転写活性を上昇させる。従って、この変異により活性が低下した場合にはLDLRのmRNA量が低下しLDL受容体の数が少なくなり、血中CH値が高くなることが考えられる。ヒトではこのMBTPS2変異による高CH血症は報告されていない。


H31-C9
代:佐藤 佳
協:伊東 潤平
協:三沢 尚子
協:今野 順介
協:木村 出海
協:長岡 峻平
ウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究
ウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究

佐藤 佳 , 伊東 潤平, 三沢 尚子, 今野 順介, 木村 出海, 長岡 峻平

本研究では、比較ゲノム・系統学的解析手法およびヒト・チンパンジーの細胞を用いた実験手法を駆使することにより、ヒトおよびチンパンジーそれぞれの系統において起こったトランスポゾンと宿主遺伝子との間での進化的軍拡競争を高解像度に描出し、両系統間において比較解析することを目的とした。具体的には、比較ゲノムおよび分子系統学的解析により、ヒト・チンパンジー分岐後に活発に増殖したトランスポゾンをゲノムから同定・抽出した。
また、バイオインフォマティクス解析から得られた知見を実験的に検証することを目的として、フサオマキザル、マントヒヒ、チンパンジー、アカゲザルの末梢血の分与を受け、末梢血単核球を分離・取得した。


H31-C10
代:西川 真理
協:持田 浩治
協:木下 こづえ
ニホンザルにおける夜間の性行動および配偶者選択
ニホンザルにおける夜間の性行動および配偶者選択

西川 真理 , 持田 浩治, 木下 こづえ

本研究は、夜間を含む終日のニホンザルの交尾相手や交尾頻度を調べることで、交尾相手の選択とメスの生殖周期の関連を明らかにすることを目的としておこなった。京都大学霊長類研究所でグループ飼育されているニホンザル(オス2頭、メス3頭)を観察の対象とし、2019年9月~2020年1月の期間に、自動撮影システムを用いて性行動データを記録した(N=135日)。メスの排卵と性周期の確認は、糞中の生殖関連ホルモン(E1G、PdG)を測定する方法を用いた。メスの糞は可能な限り毎日収集した(N=478)。これらの糞サンプルを凍結乾燥させた後、生殖関連ホルモン(E1G、PdG)を抽出して保存した。今年度は、一部の抽出サンプルでのみホルモン測定をおこない(N=38)、メス1個体の34日間の生殖関連ホルモン動態から排卵日の推定を試みた。未測定の抽出サンプルは来年度に分析する予定である。今後は、抽出したすべてのサンプルについてホルモン測定をおこなうことで、各メスの排卵日を推定し、メスの交尾相手および性行動と生殖関連ホルモンの動態の関連を分析し、昼間と夜間における交尾相手の選択性の違いを比較する。


H31-C11
代:村山 美穂
協:中野 勝光
チンパンジーにおけるDNAメチル化解析による年齢推定
チンパンジーにおけるDNAメチル化解析による年齢推定

村山 美穂 , 中野 勝光

本研究では、DNAメチル化率を検出することによる年齢推定の可能性を検討する。野生下個体への応用を目指し、血液に加えて糞試料を解析し、年齢推定の可能性を検討した。またDNAのメチル化率は組織により異なることが報告されているため、組織間のメチル化率の違いも考察した。
 GAIN等を通じて霊長研に保存されているチンパンジーの組織を分与いただき、計7個体のDNAを抽出して、ヒトでの先行研究をもとにチンパンジーの相同領域(ELOVL2等)を候補としてメチル化率を解析した。その結果、肝臓(6試料)、皮膚(7試料)、舌(5試料)、筋肉(2試料)、腸(6試料)、生殖器官(6試料)でELOVL2遺伝子のメチル化率を定量できた。皮膚では年齢とメチル化の有意な正の相関がみられた(r = 0.980)。肝臓、舌では有意ではないものの正の相関傾向がみられた。筋肉、腸、生殖器官では相関傾向はみられなかった。したがってメチル化率の加齢変化には、ヒトやマウスと同様に組織差があることが示された。一方で血液では3.4才、糞では4.8才の誤差で推定できることが示され、実用化に向けて進展した。
 メスチンパンジー1個体の卵巣の片側を配偶子保存の研究に供試した。卵巣の一部を組織解析用に固定した後、未成熟卵子のある皮質部を切り出し、凍結保護剤の異なる2種類のガラス化凍結法と、緩慢凍結法を実施した。凍結保存を実施した卵巣には多数の未成熟卵子(原始卵胞と原始卵胞から一次卵胞の移行期卵胞)が含まれることを確認した(画像)。



H31-C12
代:Jacobus (Jaap) Saers
Ecogeographic variation in Japanese Macaque trabecular bone structure as a model for interpreting human and hominin variation
Ecogeographic variation in Japanese Macaque trabecular bone structure as a model for interpreting human and hominin variation

Jacobus (Jaap) Saers

We CT scanned skeletal specimens of Macaca fuscata (n=61), Macaca yakui (n=21), Calcaneus, talus and 7th cervical vertebra for each individual. The goal was to see the effect of climate on trabecular bone structure by comparing groups of Japanese macaques from the south to the north of Japan. The results are still being worked on.

We also scanned 42 calcaneus and talus bones of juvenile specimens aged between birth and adulthood.
We investigated how trabecular bone structure adapts in response to dynamically changing loads associated with the maturation of locomotion in Japanese macaques. By studying how trabecular bone changes during growth and development we can understand how adult trabecular structure is established and what the role of mechanical loading is in shaping trabecular bone structure. For example, we have found that trabecular bone material stiffness is greatest perpendicular to the growth plate at birth. However, when macaques start walking independently, and their calcaneus is being loaded from multiple directions, we see the trabecular bone adapting by changing the primary direction of stiffness in the direction of loading (see attached picture).
This project seeks to answer fundamental questions regarding constraints and plasticity of trabecular bone throughout development. Ultimately, understanding the pathways through which mammalian trabecular structure forms can produce profound insight into questions on the behaviour and life-history of fossil organisms, the factors affecting skeletal growth, and countering important contemporary health issues such as age-related bone loss.

These results have been used to support a funding application to study the ontogeny of trabecular bone at the Natural History Museum in Leiden, the Netherlands.



H31-C13
代:WANG Zheng
協:池川 志郎
協:XUE Jingyi
Validation of structural variations at the IHH locus in siamang (Symphalangus syndactylus) and investigation of their relation to the syndactyl phenotype
Validation of structural variations at the IHH locus in siamang (Symphalangus syndactylus) and investigation of their relation to the syndactyl phenotype

WANG Zheng , 池川 志郎, XUE Jingyi

 これまで、フクロテナガザル(2個体)のゲノムシークエンスをhg38にマッピングして、ヒトの合指症の発症と関連するIHHの上流の領域にフクロテナガザル特異的なdeletionを発見した(仮称: SV-Siamang)。他のテナガザル(4種類、6個体)のシークエンスと比べて、SV-Siamangは種特異的な変異であることが示唆された。
  今回、SV-Siamangの種特異性をさらに確認するために、SV-Siamangの周りのヒトとフクロテナガザルの相同配列部分に霊長類共通プライマーセット二つをデザインして、京都大学霊長類研究所から提供されたフクロテナガザル2個体で直接増幅した。結果、2個体とも予定通りのPCR産物を同定した。ブレイクポイントを決定するために、PCR産物をSangerシークエンスした。結果、ブレイクポイントはin silico mappingの方法でNGSデータから同定した部位と同一であり、deletionの領域が確認された。



H31-C14
代:広常 真治
協:金 明月
高等哺乳類特異的な微小管結合タンパク質の同定と機能解析
高等哺乳類特異的な微小管結合タンパク質の同定と機能解析

広常 真治 , 金 明月

霊長研でアカゲザル(Mm1450)から脳組織を採取し大阪市立大学にて実験に使用した。
深麻酔下にあることを疼痛反射の消失によって確認した上で、放血後、バッファーを心臓または頸動脈から灌流し、脳を摘出した。採材は所内対応者の中村が実施した。大阪市立大学に輸送し、サル脳組織からチューブリンを精製し電気泳動で確認した。マウスを比較すると、微小管結合タンパク質が多いことが確認できた。今後はプロテオーム解析を行い、霊長類特異的な微小管結合タンパク質の同定を進めていく。


H31-C15
代:川田 美風
協:森本 直記
霊長類における出生前後の肩幅の成長様式

論文

学会発表
川田 美風 霊長類における出生前後の肩幅の成長様式(2019/10) 第73回日本人類学会(佐賀).

関連サイト
日本人類学会若手会員大会発表賞 http://anthropology.jp/st_prize.html
霊長類における出生前後の肩幅の成長様式

川田 美風 , 森本 直記

高い児頭骨盤比が原因で子の産道通過が困難となるヒトでは、分娩に適応した頭部の成長抑制とみられる特徴が知られる。しかし、産道通過の際に骨盤とのサイズ比が問題となるのは、頭部並びに肩幅である。実際にヒトでは、頭部が出たにも関わらず、肩が産道内に留まる肩甲難産は珍しくない。しかし、ヒトがいかなる肩幅の成長様式を有するかに関する定量的なデータは乏しい。本研究では、肩幅成長と分娩がどのようなトレードオフの関係にあるかを明らかにすることを目的とし調査を行った。具体的には、広い肩幅が原因で胎児の産道通過が困難となるヒト、肩幅は広いが胎児の産道通過は困難でないとされる大型類人猿(チンパンジー)、そして肩幅の狭い小型のサル(マカク)を対象に、一般的な体長の指標としての脊柱長に対する出生前後の肩幅の成長様式を比較した。
 出生前の肩幅成長はチンパンジー、マカクで等成長、ヒトで劣成長であった。出生後の肩幅成長はヒトで優成長、チンパンジーで等成長、マカクで劣成長であった。ヒトでは産道通過のための適応として、出生前の肩幅成長が抑制され、生後促進されることで成体のプロポーションが実現されると考えられる。マカクの肩幅の成長様式を祖先的なものと仮定すると、樹上性が強かったと考えられるチンパンジーとの共通祖先段階までに幅の広い肩幅が進化し、出生前の成長様式が出生後も持続するようになったと考えられる。その後、直立二足歩行の獲得によって生じた肩甲難産への対応のため、出生前の肩幅成長が抑制されるようになったと考えられる。
 第73回人類学会大会において、本研究について発表し、若手会員大会発表賞を受賞した。


H31-C16
代:Rafaela Takeshita
Validation of Enzyme Immunoassays for determination of steroid metabolites in Japanese macaque
Validation of Enzyme Immunoassays for determination of steroid metabolites in Japanese macaque

Rafaela Takeshita

The samples have been successfully transferred to my lab at Kent State University. The lab went through renovations until February 2020. Initial activities included purchase of equipment and materials for the project, assay development and optimization. The study had to be paused since March 10th due to the COVID-19 pandemic.


H31-C17
代:鈴木 郁夫
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索

論文
Ikuo K. Suzuki (2020) Molecular drivers of human cerebral cortical evolution Neuroscience Research 151:1-14.

Jun Sone, Satomi Mitsuhashi, Atsushi Fujita, Takeshi Mizuguchi, Kohei Hamanaka, Keiko Mori, Haruki Koike, Akihiro Hashiguchi, Hiroshi Takashima, Hiroshi Sugiyama, Yutaka Kohno, Yoshihisa Takiyama, Kengo Maeda, Hiroshi Doi, Shigeru Koyano, Hideyuki Takeuchi, Michi Kawamoto, Nobuo Kohara, Tetsuo Ando, Toshiaki Ieda, Yasushi Kita, Norito Kokubun, Yoshio Tsuboi, Kazutaka Katoh, Yoshihiro Kino, Masahisa Katsuno, Yasushi Iwasaki, Mari Yoshida, Fumiaki Tanaka, Ikuo K. Suzuki, Martin C Frith, Naomichi Matsumoto, Gen Sobue(2019) Long-read sequencing identifies GGC repeat expansions in NOTCH2NLC associated with neuronal intranuclear inclusion disease Nature Genetics 5:1215-1221.

学会発表
鈴木 郁夫 Evolving brains with new genes; Human-specific gene NOTCH2NL expands neuronal number in the cerebral cortex (2019.6.25) The 13th International Workshop on Advanced Genomics (13AGW) (東京).

鈴木郁夫 ヒト固有遺伝子により駆動された脳進化メカニズム(2019.12.18) 「次世代脳」プロジェクト 冬のシンポジウム(東京).

鈴木郁夫 早期ライフステージにおけるヒト固有大脳皮質発生プログラムの解明(2019.12.24) 革新的先端研究開発支援事業 早期ライフ領域キックオフ会議(東京).

鈴木郁夫 ヒト特異的遺伝子による神経回路形成・諸過程の制御(2019.12.03) 第42回 日本分子生物学会(福岡).

Ikuo K. Suzuki Evolving brains with new genes; Human-specific gene NOTCH2NL expands neuronal number in the cerebral cortex(2019.12.02) 九州大学医学部シンポジウム(福岡).

Ikuo K. Suzuki Molecular function of human-specific gene NOTCH2NLin the cortical progenitors(2019.7.28) 第42回日本神経科学大会(新潟).

鈴木郁夫 ヒト固有遺伝子NOTCH2NLによる大脳皮質の拡大進化(2019.9.20) 中部幹細胞クラブ シンポジウム2019 「幹細胞人類学」(名古屋).

Ikuo K. Suzuki Human-Specific NOTCH2NL Genes Expand Cortical Neurogenesis through Delta/Notch Regulation(2019.5.17) 第52回 日本発生生物学会大会(大阪).
大脳皮質進化と関連するヒト固有遺伝的プログラムの探索

鈴木 郁夫

本研究はヒト大脳皮質発生における種固有の特徴を明らかにすることを目的としている。その目的のために、ヒトES細胞とチンパンジーiPS細胞をそれぞれ培養条件下において大脳皮質へと分化誘導し、ヒト固有の大脳皮質発生ダイナミクスを明らかにすることを計画している。2020年1月に共同研究提案が採択され、同月霊長類研究所にて樹立されたチンパンジーiPS細胞2株を供与していただいた。その後、申請者の実験環境においても順調に維持培養を行うことが可能であることを確認し、拡大培養の後に凍結ストックを作成した。加えて、大脳皮質への分化誘導実験を3回行い、いずれも分化誘導開始後25日の段階で良好な神経幹細胞を得ることができた。現在、これらのチンパンジーiPS細胞由来大脳皮質細胞の凍結ストックを作成し、今後の実験解析に備えているところである。


H31-C19
代:原田 優
サルの発声学習に関連する身体運動の役割についての分析的研究
サルの発声学習に関連する身体運動の役割についての分析的研究

原田 優

ヒトは随意的に多様な音声を生み出せる一方で、ヒト以外の霊長類は随意的な発声が困難であることが知られている。この能力の有無がヒトの発話能力の獲得に影響を与えたと考えられている。そこで、ヒトと近縁な種の発声行動を探ることでヒトの言語の発生と進化を探ることを目的とし、発声訓練に成功したニホンザル3頭における実験中のビデオデータ(チェアに座った状態のもの)から発声運動と、呼吸運動や体動など発声には直接関係のない運動との関連を調査した。
データが膨大な量であるため、音声の切り出しは終えたが、運動(例えば体動や呼吸など)との関連性の分析、また、音声の分析には至っていない状態である。
 今後は切り出しを終えたデータを元に音響解析と発声と発声運動に直接関係のない運動との関連性を分析する。また、このデータは実験中のチェアに座った状態のものであるため、自然状態での行動観察を行い、同様に評価し比較したいと考えている。


H31-C20
代:Ian Towle
"An evolutionary perspective on dental properties, disease and wear"
"An evolutionary perspective on dental properties, disease and wear"

Ian Towle

The project has progressed well with both dental pathology/wear data and micro-CT scans collected at the PRI as planned in January and February this year (2020).
Around 15 primate species were studied with several interesting observations. Several wild groups show enamel defects and tooth wear that have rarely been described in non-hominin wild samples. At least two of these examples appear to be on a population wide level. These may therefore allow further insight into similar patterns in our fossil ancestors through direct comparisons. For example, the Koshima Japanese Macaques show unique tooth wear that is uniform amongst individuals, and surprisingly, has many features in common with supposed cultural tooth wear in fossil hominins. These include large striations on anterior teeth, heavy tooth attrition, and root lesions resembling ‘tooth pick’ grooves in certain Homo species (e.g., Neanderthals). I look forward to collaborating with Ito and other PRI researchers to explore the cause of these similarities. Over the next few months this study, and other similar ones, will be investigated using the data collected, and publications will be expected for submission over the next 12 months.
The other side of the project, the micro-CT scans, proceeded well, with over 100 individual teeth scanned. Over the proceeding months, density data will be gathered from these scans to provide insight into the evolution of enamel properties in a variety of primate species. Ultimately the aim is to use this information to provide insight into the evolution of the human dentition. Individual teeth were selected from the PRI collections based on specific criteria. In particular, they had to be loose (not in a jaw), show little occlusal wear, and preferably be a specific tooth type. I have begun the process of collecting density data from the scans which will be converted (using density standards/phantoms), to see how enamel hardness varies across tooth crowns. Given differences in wear and fractures in different species, as well as recent research on human teeth, we expect certain species to have evolved ‘reinforced’ parts of the tooth crown. Although the process of gathering this data from the scans has only just began, it is clear the scans will allow fine detail differences between surfaces and species to be collected.
Teeth belonging to two captive individuals (one baboon and one Japanese macaque) are currently in the process of being prepared to be sent to the University of Otago for more in depth analysis, including SEM and nanoindentation, to see how the enamel structure influences micro-CT scan results, allowing more robust conclusions.


H31-C21
代:Madeleine Geiger
Evolutionary rate of skull shape change in macaque populations
Evolutionary rate of skull shape change in macaque populations

Madeleine Geiger

The aim of the research project is to estimate the pace with which different skull dimensions are changing throughout generations in different populations of macaque (Macaca). In examining such rates of morphological change in macaque populations that have been living in the wild and populations that have been living in captivity, we will be able to discern potential adaptations or instances of phenotypic plasticity – as well as the rate of their evolution – which may come about on the basis of the population’s differential proximity to a human dominated environment. We have already gathered data on evolutionary rates in domesticated (Domestic dog Canis familiaris vs. wolf Canis lupus; domestic pig Sus domesticus vs. wild boar Sus scrofa) and commensal populations (house mouse Mus musculus domesticus), which also comprise examples along the wild-captive-domestic continuum and the macaque data is e a valuable addition to that.
During my 5 days stay at PRI, I could measure 21 cranial dimensions and 2 postcranial dimensions in Macaca fuscata with a digital calliper:
- 23 females from the captive Arashiyama population, born in the years 1995 - 2001
- 27 females from the captive Takahama population, born in the years 1986 - 2003
- 6 females from Koshima island, born in the years 1966 – 2000
- 4 females from Kinkazan island, collected in the years 1984 – 2016
This longitudinal series within single populations is more extensive than any I could gather so far. These data will be analysed to determine potential changes of skull shape through time in these populations.



H31-C22
代:久保 大輔
現生類人猿における中硬膜動脈の起始に関する研究
現生類人猿における中硬膜動脈の起始に関する研究

久保 大輔

冠状縫合より後部に分布する硬膜動脈枝の起始と経路は、ヒト科において種間差が報告されている。この形質の変遷を人類化石から復元するには、比較参照すべき現生種の骨形態に関する情報が不足している。そこで本研究では、眼動脈系硬膜枝と顎動脈系中硬膜動脈の経路や吻合に関連する骨学的知見の拡充を目的として、現生類人猿の頭骨標本の観察を行った。
今年度は、頭蓋冠が分離されたチンパンジー5個体の頭骨を肉眼で観察し、そのうち2個体において、上眼窩裂の外側に位置する小孔(cranio-orbital foramen)から頭蓋腔に現れる血管溝が、顎動脈系の動脈枝の溝と合流しつつも中頭蓋窩底に向かうことなく直接ブレグマ枝へと続いていた。この特徴は研究代表者が調査中のジャワ原人化石1例のそれと類似しており、眼動脈系から冠状縫合後部への供血可能性を示唆する。一方、現代人頭骨では頻繁に見られるブレグマ枝と上眼窩裂の間を繋ぐ太い血管溝(sphenoparietal sulcus)は、観察した少数例であるが、チンパンジーやジャワ原人には見られなかった。また、チンパンジーの頭骨1点を借用して東京大学総合研究博物館にてマイクロCTでの撮像を実施し、眼窩壁を貫通する血管のルートや骨表面の血管溝の観察に高精細CTが有効であることを確認した。今後は観察例を増やし、類似の形態が観察される頻度や変異の詳細を明らかにする予定である。




H30
論文 43 報 学会発表 100 件
H30-A1
代:宇賀 貴紀
協:三枝 岳志
協:熊野 弘紀
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

宇賀 貴紀 , 三枝 岳志, 熊野 弘紀, 須田 悠紀

判断形成の神経メカニズムの理解には知覚判断、特にランダムドットの動きの方向を答える運動方向弁別課題を用いた研究が大きな役割を果たしてきた。運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。眼球運動を最終出力とする判断を司る脳領域として、大脳皮質外側頭頂間(LIP)野、前頭眼野(FEF)、上丘(SC)などが想定されており、これらの領野で判断関連活動が計測されている。しかし、LIP野を不活性化しても判断に影響はでず、判断関連活動と判断との因果関係が未解決な重要問題として捉えられている。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度はサル2頭に運動方向弁別課題を訓練し、うち1頭ではMT野を同定し、hM4Di遺伝子を搭載したウイルスベクターを打つ準備を行った。


H30-A2
代:石垣 診祐
協:遠藤 邦幸
FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析
FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析

石垣 診祐 , 遠藤 邦幸

ヒトのFTLD患者で確率逆転学習において特異的な所見が存在したことから、これに類する高次脳機能行動バッテリーの開発を霊長類研究所で行い、実際のモデルを用いた研究を名古屋大学医学研究科で実施するために、マーモセットの飼育を開始し、マーモセットの飼育室内で実施した。具体的にはマーモセットの飼育ケージの前面扉に認知実験装置を装着し、マーモセットに画面をタッチさせることで実験を行った。 マーモセットに1対の視覚刺激を提示して、その1つをタッチすると報酬が与えられる。他方にタッチすると誤反応となる。 この図形弁別課題を学習させた後、逆転学習課題を実施し、実際に学習が成立することを確認した。また名古屋大学において尾状核特異的にFUSを抑制するためにmarmoset FUSに対するshRNAを発現するAAVをstereotaxicにinjectionした(4頭)、同様にcontrol shRNAをinjectionする実験を4頭に対して行った。今後はFUS抑制による確率逆転学習への影響を経時的に評価していく。


H30-A3
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:若林 正浩
協:Woranan Wongmassang
協:Zlata Polyakova
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究

南部 篤 , 畑中 伸彦, 知見 聡美, 佐野 裕美, 長谷川 拓, 纐纈 大輔, 若林 正浩, Woranan Wongmassang, Zlata Polyakova

パーキンソン病の病態を明らかにするため、ドーパミン作動性神経細胞に選択的に働く神経毒であるMPTP (1-methy-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine) をニホンザルに投与し、パーキンソン病モデルサルを作製した。覚醒下のサルにおいて、淡蒼球外節および内節の上肢支配領域を同定し、複数のニューロンから神経活動の同時記録を行って相互相関を調べたところ、正常サルにおいては、ほとんどの淡蒼球ニューロンが相互相関を示さずに独立に発火していたが、パーキンソン病モデルでは、多くの淡蒼球ニューロン間で活動の相互相関がみられ、b帯域の共振が生じていることがわかった。記録を行いながらL-dopaを投与し、症状が改善された時に記録を行ってみると、淡蒼球ニューロン間で観察された活動の相互相関とb帯域の共振がほとんど消失していた。これらのことから、淡蒼球ニューロンの同期活動やb帯域の共振が、パーキンソン病の症状発現に寄与していることが示唆された。


H30-A4
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:山崎 美和子
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明
ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明

小林 和人 , 菅原 正晃, 加藤 成樹, 渡辺 雅彦, 山崎 美和子, 内ヶ島 基政, 今野 幸太郎

 束傍核に由来する視床線条体路の運動機能における役割を明らかにするために、マーモセットの束傍核線条体路の選択的除去の誘導を試みた。イムノトキシン細胞標的法のための遺伝子として、インターロイキン-2 受容体αサブユニット(IL-2Ra)をコードし、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの線条体内に注入した。その後、束傍核にイムノトキシンあるいはコントロールとしてPBSを注入した。視床線条体路を欠損する動物の行動学的評価として、採餌タスクを用いて運動機能の解析を行った結果、イムノトキシン投与群で学習の獲得の低下が認められた。今後、例数を追加し、運動機能における本経路の役割を確認する必要がある。
 逆行性導入に関わる新規の融合糖タンパク質機能を評価するために、FuG-E型糖タンパク質の変異体を用いて作成したウイルスベクターをマカクザル脳内に注入し、従来のFuG-E型ベクターの効率と比較検討した。FuG-E変異体については、N末端より440番目のアミノ酸が遺伝子導入効率に重要なため、この位置のアミノ酸置換を導入した変異体を作成し、その活性をマウス脳内への遺伝子導入によって解析した結果、440番目のアミノ酸をグルタミン酸に変異させた場合、マウス脳内では最も高い遺伝子導入効率が得られることを明らかにした。コノウィルスベクターによる脳内への導入を組織学的に解析した。今後、遺伝子の導入された細胞数をカウントし、その効率について詳細に分析する計画である。



H30-A5
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
協:戸松 彩花
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定

関 和彦 , 大屋 知徹, 梅田 達也, 工藤 もゑこ, 窪田 慎治, 戸松 彩花

脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。

本年度は新たなウィルスベクターの開発を継続して行なった。また、国立精神・神経医療研究センターにおいて、霊長類研究所から供給を受けたAAVベクターの機能評価をマーモセットを対象に行う研究を終了し、学会発表を行った。



H30-A6
代:石田 裕昭
協:西村 幸男
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田 裕昭 , 西村 幸男

前頭極 (Brodmann Area 10; BA10)は前頭前野の最前部に位置する霊長類に固有の脳領野であり、行動制御のための高次認知機能に関わる可能性が示唆されてきた。
本年度は、マカクザルBA10を標的として逆行性神経トレーシング法を用い、BA10に対して投射する皮質領野を明らかにする目的で実施した。まずBA10に対しコンベンショナル逆行性神経トレーサー(Fast blue; FB)を注入し、BA10へ直接投射する皮質領野を調べた。さらに逆行性越シナプス性神経トレーサー(狂犬病ウイルス)をBA10へ注入し、2次シナプス以内にBA10へ投射する皮質領野を調べた。
FBラベルを解析した結果、①前頭葉では背外側前頭前野(areas 9d/8d, 46d, 8b-FEF, 12/45)、腹内側前頭前野(areas 11, 13, 14, 25, 32, 24, 前部島皮質)、②側頭葉では側頭極、上側頭回、STS上壁領野(area STP)、③後頭・頭頂葉では後部帯状回 (areas 23, 31)、脳梁膨大部 (areas 29, 30)にラベルが認められた。BA10はこれらの領野から直接投射を受けている。
狂犬病ウイルスを用いてFBでは分からなかった2次ニューロンラベルを解析したところ、2つシナプスを経てBA10に投射する領域は聴覚野(AL野; anterolateral belt area)、TE野、嗅内皮質、海馬傍皮質であった。
本研究は、BA10が背側経路(背側前頭前野―後部帯状皮質)と腹側経路(内側・腹側前頭前野―側頭葉)に加え、2次シナプスを経て海馬傍回領野群から投射を受けていることを明らかにした。今後は、BA10の皮質間ネットワークとB10―大脳基底核ループ回路の解析を進め、BA10の高次認知機能について明らかにしていきたい。



H30-A7
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:平井 康治
協:緒方 久実子
協:東山 哲也
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

藤山 文乃 , 苅部 冬紀, 平井 康治, 緒方 久実子, 東山 哲也

大脳皮質 - 大脳基底核 - 視床ループは行為選択や随意運動実行に関与している。げっ歯類の線条体背外側部はこのうち運動機能と関わりが深い部位とされ、大脳皮質の一次運動野・二次運動野や、運動視床であるVA/VL核から興奮性シナプス入力を受ける。本年はまずげっ歯類で、大脳皮質二次運動野からの興奮性入と、VA/VL核からの興奮性入力とが線条体内のどの領域に投射し、また、パルブアルブミンニューロンの樹状突起のどの位置に入力されるかを形態学的に解明した (添付画像ファイル:Nakano, Karube et al.2018; Fujiyama et al., 2019)。また、尾側線条体の一部の領域において、D1Rおよびtyrosine hydroxylaseの染色性が弱く、D2Rの染色性が強い領域 (D1R-poor zone) を発見し、2018年の米国神経科学学会で報告した。この領域は、マウスおよびラットの両方で確認しており、現在は所内対応者の高田昌彦教授にご提供いただいたマーモセットを用いた実験を進めている。


H30-A8
代:橋本 均
協:中澤 敬信
協:笠井 淳司
協:勢力 薫
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

学会発表
橋本均 High-speed and scalable whole-brain imaging system FAST (2018/9/15) 第56回日本生物物理学会(岡山大学).

Hitoshi Hashimoto, Kaoru Seiriki, Atsushi Kasai, Takanobu Nakazawa, Ken-ichi Inoue, Masahiko Takada High-resolution imaging of primate brains using FAST(2018/7/31) 国際ワークショップ「遺伝子導入技術の利用による霊長類脳機能操作とイメージング」(量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所).

Hitoshi Hashimoto, Kaoru Seiriki, Atsushi Kasai, Takanobu Nakazawa High-speed and high-resolution whole-brain imaging system FAST (block-face serial microscopy tomography)(2018/10/15) Cold Spring Harbor Asia, Advances in Optical Imaging of Living Cells & Organisms: Focus on the Brain(Suzhou, China).

橋本均 高精細全脳イメージングによる精神・神経疾患の分子病態研究(2019/1/29) 新潟脳神経研究会特別例会(新潟大学脳研究所).

橋本均 脳疾患の病態解析と創薬へ向けたアンバイアス全脳イメージング(2019/3/14) 第92回日本薬理学会年会(大阪, 国際会議場).
霊長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本 均 , 中澤 敬信, 笠井 淳司, 勢力 薫

学会発表
Hitoshi Hashimoto, Kaoru Seiriki, Atsushi Kasai, Takanobu Nakazawa, Ken-ichi Inoue, Masahiko Takada. High-resolution imaging of primate brains using FAST.(2018年7月31日)国際ワークショップ「遺伝子導入技術の利用による霊長類脳機能操作とイメージング」(量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所)

勢力薫、笠井淳司、丹生光咲、田沼将人、五十嵐久人、中澤敬信、山口瞬、井上謙一、高田昌彦、橋本均 高精細全脳イメージング技術FASTの開発と精神疾患モデルマウスの病態解析―脳全体を対象とした仮説フリーな病態・薬物治療機序の組織学的解析―(2018年10月13日)第68回日本薬学会近畿支部会 (姫路獨協大学)

霊長類脳の詳細な全脳神経回路の情報を得るため、本年度は、高田研で作成された細胞種特異的に神経細胞を高効率に標識するアデノ随伴ウイルスを感染させた脳を、高速高精細な全脳イメージングシステムFASTを用いて、単一細胞レベルで観察した。それらの画像データから、全脳レベルの投射パターンを得ることに成功している。今後は霊長脳の詳細な神経回路解析を達成するための画像データ処理法の開発等を実施する予定である。



H30-A9
代:Wirdateti
Analysis of mitochondrial sequences for species identification and evolutionary study of slow loris (genus Nycticebus)
Analysis of mitochondrial sequences for species identification and evolutionary study of slow loris (genus Nycticebus)

Wirdateti

In Indonesia three species of the five existed species of genus Nycticebus are found in three major islands of Indonesian archipelagos, N. coucang (Sunda loris) in Sumatra; N. menagensis (Borneo loris) in Borneo; and N. javanicus (Javan slow loris), the endemic species to the island of Java. They are listed in the IUCN Red List as critically endangered, and the Javan slow loris has now been included on a list of the “World’s Top 25 Most Endangered Primates” a fourth time [Mittermeier et al., 2008—2010, 2010—2012, 2012—2014]. Illegal harvesting and trade are the major forces behind the population declines of wild slow lories in Indonesia. The problem arises during confiscations. We often found these animals were found dead, very young or unhealthy, making it difficult to distinguish the species based on morphology. For this reason, it is necessary to develop a reliable DNA marker to identify the species of slow loris.
In the Cooperative Research Program 2018, I examined the 16S ribosomal RNA (rRNA) of mitochondrial DNA (mtDNA). This study aims to understand the degree of genetic variation between the species and among local populations within the species, to aid future conservation efforts. These results will be valuable as a supportive data in the release and reintroduction of Nycticebus species to the wild without disturbing the gene pool of local populations. This study can also be used for further studies of slow loris evolution in Asia.
From 42 samples examined in this study, we obtained 36 sequence data of 16S rRNA with the length of 1640 bp nucleotides for three species: N. menagensis, N. javanicus, and N. coucang. We found 12 haplotypes from 24 N. coucang individuals, whereas in N. javanicus there are four haplotypes from 10 individuals. Only one individual was examined for N. menagensis. For phylogenetic analysis, 35 samples were used because one of the samples from Sumatra (N. coucang, No. 42) showing a strange sequence was excluded. The data analysis was conducted using the MEGA 6.0 program. The results of the phylogenetic analysis showed that 2 samples from the specimens identified as N. menagensis species (N. men 21, N. men 27) were included in the cluster of N. coucang, and the N. men 23 samples were in the N. javanicus cluster, while one sample was N. javanicus (N. jav1) was considered as N. coucang. The nucleotide differences between species were around 55 -81 nucleotides between N. coucang and N. javanicus, around 70-94 nucleotides between N. javanicus and N. menagensis, and round 38 nucleotides between N. coucang and N. menagensis. From this study, I conclude that 16S rRNA gene could be used as genetic marker for identification of species in genus Nycticebus, especially for three species of Indonesia. However, we need more information for other mtDNA region as to genetic variations between and within species of slow loris.



H30-A10
代:松本 正幸
協:山田 洋
マカクザル外側手綱核の神経連絡
マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本 正幸 , 山田 洋

嫌悪的な事象(報酬の消失や罰刺激の出現)を避けることは、動物の生存にとって必須である。研究代表者と所内対応者、協力研究者らの研究グループは、マカクザルを用いた電気生理実験により、外側手綱核と呼ばれる神経核がこのような回避行動の制御に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにしてきた(Kawai et al., Neuron, 2015; Kawai et al., Cerebral Cortex, 2018)。このような外側手綱核の回避行動に対する役割をさらに神経回路レベルで理解するためには、外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持ち、そのシグナルがどの領域に伝達されているのか、またどの領域を起源とするのか知る必要がある。しかし、外側手綱核の神経連絡を調べた解剖学的な研究の多くはげっ歯類を対象にしたものであり、霊長類を対象とした研究はほとんどおこなわれていない。
2018年度は、1頭のフサオマキザルの外側手綱核に神経トレーサーを注入し、霊長類の外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持つのかを明らかにしようと試みた。神経トレーサーの注入をおこない、現在は解析を進めているところである。2019年度以降、動物の頭数を増やし、データの信頼性を高める予定である。



H30-A12
代:Aye Mi San
協:Phyu Pyar Tin
Conservation genetics of Myanmar’s macaques? a phylogeographical approach
Conservation genetics of Myanmar’s macaques? a phylogeographical approach

Aye Mi San , Phyu Pyar Tin

The country of Myanmar is part of the important role in rhesus macaque`s distribution range from Afghanistans to the East China Sea, and their phylogeographic study. In 2017 and 2018, we conducted field surveys in Central Myanmar (6 locations), Northern Myanmar (3 locations) and North-western Myanmar (4 locations) where we collected non-invasive samples such as feces and hair samples from macaques. These genetics resources were brought to the Primate Research Institute (PRI), Kyoto University by the permission of “Ministry of Natural Resources and Environmental Conservation, Forest Department of Myanmar”. We extracted mtDNA and amplified the target D-loop region (1.2kb) from 13 known locations of rhesus macaques from Myanmar. The results showed that at least two clusters of rhesus macaque (Macaca mulatta) were observed in Myanmar. The northern clade has highly genetic distance (0.072 to 0.085) from Central and North-western clade. Between these two clusters may have different histories, ancient geographic or ecological barriers such as Chindwin River, Ayeyarwady River, mountain ranges, valleys and different climate to prevent gene flows between two clusters. To characterize the phylogeographic position in their distribution range, D-loop sequenced of eight rhesus macaques from Primate Research Institute (5 samples from India and 3 samples from China) and aligned with Myanmar rhesus. These results suggested that Myanmar Northern clade rhesus macaque is clustered in the Indian 1 haplogroup and Central and North-western clade is clustered in Indian 2 haplogroup. Based on our findings, we suggested that Myanmar origin rhesus macaques might be genetically suited for biomedical research similar as Indian origin rhesus macaque. For these reasons, we would like to extend our project to conduct the other parts of Myanmar (Kayah and Mon States) in 2019. The results outcomes from the 2017-18 findings were presented at “Myanmar Biodiversity and Wildlife Conservation” workshop funded by Norwagian Environment Agency dated on 27th- 28th November 2018. The title “Phylogenetic Study of Rhesus Macaque: Advance in Myanmar’s Primatology and Effort to Conservation” was presented by Dr Aye Mi San and Dr Hiroyuki Tanaka.


H30-A13
代:田中 真樹
協:竹谷 隆司
協:鈴木 智貴
協:亀田 将史
行動制御における皮質下領域の機能解析

論文
Takeya, R.,Patel, A.D. & Tanaka, M.(2018) Temporal generalization of synchronized saccades beyond the trained range in monkeys. Front Psychol 9:2172. 謝辞なし

Kunimatsu, J. Suzuki, T.W.,Ohmae,S. & Tanaka, M.(2018) Different contributions of preparatory activity in the basal ganglia and cerebellum for self-timing. eLife 7:e35676 . 謝辞なし
行動制御における皮質下領域の機能解析

田中 真樹 , 竹谷 隆司, 鈴木 智貴, 亀田 将史

分子ツールをニホンザルに適用した複数の実験を進め、大脳視床経路や小脳外側部の機能を探ることを目的に研究を進めてきた。H30年度は視床-大脳間の情報処理を明らかにするため、大脳視床路を光遺伝学的に抑制することを試みた。前年度までに行った実験では、途中で光刺激に対する反応性が低下し、実験後の細胞脱落を認めたが、ベクター接種後数か月であれば遺伝子発現がみられることを予備実験で確認していただいた。京大から新たにウイルスベクターを提供していただき、H30年4月に北大で補足眼野に遺伝子導入を行い、5月から約3か月にわたって視床の光刺激実験を行った。弱い反応を示すニューロンを記録することができていたが、8月頃より体調が悪くなることが時折あり、9月上旬の地震による2日間の停電後にサルの体調が悪化したので灌流した。京大で免疫組織学的検討を行っていただいたところ、大脳・視床とも良好に遺伝子発現がみられた。ただし、その間に遺伝子導入をしていない個体で予備実験を行ったところ、光刺激の影響がみられるニューロンが記録されたため、現在、対照実験でえられたデータと合わせ、解析を進めている。


H30-A14
代:南本 敬史
協:永井 裕司
協:小山 佳
協:堀 由紀子
協:藤本 淳
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

論文
Fujimoto A, Hori Y, Nagai Y, Kikuchi E, Oyama K, Suhara T, Minamimoto T(2019) Signaling incentive and drive in the primate ventral pallidum for motivational control of goal-directed action J Neurosci. 39(10):1793-1804.

学会発表
Nagai Y, Miyakawa N, Ji B, Hori Y, Huang XP, Slocum S, Yan X, Ono M, Shimojo M, English J, Liu J, Inoue KI, Kumata K, Hirabayashi T, Seki C, Fujimoto A, Mimura K, Oyama K, Zhang MR, Suhara T, Takada M, Higuchi M, Jin J, Roth B, Minamimoto T. PET imaging of selective control of neural activity with a novel DREADD agonist(2018/07/26) 日本神経科学学会(神戸).

Minamimoto T A novel ligand C22b enables selective and rapid chemogenetic neuronal modification in monkeys(2018/12/13) Genetic Technologies for Systems Neuroscience in NHP(Bethesda, MD, USA).

Minamimoto T A chemogenetic toolbox for primates(2019/01/29) International Symposium of Brain/MINDs (ISBM2019)(東京).

三村 喬生, 永井 裕司, 井上 謙一, 須原 哲也, 高田 昌彦, 南本 敬史 Using PET imaging to monitor chemogenetic manipulation of nigrostriatal dopamine system in common marmoset(2018/7/27) 日本神経科学学会(神戸).
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

南本 敬史 , 永井 裕司, 小山 佳, 堀 由紀子, 藤本 淳

本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.H30年度は脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い化合物として独自に見出したDCZ(特許出願)の有効性について検証を進めた.DCZはclozapineと異なり低濃度ではDREADD以外の受容体に結合・作用せず,また体内で代謝をほとんど受けないことがわかった.DCZは極少量で脳内局所に発現させた興奮性DREADD(hM3Dq)をCNOの1/100の低い濃度で活性化させるとともに,DCZを放射性ラベルした[11C]DCZはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で,高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに,陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功した.さらにhM4Diを局所脳部位に発現するサルの行動をDCZの微量投与で操作可能であることを示した。(Nagaiらunder review).この成果は複数の論文に発表するとともに、化合物DCZの情報を共有するにより,DREADDによるサル脳回路操作を広く展開する.


H30-A15
代:Van Minh Nguyen
Effect of the fragmentation on genetic diversity of macaque populations in Central Vietnam
Effect of the fragmentation on genetic diversity of macaque populations in Central Vietnam

Van Minh Nguyen

Due to the diverse habitat environments, Vietnam harbors a high diversity of nonhuman primates with as many as 25 species. Five species of macaques (Macaca fascicularis, M. mulatta, M. leonina, M. arctoides, and M. assamensis) are recognized in our country. However, most of the nonhuman primates in Vietnam are threatened by illegal hunting for foods and medicine, and habitat degradation by human activities. In Central Vietnam, I have been investigating local distribution of macaques and slow loris, and reported about the distribution pattern of them in habitats that were fragmented by plantations of beneficial agricultural products (rubber, coffee, peppers, Acacia, pines, etc.) (Minh et al, 2012; 2013; 2014). We found that population size of those species was small, and that conflict between monkeys and humans and over-hunting were serious problems. However, effect of habitat degradation and human activities on genetic diversity of nonhuman primate populations has not been evaluated so far in Central Vietnam.
In this research project, I used fecal samples that I collected during the field survey of macaque distribution conducted in 2012-2017.
From September 18th to September 27th, 2019, DNA extraction, PCR products, and mtDNA sequencing of 17 individuals of M. arctoides were done at Dr. Tanaka’s laboratory in PRI, Kyoto University. The results of analyses showed that D-loop sequences of 17 individuals of this species were obtained.
In the next time, we will carry out phylogenetic and population genetic analyses using some software to clarify the genetic relationship among local populations of this species living in fragmented habitats.
To have these D-loop sequence data, I would like to thank Dr. Hiroyuki Tanaka and PRI, Kyoto University for their kind support.



H30-A16
代:Hadi Islamul
Fish-eating behavior of the macaques : A comparative study of long-tailed macaque and Japanese macaque
Fish-eating behavior of the macaques : A comparative study of long-tailed macaque and Japanese macaque

Hadi Islamul

I conducted field data collection of free-ranging Japanese macaques in Koshima Island of Miyazaki during 22-27 May 2018. The observation including field observation of the macaques and interview persons who may knew the information of Koshima macaques. During field observation, I could only spent two days obervation in Odomari beach, beach-site where fish-eating behavior reported previously, because of the unsup-ported weather condition . I found no individuals of the Japanese maca-ques who visited the beach site of Koshima Island exhibitted fish-eating behavior. Base on the interview , the macaques eat fishes occas-ionaly when the the death fishes harbouring to the beach site. The fishes were discarded fishes from anglers who fishing nearby the island. Compared to those found in long-tailed macaques in Pangandaran of Indonesia, fish-eating behavior may became the same mode as the way to fulfill the nutritional requeriments. Both species, long-tailed and Japanese maca-ques, were obtain the fishes by passive fishing mode, the fishes were death-discarded fishes or stolen from human fish-storages. Pangandaran long-tailed macaques may exhibitted fish-eating behavior than those of Japanese macaques in Koshima more frequently and more individuals those exhibitted the behavior. It may because of the sources of fishes in Pangandaran more available than those in Koshima. The long-tailed maca-que also more frequent to expossed to fishes because of the eastcoast site of Pangandaranwere actively to occupied by human to harb-our the fishing vessel, shorted and transfered the fishes to the fish seller.


H30-A17
代:西村 幸男
協:鈴木 迪諒
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

論文

学会発表
鈴木迪諒、井上謙一、中川浩、伊佐正、高田昌彦、西村幸男 サル腹側中脳は一次運動野を介して筋出力を促通する(2018年12月13日) 次世代脳プロジェクト(東京).

Suzuki M, Inoue K, Nakagawa H, Isa T, Takada M, Nishimura Y Deep brain stimulation of the ventral midbrain facilitates the output to forelimb muscles via the primary motor cortex in monkeys(2018年2月26-28) The 3rd International Brain Stimulation Conference(Vancouver).

関連サイト
研究室ホームページ http://www.igakuken.or.jp/project/detail/neuroprosth.html
意欲が運動を制御する神経基盤の解明

西村 幸男 , 鈴木 迪諒

越シナプス神経トレーサー(狂犬病ウイルス)により、意欲の中枢である腹側中脳から二シナプス性に脊髄へ投射していることを見出した。さらに狂犬病ウイルスによって標識された腹側中脳ニューロンの一部はドーパミンニューロンであることを免疫組織化学実験によって明らかにした。これらの成果の一部を、下記に示す2本の研究発表を行った。

1) 鈴木迪諒、井上謙一、中川浩、伊佐正、高田昌彦、西村幸男. サル腹側中脳は一次運動野を介して筋出力を促通する. 2018年度次世代脳プロジェクト
2)Suzuki M, Inoue K, Nakagawa H, Takada M, Isa T, Nishimura Y.Deep brain stimulation of the ventral midbrain facilitates the output to forelimb muscles via the primary motor cortex in monkeys. The 3 rd International Brain Stimulation conference.



H30-A18
代:福田 真嗣
協:村上 慎之介
協:谷川 直紀
協:楊 佳約
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響

福田 真嗣 , 村上 慎之介, 谷川 直紀, 楊 佳約

ヒトを含む動物の腸内には、およそ千種類で40兆個にもおよぶとされる腸内細菌が生息しており、その集団を腸内細菌叢と呼ぶ。腸内細菌叢は宿主腸管と密接に相互作用することで、複雑な腸内生態系を構築しており、宿主の生体応答に様々な影響を及ぼしていることが報告されている。近年、無菌マウスを用いた研究や抗生物質を投与したマウスを用いた研究において、腸内細菌叢が脳の海馬や扁桃体における脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生量に影響を与え、その結果マウスの行動に変化が現れることが報告されている(Heijtz, et al., PNAS, 108:3047, 2011)。これは迷走神経を介した脳腸相関に起因するものであることが示唆されているため、腸内細菌叢が宿主の脳機能、特に情動反応や記憶力に迷走神経を介して影響を及ぼす可能性が考えられる。しかし、情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係を調べるには、マウスなどのげっ歯類では限界があると考えられることから、本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行った。本年度は高次脳機能評価を行うための課題訓練と、図形弁別課題およびその逆転学習課題を訓練した。さらに、記憶機能を検討するため空間位置記憶課題も訓練した。これらのマーモセットの便を採取し、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢解析を行った。得られた腸内細菌叢情報と認知機能情報について、相関解析や多変量解析手法を用いてアプローチし、認知機能に関連する腸内細菌叢の探索を行った。その結果、認知機能の高いマーモセット個体と腸内細菌叢との間に相関関係を一部見出すことができたため、今後はより詳細な解析を実施する。


H30-A19
代:植木 孝俊
協:尾内 康臣
高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出
高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出

植木 孝俊 , 尾内 康臣

 近年、ヒトを含む哺乳動物の脳で、成長後にもニューロンの新生が継続していることが確認されている。また、大うつ病、統合失調症、認知症併発型パーキンソン病などの精神神経疾患患者の死後脳解析の結果、成体脳神経新生(adult neurogenesis)の著明な障害が観察され、成熟脳の神経新生が担う生理学的機能への関心が寄せられているところである。一方で、これまで成体脳神経新生の解析は、専らマウス、ラットなどのげっ歯類で行われ、ヒト、マカクザルなどの高等霊長類成体脳における神経幹細胞の動態解析、並びに、その生理学的機能の探究はほとんどなされていない。
 本研究では、マカクザルにて成体脳神経新生動態をin vivoで描出、評価することができるポジトロン断層法(PET)による分子イメージング技術を創出する他、マカクザルで神経幹細胞を特異的に障害するためのレンチウィルスによる遺伝子発現系を確立し、サルの成体脳神経新生障害モデルが呈する精神神経症状を解析することを目的とした。
 まず、ラットでレンチウィルスにより神経幹細胞特異的に中性アミノ酸トランスポーター/共役因子遺伝子を発現させ、O-18F-fluorometyltyrosine([18F]FMT)の集積をPETで画像化した。ここでは、併せて強制水泳試験による大うつ病病態モデルラットにて、成体脳神経新生動態をPETで描出し、神経新生障害が大うつ病の病態生理に与ることを確認した。次に、レンチウィルスをラットの脳室下帯もしくは海馬歯状回に感染させ、HSV1-sr39tk遺伝子の発現を誘導した後、ガンシクロビルを腹腔投与することにより、各neurogenic nicheの神経幹細胞を障害し、その認知、記憶などへの影響を行動学的解析により評価した。さらに、HSV1-sr39tk発現神経幹細胞を8-[18F]fluoropenciclovir(FPCV)によりPETで描出し、その神経新生動態解析への応用の可否を検討した。
 一方、30年度では、マカクザルの神経幹細胞特異的な遺伝子発現系を構築し、その評価をマーモセットで行った。即ち、レンチウィルスを、脳定位固定装置でマーモセット成体の海馬歯状回と脳室下帯に感染させ、神経幹細胞特異的なHSV1-tk及びEGFPの発現を観察した。さらに、ganciclovirを腹腔投与することにより、HSV1-tk発現神経幹細胞を障害し、成体脳神経新生を著明に減衰させた。



H30-A20
代:筒井 健一郎
協:中村 晋也
協:吉野 倫太郎
協:森谷 叡生
協:小野寺 麻理子
協:大原 慎也
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井 健一郎 , 中村 晋也, 吉野 倫太郎, 森谷 叡生, 小野寺 麻理子, 大原 慎也

京都大学霊長類研究所の高田昌彦教授および井上謙一助教とともに企画した研究計画に基づき、霊長研統合脳システム分野にてウイルスベクター等を用いた神経トレーシング実験を実施した。具体的には、マカクザルの扁桃体および側坐核に逆行性のウイルスベクターや化学トレーサーを注入し、内側前頭葉、とくに前帯状皮質において標識された神経細胞の数や分布を調べた。その結果、扁桃体や側坐核に投射する多くの神経細胞が前帯状皮質の膝周囲部に確認された。今後は、上述の結果について解析を進めるとともに、さらなる神経トレーシング実験を行う。また、これらの結果を受けて、内側前頭葉と扁桃体・側坐核を結ぶ神経経路選択的な機能阻害実験に着手したい。


H30-A21
代:Muhammad Azhari Akbar
A comparative study in daily activity of colobines under captive condition
A comparative study in daily activity of colobines under captive condition

Muhammad Azhari Akbar

Animal captivity is usually applied to wild animals that are held in confinement, but may also be used generally to describe the keeping of domesticated animals such as livestock or pets. This may include, for example, animals in farms, private homes, zoos and laboratories. So that in the beginning of this study, we observe wild animals to see how they lived in their natural habitat. Then we can see the changes that occur when they are in the cage. By comparing the activity of captive animals with those of wild animals, it can give an explanation how captive environment affect the fundamental ecology of animal. This would useful for improve housing technique and enrich environment.

We study about daily activity of colobine, especially silvery lutung (Trachypithecus cristatus) at Gunung Padang, West Sumatra, Indonesia. We start observing lutung there from August 2018. We have collected 267 hours 10 m observation time using scan sampling method for each individual with the 10-min interval from 07.00 - 18.00. We address observing lutung's activities, moving; feeding; resting; grooming (allo-grooming and auto-grooming). We also found and recorded other activities, such as defecating, urinating, breast-feeding by nursing female, inter and intra-spesicific conflict, playing by juveniles, allo-mothering beetween nursing females and single females. We will conduct the behavioral data until about 800 hours observation time. After we conduct the observation, we will analyse their activity rythm and age-sex differences in activity budget. We also analyse the lutung's food species and food item while feeding. We also analyse age-sex differences in diet.



H30-A22
代:桃井 保子
協:花田 信弘
協:今井 奨
協:岡本 公彰
協:齋藤 渉
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

桃井 保子 , 花田 信弘, 今井 奨, 岡本 公彰, 齋藤 渉, 宮之原 真由

2018年度では、42歳♂と52歳(推定)♂の2個体の所内チンパンジーに対して口腔内診査と歯科治療を実施した。
口腔内診査の結果、42歳♂の個体では、根尖性歯周炎と診断された下顎右側中切歯、下顎右側第一小臼歯および上顎左側中切歯の抜歯術を行った。
52歳♂の個体では、左口蓋粘膜に腫瘍を認めたため切除術を行った。病理検査の結果、尋常性疣贅と診断された。



H30-A23
代:伊村 知子
ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究
ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究

伊村 知子

 本年度は、複数の物体や風景のような複雑な視覚環境から統計的な情報を取り出すメカニズムについて明らかにするため、チンパンジー6個体を対象に絵画を用いた配色の視覚探索課題を実施した。視覚探索課題では、6つの絵画の中から1つだけ、色相の異なるものを検出させた。視覚刺激として、人物画、静物画、抽象画を8枚ずつ、合計24枚の絵画を使用した。各絵画につき、原画に近い配色とその色相を90度、180度、270度回転させた配色の画像を作成した。先行研究より、ヒトは初見の絵画でも、色相を回転させた配色に比べ、原画に近い配色を好むことが報告されている。そこで、視覚探索課題では、180度回転させた配色の中から原画に近い配色を検出する条件と、270度回転させた配色から90度回転させた配色を検出する条件で、正答率を比較した。その結果、チンパンジーは絵画の配色のような複雑な属性の違いを容易に識別することができた。さらに、人物画、静物画、抽象画のすべてのカテゴリにおいて、原画に近い配色の方が、色相を回転させた配色よりも容易に検出することが示された。今後、原画の配色が持つ色彩の統計情報の特徴について解析を進める必要がある。


H30-A24
代:原田 悦子
協:須藤 智
チンパンジーにおける健康な加齢にともなう認知的機能やモノとの相互作用の変化
チンパンジーにおける健康な加齢にともなう認知的機能やモノとの相互作用の変化

原田 悦子 , 須藤 智

 今年度は,チンパンジーの超高齢個体および高齢期個体における実験時の状況を観察しながら,ヒトにおける健康な加齢に伴う新奇なICT基盤人工物利用時に見られる特異的行動と類似した特性,行動が見られるか,もしそれらを共通して抽出することとが可能だとしたら,どのような課題をどういった状況下で実施することが可能,必要か,その際の主たる要因は何かについて議論を行なった.知覚および運動(反応形成)についての遅延化は人とチンパンジーに共通しており,その結果としての課題達成の低下も共通しているが,同時に何らかの形でメタ認知が関与していると考えられる「少し難しい課題に対して,取り組む意欲を示さない」といった特徴も類似行動が存在することなどから,人の高齢個体によく観察される「怖がり」(なかなか最後の実行ボタンを押さずに,なんども確認をしたりする等)や方略の変更(間違いを回避するために独自の方略を取る)などを観察しうる課題での種×年齢群比較の可能性,ならびにそこで推測されるメタ認知的判断との関係性について検討を行なった.


H30-A25
代:平松 千尋
協:山下 友子
協:中島 祥好
協:上田 和夫
霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究
霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究

平松 千尋 , 山下 友子, 中島 祥好, 上田 和夫

昨年度までの共同利用研究において録音を行った、公益財団法人日本モンキーセンターおよび霊長類研究所で飼育されている、チンパンジー、ヤクニホンザル、リスザル、タマリン、ワオキツネザルの音声データの解析を進めた。まず、録音全体からノイズの少ない霊長類音声部分のみを切り出した。続いて、様々な霊長類音声の広範囲の周波数帯域をカバーするため、従来ヒト音声解析で用いてきたケプストラム分析を用いない方法を検討した。また、各霊長類音声が持つ時間的な音響特性に着目し、ヒトの音声言語が持つリズムとどのように関わっているかを分析する手法の開発に着手した。このようにして、体の大きさ、声道形状、発声のための神経メカニズムが異なると考えられる複数種の霊長類音声を比較解析するのにふさわしい手法の確立を進めた。


H30-A26
代:工藤 和俊
協:三浦 哲都
ヒトおよびチンパンジーにおける協調行動の比較発達研究
ヒトおよびチンパンジーにおける協調行動の比較発達研究

工藤 和俊 , 三浦 哲都

スポーツ、ダンス、音楽は、ヒト社会における普遍的文化であり、その萌芽的行動がチンパンジーでも確認されていることから、近年ヒトにおける社会性の進化プロセスを明らかにする上での鍵となる可能性が指摘されている。これらの活動に共通する特徴として、体肢間・感覚運動・対個体間の協調が必要とされ、個人-集団にわたる階層性をもつことが挙げられる。そこで本研究では、ヒトと共通したチンパンジーの実験課題を開発し、協調行動の発達および進化のプロセスを統合的に理解することを目指す。また、人工知能技術を用いた行動解析により、自然場面における協調行動の発達プロセスを定量化する。さらに、異なる階層および異なる時間スケールにわたる協調行動を数理モデル(力学系モデル)によって記述し、協調行動の学習・発達・進化プロセスを力学系の時間発展として記述することを目指す。また、協調行動の発達について、これらの協調が無意図的に生じることを確認するには、実験場面に加えて自然場面における自発的協調行動の観察を行うことが必要になる。そこで本研究では、ヒトおよびチンパンジーの自然場面映像を記録し、深層学習技術を用いて2次元映像からの体部位認識を行い、動きの定量化を試みた。
 今年度は、ヒトおよびチンパンジーを対象とした体肢間協調、感覚運動協調、および個体間協調運動の時系列を解析するためのツール(窓付き脱トレンド相互相関解析)を整備するとともに、2者間の協調関係を記述する力学系モデルを構築した。加えて、四肢および体幹を含む全身映像からチンパンジーの体部位認識を行い、2次元での姿勢の定量化を行い得ることが確認された(添付写真)。



H30-A27
代:山崎 美和子
協:今野 幸太郎
協:内ヶ島 基政
経路選択的な機能操作技術を応用したマーモセット大脳皮質―基底核ネットワークの構造マッピング
経路選択的な機能操作技術を応用したマーモセット大脳皮質―基底核ネットワークの構造マッピング

山崎 美和子 , 今野 幸太郎, 内ヶ島 基政

コモンマーモセット脳の神経化学マップ作成のための技術開発、入出力特性を特定するための技術開発、神経回路の形態学的可視化の技術開発を行うことを目的とする。今年度も引き続き4頭の脳サンプルを用いて以下の2つのテーマを推進した。
1)神経化学マップ作成のための技術開発
cDNAライブラリを用いてリボプローブを作製する。さらに抗体作製のための抗原遺伝子をPCR法により作製する。
2)入出力を特定するための技術開発
脳組織切片を作製し、入出力特性を解析するためのin situは胆振大ゼーションおよび免疫組織化学法の最適化をはかり、組織化学による解析データを取得する。



H30-A28
代:田中 由浩
協:川崎 雄嵩
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析
触覚情報を用いたチンパンジーの個体識別および課題反応との関係分析

田中 由浩 , 川崎 雄嵩

表情や音声,運動などには各個体の特性が含まれている.視聴覚情報に基づくものでは,顔画像や音声,歩容などによって個体識別や感情推定が行われているが,ものに触れた際の触覚情報にも個体の特性が含まれている可能性がある.例えば,タップ時の圧力や振動は画像からは読み取りづらい.このような触覚情報による個体識別や感情推定などが示せれば,工学的応用だけでなく基礎科学にも活用でき,人を含む動物研究にも新しい分析を提供できる.そこで本研究では,深層学習を用いて,タップ振動によるチンパンジーの個体識別を試みた.高感度な触覚センサをタッチパネルディスプレイ背面に貼り付け,7個体のチンパンジーがディスプレイをタップする単純課題を行い,振動とタイミングを記録した.約2ヶ月間のデータに対し,学習に用いるデータ数などを変化させて深層学習による個体識別を行なった.その結果,約1ヶ月分のデータで識別率は飽和し,80-90%程度を得られた.また,識別率は個体間で差があり,過去や直前のデータを学習に用いるかでも変化した.これらは同個体での触動作の変化を示唆する.今後,個体識別に加え,各個体の特徴や状態変化との関連性も調査したい.


H30-A29
代:齋藤 亜矢
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究

齋藤 亜矢

チンパンジーとアーティストが共同で絵画を制作する試みから、それぞれの描画表現の特徴を明らかにする研究の2年目として実施した。チンパンジーが描いた絵にアーティストが加筆する、アーティストが描いた絵にチンパンジーが加筆する、という2つの条件で、それぞれの絵の特徴や制作のプロセスを比較するものである。今年度は、チンパンジーのアイを対象に、アーティストの描いた絵に加筆するセッションを進めた。またこれまでに共同利用研究制度を利用して研究した成果を含めて「芸術の進化的起源」について考察した論文が刊行された(齋藤亜矢 (2018) 芸術の進化的な起源,人工知能,33 (6), 754-761.)。2018年12月には、過去に霊長類研究所のチンパンジーが描いた絵を含む大型類人猿の絵画を集めた展覧会「ヒト以外のヒト科の絵画展:ARTS and APES」を京都造形芸術大学で企画・開催し、その様子を雑誌『モンキー』(2019年3月号)に執筆したほか、新聞等のメディアでもとりあげられた。


H30-A30
代:鯉江 洋
協:揚山 直英
協:中山 駿矢
霊長類の加齢誘引疾患に関する研究
霊長類の加齢誘引疾患に関する研究

鯉江 洋 , 揚山 直英, 中山 駿矢

 我々は京都大学霊長類研究所に飼育されている4歳から19歳までの11頭のニホンザル(正常個体:9頭、疾患個体:2頭)において心臓超音波検査、胸部レントゲン読影、動脈血液ガス検査ならびに血液学的検査による正常個体と疾患個体についての病態診断を実施し、加齢によって誘引される循環器関連疾患における病態学的検討を行った(図)。
 血液学的検査においては、肥大型心筋症の既往をもつ個体や胸部レントゲン画像で心拡大を呈した個体などで急性の心筋傷害時に上昇するトロポニン(I, T)値の上昇を認めた。また、腎機能マーカーであるクレアチニン値の上昇なども認められ、心機能の低下と関連すると考えられる所見を得ることができた。一方、疾患個体における心臓超音波検査においては正常個体と比べて明らかな心室壁の肥厚や心室内腔の狭窄、これらに伴う流出路狭窄と急速乱流が認められた。さらに、超音波画像検査においてヒトで報告されている左室緻密障害に非常に類似した画像所見を示す個体が正常個体の中で確認された。既報ではニホンザルにおいて加齢とともに心臓間質、心外膜下、血管周囲などにおいて繊維性結合織が増加することが示唆されており、本個体はニホンザルにおいてみられる加齢性繊維化との関連性が示唆された。
これらのことから、ニホンザルにおいてもヒトや他種のマカクと同様に循環器疾患が発生し、加齢性にも増加することが示唆された。また、他種マカクなどではみられていない緻密化障害などがみられることが確認され、ヒト医学研究におけるモデル動物としての有用性が示唆された。



H30-A31
代:生江 信孝
協:桃井 保子
協:齋藤 渉
協:秋葉 悠希
協:大栗 靖代
協:正藤 陽久
協:飯田 伸弥
協:斎藤 高
協:斎藤 香里
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査
動物園のチンパンジーにおける口腔内状態の調査

生江 信孝 , 桃井 保子, 齋藤 渉, 秋葉 悠希, 大栗 靖代, 正藤 陽久, 飯田 伸弥, 斎藤 高, 斎藤 香里

H30年度には、日立市かみね動物園において、無麻酔下での口腔内検査をおこなった。飼育担当者がチンパンジーに大きく口を開けるよう指示し、歯科医師である桃井および齋藤が、観察・写真撮影をおこなった。
1個体(マツコ)について、上下門歯重度齲歯、歯冠欠落、歯石などが認められたため、優先的に麻酔・検査をおこなうこととなった。検査ではX線にて歯根部の状況を確認し、状況によっては抜歯も含めて適切な治療をおこなうこととした。麻酔下での検査の詳細な打ち合わせをおこなった。令和元年度に麻酔下での検査・治療をおこなう予定である。



H30-A32
代:狩野 文浩
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる記憶・心の理論・視線認知についての比較認知研究

狩野 文浩

赤外線式のリモート式テーブル設置型のアイ・トラッカーで、チンパンジーを対象に、ビデオを見せたときの眼球運動を測定した。
チンパンジーの教示シグナルに対する理解を調べた前年度の成果が発表された(Kano, F., Moore, R., Krupenye, C., Hirata, S., Tomonaga, M., & Call, J. 2018, Animal Cognition)。
今年度は、トリック目隠し課題を行った。この課題では、報告者の先行研究に倣って、動画の中に主役とその敵役が登場する。主役が取ろうとしている物を敵役が奪おうとする。主役が目隠しの後ろに隠れたときに敵役が物を持ち去ってしまう。その後、主役がもどってきて何か探しているそぶりを見せる。このとき、先行研究では、類人猿は主役の行動を予測して、主役が最後に物を見た場所を注視した。本研究では、性質の異なる2種類の目隠しを用意することで、類人猿がその性質に応じて予測を調節できるか調べた。目隠しには本物と、実は透けて見えるものがあり、動画の中では(遠目からは)同じに見える。類人猿の個体ごとに、動画を見せる前に異なる種類の目隠しを体験させておく。二条件で役者の行動はまったく同じであるから、類人猿が本物の目隠しを経験した後に主役の誤信念に基づく予測、トリック目隠しを経験した後にそうでない予測をすれば「行動ルール」仮説は成り立たない。
実際にそのような結果が得られ、現在成果をまとめている。



H30-A33
代:竹下 秀子
協:山田 信宏
協:高塩 純一
協:櫻庭 陽子
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

学会発表
櫻庭陽子・山田信宏・高橋一郎・川上文人・高塩純一・竹下秀子・林美里・友永雅己. 脳性まひチンパンジーにおけるまひ側を指標としたリハビリテーション評価の試み. (2018年11月17日~18日) SAGA(アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)(東海大学熊本キャンパス).

竹下秀子,山田信宏,高塩純一, 櫻庭陽子, 細田直哉 ヒト科の子どもの育ちを支援する―脳性まひのチンパンジーの発達と環境エンリッチメント(2019年3月17-19日) 日本発達心理学会第30回大会(早稲田大学,東京).
脳性麻痺チンパンジーへの発達支援と養育環境整備

竹下 秀子 , 山田 信宏, 高塩 純一, 櫻庭 陽子

 対象個体の17週齢より、姿勢運動発達評価と認知発達検査課題等への行動反応の観察による認知発達評価を実施してきた。姿勢運動の顕著な左右機能差が持続するなか、58週齢からは理学療法士・作業療法士による療育を組織し、環境との相互作用から知覚・行動・認知の発達を支援するという考えを基に定期的なセラピーの実施、日常養育中のかかわりを強化してきた。チンパンジー舎内外の環境エンリッチメントの継続的取り組みにより、2018年度には行動の多様性、安定性がさらに改善した。「四足」移動では背筋が水平になるほどに腰が上がり前進できるようになった。座位では姿勢の転換や移動運動へのさまざまなタイミングにおいて右足首の「返し(背屈)」がそれまで以上に頻繁に見られるようになった(図参照)。蹲踞の座位では臀部が接地していない場面も増え、ペットボトルフィーダーを「振る」運動が巧遅になり、効率よい摂食が可能となっている。さらに二足立位(つかまり立ち)も改善し,全体として右後肢が身体支持役割を果たす機会が多くなってきた。左側機能が増強されるとともに右側機能の改善を得た。関連専門職種の連携による養育者支援や養育環境の整備が障がいの固定化の防止や軽減につながる可能性が明らかになりつつある。


H30-B1
代:佐々木 哲也
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

論文

学会発表
佐々木 哲也、小松 勇介、渡我部 昭哉、山森 哲雄 霊長類前頭前皮質に特異的に発現する分子の解析-霊長類特有の前頭前皮質機能の分子基盤とは?-( 2018年12月13日) 2018年度 次世代脳 冬のワークショップ(東京).

佐々木哲也 自閉症様モデル霊長類の発達期神経回路再編成の異常(2018年10月23日) つくばブレインサイエンスセミナー(つくば).

佐々木 哲也、小松 勇介、渡我部 昭哉、山森 哲雄 霊長類前頭前皮質特異的に発現するSLITの解析(2018年10月20日) 第106回関東支部学術集会(東京).

佐々木哲也、真鍋朋子、中垣慶子、武井陽介、一戸紀孝 Abnormality of postnatal synapse formation/pruning in cerebral cortex of a primate model of ASD(2018年7月26日) 第41回 日本神経科学大会(神戸).

佐々木 哲也 自閉症様モデル霊長類の発達期神経回路再編成の異常(2018年7月14日) 第7回自閉症学研究会(東京).

Tetsuya Sasaki, Yusuke Komatsu, Akiya Watakabe, Tetsuo Yamamori Prefrontal-enriched SLIT1 expression in Old World monkey cortex established during the postnatal development.(2019.03.29) the 9th Federation of the Asian and Oceanian Physiological Societies Congress (FAOPS2019) (Kobe).

関連サイト
一般財団法人 予防衛生協会 研究奨励賞受賞 http://www.tsukuba.ac.jp/update/awards/20181026134333.html
細胞種特異的遺伝子発現・エピジェネティクスと精神疾患モデルにおけるその異常

佐々木 哲也

 霊長類の大脳皮質は機能分化が進んでおり、複数の「領野」に区分される。その神経回路は、生後発達期に大規模な再編成がなされて機能的領野が形成される。霊長類の神経回路発達過程にニューロン、グリア細胞が果たす役割を詳細に検討するために、細胞種特異的な遺伝子発現解析、エピジェネティクス解析を計画し、本年度は個体の共同利用によりアカゲザル2頭の脳組織を採材した。現在、凍結組織からの効率の良い細胞分離法を模索するため、凍結方法・細胞分散法をげっ歯類の脳を用いて検討している。


H30-B2
代:中村 浩幸
外側膝状体から頭頂視覚連合皮質への直接視覚入力回路の形態学的研究
外側膝状体から頭頂視覚連合皮質への直接視覚入力回路の形態学的研究

中村 浩幸

 視覚情報(構造・色・動き・奥行き)は、外側膝状体から後頭葉視覚皮質を経由して側頭葉・頭頂葉連合野皮質に至る神経回路網において処理される。これらの異なるモダリティ視覚情報は、異なる視覚連合野において並列処理された後、統合され単一の視覚対象として認識される。この視覚情報の統合には、異なる連合野皮質における同期した活動が必要と考えられる。外側膝状体層間細胞(konio cells 小顆粒細胞)は側頭葉・頭頂葉皮質(V4野・MT野)へ投射し、視覚連合野における同期した皮質活動を生成する神経回路に関与していると考えられる。本研究では外側膝状体層間細胞から頭頂葉と側頭葉の視覚野(V3A野とV4野)への投射様式を比較検討する目的で、同一個体のV3A野とV4野にそれぞれ異なる神経トレーサーを微量注入した。MRI画像から三次元再構築画像を作製して(左図)脳表面の脳溝の走行からトレーサー注入微小ガラスピペットの刺入部位を決定し、V3A野にBiotinylated Dextran Amine (BDA 10.000)とFastblueを、V4野にDiamidino Yellowを微量注入した。環流固定後、脳を取り出し(右図)、凍結連続切片を作製した。V3A野投射神経細胞は外側膝状体層間層のS層およびK1−4層に分布していた。V4野投射神経細胞の分布ならびに二重標識細胞の有無を検討中である。


H30-B3
代:鈴木 俊介
協:鈴木 絵美子
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

論文
Suzuki S, Miyabe E, Inagaki S( 2018) Novel brain-expressed noncoding RNA, HSTR1, identified at a human-specific variable number tandem repeat locus with a human accelerated region Biochemical and Biophysical Research Communications 503( 3): 1478-1483. 謝辞 あり

学会発表
楯 晋太郎, 鈴木俊介 ヒト特異的タンデムリピートから転写される新規脳発現RNA遺伝子HSTR1の同定( 2018年11月30日) 第41回日本分子生物学会年会( 横浜).

鈴木俊介 ヒト特異的タンデムリピートから転写される新規脳発現RNA遺伝子HSTR1( 2018年7月13日) 第34回日本霊長類学会大会自由集会( 東京).
ヒト特異的転移因子による脳関連遺伝子の発現調節機構の進化

鈴木 俊介 , 鈴木 絵美子

CDK5RAP2遺伝子の発現が脳の発達時に実際にヒトと近縁霊長類で異なるかを確認するため,ヒト,チンパンジー,ニホンザルのiPS細胞を用いてニューロスフェア誘導法による神経誘導実験を行い,CDK5RAP2の発現量の変化をリアルタイムPCRを用いて解析した。興味深いことに,ヒトiPS細胞においては神経誘導に伴ってCDK5RAP2の発現上昇がみられたが,チンパンジーおよびニホンザルiPS細胞においてはCDK5RAP2の発現上昇は起こらなかった。この結果は,ヒト特異的にCDK5RAP2のエンハンサーとして働くゲノム機能が獲得された可能性を示唆している。


H30-B4
代:浅川 満彦
協:萩原 克郎
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

論文
秋葉悠希ら(2018) 飼育類人猿の糞便による寄生虫保有状況の検査とコルチゾル値測定事例 野動医誌 23:27-31.

近本翔太ら(2018) 釧路市動物園飼育および同園内生息の哺乳類から得られた寄生虫標本の概要(続報) 北獣会誌 62:530-533.

浅川満彦(2018) 酪農学園大学野生動物医学センターWAMCが関わった東北地方における研究活動概要 青森自誌研(23):29-34. 謝辞あり

学会発表
長濱理生子ら ホルマリン液で固定・保存されたハヌマンラングール(Semnopithecus schistaceous)の糞便を用いた消化管内寄生虫検査(2018年8月31日~9月3日) 第24回日本野生動物医学会大会(大阪府立大学).

関連サイト
酪農学園大学リポジトリ掲載上の浅川(2018) https://rakuno.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=5515&item_no=1&page_id=13&block_id=37
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

浅川 満彦 , 萩原 克郎

例年のように東北および四国地方の行政機関との調整により、有害捕獲の死亡個体由来の消化管および臓器サンプルが送付され、申請代表者が施設担当となる酪農学園大学 野生動物医学センター(WAMC)に保存され、寄生蠕虫類の検査とウイルスの採集が行われた。これに加え、2018年には国立科学博物館(つくば市)にて、回顧的な調査が可能なサンプル調査を実施した。大変残念ながら、検査に使用出来うるサル類の標本の保存は確認できなかったが、他の施設には保管されているものと期待されるので、このような標本調査を実施したい。 2018年刊行論文としては、 ①秋葉悠希ら:飼育類人猿の糞便による寄生虫保有状況の検査とコルチゾル値測定事例. 野動医誌, 23: 27-31. ②近本翔太ら:釧路市動物園飼育および同園内生息の哺乳類から得られた寄生虫標本の概要(続報).北獣会誌, 62: 530-533. 両論文とも飼育類人猿における寄生虫保有状況とその疾病または公衆衛生に論じたもので、本共同研究の実績としては重要な位置付けになった。なお、本報告書に添付したのは②論文で掲載されたものである。 2018年における学会報告としては:長濱理生子ら:ホルマリン液で固定・保存されたハヌマンラングール(Semnopithecus schistaceous)の糞便を用いた消化管内寄生虫検査. 第24回日本野生動物医学会大会, 大阪府立大学, 8月31日~9月3日. この研究は貴研究所・Huffman先生とその指導院生との共同で行ったものであった。糞便検査では新鮮な材料を使うことが多いが、検査時にウイルスや細菌などの作業者への感染リスクが付き纏う。本手法はホルマリンで殺菌した材料でもクリアな寄生虫保有結果が得たことを立証、今後の本共同研究にも応用可能な有益なものであった。


H30-B5
代:白石 俊明
協:澤田 研太
野生ニホンザルおよび同所に生息する野生動物の果実利用時期と採食頻度

論文

関連サイト
富山県 立山カルデラ砂防博物館 http://www.tatecal.or.jp/tatecal/index.html
野生ニホンザルおよび同所に生息する野生動物の果実利用時期と採食頻度

白石 俊明 , 澤田 研太

 富山県立山地域の山地帯で、野生ニホンザルおよび同所に生息する野生動物の果実利用状況を調査した。調査は、自生する果実生産樹種5樹種(オオヤマザクラ、アケビ、マタタビ、サルナシ、ヤマブドウ)、10個体にのべ17台の自動撮影カメラを設置して果実食性動物の採食行動を記録し、訪問する動物種、利用時期、訪問頻度、一回の訪問あたりの採食量を評価した。
 オオヤマザクラは5月31日~6月7日にツキノワグマ、ハクビシン、ヒヨドリ、カケス、ヤマガラ、シジュウカラ、種不明の鳥類が訪れ、果実を採食した。採食量はいずれも不明だった。アケビは、10月10日~10月16日にニホンザル、ネズミ科の一種、種不明の小型哺乳類、ヒヨドリが訪れ、ニホンザルとヒヨドリは果実を採食し、採食量はニホンザルが1分間で最大5個/頭、ヒヨドリは不明(1個未満/羽)だった。
マタタビは、10月14日~10月22日にニホンザル、ホオジロ、種不明の鳥類が訪れ、ニホンザルは果実を採食し、採食量は1分間で最大5個/頭だった。サルナシは、種不明の鳥類が訪れ、哺乳類の確認はなかった。ヤマブドウは、10月14日~10月28日にニホンザル、ツキノワグマ、イノシシ、カモシカ、種不明の小型哺乳類が訪れ、いずれも果実採食の確認はなかった。
 この他、果実消失後ではあるがアケビを訪れるヤマネを確認した。ヤマネは、富山県レッドリスト準絶滅危惧で富山県内での生息情報は少なく、貴重な記録となった。



H30-B6
代:風張 喜子
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討
野生ニホンザルにおける分派の意図性の判別基準と要因の検討

風張 喜子

ニホンザルは、メンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。これまでの研究によって、各個体が周囲の個体の動向を把握し自分の行動を調節することで、互いの近接が保たれていることが示唆されている。その一方で、群れの個体が一時的に2つ以上の集団に分かれて行動する分派も、季節や群れによっては頻繁に見られる。通常は互いに近接しあうようにふるまうニホンザルがなぜ分派するのか、明らかになっていることは少ない。本研究では分派の直接観察を通じてその要因を検討することを目的とし、宮城県石巻市金華山島の野生ニホンザルを観察した。分派が起こった場合はいずれかの集団を追跡し、他方の集団の動向を見ていながらそれに同調せずに分派が始まったか否かによって、追跡集団にとって意図的および非意図的な分派を判別した。意図的分派のうち、他方の移動に追随しなかった事例では分派開始後しばらくそれまでの活動を継続する傾向が見られた。他方を待たずに移動を続けた事例では、食物パッチに到着した時に初めて移動の停止が見られた。移動の目的と考えらえるこれらの食物は、限られた場所でしか得られない食物であることが多く、その利用に関する個体の選択の結果、分派が行われた可能性がある。今後は観察例を蓄積し、分派の始まり方以外でも意図的・非意図的分派を判別可能か、また非意図的分派の要因についても検討したい。


H30-B7
代:疋田 研一郎
金華山のニホンザルにおけるグルーミングの熱心さの検証と互恵性との関わり
金華山のニホンザルにおけるグルーミングの熱心さの検証と互恵性との関わり

疋田 研一郎

 本研究は、宮城県金華山島の野生ニホンザルを対象に、従来観察されてきた毛づくろい時間のみならず、その単位時間当たりの作業量や集中力を含めて総合的に分析することによって、高順位個体への毛づくろいで、低順位個体がアピールする戦術をとっているのかを検討することを目的に行われた。まず、ヒトにおいて集中力の指標になるといわれている瞬きの頻度がニホンザルにおいても同様の指標になりうるのか調べた。その結果、休息中に比べて細密な視覚情報を用いる毛づくろい中は瞬きが抑制されていた。また、ヒトと同様に集中するべき出来事の切れ目に付随して瞬きが生じやすいことが明らかになった。よって、こうした出来事の切れ目に同期するものを除いた瞬きの頻度が集中力の指標になることが示唆された。この新たな指標とその他の毛づくろい指標が順位関係によって変化するのか調べたところ、高順位個体に対する毛づくろいでは、低順位個体に対する毛づくろいと比べて集中力は変わらないにもかかわらず、シラミ卵の除去に先立って起こる単位時間当たりの体毛のかき分け頻度が高くなることが明らかになった。よって、ニホンザルは高順位個体に対して自分の毛づくろいにかける熱心さをアピールする戦術を用いることが示唆された。


H30-B8
代:江成 広斗
豪雪地に生息するニホンザルの樹皮・冬芽食が植物群集に及ぼす影響
豪雪地に生息するニホンザルの樹皮・冬芽食が植物群集に及ぼす影響

江成 広斗

ニホンザルは霊長類の中でも顕著な広食性である。しかし、雪という物理的要因により、冬季に利用可能な餌資源が限られる豪雪帯に生息するニホンザルは、その樹皮・冬芽食を通して直接的・間接的に植物個体に及ぼす影響は無視できない可能性がある(たとえば、Enari & Sakamaki 2010. Int. J. Primatol. 31:904-919)。そこで、本研究は、豪雪地において、ニホンザルの樹皮・冬芽食の累積効果が、その地域の植物群集組成に及ぼす影響を評価することを目的とした。この評価は、2008年から白神山地に設置しているニホンザルの採食頻度評価のモニタリングサイトにおいて実施し、累積的な採食圧が異なる森林パッチ(5段階に分類)ごとに、毎木調査を行い、植物群集組成を調査した。10m方形区の毎木調査は44か所で実施した。結果は現在解析中であり、累積的な採食圧がもたらす影響を、樹木種の多様度や樹木形態などの観点から明らかにする予定である。なお、上記とは別に実施している個々の採食木のモニタリングによる枯死率や補償成長評価の結果とあわせて、論文として当該研究結果をまとめる予定である。


H30-B9
代:東 超
霊長類の各種の組織の加齢変化

学会発表
Cho Azuma, Takao Oishi, Yuka Kojima, Shiichiro, Oyama, Masafumi Oyama,Takeshi Minami, Mayumi Nishi Characteristics of mineral accumulation in the monkey lungs.(2019年3月27日~29日) 第124回日本解剖学会総会・全国学術集会(新潟).
霊長類の各種の組織の加齢変化

東 超

 喉頭の軟骨の組成変化は呼吸に影響を与える可能性がある。加齢に伴う喉頭の輪状軟骨のミネラル蓄積の特徴を明らかにするために、サルの輪状軟骨の元素含量の加齢変化を調べた。用いたサルはアカゲザル8頭、ニホンザル1頭、カニクイザル3頭、年齢は1月から27歳、雄雌は雄7頭と雌5頭である。サルより輪状軟骨を採取し、硝酸と過塩素酸を加えて、加熱して灰化し、元素含量を高周波プラズマ発光分析装置(ICPS-7510、島津製)で分析し、次のような結果が得られた。①サルの輪状軟骨のカルシウムと燐の平均含量はそれぞれ18.94mg/gと10.03mg/gであった。カルシウムと燐の蓄積が生じやすい軟骨であることが分かった。②サルの輪状軟骨のカルシウムと燐の含量は年齢とともに有意に増加した。③サルの輪状軟骨のカルシウム含量は7歳以上になると顕著に増加した。さらに、カルシウム含量が10 mg/gを超えたサルはすべて7歳以上でした。この結果からサルの輪状軟骨において一定年齢を超えると石灰化が始まることが分かった。④カルシウム、燐、マグネシウム元素間に非常に高い有意相関が認められ、カルシウム、燐、マグネシウムが輪状軟骨に同時に蓄積されることを示している。


H30-B10
代:荒川 高光
協:江村 健児
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

論文
Haba D, Emura K, Watanabe Y, Kageyama I, Kikkawa S, Uemura M, Arakawa T(2018) Constant existence of the sensory branch of the nerve to the pyramidalis distributing to the upper margin of the pubic ramus. Anat Sci Int 93(4):405-413.

学会発表
江村健児、荒川高光 リスザルとクモザルにおける浅指屈筋の形態について.( 2019年3月27日-29日) 第124回日本解剖学会総会・全国学術集会(新潟県新潟市).
前後肢遠位部運動器の系統発生を形態学的に解析する

荒川 高光 , 江村 健児

学会発表
江村健児、荒川高光.リスザルとクモザルにおける浅指屈筋の形態について.
第124回日本解剖学会総会・全国学術集会.

共同利用研究で貸与を受けたリスザルとクモザルの液浸標本を用いて、前腕屈筋群、特に浅指屈筋の起始・停止、支配神経パターンを解析した。リスザルの浅指屈筋は上腕骨の内側上顆から起始し、クモザルの浅指屈筋では第2指と第5指への停止腱を出す筋腹の大部分が尺骨骨幹部から起始し、第3指、第4指への停止腱を出す筋腹は内側上顆から起始した。クモザル浅指屈筋は、最も橈側の腱である第2指への停止腱が尺骨起始の筋腹から出るという形態を示した。リスザル・クモザルとも浅指屈筋の4本の停止腱はそれぞれ第2指~第5指の中節骨に停止した。このように浅指屈筋の起始・停止には種による違いが見られたが、神経支配のパターンには一定の共通性が見られた。これらの成果は上記学会で発表し、現在論文の執筆・投稿に向けて準備中である。次年度はチンパンジーなど他の種に対象を広げていき、さらに下腿筋の解析も進めていく予定である。



H30-B11
代:今村 拓也
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

論文
Tomonori Kameda, Takuya Imamura, Kinichi Nakashima(2018) Epigenetic regulation of neural stem cell differentiation towards spinal cord regeneration Cell and Tissue Research 371:189.
種特異的ノンコーディングRNAによるほ乳類脳神経機能分化

今村 拓也

本課題は、ほ乳類脳のエピゲノム形成に関わるnon-coding RNA (ncRNA)制御メカニズムとその種間多様性を明らかにすることを目的としている。本年度は、チンパンジーiPS細胞からのin vitro神経幹細胞・分化細胞誘導実験系の利用(ニューロスフィア法および脳オルガノイド培養法)による神経幹細胞動態解析を進めた。ニューロスフィア法については、霊長研・今村公紀助教と共同で解析を進め、iPS細胞から神経幹細胞が樹立する1週間におけRNA発現動態を詳細化することで、分化に重要な分子カスケードを絞り込むこと成功した。また、脳オルガノイド培養法については、培養後の次世代シーケンサー解析用サンプル調整プロトコール確立し、シングルセルRNA-seqからのncRNA情報を深化して得るパイプラインを固めた。これにより、複雑な細胞構成に由来するノイズを減らし、精度をより向上させた実験を進行するための準備が整った。


H30-B12
代:一柳 健司
協:平田 真由
協:一柳 朋子
霊長類におけるエピゲノム進化の解明
霊長類におけるエピゲノム進化の解明

一柳 健司 , 平田 真由, 一柳 朋子

今村助教が樹立されたキク、マリ、ケニー由来のiPS細胞と理化学研究所から入手したヒトiPS細胞を本研究室にて同条件で培養し、mRNA-seqを行ったところ、両種のトランスクリプトームはほぼ変わらないことを明らかにした。前年度、公表されたヒトiPS細胞mRNA-seqデータを用いた時はLTR7レトロトランスポゾンの発現に差が見られたが、同条件培養下では違いがなかった。その後、ChIP-seqを行って、H3K4me3とH3K27me3のゲノム分布を調べているが、残念ながら未だ信頼に足るデータを得るには至っていない。

先行研究(Marchette et al. Nature 2013)で、Piwil2遺伝子の発現量が種間で異なり、それが原因でpiRNA産生量が異なり、L1レトロトランスポゾンの転移活性に違いがあることが報告されていたので、それぞれのiPS細胞を用いてsmall RNA-seqを行い、piRNA産生量を比較した。その結果、チンパンジー特異的なレトロトランスポゾンであるPERVを除けば、種間でのpiRNA発現量差は確認できず、piRNAも種間差が小さいことを明らかにした。

ChIP-seqの解析を待たねばならないが、現時点での研究結果はヒトとチンパンジーのiPS細胞が質的に非常に近いことを示しており、リプログラミングの度合いが似ていて、比較可能であると考えられる。今後は、これらのiPS細胞を神経細胞や筋細胞に分化させることで、分化過程におけるトランスクリプトームやエピゲノムの変化に種間でどのような違いがあるのかを明らかにしたい。



H30-B13
代:松岡 史朗
協:中山 裕理
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

論文
松岡史郎(編) (2018 ) 平成29年度天然記念物生息調査 むつ市に生息するニホンザルの生息実態調査調査報告 下北半島のサル  2017年度:1-57.
下北半島脇野沢の野生ニホンザル群の個体群動態

松岡 史朗 , 中山 裕理

1987年5頭の群れとして確認された下北半島南西部の87群は、指数的に増加し、2013年4月に43頭(87A群)と22頭(87B群)の2群に分裂した。分裂6年目の2018年度の出産率は、87A群47%、87B群は27%、赤ん坊の死亡率は87A群では11%(1/9)、87B群では0%であった。87B群の出産率が低いのは昨年、86%であったためと考えられる。分裂前(1984~2011年)分裂後(2013年以降)の群の増加率、出産率、0~3歳の死亡率、遊動距離を比較してみたが、今年度も、れも変化は見られなかった。87A群は昨年度66頭が今年度は70頭と増加した。87B群はフルカウントができなかった。87A群では、2歳、3歳、5歳、6歳、7歳、10歳のオス、8歳メスが群れから消失した。オスの6頭は、群れから出て行ったか、死亡したかは不明である。8歳メスは死亡としたと考えられる。現在と同様の高い出産率、低い死亡率が続いた場合、87A群は、2,3年で2013年の分裂した頭数に達する。今年度も、3日程度のサブグルーピングが観察された。遊動面積は、ほぼ昨年度と同じであった。


H30-B14
代:笹岡 俊邦
協:藤澤 信義
協:小田 佳奈子
協:宮本 純
協:崎村 建司
協:中務 胞
協:夏目 里恵
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

論文
Shiori Miura, Yoshitaka Maeda, Jun Miyamoto, Ena Nakatsukasa, Nobuyoshi Fujisawa, Miki Miwa, Katsuki Nakamura, Kenji Sakimura and Toshikuni Sasaoka(2018) Generation of functional oocytes of common marmoset by xeno-transplantation of ovarian tissue Proceedings of International Symposium on Animal Production and Conservation for Sustainable Development :31-33.

学会発表
中務 胞、宮本 純、藤澤 信義 、夏目 里恵 、三浦 詩織 、阿部 学 、三輪 美樹 、中村 克樹、崎村 建司、笹岡 俊邦 異種間移植マーモセット卵巣由来卵子による受精卵作出法の検討(2019年3月7日) 第8回 生理研-霊長研-脳研合同シンポジウム( 新潟大学脳研究所統合機能センター6F 中田記念 ホール).

宮本 純 異種間移植マーモセット卵巣を用いた受精卵の効率的作成法の検討( 2018年7月20日) 第48回(2018)新潟神経学夏期セミナー(新潟大学脳研究所 統合脳機能研究センター(6F)セミナーホール).

宮本 純 マーモセット卵巣の異種間移植に関する条件検討( 2018年10月11日) 第25回 みかんの会( 新潟医療人育成センター セミナー室1,2).

宮本 純 異種間移植マーモセット卵巣由来卵子による受精卵作出法の検討( 2019年2月15日) 平成30年度 大学院医歯学総合研究科医科学専攻(修士課程) 3月修了予定者学位論文公開審査会( 新潟大学医学部第4講義室).
異種間移植によるマーモセット受精卵の効率的作成方法の開発研究

笹岡 俊邦 , 藤澤 信義, 小田 佳奈子, 宮本 純, 崎村 建司, 中務 胞, 夏目 里恵

<目的>近年ゲノム編集技術の発展により比較的容易に遺伝子改変が様々な動物で行えるようになってきた。しかし、実際に遺伝子改変モデルマーモセットを作出するためには多くの受精卵の獲得が必須である。また、体外受精のため、精子の保存法の確立も望まれている。そこで私たちは、霊長研の中村克樹教授から分与して頂いた、安楽死されたマーモセットの卵巣および精巣上体をもちいてマーモセット卵子および受精卵を効率的に作出することと精子の凍結保存法の確立を行った。
<方法>マーモセット卵巣の異種間移植(1)マーモセット卵巣を細切した。移植しない場合は液体窒素にて凍結保存した。(2)免疫不全マウスの卵巣を切除後、左右の腎被膜下に卵巣片を移植した。凍結保存した卵巣は融解後に使用した。(3)移植から10日以降、卵胞刺激ホルモン(FSH)を9日間毎日または2日毎に投与した。(4)FSHの投与開始から9日後に左右腎臓を採材した。(5)卵巣から採卵できた卵子を26時間培養した。(6)培養後MⅡ期となった卵子を顕微授精した。
卵黄糖液による精子の凍結保存(1)輸送後の精巣上体尾部を卵黄糖液内にて細切した。(2)精子懸濁液を作製し、室温から4℃まで2時間かけて冷却した。(3)精子懸濁液と同量の耐凍剤入り保存液を添加した。(4)プラスチックストローに封入後、液体窒素液面上に静置し凍結した。
<結果>冷蔵輸送後および凍結融解後のマーモセット卵巣は腎被膜下に生着し、GV期の卵子を得ることが出来た。GV期の卵子は成熟培養後、MⅡ期に進み、顕微授精後、前核期受精卵まで発生させることが出来た。
冷蔵輸送後の精巣上体尾部より運動性を有する精子を回収することができ、それら精子の凍結保存を行った。



H30-B15
代:郷 康広
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

論文
Iritani S, Torii Y, Habuchi C, Sekiguchi H, Fujishiro H, Yoshida M, Go Y, Iriki A, Isoda M, Ozaki N.( 2018) The neuropathological investigation of the brain in a monkey model of autism spectrum disorder with ABCA13 deletion. International Journal of Developmental Neuroscience 71( ): 130-139.

Matsumura K, Imai H, Go Y, Kusuhara M, Yamaguchi K, Shirai T, Ohshima K.( 2018) Transcriptional activation of a chimeric retrogene PIPSL in a hominoid ancestor. Gene 678( ): 318-323. 謝辞あり

Xu C, Li Q, Efimova O, He L, Tatsumoto S, Stepanova V, Oishi T, Udono T, Yamaguchi K, Shigenobu S, Kakita A, Nawa H, Khaitovich P, Go Y.( 2018) Human-specific features of spatial gene expression and regulation in eight brain regions. Genome Research 28( 8): 1097-1110. 謝辞あり

学会発表
郷康広,辰本将司,石川裕恵 合成ロングリードを用いた霊長類の新規ゲノム配列決定(2018年7月14日) 第34回日本霊長類学会大会(東京(武蔵大学)).

郷康広 ゲノムを通して我が身を知る―ヒトとサルの間にあるもの―(2018年7月15日) 第34回日本霊長類学会大会公開シンポジウム(東京(武蔵大学)).

郷康広,辰本将司,石川裕恵 合成ロングリードを用いた霊長類の新規ゲノム配列決定(2018年8月23日) 日本進化学会第20回大会(東京(東京大学)).

郷康広 霊長類ゲノム研究を通して社会性コミュニケーション創発あるいは欠如とは何か考えてみる(2018年8月24日) 日本進化学会第20回大会シンポジウム(東京(東京大学)).

郷康広 10xGenomics社Chromiumを用いたゲノム・トランスクリプトーム解析(2018年9月25日) 農林交流センターワークショップ・次世代シーケンサーのデータ解析技術公開講座(つくば(筑波産学連携支援センター)).

Yasuhiro GO The evolutionary trajectory of spatial transcriptome and epigenome in primate brains(2018年10月3日) The 46th Naito Conference on "Mechanisms of Evolution and Biodiversity"(札幌(シャトレーゼ ガトーキングダム サッポロ)).

郷康広 脳・こころの個性・多様性理解にむけた比較認知ゲノム研究(2018年10月16日) 第1回ExCELLSシンポジウム(岡崎(自然科学研究機構)).

Yasuhiro GO Dissectiong the genetic diversity of Japanese marmoset colonies(Oct. 22, 2018.) An ILAR Roundtable Workshop: Care, Use and Welfare of Marmosets as Animal models for Gene Editing-based Biomedical Research.(The National Academies of Sciences (Washington D.C., USA)).

郷康広 マーモセットにおける遺伝的多様性解析および精神・神経疾患関連遺伝子解析.(2019年2月7日) 第8回日本マーモセット研究会(東京都中央区).

郷康広 脳・こころの個性・多様性理解にむけた比較認知ゲノム研究.(2019年3月16日) 平成30年度京都大学霊長類研究所共同利用研究会(愛知県犬山市).

関連サイト
自然科学研究機構生命創成探究センター認知ゲノム研究グループ(郷ラボ)のホームページ http://www.nips.ac.jp/coggen/

共同利用研究成果プレスリリース(自然科学研究機構生命創成探究センター) http://www.excells.orion.ac.jp/pr/20180802pr01.html

共同利用研究成果プレスリリース(京都大学) http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/180802_1.html

共同利用研究成果プレスリリース(新潟大学脳研究所) http://www.bri.niigata-u.ac.jp/result/path/001053.html

共同利用研究成果プレスリリース(生理学研究所) https://www.nips.ac.jp/release/2018/08/post_368.html

共同利用研究成果プレスリリース(基礎生物学研究所) http://www.nibb.ac.jp/press/2018/08/02.html
ヒトの高次認知機能の分子基盤解明を目指した比較オミックス研究

郷 康広

1. ヒト精神疾患・高次認知機能解明のための霊長類モデル動物の開発
ヒトの高次認知機能やその破綻として現われる精神・神経疾患の本質的な理解のために,マカクザルおよびマーモセットを対象としたマルチオミックス解析を実施することで霊長類モデル動物の開発を行った.具体的には,マカクザル831個体,マーモセット1328個体を対象に,精神・神経疾患関連候補遺伝子を標的とした配列解析を行い,遺伝子機能喪失変異を自然発症的に持つ個体の同定を行った.また,神経変性疾患である多系統萎縮症や先天的代謝異常症であるライソゾーム症様の表現型を呈するマカクザルを対象とした集団ゲノム解析を行い,原因遺伝子を明らかにした.さらに、精神・神経疾患の脳内分子動態を明らかにするための脳内遺伝子発現マップ作製のために,マカクザル発達脳発現解析,およびマーモセットを用いたマクロレベルとミクロレベルの全脳遺伝子発現動態解析を行った.また,国立精神神経センターとの共同研究として薬理学的自閉症モデルマーモセットの脳における遺伝子発現動態変化解析を行い,自閉症の分子動態解明に向けたトランスレータブル研究を推進した。
2. 比較オミックス解析による「ヒト化」分子基盤の解明
ヒト化の最大の特徴のひとつである脳の形態進化・機能進化の分子基盤の解明のために、ヒトと非ヒト霊長類であるチンパンジー・ゴリラ・テナガザルの死後脳を用いた網羅的発現解析を行った.その結果、ヒト特異的な発現変化を示す遺伝子はチンパンジーのそれに比べて顕著に増加しており、その半数以上は、ヒト海馬のニューロンやアストロサイトにおいて生じていることを明らかにし,結果を論文として公表した(霊長研共同利用への謝辞あり).



H30-B16
代:小林 俊寛
協:平林 真澄
協:正木 英樹
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価
チンパンジー iPS 細胞からの始原生殖細胞分化誘導とその機能評価

小林 俊寛 , 平林 真澄, 正木 英樹

精子・卵子といったすべての生殖細胞は、発生のごく初期に生じる始原生殖細胞を起源とする。始原生殖細胞の発生過程、さらにはその配偶子形成過程を理解することは、不妊の原因や、生殖細胞を起源とする癌の発症機序を明らかにするうえで重要である。そこで本研究では倫理的に扱いが困難なヒト生殖細胞のモデルとして、最近縁の霊長類であるチンパンジーにおいて、 iPS 細胞を用いて、始原生殖細胞の分化誘導し、その成熟化を施す系、あるいは配偶子形成能を評価することのできる系の確立を目指してきた。まず、所内対応者の今村公紀先生よからチンパンジー iPS 細胞 (Kiku, および Kenny 由来) を分与いただき、それらの生殖細胞特異的に発現が認められる NANOS3 遺伝子座に tdTomato をノックインしたレポーター細胞株を樹立した。NANOS3-tdTomato の発現を指標に、始原生殖細胞の分化誘導系を最適化したところ、高効率に始原生殖細胞を分化誘導できる系が確立できた。免疫染色による解析から、チンパンジー iPS 細胞から誘導された始原生殖細胞は、ヒトにおいて生殖細胞分化に必須な SOX17, BLIMP1, TFAP2C、あるいは多能性マーカーである NANOG, OCT4 を高発現しており、一方で多能性マーカーである SOX2 を発現していないことが判った。この発現パターンはヒトの始原生殖細胞と同様であり、本研究で確立した分化誘導系がヒト生殖細胞発生の理解に向け、よりモデルになると考えられる。


H30-B17
代:清家 多慧
ニホンザルの遊び終了時におけるコミュニケーション
ニホンザルの遊び終了時におけるコミュニケーション

清家 多慧

ニホンザルの遊びにおいて、「遊びはもう終わりである」ということを相手に示すような行動はないのかということを明らかにするため、遊び終了時の行動の分析を行った。宮城県の金華山島のニホンザル1~4歳の個体を対象として6月から7月にビデオを用いたデータ収集を行い、合計135バウト、154分の遊びの動画が得られた。「取っ組み合い遊び」を起点とすると、遊びの終了時には一方の個体が相手から走って離れる場合、歩いて離れる場合、双方が近接のまま静止する場合の3パターンが存在したが、それぞれの行動に着目すると、その後の個体間交渉には異なる傾向が見られた。取っ組み合い遊びの最中に、①走って相手から離れると追いかけっこ遊びへの移行になり遊びが終了しにくい、②歩いて相手から離れるとその後誘い掛けが起こらず遊びが終了しやすい、③双方が近接状態のまま静止するとその後誘い掛けが起こりやすいため結果的に遊びが終了しにくい。また、敵対的な意味合いが強いと考えられる威嚇や悲鳴、グリメイスは、必ずしも遊びを終了させることにはつながっていなかった。これらの結果から、相手から「歩いて離れる」という行動が他の行動に比べ、高い確率で遊びの終了につながることが示された。このことは、「歩いて離れる」という行動はありふれた行動であるが、それが遊びの最中に急に出現すると、遊び終了のシグナルとして機能する可能性を示唆している。


H30-B18
代:篠原 隆司
協:篠原 美都
協:森本 裕子
協:渡邉 哲史
協:森 圭史
霊長類精子幹細胞の培養
霊長類精子幹細胞の培養

篠原 隆司 , 篠原 美都, 森本 裕子, 渡邉 哲史, 森 圭史

マーモセットの遺伝子改変については非常に効率が悪く問題となっている。本研究の目的は、この問題を解決するために、マーモセットの培養精子幹細胞(Germline Stem Cell)の確立を目指す。
 今年度は適当なサンプルが入手できなかったため、他から得たサンプルで系の確立を目指した。



H30-B19
代:松尾 光一
協:森川 誠
協:山海 直
協:Suchinda Malaivijitnond
マカクにおける繁殖季節性に起因する骨量増減と骨リモデリングのメカニズム

論文
Koichi Matsuo, Shuting Ji, Ayako Miya, Masaki Yoda, Yuzuru Hamada, Tomoya Tanaka, Ryoko Takao-Kawabata, Katsuhiro Kawaai, Yukiko Kuroda, Shinsuke Shibata(2019) Innervation of the tibial epiphysis through the intercondylar foramen. Bone 120:297-304.
マカクにおける繁殖季節性に起因する骨量増減と骨リモデリングのメカニズム

松尾 光一 , 森川 誠, 山海 直, Suchinda Malaivijitnond

性ホルモンが骨代謝に大きな影響を及ぼすことはよく知られている。ニホンザルが季節繁殖性を示し、繁殖期と非繁殖期に性ホルモンの増減を毎年繰り返していることも知られている。しかし、毎年繰り返されるホルモンの増減によって、ニホンザルの骨密度や骨構造がどのように変化しているのかということは知られていない。
さらし骨を用いて得られた橈骨のマイクロCTデータにより、骨梁の構造を解析した(図:橈骨のCTデータ解析例)。死亡日と年齢をもとに、季節変化や加齢変化を調べたところ、これまで解析してきた大腿骨と同じく、特に比較的若い世代の橈骨においても、骨量などのパラメータが季節性変動を示した。大腿骨における骨量の季節性変動が、橈骨においても再現性が見られたことで、さらし骨について、季節性変動があるという仮説に確証が得られた。
 2018年8月21-22日および2019年1月17-18日に、京都大学霊長類研究所内で飼育されているオスのニホンザル生体8頭を用いて、ヘリカルCTによる生体橈骨の骨密度解析と採血を行った。血清を用いて、テストステロンおよび25ヒドロキシビタミンDの濃度測定を行った。
 耳小骨や大腿骨、橈骨のさらし骨の解析結果によれば、オスのニホンザルにおいて、大腿骨と橈骨の骨量には季節性変動が存在すると結論づけられる。一方、可能であればより高い解像度のCTを用いて、同一個体(生体)で経時的変化を追究し、さらし骨による結果と合致するかどうかを検討する必要がある。
 



H30-B20
代:岩槻 健
協:中嶋 ちえみ
協:稲葉 明彦
協:中安 亜希
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

学会発表
稲葉 明彦、熊木 竣佑、粟飯原 永太郎、山根 拓実、大石 祐一、今井啓雄 BSAがサル消化管オルガノイド培養に与える影響(2018年5月12日) 第72回 日本栄養・食糧学会大会(岡山県立大学).

中安亜希、中嶋佑里、三宅佐和、中嶋ちえみ、佐藤幸治、今井啓雄、山根拓実、大石祐一、岩槻健 霊長類味蕾オルガノイドを用いた味覚センサー構築の試み(2018年5月12日) 第72回 日本栄養・食糧学会大会(岡山県立大学).

Ken Iwatsuki, Hiroo Imai, Yuzo Ninomiya, Peihua Jiang, Koji Sato Takumi Yamane , Yuichi Oishi Generation of taste organoid from non-human primate(2018年9月) ECRO meeting(ビュルツブルグ(ドイツ)).

Ken Iwatsuki Introducing in vitro culture system into researches of endoderm-derived cells(2018年12月2日) 味覚嗅覚の分子神経機構(九州大学).
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

岩槻 健 , 中嶋 ちえみ, 稲葉 明彦, 中安 亜希

 昨年度に引き続き、ニホンザルとアカゲザルより消化管および味蕾オルガノイドの作製を行い、栄養素や呈味物質を用いたカルシウムアッセイ系の構築を目指した。
 消化管オルガノイドはマトリゲル中に球体として存在するため、内腔側にアクセスするためには細い針等で球体内部に栄養素を注入するか、オルガノイドを平面培養し内腔側を露出させる必要があった。我々は後者の方法の検討を進めた。まず、マトリゲルの濃度を100%から徐々に低下させたところ、30%から0%のマトリゲル濃度にて培養することでオルガノイドは培養皿の底に沈み接着することが分かった。培養皿底面をガラス面に変えても、約半分のオルガノイドはガラス面に接着していた。そこで、ガラス面に接着させた細胞を固定し、タイトジャンクションのマーカーであるZO-1にて染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、頂端-基底膜という極性が形成されていることが確認された。つまり、オルガノイドが開裂し上皮細胞の性質を保った状態で接着させることに成功した。今後は、オルガノイドを上記の方法で培養皿底面に吸着させ、呈味物質を用いたカルシウムアッセイを行う予定である。



H30-B21
代:小野 龍太郎
協:八木田 和弘
協:金村 成智
協:山本 俊郎
霊長類歯牙の象牙質成長線に関する比較解剖学的検討
霊長類歯牙の象牙質成長線に関する比較解剖学的検討

小野 龍太郎 , 八木田 和弘, 金村 成智, 山本 俊郎

  象牙質(歯の構造的主体)の脱灰標本では、"成長線"と呼ばれる木の年輪のような層状構造が観察され、1日毎に1本ずつ形成されると理解されている。我々は、これまでにマウスを用いた研究で、歯の種類によっては成長線の形成周期が必ずしも24時間ではない可能性を見出している。象牙質はリモデリングを受けないため、形成期間中の様々な生理的変化が地層のように重なって記録され、半永久的に保存される。そのため、成長線は直接観察が困難な稀少動物種における生活史の解明、食性や生活環境の把握などに役立つツールとなる可能性がある。さらには化石種に応用することで、古生物学への貢献も期待できる。本研究では、成長線の霊長類研究領域における有用性について検討するとともに、その形成メカニズムの解明を目指す。
  今年度の研究では、生年月日と死亡年月日が判明しているニホンザル下顎骨の骨格標本を用いて歯の萌出状態を網羅的に記録した。その中で、特徴的な歯列像を示す4つのライフステージ (6ヶ月,2歳,4歳,6歳)に着目し、各群より雄性4個体を抽出した。現在、抜去した第一大(乳)臼歯を用いて、脱灰標本を作製中である。先行実験で行った1検体(6歳)では、象牙質に加えてセメント質においても明瞭な成長線の観察に成功している(画像参照)。今後は、成長線の年齢による経時的変化や乳歯・永久歯間での違いについて比較解剖学的な検討を行う予定である。



H30-B22
代:中内 啓光
協:正木 英樹
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製
異種生体環境を用いたチンパンジーiPS細胞からの臓器作製

中内 啓光 , 正木 英樹

本年度は提供を受けたチンパンジー末梢血細胞からiPS細胞を作製し、以下の研究を行った。

a) チンパンジーナイーブ型iPS細胞の開発
現時点で最も有望なナイーブ型への変換方法であるchemical resettingをチンパンジーiPS細胞に適用した。一過性にはナイーブ様の細胞が出現するものの、維持培養することができなかった。いずれかの分化シグナルの阻害が必要であると考えており、引き続き取り組んで行きたい。

b) チンパンジープライム型iPS細胞からの異種間キメラ動物作製
前年度の段階でチンパンジープライム型iPS細胞に抗アポトーシス因子であるBCL2を発現させたところ、マウス胚において最長で9.5dpcまでの移植細胞の寄与が認められることを確認していた。キメラ個体を組織学的に検証したところ、移植されたチンパンジー細胞がホスト胚の組織に統合されていないことが示唆された(添付資料図1)。そこで、各発生段階におけるチンパンジー細胞のキメリズムとキメラ率を測定し、どの段階で問題が起きているかを検証したところ、発生の進行に伴いキメラ率、キメリズムともに急速に低下することがわかった(図2)。これ以上のキメラ率向上にはドナーあるいはホストの遺伝的な改変が必要であると予想している。ブタ胚とのキメラではより進んだ発生段階までドナー細胞が生存していたことも示唆的である(図3)。どのような改変が必要かは現在検討中である。

b)の結果については現在論文をまとめており、2019年中の発表を予定している。



H30-B23
代:持田 浩治
協:川津 一隆
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究

学会発表
持田浩治(企画者) 学習における認知バイアス(シンポジウム)(2019) 日本動物行動学会(大阪市立大学).
観察学習による警告色の進化プロセスに関する実験的研究

持田 浩治 , 川津 一隆

 本研究は,個体の直接的な学習経験(個体学習)だけでなく,他者の行動をモデルとした観察学習が,まずさや危険さと関連した目立つ体色(警告色)を創出・維持する,という仮説の妥当性を,理論と実証の両面から検証することを目的としたものである.前年度は,ニホンザルが,ヘビの危険さと目立つ色刺激(赤黒縞模様)とを連合させる,警告的観察学習が可能であることを明らかにした.そこで今年度は,学習する刺激を弱化させ(茶黒縞模様),警告的観察学習が成立するかを検討した.学習実験には,前年度に引き続き,ニホンザルがヘビ模型を警戒する学習用ビデオとウィスコンシン型汎用テスト装置を用いた.また,赤〜茶色系とは色相の異なる,目立つ色刺激として,緑色のヘビ型模型も実験刺激として導入した.実験結果は,全ての被験個体が,茶黒縞模様や緑色のヘビ型模型を回避する,警告的観察学習ができないことを明らかにした.つまり,直接的な個体学習なしに警告的観察学習が成立するためには,危険さと連合できる色刺激に,刺激の強度だけでなく,何らかの色相の偏り(バイアス)が存在することを示唆する.


H30-B24
代:齋藤 慈子
協:新宅 勇太
吸啜窩の発達的変化の種間比較
吸啜窩の発達的変化の種間比較

齋藤 慈子 , 新宅 勇太

母乳育児が推奨される中、現代の母親にとって断乳・離乳の時期は大きな問題となっている。ヒトという霊長類がいつまで授乳をする生物なのかに関して、多くの客観的な情報が提供されることで、離乳や断乳の時期について示唆が得られると考えられる。ヒト乳児の口蓋には、線維質で構成された副歯槽堤により形作られる、吸啜窩というくぼみが存在する。乳児はこの吸啜窩に乳首を引き込み固定することで、安定した吸啜を行うことができる。この吸啜窩は発達とともに消失するとされるが、吸啜窩の消失という形態発達が離乳という機能発達に関与している可能性がある。この仮説が正しいとすれば、吸啜窩の消失の時期から、離乳時期についての情報が得られる。本研究では、この仮説を検証するために、吸啜窩の消失と離乳との関連を、ヒト以外の霊長類で確認することを目的とした。
霊長類研究所所蔵のニホンザルの上顎骨標本38個体分(生後0.1~154.3週齢)を組み立て、口蓋を3Dスキャナーで撮像、解析した。その結果、ヒトで定義される吸啜窩と同様のくぼみは、ニホンザル乳児個体では確認されなかった。上顎の形状から、ニホンザルでは、特別なくぼみを発達させることなく、乳首を固定、安定した吸啜を行うことができる可能性が示唆された。この結果から、ヒトにおける上顎形態の変化が、吸啜窩を進化させたという仮説が新たに提起された。



H30-B25
代:佐藤 暢哉
協:林 朋広
コモンマーモセットにおける空間認知

論文

関連サイト
関西学院大学文学部総合心理科学科 佐藤暢哉研究室 https://sites.google.com/site/nsatolab/
コモンマーモセットにおける空間認知

佐藤 暢哉 , 林 朋広

 本研究は,コモンマーモセットの空間認知能力について検討することを目的として,齧歯類を対象とした実験で広く用いられている空間学習課題・空間記憶課題を,マーモセットを対象として実施できるような実験パラダイムの開発を目指した.その第一段階として,本年度はマーモセット用の飼育ケージ内に設置可能な放射状迷路を作製した.実際にケージ内に放射状迷路を設置し,マーモセットに迷路内を探索させる予備実験を実施してみたが,いくつかの装置の不具合が発見された.今後は,不具合の修正はもちろんのこと,装置の改良を試み,実際にマーモセットを対象にいくつかの空間認知課題を実施したいと考えている.


H30-B26
代:那波 宏之
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響
霊長類における神経栄養因子の精神機能発達に与える影響

那波 宏之

ヒトの精神疾患の多くは難治性であり、根治治療法が無い場合も多い。これまで長年、げっ歯類モデルを用いてそのメカニズムや治療法が探索されてきたものの、ヒト霊長類とげっ歯類間のの高次脳機能は予想以上に大きく、妥当性の高い霊長類モデルの樹立が待ち望まれている。本研究者らは、統合失調症の最有力な仮説である「サイトカイン炎症性仮説」に基づき、霊長類研究所との共同利用研究課題として、げっ歯類でのモデルで実績のある上皮成長因子EGFを用い、霊長類(マーモセットおよびアカゲザル)の新生児に皮下投与を行い、精神疾患のモデル化を試みてきた。これまでにマーモセット新生児4頭へのEGF投与を実施した。内マーモセット2頭が、3年経過したのちに活動量の上昇・アイコンタクトの頻度低下・逆転学習課題等の成績低下を示した。本年度はEGF投与されたマーモセットのビデオによる行動観察を継続するとともに、マーモセットのミスマッチネガテイビテイーなどの脳波測定に向けた電極開発、測定技法の標準化を行った。今後、本格的に正弦波やマーモセットの鳴き声などと用いたミスマッチネガテイビテイー等の事象関連電位計測の計画を進める予定である。また行動異常が現れたアカゲザルについては、ヒトや同種他個体に対する行動異常を定量化する方法を検討したものの、再現性の高い客観指標の取得には至っていない。アカゲザルモデルについても、その認知行動変化を定量化すべく、継続的に試行を重ねたい。


H30-B27
代:伊藤 浩介
サル類における聴覚事象関連電位の記録
サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤 浩介

 これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論はほぼ完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となってきた。一方、マーモセットの脳波記録では、①頭部面積が小さく電極の設置が難しいことや、②頭皮の皮脂の多さによる電極インピーダンスの増大などの問題が明らかになった。これらの要因により、電極設置に時間がかかり、電極数を増やせず、脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。そこで、昨年度より継続して、これらの問題の解決を目的とした技術開発を行ってきた。2017年度は主として電極のデザインを見直し、今年度(2018年)は電極の設置について、これまでにないまったく新しい発想の方法を考案した。これにより、電極設置の迅速化(従来より75%の時間短縮)、電極の高密度化(7 ㎜の電極間距離で設置可能)、脳波記録の質の安定化が達成された。なお、この新しい電極設置方法は、特許化の可能性を検討するために新潟大学の発明委員会に届出を行っており、ここでの詳細な記載は控える。


H30-B28
代:荒川 那海
協:颯田 葉子
協:寺井 洋平
霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

論文
Nami Arakawa, Daisuke Utsumi, Kenzo Takahashi, Akiko Matsumoto-Oda, Atunga Nyachieo, Daniel Chai, Ngalla Jillani, Hiroo Imai, Yoko Satta, Yohey Terai(2019) Expression changes of structural protein genes may be related to adaptive skin characteristics specific to humans Genome Biology and Evolution 11:613-628. 謝辞あり

学会発表
荒川那海 皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出す塩基置換の推定について(2018年8月22日) 日本進化学会第20回大会(東京大学駒場Iキャンパス).

Nami Arakawa Acquisition of Human-specific Characteristics of Skin through Gene Expression Changes (Poster)(2018年7月11日) The annual meeting of the Society for Molecular Biology and Evolution(パシフィコ横浜).

Nami Arakawa Acquisition of Adaptive Characteristics in Human Skin through Gene Expression Changes(2018年10月4日) 第46回内藤コンファレンス(シャトレーゼガトーキングダムサッポロ).

寺井洋平 遺伝子発現から探るヒト特異的皮膚形質(2018年10月19日) 第72回日本人類学会大会 一般シンポジウム1 皮膚の人類学(国立遺伝学研究所).

霊長類におけるヒトの皮膚の表現型の特性について

荒川 那海 , 颯田 葉子, 寺井 洋平

個体が外界と接する皮膚でのヒト特異的形質は、ヒトという種が外部環境に適応する際に重要な意味を持っていたと考えられる。本研究では始めにヒトの皮膚は表皮と真皮が厚く、これら2層を結合する表皮基底膜が波型であることを示した。次にRNA発現量解析(RNA-seq)を行い、基底膜や弾性線維の構成成分をコードする遺伝子(COL18A1, LAMB2, CD151, BGN)が類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)に比べヒトの皮膚で有意に高く発現していることを明らかにした。これらの発現量増加はヒトの皮膚での基底膜の波型や弾性線維の増加に繋がる可能性がある。それらの特徴は表皮・真皮の厚みと共に皮膚の強度を増し、ヒトで減少した体毛の代わりに外部の物理的な刺激から体内部を保護していると考えられた。ヒト特異的発現を示した各遺伝子について、その発現調節領域を配列の保存性とヒストン修飾の情報から推定した。それらの領域中のヒト特異的置換(各遺伝子につき2〜10置換)がヒト特異的な遺伝子発現を生み出すと推定された。今後これらの候補置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのか、皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイとゲノム編集による発現比較により検証していく。


H30-B29
代:伊沢 紘生
協:宇野 壮春
協:関 健太郎
協:三木 清雅
協:高岡 裕大
協:関澤 麻伊沙
協:涌井 麻友子
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

論文
伊沢鉱生(2018) 金華山におけるオニグルミの本数と分布の特徴 宮城県のニホンザル(31):1-7.

伊沢鉱生(2018) 金華山のオニグルミの殻の形状によるタイプ分け 宮城県のニホンザル(31):8-19.

伊沢鉱生(2018) 金華山のヒメネズミのオニグルミ食い.その1.調査小屋とヒメネズミ 宮城県のニホンザル(31):21-24.

涌井麻友子(2018) 金華山のヒメネズミのオニグルミ食い.その2.調査小屋でのクルミ食いの証拠 宮城県のニホンザル(31):25-27.

伊沢鉱生(2018) ヒメネズミの食痕の特徴 宮城県のニホンザル(31):40-46.

伊沢鉱生(2018) 金華山におけるオニグルミの幼木・若木の分布とヒメネズミの貯食行動 宮城県のニホンザル(31):47-51.

伊沢鉱生(2018) 金華山の動食物相とヒメネズミ 宮城県のニホンザル(31):52-56.

伊沢鉱生(2018) 金華山のサルのオニグルミ採食方法 宮城県のニホンザル(31):57-71.

伊沢鉱生(2018) オニグルミを食べる野生哺乳類 宮城県のニホンザル(31):72-76.
金華山島のサルの個体数変動に関する研究

伊沢 紘生 , 宇野 壮春, 関 健太郎, 三木 清雅, 高岡 裕大, 関澤 麻伊沙, 涌井 麻友子

 申請時の本研究の目的は5つで、その結果は以下の通りである。①個体数に関する一斉調査は申請通り2回、秋と冬に実施した。結果は秋が251頭、冬が268頭だった。なお、秋の調査では1群で数え落としがあり、群れ外オス(非追随オス)の発見も不十分だった。②群れごとのアカンボウの出生数と死亡(消失)数は、春の調査を上記2回の一斉調査に加えて実施。出生数は6群で計10頭と今年度はきわめて少なく、死亡(消失)数は0頭、1年以内の死亡率は0.0%だった。③家系図と④食物リスト作成は群れごとの担当者が随時実施した。⑤遊動域の変更(拡大)は個体数が増加したA群とB₁群でかなり顕著に見られた。また6群間の比較生態・社会学的調査は分派行動とオスの一生に関する調査を重点的に実施した。
 以上のほかに研究の目的には記載していないが、島に自生するオニグルミ(Juglans mandshurica)について、成熟木の本数と分布と10年間の増減および幼木・若木の島内での分布と種子散布者の特定、クルミの実(核果)を食べるサルとヒメネズミ(Apodemus arrenteus)の関係等について他地域と比較しながら総合的な調査を実施した。そして、その結果を宮城のサル調査会の機関紙「宮城県のニホンザル」第31号で公表した。



H30-B30
代:松本 惇平
協:柴田 智広
マカクザルマーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

学会発表
Rollyn Labuguen, Vishal Gaurav, Salvador Negrete Blanco, Tomohiro Shibata, Jumpei Matsumoto, Kenichi Inoue. Monkey Features Location Identification using Convolutional Neural Networks(2018/10/26) 第 28 回 日本神経回路学会全国大会(沖縄).
マカクザルマーカーレスモーションキャプチャーソフトウェアの開発

松本 惇平 , 柴田 智広

 最新の機械学習アルゴリズム(深層学習など)を用いて、任意の画像および映像内のマカクザルの姿勢(主要関節や目鼻の位置)を推定するソフトウェア(図)を開発するために、1)霊長類研究所の放飼場等で飼育されているサルの日常の様子を撮影し、2)得られた画像・映像データをもとに教師データを作成し、3)教師データをもとに機械学習アルゴリズムを実行し、未学習のサル画像の姿勢推定を行った。その結果、単一の個体が写った画像においては、良好な精度で姿勢推定することができた。現在、本結果の論文投稿を準備中である。次年度以降も引き続き画像・映像データの収集とソフトウェアの改良を行っていく。
 本研究で開発中のソフトウェアは、姿勢や動作の解析から、運動機能や情動、行動意図、社会行動を客観的・定量的に評価することを可能にし、種々の脳機能の研究や野外生態調査、サルの健康管理など多くの分野への貢献が期待される。



H30-B31
代:Heui-Soo Kim
協:Hee-Eun Lee
Transposable element derived Mirco RNA analysis in various primate tissues

学会発表
Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Analysis of Transposable Element derived miRNA-625-5p in Primates( 2018.11.29) IJCGM 2018( Seoul, Rep. of Korea).

Hee-Eun Lee, Hiroo Imai, Heui-Soo Kim Analysis of Long Interspersed Element derived miRNA 625-5p( 2019.02.14) The Korean Society for Microbiology and biotechnology( Gyeong-ju, Republic of Korea).
Transposable element derived Mirco RNA analysis in various primate tissues

Heui-Soo Kim , Hee-Eun Lee

Hearing is one of important skill in evolutionary studies. According to Clark et al. 2003, there were six hearing related genes(Table.1) and we chose EYA1 gene to select its target microRNA(miRNA) which is miR-195-5p (Fig.1).Pink box is showing where miR-195-5p is located among EYA1 gene, and miR-195-5p is one of the miRNA that targets EYA1 gene. RNA hybrid (Fig.2) and alignment was proceeded (Fig.3) for miR-195-5p and EYA1 gene.The lower MFE value means binding between the gene and miRNA is stronger. Figure 4 is showing the conservation of miR-195 among various species. miR-195-5p is well conserved in primates, cow, dog and rat. Additionally, one of important factor, transcription factor binding sites(TFBS) near miR-195 was analyzed. Table 2 is showing the list of TFBSs near miR-195. The relative expression analysis of miR-195-5p and EYA1 gene was proceeded by quantitative Polymerase Chain Reaction (qPCR). The result shows that in eastern chimpanzee, kidney showed highest expression in miR-195-5p, on the other hand, kidney showed lowest expression in EYA1 gene. The result of Western chimpanzee shows that kidney and ovary is one of the lowest expressed tissue for miR-195-5p, on the other hand, EYA1 gene expression was very high in ovary. Usually, miRNA inhibits the expression of target gene, and the expression pattern between miRNA and its target gene is contray to each other. According to qPCR data, co-transfection in primate celllines might provide the better understanding between EYA1 and miR-195-5p.  


H30-B32
代:豊川 春香
多雪地生態系においてニホンザルが支える機能の評価~ニホンザルと食肉目の種子散布プロセスの比較から~
多雪地生態系においてニホンザルが支える機能の評価~ニホンザルと食肉目の種子散布プロセスの比較から~

豊川 春香

熱帯地域において森林開発や乱獲に伴う大型果実食者の減少が生態系機能の低下に直結することが知られているが、そのほかの気候帯においてはほとんど着目されてこなかった。本研究では、特に研究例の少ない多雪地生態系を対象に、ニホンザルと中型食肉目各種が起点となる種子の一次・二次散布特性を比較することで、ニホンザルが持つ森林の多種共存を支える固有の機能の特定を試みた。結果、Chao2法(Chao1987)により推定した一次散布種子の種数はニホンザル(35.5種)で、中型食肉目(23.0種)と比べて多く、散布種子量も多かった。二次散布においては、誘引された糞虫の個体数はニホンザル糞の方が多く、優れた埋土能力をもつセンチコガネ科の誘引効果も高かいことから、多様な種子が土壌へ埋め込まれる可能性があった。また、中型食肉目の糞にも糞虫は誘引され、二次散布が発生することが確認できた。種子捕食者においては、1日当たりの捕食頻度がニホンザル糞0.03回、食肉目糞0.11回とニホンザル糞の方が捕食される可能性が低く、糞虫の個体数や出現時間の速さから捕食者が訪れる前に種子が埋め込まれている可能性が示唆された。よって、ニホンザルは種子散布から埋土まで優れた機能をもち、埋土種子供給者として生態系レジリエンスの向上に貢献することが期待される。


H30-B33
代:山下 俊英
協:貴島 晴彦
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究

山下 俊英 , 貴島 晴彦

これまで、霊長類モデルを用いて、軸索再生阻害因子と脊髄損傷後の神経回路網再形成による運動機能再建に焦点をあて研究を行ってきた。その結果、阻害因子のひとつであるRepulsive guidance molecule-a (RGMa)が脊髄損傷後損傷周囲部に増加することを突き止め、その責任細胞のひとつに免疫細胞の一種であるミクログリア/マクロファージを同定することができた。さらに、RGMaの作用を阻害する薬物を用いて脊髄損傷後の機能回復過程および神経回路網形成の有無を検討した。その結果、RGMa作用を阻害した群(RGMa群)は、コントロール群(薬物投与なし)に比べ、運動機能、特に巧緻運動の回復が顕著にみられた。神経回路網形成については、順行性トレーサーでラベルされた皮質脊髄路の軸索枝の一部は、自然回復に伴って脊髄損傷部を越え、直接手や指の筋肉を制御する運動ニューロンへ結合していることが分かった。このような神経軸索枝は、RGMa群においてより多く観察された。次に、脊髄損傷部を越えた神経軸索枝が直接運動機能の回復に寄与しているか否かを、電気生理学手法と神経活動阻害実験を併用して確認した。その結果、直接運動機能の回復に寄与していることが明らかとなった。これらの結果から、脊髄損傷後の運動機能回復を促進させる治療法としてRGMaを分子ターゲットとした方法が有用であると考える。


H30-B34
代:村田 幸久
協:中村 達朗
コモンマーモセットにおける食物アレルギーの診断と管理法の開発
コモンマーモセットにおける食物アレルギーの診断と管理法の開発

村田 幸久 , 中村 達朗

昨年度に引き続き、正常便のマーモセット2個体、Marmoset Wasting Syndrome(MWS)が疑われたマーモセット2個体から尿を採取し、排泄された脂質濃度の網羅的な測定(リピドーム解析)を行った。昨年度の測定分とあわせ、正常個体3個体、MWS疑いの個体3個体のデータを解析した。141種類の脂質代謝物を測定した結果、48種類がMWSが疑われた個体で2倍以上に濃度が上昇していた。今後これらの病態マーカーとしての応用の可能性や、それぞれの病態生理活性についての検討を進めていきたい。


H30-B35
代:Laurentia Henrieta Permita Sari Purba
Functional characterization of bitter taste receptors in Asian Leaf-eating Monkeys

学会発表
Laurentia Henrieta Permita Sari Purba, Kanthi Arum Widayati, Sarah Nila, Kei Tsutsui, Nami Suzuki-Hashido, Takashi Hayakawa, Bambang Suryobroto, Hiroo Imai A story of Bitter Taste Perception in Folivorous Primates(28 March 2018) Health Ingredients South East Asia International Conference(Jakarta).
Functional characterization of bitter taste receptors in Asian Leaf-eating Monkeys

Laurentia Henrieta Permita Sari Purba

Leaf-eating monkeys (Subfamily Colobines) are unique among primates because their diet mostly consisted of leaves that perceptually tasted bitter to human. We confirmed that Asian colobines (Trachypithecus sp., Presbytis sp. and Nasalis sp.) were all less sensitive to PTC compared with macaque both in behavioral detection and cell assay. In addition we found four Asian colobine specific amino acid mutations (V44I, Q93E, I148F, and R330K) that revealed in comparison with human, chimpanzee and macaque TAS2R38 receptors.
By calcium imaging, we measured the responses of cell expressing mutant TAS2R38 of macaque mimicking colobine and confirmed that double-, triple- and quadruple- site mutations are less sensitive to PTC compare to the wild type.
Last year, we did behavioral experiment in African colobines (C. angolensis and C. guereza) in parallel with functional assay. The sensitivity of TAS2R38 of African colobine are variable compare to their Asian relatives. In cellular level, all TAS2R38 of African colobines were showed lower sensitivity to PTC compare to the TAS2R38 of Japanese macaque. Based on amino acid comparison of their TAS2R38 to the macaque and Asian colobines, we found some amino acid mutations specific in the TAS2R38 of African colobines. Thus, we predict that low sensitivity of the African colobine monkeys are partially caused by those mutations. In addition, we also functionally characterized the TAS2R14 of macaque and colobines. TAS2R14 receptors of macaques and colobines showed no response to several known bitter ligands that activate human TAS2R14 such as aristolochic acid, flufenamic acid and caffeine. There are no amino acid differences in the known binding site positions of TAS2R14, thus we predict that the difference in sensitivity between the TAS2R14 of human and old world monkeys caused by amino acid deletion in human lineage. On the other hand, since we used the difference expression vector (pEAK10) for preparing the TAS2R14 of macaque and colobines than previously done in human TAS2R14 (pcDNA5.1), the no response might be caused by the failure of expression of the receptors in the cell membrane.



H30-B36
代:伊藤 孝司
協:北川 裕之
協:西岡 宗一郎
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

論文
伊藤孝司*, 西岡宗一郎, 日高朋, 辻大輔, 真板宣夫(2018) 組換えカイコ繭由来ライソゾーム病治療薬の開発 YAKUGAKU ZASSHI 138( 7): 893855-. 謝辞 あり

学会発表
K Itoh*, S-I Nishioka, I Kobayashi, Y Matsuzaki, K Iino, S Nadanaka, M Kasashima-Sumitani, T Hidaka, D Tsuji, Sezutsu, H Kitagawa, K Yamamoto. A novel glycotechnology to produce human lysosomal enzyme carrying synthetic N-glycans with terminal mannose 6-phosphate residues and application to eyzyme replacement therapy for lysosomal storage diseases.( 2018 Feb.) World Symposium 2018( San-Diego, CA, USA).

西岡宗一郎、小林功、松崎祐二、飯野健太、灘中里美、笠島めぐみ、日高朋 、辻大輔、瀬筒秀樹、北川裕之、山本憲二、伊藤孝司*、 化学酵素法によるTGカイコ繭由来ヒトリソソーム酵素の糖鎖修飾と酵素補充効果(2018年 5月) 第59回日本生化学会中国・四国支部例会(鳥取県米子市(米子市文化ホール)).

西岡宗一郎、小林功、炭谷めぐみ、飯塚哲也、日高朋 、木下嵩司、住吉渉、三谷藍、堂崎雅仁、須田稔、辻大輔、瀬筒秀樹、伊藤孝司* ENGase(Endo-CC)を用いたTGカイコ由来ヒトリソソーム酵素のN型糖鎖修飾(2018年 8月 ) 第37回日本糖質学会年会(宮城県仙台市(仙台国際センター)).

伊藤孝司*、西岡宗一郎、小林功、笠嶋めぐみ、立松謙一郎、瀬筒秀樹、松崎祐二、飯野 健太、木下崇司、堂崎雅仁、灘中里美、北川裕之 エンドグリコシダーゼと機能性合成N型糖鎖を利用するネオ糖タンパク質医薬品の開発を目指して(2018年 9月) 第70回日本生物工学大会プログラム(大阪府吹田市(関西大学)).

伊藤孝司*、西岡宗一郎、炭谷めぐみ、飯塚哲也、瀬筒秀樹、松崎祐二、飯野健太、木下 崇司、堂崎雅仁、須田稔 Endo-M N175Q 及びEndo-CC N180H を用いる高分子量N 型ネオグライコプロテインの開発(2018年 10月) 第9回グライコバイオロジクス研究会(東京都江東区(国立研究開発法人産業技術総合研究所)).
ムコ多糖症自然発症霊長類モデルに関する総合的研究

伊藤 孝司 , 北川 裕之, 西岡 宗一郎

霊長類研究所で飼育中の若桜群ニホンザルの中で、特徴的な顔貌、四肢や体幹の形態異常が見い出された複数の血縁個体由来の剖検及び生検耳介組織を対象に、その抽出液における複数のリソソーム酵素活性を測定した結果、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)が特異的に欠損していることが判明した。ムコ多糖症I型(MPS1)は、IDUA遺伝子の劣性変異が原因で、酵素活性とその生体内基質であるヘパラン硫酸やデルマタン硫酸の、骨、関節、心臓、皮膚または脳などにおける過剰蓄積、または尿中への排泄及び全身症状を伴う先天性代謝異常症(ライソゾーム病の一種)であるが、同家系ニホンザルでは、IDUA遺伝子に1塩基置換に基くミスセンス変異が同定され、世界初で自然発症ムコ多糖症サルの発見に至った。また徳島大が開発した、ヒトIDUA遺伝子を絹糸腺で高発現する組換えカイコの繭からIDUAを精製し、組織内への取り込みに必要な末端マンノース6-リン酸(M6P)含有合成糖鎖を人工的に付加する糖鎖工学技術を確立した。MPS1患者に対し臨床応用されている酵素補充療法を、発症前期の若齢サル個体に適用するための技術的基盤を構築した。


H30-B37
代:羽山 伸一
協:中西 せつ子
福島市に生息する野生ニホンザルの放射能被曝影響調査
福島市に生息する野生ニホンザルの放射能被曝影響調査

羽山 伸一 , 中西 せつ子

 本研究グループでは、2008年から福島県ニホンザル特定鳥獣保護管理計画にもとづき福島市で個体数調整のために捕獲された野生個体の死体提供を受け、妊娠率の推定や遺伝子解析などを行ってきた。福島市にはおよそ20群、2000頭の野生群が生息しているが、2011年の福島第1原子力発電所の爆発により放射能で被曝した。
 そこで、2012年度に放射性セシウムの蓄積状況と血液性状の関係を調査し、血球数やヘモグロビン濃度などの低下を明らかにし、また被ばく後に胎仔の成長遅滞が起こっていることも明らかにしてきた。
 今年度は、引き続き被ばく状況をモニタリングし、コホート解析で生まれ年による造血機能への影響の違いを分析した。その結果、2011年以前に出生していた個体では、被ばく後2~3年程度は骨髄細胞比率の低下がみられたが、成長とともに回復する傾向があった。一方、2011年以降に出生した個体では、成長とともに回復しない個体が多かった。したがって、今後は生まれ年による影響の違いを考慮して比較検討する必要があると考えられた、
 なお、将来における中長期的な影響評価を可能にするため、採取した臓器及び遺伝子等の標本保存を行った。



H30-B38
代:井上 治久
協:沖田 圭介
協:今村 恵子
協:近藤 孝之
協:江浪 貴子
協:月田 香代子
協:大貫 茉里
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用
霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上 治久 , 沖田 圭介, 今村 恵子, 近藤 孝之, 江浪 貴子, 月田 香代子, 大貫 茉里

ヒト特有の高次機能をもたらす分子機構とその破綻こそがアルツハイマー病等の神経変性疾患の原因であるという仮説のもとに、チンパンジーとヒトのiPS細胞由来神経細胞の比較解析を目的としている。ヒトiPS細胞およびチンパンジーiPS細胞から神経細胞を分化誘導し、免疫染色による神経細胞マーカーの解析と平面微小電極アレイ計測システム(MED64-Basic、Alpha Med Scientific)を用いた神経活動の評価を行った。ヒトiPS細胞由来神経細胞およびチンパンジーiPS細胞由来神経細胞の両者において、薬剤応答性を含む機能的な神経ネットワークが形成されていることが示された。これらの比較解析により霊長類神経系の機能解明とヒト疾患解析への応用に有用である可能性が考えられた。


H30-B39
代:横田 伸一
二ホンザルとアカゲザルにおける新規ストレスマーカーの探索とストレス反応性の比較研究
二ホンザルとアカゲザルにおける新規ストレスマーカーの探索とストレス反応性の比較研究

横田 伸一

本研究の目的は、ニホンザルとアカゲザルにおいて簡便に測定できるストレスバイオマーカーを見出し、それぞれのサル種におけるストレス反応性の特徴をバイオマーカーの観点から明らかにすることである。平成30年度は、比較的軽度で短時間の身体的・心理的要因を含むストレス反応について評価するため、獣医師が採血動作を模してサルの腕を保持するという一連の動作(挟体を引いた状態で2分間)を行った直後に麻酔をし、30分経過後の血液中および唾液中のコルチゾール、アミラーゼ、免疫グロブリンA(IgA)の濃度について、プレ値(ストレス負荷無しで2日前の同時刻に採材)との比較検討を行った。その結果、血液中でも唾液中でもコルチゾール、アミラーゼ、IgAのストレス負荷による変化はいずれも認められず、短時間の挟体保定や獣医師(実験実施者)の接触などの手技的な影響は無視できることが示唆された。昨年度は、サルをホームケージから他室の個別ケージに一時的に移動させるというストレス負荷により、アカゲザルの唾液中でのみアミラーゼとIgAの濃度が有意に減少することを明らかにしている。本検討により、昨年度の検討結果の信頼性を高めることができた。本課題の検討結果については、現在、論文投稿の準備中である。


H30-B40
代:國松 豊
アフリカ中新世霊長類化石の形態学的研究

論文
Takano, T., Nakatsukasa, M., Kunimatsu, Y., Nakano, Y., Ogihara, N., and Ishida, H. (2018) Forelimb long bones of Nacholapithecus (KNM-BG 35250) from the middle Miocene in Nachola, northern Kenya Anthropological Science 126:135-149.

Kunimatsu, Y., Nakatsukasa, M., Shimizu,D., Nakano, Y., Ishida, H.(2019) Loss of the subarcuate fossa and the phylogeny of Nacholapithecus Journal of Human Evolution 131:22-27. 謝辞あり

Handa, N., Nakatsukasa, M., Kunimatsu, Y.,Nakaya, H.(2019) Additional specimens of Diceros (Perissodactyla, Rhinocerotidae) from the Upper Miocene Nakali Formation in Nakali, central Kenya Historical Biology 31(2):262-273.

Tsubamoto, T., Kunimatsu, Y., Sakai, T., Saneyoshi, M., Shimizu, D., Morimoto, N., Nakaya, H., Handa, N., Tanabe, Y.,Manthi, F.K., and Nakatsukasa, M.(2020) A new species of Nyanzachoerus (Mammalia, Artiodactyla, Suidae, Tetraconodontinae) from the upper Miocene Nakali Formation, Kenya Paleontological Research 24(1):41-63.

Handa, N., Nakatsukasa, M., Kunimatsu, Y., and Nakaya, H.(2018) Brachypotherium (Perissodactyla, Rhinocerotidae) from the late Miocene of Samburu Hills, Kenya Geobios 51(5):391-399.
アフリカ中新世霊長類化石の形態学的研究

國松 豊

 本研究では、東アフリカのケニヤ共和国北部にある中新世中期及び後期の化石産地(ナカリ、ナチョラ、サンブルヒルズ)から日本隊の長年の野外調査によって収集された化石標本を対象に、主に霊長類化石の分析と記載を目的としている。これらの化石は、すべて、ケニヤ国立博物館に保管されている。2018年度は、8月から9月にかけて、中新世後期の化石産地であるケニヤ北部のナカリ地域において、化石収集を目的とする野外調査に参加し、霊長類を含む脊椎動物化石を新たに採集した。2019年3月に、再度ケニヤに渡航し、ナイロビにあるケニヤ国立博物館において、上記の化石産地に由来する類人猿・旧世界ザル化石の整理・分析を続行した。国内においては、霊長類研究所の現生霊長類骨格標本及び化石模型を利用し、ケニヤの霊長類化石の記載を進めた。今年度は、特に、中新世中期のナチョラピテクスの側頭骨の研究の成果を公表する事に努めた。他の多くの哺乳類同様、霊長類一般において側頭骨岩様部には、脳の一部が入り込む弓下窩と呼ばれるくぼみが存在するが、現生大型類人猿ではこのくぼみが消失するという派生形質が見られる。化石に残りにくい部位であるため、化石類人猿での報告例は少ないが、ナチョラピテクスでは現生大型類人猿のように弓下窩が消失していた。一方で、これまでに知られているナチョラピテクスの体肢骨標本からは、ナチョラピテクスはまだ現生類人猿のように懸垂型のロコモーションには適応しておらず、樹上性四足歩行型であることがわかっている。仮に弓下窩の消失が現生大型類人猿との共有派生形質とすれば、現生類人猿に見られる懸垂型ロコモーション適応は複数の系統で独立に進化したのではないかという考えを支持するものである。


H30-B41
代:藤田 一郎
協:稲垣 未来男
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定
マカカ属サルにおける扁桃体への皮質下視覚経路の神経解剖学的同定

藤田 一郎 , 稲垣 未来男

恐怖や威嚇の表情、あるいは有害生物の存在といった潜在的な危険情報の視覚的な検出に、大脳皮質視覚経路だけでなく皮質下視覚経路も関わると考えられている。しかし、霊長類において皮質下視覚経路を支持する解剖学的な証拠は乏しい。そこで危険情報の処理に関わる扁桃体へ経シナプス性に輸送される逆行性ウィルストレーサーを注入し、入力経路を順番に辿ることで、皮質下視覚経路の解明を目指した。今年度はアカゲザル1頭において、経シナプス性逆行性輸送トレーサーの注入実験を行い、生存期間1.5日の後に標本切片を作成した。標本切片を観察した結果、皮質下視覚経路を構成すると考えられてきた視床枕および上丘において、扁桃体を始点として逆行性に標識された神経細胞が実際に存在することを確認した。視床枕では多くの神経細胞が標識された一方で、上丘では少数の神経細胞だけが標識されていた。生存期間1.5日では、トレーサーは最大でも2シナプスだけしか超えないことから、この結果は上丘→視床枕→扁桃体へと至る皮質下視覚経路の存在を強く示唆する。次年度以降はより定量的な解析を進めるとともに、個体数を増やして再現性があるかどうかを確認する予定である。


H30-B42
代:Kevin William McCairn
協:Kendall Lee
協:Taihei Ninomiya
Multi-Dimensional Analysis of the Limbic Vocal Tic Network and its Modulation via Voltammetry Controlled High-Frequency Deep Brain Stimulation of the Nucleus Accumbens
Multi-Dimensional Analysis of the Limbic Vocal Tic Network and its Modulation via Voltammetry Controlled High-Frequency Deep Brain Stimulation of the Nucleus Accumbens

Kevin William McCairn , Kendall Lee, Taihei Ninomiya

これまでMPTP投与によって作製したパーキンソン病(PD)サルモデルから、安静時およびボタン押し課題遂行中における大脳皮質、大脳基底核、小脳から神経活動(主に局所電場電位)の多領域多点同時記録を実施した。その結果、PDサルモデルの小脳からベータ波の過活動を検出し、更にcross-frequency coupling解析により、運動遂行時における大脳皮質(特に一次運動野)との間のphase amplitude couplingが大脳基底核よりもむしろ小脳で顕著であることが明らかにした。具体的な結果は次のとおりである。(1)時系列に基づいて、大脳基底核の淡蒼球と一次運動野との間のcross-frequency couplingを解析したところ、健常時やチックモデルではベータ帯域におけるphase amplitude coupling が運動遂行時に強く検出されるのに対して、PDモデルでは同様のcoupling現象がほとんど消失していた。(2)同様に、小脳(主に小脳皮質)と一次運動野との間のcross-frequency couplingを解析したところ、上記(1)の結果と異なり、健常時やチックモデルにおいて運動遂行時にみとめられるベータ帯域でのphase amplitude coupling が、PDモデルにおいても検出された。
これらの結果は、PDの病態発現における小脳の関与を示唆しており、これにより、cross-frequency couplingに関する実験データに基づいて神経ネットワークの数理モデルを構築し、発振・同期の機能的意義を明らかにできるだけでなく、DBSによる治療効果の検討をとおして、神経活動への介入による発振制御とその臨床応用に関する新たな知見を得ることができると考える。現在、サル2頭分のデータをまとめており、可及的速やかに原著論文を作成する予定である。



H30-B43
代:外丸 祐介
協:信清 麻子
協:畠山 照彦
一卵性多子ニホンザルの作製試験

学会発表
外丸祐介、江藤智生、信清麻子、畠山照彦、兼子明久、宮部貴子、岡本宗裕 ニホンザル体外受精卵のガラス化保存と冷蔵保存について(2018年10月25日) Cryopreservation Conference 2018(岡崎).
一卵性多子ニホンザルの作製試験

外丸 祐介 , 信清 麻子, 畠山 照彦

本課題は、動物実験に有用な一卵性多子ニホンザルの作製を目指すもので、これまでに生殖工学基盤技術の検討を進めることで「卵巣刺激→体外受精→受精卵移植」により産子を得るための再現性の高い技術を確立してきた。また、一卵性多子の獲得手段として受精卵分離技術の応用に取り組み、二分離した体外受精卵から単子ではあるが健常産子の獲得に成功している。これらの技術の基盤の下で、今年度は一卵性双仔の獲得に向けて移植試験を実施したが。産子を得ることはできなかった(次年度も移植試験を継続予定)。この一方で、ニホンザル受精卵の冷蔵保存について検討した。移植試験の際には受精卵のステージとレシピエント雌の性周期を同調させる必要があるが、マウス・ラット等の小型実験動物と異なり、サル類ではレシピエントの確保が容易ではない。この対策として、短期間の時間調整を想定した冷蔵保存試験を実施した結果、20%ウシ胎子血清を添加したPBI液を用いることで、4-6℃で4日間の保存後にも高い生存性が得られることが確認できた。冷蔵保存は長期的な保存には不適であるが、超低温保存では生じる凍結・ガラス化や融解時のダメージを回避できることから、数日程度の時間調整には有効であると考えられた。


H30-B44
代:蔦谷 匠
協:Matthew Collins
協:Enrico Cappellini
協:大河内 直彦
プロテオミクス解析によるニホンザル授乳状況の推定
プロテオミクス解析によるニホンザル授乳状況の推定

蔦谷 匠 , Matthew Collins, Enrico Cappellini, 大河内 直彦

本研究では,霊長類の離乳年齢を正確に推定する方法を開発するため,新たな乳摂取の指標として,完全には消化されずに糞中に排出される乳由来タンパク質に注目した. 霊長類研究所に飼育されている授乳・離乳状況既知のニホンザル(Macaca fuscata)より糞試料を得た.0歳児(授乳中),2歳児(離乳後),オトナそれぞれから,2-5個を分析に供した.質量分析計を利用して試料中に存在するタンパク質を網羅的に同定する最先端のプロテオミクス分析を利用した.
分析の結果,乳に特異的に含まれるタンパク質(カゼインやラクトアルブミン)は授乳されている0歳児の糞中のみから検出された.授乳されなかった0歳児の糞からは,乳に特異的なタンパク質は検出されなかった.ほかの体液にも含まれるが乳に特に豊富に存在するタンパク質(リゾチーム,免疫グロブリンJ鎖)については,0歳児で検出ペプチド数が大きかった.
離乳過程が進行した際,どこまで乳タンパク質が検出可能であるかを検証する必要はあるが,糞のプロテオミクス分析により,個体の授乳・離乳状況を推定できる可能性が示された.また,本手法は野生個体に対しても適用可能である.



H30-B45
代:筒井 健夫
協:小林 朋子
協:鳥居 大祐
マカク乳歯歯髄幹細胞を用いた歯髄再生への応用
マカク乳歯歯髄幹細胞を用いた歯髄再生への応用

筒井 健夫 , 小林 朋子, 鳥居 大祐

平成30年度はニホンザル3例に対して、採取した乳歯歯髄細胞を培養し三次元構築体を形成後に同一個体の乳歯へ移植を行い、永久歯の萌出時期を考慮し、約3ヶ月後に抜歯による採取を行った。また、前記3例を含めたニホンザル5例に対して、以前に三次元構築体を移植した乳歯を永久歯の萌出時期を考慮し、抜歯による採取を行った。細胞採取対象乳歯および抜歯対象歯は、採取処置前後においてエックス線撮影により対象歯、その周囲組織と後続永久歯の状態の確認を行った。細胞採取対象乳歯と乳歯細胞移植、および抜歯による後続永久歯への障害は観察されなかった。抜歯対象歯は、乳犬歯および第2乳臼歯であり、歯冠側1/3程度の歯髄除去処置を行い移植した。移植後の歯髄貼付薬として水酸化カルシウム水性ペーストのカルシペクス®Ⅱを用いた結果、移植歯の歯髄内に硬組織形成がエックス線撮影およびマイクロCTにより観察された。またマイクロCTを用いた硬度解析の結果より、象牙質以上の硬度を示したため現在内容物について解析を進めている。平成30年度の移植時には、歯髄貼付薬として生体親和性の高いMineral Trioxide Aggregate (ProRoot®MTA)を使用し、抜歯により採取された乳歯をマイクロCTを用いて解析を進めている。


H30-B46
代:寺山 佳奈
高知県室戸市におけるニホンザルが利用する食物資源の解析

学会発表
寺山佳奈・加藤元海 高知県室戸市におけるニホンザル加害群の採食物の特徴(2019年3月17日) 日本生態学会第66回大会(神戸).
高知県室戸市におけるニホンザルが利用する食物資源の解析

寺山 佳奈

高知県室戸市に生息するニホンザルは農作物被害をもたらすことが知られているが、ニホンザルの採食物に関する研究はない。直接観察が困難な野生動物の食性調査として、一般に糞や胃内容物を用いた調査がなされている。申請者らは、ニホンザルの主要な農作物が多く存在する夏期において高知県室戸市に生息するニホンザル加害群の採食物の特徴を明らかにする事を本研究の目的とした。高知県室戸市で有害鳥獣として駆除されたニホンザル9個体(オス7個体、メス2個体)を対象とし、胃内容物を葉や農作物、昆虫などの11項目に分類した。ポイントフレーム法によってカウントする格子点の総数は1000点とし、各項目の占有率を求めた。出現回数の多かった項目は9個体中8個体から出現した葉と果実であり、次いで昆虫が6個体から出現した。占有率は葉が38.7%と最も高く、次いで果実が33%、農作物が16.6%であった。採食が確認された果実は、ヤマモモやビワ、タブノキなど調査地に多く見られる果実類であった。農作物ではイネの採食が確認され、昆虫ではアリやコガネムシが出現した。
上記の内容を、日本生態学会大66回大会(神戸)にてポスター発表を行なった。
提出画像は(画像1:出現した採食物の平均占有率と出現率、画像2:各採食物の占有率、画像3:出現した採食物のリスト、画像4:出現した採食物の写真)



H30-B47
代:平田 暁大
協:柳井 徳磨
協:酒井 洋樹
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

論文
Hirata A*, Miyamoto Y, Kaneko A, Sakai H, Yoshizaki K, Yanai T, Miyabe-Nishiwaki T, and Suzuki J.( in press) Hepatic Neuroendocrine Carcinoma in a Japanese Macaques (Macaca fuscata). J. Med. Primatol. 48:137-140. 謝辞 あり

学会発表
平田 暁大、兼子 明久、宮部 貴子、宮本 陽子、石上 暁代、山中 淳史、酒井 洋樹、柳井 徳磨、鈴木 樹理 幼児期のニホンザルの喉頭に発生したB細胞性リンパ腫の一例( 2018/7/8) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).

兼子 明久、平田 暁大、宮部 貴子、石上 暁代、山中 淳史、林 美里、友永 雅己、酒井洋樹、柳井徳磨、鈴木 樹理 チンパンジーのクモ膜下出血の1例( 2018年7月7日) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).

宮本 陽子、兼子 明久、平田 暁大、石上 暁代、宮部 貴子、酒井 洋樹、柳井 徳磨、中村 克樹、鈴木 樹理 ニホンザルの肝臓に発生した神経内分泌腫瘍の1例( 2018/7/7) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).

石上 暁代、兼子 明久,平田 暁大,鈴木 樹理 膵島アミロイドーシスによる二型糖尿病を発症したボンネットモンキーの1例( 2018/7/7/) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).

宮部 貴子、平田 暁大、兼子 明久、宮本 陽子、石上 暁代、山中 淳史、酒井 洋樹、柳井 徳磨、鈴木 樹理 ニホンザルにおける口腔扁平上皮癌の一例( 2018/7/8) 第27回サル疾病ワークショップ( 犬山市(日本モンキーセンター)).
飼育下サル類の疾患に関する病理学的研究

平田 暁大 , 柳井 徳磨, 酒井 洋樹

 飼育下でサル類に発生する疾患およびその病態を把握するため、霊長類研究所で死亡あるいは安楽殺したサル類を病理学的に解析していた。平成29年度中に10頭(コモンマーモセット4頭、ニホンザル4頭、ボンネットモンキー1頭、チンパンジー1頭、オマキザル1頭)の病理学的解析を行った。さらに、同研究所の獣医師と臨床病理検討会(CPC、Clinico-pathological conference)を開催し、病理学的解析結果を治療データ、臨床検査データ(血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査等)と照合し、症例の総合的な解析を行った。

【論文発表】
 肝臓原発の神経内分泌癌のニホンザルの症例について論文発表した(Hirata A et al., J. Med. Primatol., 48(2), 137-40, 2019)。サル類において、肝臓の神経内分泌腫瘍はヒヒにおいて報告されているのみで、マカクでは初めての報告である。詳細な血液検査データと病理解析結果を提示した貴重な報告であり、サル類の臨床診断技術の向上に資すると考えられる。



H30-B48
代:中務 真人
協:芳賀 恒太
協:小林 諭史
協:小嶋 匠
協:富澤 佑真
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究
霊長類の脊柱構造に関する進化形態学的研究

中務 真人 , 芳賀 恒太, 小林 諭史, 小嶋 匠, 富澤 佑真

ヒトと類人猿の運動器官進化研究において、脊柱の形態進化は大きな関心を集めているが、脊柱の形態特徴には、機能的、進化的意味の立証が不十分なものが見られる。この計画では、腰椎横突起の位置が脊柱の腹側陥入の程度を反映するか、腰椎横突起の位置が固有背筋の相対的なサイズと関係するかを検証する。
2018年度に類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザル)15個体、旧世界ザル(カニクイザル、ニホンザル、マントヒヒ)12個体のCTデータを収集し2断面で予備分析を行った。椎骨式の変異が存在する種間で比較を行うため、相同性が高いと考えられる第1腰椎、下部腰椎として最後から2あるいは3つ目の腰椎を選び、その頭側面を計測面とした。
その結果、オナガザル上科と類人猿の下位腰椎レベルで類人猿の固有背筋サイズが小さい傾向が見られたが、第1腰椎ではその傾向がみられなかった。また、類人猿とヒトを比較すると、ヒトの固有背筋サイズが大きい傾向が見られたが、第1腰椎ではその傾向はみられなかった。オナガザル上科とヒトを比較すると、前者が後者より大きな固有背筋をもつ傾向はみられなかった。これらの結果は、対象とした霊長類において、各々のロコモーション様式に適応して固有背筋が発達する部位が異なることを示唆した。また、腰椎横突起の位置と固有背筋サイズの関係を見たときに、ヒトを除いた下位の腰椎では、横突起はより腹側にあるほど固有背筋が大きいという傾向が認められたが、上位の腰椎ではそのような傾向は見られなかった。これは、横突起の位置が固有背筋サイズに支配されるとする意見に否定的な結果であった。今後、資料数を増やすとともに、頭側から尾側への連続的な変化の検出を行う。



H30-B49
代:時田 幸之輔
霊長類下肢の筋構成と支配神経パターン

学会発表
小池魁人 時田幸之輔 小島龍平 平崎鋭矢 霊長類大腿屈筋群の比較解剖学的観察(2018年7月14日) 第34回日本霊長類学会大会(東京都練馬区).

小池魁人 時田幸之輔 小島龍平 平崎鋭矢 ニホンザル大腿二頭筋へ進入する神経の筋内分布及び仙骨神経叢における層序(2019年3月27日) 第124回日本解剖学会総会・学術集会(新潟県新潟市).

小池魁人 時田幸之輔 小島龍平 平崎鋭矢 二頭筋短頭支配神経比較解剖学的考察(2019年7月14日) 第35回日本霊長類学会大会(熊本県熊本市).
霊長類下肢の筋構成と支配神経パターン

時田 幸之輔

チンパンジー2側,リスザル2側,ニホンザル2側について大腿二頭筋(Bf)の構成とその支配神経を観察した.チンパンジーBfの長頭(Lg)は坐骨結節,短頭(Br)は大腿骨体後面遠位から起始し, 腓骨頭,外側下腿筋膜に停止した.Lgには坐骨神経(Ish)脛骨神経部(Ti)からの枝(RT)が分布した.Brには総腓骨神経部(F)からの枝(RF)が分布した.リスザル,ニホンザルBfにはLgとBrの区別がなかった.リスザルBfの起始停止は坐骨結節-腸脛靭帯,腓骨頭,外側下腿筋膜であった.この筋には,起始部付近にRTが分布し,筋腹遠位部2/3付近にRFが進入した.ニホンザルBfは坐骨結節から腸脛靭帯,膝関節付近へ走行する筋束(Bf-1)と坐骨結節から腓骨頭,外側下腿筋膜へ走行する筋束(Bf-2)の2部に分かれた.この筋には,RTとRFが進入した.RTには,Bf-1へ進入する枝(RT-1)とBf-2へ進入する枝(RT-2 )があった.RFはBf遠位から進入していた.RTは筋に分布していたが,RFは筋を貫き皮神経となっていた.RTは仙骨神経叢のL6-S1の腹側成分に由来しTi本幹より腹側から分枝していた.RFはL5の中間成分で上殿神経(Gi)より腹側から分枝していた.


H30-B50
代:Jeanelle Uy
The relationship between gut size and torso anatomy
The relationship between gut size and torso anatomy

Jeanelle Uy

The gut (gastrointestinal tract) is a unique example of a visceral structure that is thought to have driven changes to postcranial dimensions. A longstanding assumption within paleoanthropology is that the torso skeleton, particularly the ribcage and pelvis, reflects organ size; however, no data exists in the literature that directly links soft tissue (guts) to hard tissue (bones). The purpose of this project is to determine if gut size is related to torso morphology. We will test if the bony anatomy of the ribcage and pelvis is related to gut size in anthropoids. Thoracic measurements were obtained from Homo, Hylobates, Pan, Pongo, Gorilla, Macaca, and Cebus skeletons. Existing whole abdomen scans from humans (n=89) were obtained from my institution (UW-Madison) and existing scans of Cebus (n=8) were obtained from KUPRI.We found that Homo has unique thorax form and gut form that is distinguished from other nonhuman primates, but the nonhuman primates in our study overlapped in both thorax form and gut size. We also found male humans tend to have gut volumes that are correlated with pelvic variables, but we do not find any relationships between the pelvis and gut volume in females. There is a small but significant correlation between caudal thorax breadth and gut volume in humans. We did not find any relationship between gut volume, caudal thorax size, and body size in Cebus. Variability in gut volume within Homo sapiens and Cebus is high and equivalent. Variability in gut volume that cannot be explained by body size is higher in females than in males in Homo sapiens. In conclusion, the human ribcage, gut, and pelvis have complex relationships with each other; human females differ in their relationship with the torso skeleton and gut size possibly due to spatial demands of gestation or metabolic demands of gestation and lactation.


H30-B51
代:澤野 啓一
協:田上 秀一
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

学会発表
Sawano K1,3,7, Tanaka T2, Yokoyama T4, Yoshikawa S4, Ohira H1,, Nakagawa K1,, Yamamoto I1,, Hagiwara H8, Hasegawa I1, HamadaY6, Nakatsukasa M5, Inoue T3, Yamada Y1 , Kato S2 The Quadrangulus-OJ-FM clearly shows the difference between humans and apes in projections to both the Frankfurt and the Sagittal planes(October 19th-22nd, 2018) 72nd Annual Meeting of the Anthropological Society of Nippon (Mishima、Japan).

澤野啓一1,6,9, 田上秀一3, 濱田穣5, 田中健2, 横山高玲4, 吉川信一朗4, 大平寛1, 中川貴美子1、山本伊佐夫1、萩原浩明8, 長谷川巌1, 中務真人7, 井上登美夫6,安陪等思3, 山田良広1 ,加藤正二郎2 ヒトと他の霊長類とでは、頚静脈孔の形態と頭蓋内還流血流路の様式が異なる(2019年3月27-29日) 第124回日本解剖学会・新潟(新潟市).
CTを用いたニホンザルの頭蓋底と眼窩を通過する血流、及び頭部静脈血還流路に関する研究

澤野 啓一 , 田上 秀一

従来、ヒトを含む真猿類の頭部血管系の走行(経路、口径変化、湾曲の程度等)はほぼ同一であるとみなされてきた。その様な先入観も災いして、実際には詳細には調べられては来なかった。筆者は主に白骨頭蓋底の調査の過程で、Foramen jugulare (FJ)の形状が、ヒトと、ヒト以外のAnthropoideaとでは大きく異なることを確認していた。Sinus sigmoideus (SSG)からVena jugularis interna (VJI)への流れは、当然FJの形状に制約される(あるいは、還流静脈の形状がFJの形状に反映される)訳であるから、その実情を明らかにする為に、血管造影CT撮影に拠って、生きた状態でのニホンザルの脳還流静脈路の研究を行った。同時に並行して、それに対応する部分のヒトの形状に関する研究も行った。頭蓋を耳眼水平面に置いた状態で比較すると、ニホンザルのFJは斜めになだらかに傾斜して開口する形状である。これは他のAnthropoideaとほぼ同様の形状であった。それに対してヒトでは、Squama occipitalisの下壁が、下方に膨隆していることと、他の真猿類ではFJの前端に相当する部分が、ヒトではFJが垂直化することに拠ってFJの上端に成っていることの為に、SSGからVJIへの還流静脈路は一旦上行した後、急角度で屈曲して下方に向っている。他方、ニホンザルの脳静脈還流路は、FJの形状から予測された通り、斜めになだらかに傾斜して流れる形式であり、ヒトの場合との違いが鮮明に成った。このようなヒトとヒト以外の真猿類との違いは、頚動脈管と頚動脈の場合と、あたかも並行関係に有るように見える。ヒトのFJの形状とSSGからVJIへの還流静脈路の特異性が、ヒトに於ける脳と脳頭蓋底の後方と下方への膨隆の結果として生じた受動的なものに留まるのか、あるいは更に何らかの機能的役割が付与されたものであるのかについては、今後の研究課題である。ニホンザルの脳静脈路がヒトと異なる他の部位についてもこれから明らかにする。


H30-B52
代:神奈木 真理
協:長谷川 温彦
協:永野 佳子
協:Ganbaatar Undrakh
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

学会発表
Hasegawa A, Fujikawa T, Ganbaatar U, Nagano Y, Masuda T, Tanaka Y, Akari H, Kannagi M. Impaired T-cell responses in natural infection of STLV-1 as a primate model of immune suppression in HTLV-1 infection.(2018.09.27) 第 77 回日本癌学会学術総会(大阪).

冨士川朋夏、長谷川温彦、Undrakh Ganbaatar、永野佳子、増田貴夫、田中勇悦、明里宏文、神奈木真理. STLV-1 自然感染ニホンザルにおける STLV-1 特異的 T 細胞免疫の低応答性.(2018.09.01) 第 5 回日本 HTLV-1 学会学術集会(東京).
STLV自然感染ニホンザルの抗ウイルスT細胞免疫

神奈木 真理 , 長谷川 温彦, 永野 佳子, Ganbaatar Undrakh

サルTリンパ球向性ウイルス(STLV)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の近縁ウイルスであり、ニホンザルに高率に自然感染している。ヒトでは、HTLV-1感染者の一部が成人T細胞白血病(ATL)を発症するが、これらの個体では、HTLV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)応答が低く、このCTL応答を強化することには治療的意義があることは、これまでの我々の研究により明らかになってきている。本研究では、STLV自然感染ニホンザルにおける免疫応答がヒトHTLV-1感染と近似したモデルと成り得るかどうかを見極め、CTLを活性化させる免疫療法が感染細胞を減少させる効果を個体レベルで検証することを目的としている。抗原特異的T細胞応答はMHCに拘束されるため、平成29年度に個体毎のSTLV特異的CTL応答の解析系を確立し、平成29〜30年度に詳細な解析を行った結果、STLV自然感染ニホンザル6頭中4頭が高応答、1頭が低応答、1頭は不明であった。低応答を示した個体ではプロウイルスDNA陽性細胞率(PVL)が高く且つウイルス制御能が低かった。これはATL患者や一部のHTLV-1キャリアに近似する結果である。この結果については平成30年度の日本癌学会ならびにHTLV-1学会において口頭発表を行った。さらに、低応答性個体に対する免疫接種実験に着手した。今後、低応答性の個体を複数選出し免疫療法の効果の検証を行う予定である。


H30-B53
代:日比野 久美子
協:竹中 晃子
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究
ヒト動脈硬化症のアカゲザルモデル作出のための基礎研究

日比野 久美子 , 竹中 晃子

 日本人の動脈硬化症を引き起こす高コレステロール(Ch)血症は厚生労働省において今なお難病に指定され、原因不明が4割もある。LDL受容体遺伝子(LDLR)のエクソン3にCys82(61)Tyr変異を持つインド由来アカゲザル7頭に0.1%および0.3% Ch含有食の投与実験を行った結果、2頭が12週でヒトの難病に匹敵する高い動脈硬化指数(LDL/HDL>3.5)5.8を示した。これら2頭を含むヘテロ接合体3頭の全ゲノム解析をタカラバイオに依頼して行った。高Ch血症を引き起こす可能性のある16遺伝子についてエクソン、スプライシング部位、プロモーター領域について検討し、2頭に共通する変異が5遺伝子のエクソン6座位に新たに見出されたので、残るヘテロ接合体5個体(すでに死亡している元になった#1304を含む)と正常個体4頭について、これら6座位の変異の有無を調べた。それぞれのプライマーを設定しPCR法で増幅し、増幅産物をABIキャピラリー電気泳動法により塩基配列を決定した。高Ch血症を示した2頭にあったLDLRのさらなる変異Ile598(577)Val (ATC→GTC) はこの家系の他の個体もホモ接合体で有しており、LDL結合領域に近い変異であったが、難病レベルのLDL値を示す原因とはならなかった。LDLを細胞内に取り込む際に必要なLDLRAP1にはAsn102Ser(AAC→AGC)変異がこの2頭にヘテロ接合体として共通にあったが家系内にもヘテロ、ホモ接合体がおり多型であった。ヒトの高Ch血症を調べる際にオックスフォードジーンテクノロジー社でさらに検討されるPCSK9、APOB、APOE、LIPA、STAP1には2頭のみに共通する変異はなく、現在、 NCBI、LOVDなどのデーターベースを参考に他の遺伝子についてさらに解析を進めている。また、今年度得られた結果に基づき、来年度はLDL受容体の活性測定を計画している。


H30-B54
代:佐藤 真伍
協:西岡 絵夢
協:渡邊 明音
協:福留 祐香
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

学会発表
佐藤真伍,壁谷英則,福留祐香,西岡絵夢,渡邊明音,山海 直,高野淳一朗,岡本宗裕,丸山総一 わが国の研究用サルにおけるBartonella quintana保有状況と分離株の遺伝子性状(2018年9月11日~13日) 第161回日本獣医学会学術集会(茨城県つくば市).
飼育下のニホンザルおよびアカゲザルにおけるBartonella quintanaの分布状況とその遺伝子系統

佐藤 真伍 , 西岡 絵夢, 渡邊 明音, 福留 祐香

 Bartonella quintanaは人に発熱や回帰性の菌血症を引き起こす原因菌で,重症化すると心内膜炎や細菌性血管腫を引き起こす。ヒトに特異的に寄生するコロモジラミがB. quintanaのベクターで,衛生環境とB. quintanaの流行は密接に関係している。第一次・二次世界大戦時にB. quintana感染は兵士の間に流行し,その後終息したものの,現在では都市部に生活する一部のホームレスにおいて本菌の感染が確認されている。近年,中国の霊長類研究施設内で飼育されているアカゲザルやカニクイザルも本菌を保有していることが明らかとなっている。さらに,日本の野生ニホンザルもB. quintanaを保菌していることが我々の研究によって明らかとなっている。
 以上ような背景から,京都大学 霊長類研究所内で飼育されているMacaca属のサルを対象に,本菌の分布状況を継続的に検討することとした。平成28年度の本共同利用・共同研究(課題# 2016-D-21)では,和歌山県由来の椿群のニホンザル1頭からB. quintanaが分離され,Multi-locus sequence typing(MLST)によりST22に型別された。さらに,平成29年度の研究(課題# 2017-B-28)では,大阪府由来の箕面群のニホンザル2頭からもB. quintanaが分離された。
 平成30年度の研究(課題# 2018-B-54)では,箕面群の分離株の遺伝子性状について,MLSTにより解析した。その結果,いずれの株も野生ニホンザルや椿群のニホンザルから分離された株と同一のST22に型別された。さらに,椿群のサル1頭からも新たにB. quintanaが分離された。B. quintanaを保菌していた計4頭のサルは,いずれも過去に野外から導入した個体であることから,今後,感染ザルにおける本菌の持続感染期間についても詳細に検討していく必要があると考えられた。



H30-B55
代:岡田 誠治
協:俣野 哲朗
協:刈谷 龍昇
サル造血免疫機能の解析とサル免疫不全ウイルス感染モデルマウスの樹立
サル造血免疫機能の解析とサル免疫不全ウイルス感染モデルマウスの樹立

岡田 誠治 , 俣野 哲朗, 刈谷 龍昇

本研究の目的は、ニホンザルの造血・免疫系を解析し、その特徴を明らかにすること、その結果を基にニホンザルの造血免疫系を構築したマウスモデルとエイズモデルを構築することである。
 本年は、新たなサンプルを得ることができなかったため、昨年度までのサンプルを用いて引き続き効率の良い移植系の確立を目指し研究を進めた。



H30-B56
代:加藤 彰子
協:近藤 信太郎
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する
マカク属サルの形態的・環境的因子から、歯周病発症を解明する

加藤 彰子 , 近藤 信太郎

 歯周病は歯周組織に起こる慢性の炎症性疾患であり日本の成人の約80%が歯周病に罹患している。現在、歯周病は生活習慣病の一つと考えられており、病態・病因の解明は解決すべき重要な課題である。顎口腔機能は、その個体が生活する環境や食性に伴い長い時間をかけて適応、変化する。これら顎口腔領域の形態が歯周病の進行とどのように関わっているかを調査することが本研究の目的である。具体的には、マカクザルの頭蓋骨を用いて歯科用コーンビームCTおよびマイクロCT撮影を行い、歯槽骨の吸収程度を評価して顎口腔系の解剖学的形態との関連性を調べる。本研究により歯周病に関わる顎口腔領域の形態因子と各マカクザルの住む環境因子との関係性を明らかにすることで、歯周病の病因解明の一助とする。2018年度はアカゲザルおよびニホンザル合計45個体の観察およびCT撮像を行った。これらを通してマカク属の異なる種間で歯周病の発症パターンに相違があることと、歯冠咬合面の咬耗度に相違があることを示すデータを蓄積している。2019年度はさらにデータ解析を進め、マカクザルの歯槽骨吸収の特徴についてまとめを行いたいと考えている。


H30-B57
代:高須 正規
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価

学会発表
兼子明久,高須正規,前田典彦,森本真弓,橋本直子,石上暁代,山中淳史,愛洲星太郎,夏目尊好,井戸みゆき,岡本宗裕 ニホンザルも寒いのは嫌!- 代謝プロファイルテストを利用した飼養管理 -(2018年9月1日) 第24回日本野生動物医学会(大阪).
代謝プロファイルテストを用いた野外飼育ニホンザルの飼養管理評価

高須 正規

家畜の飼養管理で一般的に用いられている代謝プロファイルテストをニホンザルに応用し,飼育環境の違いがニホンザルのQOLに与える影響を評価できるか否かを明らかにした。
異なるグループケージで飼育されているニホンザル2群(A群・B群)に対して,代謝プロファイルテストを行った。A群は5-6歳のオス5頭,B群は同4頭で形成されていた。A群のケージ(Aケージ)は,格子面が多く,風よけスペースとしてサルが入れる小さなボックスが設けられていた。一方,B群のケージ(Bケージ)は,サルが十分に動けるスペースを有する副室(水飲みあり)が設けられていた。
両群の定期的な体重測定時(5月,7月,9月,11月,1月,3月)に橈側皮静脈より血液を採取した。採取した血液を用い,CBCならびに血液生化学検査を行った。その結果,冬季においてA群のヘマトクリット値が上昇することが示された。
冬季にA群のヘマトクリット値が高かったことは,Aケージの給水場所が風よけスペースの外にあるため,サルがスペースから出ようとせず,積極的に飲水をしなかった可能性が考えられた。一方,Bケージは副室内に水のみがあるため,冬季であっても飲水量が減少しなかったと考えられた。
これらのことから,代謝プロファイルテストは,二ホンザルのQOL評価に応用できると考えられた。また,AケージよりもBケージで飼育することでニホンザルのQOLを高められることが示唆された。


H30-B58
代:Lia Betti
協:Todd C. Rae
"Positional, dimorphic and obstetric influences on pelvic shape in primates"

論文
Betti L and Manica A(2018) Human variation in the shape of the birth canal is significant and geographically structured. Proc Roy Soc B B 285:20181807 (DOI:10.1098/rspb.2018.1807).

Wroe S, Parr WCH, Ledogar JA, Bourke J, Evans S, Fiorenza L, Benazzi S, Hublin J-J, Stringer C, Kullmer O, Rae TC, Yokley T(2018) Computer simulations show that Neanderthal facial morphology represents adaptation to cold and high energy demands, but not heavy biting. Proc Roy Soc B285:20180085.
"Positional, dimorphic and obstetric influences on pelvic shape in primates"

Lia Betti , Todd C. Rae

Our proposal was to develop a test of the relative importance of locomotion, habitual posture, and obstetric-related selective pressures in shaping the pelvis and birth canal in humans and other primate species. Adaptation for bipedalism in our lineage led to a shorter and more compact pelvis with a narrower pelvic canal, while increased encephalisation meant a larger neonatal head and the need for a more spacious birth passage, leading to an evolutionary conflict (“obstetrical dilemma”) and a tight fit between the size of the newborn and the size of the birth canal. Recent biomechanical studies, however, contradict the assumption that a wider pelvis would reduce locomotor efficiency, suggesting that other factors might be constraining the size of the human birth canal. The new comparative analysis we have proposed is designed to address the importance of locomotion, posture and obstetric requirements in shaping the pelvis across primate species, using an improved and innovative methodology. We plan to use 3D landmarks and semilandmarks derived from virtual 3D reconstructions based on CT scans of articulated pelves to achieve a high-definition representation of the shape of the pelvis and birth canal in a variety of catarrhine and strepsirrhine species.
To do so, we sought funds from the Kyoto University Cooperative Research Program to begin pilot work and to obtain the necessary additional funding. As travel to the PRI was not possible immediately, we purchased some of the essential reference works necessary to derive the locomotor and postural and other behavioural data with the funds that were provided. In addition, we purchased large hard drives required to store the huge digital files that result from the full-body CT scans required for the project. Using these tools, we began to put together a database using previously obtained scans of cadaveric material of male and female chimpanzees (genus Pan) from the KUPRI Digital Morphology Museum, to compare with Homo sapiens which we were able to obtain from the Visible Human Project. A small preliminary analysis was performed by manually segmenting the scans Avizo ver. 8. The resulting data were analysed (Procrustes fit, PCA of superimposed landmarks projected in Euclidean space) using Morphologika (O’Higgins and Jones, 1999). The plot of the first two PCs (Fig. 2) shows that the sexes are differentiated in a similar way in these species, suggesting that sexual shape dimorphism is captured effectively by the landmark configuration and is present in both species.
These encouraging preliminary results indicate that the methodology is sound and that the study stands a very good chance of producing substantial outcomes. We have used this pilot study as a basis for applying for additional funds, and have already secured a grant totalling £8,950 (‎¥1,308,101) over two years from the Great Britain Sasakawa Foundation, and we are awaiting news of a Leakey Foundation application for $19,277 (‎¥2,153,364).



H30-B59
代:倉岡 康治
協:稲瀬 正彦
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響
視覚刺激の好みに対するホルモンの影響

倉岡 康治 , 稲瀬 正彦

霊長類は他個体に関する視覚情報に興味を示す。また、動物の社会行動においてはテストステロンやオキシトシンが重要な役割を果たすことが知られているため、上記のホルモンがニホンザルの社会的視覚刺激の好みにどう影響するかを行動実験で調べることを目的としている。
 本実験では、飼育ケージ内でのサルの自発的な行動によりデータを得る実験環境を構築している。霊長類研究所飼育室において、飼育ケージにタブレット型コンピューターを取り付け、複数の他個体画像を提示する。サルがある画像に興味を示して触れれば、その画像をより長く提示し、別の画像に興味を示さず触れることが無ければ、その画像は少しの時間の後に消えるようにプログラムする。この課題で各視覚刺激に対するサルの興味を調べ、社会性ホルモンと知られるオキシトシンを投与した後、その興味がどのように変化するかを調べる。
 本年度は、麻酔下で被験体の鼻よりオキシトシンを投与した。1時間後に覚醒を確認してから他個体画像に触れる回数を計測し、オキシトシン投与前のそれと比較した。その結果、オキシトシンを投与することにより、他個体画像に触れる回数が減った。特に他個体画像提示後30分程はほとんど画像に触れることがなかった。これは他個体画像への興味低下というよりも、まだ麻酔の影響が残っていることが推測される。今後は麻酔からより時間をおいて計測を開始するか、麻酔をしない状態でのオキシトシン投与を検討する必要がある。



H30-B60
代:清水 貴美子
協:深田 吉孝
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

学会発表
Kimiko Shimizu Mechanism of circadian regulation of long-term recognition memory(2018. 11. 29-30) International Conference of the Genetics Society of Korea (ICGSK)(Seoul, Korea).
霊長類における概日時計と脳高次機能との連関

清水 貴美子 , 深田 吉孝

我々はこれまで、齧歯類を用いて海馬依存性の長期記憶形成効率に概日変動があることを見出し、SCOPという分子が概日時計と記憶を結びつける鍵因子であることを示してきた (Shimizu et al. Nat Commun 2016)。本研究では、ヒトにより近い脳構造・回路を持つサルを用いて、SCOPを介した概日時計と記憶との関係を明らかにすることを目的とする。
 ニホンザル6頭を用いて、苦い水と普通の水をそれぞれ飲み口の色が異なる2つのボトルにいれ、水の味と飲み口の色との連合学習による記憶効率の時刻依存性について実験をおこなった。各個体あたり、朝/昼/夕の何れかに試験をおこない、学習から24時間後にテストを行う。ボトルをセットしてから最初の一口目が正解(普通の水)だった場合にポイントを加算する方式で、6頭の記憶テスト結果を評価したところ、昼に有意に記憶効率が高いという結果が得られた。さらに、昼の記憶効率の高さにSCOPが関わっているかどうかを確かめるために、6頭のうちの2頭の海馬にSCOP shRNA発現レンチウイルスまたはコントロールレンチウイルスを投与し、昼の時刻の記憶効率を測定した。コントロールレンチウイルスを投与したサルは、何も投与していないサルの昼の時刻と同程度の記憶効率を示したが、SCOP shRNA発現レンチウイルスを投与したサルは、著しく記憶効率が低下していた。このテストは各個体につき5回おこない、一定の傾向が見られたと判断し、次年度は論文投稿準備と補強データのための実験を行う予定である。



H30-B61
代:柳川 洋二郎
協:永野 昌志
協:鳥居 佳子
協:黒澤 拓斗
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

栁川 洋二郎 , 永野 昌志, 鳥居 佳子, 黒澤 拓斗

 ニホンザルにおいては人工授精(AI)による妊娠率は低く、特に凍結精液を用いたAIによる産子獲得例がない。そのため、精液の凍結保存法改善とともに、メスの卵胞動態を把握したうえでAIプログラムの開発が必要である。
 ニホンザルの精液凍結については、ドライアイス上(-80℃)で0.5mlストローを凍結した場合に運動性が高かったが-80℃では凍結乾燥などにより長期保存が見込めないため、最終的には液体窒素中で保存する必要がある。そのためにドライアイス上で凍結を実施した後、液体窒素内に保存するまでの工程を検討した。0.5mlストローに封入しドライアイス上で凍結した精液を液体窒素液面上4cmまたは9cmに静置し温度を下げたのち、液体窒素中に投入した。37℃温湯中でストローを融解した後の精子運動性は液面上4cmのほうが高かったが、液体窒素に投入することで運動性が顕著に低下していた。
 また、効率的かつ計画的ににAIを実施するため雌ニホンザルの発情同期化を試みた。21日間合成プロジェステロン剤(Altrenogestを0.44mg/kg/日)をリンゴにまぶし雌20頭に経口投与したところ、投与終了後4日目に13頭、5日目に5頭、6日目に2頭と3日間のうちにすべての個体において月経出血が確認された。同じであった。



H30-B62
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand

論文
Sellers WI, Hirasaki E(2018) Quadrupedal locomotor simulation: producing more realistic gaits using dual-objective optimization. Royal Society Open Science 5:171836. 謝辞謝辞あり

学会発表
Sellers WI, Hirasaki E. Analysing Primate Grip Shapes Using Geometric Morphometrics.(2018) European Society for the Study of Human Evolution. (Faro, Portugal.).

Hirasaki E., Sellers WI. Effects of lateral stability on generated walking gait in a chimpanzee musculoskeletal model.(2018) The 72nd Annual Meeting of the Anthropological Society of Nippon(Mishima, Japan).
The comparative biomechanics of the primate hand

William Sellers

This project forms part of our ongoing research into the biomechanics of primates. In the last year we added a new modality to our experimental protocol and measured the pressures acting on the substrate due to the grip the monkey was using. This was combined with our now standard approach of using markerless motion capture to record the kinematics of the fingers during grip. We have improved our methodology in this respect by changing the camera positions and improving the precision of the calibration objects. It is always challenging to incorporate extra information in an experiment and in particular there are difficulties with synchronising the different data streams and spatially aligning the data. We performed a large number of trials on two experimental monkeys due to the requirement for the animal to place his hand cleanly onto the centre of a relatively small pressure sensing mat whilst being filmed with our eight camera setup. Vertical climbing in particular is difficult experimentally because it is almost impossible to get a good view of the experiment and this is something that we are planning to improve upon this coming year. Even so we have reasonable coverage for two tasks: vertical climbing and horizontal walking on 50 mm poles. The challenge is now one of data analysis. The pressure data is in cylindrical coordinates due to being wrapped around the pole and we will need to produce a customised analytical workflow to accommodate this. However we are confident that the combination of techniques will allow us to isolate the contributions due to the individual fingers and other parts of the hand during locomotion which has important implications in terms of the form-function relationship, and will make an important contribution to primate biomechanics. We have presented the initial data at both the European Society for the Study of Human Evolution and the Anthropological Society of Nippon and will be preparing a manuscript for publication this year.


H30-B63
代:長谷 和徳
協:吉田 真
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

学会発表
吉田真,長谷和徳,伯田哲矢,平崎鋭矢 体の質量中心の位置は四足歩行時の四肢運び順の決定因子のひとつである(2018年10月20日) 第72回日本人類学会大会(静岡県三島市).

Makoto Yoshida, Tetsuya Hakuta, Kazunori Hase, Eishi Hirasaki Effect of the position of the center of mass on quadruped gaits(2018年7月12日) 8th World Congress of Biomechanics(Dublin, Ireland).
自律的に歩容遷移を行うマカク四足歩行モデルの開発

長谷 和徳 , 吉田 真

 本研究では,従来より開発を進めていた関節動態や神経系の運動制御機構などを考慮したマカク類の四足歩行のコンピュータ・シミュレーションモデルに加えて,組み立て式小型ロボットを用いてマカク類の身体力学系を模擬した実機モデルを新たに作成し,実環境におけるロボット四足歩行を実現することで,コンピュータ上のシミュレーション結果を検証し,それらを通して霊長類進化過程における身体運動と力学環境の影響の理解を目指した.
 四足歩行ロボットはサーボモータの性能などを考慮すると,実寸で作製することは困難であったため,相似則に従って相似比0.65となるように身体寸法を定めた.全身で20関節自由度を有し,各関節にサーボモータを組み込み,先行研究で開発したシミュレーションモデルの歩行時の各関節角度に追従するように各サーボモータを制御した.また,制御回路中の消費電力を測定し,これより歩行のエネルギー効率を求められるようにした.実験では身体の重心位置を前方/後方に変化させ,それぞれについて歩容を前方交叉型と後方交叉型に変更し,歩行のエネルギー効率を調べた.サーボモータの出力限界の問題などをさらに検討し,実機モデル・コンピュータモデル・実際のマカクとの運動の比較検討を今後進める.



H30-B64
代:三浦 智行
協:阪脇 廣美
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

論文
Doi, N., Miura, T., Mori, H., Sakawaki, H., Koma, T., Adachi, A., and Nomaguchi, M.(2018) CXCR4- and CCR5-Tropic HIV-1 Clones Are Both Tractable to Grow in Rhesus Macaques. Front. Microbiol. 9:2510.

学会発表
姫野愛、石田裕樹、森ひろみ、松浦嘉奈子、菊川美奈子、阪脇廣美、三浦智行 Tier1B SHIV感染ザルにおける抗HIV-1 Tier2中和抗体の誘導(2018年10月28-30日) 第66回日本ウイルス学会学術集会(京都).

横山温香、陣野萌恵、関根将、三浦智行、伊吹謙太郎 SIV感染サル化マウスのAIDS病態モデルとしての有用性の検討(2018年10月28-30日) 第66回日本ウイルス学会学術集会(京都).

Shida, H., Kato, S., Okamura, T., Mukai, T., Inoue, M., Shu, T., Miura, T., Yasutomi, Y., Matsuo, K. Protective effects of immunization using urease-deficient BCG, vaccinia LC16m8d, and Sendai virus expressing SIV genes(2018年10月28-30日) 第66回日本ウイルス学会学術集会(京都).
複合ワクチネーションによるSIVの感染防御効果の解析

三浦 智行 , 阪脇 廣美

我々は、エイズの原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染モデルとしてサル免疫不全ウイルス(SIV)や、それらの組換えウイルスであるサル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)のアカゲザルへの感染動態と免疫応答について長年研究してきた。一方、SIV遺伝子を発現するBCGベクターとワクシニアウイルスベクターを組み合わせて免疫することにより、SIVの感染防御効果が得られることを示唆する予備的結果を得た。平成30年度は、これまでのワクチンを更に改良して細胞性免疫誘導効果が高くなるように工夫したワクチンを作製すると共に、ワクチン評価実験に適した遺伝的背景をもつアカゲザル3頭を選定し、ワクチン接種実験を開始した。平成31/令和元年度に攻撃接種実験を行い感染防御効果を調べる予定である。また、新規に開発した攻撃接種用SHIVとして、臨床分離株と同等レベルの中和抵抗性を有するCCR5親和性SHIV-MK38C株の感染実験を継続解析し、ワクチン評価モデルとしての基礎データを蓄積した。


H30-B65
代:荻原 直道
協:大石 元治
協:PINA Marta
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

論文
Blickhan, R., Andrada, E., Hirasaki, E., Ogihara, N.(2018) Global dynamics of bipedal macaques during grounded running and running Journal of Experimental Biology 221:jeb178897.

Ogihara, N., Hirasaki, E., Andrada, E., Blickhan, R(2018) Bipedal gait versatility in the Japanese macaque (Macaca fuscata) Journal of Human Evolution 125:2-14.

学会発表
荻原直道 ニホンザルの歩行分析から探るヒトの身体構造と直立二足歩行の特異性(Dec 8, 2018) 計測自動制御学会 システム・情報部門 自律分散システム部会 第63回 自律分散システム部会研究会(愛知県名古屋市).

荻原直道 ヒトの形態進化と二足歩行機能(Dec 2, 2018) 第6回 埼玉県立大学 理学療法研修会(埼玉県越谷市).

荻原直道 X線CT装置を活用した人類進化研究(July 20,2018) 精密工学会・現物融合型エンジニアリング専門委員会(東京都文京区).

関連サイト
慶應義塾大学理工学部機械工学科 荻原研究室 www.ogihara.mech.keio.ac.jp/
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

荻原 直道 , 大石 元治, PINA Marta

 本研究では、ヒト的な直立二足歩行の獲得を妨げる四足性霊長類の運動学的・生体力学的制約要因がどこにあるのかを明らかにするために、ニホンザル四足歩行の運動学的・生体力学的解析を行い、二足歩行と対比することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を明らかにすることを目的としている。
 本年は、ニホンザルに鉛が入ったチョッキを着用させることで身体重心位置を頭側にシフトさせたときの、ニホンザル四足歩行の接地パターンを、トレッドミルを用いて比較・分析した。その結果、分析したすべての個体・速度条件において観察されるわけではないが、diagonal sequenceからlateral sequenceに接地パターンを変化させる傾向が高まることが観察された。霊長類の四足歩行は、通常diagonal sequenceを採用するのに対して、多くの他のほ乳類はlateral sequenceを採用する。この違いを説明する仮説として、重心位置の違いが提案されているが、本研究により、身体重心位置が接地パターンに変化を及ぼしうることが示唆された。
 また、ニホンザルの屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって求める研究を継続した。



H30-B66
代:Kanthi Arum Widayati
協:Yohey Terada
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

学会発表
Widayati KA, Yan X, Suzuki-Hashido N, Purba LHPH, Bajeber F, Suryobroto B, Terai Y, Imai H Sensitivity to Bitter Molecule Phenylthiocarbamide (PTC) in Four Species of Sulawesi Macaques( September 22-24, 2018) 10th International Symposium on Primatology and Wildlife Science.(Science Seminar House, North Campus of Yoshida Campus, Kyoto University).
Genetic characterization of bitter taste receptors in Sulawesi macaques

Kanthi Arum Widayati , Yohey Terada

Sulawesi Macaques are unique because they distributed allopatrically with restricted parapatry in the Sulawesi island. While they showed considerable morphological variation among themselves despite that they inhabit relatively small total area, there is no data about their phenotypes that involved in perceiving
 environmental signals, such as bitter perception. The purpose of this research aims to characterize one of the best-studied bitter taste receptors TAS2R38 in four species of Sulawesi macaques, Macaca nigra, M. tonkeana, M. hecki and M. nigrescense. TAS2R38 mediates the perception of the bitterness of phenylthiocarbamide (PTC). So far we found there are polymorphisms in behavior response between four species, where all individuals of Macaca hecki are sensitive to PTC while a few individuals of M. tonkeana, M. nigra and M. nigrescense are not sensitive to PTC. The genetic bases of PTC non-sensitive phenotype are different in each species. By direct sequence and functional assay, we confirmed that pseudogenization were caused in PTC non-sensitive in. M. nigra and M. nigrescense, while nonsynonymous amino acid substitutions were responsible for PTC-non-sensitivity in M. tonkeana. The mechanism of PTC-non-sensitivity in M. tonkeana was similar with human. In human, PTC-non-sensitive phenotype was inversely correlated with sensitivity to bitterness of Antidesma bunius fruit. Thus, we expect that PTC-non-sensitive TAS2R38s in M. tonkeana are responsible to detect another bitter ligand molecules.More over, we found that one the PTC-non-sensitive haplotype in M. tonkeana is shared with M. nemestrina. This information will help new findings of receptor binding sites and speciation of Sulawesi macaques.


H30-B67
代:Bambang Suryobroto
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques
Genomic Evolution of Sulawesi Macaques

Bambang Suryobroto

Sulawesi macaques consist of seven species of genus Macaca that allopatrically and endemically in Sulawesi Island, Central Indonesia. Because Sulawesi Island lays beyond the easternmost boundary of Oriental zoogeographical realm, their ancestor(s) should cross the Wallace Line waterways to reach the Island. The mode of speciation between the seven species is inferred to be speciation with gene flow. In the present research we determined the exonic sequences of two individuals each of all the seven species; that is M. nigra, M. nigrescens, M. hecki, M. tonkeana, M. maurus, M. ochreata and M. brunnescens. Taking M. nemestrina as outgroup and using the neighbor-joining method of clustering, the data from all synonymous sites of the exome shows that they are monophyletic and the tree topology reflects the geographical distribution of the seven species. The northern species consists of M. hecki, M. nigrescens and M. nigra; the southern species consists of M. maurus, M. tonkeana, M. ochreata and M. brunnescens. The calculated length of differentiation is very small so we think that soon after the ancestor migrated to Sulawesi Island they diverged into the seven species. From result of FY 2017, we found that M. hecki and M. tonkeana had been split at about 50000 generations ago; by assuming generation time of 6.5 year, it coincided with the peak of interglacial period at 325000 years ago (ya). By detecting single nucleotide polymorphism (SNP) within the exons, there is excess of rare variants that indicates an ancient bottleneck event from 387 kya to 345 kya. The event occurred when earth was entering glacial period within which sea surface temperature declined by about 2 to 4 degC and sea levels went down to about -40 to -100 m from present levels.


H30-B68
代:大石 元治
協:荻原 直道
大型類人猿の前腕における回内-回外運動機構の機能形態学的解析
大型類人猿の前腕における回内-回外運動機構の機能形態学的解析

大石 元治 , 荻原 直道

樹上性ロコモーションや、手の器用さと関連が深い運動の一つに、前腕の回内-回外運動がある。この運動は円回内筋などの前肢筋により橈骨が尺骨を軸にして“回転”する。本研究では未固定の前肢の標本を用いて、前腕骨格の回内-回外運動を再現しながらCT撮影することにより、回内時と回外時の橈骨と尺骨の相対的な位置関係を観察した。本年度は、チンパンジー1個体の前腕のCT撮影を行うことができた。最大回内時、最大回外時のCTデータから三次元再構築を行った(図)。得られた三次元骨格モデル上にランドマークを設定して、これらの座標を用いて、前腕の回内-回外運動の可動域を算出した。結果、チンパンジーの回内-回外運動の可動域は約160度を示し、Sarmiento (2002)の過去の報告とほぼ一致していた。今後は種数、標本数を増やすとともに、大型類人猿間の定量的や、回外域・回内域の比較を行なっていきたい。


H30-B69
代:後藤 遼佑
三次元運動解析を見据えたシロテテナガザルの身体モデルの作成
三次元運動解析を見据えたシロテテナガザルの身体モデルの作成

後藤 遼佑

 本年度は三個体のシロテテナガザル標本の全身のCT撮像のみを行なった。

 当初の計画は、シロテテナガザルの三次元的に解析することを目的として、シロテテナガザルの各種ロコモーションにおける身体セグメントの位置データに対してCTデータを重ね合わせる計画であった。従来の運動解析手法では、身体ランドマークの位置を三次元的に計測した場合であっても、解析の段階で矢状面、冠状面、水平面に投影され、最終的には二次元データへと情報量が削減されていたが、この分析により三次元的な運動解析を実現する計画であった。

 しかしながら、現時点においては、運動データに対するCTデータの重ね合わせは完了しなかった。三個体のシロテテナガザルのCT撮像は完了したため、今後も継続して解析を行い計画を遂行する。



H30-B70
代:柏木 健司
ニホンザルが豪雪山岳地域を生き抜く上での温泉活用と戦略

論文
Kashiwagi, K., Tsuji, Y., Yamamura, T., Takai, M. and Shimizu, M. (2018) Presence of feces in the abandoned Nokado Mine, Tochigi Prefecture of Central Japan, Provides further evidence of cave use by Japanese macaques Primates Research (霊長類研究) 34(1):79-85. 謝辞あり

柏木健司(2019) ジオ鉄以前の黒部峡谷を旅する(その1)-仏石下流の旧林道- 黒部(日本黒部学会紀要)(26):9-17. 謝辞あり

学会発表
柏木健司 「サルだって寒いのは嫌 冬場の廃坑避難を確認」研究成果掲載(9月2日朝刊)(2018年9月2日) 下野新聞 朝刊(群馬県).

柏木健司 豪雪地域のニホンザルは洞窟と温泉を使って冬を越す(2018年10月28日) 平成30年度 自然史学会連合 体験教室 日本霊長類学会ブース(富山市科学博物館).
ニホンザルが豪雪山岳地域を生き抜く上での温泉活用と戦略

柏木 健司

 黒部峡谷支流の黒薙川沿いには、河床から温泉が所々で湧出し、その周囲の河床礫は温泉沈殿物で被覆されている。岩盤に掘られた人工トンネルは、湯を送る引湯管トンネルとして活用されている。2016年11月8日、河床礫を舐めるニホンザルがビデオに記録され、温泉沈殿物からミネラルを摂取していたと判断した。2017年4月4日、引湯管トンネル内でニホンザルの老齢個体の死体を採集した。前年冬季にトンネルに入り死亡した個体と判断した。上記事例を基に研究に着手したものの、十分な成果は得られず、研究手法も合わせ今後の課題となった。
・黒薙川河床からの温泉の湧出が十分でなく、2018年度の観察記録は皆無であった。
・引湯管トンネル内に温湿度ロガーを設置し、気象観測を実施中である。自動撮影カメラは、湿気と湯気のため、設置していない。
・2017年12月26日、黒薙川対岸の人工トンネル付近の岩盤に、体を摺り寄せるニホンザルが記録された。温泉により温まる岩盤で、暖を取っていたと判断した。この地点で、2018年に自動撮影カメラの観察を試みたものの、出水でカメラが水没するなど、データ取得は難しい。なお、昨12月より設置中である。
 4月以降にデータ回収を予定している。



H30-B71
代:鯉田 孝和
色盲サルの皮質応答計測

論文
Kanthi A Widayati, Atsuko Saito, Bambang Suryobroto, Akichika Mikami, Kowa Koida(2019) Color Perception in a Female Macaca fascicularis with Protanomalia i-Perception 10(2):https://doi.org/10.1177/2041669519846136. 謝辞あり
色盲サルの皮質応答計測

鯉田 孝和

霊長類研究所で維持飼育されている2色覚サル(色盲サルとよぶ)を利用し、ニューロン活動を計測することでS錐体(青黄)色選択性を持つ細胞の比率が3色型と異なるかを確かめる実験を行う。実験は麻酔下で手術中に行う。
 本年度は実験に先立って、霊長研の手術室内で神経活動を計測するための装置の整備を行った。手術室に備え付けられていたアースは性能に難があったが、追加で設置するのは困難であった。そこでアース無しでの計測を行うためにAC100V電源を必要としない直流バッテリー駆動型のアンプシステム(INTAN)を導入した。これにより電源由来のハムノイズは生じなくなる。さらに電極をファラデーケージで囲い、近傍から100V電源を十分に離すことで、スパイク応答を記録するのに十分な20µV程度の背景ノイズレベルが達成できた。視覚刺激提示と計測システムはノートパソコン2台で構成されるためコンパクトであり、運搬も容易である。繰り返し実験を行うにあたって、実験前後での片付けとセットアップが容易であることも確かめた。次年度は引き続いて、動物を対象とした記録実験を行う予定である。
 また本実験に先立って、色盲サルおよび色盲遺伝子のキャリア個体を用いた色覚行動実験の論文執筆を進めた。論文はi-Perceptionにacceptされた。



H30-B72
代:保坂 善真
協:割田 克彦
サル雌性生殖器由来幹細胞の分離とその機能解析の試み
サル雌性生殖器由来幹細胞の分離とその機能解析の試み

保坂 善真 , 割田 克彦

 実験3年度目は、実験初年度と同様、月経血由来細胞から、細胞性状の解析を解析し、組織細胞への分化を試みる計画であった。月経血は4日間にわたる採取で、のべ6頭、11回の採取を行った。
 月経血は採取後速やかに、5%抗生物質/抗菌剤(以下抗生剤)入りのメディウム(MEM alpha)中で2回、洗浄と遠心分離を繰り返し、さらに3%抗生剤入りの培養メディウム中で4℃一晩静置してから、プラスチックプレート上に播種し、細胞はその多くがプレート面に生着した。細胞の増殖を試みるために、FBS濃度を5%、抗生剤を3%に維持して増殖を試みたが、ほとんど増殖せず、すぐに死滅するか、大きく多角形に広がってプレート面に張り付き、増殖性が失われていた。一方、一般的な細胞の培養条件である抗生剤の濃度を1%以下にすると、培地に細菌やカビが発生し、実験を進めることが困難であった。
 材料の月経血は、陰部にスポイトを挿入して採取するため、材料への細菌やカビなどの混入は不可避である。比較的高濃度の抗生剤の入りメディウムによる月経血の洗浄によって、実験初年度よりも培地のコンタミネーションの割合は減少した。その一方で、上述したような細胞への影響(培養早期での死滅、形態の変化)が見られるようになり、これらの一部は、抗生剤による影響と考えられた。月経血より細胞を採取し、細胞を安定的に増殖させて分化に至らせることは困難であった。



H30-B73
代:澤田 玲子
成人を対象とした単語認知に関する脳波研究
成人を対象とした単語認知に関する脳波研究

澤田 玲子

先行研究から、表記されるフォントによって、文字から得られる印象が変わったり、表記方法によって単語の記憶成績に影響があったりすることが知られている。また、ヒトの手によって生成された手書き文字とコンピュータ等によって生成された印字では、文字の処理機構に違いがあることが報告されている。しかし、手書き文字・印字という表記の違いによって生み出される単語に対する主観・意味認識の違い、またその心理メカニズムはわかっていない。これを明らかにするために、本研究では、表記の違いが単語に対する主観にどのような影響を与えるか、また主観の違いを生み出す神経基盤はどのようなものかを明らかにすることを目指している。本年度は、手書き文字・印字で表記された単語を呈示し、単語によって喚起される感情や単語に対して感じる自己関連性について、その程度を9件法で評価してもらった。その結果、印字に比べて、手書き文字で表記されたときに強く感情が喚起されることが示された。また、ポジティブ感情を喚起する単語では、印字に比べて手書き文字で表記されたとき、高く自己関連性を感じることがわかった。このように手書き文字・印字といった表記の違いが、単語に対する主観に影響を及ぼすことが確認された。今後、このような差異をもたらす神経基盤を明らかにすることを目指す。


H30-B74
代:前多 敬一郎
協:束村 博子
協:上野山 賀久
協:真方 文絵
協:迫野 貴大
野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発
野生ニホンザルの個体数抑制技術の開発

前多 敬一郎 , 束村 博子, 上野山 賀久, 真方 文絵, 迫野 貴大

雄ニホンザルにニューロキニンB受容体(NK3R)拮抗剤を投与し、血中薬剤濃度の変化を検討するとともに、血中テストステロン濃度および精巣の組織学的変化を指標としてその繁殖抑制効果を検証した。
繁殖期の雄ニホンザル2個体(実験個体)にNK3R拮抗剤SB223412の粉末を充填したシリコンチューブを、1個体(対照個体)に同形状の空のチューブを皮下インプラントした。インプラントは71日間維持し、その後摘出した。
インプラント前に1回、インプラント後から2週間は2日に1回、その後1週間に1回、チューブ摘出時に1回、計16回の採血(1 mL/回)を行った。血漿を分離し、血漿中薬剤濃度をLC/MS、血漿中テストステロン濃度をEIAにて解析した。その結果、血漿中薬剤濃度は実験個体においてチューブ移植後2日目から21目にかけて増加し、血漿中テストステロン濃度は56日目以降において実験個体が対照個体より低い傾向が見られた。
また、インプラント前に1回、その後2週間に1回、チューブ摘出時に1回、計6回の陰嚢の体積測定および精巣組織生検(2 mm角/回)を行った。精巣組織はブアン固定後に薄切しHE染色を行った後、光学顕微鏡で観察した。その結果、陰嚢体積、精巣組織像および各精細管の精子形成ステージに実験個体と対照個体との顕著な差異は見られなかった。



H30-B75
代:田伏 良幸
ヤクシマザルにおける個体間の社会関係が抱擁行動の方向性に与える影響
ヤクシマザルにおける個体間の社会関係が抱擁行動の方向性に与える影響

田伏 良幸

 今回屋久島でヤクシマザルのUmi-A群を対象に社会関係と抱擁行動の方向性について調査した結果、ヤクシマザルは2個体間で行われる抱擁行動は7パターン見つかり、先行研究よりも多様なパターンで抱擁行動をしていることが明らかとなった。年齢区分を分けてみると、未成熟個体(コドモ・アカンボウ)の方が成熟個体(オトナ・ワカモノ)よりも正面同士で行われることが多くみられた。未成熟個体の抱擁行動の相手は母親やきょうだいなどの同一家系の個体と同年齢個体が全体の73%を占めた。未成熟個体が正面同士以外のパターンになる場合は、未成熟個体ではなく、成熟個体の側が主体的になって正面以外の向きから抱きついていた。また、成熟個体は、未成熟個体よりも抱擁行動の方向のパターンが多様になることが明らかとなった。これらのことから、抱擁行動の向きは成長に伴って多様になっていく可能性が示唆される。オトナになると、社会関係に応じて抱擁行動の向きのパターンを変えるようになるのかもしれない。この研究結果は、『ヤクシマザルの抱擁行動-成熟個体と未成熟個体の比較-』というタイトルで、修士論文としてまとめた。


H30-B76
代:松原 幹
屋久島の野生ニホンザルによる頬袋由来種子の二次散布と糞虫相調査
屋久島の野生ニホンザルによる頬袋由来種子の二次散布と糞虫相調査

松原 幹

3月にヤクシマザルが採食し、頬袋散布したバリバリノキの種子を拾い集め、シカ除けカゴやネズミ除けカゴ、虫除けカゴ内に安置し、種子の消失率と種子食のために訪問する動物の調査をおこなった。4月中旬現在、カメラトラップ5台が稼働中で、月末に撮影データを回収し、1ヶ月後の種子残存率や発芽率を確認する。実験区設置から半年後の2019年度9月に実験区内の種子残存率と発芽率を確認する予定である。糞虫相調査として、ヤクシマザルの糞を使った昆虫トラップを5か所に1週間設置し、ヤクシマルリセンチコガネ2匹を採集した。3月中旬から下旬にかけての春の糞虫出現状況についての報告は屋久島西部林道では本研究が初めてで、糞虫の活動開始時期は3月中旬以降と推測された。


H30-B77
代:落合 知美
協:川出 比香里
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

学会発表
川出比香里,木村嘉孝,宮下実,落合知美 群れ飼育のトクモンキー(Macaca sinica)における採食エンリッチメントの効果:糞便と体重から(2018.11.17-18.) 第21回SAGAシンポジウム(熊本).

川出比香里,木村嘉孝,宮下実,落合知美 単独飼育のシシオザル(Macaca silenus)における採食エンリッチメントの効果:被毛評価と体重から(2018.11.17-18.) 第21回SAGAシンポジウム(熊本).
飼育下霊長類における採食エンリッチメントの分析と検討

落合 知美 , 川出 比香里

 動物は、その生息地で得られる食べ物の種類や量、分布などに合わせ、形態や生態を適応させ、進化してきた。そのため動物の種ごとに、餌となる食べ物や採食回数、採食方法などは異なる。しかし動物園での給餌は1日1~数回であり、餌の種類は人間社会の中で手に入る食べ物の中から選ばれている。特に霊長類においては、「サル=バナナ」のイメージが強いためか、バナナなどの果実を中心とした餌が与えられることが多い。そこで本研究では、動物園で飼育するシシオザル(Macaca silenus)とトクモンキー(Macaca sinica)を対象に、餌の改善(糖質を抑え、繊維質を高めるなど)を中心とした採食エンリッチメントを実施し、その評価を試みた。
 採食エンリッチメントを実施する前は、シシオザルでは日常的な下痢、痩身、毛並みの悪さが、トクモンキーでは給餌時の個体間の争いと各個体の体重差が観察されていた。そこで給餌回数を増やすとともに、餌の内容の検討をおこなった。餌は、果物を段階的に野菜に変えるなどして、細かい試行錯誤を繰り返し、最終的には果物を野菜で置き換え、野菜も根菜類から葉物野菜を増やし、ペレットを変更(サル用ペレットからリーフイーター用ペレットに変更)した。これらの変更で改善が感じられたため、体重の変動や観察記録、写真などの記録から、定量的な評価を試みた。
 その結果、極端に体重差が見られたオトナオス2個体の体重の偏りが少なくなった。また、嗜好性の高い餌を減らすことで餌をめぐる闘争が減少し、採食時間が延長した。糞便の状態が良くなり、毛並みも良くなった。これらの結果について、学会発表をおこない、たくさんのアドバイスを受けることができた。今後、より科学的な分析をおこなうとともに、野生での行動や生態についてより詳しい情報を集め、論文にまとめていく予定である。



H30-B78
代:森光 由樹
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

学会発表
森光 由樹, 山端 直人, 鈴木 克哉 兵庫県北部に生息するニホンザル絶滅危惧群の長距離移動とその後 ~ニホンザル広域管理の必要性について~(2018年07月15日) 日本霊長類学会(武蔵大学・東京都練馬区豊玉上).
ニホンザル絶滅危惧個体群を広域管理するために必要な遺伝情報の検討

森光 由樹

兵庫県内のニホンザルの地域個体群は、美方、城崎、大河内・生野、船越山、篠山の5つに分けられている。最も絶滅が危惧されている美方地域個体群として美方A群とB群の2群が生息していた。しかし美方A群が2017年夏、鳥取県八頭町へ長距離移動した。(直線距離で最大37km移動した)。その後、この群れは捕獲されたため絶滅した(森光ほか2018)。現在、美方地域個体群としては、美方B群のみが生息している。2018年のカウント調査では、12頭の生息が認められた。そのうち成獣メスは、3頭であった。成獣メスの頭数を指標にレスリー行列モデルによるモンテカルロシミュレーション(坂田・鈴木2003)を用いて絶滅確率を計算したところ、20年後の美方B群の絶滅確率は34%まで上昇した。近畿地方北部から中国地方北部(兵庫県北部から、鳥取、島根県東部まで)は、ニホンザルの分布情報はなく、保全すべき地域個体群の抽出が重要である。成獣メス3頭の群れの遺伝的多様性のモニタリングを引き続き行いながら、広域管理にかんする情報の整理と管理手法の策定が緊急の課題となっている。


H30-B79
代:佐々木 えりか
協:井上 貴史
協:石淵 智子
協:高橋 司
協:黒滝 陽子
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立
霊長類における絶滅危惧種の保全技術の確立

佐々木 えりか , 井上 貴史, 石淵 智子, 高橋 司, 黒滝 陽子

本研究では対象個体1頭で実施した。9回の採血を行い(表1)血漿プロゲステロン濃度と、一部エストラジオール濃度の測定を実施した。7月にプロゲステロン値の動きがないために妊娠を疑い、妊娠診断エコーを実施したところ、7月30日に妊娠が確定した(図1)。子宮を還流して胚を採取することができなくなったため、採卵手術は一旦中止して経過観察をおこなった。12月4日に流産を確認して、12月10日より採血を開始した。数少ない採血の中で、排卵シグナルを検出したかったため、血漿中のプロゲステロンとエストラジオールを測定してタマリンの性周期を管理した。エストラジオールの値が上昇したため妊娠を疑い腹部エコーを行ったところ、再度12月27日に妊娠が確認された。1月8日に腹部エコーを行ったところ流産が確認され、採血を再開した。経時的な採血の結果から、過去にタマリンの黄体期では最高40μg/mlの血漿プロゲステロン濃度が確認されていたが、対象個体では最高で30.1 μg/mlのプロゲステロン濃度しか確認できなかった。したがって、対象個体は老齢のため黄体期が維持されずに流産してしまう可能性が示唆された。黄体期が不明な状態の排卵予測は難しかったが、排卵を予測して1月24日に対象個体の採卵を実施した。その結果タマリン胚は得られなかったが、子宮灌流にて得られたタマリンの子宮内膜を初代培養して(図3)その後凍結保存した。その後、対象個体の体重がピーク時に比べて(図4)減少してしまったため(404g)、採血、採卵を中止することとし、本研究期間が終了した。本研究を通して、タマリンの受精卵もコモンマーモセットと同様に非侵襲的に得る事が可能であることが示され、今後、稀少種である新世界ザルの遺伝資源の保全に有用であることが示された。


H30-B80
代:城戸 瑞穂
協:曹 愛琳
協:西山 めぐみ
口腔における感覚受容機構の解明
口腔における感覚受容機構の解明

城戸 瑞穂 , 曹 愛琳, 西山 めぐみ

口腔は鋭敏な器官である。適切な口腔感覚は、哺乳類において哺乳・摂食・情報交換など多様な行動の基盤となっている。しかし、その機構についての理解はまだ限られたものである。。私たちは、(狭義の)味覚とされる甘味・塩味・酸味・苦味・うまみ以外の口腔内の感覚、とくに、温度感覚や唐辛子や胡椒などのスパイスなどのへ感覚、触圧感覚などの機構の解明を目指し、こうした広義の味覚とされる感覚の分子基盤として、TRP チャネル(transient receptor potential channel)を想定し研究を進めてきた。そして、口腔粘膜上皮に、温度および機械受容への関与が報告されているTRPチャネルが機能的に発現していることをラット、マウスおよびヒトを対象に明らかにしている。そして、マウス、ラット、ヒトの間で、発現しているTRPチャネルや、発現の量に多様性があることが分かった。そこで、ヒトにより近いサルにおける発現および機能的側面を調べ、これまでに得た結果と比較することで、口腔感覚の理解を深めることを目的とし、 温度感受性及び機械刺激感受性チャネルのタンパクレベルの発現解析を行った。
深麻酔下で生理食塩水により脱血し、4%パラホルム含有リン酸緩衝液にて灌流固定を施した動物から口腔粘膜を採取し4%パラホルム含有リン酸緩衝液にて浸漬固定した。その後、固定液をショ糖リン酸緩衝液にて置き換えた後、凍結切片を作製し、免疫組織学的染色を施した。特異的抗体の条件を検討したところ、一部特異的と思われる染色様式が認められたが、非特異反応との十分な分別には到らなかった。今後切片の処理法を検討することで良い結果に繋げたいと考えている。



H30-B81
代:牟田 佳那子
協:太田 裕貴
協:岡野 ジェイムス洋尚
協:外丸 祐介
協:信清 麻子
コモンマーモセットにおける表情解析手法の確立
コモンマーモセットにおける表情解析手法の確立

牟田 佳那子 , 太田 裕貴, 岡野 ジェイムス洋尚, 外丸 祐介, 信清 麻子

申請者らはコモンマーモセットの疼痛に関連した表情の解析を実施しており、昨年度は表情筋の解剖学的調査と実際の表情変化の解析を行った。表情筋の解剖学的調査に関して、当初死亡個体を解剖し表情筋の走行を確認する予定であったが、極めて薄く複雑に走行している表情筋の解剖には熟練した技術を要し、少ない個体数での詳細な解析は困難と判断した。このため予定を変更し、磁気共鳴画像装置(MRI)を用いて筋繊維の拡散テンソル画像(DTI)を描出することで筋走行の描出を試みた。DTIは水分子の拡散度と拡散方向を計測し、神経細胞の走行の描出に用いられる技術である。申請者らは死亡個体の頭部を撮像し表情筋の走行画像を得た(図1)。実際の表情変化解析に関して、幾何学的形態測定学の手法を用いて表情の変化を調査した。開腹手術を受ける個体を対象に、手術直前および術後1日目の顔面の正面画像に48個のランドマークを設置(図2)、術前と術後でこれらの位置の違いを統計学的に検討した。その結果、耳元と口元に有意な変化を認めた(図3)。これらはラットや猫といった他の動物種と類似した結果であった。いずれの解析においても昨年度中には十分な個体数が確保できなかったため、継続して解析を進める予定である。


H30-B82
代:Leonardo C?sar Oliveira Melo
協:Maria Ad?lia Borstelmann de Oliveira
協:Anisio Francisco Soares
Absorption and bioavailability of gum’s compounds used by marmoset in field and laboratory conditions
Absorption and bioavailability of gum’s compounds used by marmoset in field and laboratory conditions

Leonardo Cesar Oliveira Melo , Maria Ad?lia Borstelmann de Oliveira, Anisio Francisco Soares

The marmosets (Callithrix spp.) are an obligate gum eater (exudativore). Their morphological, physiological, behavioral and genetic traits are extremely adapted to gum foraging and feeding. However, marmosets in captive colonies have not been fed with gum resources enough (i.e., fruit-based diet, like other primates). Recent e?ort of animal welfare and environmental enrichment in captive colonies including Japan Monkey Centre (JMC) has changed the diet menu to “natural” repertoire using
Arabic gum (Acacia senegal, Fabaceae), which is easily available in the food supply. Arabic gum led to positive improvements of the marmoset behavior and health. However, Arabic gum is native to Sub-Saharan Africa, where is not a natural habitat of marmosets, that is, south America. In this study, we aim to replicate the more natural diet condition in captive marmosets. Adult captive common marmosets (C. jacchus) in JMC have everyday eaten 3 g dried Arabic gum. We selected two Brazilian gum species “barauna” (Schinopsis brasiliensis, Anacardiaceae) “angico” (Anadenanthera peregrina, Fabaceae) and fed 2 JMC common marmosets with these gum species. We recorded their feeding behavior using video camera and collected feces for microbiome analysis. We first supplied barauna for 7 days, put interval (basically Arabic gum) for 14 days, then supplied angico for 7 days, and fnally reverted Arabic gum feeding. One marmoset eventually accepted both barauna and angico, but another did not all the gum. Food choice tests also supported gum species and individual di?erence of diet preference. In conjunction with further analysis of behavior recoding, we are going to analyze microbiome ?uctuation related to the supplied gum change because gum is a major recourse of fber digested by gut bacteria. These results will be an important reference to improve captive marmoset welfare.


H30-B83
代:宮沢 孝幸
協:金村 優香
協:橋本 暁
協:小出 りえ
協:北尾 晃一
サルフォーミーウイルスから見るニホンザルの種分化分析
サルフォーミーウイルスから見るニホンザルの種分化分析

宮沢 孝幸 , 金村 優香, 橋本 暁, 小出 りえ, 北尾 晃一

本研究課題「サルフォーミーウイルスから見るニホンザルの種分化分析」では、日本全国に棲息するニホンザルから非病原性レトロウイルスであるSFV(サルフォーミーウイルス)を網羅的に分離し、ウイルス遺伝子の多様性を調べる目的で行った。各地に棲息するニホンザル等の口腔内スワブよりSFVの遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応により増幅し、遺伝子解析を行った。その結果、ニホンザル由来のSFVはアカゲザル由来のSFVと特に近縁であるが、独自の配列をもっていることが新たに分かった。
 また、本研究課題の目的であるウイルス遺伝子配列の多様性を調査する一環として、SFVのlong terminal repeat(LTR)と呼ばれる繰り返し配列についての調査も行った。SFVのLTRは同ウイルスの他の遺伝子に比べ保存性が低い事が知られている。ニホンザル由来のSFVのLTRの独自性を調べるため、SFVに持続感染している細胞のRNAを抽出し、次世代シーケンシング解析を行った。その結果、ニホンザル由来のSFVに感染している細胞では特有のマイクロRNAが発現していることが解析により判明した。以上のことから、本研究課題によりニホンザル由来のSFVがもつ多様性についての理解が一層深まった。



H30-B84
代:緑川 沙織
協:時田 幸之輔
肉眼解剖学に基づく霊長類腹鋸筋の機能とその系統発達

学会発表
緑川 沙織,時田 幸之輔,小島 龍平,平崎 鋭矢 リスザル肩甲挙筋・腹鋸筋・菱形筋の形態とその支配神経(2018年7月13~15日) 第34回日本霊長類学会大会(武蔵大学江古田キャンパス).

緑川 沙織 霊長類および哺乳類における頚胸部体幹筋の形態とその支配神経(2018年10月19~22日) 第72回日本人類学会大会(静岡県三島市民文化会館 国立遺伝学研究所).
肉眼解剖学に基づく霊長類腹鋸筋の機能とその系統発達

緑川 沙織 , 時田 幸之輔

ヒト肩帯筋の形態的特徴を明らかにすることを目的とし、チンパンジーとリスザルの腹鋸筋(SV)、肩甲挙筋(LS)、菱形筋(Rh)の筋形態と支配神経を調査した。これら3筋は、肩甲骨内側縁に停止する筋である。SVはチンパンジー、リスザルとも上位10肋骨程より起始していた。SV支配神経はチンパンジーでC5-7, リスザルでC6,7であった。LSはチンパンジーでC1-4横突起、リスザルでC1-5,6横突起より起始していた。支配神経は、チンパンジーでC3,4, リスザルでC4,5であった。Rhは、チンパンジー・リスザルともC5-Th4棘突起より起始するほか、リスザルでは後頭骨より起始する筋束がみられた。支配神経はC4,5が分布し、リスザル後頭骨起始部にはC3が分布していた。チンパンジーSV・LS・Rhは, 筋形態・支配神経ともヒトと類似しており、類人猿に共通した形態であることが示唆される。一方リスザルは、各筋の支配神経分節がヒト・チンパンジーと異なるほか、Rh後頭骨起始部を持つ点が異なる。Rh後頭骨起始部を持つ種は、カニクイザル・マーモセット・ブタ胎仔等があり、四足歩行を移動様式とする種に共通した形態である可能性が示唆された。


H30-B85
代:加賀谷 美幸
霊長類の運動適応と胸郭-前肢帯配置
霊長類の運動適応と胸郭-前肢帯配置

加賀谷 美幸

肩甲骨は胸骨に関節する鎖骨とのみ関節し、胸郭の表面に配されており、その配置は、前肢の可動性に影響しうる。本年度は、所内のテナガザル生体および大型類人猿ネットワーク(GAIN)により利用機会を得たチンパンジー冷凍標本を背臥位にてCT撮影し、過年度までに撮影した他種と前肢帯骨格の位置を比較した。ニホンザルやヒヒの胸骨頸切痕は頸椎と胸椎の境界レベル付近にあるが、テナガザルとクモザルではより尾側にあり、およそ第3-4胸椎レベルであった。チンパンジーやオマキザルは中間的であった。胸骨の位置がより尾側にあると頭部と胸部の間で鎖骨や肩甲上腕関節がとりうる範囲を大きくでき、前肢の可動域を拡大すると考えられる。チンパンジー標本を三次元座標計測したところ、前方への前肢最大挙上位では肩甲棘が体の長軸に平行になるほどに肩峰が内側かつ背側に移動し、鎖骨は胸鎖関節からほぼまっすぐ背側に向かって肩峰に達し、肩甲骨関節窩が頭側に向けられていた。これに対応する肢位での肩甲棘角度は、テナガザル冷凍標本ではチンパンジーと同様に170度程度、ニホンザルやヒヒ、オマキザル、クモザルではおよそ140~160度の範囲であった。


H30-B86
代:矢野 航
霊長類-口腔内細菌叢の共進化の自然史
霊長類-口腔内細菌叢の共進化の自然史

矢野 航

国内外霊長類の唾液を採取しDNA抽出後、次世代シーケンサーによる口腔内細菌叢検索を行い宿主生態との関連を探索した。以下の結果を得て学会発表等を行った。

1. 日本モンキーセンター飼育のレッサースローロリスの歯周病関連口腔細菌叢の検索
JMCで飼育されているレッサースローロリスのべ6頭から、口腔内外の湿性試料を採取し霊長研所蔵の次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina)を用いて細菌叢を比較した。レッサーロリスの口腔細菌叢から歯周病に関連すると思われる新規株を検出した(図1)。本研究結果は現在投稿準備中である。

2. ウガンダ共和国カリンズ森林で同所的に生息する霊長類の口腔細菌比較
ウガンダ共和国カリンズ森林保護区に同所的に生息する5種の霊長類の食物残渣付着唾液からDNA抽出し次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina)を用いて細菌叢を比較した。細菌叢全体ではチンパンジーが多種と大きく異なるパターンを示し、残りの4種も類縁だがそれぞれ異なるパターンを示した(図2)。本研究の結果は2018年度に日本霊長類学会(東京)、歯科基礎医学会(博多)で発表した。



H30-B87
代:金子 新
協:塩田 達雄
協:中山 英美
協:三浦 智行
協:入口 翔一
アカゲザルiPS細胞の免疫細胞への分化
アカゲザルiPS細胞の免疫細胞への分化

金子 新 , 塩田 達雄, 中山 英美, 三浦 智行, 入口 翔一

 前年度までに報告していたアカゲザル由来iPS細胞ならびに同iPS細胞の血液分化能を検証するために、T細胞分化能に加えてマクロファージ分化能をin vitroで検討した。iPS細胞から誘導されたマクロファージはFACS解析でCD11b(+)・CD14(+)でありCD68(+)・CD86(+)・CD163(-)であることからM1タイプのマクロファージであると考えられた。実際、これらのiPS細胞由来マクロファージを大腸菌particleと共培養すると大腸菌particleを貪食した。またHIV/SIVの感染受容体でもあるCD4に加えてCCR5・CXCR4の発現も認められ、実際にこれらのマクロファージは一時的にSIVに感染しウイルス産生を認めたため、同アカゲザルiPS細胞から誘導した造血幹細胞に由来する免疫細胞はSIV感染ならびに感染防御モデルを構築する材料として十分な性質を持つことを確認した。
 引き続き、感染防御能の付与を目的としたゲノム編集実験にも取り組んだ。アカゲザルiPS細胞のゲノム編集は非常に効率が悪いが、条件検討を繰り返しゲノム編集の効率が改善した。今回我々はSIV感染の副受容体の一つと考えられているCCR5をターゲットにしたCCR5ノックアウトiPS細胞を作成している。今後、CCR5ノックアウトiPS細胞から誘導したマクロファージにSIV感染抵抗性が生じるか否かをin vitroおよびin vivoで評価する予定としている。



H30-B88
代:岡澤 均
協:陳 西貴
協:藤田 慶大
協:田川 一彦
マーモセット疾患モデルを用いた神経回路障害ならびに分子病態の解析および治療法の開発
マーモセット疾患モデルを用いた神経回路障害ならびに分子病態の解析および治療法の開発

岡澤 均 , 陳 西貴, 藤田 慶大, 田川 一彦

マーモセットの神経疾患モデルをウイルスベクターを用いて作出し、神経回路の変性や病態解明、さらには治療法の開発を目指す研究である。東京医科歯科大学で4頭のマーモセットに空間記憶課題を訓練し、ウイルスベクターを注入する前のデータを取得した。霊長類研究所では、すでに4頭の訓練と事前のデータ取得を終えている。今後、ウイルスベクターを注入し、疾患モデルを作出して、神経回路や認知機能の変化を明らかにする。


H30-B89
代:Brittany Kenyon
協:Noreen von Cramon-Taubadel
協:Stephen Lycett
Morphological and Taxonomic Distinction in Macaca: a 3D Geometric Morphometric Analysis of the Skeleton
Morphological and Taxonomic Distinction in Macaca: a 5D Geometric Morphometric Analysis of the Skeleton

Brittany Kenyon , Noreen von Cramon-Taubadel, Stephen Lycett

The purpose of my project is to determine whether or not skeletal variations aid in taxonomic assessment of primates and to what extent these variations can determine species-level taxonomy. Secondarily, I am exploring if these variations are most likley caused by diet, locomotion, or climate. To do this, I am collecting 3D scans of skeletal elements of several species of macaques, given that macaques have the widest geographic range of any primate aside from humans and wide behavioral differences between speices.
Final analysis will not be complete until May 2020, though preliminary anaylsis suggests that the scapula and os coxa may be better taxonomic indicators that previously thought. In a MDS (multidimensional scaling) test based on Procrustes matrices, the scapula is actually the best taxonomic indicator, which is surprising since previous research has shown that the cranium best indicates taxonomy. Further analysis will elucidiate these findings and aid in explaining what is driving these morphological differences between species. An even number of males and females are being tested, and it does appear that the female os coxa predicts taxonomy better than the male os coxa, which will also be explored in further testing.



H30-B90
代:熊谷 美樹
ニホンザルの幼少個体における順位獲得と母親による援助の性差
ニホンザルの幼少個体における順位獲得と母親による援助の性差

熊谷 美樹

ニホンザルは母系で順位を継承するが、まれにコドモ同士で家系順位に反する優劣交渉が観察される。本研究は、このような交渉を逆交渉と定義し、量的な解析からその要因を明らかにすることを目的とした。宮崎県幸島に生息するニホンザル餌付け群のコドモを対象に、餌撒き時の優劣交渉を観察した。そしてGLMM解析にて個体間関係が逆交渉に及ぼす影響について調べた。すると、逆交渉には劣位な家系の個体が優位な家系の個体より体重が重いことが影響していた(表1)。また、多重比較の結果、交渉した2個体のうちオスが劣位な家系のペアは、メスが劣位な家系のペアより逆交渉が起こりやすく、さらに劣位な家系の個体がメスのとき、相手がオスの場合より相手がメスの場合に逆交渉になりやすいことが分かった(表2)。次に、参加個体が起こす優劣行動にはどのような要因が効いているのか調べた。すると敗者の悲鳴は、勝者がより重いほど生起していた(表3)。体重の軽い個体はより重い個体と相対したときに、さらに体の大きな第3者の援助を要請するべく悲鳴をあげるのかもしれない。また、悲鳴はメスがオスに負けるとき、メスに負けるときより多く発せられており(表4)、メスはオスと1対1で戦うことを避けている可能性が考えられる。優劣交渉の形成には敗者側による劣位的なふるまいが貢献しているようである。本研究の結果から、その他要因の効果を統制した上でも体の大きな個体とオスが逆交渉の成立において有利であるという新たな知見を得ることができた。


H30-B91
代:佐々木 基樹
霊長類後肢骨格の可動性
霊長類後肢骨格の可動性

佐々木 基樹

 これまでにニシローランドゴリラ3個体、オランウータン2個体、チンパンジー4個体の後肢のCT画像解析をおこない、第一趾の可動状況を観察してきた。第一趾を最大限伸展させた状態でCT画像撮影をおこない、得られたCT断層画像データを三次元立体構築して第一中足骨と第二中足骨がなす平面上におけるそれら中足骨のなす角度をソフト上で解析した結果、平均でオランウータン約104度、ニシローランドゴリラ約73度、そしてチンパンジーで約52度であった。今回、類人猿以外の霊長類であるニホンザルの第一趾の可動状況を観察して、第一中足骨と第二中足骨がなす平面上のなす角度を計測した。計測の結果、ニホンザルの第一中足骨と第二中足骨がなす角度は約47度で、これまで計測した類人猿の値よりも小さかった。今後、検体数を増やすことで精度を上げ、さらに、他の類人猿(テナガザルやボノボ)を含む多くの種の霊長類の後肢の解析をおこなうことで、観察された中手骨間の角度の違いを考察していきたい。


H30-B92
代:小倉 淳郎
協:越後貫 成美
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察
マーモセット幼若精細管のマウスへの移植後の精細胞発生の観察

小倉 淳郎 , 越後貫 成美

 最近我々は、顕微授精技術を用いることにより、マーモセット体内で自然発生した生後11ヶ月齢の未成熟精子(伸長精子細胞)から産仔を獲得した。そこで本研究では、さらに早期に顕微授精を行う可能性を検討するために、性成熟の早いマウスへ新生仔マーモセット未成熟精細管を移植し、精原細胞から精子・精子細胞発生が加速するかどうかを確認する。昨年度(2017-B-30)、4ヶ月齢雄マーモセットの片側精巣を採取し、去勢NSGマウスの腎皮膜下に移植を行った。今年度、移植から約3ヵ月後に組織を回収して組織学的観察を行った結果、初期円形精子細胞までの発生を確認した。生体下での円形精子細胞の出現は10-11ヶ月なので、異種移植を行うことにより3-4ヶ月ほど精子発生が加速した結果が得られた。


H30-C1
代:川合 伸幸
協:邱??
サルの脅威刺激検出に関する研究

論文
 Kawai, N.( 2019) The fear of snakes: Evolutionary and psychobiological perspectives on our innate fear . 謝辞 あり

学会発表
邱カチン・川合伸幸 自然風景の中のヘビは素早く正確に検出されるのか?-フリッカー変化検出課題を用いたヘビ検出の検討 (2018年9月1日) 2018年度日本認知科学会第35回大会(立命館大学(茨木市)).
サルの脅威刺激検出に関する研究

川合 伸幸 , 邱カチン

ヒトがヘビやクモに対して恐怖を感じるのは生得的なものか経験によるのか長年議論が続けられてきた。我々は、ヘビ恐怖の生得性は認識されていることを示すために視覚探索課題を用いて、ヒト幼児や(ヘビを見たことのない)サルがヘビの写真をほかの動物の写真よりもすばやく検出することをあきらかにし、ヒトやサルが生得的にヘビに敏感であることを示した。しかし、どの程度まで早くヘビを認識できるかは不明であった。そこで、ニホンザルがヘビを他の動物より早く見つけられるかを視覚探索課題において、短時間で刺激にマスクする実験を行い検討した。その結果、少なくとも2頭のサルは0.1秒の提示時間であっても9枚の動物の写真の中から孤立項目であるヘビの写真を正しく検出した。そしてその成績はクモの検出精度よりも高かった(なお、1頭は実験継続中であり、1頭は反応時間を測定できるまで訓練ができなかった)。これらの結果は、サルはわずか100 msでヘビをできることを示しており、ヘビ検出理論を指示するものである。


H30-C2
代:樋口 隆弘
協:平野 満
協:能勢 直子
協:塩谷 恭子
次世代心臓分子画像診断法の開発

論文

次世代心臓分子画像診断法の開発

樋口 隆弘 , 平野 満, 能勢 直子, 塩谷 恭子

アカゲザル5頭を用いて、F18標識のノルエピネフリントランスポーターをターゲットにした新規PETトレーサー候補2種類の分布及び心臓での動態を検討した。同トレーサの体内分布は、ラット、ラビット、ミニブタでも検討していたが、種による分布、特異度に差が大きく、今後のヒトでの臨床応用に際して非常に有益な情報が得られた。


H30-C3
代:土屋 萌
福島原発災害による野生ニホンザル胎仔の放射線被ばく影響
福島原発災害による野生ニホンザル胎仔の放射線被ばく影響

土屋 萌

 2011年3月11日に起きた福島第一原発事故に伴い、周辺に生息する野生ニホンザルはヒト以外の野生霊長類において世界で初めて原発災害による放射線被ばくを受けた。放射線被ばくによる健康影響は数多く報告されており、胎仔の小頭化や成長遅滞もその一つである。本研究では、被ばくしたサルの次世代への影響を調べるため、震災前後における胎仔および新生仔の脳の病理組織像について比較した。
 脳の組織標本は、2012年~2018年に捕獲された福島市のサルを用い、2012年に青森県下北半島で捕獲されたサル、2018年に福島県猪苗代町で捕獲されたサル、京都大学霊長類研究所にて採材されたサルの脳を比較対象とした。それぞれにHE染色・免疫染色・PAS染色を行った。
 脳の免疫染色では、福島市のサルにおいて星状膠細胞には数珠状の構造物が顕著に見られた。破壊像は見られなかったことから、脳の成長過程で何かしらの異常が起きている可能性が示唆された。



H30-C4
代:橋戸 南美
協:松田 一希
同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体機能の解明

学会発表
橋戸南美, 糸井川壮大, 早川卓志, Amanda D Melin, 河村正二, Colin A Chapman, 松田一希, 今井啓雄. 同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体の遺伝的・機能的多様性. (2018年7月14日) 第34回日本霊長類学会大会.(東京).
同所的に生息する旧世界ザルにおける苦味受容体機能の解明

橋戸 南美 , 松田 一希

アフリカのキバレ国立公園に同所的に生息するオナガザル科7種を研究対象としており、本年度はアカコロブス、アビシニアコロブス、ベルベットモンキーの3種(各1個体)について約30種類の全苦味受容体遺伝子(TAS2R)の配列を決定した。アカコロブスでは5種類のTAS2Rで種特異的な偽遺伝子化が生じており、他種に比べて苦味受容体遺伝子数が少なかった。また、アカコロブスやアビシニアコロブスは,βグルコシドの一種で毒性の高い青酸配糖体を含む葉を食べることが報告されている。そのため,βグルコシドを受容するTAS2R16に着目して,細胞アッセイによる受容体機能解析を行った。βグルコシドの一種であるサリシンに対するTAS2R16の反応性を調べたところ、アビシニアコロブスのTAS2R16はアカコロブスやベルベットモンキーに比べて,有意に反応性が低いことが明らかになった。他のβグルコシドの物質でも同様に反応性を調べたところ、物質によって3種間で反応性に違いがみられた。以上の結果について、第34回日本霊長類学会大会で口頭発表を行い、成果を報告した。
 次年度は、同所的に生息する他の種についても同様の解析を行い、生息地を共有しながらも異なる食物レパートリーを示す背景について苦味受容体の機能差の観点から考察を深める予定である。



H30-C5
代:小林 純也
霊長類細胞におけるDNA損傷応答・細胞老化の解析
霊長類細胞におけるDNA損傷応答・細胞老化の解析

小林 純也

 放射線をはじめ様々な環境ストレスでゲノムDNAは損傷を受けるが、正常な遺伝情報を保つ(ゲノム安定性)ために生物は損傷したDNAを修復する能力を持つ。しかし、このような修復能力は加齢により減退し、その結果、DNA損傷が蓄積し細胞老化が起こると考えられる。一方で、遺伝子は常に正確に修復・複製されると進化に必要な遺伝子の多様性がうまれないことから、修復・複製の正確度にはある程度の幅があって、ゲノム安定性と遺伝的多様性の間でバランスがとられている可能性がある。このようなDNA損傷応答能・修復能と細胞老化、ゲノム安定性・遺伝的多様性の関係を探るために、本研究ではヒトを含む霊長類繊維芽細胞でDNA損傷応答能の差異を検討することを計画し、平成28年度から共同利用・共同研究を開始した。
 平成30年度研究では霊長類研究所から提供を受けた細胞のうち、アカゲザル由来正常繊維芽細胞を用い、ヒト正常繊維芽細胞と比較するとともに、SV40トランスフォーム細胞でアカゲザルと同じく旧世界ザルに由来するCOS7細胞をヒトトランスフォーム細胞と比較した。正常繊維芽細胞とトランスフォーム細胞ともにこれら種間で放射線照射後のATMキナーゼの活性化、及びDNA修復関連因子の初期応答に差異は認められなかった。一方、DNA複製阻害によって発生する複製ストレス時に活性化されるATRキナーゼについては、トポイソメラーゼ阻害剤であるカンプトテシン処理時にこれらキナーゼ阻害剤を用いて検討すると、この時のATRの活性化に旧世界ザル由来細胞でのみ、部分的なATM依存性が認められた。これは放射線照射時のATR活性化でも同様であった。これらの結果からヒトと旧世界ザル細胞ではATRキナーゼの活性化機構、さらには複製ストレス応答機構に違いがあることが示唆される。



H30-C6
代:辰本 将司
協:郷 康広
ニシフーロックテナガザルの新規ゲノム配列決定
ニシフーロックテナガザルの新規ゲノム配列決定

辰本 将司 , 郷 康広

小型類人猿であるテナガザル類は,4属18種より構成され,形態形質(毛色多型,歌のレパートリーなど)や分子(核型)の多様性に極めて富んだ分類群であるが,大型類人猿に比べて研究の進展が遅れている.ゲノム研究においても大型類人猿のゲノムは全ての属に関してすでに参照ゲノム配列が決定されているが,テナガザル類に関しては,クロテナガザル(Nomascus)属の参照ゲノムしか決定されておらず,テナガザル類の進化的多様性を考慮した場合,その他のテナガザル属のゲノム配列を新規に決定する必要性は,テナガザル類の研究の進展に果たす役割として大変重要であると考えられる.本研究では,テナガザル類の中でも極めて生息数の限られているニシフーロックテナガザル(Hoolock hoolock)の新規全ゲノム配列を決定することを目的とする.1頭の全ゲノム配列を決定することで,過去の1万年〜数百万年のフーロックテナガザルの集団動態(集団サイズの増減の変遷)や遺伝的多様性に関する情報が得られるため,テナガザル類の基礎的な研究のみならず,保全生物学にも貢献できるデータを提供することが可能となる.
 新規ゲノム配列を決定するために,超長鎖(理想的には平均100kb以上)のDNAの抽出の必要があっため,霊長類研究所資料委員会保有のニシフーロックテナガザル由来の線維芽細胞を対象とし超長鎖DNAを抽出した.抽出したDNAから新規ゲノム解析ライブラリ作製装置(10X Genomics社Chromiumシステム)を用いたゲノムライブラリ作製,イルミナ社HiSeqX型シーケンサーを用いて配列の決定を行った.新規ゲノムのアセンブルをした結果,ゲノムのつながりの良さを示すscaffold N50長が,それぞれ27.9Mbという良質なゲノム配列を得ることができた.



H30-C7
代:加納 純子
霊長類細胞における染色体反復配列領域の機能解析
霊長類細胞における染色体反復配列領域の機能解析

加納 純子

 真核生物の線状染色体末端には、テロメアと呼ばれるドメインが存在しており、生命維持のための重要な役割を果たしている。テロメアに隣接して、サブテロメアと呼ばれるドメインが存在している。しかし、サブテロメアの機能や制御について、まだ知見が少なく、不明な点が多く残されている。興味深いことに、大型類人猿のチンパンジーやゴリラでは、テロメアとサブテロメアの間にSubterminal Satellite (StSat)配列と呼ばれる長大な重複DNAが存在しているが、ヒトには一切存在しない。StSat配列の存在がヒトと大型類人猿の性質を分けている可能性が考えられるため、具体的にStSat配列が大型類人猿でどのような機能を果たしているのか、逆にそれがヒトには存在しないことがどのような影響を与えているのかを分子レベルで明らかにすることを目指している。
 まず、StSat配列領域におけるクロマチン構造を探るため、DNAに結合しているヒストンタンパク質の翻訳後修飾の状態をクロマチン免疫沈降方によって解析したところ、H3K9の高度なメチル化が検出されたことから、ヘテロクロマチン構造が形成されていることが示唆された。次に、StSat配列領域に特異的に結合するタンパク質の同定を試みた。まず、StSat配列をもつオリゴDNAとチンパンジー細胞の抽出液を混合し、特異的に結合するタンパク質を質量分析によって同定したところ、RNAに関連するタンパク質が多く検出された。さらに、enChIP法によって細胞内でStSat領域に局在するタンパク質を同定するための実験系を確立した。



H30-C9
代:中道 正之
協:大西 絵奈
飼育下のコモンマーモセット(Callithrix jacchus) 集団における子育てと社会関係について
飼育下のコモンマーモセット(Callithrix jacchus) 集団における子育てと社会関係について

中道 正之 , 大西 絵奈

コモンマーモセット(Callithrix jacchus)は共同繫殖種として知られており、ヒトの核家族に似た集団を形成するが、その社会関係に関しては十分に研究されていない。本研究は飼育下のコモンマーモセットにおける子供の数と繁殖ペア間の社会関係の関係性を明らかにすることを目的とした。6集団(各集団における子供の数:0,0,2,2,3,4頭)の繫殖ペア計12頭を合計117時間観察し、それぞれの社会関係を毛づくろい、追従、性行動、攻撃行動、近接関係を基に議論した。観察の際にはビデオカメラを用いて人の出入りの無い時間のみを分析した。
 子供の数と繁殖ペア間の社会関係の間に緊密な関係性を認めることができなかった。サンプル数が6集団であったことに加え、ホルモン、対象個体の年齢、子供の性別等の様々な影響が考えられるために、子供の数と繁殖ペア間の社会関係の関係性を明らかにすることは出来なかったと考えられる。しかし、ニホンザル(Macaca fuscata)のメスでも報告されているような高齢個体における低頻度の毛づくろいや、妊娠ペアにのみ見られたオスからメスへの低頻度の追従など、ケーススタディとして有意義な結果が得られた。



H30-C8
代:川田 美風
協:森本 直記
マカクザルにおける母体骨盤と児頭の形態関係について

論文
Kawada M, Nakatsukasa M, Nishimura T, Kaneko A, and Morimoto N(2020) Covariation of fetal skull and maternal pelvis during the perinatal period in rhesus macaques and evolution of childbirth in primates. Proceedings of the National Academy of Sciences 117(35):21251-21257. 謝辞あり

マカクザルにおける母体骨盤と児頭の形態関係について

川田 美風 , 森本 直記

ヒトにおける出産様式の進化に関する研究は、脳機能・歩行様式・生活史が関わる多面的な課題である。しかし、出産進化のメカニズムにおいて鍵となる新生児と骨盤の化石記録が乏しく、直接的な検証が極めて困難である。そのため、現生の霊長類をモデルとした研究が不可欠である。本共同研究では、マカクザルをモデルとし、出産メカニズムに関する生体データを取得・解析することを目的とした。アカゲザルとニホンザルをそれぞれ1組ずつに対しX線CT撮像を行い、母親と胎児の3次元データを取得した。これまでに取得したデータに、本年度のデータを追加して、統計解析を行ったところ、母親の骨盤と胎児の頭蓋の形態間に統計的に有意な相関が確認された。現在得られた結果をもとに、論文を執筆中である。


H30-C10
代:中林 一彦
協:小林 久人
霊長類の種特異的ゲノム刷り込み機構確立の解明

論文

学会発表
小林 久人 Active endogenous retroviruses drive species-specific changes in the mammalian oocyte methylome and genomic imprinting(2019年2月3-4日) International Symposium on Epigenome 2019(国立がん研究センター).

関連サイト
論文 https://www.nature.com/articles/s41467-019-13662-9
霊長類の種特異的ゲノム刷り込み機構確立の解明

中林 一彦 , 小林 久人

胎盤を有する哺乳類では、ゲノムインプリンティング(刷り込み)機構と呼ばれる、2本ある対立遺伝子(アレル)のうち親の由来に応じで片方のアレルのみにエピジェネティックな修飾が施される現象が存在する。母由来アレル特異的なDNAメチル化修飾の成立する際には卵子における転写の横断が必須であり、近年行われた哺乳動物の卵子エピゲノム情報の比較により、種特異的なDNAメチル化パターンの成立にはゲノム中のLTR型レトロウイルス配列(LTRレトロトランスポゾン)の再活性化に起因する卵子での転写が寄与したことが明らかとなった。種特異的・系統特異的に存在する LTRレトロトランスポゾンが卵子型ゲノム刷り込みの成立に寄与することを比較発生学的に証明するため、チンパンジー胎盤におけるヒト(霊長類)特異的刷り込み遺伝子のDNAメチル化状態を、バイサルファイト・ターゲットシーケンス法により解析した。結果、ヒトと同様のLTR誘導型転写物のある領域では、ヒトと同様の刷り込み様の二峰性(高メチル化と低メチル化の二極性)のメチル化パターンを示すことを明らかにした(図1)。またアカゲザルでの同様の解析結果と和わせて、進化におけるLTR挿入が霊長類特有のゲノム刷り込み成立に寄与したことを強く支持する結果となった。研究成果は、現在科学専門誌に投稿中(査読中)である。


H30-C11
代:佐藤 佳
協:伊東 潤平
協:三沢 尚子
協:小柳 義夫
霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究
霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究

佐藤 佳 , 伊東 潤平, 三沢 尚子, 小柳 義夫

 本研究では、比較ゲノム・系統学的解析手法およびヒト・チンパンジーの細胞を用いた実験手法を駆使することにより、ヒトおよびチンパンジーそれぞれの系統において起こったトランスポゾンと宿主遺伝子との間での進化的軍拡競争を高解像度に描出し、両系統間において比較解析することを目的とする。具体的には、比較ゲノムおよび分子系統学的解析により、ヒト・チンパンジー分岐後に活発に増殖したトランスポゾンをゲノムから同定・抽出した。
また、以下は制度上の問題で年度内に実施できなかったため、現在、ヒトiPS細胞株、チンパンジーiPS細胞株の分与のために、京都大学iPS研究所とのMTA締結を進めている。 



H30-C12
代:堀益 靖
協:服部 登
協:河野 修興
KL-6抗原と生物の進化
KL-6抗原と生物の進化

堀益 靖 , 服部 登, 河野 修興

チンパンジー肺組織標本を用いて、当教室の所有する抗KL-6抗体(10000倍希釈)による免疫組織学的検討を行った。肺胞領域においては、II型肺胞上皮と思われる丈の高い立方状細胞の一部に弱い染色が認められた。これにより、KL-6糖鎖抗原はチンパンジー肺組織においてもヒトと同様にII型肺胞上皮に発現していることが確認された。しかし、その染色強度はヒト健常肺と比べて弱く、また、ヒト肺胞上皮でみられるようなapical membraneへの局在性は確認できなかった。さらに、ヒトにおいてKL-6糖鎖抗原が連続的に高発現することが確認されている気管支線毛上皮においても、チンパンジー肺組織では不連続で散在的なKL-6発現が確認されたのみであった。以上の結果は、われわれがすでに行っている血清レベルでの検討とも合致するものであり、ヒトを除くチンパンジー、オランウータン等のヒト科動物においてもKL-6糖鎖抗原が発現していること、しかしその発現レベルはヒトと比べて弱いことが明らかとなった。


H30-C13
代:佐藤 侑太郎
協:狩野 文浩
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる社会的認知研究
チンパンジーを対象としたアイ・トラッキングによる社会的認知研究

佐藤 侑太郎 , 狩野 文浩

 本研究では、チンパンジーの社会的認知能力の解明を目的とした一連のアイ・トラッキング実験をおこなう。赤外線式アイ・トラッカーを用いて、チンパンジーがモニター上の視覚刺激を見る際の眼球運動を計測する。今年度は、音声コミュニケーションにおける異感覚間情報統合に関する研究の予備実験をおこなった。この実験では、モニター上に2つの画像を提示する。同時に、そのうちの片方と関連する同種他個体の音声を提示する。例えば、食物の画像に対してはフード・コール(チンパンジーが採食場面で発する)が対応する音声刺激となる。このとき、チンパンジーの視線が、音声刺激と対応する画像刺激にどの程度偏るかどうかを検討する。このような特定の画像への選択的注視は、音声情報によって形成される心的表象の有無を反映すると考えられる。同様の手法は、主にヒト幼児を対象に言語理解能力を調べるのに用いられており、有用であることが実証されている。本研究で得られる成果は、チンパンジーのコミュニケーション能力や、ヒト言語能力の進化を理解する上で重要である。今年度は、この研究の予備実験を実施し、実験手続きを精緻化する上で有用な知見を得ることができた。現在、得られた情報をもとに次年度の実験実施に向け準備を進めている。


H30-C14
代:山村 崇
排泄物中に含まれる繁殖制御因子の解析
排泄物中に含まれる繁殖制御因子の解析

山村 崇

ヒト以外の霊長類の排泄物中に含まれる繁殖中枢を刺激する繁殖制御因子の存在を確認するために、ヒト以外の霊長類の排泄物を採取した。
 ニホンザルとアカゲザル、チンパンジーの雌雄それぞれから繁殖中枢刺激因子が安定して存在していると予想される性成熟に達した個体を用いた。ニホンザル(6頭:雄3頭、雌3頭)とアカゲザル(11頭:雄7頭、雌4頭)は繁殖期に季節性を有するため、繁殖期(9〜11月)・非繁殖期(8月)のそれぞれの時期に、チンパンジー(5頭:雄1頭、雌4頭)は5月に検体の採取を行った。採取した検体は、無処理の状態でマイナス20〜30度で冷凍し、保存した。
 今後、繁殖中枢刺激因子の存在の有無を検定系を用いて行う予定である。



H30-C15
代:久世 濃子
協:五十嵐 由里子
類人猿における骨盤の耳状面前溝の性差および種差
類人猿における骨盤の耳状面前溝の性差および種差

久世 濃子 , 五十嵐 由里子

ヒトでは、骨盤の仙腸関節耳状面前下部に溝状の圧痕が見られることがあり、特に妊娠・出産した女性では、深く不規則な圧痕(妊娠出産痕)ができる。一方、未経産の女性や男性でも、耳状面前下部に浅い圧痕が見られるが、その形成要因は不明である。我々は、京都大学霊長類研究所および国内の研究機関等で標本を観察し、大型類人猿でも耳状面前下部に圧痕が見られることを発見した。30年度は2019年3月に京都大学霊長類研究所で、GAIN提供の4個体(チンパンジー雌2個体、ゴリラ雄2個体)の骨盤を観察した。その結果、今まで観察されていた圧痕発生頻度の種間差(ゴリラで高く、オランウータンで低く、チンパンジーはその中間)を追認できた。30年度は、ヒトと四足歩行する動物の両方で、歩行時や姿勢が変わる時(坐位から立位)に仙腸関節にわずかな「ズレ(動き)」が見られることを簡易モデルで確認することができた。これが耳状面前下部に負荷をかけ、圧痕を形成する一因となっている可能性がある。この実験観察はヒトの腰痛(仙腸関節痛)が起きるメカニズムについて研究している技術者との協力を得て行った。今後は大型類人猿の体重に関するデータを収集し、モデルやシミュレーション等を使って、耳状面前下部にかかる負荷について検証することで、圧痕の形成要因を考察し、発生頻度の種間差を報告する論文としてまとめる予定である。


H30-C17
代:澤田 晶子
協:牛田 一成
協:土田 さやか
ニホンザルの植物由来の物質に対する分解能の検証
ニホンザルの植物由来の物質に対する分解能の検証

澤田 晶子 , 牛田 一成, 土田 さやか

植物は植食者に対する防衛戦略として化学物質を生産しており、植食性の霊長類は相当量を摂取しているものと考えられる。植物毒をはじめとする植物由来物質に対するニホンザルの分解能を実験的に明らかにするため、糞便を用いた腸内細菌の培養実験を実施した。まずは実験系を確立するため、屋久島のニホンザルの糞便を用いて予備実験を実施したところ、培地の安定性や測定手法について解決すべき問題点が見つかったため予定していた飼育個体を用いての実験までには至らず、次年度に持ち越しとなった。今後は、植物性食物の摂取頻度によって分解能が異なることが予測されるため野生個体と飼育個体の比較検証をおこなうほか、難消化性多糖を加えた培地を用いて植物由来の難消化性成分および反栄養物質の消化・分解能の測定も検討している。


H30-C18
代:酒井 朋子
霊長類の比較脳解剖イメージング研究のためのデータベース・システムの開発

学会発表
酒井朋子 最先端の計算解剖学的手法による比較霊長類脳イメージング研究(2019/01/15) 京都大学脳機能統合センターセミナー(京都).

Sakai, T., Hata, J., Ohta, H., Shintaku, Y., Kimura, N., Ogawa, Y., Sogabe, K., Mori, S., Okano, H.J., Hamada, Y., Shibata, S., Okano, H., and Oishi, K. The Japan Monkey Centre Primates Brain Imaging Repository for comparative neuroscience: an archive of digital records including records for endangered species(2018/11/5) Annual Meeting of the Society for Neuroscience 2018(San Diego).

酒井朋子、畑純一、太田裕貴、新宅勇太、木村直人、岡野ジェイムス洋尚、濱田穣、岡野栄之、森進、大石健一 最先端の計算解剖学的手法による比較霊長類脳イメージング研究の確立(2019/02/06) 第8回日本マーモセット研究会大会(日本橋ライフサイエンスハブ).

酒井朋子、畑純一、太田裕貴、新宅勇太、木村直人、岡野ジェイムス洋尚、濱田穣、岡野栄之、森進、大石健一 最新のコンピュターサイエンスがもたらす霊長類脳画像データーベース:サルにもヒトにもやさしい『オープンサイエンス』を目指して(2019/01/26) 第63回プリマーテス研究会(日本モンキーセンター).
霊長類の比較脳解剖イメージング研究のためのデータベース・システムの開発

酒井 朋子

本研究では、GAINが提供する神戸市王子動物園のチンパンジー・ジョニーの死後脳標本を用いて、理化学研究所 脳神経科学研究センター9.4テスラの高磁場MRI装置を用いて、T2強調画像と拡散強調画像を撮像した。本研究により、従来の撮像技術では困難であった、チンパンジー脳標本の全脳レベルでの高解像度の拡散強調画像(0.5mm3)の収集に成功した。本研究成果として、招待講演一題、国際会議における発表1件、国内会議における発表2件を行った。                                                                    (招待講演)
1. 酒井朋子「最先端の計算解剖学的手法による比較霊長類脳イメージング研究」京都大学脳機能統合センター 2019/01/15,京都大学(京都)
(国際会議における発表)
2. Sakai et al, “The Japan Monkey Centre Primates Brain Imaging Repository for comparative neuroscience: an archive of digital records including records for endangered species” Annual Meeting of the Society for Neuroscience 2018 2018/11/5, San Diego
(国内会議における発表)
3. 酒井朋子ら「最先端の計算解剖学的手法による比較霊長類脳イメージング研究の確立」第8回日本マーモセット研究会大会 2019/02/06,日本橋ライフサイエンスハブ(東京)
4. 酒井朋子ら「最新のコンピュターサイエンスがもたらす霊長類脳画像データーベース:サルにもヒトにもやさしい『オープンサイエンス』を目指して」第63回プリマーテス研究会 2019/01/26,日本モンキーセンター(愛知)



H30-C19
代:渡士 幸一
協:竹内(柴田)潤子
霊長類ヘパドナウイルスのスクリーニングおよびその受容体進化解析
霊長類ヘパドナウイルスのスクリーニングおよびその受容体進化解析

渡士 幸一 , 竹内(柴田)潤子

申請者らは先行研究において、分子進化学的解析とウイルス学的実験を融合させ、HBV・ヘパドナウイルス受容体(NTCP)の解析を実施した。その結果、ヘパドナウイルスが宿主進化の選択圧となっていたことを初めて見出し、また、NTCP上の宿主特異性を決定するアミノ酸サイト[amino acid (aa) 158]を同定した。つまり、NTCPのaa158がGlycine(158G)の時はHBV感受性であるが、Arginine(158R)の時はHBV非感受性であることを明らかにした(Takeuchi et al. Journal of Virology 2019)。その中で、①霊長類由来のNTCP配列の解析が進んでいないこと、②旧世界ザル由来のヘパドナウイルスが同定されていないことが、研究遂行の妨げとなっていた。本研究では、京大霊長研より譲り受けた肝臓サンプル [フクロテナガザル(n = 3)、ボルネオオランウータン(n = 3)、ニホンザル(n = 4)、アカゲザル(n = 4)]を用い、下記の通り、研究を開始した。①NTCP配列同定:サンプルよりRNAを抽出し、RT-PCR法でNTCP領域を増幅後、配列を同定した。その結果、フクロテナガザル、ボルネオオランウータンは158G型の、ニホンザル、アカゲザルは158R型のNTCPをもっていた。これはヒト上科はHBV感受性NTCPを、旧世界ザルはHBV非感受性NTCPをもつという過去の報告と一致した。②ヘパドナウイルスのスクリーニング:サンプルよりDNAを抽出し、過去の文献 (Drexler et al. PNAS 2013) に記載のプライマーセットを用いてfirst- & second- round PCRを実施し、ヘパドナウイルス配列の増幅を試みた。フクロテナガザル、ボルネオオランウータンはHBV感受性NTCPを保持していたが、ヘパドナウイルスは検出されなかった。現在、ニホンザル、アカゲザルのウイルススクリーニングおよびNTCP配列の詳細な分子進化学的解析を進めている。


H30-C20
代:西川 真理
協:持田 浩治
協:木下 こづえ
ニホンザルにおける夜間の性行動および配偶者選択
ニホンザルにおける夜間の性行動および配偶者選択

西川 真理 , 持田 浩治, 木下 こづえ

ニホンザルの夜間の行動データを記録するために、暗視ビデオカメラおよび赤外線投光器を用いて育成舎の外側から撮影する方法を検討し、予備観察をおこなった。本調査はニホンザルの交尾期である10月から開始する予定であった。しかし、観察を実施する予定だった育成舎の近傍で井戸の掘削工事がおこなわれる時期と重なってしまい、撮影機材の設置が困難となり、データを収集することができなかった。


H30-C21
代:布施 裕子
協:時田 幸之輔
霊長類固有背筋横突棘筋群・脊髄神経後枝内側枝の比較解剖学

学会発表
布施裕子 胸・腰神経後枝内側枝の形態的特徴ー横突棘筋群との位置関係に着目してー(2019年3月28日) 第124回日本解剖学会全国学術集会・総会(朱鷺メッセ(新潟県)).
霊長類固有背筋横突棘筋群・脊髄神経後枝内側枝の比較解剖学

布施 裕子 , 時田 幸之輔

 脊髄神経後枝は外側枝・内側枝の2つに分岐され、固有背筋に筋枝を分岐した後に皮神経となり、外側皮枝・内側皮枝となる。ヒトでは、一般的に内側皮枝が頸部~胸部に分布し、外側皮枝が腰背部へ分布するとされており、分節によって発達の程度が異なるとされる。今回、ニホンザルにおいて外側枝・内側枝と固有背筋の形態において観察された所見を報告する。
 まず内側枝の観察では、横突起間(▲1)から出た後、皮枝と筋枝に分かれ、横突棘筋群の深層の1〜3本の短い筋と、4本目以降の長い筋の間を走行した。筋枝は短い筋に対して浅層より分岐(▲2、3)した後、長い筋に対して深層から進入(▲4)した。皮枝は同分節の椎骨棘突起に付着する長い筋を潜り皮下へ出現(▲5)した。内側皮枝は第2〜第8胸神経で確認された。第10胸神経からは、内側枝は1本目の短い筋よりも深層を走行し、筋枝も筋に対して深層より進入(▲6)するようになった。
 外側枝は、最長筋と腸肋筋の間を通り、最長筋に対して外側(▲7)から、腸肋筋に対して内側(▲8)から筋枝を分岐し、最終的に皮枝(▲9)となった。外側皮枝は第4胸神経から第3腰神経で確認されたが、第12胸神経外側皮枝より腸肋筋の筋束を貫通(▲10)する形態をとった。



H30-C22
代:川本 芳
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

学会発表
川本芳,白井啓,直井洋二,萩原光,白鳥大佑,下稲葉さやか 房総半島で拡大する交雑に関係するマカク外来種の再検討(2018年7月15日) 第34回日本霊長類学会大会(武蔵大学江古田キャンパス).
房総半島のニホンザル交雑状況に関する保全遺伝学的研究

川本 芳

  房総半島では以前から在来のニホンザル群が南房総(館山市と南房総市)に定着した外来のアカゲザル(アカゲザル母群)と交雑することが分かっていた。近年になり新たにカニクイザルが交雑に関与する可能性が疑われるようになってきた。本研究は, 房総半島におけるニホンザルの交雑状況を解明するために, これまで調査が十分に進まず, カニクイザルとの交雑が疑われる外房地域(勝浦市, 鴨川市とその周辺)のニホンザルを対象として, 既得の血液試料と新たに集めた試料を使い, DNAタイピングから交雑状況を評価し, 関係する外来マカク種を特定することを目的にしている。交雑判定に利用する遺伝標識は, Y染色体の種特異的DNA配列である。従来の分析ではY染色体上で多型を示す3つのSTR座位(DYS472, DYS569, DYS645)のアリルの組み合わせでY染色体タイプを分類している。外房地域の一部ではアカゲザル母群に検出されていないY染色体タイプ(Xタイプと呼称)をもつ交雑個体が認められており, 本研究ではこの由来解明を課題と考えている。2019年6月から野外調査を5回実施した。野生群を探索し, 形態観察と試料(糞および食痕物)採取を行った。この調査ではアカゲザルの形態特徴を示す個体を勝浦市西部の浜行川群と鴨川市東部の誕生寺群で観察した。一方, 2019年3月までに糞と食痕物から41試料を採取した。アメロゲニン遺伝子による性判別でこのうち16試料がオスと特定でき, 現在Y染色体タイプを分析中である。さらに今回の研究では, Y染色体DNAの系統解析で汎用されてきたTSPY遺伝子につきXタイプ個体のDNA配列も分析した。ニホンザル, アカゲザル, カニクイザルの既知配列を参照した比較分析では, Xタイプ個体のTSPY 遺伝子はアカゲザルおよびインドシナ半島のカニクイザルに近く, スンダ地域のカニクザルの配列とは異なるとの結果を得た。またこの比較から, 判別に有効なTSPYのSNPサイトを3箇所特定し, 調査に利用できる種判別法が考案できた。これにより非侵襲的に得た試料を使い, TSPY遺伝子のSNP分析で種判別を進める目処がたった。


H30-C23
代:河村 正二
協:蘆野 龍一
協:松下裕香
協:"MELIN, Amanda"
協:新村 芳人
テナガザル視覚・嗅覚・味覚遺伝子レパートリーの種間相違性の解明
テナガザル視覚・嗅覚・味覚遺伝子レパートリーの種間相違性の解明

河村 正二 , 蘆野 龍一, 松下裕香, "MELIN, Amanda", 新村 芳人

京都大学霊長類研究所に細胞株として保存されているテナガザル3属3種6個体(Hylobates agilis 2個体, Hoolock hoolock 2個体, Symphalangus syndactylus 2個体)のゲノムDNAを用い、L/Mオプシン、Sオプシン、嗅覚受容体、苦味受容体(TAS2Rs)、旨味甘味受容体(TAS1Rs)、中立対照ゲノム領域をtarget captureで抽出し、大規模並列(次世代)シーケンシングによりそれらの塩基配列を決定し、これら感覚遺伝子のテナガザルにおける進化多様性を明らかにすることを目的とした。これまでにtarget captureのプローブを設計し、民間企業に委託して作製した。テナガザルゲノムDNAのライブラリー化を現在進めており、次年度にtarget captureと次世代シーケンシングを実施する。


H30-C24
代:Chris-Alexandros Plastiras
協:Dimitris S. Kostopoulos
協:Gildas Merceron
"Ecological diversity of Plio-Pleistocene Palearctic cercopithecids (Primates, Mammalia); evidence from dental tissues "
"Ecological diversity of Plio-Pleistocene Palearctic cercopithecids (Primates, Mammalia); evidence from dental tissues "

Chris-Alexandros Plastiras , Dimitris S. Kostopoulos, Gildas Merceron

This project is focused to investigate the ecological diversity of the the cercopithecids that inhabited the Palearctic realm during Pliocene to Pleistocene. Our aim is to characterize the feeding ecology of these cercopithecids, by means of analysis of microwear textures of their dentition (Dental Microwear Textural Analysis), and the analogies of hard dental tissues, such as the enamel (3D Dental Topography). The methodologies will be applied on fossil representatives of the genera Mesopithecus monspessulanus, Dolicopithecus, Paradolicopithecus, Procynocephalus, Macaca and Theropithecus, from several fossiliferous localities of Greece, France, Bulgaria, Spain, Italy, Romania and Japan, while the collection of data will be provided by a series of scheduled visits on the hosts museums/institutions.The same methodologies will be applied in a substantial sample size of modern cercopithecids with known and different dietary habits, to serve as a base for the comparisons between taxa. So far, the collected material and data consists of fossil cercopithecids from localities of France (Seneze, Perpignan, Montpellier), Spain (Puebla de Valverde, Vallparadis, Cal Guardiola), Italy (Valdarno, Capo Figari-Sardinia), Bulgaria (Dorkovo, Tenevo), Greece (Dafnero, Dytiko, Megalo Emvolo, Vatera) and the sample of modern cercopithecids. With this cooperative research programm in Japan, we aim to acquire silicon microwear molds of a)the fossil cercopithecid from Nakatsu (Dolichopithecus (Kanagawapithecus) leptopostorbitalis sp. nov.; specimen number KPM-N NC005802) housed in Kanagawa prefectural Museum of Natural History (KPMNH) and b) from wild populations of modern cercopithecids focused on different species of macaques (Macaca cyclopis, Macaca cyclopis*fuscata fuscata, Macaca fuscata fuscata, Macaca fuscata fuscata*mulatta, Macaca fuscata yakui, Macaca nemestrina pagensis, Macaca sinica) and colobine genera (Presbytis femoralis catemana, Presbytis melalophos bicolor, Presbytis melalophos melalophos, Presbytis potenziani, Simias concolor, Semnopithecus entellus)
housed in the Primate Research Institute of Kyoto University.



H30-C25
代:森 裕紀
協:内海 力郎
協:佐藤 琢
動物の画像からの個体識別のためのパターン認識手法の開発
動物の画像からの個体識別のためのパターン認識手法の開発

森 裕紀 , 内海 力郎, 佐藤 琢

チンパンジーの個体認識と個体追跡について、画像処理・画像認識技術を用いた技術の検討を行った。
チンパンジーの顔からの個体認識システムは、画像データセットであるImageNetを用いて学習を行ったResNet-50をベースとして、京大のチンパンジーのための転移学習を行い構築した。学習データは、7個体42枚の画像からデータ拡張(ぼかし、ガンマ(明るさ)補正、ガウスフィルタ、コントラスト、反転・回転(60度・270度))を行い1344枚とした。ランダムに取り分けた未知データに対する認識率として、76.62%の成績となった。失敗例として、Pal、Mari、CloeをGonと誤認したり、PalをAkiraと誤認したりしていた。
チンパンジー個体追跡システムは、Level 1(室内環境・固定カメラ・単数個体)、Level 2(室内環境・移動カメラ・単数個体)、Level 3(屋外環境・移動カメラ・単数複数)と問題の難易度を変化させて、システムの検討を行った。検出手法としては、Single Shot Multibox Detector (SSD)モデルを用いて、ImageNetから抽出したチンパンジー画像にチンパンジー領域を手作業で追加した学習データにより追加学習を行い構築した。また、追跡手法は、背景差分法による背景消去と画像処理ライブラリであるOpenCVなどに実装されている物体追跡手法を組み合わせて構築した。一度、SSDによりチンパンジー領域を検出してからそのチンパンジーを追跡するシステムを構築し、一定の状況下ではロバストに追跡できることを示した
今後は霊長類研究所より個体の名前入りのチンパンジーの動画像を収集してシステムの改善を図りたい。



H30-C26
代:近藤 玄
協:外丸 祐介
協:柳川 洋二郎
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明
新規GPIアンカー型タンパク質を介した精子選別機構の解明

近藤 玄 , 外丸 祐介, 栁川 洋二郎

精子には、数多くのGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)が発現しており、そのいくつかは精子の受精能獲得に深く関与している。申請者は、予備実験において、マウス精子で発現量の多いGPI-AP(SpGPI-APと仮称)を同定し、このタンパク質に対するモノクローナル抗体を作製し、精子のFACS解析を行なったところ、精子は二つの集団に大別された。さらにこれらをソーティングし、運動性、体外受精能、人工授精能等をしらべたところ、直進運動性や体外受精能において差異がみとめられ、これまで想像されていたが分子的根拠がなかった精子集団の不均一性とより受精しやすい集団が存在することが判明した。本研究は、当該タンパク質によって二別される精子集団の比較解析をヒトにより近いマカク属サル精子を用いて調べることを目的とする。
今回ニホンザル精子を精巣上体から採取し、抗マウスSpGPI-APモノクローナル抗体10クローンにてFACS解析を行なったが、サル精子にクロスする抗体クローンは得られなかった。



H30-C27
代:松田 一希
協:豊田 有
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究
集団内の全個体同時追跡技術を利用した霊長類社会の研究

松田 一希 , 豊田 有

霊長類の社会構造の理解は,霊長類学における重要な中心的議題の一つである.個体関係の記述(親和性/敵対性)や順位の記述(優劣関係),血縁関係の記述を通じて,群内の個体関係の構造を把握し,母系/父系社会などといった,社会類型を記載してきた.その一方で,それらの記載は主に研究者が直接観察し分類したり,ビデオを通じて事後に解析するなどといったデータに基づくものであり,連続的な記録としての大規模データの蓄積や解析は今までなかった.本研究は,小型の位置記録装置を飼育ニホンザル集団の全個体に装着することで,高精度で大規模な連続的な位置データ情報を収集し,個体間関係の記述を,社会ネットワーク分析を通じて評価することを目的とした.2018年度は,5個体からなるニホンザル集団を研究対象として,その位置計測を,時空間精度として高精度(10cm誤差以内,5点記録/1秒)に,かつ連続的に収集した.グループでの小型ビーコンを取り付けた首輪の装着に先立ち,個別ケージでサル1頭を対象として試験的に首輪を装着して48時間監視をし,首輪の装着による問題がサルに見られないことを確認した.その後に,研究対象としたサルたちに首輪を装着し,第二放餌場前西側グループケージに放ち,各個体の時空間情報データを10日間収集した.観察中の行動について特殊な制限はなく(給餌やアクセスの制限など),通常の飼育をした.10日間の記録後実験は,速やかにサルから首輪を外した.データ収集は成功し,各個体について数百万にのぼる正確な位置情報データを得た.現在,膨大なデータの解析、個体間ネットワークの可視化などを進めている.図は、予備的解析により可視化した対象5個体の距離データに基づいたネットワーク図。


H30-C28
代:吉村 崇
協:沖村 光祐
霊長類の視覚の季節変化の分子基盤の解明
霊長類の視覚の季節変化の分子基盤の解明

吉村 崇 , 沖村 光祐

代表研究者らは最近、メダカの眼においてトランスクリプトーム解析を行い、光受容器からその下流の情報伝達に関わる遺伝子の発現量が季節間で変化することで、光応答性や色覚が季節変化することを報告した(図)。興味深いことに、心理学の分野ではヒトの色覚が季節変動することが知られている。また冬季うつ病患者においても冬季にのみ、光感受性が低下することが網膜電位図により示されている。しかし、ヒトを含めた霊長類において眼の光応答性が季節変化を示す仕組みは解明されていない。そこで本研究では自然環境下で飼育されたニホンザルの眼における遺伝子発現をRNA-seq解析により明らかにすることを目的とした。
 本研究では屋外飼育ケージで維持されているニホンザルから冬および夏に眼を採材することを計画していたが、2018年度の研究では、屋外飼育ケージで維持された個体の採材は叶わなかった。そこで2018年12月に他の研究者との多重利用により、屋内飼育されたアカゲザルのメス2個体から両眼を採取し、本研究に必要な手技に問題がないことを確認した。2019年度も引き続き共同利用を行う計画であり、屋外飼育ケージの個体の採材に向けて準備を進めている。




H29
論文 26 報 学会発表 73 件
H29-A1
代:Aye Mi San
Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

学会発表
Aye Mi San Temple monkeys and their present situation in Myanmar( November 9, 2017) Workshop on Myanmar Biodiversity and Wildlife Conservation funded by Norwegian Environment Agency( Department of Zoology , University of Yangon, Myanmar).

Aye Mi San, Hiroyuki Tanaka & Yuzuru Hamada Anthropogenic activities on non-human primates in Mon State, Myanmar(December 5-9, 2017) 7th Asian Vertebrate International Symposium(University of Yangon, Myanmar).
Conservation genetics of Myanmar’s macaques: a phylogeographical approach

Aye Mi San

 As Myanmar is located in transition zone of habitat environment for many mammals, phylogeographical study of Myanmar non-human primates (NHP) will contribute the understanding of evolution of Asian NHP. In Myanmar, most of the NHP are threatened due to illegal hunting and habitat degradation by anthropogenic activities. The rhesus macaque (M. mulatta) is not an endangered species. However, conflict between the monkeys and humans is a serious problem. The local extinction is worried because of the over-hunting in the non-protected areas. To avoid the local extinction, adequate population regulation is needed for this species. Information from the phylogeography of this species, especially genetic relationship among local populations, is quite helpful for determining the conservation priority. In this study, I analyzed genetic variations in mtDNA sequence in the rhesus macaques as well as other macaques.
 DNA was extracted from a total of 33 fecal samples comprising four populations from Central Myanmar (Pokokku group, n=6; NGM group, n=4; YTG group, n=7; Powin group, n=16). I determined approximate 1200 bp of the D-loop region for these samples. Next, five rhesus, three stump-tailed and one Assamese macaques from Kachin State, northern Myanmar were analyzed for two mitochondrial regions: D-loop and the 1.8 kb region including the full length of cytochrome b gene and the HVS1 region of D-loop. In order to depict the phylogeography of each species of macaques in Myanmar, I need to analyze more samples to increase data points in Myanmar. Part of the results obtained in this study was presented in the following conferences:
1. Aye Mi San (2017) Temple monkeys and their situation in Myanmar. (Workshop on Myanmar Biodiversity and Wildlife Conservationː Supported by Norwagian Environment Agency 9 Nov 2017)
2. Aye Mi San, Hiroyuki Tanaka & Yuzuru Hamada (2017) Anthropogenic activities on non-human primates in Mon State, Myanmar. (7th Asian Vertebrate International Symposium, 5-9 Dec 2017, Supported by Kyoto University)



H29-A2
代:南本 敬史
協:平林 敏行
協:永井 裕司
協:堀 由紀子
協:藤本 淳
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

学会発表
Atsushi Fujimoto, Yukiko Hori, Yuji Nagai, Kevin W McCairn, Toshiyuki Hirabayashi, Masahiko Takada, Tetsuya Suhara, Takafumi Minamimoto Predicted reward value in the rostromedial caudate and the ventral pallidum for goal-directed action in monkeys. (2017.7.22) 日本神経科学学会(幕張).

Y. NAGAI1, B. JI1, Y. XIONG2, J. G. ENGLISH3, J. LIU2, Y. HORI1, K.-I. INOUE4, T. HIRABAYASHI1, A. FUJIMOTO1, C. SEKI1, K. KUMATA1, M.-R. ZHANG1, T. SUHARA1, M. TAKADA4, M. HIGUCHI1, B. L. ROTH3, J. JIN2, T. MINAMIMOTO1 A novel PET ligand for visualizing DREADD expression in the monkey brain(2017.10.5) 日本核医学学会(横浜).

Y. NAGAI1, B. JI1, Y. XIONG2, J. G. ENGLISH3, J. LIU2, Y. HORI1, K.-I. INOUE4, T. HIRABAYASHI1, A. FUJIMOTO1, C. SEKI1, K. KUMATA1, M.-R. ZHANG1, T. SUHARA1, M. TAKADA4, M. HIGUCHI1, B. L. ROTH3, J. JIN2, T. MINAMIMOTO1 A novel PET ligand for visualising cellular and axonal DREADD expression in monkeys(2017.11.12) Society for Neuroscience(Washington DC).

南本 敬史1、三村 喬生1、永井 裕司1、井上 謙一2、須原 哲也1、高田 昌彦2 化学遺伝学とPETイメージングの融合による黒質線条体ドーパミン神経活動制御(2018.1.18) 日本マーモセット研究会.

Takafumi Minamimoto PET imaging-guided chemogenetic manipulation of reward-related circuits in monkeys.(2018.2.12) Advances in Brain Neuromodulation(Roma).
脳活動制御とイメージングの融合技術開発

南本 敬史 , 平林 敏行, 永井 裕司, 堀 由紀子, 藤本 淳

 本研究課題において,独自の技術であるDREADD受容体の生体PETイメージング法と所内対応者である高田らが有する霊長類のウイルスベクター開発技術を組み合わせることで,マカクサルの特定神経回路をターゲットとした化学遺伝学的操作の実現可能性を飛躍的に高めること目指した.H29年度は副作用が懸念されるCNOに替わるDREADDアゴニストとして,clozapine類似化合物の中から脳移行性が高くかつDREADDに親和性の高い「化合物X」(特許出願準備中)を見出した.Xは極少量で脳内局所に発現させた興奮性DREADD(hM3Dq)を活性化させるとともに,Xを放射性ラベルした[11C]XはDREADDの脳内発現を画像化するPETリガンドとしても有用で,高感度にhM4Di/hM3Dqの発現を定量するとともに,陽性神経細胞の軸索終末に発現したDREADDsも鋭敏に捉えることに成功した(NagaiらSFN2017).DREADDと化合物Xにより,サル脳回路操作がより高い信頼性・実用性をもって実施可能となることが期待できる.


H29-A3
代:松本 正幸
協:山田洋
マカクザル外側手綱核の神経連絡
マカクザル外側手綱核の神経連絡

松本 正幸 , 山田洋

 嫌悪的な事象(報酬の消失や罰刺激の出現)を避けることは、動物の生存にとって必須である。研究代表者と所内対応者らの研究グループは、マカクザルを用いた電気生理実験により、外側手綱核と呼ばれる神経核がこのような回避行動の制御に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにしてきた(Kawai et al., Neuron, 2015; Baker et al., J Neurosci, 2016)。ただ、どのような神経回路基盤に基づいて外側手綱核がこのような機能を獲得したのかについてはほとんど明らかになっていない。本研究では、外側手綱核が他の脳領域とどのような神経連絡を持ち、そのシグナルがどの領域に伝達されているのか、またどの領域を起源とするのかを解析することを目的とする。平成29年度は、所内対応者とのディスカッションを通じて、外側手綱核に注入する神経トレーサーの種類や解析対象脳領域、使用するサルなど、実験デザインの詳細を決定した。平成30年度に実験を実施予定であるため、本年度の画像ファイルの提供は見送りたい。


H29-A4
代:関 和彦
協:大屋 知徹
協:梅田 達也
協:工藤 もゑこ
協:窪田 慎治
協:戸松 彩花
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定
複数骨格筋への単シナプス性発散投射構造の解剖学的同定

関 和彦 , 大屋 知徹, 梅田 達也, 工藤 もゑこ, 窪田 慎治, 戸松 彩花

 脊髄運動ニューロンに投射するPremotor neuronは大脳皮質、脳幹、脊髄にそれぞれ偏在し、最近の申請者らの電気生理学的実験によってPremotor neuronの複数筋への機能的結合様式が筋活動の機能的モデュール(筋シナジー)を構成することが明らかになってきた。この神経解剖学的実体については全く明らかにされておらず、ヒトの運動制御の理解の発展と、運動失調に関わる筋、神経疾患の病態理解や新しい治療法の開発のためには喫緊の研究課題である。そこで本研究では上肢筋の脊髄運動ニューロンへ投射する細胞(Premotor neuron)の起始核である脊髄、赤核、大脳皮質からの発散性支配様式を解剖学的に明らかにすることによって、霊長類における巧緻性に関わる皮質脊髄路の脊髄運動ニューロンへの直接投射の機能的意義を解剖学的観点から検討する。
 本年度は新たなウィルスベクターの開発を継続して行なった。また、国立精神・神経医療研究センターにおいて、霊長類研究所から供給を受けたAAVベクターの機能評価をマーモセットを対象に行なった。 



H29-A5
代:平松 千尋
協:山下 友子
協:中島 祥好
協:上田 和夫
霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究

論文

関連サイト
九州大学 芸術工学研究院 感性多様性研究室 http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~divsense/
霊長類における音声コミュニケーションの進化および発達過程の研究

平松 千尋 , 山下 友子, 中島 祥好, 上田 和夫

 公益財団法人日本モンキーセンターとの連携研究として、同センターで飼育されている霊長類のうち、チンパンジー、ヤクニホンザル、リスザル、タマリン、ワオキツネザルを主な対象とし、様々な発達段階にある複数個体から音声を録音した。録音は指向性マイクロフォンと高音質なポータブルレコーダーを用いて、個体から約2-6mの位置で行った。現在、これまで当グループが開発してきた方法により、霊長類音声の共通性および相違、発達段階での変化を明らかにする分析を進めている。これまでの共同利用研究と、ヒトの発達段階の音声を合わせて分析した結果では、系統や発達段階を反映すると考えられる音響的特徴の違いが示されつつある。特に、チンパンジーの音声は、ヒト幼児の音声と音響的特徴が近い可能性を示す分析結果を得ており、今年度の録音データを追加することで、明確な成果として示すことを目指している。


H29-A6
代:Kurnia Ilham
The effects of the physical characteristics of seeds on gastrointestinal passage time in captive long-tailed macaques
The effects of the physical characteristics of seeds on gastrointestinal passage time in captive long-tailed macaques

Kurnia Ilham

 I conducted feeding experiment to the captive female long-tailed macaque (N=5 individuals) at PRI Kyoto University to investigate the effect of seeds physical characteristic on their passage time. I used 5 different types of seeds (Melon, Kangkung, Small plastic seed, Medium plastic seed, and Egg plant) with varied dimensions. The different seed size might influence seed movement in the gastrointestinal system. Thus, gut passage time would be influence seed dispersal distance. I tested effect of seed types on the percentage of seed recovery and three variables related to passage time (MRT,TLA and TT). During the study i found the median seed recovery was about 3-32%. Among the three passage time variable, the mean retention (MRT: 24-109h), mean last seed appereance (TLA:13-136h) and the transit time (TT: 22-79h) were signifficantly differ among seed types. The mean rentention time for each seed types were also found significantly differ between individuals. Result of my study implies that havier seeds which have long retention time in the gut would be disperse far from the parent tree. On the contrary, lighter seeds are dispersed near the parent.


H29-A7
代:桃井 保子
協:花田 信弘
協:今井 奨
協:岡本 公彰
協:齋藤 渉
協:宮之原 真由
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

論文

学会発表
齋藤渉,兼子明久,宮部貴子,友永雅己,桃井保子 京都大学霊長類研究所のチンパンジー1個体に生じた外傷歯に対する歯科処置と術後6年の経過(2017.6.8-9) 日本歯科保存学会2017年度学術大会(第146回)(リンクステーションホール青森).

関連サイト
鶴見大学歯学部 保存修復学講座 講座案内 http://dent.tsurumi-u.ac.jp/guide/course/clinic/270

鶴見大学歯学部 探索歯学講座 講座案内 http://dent.tsurumi-u.ac.jp/guide/course/basic/343
チンパンジーの口腔内状態の調査と歯科治療法の検討

桃井 保子 , 花田 信弘, 今井 奨 , 岡本 公彰 , 齋藤 渉, 宮之原 真由

 同研究所が飼育するチンパンジー14個体のうち,これまで12個体の口腔内診査 (視診,歯周ポケット検査,動揺度検査) を行い,歯科治療を要すると思われる個体をスクリーニングした.そのうち1個体 (処置時:26歳,雌) の上顎左側中切歯に,外傷による歯髄腔露出を伴う歯冠破折および唇側歯肉に瘻孔を認めた.デンタルX線撮影を行ったところ,根尖部歯根膜腔の拡大と根尖部の外部吸収を認め,慢性根尖性歯周炎と診断し,ヒト治療の通法通り根管治療を行った.処置直後のX線検査でガッタパーチャポイントによる緊密な根管充填を確認し,根面をコンポジットレジンで充填した.
 術後8ヶ月と6年での経過観察において瘻孔の消失が確認でき,X線検査で根尖部の外部吸収の進行は認められず,周囲骨組織の不透過性の亢進が確認された.術後6年では残存歯質は黒褐色に着色していたが,歯質表層の軟化は認められなかった.レジン修復は辺縁の一部にわずかな破折を認める程度で脱落や大きな破折は認められず,連続したステップや辺縁着色も認めなかった.
 以上から,チンパンジーの歯の破折と根尖性歯周炎に対して,ヒト歯と同じ処置が有効であることを確認した.本症例は喧嘩や転落等の外傷による破折に起因する根尖性歯周炎と思われる.ヒトに比べ極めて強い咬合力を有するチンパンジーに対して,接着性コンポジットレジン充填を根面のみに限局させ,咬合力がかかりにくいに形態に整復したことが,再破折と再感染を回避できた要因と考えている.



H29-A9
代:河野 礼子
オランウータン臼歯表面の皺を数量化する
オランウータン臼歯表面の皺を数量化する

河野 礼子

 オランウータンの大臼歯エナメル表面に特徴的な「皺(シワ)」について、その特徴や差異を検討するために、3次元デジタルデータをもちいてシワを数量的に評価することを試みた。歯冠全体をマイクロCT撮影したデータから得た表面形状データを利用した。今回は、オランウータン大臼歯7点と、比較のためにギガントピテクス大臼歯4点について、シワの程度を表す2つの変数を指標として比較した。「溝面積」は、溝を咬合面窩の表面形状データから平均曲率が0.4以上となる点として抽出して、咬合面窩全体の投影面積に占める割合として求めた。一方、「起伏度」は、咬合面窩の形状データを強度平滑化(9×9の移動平均を5回)し、前後の表面積の差を投影面積に対する比として評価した。起伏度は隆線の太いギガントピテクスの方が大きいという結果になり、オランウータン特有の細かいシワの評価には必ずしも適していない可能性が示唆されたが、溝面積はオランウータンのシワの多寡によく対応していた。今回抽出した溝の領域から「線」成分を抽出できれば、より細かいシワパターンの特徴を数量的に評価することができると期待される。


H29-A10
代:森本 直記
化石頭蓋形態の推定モデルの作成と検証
化石頭蓋形態の推定モデルの作成と検証

森本 直記

 遺伝的な情報が得られない化石種においては、類縁関係を推定するうえで形態情報が最も重要である。一方で、形態学的な解析にも限界がある。特に、定量分析に必要な解剖学的特徴が欠損している化石種を対象とする場合、現在広く用いられている幾何学的形態計測の手法が適用できない。本研究では、サイズ変異に伴う形態変異(アロメトリー)に着目し、現生種におけるアロメトリーのパターンを「外挿」することで、現生種にみられる形状変異をもとに化石種の形状を推定復元する手法を開発することを目的に研究を行った。
 今年度は、これまでに行ったアロメトリー解析の結果を補強するために、すでに取得済みのデータに加え、補完的にマカク・ヒヒのデータを取得し、定量解析の精度向上に努めた。その結果、前年度までに明らかにしていた、マカクとヒヒに共通なアロメトリーのパターンと、アロメトリーとは無関係な形態変異を確認した(添付画像、第1主成分1と第2主成分に対応)。現在、成果発表へ向けて準備を行っている。



H29-A11
代:宇賀 貴紀
代:三枝 岳志
協:須田 悠紀
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

三枝 岳志 , 須田 悠紀

 判断形成の神経メカニズムの理解には知覚判断、特にランダムドットの動きの方向を答える運動方向弁別課題を用いた研究が大きな役割を果たしてきた。運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。眼球運動を最終出力とする判断を司る脳領域として、大脳皮質外側頭頂間(LIP)野、前頭眼野(FEF)、上丘(SC)などが想定されており、これらの領野で判断関連活動が計測されている。しかし、LIP野を不活性化しても判断に影響はでず、判断関連活動と判断との因果関係が未解決な重要問題として捉えられている。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度は本研究に必要な種々の準備を行った。具体的には、実験室・手術室の立ち上げ、DREADD実験に関連する各種申請を行い、サル1頭に運動方向弁別課題を訓練した。


H29-A11
代:三枝 岳志
判断を可能にする神経ネットワークの解明
判断を可能にする神経ネットワークの解明

三枝 岳志 , 須田 悠紀

 判断形成の神経メカニズムの理解には知覚判断、特にランダムドットの動きの方向を答える運動方向弁別課題を用いた研究が大きな役割を果たしてきた。運動方向を判断する際、大脳皮質中側頭(MT)野が動きの知覚に必要な感覚情報を提供していることは明らかであるが、MT野の情報がどこに伝達され、判断が作られているのかは未解明である。眼球運動を最終出力とする判断を司る脳領域として、大脳皮質外側頭頂間(LIP)野、前頭眼野(FEF)、上丘(SC)などが想定されており、これらの領野で判断関連活動が計測されている。しかし、LIP野を不活性化しても判断に影響はでず、判断関連活動と判断との因果関係が未解決な重要問題として捉えられている。本研究では、化学遺伝学的手法を用い、MT野からのどの出力経路が判断に必須であるかを調べることにより、判断を可能にする神経ネットワークを明らかにすることを目指す。今年度は本研究に必要な種々の準備を行った。具体的には、実験室・手術室の立ち上げ、DREADD実験に関連する各種申請を行い、サル1頭に運動方向弁別課題を訓練した。


H29-A12
代:藤山 文乃
協:苅部 冬紀
協:中野 泰岳
協:緒方 久実子
協:東山 哲也
霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

論文
Yoon-Mi OhFuyuki KarubeSusumu TakahashiKenta KobayashiMasahiko TakadaMotokazu UchigashimaMasahiko WatanabeKayo NishizawaKazuto KobayashiFumino Fujiyama(2017) Using a novel PV-Cre rat model to characterize pallidonigral cells and their terminations Brain Structure and Function 222:2359-2378.

霊長類の皮質ー基底核ー視床ループの形態学的解析

藤山 文乃 , 苅部 冬紀, 中野 泰岳, 緒方 久実子, 東山 哲也

 本研究では、最終的には霊長類での解明を目指しているが、パーキンソン病の原因物質であるドーパミンニューロンに、大脳基底核の淡蒼球外節細胞がどのように投射するのかを調べるために、所内対応者の高田昌彦教授にパルブアルブミン(PV)発現細胞特異的にCreを発現するPV-CreRatを提供していただいた。このラットを使用して、淡蒼球外節パルブアルブミンニューロンの終末が黒質緻密部の特定の領域に優位に分布することを明らかにした。さらに、淡蒼球外節のパルブアルブミン細胞の活性化によって黒質緻密部のドーパミン細胞が強く抑制されることを電気生理学的に証明した(Oh, Karube et al., Brain Structure and Function, 2017)。
 現在は所内対応者の高田昌彦教授にご提供いただいたマーモセットを用いた実験を進めている。この研究によって、動物種を超えたドーパミンニューロンへの調節制御が明らかになると考えている。



H29-A13
代:石垣 診祐
協:遠藤 邦幸
FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析
FUS抑制マーモセットモデルにおける高次脳機能解析

石垣 診祐 , 遠藤 邦幸

 ヒトのFTLD患者で確率逆転学習において特異的な所見が存在したことから、これに類する高次脳機能行動バッテリーの開発を霊長類研究所で行い、実際のモデルを用いた研究を名古屋大学医学研究科で実施するために、マーモセットの飼育を開始し、高次脳機能解析のセットアップを行った。 マーモセットの飼育室内で5回/週を上限として1頭あたり1回に1時間程度の行動実験訓練を合計で8頭に対し開始した。具体的にはマーモセットの飼育ケージの前面扉に認知実験装置を装着し、マーモセットに画面をタッチさせることで実験を行った。 マーモセットに1対の視覚刺激を提示して、その1つをタッチすると報酬が与えられる。他方にタッチすると誤反応となる。 この図形弁別課題を学習させた後、逆転学習課題を実施する予定である。ヒトの患者で用いている確率逆転学習課題に類似した課題の開発にも着手した。


H29-A14
代:齋藤 亜矢
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究
芸術表現の霊長類的基盤に関する研究

齋藤 亜矢

 チンパンジーとアーティストが共同で絵画を制作する試みから、それぞれの描画表現の特徴を明らかにする研究の1年目として実施した。チンパンジーが描いた絵にアーティストが加筆する、アーティストが描いた絵にチンパンジーが加筆する、という2つの条件で、それぞれの絵の特徴や制作のプロセスを比較するものである。今年度は、相互に制作プロセスが見える条件で実施する本実験に先だって、制作プロセスを見せず、描いた絵のみで加筆のやりとりをする予備実験をおこなった。まずアーティストに自由に絵を描いてもらい、その様子を映像で記録した。次に、チンパンジーのアイに、その絵に加筆してもらった。アイはすでに絵が描かれた部分を避けてふちどるようになぐりがきをした。2018年度にも研究を継続し、相互に制作プロセスが見える条件での実験にすすむ予定である。また当該年度は、霊長類研究所のチンパンジーの過去の絵画作品の電子データ化も進めた。そのほか、チンパンジーの絵画作品を沖縄科学技術大学院大学で実施された人工知能美学芸術展への出品、日本モンキーセンターで開催中の霊長類アート展への出品と展示協力をおこなった。


H29-A15
代:田中 真樹
協:竹谷 隆司
協:鈴木 智貴
協:亀田 将史
行動制御における皮質下領域の機能解析

論文
Suzuki, T.W. & Tanaka, M.(2017) Causal role of noradrenaline in the timing of internally-generated saccades in monkeys. Neuroscience 366:15-22. 謝辞なし

Takeya, R., Kameda, M., Patel, A.D. & Tanaka, M.(2017) Predictive and tempo-flexible synchronization to a visual metronome in monkeys. Sci Rep 7:6127. 謝辞なし

Ohmae, S., Kunimatsu, J. & Tanaka, M.(2017) Cerebellar roles in self-timing for sub- and supra-second intervals. J Neurosci 37:3511-3522. 謝辞なし

Uematsu, A., Ohmae, S. & Tanaka, M.(2017) Facilitation of temporal prediction by electrical stimulation to the primate cerebellar nuclei. Neuroscience 346:190-196. 謝辞なし
行動制御における皮質下領域の機能解析

田中 真樹 , 竹谷 隆司, 鈴木 智貴, 亀田 将史

 大脳皮質の機能は視床を介した小脳や大脳基底核からの皮質下信号によって調節されている。分子ツールをニホンザルに適用した複数の実験を進め、小脳外側部と大脳視床経路の機能を探ることを目的に研究を進めてきた。実験1では小脳に化学遺伝学的手法を適用することを予定していたが、CNOの副作用の問題もあり、H29年度は遺伝子導入は行わず、予備実験として小脳核ニューロンの記録実験を行った。実験2では、視床-大脳間の情報処理を明らかにするため、大脳視床路を光遺伝学的に抑制することを試みた。前年度に京大からウイルスベクターを提供していただき、H29年前半まで北大で遺伝子導入個体を用いて光刺激実験を行った。遺伝子導入後半年ほどで反応性が悪くなり、H29年7月に組織採取して京大で免疫組織学的検討を行ったところ、ベクター接種部位の多くの細胞が脱落していることが分かった。導入遺伝子の発現量が多いため、長期的に細胞死を引き起こすものと考え、接種後早期の発現を京大で再確認していただいた。結果、同株のベクターでは接種後約1か月の時点では細胞死はみられず、導入遺伝子の強発現が見られることが確認できたため、年明けから再度ベクターを作成していただいた。その間、北大にて新たな個体を用意して課題の訓練と補足眼野のマッピングを行い、H30年度4月初旬に2頭目への遺伝子導入を行った。今後、遺伝子発現を待って、光刺激実験を再開する。


H29-A16
代:福田 真嗣
協:福田 紀子
協:村上 慎之介
協:伊藤 優太郎
協:石井 千晴
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響
脳機能におよぼす腸内細菌叢の影響

福田 真嗣 , 福田 紀子, 村上 慎之介, 伊藤 優太郎, 石井 千晴

 ヒトを含む動物の腸内には、数百種類以上でおよそ100兆個にも及ぶとされる腸内細菌が生息しており、その集団を腸内細菌叢と呼ぶ。腸内細菌叢は宿主腸管と密接に相互作用することで、複雑な腸内生態系を構築しており、宿主の生体応答に様々な影響を及ぼしていることが報告されている。近年、無菌マウスを用いた研究や抗生物質を投与したマウスを用いた研究において、腸内細菌叢が脳の海馬や扁桃体における脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生量に影響を与え、その結果マウスの行動に変化が現れることが報告されている(Heijtz, et al., PNAS, 108:3047, 2011)。これは迷走神経を介した脳腸相関に起因するものであることが示唆されているため、腸内細菌叢が宿主の脳機能、特に情動反応や記憶力に影響を及ぼす可能性が感がえられる。しかし、マウスを用いて情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係を調べるには、げっ歯類では限界があると考えられることから、本研究では小型霊長類であるコモンマーモセットに着目し、高次脳機能、特に情動反応や記憶力と腸内細菌叢との関係について解析を行った。本年度は高次脳機能評価を行うための課題訓練と、図形弁別課題およびその逆転学習課題を訓練した。さらに、記憶機能を検討するため空間位置記憶課題も訓練した。これらのマーモセットの便を採取し、次世代シーケンサーを用いて腸内細菌叢解析を行った。得られた腸内細菌叢情報と認知機能情報について、相関解析や多変量解析手法を用いてアプローチし、認知機能に関連する腸内細菌叢の探索を行った。


H29-A17
代:Tshewang Norbu
Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan
Ecological and phylogeographical study on Assamese macaques in Bhutan

Tshewang Norbu

 I investigated mitochondrial DNA (mtDNA) variations of the macaques inhabiting along two major river systems (Amochhu and Wangchhu) in the west of Bhutan. In this study, I aimed to focus on whether the distribution of rhesus and Assamese macaques were sympatric or allopatric in the study area. In addition, the analysis of samples taken from Sakten area in the east of Bhutan was also preliminarily done for comparative study. Following previous methodology, samples extracted from fecal materials were subjected to sequencing of mtDNA non-coding region and to alignment with previous data for the phylogeographical assessment. The result suggested that the habitat of rhesus macaques is restricted to the bordering area with India in less than 300 m asl (above sea level). Distribution of Assamese macaques is dominated in other study sites of west Bhutan in this study. Thus, the zoogeographical distribution of the two macaques is likely to be allopatric or parapatric at least in west Bhutan. Meanwhile, river system specific haplogroup, known in the central mountainous area of Honshu island in Japan, was unclear in west Bhutan. Though sex identification was incomplete for obtained samples, this result was supported only by female samples for which sexing by PCR succeeded. Therefore, it may not be reasonable to explain the evolutionary change of Assamese macaques in the study area only by unidirectional population expansion along the river systems. In the preliminary examination for the samples from Sakten area in east Bhutan, I detected several mtDNA haplotypes that had not been found in previous study. It is necessary to increase the numbers of study sites and samples in future to evaluate phylogeographical status of monkeys living in the area.


A map showing the major river systems in Bhutan. I investingated macaque populations along Amochhu and Wangchhu rivers in west Bhutan in this study.


H29-A18
代:橋本 均
協:中澤 敬信
協:笠井 淳司
長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

論文
Kaoru Seiriki, Atsushi Kasai, Takeshi Hashimoto, Wiebke Schulze, Misaki Niu, Shun Yamaguchi, Takanobu Nakazawa, Ken-ichi Inoue, Shiori Uezono, Masahiko Takada, Yuichiro Naka, Hisato Igarashi, Masato Tanuma, James A. Waschek, Yukio Ago, Kenji F. Tanaka, Atsuko Hayata-Takano, Kazuki Nagayasu, Norihito Shintani, Ryota Hashimoto, Yasuto Kunii, Mizuki Hino, Junya Matsumoto, Hirooki Yabe, Takeharu Nagai, Katsumasa Fujita, Toshio Matsuda, Kazuhiro Takuma, Akemichi Baba, Hitoshi Hashimoto(2017) High-Speed and Scalable Whole-Brain Imaging in Rodents and Primates Neuron 94(6):1085-1100.

学会発表
Atsushi KASAI, Kaoru SEIRIKI, Takeshi HASHIMOTO, Misaki NIU, Shun YAMAGUCHI, Yuichiro NAKA, Hisato IGARASHI, Masato TANUMA, Takanobu NAKAZAWA, Ken-ichi INOUE, Masahiko TAKADA, Katsumasa FUJITA, Hitoshi HASHIMOTO FAST, High-speed serial-sectioning imaging for whole brain analysis with high scalability(2017年11月13日) Neuroscience2017(ワシントンDC(米国)).

Atsushi Kasai FAST, high-speed serial-sectioning imaging for whole-brain analysis with high-scalability(2018年3月10日) 日本薬理学会関東部会(次世代薬理学セミナー)(東京).
長類脳の全細胞イメージングと神経回路の全脳解析

橋本 均 , 中澤 敬信, 笠井 淳司

 本年度は、我々が最近開発した、サブミクロンの空間解像度の全脳イメージングを世界最速で行うことが可能な光学顕微鏡システムFASTを用いて、成体マーモセット脳を単一細胞レベルで観察した。それらの画像データから、脳形態や細胞密度の違いを検出することに成功した。ヒト脳とげっ歯類の脳構造。機能には異なる点が多く、ヒト脳機能や治療法確立のためには、その間を橋渡しする霊長類の脳解析として極めて重要である。また、昨年度の回路構造の結果と合わせ、本成果を論文化した(Seiriki et al. Neuron, 94:1085-1100 (2017))。


H29-A19
代:南部 篤
協:畑中 伸彦
協:知見 聡美
協:佐野 裕美
協:長谷川 拓
協:纐纈 大輔
協:若林 正浩
協:Woranan Wongmassang
協:Zlata Polyakova
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究
遺伝子導入法による大脳基底核疾患の病態に関する研究

南部 篤 , 畑中 伸彦, 知見 聡美, 佐野 裕美, 長谷川 拓, 纐纈 大輔, 若林 正浩, Woranan Wongmassang, Zlata Polyakova

 パーキンソン病の病態を明らかにするため、ドーパミン作動性神経細胞に選択的に働く神経毒であるMPTP (1-methy-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine) の投与により作製したパーキンソン病モデルサルの神経活動を覚醒下で記録した。大脳基底核の出力部である淡蒼球内節では、自発発火頻度に変化はなく、大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答様式が変化していた。この結果は、出力部の平均発火頻度の変化ではなく、大脳皮質-大脳基底核経路を介した淡蒼球内節における一過性のphasicな伝達様式の異常が、パーキンソン病症状の発現に寄与していることを示唆している。即ち、以下のような病態メカニズムにより、無動や寡動が起こると考えられる。淡蒼球内節はGABA作動性の抑制性ニューロンで構成され、常時連続発火することによって、その投射先である視床と大脳皮質を抑制している。正常な状態では、直接路を介した入力によって淡蒼球内節が一時的に抑制されると、脱抑制によって視床と大脳皮質の活動が増大し運動を起こす。一方、パーキンソン病では大脳皮質からの入力によって淡蒼球内節が十分に抑制されず、視床と大脳皮質に対する抑制を解除出来ないと考えられる。


H29-A21
代:筒井 健一郎
協:大原 慎也
協:中村 晋也
協:細川 貴之
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出
サル内側前頭葉を起点とする領域間回路の解析とうつ病モデルの創出

筒井 健一郎 , 大原 慎也, 中村 晋也, 細川 貴之

 京都大学霊長類研究所の高田昌彦教授の研究室を訪れ、設備について見学をし確認をするとともに、高田教授および井上謙一助教と研究計画について話し合った。具体的には、まず、過去の知見を参考にしながら、神経トレーシング実験におけるウイルスベクターの注入部位を、各標的脳領域(前部帯状皮質、扁桃体、側坐核)毎に検討した。さらに、実際に用いるウイルスベクターやその組み合わせについて検討した。今後は、これらの検討に基づき神経トレーシング実験を行い、その結果を受けて経路選択阻害実験に着手する予定である。


H29-A22
代:石田 裕昭
協:西村 幸男
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明
マカクザル前頭極の多シナプス性ネットワークの解明

石田 裕昭 , 西村 幸男

 前頭極 (Brodmann area 10; BA10)は霊長類の前頭前野に固有の最前端領域で、ヒト脳において最も大きく発達している。本研究はサル脳を用いて、BA10の大脳基底核のループ回路の構造を明らかにするために、順行性、逆行性コンベンショナル・トレーシング法と狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプス・トレーシング法を組み合わせ、マカクザルBA10の2次シナプスまでの神経ネットワークを解析した。BDA(biotinylated dextran amines)を用いBA10から大脳基底核への順行性投射を調べた結果、前部(head)および後部(body, tail)尾状核、視床下核腹内側部に神経終末が認められた。次にFB(fast blue)と狂犬病ウイルスを用い、大脳基底核からBA10への1次、2次シナプス投射をそれぞれ調べた。その結果、FBによる逆行性1次ラベルは、視床MDmcと内側視床枕に認められた。狂犬病ウイルスによる2次シナプスのラベルは、主に黒質網様部 (SNr)の背外側部および腹内側部の両方に認められた。前部淡蒼球内節(GPi)の背側部と腹側部にラベルが認められた。データの詳細は現在解析中である。今後はBA10と大脳基底核のループ回路の構造を3次シナプスまで解明し、BA10と大脳基底核の機能連関を明らかにする。


H29-A23
代:伊村 知子
ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究
ヒトとチンパンジーにおける「平均」の知覚に関する比較認知研究

伊村 知子

 昨年度(2016年度)の共同利用研究に続いて、場面全体の特徴の「平均」を瞬時に知覚する能力の1つであるアンサンブル知覚についてチンパンジーとヒトを対象に検討した。その結果、複数の対象の大きさの「平均」だけでなく、複数の対象の鮮度のような質感の「平均」も知覚できる可能性が示唆された。これまでの成果を論文等にまとめて発表した(Imura, Kawakami, Shirai, & Tomonaga, 2017, Proceedings of Royal Society B; 伊村知子・友永雅己, 2017, 科学)。
 一方、年度の後半には、鮮度以外の質感知覚の感度を詳細に検討するため、チンパンジー2個体を対象に、CGを用いて作成した人工物の光沢の強さの識別課題を実施した。画面に呈示された4枚の物体の画像の中から、1枚だけ光沢の強さが異なるものを選択させた。その結果、チンパンジーは、光沢の強さの違いを識別するのが困難であった。食物の鮮度にまつわる光沢の違いを識別したのに対し、人工物の光沢の強さを識別しなかった理由については、今後さらに検討する必要がある。



H29-A24
代:Islamul Hadi
Hot-spring bathing Behavior of Long-Tailed Macaques and Japanese Macaques: A Comparative Study
Hot-spring bathing Behavior of Long-Tailed Macaques and Japanese Macaques: A Comparative Study

Islamul Hadi

 I conducted observation in Jigokudani Monkey Park, Nagano in 2 to 6 of December 2017. During this observation, I counted 160 individuals of provisioned Japanese macaque live in the park. During four days observation, I found some individuals of Japanese macaque took bathe in the man-made hotspring pool in the park. I recorded 292 minutes of duration of hotspring bathing exhibitted by monkeys. The behavior also exhibitted in 23 session during 4-days observation. The behavior is mostly occured in the morning and aftenoon. The duration of behavior each session vary within 1 to 63 minutes with the mean 12.7 minutes per session. Number of individuals those took bathe in the hot-spring pool were 1 to 20 individuals per session. The adult females and juveniles were most frequent to be observed took bathe.Compared to long-tailed macaque in Mt. Rinjani, Lombok-Indonesia in August 2008, where the hot-spring bathing behavior also reported, the Japanese macaque spent longer duration to take bathe than those in long-tailed macaque (10.7 minutes) and 3 session within 3-days observation. Four to six individuals ( adult males, adult females, sub-adult males) were exhibitted the behavior. The hot-spring bathing in long-tailed macaque observed only occured during morning, while Japanese macaques did both inthe morning and afternoon.


Two adults long-tailed macaques took hotspring bathing in Pengkereman of Mount Rinjani Lombok Indonesia


Sub-adult males and juvenile of Long-tailed macaques took hotspring bathing in Pengkereman of Mount Rinjani Lombok Indonesia


Two adult females and juvenile of Japanese macaque took hotspring bathing in Jigokudani Monkey park


H29-A25
代:Hao Luong Van
Phylogeograpical study of the slow loris for conservation and reintroduction

学会発表
Tanaka H, Luong HV, San AM, Hamada Y Development of a mitochondrial marker for conservation genetics of slow loris(2017.7.15-17) 日本霊長類学会大会(福島市).
Phylogeograpical study of the slow loris for conservation and reintroduction

Hao Luong Van

 The slow loris is listed as ‘Vulnerable’ in the IUCN Red List because they are being overhunted for the illegal pet trade, used for meat and as ingredients of traditional medicine. In Vietnam, two species (Nycticebus bengalensis and N. pygmaeus) are found. The Center for Rescue and Conservation of Organisms (CRCO) of Hoang Lien National Park protects diverse organisms, including the slow loris, and tries to reintroduce them to the wild. However, it is hard to get information about the original habitat of confiscated animals. The purpose of the study is to accumulate mtDNA sequence data from slow loris of known origin, in order to establish a tracking system that infers the origin of these protected animals using DNA information.
 In 2017, I analyzed nine slow lorises (N. bengalensis: n=5, N. pygmaeus: n=4) that had been protected at CRCO. DNA extraction was carried out using hair samples. Two-step PCR was performed in order to avoid amplifying NUMT as follows: firstly, we amplified the 9 kb region of mtDNA by Long-PCR using total DNA, and next the target 1.8 kb region spanning a full length of cyt b gene and HVS1 of D-loop was amplified by using a long-PCR product as template DNA. DNA sequencing was performed with 3130 Genetic Analyzer. The sequence data obtained here was aligned with dataset that included the samples of two species from northern Vietnam collected in 2014 and 2015 and samples of N. bengalensis from Myanmar (n=2) and Laos (n=1). Loris tardrigradus (GenBank Accession No. AB371094) was used as an outgroup and three species of slow loris (N. bengalensis: NC_021958, N. coucang: NC_002765, and N. pygmaeus: KX397281) were analyzed for comparison.
 The result of phylogenetic analysis showed the suggestive data. All the individuals of N. pygmaeus had the identical sequence for the target mtDNA region even though the target sequence is the most variable region in mtDNA. Two individuals of N. bengalensis protected in Soc Son Rescue Center, Hanoi were closely related to the GenBank sequence of N. coucang. The GenBank sequence of N. bengalensis connected to the above cluster of N. coucang + two individuals from Hanoi, hence this sequence data is questionable about the identification of species. The genetic marker used in this study is can be applicable to the phylogeogaraphy study of N. bengalensis because it showed intra-specific variations.



H29-A26
代:諏訪 元
協:佐々木 智彦
協:小籔 大輔
協:清水 大輔
人類出現期に関わる歯と頭蓋骨の形態進化的研究
人類出現期に関わる歯と頭蓋骨の形態進化的研究

諏訪 元 , 佐々木 智彦, 小籔 大輔, 清水 大輔

 前年度中に新たに発見されたチョローラ層出土の類人猿化石の同定と初期評価を進めると共に、ラミダスとアウストラロピテクス各種、さらには中新世類人猿のウラノピテクス、ヒスパノピテクス、プロコンスル等について、ベーズ法による犬歯の性差の数量解析を行った。それぞれの種において、雌雄ごとの歯冠最大径の平均値と雌雄共通の分散対数値を推定し、サンプルと性内の変異(それぞれ変動係数)と雌雄平均値比の確立密度分布をMCMC法で導出し、現生の類人猿とヒトの性差と比較した。結果、中新世の類人猿は、ウラノピテクスが最小であったが、それでも現生大型類人猿程度、ヒスパノピテクスとプロコンスルはゴリラ程度かそれ以上の大きな性差を示した。初期人類では、かつてはサンプル変動係数が大きいため、性差がボノボ程度に大きいと報告されていたアファレンシス始め、アウストラロピテクスの各種はそれぞれ現代人に近い小さな性差を持つことが示された(雌雄の平均比が1.12から最大1.16程度)。ラミダスの犬歯の歯冠径の性差についても同程度の推定結果が得られ、Suwa et al.(2009)による簡易推定の結果を検証すると共に、雄の犬歯サイズの縮小が人類の系統の初期に起きたとする仮説を改めて支持する結果が得られた。


H29-A27
代:植木 孝俊
協:尾内 康臣
高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出
高等霊長類成体脳神経新生の動態と機能のin vivo解析技術の創出

植木 孝俊 , 尾内 康臣

 カニクイザルのgenomicライブラリーよりサルの神経幹細胞で特異的に遺伝子発現を誘導するためのnestin遺伝子プロモーターと同エンハンサーをクローニングし、その活性をマーモセットの神経幹細胞初代培養系で確認した後、名古屋市立大学にてEGFP発現レンチウイルスおよびHSV1-sr39tk発現レンチウイルスを脳海馬歯状回に顕微注入し、その神経幹細胞特異的な発現を免疫組織化学的に確認した。次年度には、これらサルに適用可能な遺伝子発現系の構築を踏まえ、成体脳神経新生動態のPETイメージングおよび神経新生障害病態モデルの作出・症状解析を開始することができる見込みである。


H29-A28
代:小林 和人
協:菅原 正晃
協:加藤 成樹
協:渡辺 雅彦
協:内ヶ島 基政
協:今野 幸太郎
ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明
ウイルスベクターを利用した神経回路操作技術による霊長類脳機能の解明

小林 和人 , 菅原 正晃, 加藤 成樹, 渡辺 雅彦, 内ヶ島 基政, 今野 幸太郎

 霊長類の高次脳機能の基盤となる脳内メカニズムの解明のためには、複雑な脳を構成する神経回路の構造とそこでの情報処理・調節の機構の理解が重要である。我々は、これまでに、高田教授の研究グループと共同し、マカクザル脳内のニューロンに高頻度な逆行性遺伝子導入を示すウイルスベクター (HiRet/NeuRetベクター)を開発するとともに、これらのベクターを用いて特定の神経路を切除する遺伝子操作技術を開発した。また、高田教授・中村教授との共同研究により、コモンマーモセットを用いた脳構造と機能のマップ作製の研究を推進するために、HiRet/NeuRetベクター技術はマーモセット脳内においても高効率な遺伝子導入を示すことを明らかにした。本年度は、視床線条体路の選択的除去を誘導するための予備実験として、融合糖タンパク質E型 (FuG-E) を用いてシュードタイプ化したNeuRetベクターを作成し、これをマーモセットの尾状核と被殻のそれぞれに注入し、ベクターの導入パターンを解析した。尾状核への注入は束傍核を標識し、被殻への注入は内側中心核を標識し、両者の経路が選択的な投射パターンを持つことを明らかにした。視床線条体路を欠損する動物を用いて、運動機能と認知機能を評価するための予備実験として、野生型マーモセットの視覚弁別課題のテストを行った。認知機能の評価には、中村教授によって開発されたマーモセットの認知機能のテストバッテリーを利用した。
 逆行性導入に関わる新規の融合糖タンパク質機能を評価するために、FuG-E型糖タンパク質の変異体を用いて作成したウイルスベクターをマーモセット脳内に注入し、従来のFuG-E型ベクターの効率と比較検討した。FuG-E変異体については、N末端より440番目のアミノ酸をグルタミン酸に変異させたタンパク質(FuG-E/P440E)がマウス脳内への遺伝子導入が最も高い効率を示すことから、このベクターをマーモセット線条体に注入した結果、大脳皮質、視床、黒質の多数の神経細胞への遺伝子導入を確認した。



H29-B1
代:島田 将喜
協:古瀬 浩史
協:坂田 大輔
奥多摩湖周辺の野生ニホンザル「山ふる群」の調査と環境教育
奥多摩湖周辺の野生ニホンザル「山ふる群」の調査と環境教育

島田 将喜 , 古瀬 浩史, 坂田 大輔

 2013年度から継続されてきた山ふる群を対象とするフィールド調査を実施した。昨年度まで80数頭程度で安定していた集団サイズについて、今年度山ふる群の推定最大頭数は66頭であり、昨年度までからは大きく減少した。サルの直接観察が十分ではなかったものの、今年度採食回数が多かった食物は、草本類、オニグルミの種子、つる性植物であった。前年度に引き続き、山ふる群のサルが民家付近の農作物や果樹などを採食する行動は、一度も観察されなかった。遊動域は山のふるさと村を中心とする狭い範囲に集中しており、昨年度までと異なりダムサイトへの出現が認められなかった。解放水域を除く推定遊動面積は13.0km2であった。他地域の野生ニホンザルの遊動域面積に比べて広いと考えられるが、2015年度の推定遊動面積33.0km2をピークに2年連続で前年度より少なく見積もられた。現在の山ふる群の遊動域は、民家の多い湖北に向かって大きくなった事実はなく、自然林に近い南~南東に向かって広がっていると考えられる。集団サイズと遊動面積の減少は、山ふる群の分裂の可能性を示唆するものである。調査中にそうした兆候に観察者が気づいたことはなかったが、今後も調査を継続することによって、分裂が現実に生じたのか、これまでも頻繁に観察されてきた分派が常態化しているだけなのかについて、手掛かりを得る必要がある。


H29-B2
代:Heui-Soo Kim
協:Hee-Eun Lee
Epigenomics and Evolutionary Analysis of HERV-K LTR elements in various primates

論文
Yi-Deun Jung, Hee-Eun Lee, Ara Jo, Imai Hiroo, Hee-Jae Cha, Heui-Soo Kim( 2017) Activity analysis of LTR12C as an effective regulatory element of the RAE1gene Gene 634: 22-28.

学会発表
Hee-Eun Lee, Hee-Jae Cha, Imai Hiroo, Heui-Soo Kim Comparison of Human Endogenous Retrovirus K Expression in Various Tissues of Primates and Humans( 2017.02.08-2017.02.10) The 13th KOGO winter Symposium 2017( HongCheon, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Hee-Jae Cha, Takashi Hayakawa, Imai Hiroo, Heui-Soo Kim Correlation of Human Endogenous Regrovirus K (HERV-K) Expression in Various Tissues of Primates and Human( 2017.08.03-2017.08.04) The 58th Annual Meeting and International Symposium of Korean Society of Life Science( Gyeongju, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Hee-Jae Cha, Takashi Hayakawa, Imai Hiroo, Heui-Soo Kim Analysis of Human Endogenous Retrovirus K (HERV-K) Expression in Primates and Human( 2017.08.09-2017.08-10) The 72th Annual Meeting of The Korean Association of Biological Sciences(Yongin, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Hee-Jae Cha, Takashi Hayakawa, Imai Hiroo, Heui-Soo Kim Human Endogenous Retrovirus K (HERV-K) Expression in Primates including Human( 2017.10.26-2017.10.27) International Conference of the Genetics Society of Korea 2017( Seoul, Republic of Korea).

Hee-Eun Lee, Yi-Deun Jung, Yuri Choi, Hee-Jae Cha, Heui-Soo Kim Activity Analysis of an LTR12C as a productive regulatory element in RAE1 Gene( 2017.10.26-2017.10.27) International Conference of the Genetics Society of Korea 2017( Seoul, Republic of Korea).
Epigenomics and Evolutionary Analysis of HERV-K LTR elements in various primates

Heui-Soo Kim , Hee-Eun Lee

 Human endogenous retroviruses (HERVs) and related sequences account for ~8% of the human genome. It is thought that HERVs are derived from exogenous retrovirus infections early in the evolution of primates. HERV-K is the most biologically active family because it retains the ability to encode functional retroviral proteins and produce retrovirus-like particles. To better understand the regulatory mechanism of HERV-K expression, we characterize the structure of HERV-K50F family LTRs (sequences, transcription factors binding). The sequence of human HERV-K50F was analyzed to check the difference of the structures with various primates. The structures of each HERV-K50F in primates including human was different. Orangutan had shorter LTRs compared with others. Additionally, for the epigenetics studies, the HERV-K50F sequence was analyzed to check the CpG islands. There were some CpG sites and we were able to get the methylation primer including 10 CpG sites. For the further studies, we will continue the methylation studies in primates, and a new project about the miRNAs.


H29-B3
代:古川 貴久
協:大森 義裕
協:茶屋 太郎
霊長類の網膜の形成と維持を制御する分子機能の解析
霊長類の網膜の形成と維持を制御する分子機能の解析

古川 貴久 , 大森 義裕, 茶屋 太郎

 私達は、アカゲザルまたは、ニホンザルなどの霊長類の網膜の遺伝子発現解析を行うことで、黄斑に特異的に発現する遺伝子群の同定を試みた。現在、平行して黄斑を持つ脊椎動物である、鳥類モデルの黄斑の研究を進めている。これら二つの生物種から得られた情報を統合することで、黄斑の形成・維持の普遍的なメカニズムを解明する。
 本年度は、新生仔のアカゲザル2頭、生後2年のニホンザル2頭の眼球を採取した。まず、眼球を摘出し、ハサミ等で解剖し網膜組織を単離した。網膜を黄斑を含む中央部分と、周辺部分(上下内側外側)の領域に分けサンプルとして凍結保存した。これらの組織からTrizol試薬を用いてRNAを精製した。得られたtotal RNAを用いて逆転写酵素によりcDNAを合成した。内在性遺伝子のコントロールとしてはGAPDHを用いた。黄斑部で少ない桿体視細胞に発現する遺伝子であるRhodopsinのプライマーを用いてQPCR解析を行ったところ、Rhodopsinの発現は黄斑部分では遺伝子発現が有意に低下していることを確認した。現在、中心窩部分での発現が変動する遺伝子の候補に対するプライマーを用いて遺伝子発現の変化の観察を行っている。これらの研究を進めることでヒトを含む霊長類において黄斑部位の形成や維持に重要な遺伝子を見出すことが期待される。



H29-B5
代:佐藤 佳
協:小柳 義夫
協:三沢 尚子
協:中野 雄介
協:中川 草
協:上田 真保子
霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究
霊長類ゲノム解析を通したウイルス感染制御遺伝子の進化に関する研究

佐藤 佳 , 小柳 義夫, 三沢 尚子, 中野 雄介, 中川 草, 上田 真保子

 申請者を含めたこれまでの先行研究から、インターフェロンを含めた自然免疫関連遺伝子や、APOBEC3やtetherinと呼ばれる内因性免疫遺伝子が、レンチウイルスの複製制御に寄与していることが、ウイルス学的実験から明らかとなっている。そして、興味深いことに、これらの遺伝子は進化的に正の選択を受けており、種によって配列が多様である。本申請研究では、レンチウイルスの複製制御に寄与している霊長類の遺伝子配列情報を同定し、その進化的意義を分子進化学的手法により明らかにすることを目的とする。本年度は、検体分与の可能性も含め、共同研究の方向性について、霊長類研究所において、今井准教授らと共同研究打ち合わせを実施した。


H29-B6
代:城戸 瑞穂
協:合島 怜央奈
協:吉本 怜子
口腔における感覚受容機構の解明
口腔における感覚受容機構の解明

城戸 瑞穂 , 合島 怜央奈, 吉本 怜子

 適切な口腔感覚は、哺乳・摂食・情報交換など行動の基盤として重要な役割を果たしている。ところが、温度感覚や唐辛子や胡椒などのスパイスなどのへ感覚、あるいは、触圧感覚などについてはほとんど理解されていない。これまでマウスを対象として研究を進めてきた結果、口腔の上皮にセンサーであるtransient receptor potential channel(TRPチャネル)の発現があること、粘膜に分布する神経線維にも発現が認められること、また炎症等により粘膜に分布する神経線維の分布が増加すること等がわかってきた。そこで、霊長類における口腔感覚機構解明を狙い、センサーの発現を明らかにするため、条件検討を進めた。本年度は、対照組織としてニホンザルの新たな採材の機会があり、口腔組織および三叉神経節を得た。そこで、実験条件の検討を進めることができた。さらに、新たな抗体も精製が進んだことから、霊長類での発現解析の条件検討を工夫しているところである。齧歯類では安定している一方で霊長類組織では、タンパク発現については検討に時間を要しており、感度の高い方法等での検討をさらに進める予定である。


H29-B7
代:山下 俊英
協:貴島 晴彦
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究
サル脊髄損傷モデルを用いた軸索再生阻害因子とその抗体による神経回路修復に関する研究

山下 俊英 , 貴島 晴彦

 脊髄損傷後に軸索再生阻害因子のひとつであるRGMの発現が損傷周囲部に増加していることをサルモデルを用いて明らかにするとともに、このRGMの機能を阻害することによって運動機能が回復することを検証した。すなわち、脊髄損傷後のRGM作用を抑制することにより、神経可塑的変化が促進され、運動機能回復につながることが示唆された。本研究成果は、原著論文としてCerebral Cortex誌に受理された。
Nakagawa H, Ninomiya T, Yamashita T, Takada M (2018) Treatment with the neutralizing antibody against repulsive guidance molecule-a promotes recovery from impaired manual dexterity in a primate model of spinal cord injury. Cereb Cortex, in press.



H29-B8
代:浅川 満彦
協:萩原 克郎
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

論文
浅川満彦・外平友佳理・岡本宗裕(2017) 輸入サル類の潜在的な寄生虫病-特に、医学用実験動物として利用されるカニクイザル Macaca fascicularis の検疫中に斃死した事例を参考に エキゾチックペット研究会誌 19:17-20. 謝辞有り

学会発表
浅川満彦, 羽山伸一, 岡本宗裕 ニホンザル(Macaca fuscata)における寄生蠕虫相の概要-特に、最近の東日本における調査から判明した地理的分布域に関して(2017年4月9日) 第72回日本生物地理学会年次大会(東京大学弥生キャンパス).

浅川満彦, 羽山伸一, 岡本宗裕 東日本におけるニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫相(概要)(2017年7月15-17日) 第33回日本霊長類学会大会(福島).

関連サイト
酪農学園大学野生動物医学センター公式フェースブック https://www.facebook.com/mitsuhiko.asakawa
東北および四国地方に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の寄生虫症および感染症に関する疫学調査

浅川 満彦 , 萩原 克郎

 ニホンザルの寄生虫症を含む寄生虫病病原体の疫学調査についての2017年の刊行は次の2本であった。1)浅川ら(共著者、岡本): 輸入サル類の潜在的な寄生虫病-特に、医学用実験動物として利用されるカニクイザル Macaca fascicularis の検疫中に斃死した事例を参考に、エキゾ研会誌、(19)、17-20 (2017) 2)三觜ら(連絡著者、浅川):福島市に生息するニホンザル (Macaca fuscata)の寄生蠕虫保有状況-特に下北半島個体群との比較に注目して. 青森自然史研究, (22),39-41。前者はニホンザルおよび外来性マカク類の蠕虫検査を行う上で貴重な資料となった。後者は下北個体群と比較し当方地方における蠕虫類の分布特性を論じた。2017年における学会報告としては1)浅川ら(共同演者、岡本): ニホンザル(Macaca fuscata)における寄生蠕虫相の概要-特に、最近の東日本における調査から判明した地理的分布域に関して. 第72回日本生物地理学会年次大会,東京大学,4月9日;浅川ら(共同演者、岡本):東日本におけるニホンザル(Macaca fuscata)の寄生蠕虫相(概要).第33回日本霊長類学会大会、福島、7月15日から17日」の2本を実施した。これらの報告では、前述したように寄生蠕虫の地理的分布特性を示した。野生ニホンザル寄生虫に関しては、過去に当研究所の後藤らが下北の集団を調べているが、その際には発見されていなかったOgmocotyle属の吸虫が最近の申請者らの研究で大量に発見され、福島産個体群の結果が、上記のよに公表出来た。また、外来種との関連性を検討するため、カニクイザルの情報も比較対象として、それらの成果も公表出来た。分布特性は口頭発表とまりではあるが、生物地理で中間報告が出来た。


H29-B9
代:伊藤 浩介
サル類における聴覚事象関連電位の記録

学会発表
伊藤浩介、禰占雅史、鴻池菜保、中村克樹、中田力 聴覚機能の進化:ヒトとアカゲザルにおける無侵襲頭皮上聴覚誘発電位記録による検討(2017.12.3) 日本基礎心理学会第36回大会(茨木市).

伊藤浩介 皮上脳波記録で探る聴覚皮質機能の進化(2017年12月19日) 第47回ホミニゼーション研究会(犬山市).

Itoh K, Nejime M, Konoike N, Nakamura K, Nakada T. Musical chord change detection in the macaque monkey is hindered by insertion of silent gaps between chords: a scalp ERP study.( 2017年11月14日) Neuroscience 2017 (Society for Neuroscience 47th Annual Meeting)( Washington DC).

Kosuke Itoh Evolutionary elongation of the time window of auditory cortical processing(2018年1月11日) Post-Symposium of the 33rd Annual Meeting of the International Society for Psychophysics: Perception and the Brain(福岡市).

伊藤浩介 霊長類聴覚機能の種差:ヒトとマカクにおける頭皮上脳波記録による検討(2018年3月6日) 第 7 回 新潟脳研-霊長研-生理研合同シンポジウム(愛知県岡崎市).
サル類における聴覚事象関連電位の記録

伊藤 浩介

 これまで継続して来た共同利用・共同研究により、マカクザルの頭皮上脳波記録の方法論はほぼ完成し、質の安定した聴覚事象関連電位の記録が可能となってきた。一方、マーモセットの脳波記録では、①頭部面積が小さく電極の設置が難しいことや、②頭皮の皮脂の多さによる電極インピーダンスの増大などの問題が明らかになった。これらの要因により、電極設置に時間がかかり、電極数を増やせず、脳波記録が安定しないなどの問題が生じていた。そこで、今年度はこれらの問題の解決を目的とした技術開発を行った。①の対処としては、電極のデザインを、電極部の大きさと形状のみでなく被覆の材質も含めて刷新し、頭部への接着法も見直した。②の対処としては、皮膚の前処理でアセトンによる脱脂を十分に行うこととした。これにより、電極設置の迅速化と脳波記録の質の安定化が達成されるとともに、今後電極数を増やしていく可能性が開けた。ここで開発した電極や電極設置法はマカクザルにも適用可能なものであるため、マカクザル脳波記録法の、さらなる改善にも貢献する成果である。


H29-B10
代:中務 真人
協:森本 直記
協:野村 嘉孝
協:小林 諭史
協:芳賀 恒太
大型類人猿における手首・大腿部の可動性の検証
大型類人猿における手首・大腿部の可動性の検証

中務 真人 , 森本 直記, 野村 嘉孝, 小林 諭史, 芳賀 恒太

 ヒトと現生アフリカ類人猿の共通祖先が、①上肢優位な現生類人猿的特徴をもっていたのか、あるいは、②現生子孫種に比べ特殊化の程度が低い類人猿であったのかが、大きな議論となっている。これを検討する目的で、大型類人猿の手、大腿の関節の運動機能について研究を行っている。著しい大型化をしたゴリラを除き、現生大型類人猿の手の相対母指長は短いが、母指退化、内側列の伸長のいずれが強く寄与しているのか議論が続いている。そこで、母指退化に関連すると考えられる母指列中手指節関節の種子骨の出現頻度に注目した。ヒトを含み類人猿以外の霊長類では、ほぼ例外なく撓側と尺側に一対の種子骨が存在するが、大型類人猿については、先行研究で一致した結果が得られていない。われわれは大型類人猿標本18体をX線CTによって観察し資料数を倍増させ、以下の結果を得た(資料数は先行研究との合算)。チンパンジー(n=24)では、約2割の個体で一つあるいは一対の種子骨が存在するが、オランウータン(n=6)、ゴリラ(n=7)では認められない。この結果は、各属が独立に種子骨を喪失(母指の機能退化が発生)したことを示唆し、②に整合的である。


H29-B11
代:荻原 直道
協:大石 元治
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

論文
荻原直道(2017) 解剖学的筋骨格モデルによるヒト二足歩行運動の計算機シミュレーション バイオマテリアル-生体材料- 35(3):173-179.

学会発表
荻原直道 踵骨形態と直立二足歩行の進化(2017年11月5日) 第71回日本人類学会大会(東京都文京区).

荻原直道 ニホンザル二足歩行の力学から探るヒトの進化(2018年3月5日) 日本学術会議第3回理論応用力学シンポジウム~力学と知能の融合:古典力学の新潮流~(東京都港区).

関連サイト
慶應義塾大学理工学部機械工学科 荻原研究室 www.ogihara.mech.keio.ac.jp/
ニホンザル二足・四足歩行運動の運動学的・生体力学的解析

荻原 直道 , 大石 元治

 本研究では、ヒト的な直立二足歩行の獲得を妨げる四足性霊長類の運動学的・生体力学的制約要因がどこにあるのかを明らかにするために、ニホンザル四足歩行の運動学的・生体力学的解析を行い、二足歩行と対比することを通して、ニホンザルが二足歩行を獲得する上での促進要因・制約要因を明らかにすることを目的としている。
 本年は、傾斜トレッドミル上を四足歩行するニホンザルの接地パターンを比較・分析した。その結果、トレッドミルの傾斜により前肢に作用する床反力が増大しても、lateral sequence歩行への遷移は基本的に観察されなかった。霊長類の四足歩行は、他の多くのほ乳類と異なるdiagonal sequence歩行を採用しており、これを説明する有力な仮説の一つに「重心位置仮説」があるが、重心位置が接地パターンの直接的決定要因ではないことが示唆された。
 また、ニホンザルの屍体標本から、歩行に関係する主要な筋の速筋線維と遅筋線維の割合を組織学的手法によって求めることを試みた。具体的には、各筋から組織片を採取し、クリオスタットで切片を作成し、組織化学的染色(ATpase染色)によって筋線維型の比率を求める研究を推進した。



H29-B12
代:William Sellers
The comparative biomechanics of the primate hand
The comparative biomechanics of the primate hand

William Sellers

 This project forms part of our ongoing research into the biomechanics of primates. In this last year we achieved three major goals. Firstly, we succeeded in publishing a paper in Royal Society Open Sciences based on our experimental work at PRI in previous years where we used our markerless motion capture system to record 3D locomotor kinematics of chimpanzees walking. This paper used the experimental data to ground truth a computer simulation in order to better understand the evolutionary processes that lead to gait choice and optimality. Secondly, based on the pilot data on primate hands and hand use that we have been collecting at PRI, we were successful in a collaborative grant bid to the UK Natural Environment Research council to study the co-evolution of tool using behaviour and hands in the hominin fossil record. This research grant includes travel funding so that future visits will continue to be possible. Thirdly, we were successful in the experimental work carried out at PRI in 2017. Our aim this past year was to compare the way that Japanese macaques use their hands when performing locomotor activities to the way they use their hands whilst manipulating objects. The challenge here is that in order to record the movements of the fingers in 3D we need film a relatively small volume, and this means that we need to train the subjects to put move such that they grasp the substrate in the location the cameras are recording from. We attempted this for a new experimental set up in the laboratory where we used a vertical pole that the animal was able to climb, using two different pole diameters. In both cases the experiments were successful although there were many trials where the animals did not place their hands in the volumes we were measuring from and this meant that the amount of data collected was rather lower than in previous years. Climbing is particularly difficult compared to the horizontal walking we have measured before because the animal has an extra degree of freedom since it can choose the vertical rotation of its body around the cylindrical pole, and this means that it can obscure our view of its hands very easily. However, climbing is an activity that we are particularly interested in since the hands are required to grip with significant amounts of force in this situation, whereas horizontal walking requires relatively little grip force on the part of the animal since they balance very precisely. And of course climbing is one of the important specialisations of the primate order, and is thus a major focus of biomechanics research.


H29-B13
代:岩槻 健
協:熊木 竣佑
協:中嶋 ちえみ
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

学会発表
中嶋ちえみ、難波みつき、熊木 竣佑、大木 淳子、今井 啓雄、山根 拓実、大石 祐一、岩槻 健 霊長類味蕾オルガノイド培養系の確立(2017/9/26) 日本味と匂学会第51回大会(神戸国際会議場).

熊木竣佑、今井啓雄、粟飯原永太郎、山根拓実、大石祐一、岩槻健 サル消化管オルガノイドを用いた味細胞様細胞の解析(2017/9/26) 日本味と匂学会第51回大会(神戸国際会議場).

岩槻健 マウスとサルの味蕾オルガノイド培養系(2017/9/26) 日本味と匂学会第51回大会(神戸国際会議場).

岩槻健 オルガノイド培養系を用いた味蕾および消化管の機能解析(2017/6/29) 実験病理組織技術研究会第24回総会・学術集会(タワーホール船堀).

熊木竣佑、大木淳子、山田夏美、今井啓雄、粟飯原永太郎、山根拓実、大石祐一、岩槻健 サル消化管オルガノイド作製と味細胞様細胞への分化誘導(2017/5/20) 第71回日本栄養・食糧学会大会(沖縄コンベンションセンター).
霊長類由来ex vivo培養系を用いた消化管細胞機能の解析

岩槻 健 , 熊木 竣佑, 中嶋 ちえみ

 昨年度から引き続きアカゲザルおよびニホンザルからの腸管オルガノイド作製を行なった。培養条件の検討により、Wnt3aの活性が同オルガノイドの増殖に最も重要であることがわかった。29年度は、さらに作製した腸管オルガノイドが効率よく分化する方法を模索すると同時に、生体内の腸管上皮細胞と同様のタンパク質を発現しているかを調べた。まず、作製した腸管オルガノイドの培地よりWnt3aおよびWntのアゴニストを抜いた培地で3日間培養することで細胞分化を誘導した。その結果、内分泌細胞のマーカーである5-HTやタフト細胞のマーカーであるDCLK1の発現量が上昇し、Wnt活性がなくなることにより細胞分化が亢進したことが確認された。同条件にて細胞分化を誘導した上で、様々な分子の発現をRT-PCRにより調べたところ、幹細胞マーカーであるLgr5の発現は抑制され、代わりに内分泌細胞、吸収上皮、杯細胞などが発現する分子の転写が亢進していることがわかった。このように、今回我々はサルオルガノイドを効率よく分化する条件を確立した。今後、分化させた腸管オルガノイドを使い、げっ歯類では測定できない霊長類独特の栄養素受容機能について解析していく予定である。


H29-B14
代:中村 浩幸
外側膝状体から頭頂葉視覚連合野への直接視覚入力回路の形態学的解明
外側膝状体から頭頂葉視覚連合野への直接視覚入力回路の形態学的解明

中村 浩幸

 霊長類外側膝状体(LGN)極小細胞層(koniocellular layers: K 層)から、1次および2次視覚皮質を経由せず、頭頂視覚連合皮質V3/V3A野へ直接投射する神経回路を神経軸索トレーサーを用いて詳細に解明する事が研究の目的である。本年度は、1頭のアカゲザルの両側V3A野(ならびに古典的V3A野の背側部LOP野)に蛍光色素(ディアミディノイエローDYとファーストブルーFB)を微量注入して、同側視床LGNにおける逆行性標識細胞の分布を調べた。V3A野にほぼ限局して蛍光色素を微量注入(1例)すると、LGN尾側6分の1から3分の1にかけて、LGNと視索との間に存在するK細胞層(S層)の内側部ならびにK1-4層内側端に逆行性標識細胞が観察された。V3A野とLOP野にまたがる注入(2例)では、LGN尾側3分の1のS層内側部に逆行性標識細胞が観察された。LOP野とその背側の7野のみに注入(1例)しても、LGNには逆行性標識細胞は見られなかった。これらの結果は、LGNのS層ならびにK1-4層内側部のK細胞がV3A野に投射し、粗大な視覚情報を短潜時で頭頂連合野皮質へ入力している事を示唆する。


H29-B15
代:柳川 洋二郎
協:永野 昌志
協:髙江洲 昇
協:菅野 智裕
協:坂口 謙一郎
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

論文
Fukuda K, Inoguchi Y, Ichiyanagi K, Ichiyanagi T, Go Y, Nagano M, Yanagawa Y, Takaesu N, Ohkawa Y, Imai H, Sasaki H(2017) Evolution of the sperm methylome of primates is associated with retrotransposon insertions and genome instability Human Molecular Genetics 26(18):3508-3519. 謝辞あり

学会発表
栁川洋二郎、菅野智裕、南晶子、兼子明久、印藤頼子、佐藤容、木下こづえ、岡本宗裕、片桐成二、永野昌志 ニホンザルにおける排卵誘起処理を伴う単回人工授精プログラムの検討(2017.9.13-15) 第160回日本獣医学会学術集会(鹿児島市).

栁川洋二郎、菅野智裕、兼子明久、印藤頼子、佐藤容、木下こづえ、今井啓雄、平井啓久、片桐成二、永野昌志、岡本宗裕 ペレット法により凍結したニホンザル精液に対する融解法の違いが精子性状に与える影響(2017.11.1-2) Cryopreservation conference 2017(つくば市).
マカク属における精液凍結保存方法の改善と人工授精技術開発

栁川 洋二郎 , 永野 昌志, 髙江洲 昇, 菅野 智裕, 坂口 謙一郎

 ニホンザルにおいては人工授精(AI)による妊娠率は低く、特に凍結精液を用いたAIによる産子獲得例がない。そのため、精液の凍結保存法改善とともに、メスの卵胞動態を把握したうえでAIプログラムの開発が必要である。
精液凍結についてはこれまでにドライアイス上で精液を200 μl滴下してペレット状に凍結する方法では融解後に活力を有する精子が確認されたがその生存率は低かった。そこでペレットの融解法による精子への影響を検討した。ガラスチューブを37℃に加温し、ペレットをチューブに投入して融解するのが、ガラスチューブが空の場合とペレットと等量の凍結保存液が入っている場合とでは、保存液が入